Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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※ヒメネスについて

ある意味原作ではもっともシュバルツバースライフをたのしんでいたかと思われるヒメネス。

歴代女神転生シリーズでいうカオスヒーローである彼には、以下のような設定をしています。

中南米の最貧国のスラム出身。年齢は偶然唯野仁成と同じ。

国軍に所属していたものの、ギャング同然に腐敗している国軍に嫌気が差していたところを国際再建機構に誘われて移籍。自分の家族の件で恨みがある出身国のギャングの殲滅作戦に参加して以降、皮肉を口にはしているものの義理を通して国際再建機構に参加しています。

原作通りの皮肉屋ですが、唯野仁成と仲が良いのは実力を認めているからです。

また意外と身持ちは堅く、周辺でのトラブルは殆どありません。酒は多少嗜む程度。酒好きと周囲に思われていますが、実はそこまで飲みません。酒が強いかは話が別として。

これは悪徳の街と言えるようなスラムの路地裏で地獄を見て来たから、それを想起させるものが嫌い、という事情があります。


1、焼けた市街地は血で焦げる

ストーム1が作り上げた橋頭堡に、唯野仁成が辿りつく。既にライドウ氏が来ていて、多数の悪魔を周囲に展開。

 

念入りに周囲を見張っていた。

 

ゴア隊長が来るまでに、露払いを、くらいに思っていたのだが。

 

周囲に敵性勢力は存在しないようだ。

 

そもそもこの間、ストーム1に軽率に仕掛けた挙げ句、徹底的に叩き潰された事で懲りているのだろうか。

 

いや、それは楽観が過ぎる。

 

唯野仁成は元々自衛隊の出身者で、そこの第一空挺団と呼ばれる最精鋭部隊に所属していた経緯がある。

 

自衛隊の幹部候補生で、エリート教育も受けたし。

 

国際再建機構にスカウトされて其方に移籍してからも、相応の実績は上げてきた。

 

いずれの軍でも、教えている事がある。

 

楽観は絶対にするな。楽観は思考停止と同じだ。

 

常に客観的に状況を見ろ。

 

慎重すぎるくらいで丁度良い。

 

勿論兵は神速を尊ぶという言葉もあるが。それは条件が整って、神速での侵攻が問題ないという場合にのみ適応される言葉だ。

 

ともかく、ヒメネスと、他数名の機動班クルーと共に、周囲を警戒。

 

それにしてもこの辺りには、凄まじい戦闘跡が残っている。

 

本当にワンマンアーミーの名は伊達では無いなと、唯野仁成は舌を巻いていた。

 

「ヒメネス、唯野仁成」

 

「おう」

 

「はい」

 

ストーム1が、土嚢に半分身を隠しながら呼んでくる。

 

二人とも側に身を潜める。

 

周囲は悪魔や機動班のクルー達が土嚢を積んでいて、野戦陣地の構築は現在70%という所である。

 

レインボウノアには装甲車も搭載していて、ゴア隊長はそれに乗ってここに来る予定であるが。

 

ゴア隊長が来るまでに、野戦陣地の原型は構築しておきたい所である。

 

「スナイパーがいる。 数は二十程度だ」

 

「!」

 

「対応しますか」

 

「いや、相手はまだ有効射程距離内にない」

 

ストーム1は、そう言ってから訂正。

 

相手のスナイパーが、此方に接近中で。

 

相手の有効射程に、この野戦陣地が入っていない、と言う事だった。

 

「スナイパーを護衛するように、その二十倍程度の悪魔が動いている」

 

「良くそんな事が分かるな……」

 

「俺も長年戦場に伊達にいないからな。 もうこれ以上俺の身体能力が伸びることはないだろうが、経験と言う奴は今後も蓄積される。 ……今はデモニカもあるから、普段より勘が鋭く動きやすいという事もある」

 

現時点では、仕掛けなくても良いとストーム1は言うのだが。

 

同時に嫌な事を言った。

 

「俺だったら、あれは陽動として使う」

 

「つまり、本命の攻撃が別にあると?」

 

「そういう事だ。 最初に船に侵入していた悪魔共は分からないが、少なくとも存在を察知されずに動ける奴が敵にいることは確定だ。 サクナヒメが潰した連中にそれが混じっていたのも事実だろうが。 それで全てではあるまい」

 

可能な限りストーム1が対処するそうだが。

 

気を付けるように言われて、敬礼した。

 

土嚢の積み上げ作業に着手する。

 

デモニカのバイザーに表示されている周囲の環境は、-80℃。燃えさかっている街なのに、この寒さである。

 

その上気圧は地上の半分以下。

 

更に大気組成は殆どが一酸化炭素。どうして火が燃えているのかがよく分からない。

 

人間がデモニカを外したら、即座に死ぬと判断して良い状況だ。

 

土嚢の積み上げは、下積み時代から散々やってきたが。

 

本当にしんどい作業である。

 

ストーム1は、唯野仁成やヒメネスでは感知できない距離の敵や。更には恐らく気配を完璧に消して近づいて来ている敵に備えて、じっとしている。

 

デモニカでも捕捉できない敵となると恐ろしいが。

 

デモニカは進化する極地行動用スーツだ。

 

いずれ、捕捉する技術を誰かが編み出せば。

 

それが皆に配布される。

 

そうなってしまえば、もはや敵の優位は失われると言うことである。

 

唯野仁成は此処までに六体の悪魔を仲魔にしたが。いずれもが敵に比べてそれほど強い訳でもない。

 

ライドウ氏が来る。

 

そして、ストーム1と何か話をしていたが。話の内容は、聞こえなかった。

 

仲魔達にも手伝って貰って、土嚢を積み上げ。野戦陣地を構築完了。妖精などの小型の悪魔も、力は生半可な人間より強い。作業は予定より早く進む。

 

ほどなく、威圧的な無限軌道の音と共に、指揮車両である装甲車が来る。

 

普通の装甲車ではなく、簡易のプラズマバリアを張れる、真田さんが開発した最新鋭のものである。

 

ただプラズマバリアは相当に電気を食うシステムだ。

 

レインボウノアに搭載されているAFVは装甲車三台のみ。

 

その中の、貴重な一台を持ち出して来たという訳だ。

 

ぞろぞろと続く機動班、

 

皆、悪魔を召喚し始める。

 

これは作戦通りである。

 

アントリアを支配するモラクスに対して、反撃作戦が開始されたことを、分かりやすく示してやる。

 

それで敵がどう動くか、確認する意図もある。

 

ゴア隊長が、装甲車の中から周囲に声を掛けて来る。

 

「野戦陣地の構築状況は」

 

「現在90%」

 

「敵の狙撃手が位置につき始めた」

 

「!」

 

ストーム1の警告に、皆が思わず土嚢の影に隠れる。

 

土嚢と言っても、このアントリアで採取した水を一旦湧かして耐熱容器にいれ。ぶっかけたものである。

 

要するに、ガチガチに凍っているわけで。

 

生半可な土嚢とは強度も重さも比較にならない。

 

対物ライフルで一発撃った程度では、貫通どころか弾かれるだけである。

 

「ストーム1、狙撃手を潰せるか」

 

「出来るが、確定で陽動だ」

 

「……ライドウ氏、頼めるだろうか」

 

「既に準備は出来ている」

 

流石にスペシャリスト達だ。まず第一作戦目標として、この橋頭堡を完全なものとする。

 

第二作戦目標は、此処を起点にこの焼け焦げた街の探索を進め。

 

モラクスが潜伏している位置の特定。

 

第三作戦で、モラクスを撃破する。それを、もう一度唯野仁成は頭の中で反復。

 

沈黙は一瞬。

 

ゴア隊長が、声を張り上げた。

 

「各自、戦闘態勢! 保有している悪魔を全展開、全周囲に備えよ!」

 

「さーて、おっぱじめるとしますか。 なあヒトナリ」

 

「ああ。 死ぬなよ」

 

「もちろんだ。 地上に出れば出世も確約されてるんだ。 プールつきの豪邸で毎日楽に暮らすんだぜ。 死んでたまるかよ」

 

ヒメネスは相変わらずで安心する。

 

同時に、土嚢から身を乗り出したストーム1が射撃。遙か遠く、二キロ以上先に着弾。

 

デモニカのバイザーには、敵の撃破記録が出た。

 

やはり色々な意味でおかしいレベルの腕だ。

 

狙撃のワールドレコードは、勿論ストーム1が保持している。二位は3キロ半程度。それも条件が整った上で、幸運も合わさってなった記録である。

 

それ以上の距離から、ストーム1は普通に敵を撃破するし。

 

普通にワールドレコードになるような狙撃距離でも、ポンポンと敵を撃ち抜いていく。

 

ましてや今回は二キロ程度先。外す理由も無いのだろう。

 

ワンマンアーミーの名は伊達では無い。

 

潰したテロ組織の数は知れず。ストーム1が来ると言うだけで、逃げ出す悪党も多いと聞くが。

 

まあこれでは、当然の話だろう。

 

立て続けに射撃をしていくストーム1。

 

10体ほど、2キロ先にいる狙撃手だという悪魔を撃破した直後だろうか。

 

後方で、凄まじいスパーク音がした。

 

「掛かったな」

 

ライドウ氏が呟く。

 

どうやら、ストーム1が言っていた敵の本命は後方からの強襲を狙っていたのだろう。其所にライドウ氏が、魔術的な罠を仕掛けておいた。

 

ライドウ氏が、此処は任せるといい、早足で後方に。

 

デモニカの通信機能が微妙だ。

 

電波障害が起きていると言うよりも、恐らくは方舟の電波中継器との通信が乱れていると言う事だろう。

 

敵は電波の存在を知っている。

 

此処にいる部隊を孤立させるべく、前面に陽動の戦力を展開。

 

後方から、主力を急襲させるという策だったのだろう。

 

だが、似たような奇襲作戦は最初の襲撃でも行っている。

 

ストーム1は、だから見抜いていた。ライドウ氏とも、敵の動きの先を読んで行動した。

 

そういう事か。

 

舌を巻く鮮やかさだ。

 

前面に展開している敵が、一方的に狙撃を喰らい続けるのに我慢できなくなったのか、突撃を開始する。

 

瓦礫や、燃えさかっている家を盾にしながら、どっと殺到してくる。

 

機動班クルーは、土嚢から身を乗り出し、対物ライフルで狙撃を開始するが。やはりどうしてもストーム1程にはやれない。

 

そんな中、ヒメネスが一匹、二匹と、連続して対物ライフルで敵を仕留め。

 

感嘆の声が上がった。

 

だが、敵の数は圧倒的。

 

しかも足は、人間よりもずっと早いのである。空を飛ぶ奴も多いのだから。

 

称賛ばかりもしていられない。

 

やがて皆、対物ライフルからアサルトライフルに切り替える。味方の悪魔達が、何やらつぶやき始めると同時に。

 

突入してくる敵の悪魔達に、火やら雷やらを投擲し始める。悪魔が使う魔法だろう。

 

近代兵器に比べて其所まで火力があるようには思えないが、それにしても不可思議な力である。

 

「下がっていろ」

 

ストーム1がいい。慌てて全員が土嚢に身を隠す。

 

同時に、ストーム1が、専用で渡されているらしい大型グレネードを放り投げる。

 

それは200メートルくらい先の、敵の密集地点に吸い込まれるように飛んで行くと。敵を多数巻き込みながら爆発した。

 

更に、指揮車両である装甲車の主砲である二連装速射砲。

 

指揮車両周囲の土嚢に据え付けられている重機関銃が火を噴き、敵に凄まじい火力投射を開始する。

 

勿論悪魔はちょっとやそっとの射撃では死なないが、頑丈そうなのをストーム1が片っ端から片付けていく事もある。

 

土嚢までたどり着けない。

 

建物の影などに隠れても、ストーム1が投擲するグレネードは、隠れている敵を確殺して行くのである。

 

これではたまったものではない。

 

更に、ストーム1が従えている、鎧を持って槍を手にした戦士が出る。

 

映像で見たが、確か幻魔クーフーリンだったか。

 

唯野仁成もデータベースで調べたが、ケルト神話に出てくる英雄である。

 

手にしている槍はゲイボルグといい、敵に必中するか、もしくは分裂して多数の敵を同時に撃ち抜くかする代物であるらしく。

 

そんな凄い英雄がストーム1にしたがっていると言う事は。

 

自分より弱い者には絶対従わないという悪魔の一種であるクーフーリンが。

 

ストーム1を自分以上の強者と認めていると言う事だ。

 

跳躍すると、槍を投擲するクーフーリン。まるで突風のような音がした。

 

投擲された槍が分裂して、敵に降り注ぐ。悲鳴が上がる中、見る間にバイザーに映っている敵の数が減っていく。

 

そんな中、おかしな動きをする小さな敵の反応を唯野仁成は察知。

 

対物ライフルに切り替える。

 

「どうしたヒトナリ」

 

「……気のせいかも知れないが」

 

慎重に狙いを定め。そして虚空に撃つ。

 

直撃した対物ライフル弾は、今まで明らかに其所に存在しなかった、まるで巨大な太ったヤギのような悪魔の腹を貫き。空中に浮いていた其奴は、地面に墜落していた。

 

分類としては「夜魔」。種族としては「フォーモリア」であるらしい。

 

夜魔というのは、主に夜の闇に紛れて活動する悪魔のことで。吸血鬼などが代表だそうである。

 

フォーモリアというのはちょっとすぐには分からない。

 

方舟との通信状態が悪い今、データベースにはアクセス出来ないからだ。

 

地面でもがいているフォーモリアに、もう一発対物ライフルを叩き込んで楽にしてやる。

 

何となく分かった。

 

恐らくだが、此奴だ。

 

他の悪魔以上の隠密能力で、此奴が船内からクルーを拉致したのだ。此奴本人というよりも、同種の悪魔が、だろうが。

 

周囲では激しい銃撃が続くが。

 

敵は突撃の度に数を減らし、土嚢に何とか辿りついても、装甲車の速射砲で消し飛ばされてしまう。

 

反撃も勿論飛んでくるが、負傷者はすぐに後方に下げて守りつつ、皆で支援して猛攻を耐え抜く。

 

程なくして、洞窟からライドウ氏の悪魔が大挙して出てくる。

 

いずれも、攻撃を仕掛けてきている悪魔とは格違いの強力な者達ばかりだ。

 

それが上空から爆撃を開始すると、ついに敵は逃げ出し始めた。

 

わっと喚声が上がる。

 

ため息をつく中、通信が復旧していた。

 

「通信復旧を確認。 状況をお願いします」

 

「正面から仕掛けて来た敵と交戦途中、敵に後方より奇襲を受けた。 だがライドウ氏が即応、奇襲部隊を殲滅。 更に敵の正面部隊を殲滅し、現在撤退していくのを確認中」

 

「……唯野仁成隊員。 貴方が撃墜した悪魔のデータが興味深いですね。 残骸の収拾を願います」

 

「分かった。 すぐに対応する」

 

負傷者が後方に下がる中、唯野仁成はフォーモリアの残骸に近付く。

 

マッカやら何やら、色々な残骸があるが。それをデモニカの機能でスキャン。アーサーが、満足したようだった。

 

「どうやら他の悪魔とは違う成分が含まれているようです。 調査班、回収を急いでください」

 

「分かりました」

 

女性クルーの声が聞こえた。

 

いずれにしても、戦闘は此処からだ。程なくして、弾薬の補給も来る。

 

そして、ライドウ氏が。配下の悪魔と共に、逃げ遅れた敵悪魔三十数匹を連れてきた。皆、両手を挙げている。勝ち目が無いと判断し、戦闘を放棄したと言う事だ。

 

最初に講習で仲魔にしたものとは、違うものが多い。

 

ただ、どれもデータベースに記載がある。

 

ということは、襲撃班と同じような面子だったと言う事だろう。

 

「生き残りの敵だ。 情報収集をした後は、交渉して仲魔に出来そうなものは仲魔にしてしまおう」

 

「けっ。 ホイホイ裏切るとは、悪魔らしいな」

 

「そういうなヒメネス隊員。 力が支配する世界では、そうすることでしか生き残れないものも多い。 彼らが生きている世界は過酷なのだ」

 

ライドウ氏が、初めてヒメネスを諭した。

 

ヒメネスも、無駄な事は殆ど喋らないライドウ氏が反応したので、少しバツが悪そうだった。それに、認めている相手の言葉にはヒメネスは素直なのである。何よりヒメネス自身が、そういった境遇を理解出来るからなのだろう。

 

いずれにしても、敵の戦力を削ったのは事実である。

 

ただ、敵の全戦力がどれほどいるのかが分からない。情報は幾らでもいる。

 

確かに、敵をいちいち皆殺しにしていたら。この先で、どんなトラップに掛かるか、知れたものではなかった。

 

 

 

唯野仁成は、どういうわけか悪魔と話しやすいと判断されたらしい。交渉を任される。

 

まずは、降参して仲魔になりたい者を募る。

 

殆どが手を上げたので、ヒメネスをはじめとして、皆に声を掛ける。

 

そうして、降伏した悪魔には仲魔になってもらい。

 

まずは戦力の増強を図る。

 

降伏を拒否したわずかな残りも即座に殺しはしない。話してみることにする。

 

「この状況、降伏した方が得策だと思うが」

 

「人間なんてどうせこれから滅ぶのですよ。 だったらどうなっても同じでしょう」

 

そう吐き捨てたのは、首から財布をぶら下げている小柄な男のような姿をした悪魔だった。顔は猿に似ていて、背中には翼。尻尾もある。

 

デモニカに提示されている情報によると、堕天使メルコムとある。

 

同じ堕天使でも、オリアスとは比較にならない程感じる力が小さい。

 

「それはシュバルツバースが拡大して地球を覆い尽くすからか」

 

「シュバルツバース? ああ、この世界を人間はそう呼んでいるのですね。 まあそのような事だと思えば良いでしょう、ふふ。 知らないようなので教えてさしあげます。 今そのシュバルツバース内では、魔界の強豪悪魔達が、地上に侵攻する準備を始めているのですよ」

 

どよめきが上がる。

 

同時に、一瞬の隙を突いて逃げようとするメルコムだが。唯野仁成は容赦なくその鼻先をアサルトライフルで撃った。

 

冷や汗を掻くメルコム。

 

これでも今まで、多数の実戦を経験してきた唯野仁成である。

 

紛争地帯では、おぞましい人間の業をたくさん見てきたし。殺さなければ殺される状況は嫌と言うほど味わって来た。

 

少年兵を殺した事もあるし。捕虜に暴行を加えた同僚を告発し、逆恨みされて闇討ちされ。返り討ちにしたことだってある。

 

国際再建機構はトップの正太郎長官の人格もあって比較的クリーンな組織だが、人員の全員がそうではない。この程度の相手に、隙など作りはしない。

 

「わ、分かりました、逃げませんよ。 どうやら私が思った以上に出来るようですね」

 

「地上侵攻を目論んでいるのは、モラクスの指示なのか」

 

「モラクス様を知っているとは……。 まあいいでしょう。 モラクス様は、多数あるこの世界群の一つの支配者に過ぎません。 いずれの世界の指導者である方々も、皆凄まじき強豪ばかり。 皆様が、人間を如何に滅ぼすか、競っておいでなのです」

 

「……」

 

露骨に不機嫌そうになったストーム1を見て、メルコムが怯える。

 

ストーム1が桁外れの使い手であることは、此奴にも分かっているのだろう。

 

唯野仁成からは逃げられるかも知れないが。

 

ストーム1に目をつけられたら、逃げるのは不可能だ。

 

「モラクスは何処にいる」

 

「この先におりますよ。 そこにいるお二方なら、モラクス様には勝てるかも知れませんね。 ですが、モラクス様はこの世界群を支配する指導者の中では、もっとも弱い方である事をご理解ください、ふふふ」

 

「他に貴様のような戦力は」

 

「我々は尖兵に過ぎません。 地上侵攻を目論む本命の部隊は、奥におります。 その戦力は、我々などとは比較にもなりませんよ」

 

ヒメネスが用済みと判断したか、銃を抜くが。

 

唯野仁成は手を上げて、それを制した。

 

「情報の提供有難う。 改めて聞くが、仲魔にならないか」

 

「……貴方が私を従えると? 私は堕天使ですが」

 

「堕天使だろうが魔王だろうが関係無い。 この世界を皆で生きて抜けるためなら、何の手だって借りる」

 

「面白い方だ……」

 

猿に似た顔を、メルコムが歪め。そして、仲魔になる、と応えた。

 

デモニカについているPCにメルコムが消える。

 

恐らくメルコムは指揮官格だったらしく、それを見て他の生き残っていた悪魔も対応を軟化。

 

他機動班クルーの仲魔になる事を承知した。

 

咳払いをすると、ゴア隊長が言う。

 

「唯野仁成隊員。 君は悪魔と相性が良いのかも知れないな」

 

「褒められているということでよろしいですか」

 

「もちろんだ。 この苦境、この世界の支配者である悪魔との相性が良い人間がいると言うのは、とても良い事だと思う」

 

「ありがとうございます」

 

本来なら、褒め言葉にはならない筈だが。それでも、正論ではある。

 

受け入れる事にする。

 

丁度良いタイミングで補給用のトラックが来る。弾薬などがこれで補給できた。

 

補給を担当するのは工作班だ。彼らはゴア隊長の指示で後方に対して自動迎撃用のタレットも設置。奇襲を受けたときに対応出来るようにする。

 

偵察が必要だとストーム1が提案。ゴア隊長が、それを受ける。

 

敵はまだ本命の部隊を隠している事が確定。それならば、どうにかしてそれを叩かなければならない。

 

そして、遭遇戦でそんな大きな戦力とぶつかったら、此方にも大きな被害が出る。

 

今回は充分な準備をしてから敵を迎え撃ったから被害を出さずに済んだが。

 

次はそうも行かないだろう。

 

ヒメネスと唯野仁成、それに他に数名の機動班クルーが指名される。

 

同時に調査班が到着。ゼレーニンという女科学者がリーダーらしかった。真田さんは恐らく研究室に籠もりっきりで、前線部隊として出て来ているのだろう。或いは経験を積ませる為かも知れない。

 

電波中継器も渡されたので、受け取っておく。

 

何カ所か、地面に埋めてほしいという事だった。それで周囲の広範囲を、自動的に測量、マッピングしてくれるらしい。

 

頷くと、弾の補給をして、ストーム1に続く。

 

周囲には、悪魔を展開。今仲魔にしたばかりのメルコムも出しているのを見て、一緒に来ていた機動班のブレアが言う。

 

「大胆だな」

 

「メルコムはストーム1の戦力を知っている。 それに俺自身も、目を離すつもりはない」

 

「それは分かっているが」

 

「ふふふ、柔軟にものを考える事が出来る人間は嫌いではありませんよ。 すっかり霊が汚れた人間ですが、面白いものもたまにはいる」

 

霊が汚れた、か。魂が腐ったとでもいうような意味か。悪魔から見ると、そうなのかも知れない。

 

正太郎長官のような偉人が、二次大戦の後くらいからずっと尽力し続けているのに。この世界はちっとも良くならなかった。

 

国際再建機構を正太郎長官が設立し。其所にケンシロウやストーム1のような豪傑が合流しても。なおも世界は良くならない。

 

作戦行動先で、唯野仁成は何度も地獄を見た。

 

潰したカルトの施設では、人肉食をしていた。世界的に有名な慈善事業家が、所有地で途上国から買った子供に想像を絶する邪悪な所業をしていたのを制圧し告発もした。叩いた麻薬カルテルのボスの所業は、とても人間のものとは思えなかった。マフィアはどこの国でも残虐で、アントリアで遭遇した悪魔よりもはっきりいって非道だった。

 

作戦に参加した兵士には吐くものも多かった。吐いている周囲の兵士の中、唯野仁成は慄然としたものだ。人間とは落ちるところまで落ちるのだと。

 

悪魔にすら、そう言われても仕方が無いほど今の人間は墜ちている。

 

それが事実なのかも知れないなと、確かに思う。

 

「ストーム1さんよ。 それでどうするんだ?」

 

「今、周囲の地形を把握している。 俺だったら、この無駄に広い街を全部使うような事はせず、迎え撃ちやすい場所で戦うだろうな。 攻撃をはねのけられて、此方の戦力について警戒しているはずだからだ」

 

「流石ですね。 名のある英雄のようですが、的確な判断だ」

 

メルコムが言う。茶化している様子は無く、ちゃんと感心しているようだ。それで気付く。

 

悪魔とヒメネスは言動が似ている。特に混沌勢力の悪魔とは。

 

適応が早いのも当然なのかなと、唯野仁成は静かに思った。

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