Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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メムアレフの存在は、倒してはいけないし倒しても意味がないもの。

だとすれば、対話を行うしかありません。

精神論や根性論、ありもしない未来を提示した楽観論など全くの無意味。ならば現実的な提案をするしかありません。

きちんと相手を納得させるプレゼンを行った先に。

実効性があると判断してくれたメムアレフは、交換条件を提示してくるのでした。


1、十天への至

方舟が着陸。周囲の様子を確認する。

 

マクリアリーが通信を入れてくるのも、いつものことだった。

 

「此方マクリアリー。 これは……何とも言い難い光景です。 気を強く持って見てください」

 

映像が出る。

 

それは、真っ白い世界だった。

 

文字通り、世界の全てが白い。まるで神話に出てくる、天界の神殿のように。そして、そこには。

 

あいつがいた。

 

堕天使さいふぁーだ。いつものように、スカートを摘んで挨拶してくる。

 

「周辺気温、27度。 気圧は1気圧。 大気組成、外と同じ。 デモニカ無しでも活動できるレベルです。 重力も1G」

 

「好都合だ。 多少デモニカが破損しても平気と言う事だな」

 

ストーム1が言う。少し好戦的になってきている気がする。ただ、それでもストーム1はストーム1。淡々と職人として、敵を屠って行く。世界の敵をだ。

 

ストーム1を怖れているのは、悪徳企業やマフィア、独裁政権の関係者。テロリスト。それに人権屋。

 

各国に存在する、世界の敵である。

 

今までストーム1がやってきたダーティワークは、全てそれらの処理だった。多分今後は、既得権益の持ち主にもその銃口が向く。引き金が引かれるかまでは分からないが。

 

正太郎長官達も来る。

 

堕天使さいふぁーの正体は明確だ。話をするなら、スペシャル全員で、の方が良いだろうから、だ。

 

アレックスが、不思議そうに呟いた。

 

「このシュバルツバースに来た時は、今回もどうせ駄目だろうと思っていたのよ。 心の底では、そんな絶望が拭いきれなかった。 それなのに今は、この戦いを乗り越えれば、終わると信じている自分がいる。 不思議だわ。 私、平和で安寧な世界で暮らせるのかしらね」

 

「バディ、まだ気を抜くのは早い。 あの堕天使さいふぁー……明けの明星だって、味方として最後まで振る舞ってくれるかは分からない」

 

「ええ、分かっているわ」

 

ジョージに言われて、頬を叩き、気を引き締めるアレックス。

 

唯野仁成は何も言う必要はない。

 

プラズマバリアを解除。物資搬入口を開く。サクナヒメが最初に飛び出し、他の皆が続く。

 

堕天使さいふぁーは、相変わらず小柄なメイド姿のままだ。ぐるぐる眼鏡もそのまま。多分、「この戦場」では、ずっとこの姿のままだろう。

 

手を叩くさいふぁー。拍手である。

 

最後に正太郎長官が降りてくると、眼鏡をなおした。笑顔は上品で優しいまま。きっと命を助け幸せな人生を保証し、代わりに姿と人格を使う事を許して貰ったというメイドの笑顔なのだろう。

 

「メムアレフとの交渉、見事でした。 まさか相手を交渉のテーブルにつかせ、大まじめにプレゼンするとは思っていませんでした。 私は多くの世界の命運を賭けた戦いを知っています。 感情論や精神論に訴えて相手の感動を誘おうとした者は見ましたし、有無を言わずに力で相手をねじ伏せた者も見ましたが。 相手も納得するプレゼンをして、きちんと両方に玉虫色の結果を出した人達ははじめてですぅ」

 

「……それはありがとう。 それで」

 

「ここは十天への至。 一神教における神の国に一番近い場所が再現されている空間」

 

「!」

 

なるほど、そういう警告をしてくると言う事は。

 

ゼレーニンを一瞥。大丈夫か、という意思確認である。

 

首を迷わず縦に振るゼレーニン。大丈夫、と言う事だと判断出来る。

 

「四文字たる絶対神そのものはメムアレフが封じました。 しかしながら、その精神の一部まではどうしても封じきれなかった。 外の世界での信仰がそこまで圧倒的だったからです。 故にメムアレフは此処にその精神を閉じ込めた。 その精神の名前はシェキナー」

 

「シェキナー。 神殿に神がある事を示す言葉ね」

 

「そう。 神そのものではなく、「神はそこにいる」という言葉。 逆に言うと、そこまで奴は弱体化していると言う事です。 メムアレフの懸念事項は、封じ込んでいる四文字たる絶対神や、古代の最大神格にて神々の始祖たるバアルではなく。 今そこにある危機という事なんです」

 

ゼレーニンの言葉に、明けの明星は答える。分かりやすい内容である。

 

そして、ライドウ氏が、前に出た。非常に険しい表情だった。明けの明星とは世界の危機で呼ばれる度に何度も戦ったのだろう。まあ当然とは言える。

 

「それで貴様は何故此処にいる」

 

「何度も言いましたが、私が見たいのは可能性。 此処にいるシェキナーは、人間を管理統制する事を目論む一神教の最暗部そのもの。 貴方たちのプレゼンは見ていましたが、文字通り人類の可能性を星の外にまで広げるものではないですか。 それに相対する此処のシェキナーは許すわけにはいかない。 それに、メムアレフが恐らくはないですが、翻心するかもしれない」

 

取引だと、明けの明星は言う。

 

明けの明星本人は、これからメムアレフを見張りに行くと言う。数時間は動けないだろうが、それでも何をしでかすか分からないからだ。また、真田さんが作った装置を守ってくれるとも言う。

 

ホロロジウムに、強化された悪魔が入ってくるかも知れないから、である。

 

「その代わり、必ずシェキナーを討ち滅ぼせ。 奴には信じられないほど強化されたデメテルもついている。 油断するなよ」

 

「……了解した。 その取引条件なら、安いものだ。 それにしても随分此処に詳しいのだな」

 

鋭い正太郎長官の指摘に、明けの明星は薄く笑う。

 

シェキナーの存在を感知して、早い段階から動きを封じるために此処に最精鋭の部下四名を配置していたのだと言う。

 

今もその四名は、この十天への至の四隅にて結界を展開し、シェキナーを押さえ込んでいるが。

 

逆に言うと、押さえ込むだけで精一杯だとか。

 

頷く。理解出来た。

 

多分その最精鋭の一角は、アリスに会いに来たあのベリアルと見て良いだろう。

 

遊んでいる様に見えて、明けの明星も色々と動いていたというわけだ。

 

「この空間は狭い。 シェキナーはすぐ側にいる。 努々油断せぬようにな」

 

明けの明星は消えた。相変わらず凄まじい圧迫感だ。真田技術長官は、咳払いして周囲を見回す。

 

正太郎長官は何も言わない。

 

言わなくても大丈夫と判断しているのだろう。

 

「よし、シェキナーを屠る。 スペシャル達と唯野仁成とヒメネス、一線級の機動班はそのまま進んでくれ。 我々は方舟に乗り、そのまま移動しつつ着いていく。 アーサーがさっきから、とんでもなく強い気配を前方に感じている。 シェキナーがいるならそこで間違いない」

 

「まった。 彼奴は堕天使の王だ。 真田の旦那、あいつを信じて良いんですか?」

 

「堕天使の王だが、あいつは利害が一致する事については誠実だった。 今までの行動を見てもそれに変わりはない」

 

「確かにそれもそうか……」

 

ヒメネスに答えた真田さんは、なおも周囲を見回す。

 

視線はいつになく険しい。元々真田さんはいわゆる悪人面だが、かなりの迫力があった。

 

「相手は一神教の神そのものではないにしても、一神教の神格だ。 もしもどうしても戦いたくないのなら、戦闘は強要しない。 この方舟のクルーにも、一神教徒は少なからずいるだろう」

 

「私は、戦います」

 

ゼレーニンは前に出る。ガブリエルは戦闘を拒む様子が無い。

 

ガブリエルの守りの力は頼りになる。ゼレーニンは恐らくだが、色々吹っ切れているのだろう。

 

「メムアレフが嘘をついていたとは思えません。 明けの明星も同じく。 ならば、この先にいるのは神の中でももっとも邪なる心。 神が心を持っているのは、冷静に聖書を見れば明らかです。 そして信仰する人間も、皆神に「神であること」を望んでいた。 それならば、人間の邪心の影響も少なからず受けるでしょう。 そんな存在ならば、倒してしまうしかないと考えます」

 

「……俺もだ!」

 

「私も戦う!」

 

ゼレーニンが先頭を切ったからだろう。敬虔な一神教徒であるゼレーニンの理屈はとても分かりやすかった。一神教を信仰している機動班クルーが我も我もと応じる。

 

それに、マンセマットの凶行は誰もが見ている。

 

一神教は完全にクリーンでも、絶対でもない。普通の信仰だ。誰もが、それから目を背け、思考停止していた。地域によっては同調圧力で「絶対である」事を強要し、逆らう人間にはリンチまでしていた。

 

どの宗教でも。ある程度以上の規模になれば必ずやっていたことだが。

 

一神教でもそれは代わりは無いのだ。

 

すぐに、正太郎長官が皆に言う。

 

「これから総力戦態勢に入る! 相手は恐らく今まで戦った中で最強の相手だ! 努々油断するな!」

 

「応っ!」

 

千人いるクルー達の心が一つになる。

 

多分だが、眠っているノリスも応援してくれているはずだ。

 

そう信じて、唯野仁成は班編制を終える。ゼレーニンはヒメネスの班に。アレックスはケンシロウの班に入る。

 

これは、アレックスが遊撃戦が得意だからで。

 

正面から敵とガチンコでやりあう姫様や唯野仁成の班と一緒に行動するよりは、一撃必殺の機動戦を得意とするケンシロウと一緒にいた方が動きやすいとアーサーが今までの戦歴で判断したからだ。

 

ケンシロウの下には機動班クルーはつかないので、事実上ケンシロウとのバディとなる。

 

まあ二人とも悪魔召喚は出来るので、完全に二人きりのチームというわけではないが。

 

ライドウ氏は出し惜しみ無しと判断したのか、召喚する。

 

テューポーン。更には、恐らくライドウ氏が召喚できる最強の神格を、である。

 

其所に出現したのは、あまりにも力強い姿をした巨躯の鎧姿の男性だった。背丈は今唯野仁成が召喚したゼウスと同じ程度。

 

だが、その威圧感が一回り違う。

 

これが、ライドウ氏の最高の切り札か。

 

「紹介しよう。 魔神バアルだ。 神々の始祖とも言える、もっとも偉大な魔神だ」

 

「これが……!」

 

「シュバルツバースにいるバアルは腑抜けているようだが、このバアルは文字通り神の中の神。 頼りになるぞ」

 

更に召喚が続く。続けて召喚されたのはヘカトンケイレス。この神格も従えていたのか。

 

続けて、片目の大きな槍を持った巨神。魔神オーディンだという。これが、かの北欧神話の主神か。

 

「召喚しているだけでマッカの消耗が凄まじい。 この決戦のために温存していた神々達だ。 総力戦で、一気にけりをつけるぞ」

 

「へへ、頼もしいな!」

 

「ああ」

 

ヒメネスに唯野仁成も応じる。

 

オーディンはゼウスと同格程度の神格だし、バアルは更にその上である。ヘカトンケイレスは、膠着したティタノマキアをひっくり返したほどの存在。実力に関しては、ゼウスと大差ないだろう。

 

そのまま、方舟の前衛となって歩く。間もなく、それが見えてくる。

 

なるほど、強い。

 

それは一目で分かった。

 

神殿のような。パルテノン神殿を思わせる建物に、それは鎮座している。建物があまりにも巨大で、方舟が乗り入れられそうだ。

 

即座に装甲車にのってゴア隊長が出てくる。戦えるクルーが展開を開始する。方舟も、向きを変え。砲撃戦の準備を開始していた。

 

唯野仁成が、ゼウス、アリス、アナーヒター、イシュタルと一緒に前に出る。

 

神殿の中に鎮座している、巨大な頭の姿をした何者かの下へ。

 

狭い世界だという話だ。

 

すぐに此奴と対面できたのも、無理は無いと言う事なのだろう。

 

近付くと分かる。

 

それは、三つの頭を無理矢理融合させたような異形だ。それでありながら頭の彼方此方には翼があり。各所には目玉がついていて。そんな異形でありながら、実に神々しい。

 

なるほど、神殿にある神か。

 

その通りの姿ではあるのだろう。だが、あまりにもその存在は、人間が考える「至聖」には程遠く思えた。

 

一神教。特に最大の力を持つキリスト教は、ローマ帝国を乗っ取ることによって飛躍した。

 

以降は始祖たるキリストの隣人愛と博愛の思想から変質した統治にあまりにも都合が良い思考停止と絶対支配の教義が、支配者達には都合が良かったから受け入れられ。

 

今に至るまで、西欧文化圏はキリスト教の呪縛を解けていない。

 

キリスト教を打ち破ろうと努力した西欧人はいる。ニーチェなどはその最たる例なのだろう。

 

だが、信仰というものは精神の深奥に潜るものでもある。

 

だからニーチェも、文字通り晩年は深淵を覗いて発狂してしまったという。深淵を覗くものは深淵に覗き返されると、自分で分かっていたのにだ。

 

一神教も、信仰である以上それに代わりは無い。

 

神は唯一絶対か。その心は曇りなき白か。より弱きものは救われているか。

 

それは否だ。

 

そんな事は、人間が造りだした時点ではっきり分かりきっている。その最悪の部分が、此処にいた。

 

「ふん、メムアレフの使い走りとして我々を消しに来たか人間共。 この危険性があるから邪魔をしていたのだがな」

 

「人間が消えれば貴方も消える。 それなのに何故邪魔をした」

 

「ふっ、我々は消える事はない。 知的生命体が存在する限り、支配の最高効率である「思考の放棄」と「絶対服従」には絶対に辿りつく。 地球から人間が消えたとしても、その先にあるのはいずれ出現する次の知的生命体だ。 そやつらも結局同じ発想に辿りつくのだ。 我々はそれまで寝て待てば良い。 もしも秩序に従順な人間が来るようなら歓迎したのだが。 どうやら貴様らの心は汚れきっているようだな」

 

「……唯野仁成、やめておけ。 こやつは腐肉に湧く蛆にも劣る外道よ。 会話する価値のある相手ではないわ」

 

姫様がばっさり一刀両断。

 

確かに同意だ。明けの明星の言葉は、どうやら正しかったらしい。四文字たる絶対の神から抽出され、剥離した精神の一部。

 

それが此処まで濁りきっているとは。

 

西欧では、聖職者による性暴力などの不祥事がいくらでもある。勿論他宗教でもある事だが。別にキリスト教ではそのような不祥事はない、というような事はあり得ないのだ。人間が作った組織と、思想なのだから。

 

どのような宗教にも暗部はある。勿論姫様だって、それは理解しているだろう。

 

だが、姫様は人とともに暮らす事によって、その暗部を理解した上で。人の味方をしてくれている。

 

自身を唯一絶対と位置づけ。他の神格を悪魔呼ばわりすることで排除してきた一神教は。結局の所、「最大の宗教」に過ぎず。

 

性質は他となんら変わらないのだ。

 

ゼレーニンでさえ、もはや眉をひそめているのが露骨だった。ガブリエルも、交戦を拒否する気配はない。

 

そんな中、前に出たのはヒメネスだった。

 

「神さんよ。 俺はリアリストだ。 世の中は理不尽だらけで、宗教とかの心の麻薬に落ちないと生きていけない奴がたくさんいることは知っている。 力が支配には必要で、世界を動かすのも心より力だって今でも思ってる。 だがな、あんたはいくら何でもちいと醜すぎるぜ。 たまにまともな宗教家や敬虔で真面目な一神教の信徒も俺は見た事があったがな。 はっきりいってあんたはそういう奴らが信じるに値しないな」

 

「混沌の権化として悪魔に魂を売った者が何を言うか。 笑止」

 

「……笑止なのは貴様だ」

 

次に前に出たのはケンシロウである。

 

もう完全にブチ切れている様子で、筋肉が膨れあがっているのがデモニカごしにも分かった。

 

この状態にケンシロウがなった後。生きている者は存在しなかった。

 

シュバルツバースでも、だ。

 

「貴様こそ悪魔だ。 神と言うなら、助けを求める人を救って見せろ。 貴様がやってきたのは、助けを求める人間から、更にむしり取る事だけだろうが」

 

「お、おのれ……! 悪魔に魂を売った人間風情が!」

 

がつんと、巨大な頭が揺れる。

 

もう無意味と判断したのだろう。ストーム1が、ライサンダーZFを叩き込んだのである。

 

一撃は魔法障壁をぶち抜いて、目の一つを潰していた。

 

勿論それで即死するほど柔な相手ではない。

 

だが、それでも宣戦布告としては充分過ぎる程だった。

 

巨大な口を開けるシェキナー。三つの頭を無理矢理つなげているから、口の中も極めて醜悪だ。

 

同時に、声が聞こえた。ゴア隊長の、攻撃開始合図だった。

 

「うちーかたー、はじーめ!」

 

「オープンファイヤ! あの神を気取るでかい頭に、全弾ぶち込んでやれ!」

 

方舟の速射砲が一斉に火を噴く。同時に、ゼウスがケラウノスを、オーディンが手にしている巨大な槍。恐らく必殺必中のグングニルを。更にバアルが収束させたケラウノス以上と思われる雷撃を。他の悪魔達も、一斉に攻撃を叩き込んでいた。

 

だが、シェキナーの声が、それらの攻撃を全て中途で「消滅」させてしまう。

 

なるほど、此奴の能力はこれか。

 

解析しないと、接近戦は危険すぎるな。

 

ライサンダーZで射撃しつつ、唯野仁成は考える。まずは、あの消滅の声をどうにかかき消さなければならない。

 

そうしなければ、恐らく戦闘が成立しないだろう。

 

しかし、絶望は無い。

 

はっきりいって、メムアレフと相対した時に比べて、威圧感がそれほど大きくないからである。

 

何より、此奴が多少ゲタを履かされても、メムアレフに比べればどうと言うことがない相手であることも分かっている。

 

それならば、怖れる事などない。メムアレフだったらともかく、この面子で、此奴に負ける訳がないのだから。

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