メムアレフは契約を破れば何度でもシュバルツバースを発生させるでしょう。
人間が宇宙へと、その生活の場を移し。
そして、あり方も変えるときが来ました。
国際再建機構による草刈りが始まった。
元々今の時代では、膨大な富を蓄えている上位1パーセントの層は、基本的に邪悪な行為に手を染めている。
クリーンな金持ちなど存在しない。いるにはいるが、それは例外中の例外だ。
モラルハザードが極限まで進行した世界だ。こんな世界で膨大な金を蓄えていると言う事は。
つまりそういう事、という訳である。
犯罪者の摘発が始まる。埃を叩くと出るわ出るわで、またたくまに世界の長者ランキングの常連や、財閥を形成していたような企業の代表達が逮捕されていき。急激に富の過剰蓄積の構造が解体されていった。
勿論そう言った連中にはマスコミのスポンサーも多く。デリケートな問題とかしていた人権を金に換えているいわゆる人権屋も珍しく無かった。
だから、最初はマスコミがぎゃんぎゃんと騒ぎ立てたが。
これは殆ど話題にならなかった。
まあ当然だろう。
そもそもマスコミは既に求心力を失っており、アニメや映画、それにアイドルと言うコンテンツは全てマスコミと関係が深いテレビからとっくに離れている。新聞なんて、今更中身を信じる者もいない。
必死の抵抗虚しく。
多くの人間は、国際再建機構の事を信じた。
懸念されたことが、富裕層が貧困国でテロなどを主導することだったが。皮肉な話に、国際再建機構に今まで紛争の解決や貧困の解決をして貰った人間は多数いた。
あんた達よりも、国際再建機構の方を信じるよ。
そうテロ屋達は現地の住民を扇動しようとして、何度もそう言われた。そして彼らが気付いたときには。
既に資金は尽きていたのである。
更に悪質な輩の元へは、ストーム1やケンシロウが赴いた。
本当に殺すのは、相手が多数のテロを扇動してきていた前科持ちだったり。完全に賊と化した外道の場合だけだったが。
それでも、相応の殺戮はどうしても改革には伴うのだった。
ただ、人権屋やテロのスポンサーが急速に解体されていった事で。10年計画と並行して行われていった地球の掃除は、予想以上の速度で進行していき。
流血も伴いながら、急速に国際再建機構主導の挙国一致体勢ならぬ、挙星一致体勢とでもいうべき、宇宙進出へ向けた本格的な国際的戦略が前倒しで進行していった。
そして、今である。
唯野仁成は、現在地球から宇宙に旅立つ方舟型宇宙船4番艦、オーディンの進水式を見守っている。
一応形式的には船扱いになるので、進水式となる。
ただオーディンと名付けられるこの船は、陸上をタイヤで走る能力が存在していないのだが。
方舟型は現在、月、火星、金星での活動をも想定し。以前存在した陸上移動機能を全て有していたのだが。
このオーディンは宇宙空間での活動だけが主体として設計されていて。今までのような大型の装甲輪関連の装備は全て取り払われていた。
進水式には多数の人が見に来ている。
シュバルツバースから帰還してから5年。10年計画で進んでいた宇宙への移住計画は、想像よりも早く進んでいて。今では多くの人々が見に来ていても、だれもテロは怖れていない。
貧困と憎しみがテロを引き起こさせてきた。
しかしながら、今まで富を独占していた連中がいなくなった事により、貧困層にまともな生活が行き渡るようになり。
それを阻止しようとした人間達もまた駆除された事によって。
今では、一時期からは考えられないほどに、テロリストと呼ばれる集団は減っている。
貧しいことというよりも、そもそも富が一部に過剰蓄積していることが問題だったのであって。
それらを解決する事にとって、テロはなくなった。
また文化の統制などは一切禁止されていない。
流石に生け贄を伴う儀式などは禁止されているが、それ以外のコンテンツには基本的に誰が口を出してもいけない、という明文法も作られて実行されている。
一時期これらの生きた人間でも無いコンテンツに対して、必死に噛みついていた愚かな人権屋の手先達は。
今ではゴキブリのように身を潜めて、表に出てくることは無かった。
大手の新聞社はもうあらかた倒産してしまっており。現在では玉石混淆のネットメディアが主体になっているが。
国際再建機構の発表をそのままなぞるものか、或いはしっかり分析して分かりやすく伝えるものかに二分しており。
まあ、それでも前のマスコミより何倍もマシという状況には、唯野仁成も苦笑いするしかない。
空中に浮き上がるオーディン。
やがて、核融合の圧倒的なパワーを利用して、上空に。その速度に、感嘆の声が上がった。
ただ、方舟型の船は、既に宇宙事業で多くの志願者を宇宙に運んでおり。
月のコロニーは現在ルナ6まで建造が完了。火星のコロニーはマーズ2が建設されており。金星ではデモニカの優位性を示すように、ビーナス3が現在鋭意制作中という状況である。
オーディンはそれらの作業を後押しする。
また、コロニーに移住する人間には経済的な支援が行われることも分かっており。これらの資金は1パーセントの富裕層が独占していた膨大すぎる資金から賄われていることもあって。
現在の時点で、棄民政策だと罵る声は殆ど出ていなかった。
すっかりスペースデブリが消えた周回軌道上を一周してから、戻ってくるオーディン。勿論人工衛星は多数存在しているが。現在の地球衛星軌道上は、デブリをほぼ気にしなくても良い状態にまで清掃が終わっている。
地球周回上にあるコロニーアースシリーズは、現在アース4まで建造されている。オーディンはアース10まで作成した後、今度は金星周回上のアフロディーテコロニーの建造に出向く予定であり。
既に宇宙に旅だった人間が1500万を超えている今、既にその存在はスタンダードとなりつつあった。
進水式が終わったことで、集まっていた人々も散り始める。
何とかここまで来たな、と思う。
唯野仁成は、周囲を見回す。デモニカを身につけているから分かるが、周囲に殺気は存在しない。
やはり国際再建機構が改革を始めた前後は、どうしてもテロが何回か起きた。犠牲者も出た。
それらは全てストーム1とケンシロウ、それにヒメネスや唯野仁成が中心になって組織ごと潰して行ったが。
それらの過程で、独裁、自由の阻害という声が上がるのはどうしても避けられなかった。
実際各国の統合を進めていく過程で問題が幾つも起きたのは事実だが。
現在では昔の国連が理想としたような、地球をまとめ上げた事実上の単一国家に地球はなろうとしている。
それは、とても良い事だろう。
多様性は確保された上で、紛争の火種が消えて行っているのである。
幾つかの大国を真っ先に叩いて潰したのが、最大の要因ではあるのだろうが。
それでも此処まで急激に平穏になったのは。それを主導した、正太郎長官の手腕を思わざるを得ない。
自宅に戻ろうとするところで、通信が入る。
妹からだった。
「お兄ちゃん、今進水式終わった?」
「ああ、終わったよ。 これから家に戻る所だ」
「アレックスさんと一緒にケーキ作って待っているわよ」
「分かった。 楽しみにしておく」
通話を切る。デモニカの機能では無く、渡されている通信端末によるものだ。進水式の護衛に出ていた兵士達を帰らせ、常勤の兵士と自動監視システムに敬礼して戻る。
現在人類は急速に崩壊しつつある結婚制度を捨てつつあるが。一方で、従来の結婚制度を選ぶ人間もいる。
元々結婚していた人間には干渉しないし。遺伝子データを集めて、そこから無作為に子供を作ってAIが教育するシステムは各地で既に運用が始まっているが。それに対しての反発も思った以上に小さい。
急速に普及したアーサーとジョージを先祖をするAI達が、想像以上に公平で子供を育てるのにも高い経験値を有していたのが理由だろうか。
もう15年もすれば、AIを親とした子供達が社会に出てくることになる。
そう、アレックスのような、だ。
最初に敵だったアレックスの強さは、唯野仁成も良く知っている。
AIは敵ではないし。
人の仕事も奪わなかった。
家に着くと、妹夫婦と、子供二人。それにアレックスが待っていた。アレックスはあまり居心地が良くないようで、妹夫婦の家とは別の家に普段は住んでいる。唯野仁成も一人暮らしである。妹夫婦の邪魔はしたくないと判断したからだ。だが、それでもたまにヘルプで呼ばれる事はあるし。お祝いの時は声がこうやって掛かる。
アレックスは仕事をしているときの方が落ち着くようで、美しく成人した今は同僚に口説かれたことも何度かあるようだが。いつも基本的に袖にしている様子だ。結婚制度自体にリスクばかり生じている今。仕方が無い事だろう。
もう遺伝子データから無作為に産まれた子供の方が、自然分娩で産まれた子供より数が多いという記録もある。
唯野仁成の遺伝子データを受けた子供もいるそうだ。
会いに行くつもりはないが。
向こうも、遺伝子だけ親の相手とは、関わり合いにはなりたくないだろう。
「おじさん、おかえりなさい!」
「えりなさーい」
上の子は、もうしっかり喋れるようになってきているが、下の子はまだまだだ。
妹夫妻とアレックスが四苦八苦して作ってくれたケーキを、皆で食べる。子供達は兎も角、全員が国際再建機構の関係者だ。外では出来るだけ話はしないようにという事は言われているが。今の時点では得に問題は無い。
「どうだった、進水式」
「オーディンの性能は全く問題ない。 少なくとも後継機が出来るまでに、多数のコロニーの建造に活躍し、人類の宇宙進出に活躍し続けるだろう」
「流石は真田さんというところだね」
「ああ」
妹の夫は感じが良い人物で、寡黙な唯野仁成とは真逆の雰囲気だ。妹にも情熱的に求婚したらしい。
まあその辺は妹にさらっと聞いただけだからよく分からない。こういう血がつながらない家族というのは仲が悪くなりがちらしいが、唯野仁成は家族には殆ど興味が無いからか、一線を引いて行動している。
アレックスもその点ではかなり性格が似ていて。
恐らくだが、アレックスが唯野仁成を最初あれほど嫌悪していたのは。似た者同士であったのが原因では無いかと分析している。
アレックスは表情が柔らかくなることはなく。
最初は妹夫妻の子供達に泣かれることもあったらしいのだが。
今ではそんな事もない。
静かにケーキを黙々と食べた後、仕事が上手く行っているかいないかと、軽く話をした。それでいいと思う。
祝いが終わった。
姪と甥にゲームをせがまれたので、一緒に遊ぶ。甥は側できゃっきゃっとさわいでいるだけだが。姪はもう結構難しいゲームが出来るようになってきている。
接待プレイにならない程度に手を抜きながら、妹と話す。
「それで真田さんは更に計画を前倒しにすると言っているのか」
「そうらしいわ。 私の上司はゼレーニンさんだから、そこまで詳しくは話してくれないけれどね」
「……この辺りで少しブレーキを掛けても良いかも知れないが」
「急すぎる改革は良くない結果も未来に残す、かい義兄さん」
義弟の声に頷く。
唯野仁成としても、改革が前倒しになっているのは良い事だが。其所まで作業を急ぐことはないようにも思えるのだ。
とはいっても、真田さんが以前話してくれた。
真田さんのいた未来では、星間戦争で地球が滅茶苦茶に負け、酷い事になっていたらしい。
真田さんが経験した二度の旅というのは、その星間戦争での自殺的な特攻作戦の事で。
そんな作戦を繰り返させないためにも。今度は入念に成熟した星間文明に地球を育て上げ。
相手が余程の狂った蛮族でもない限りは、現実的に交渉を行って話が出来る程度の文明にまで仕上げておきたい。
それが真田さんが、サイボーグ化していてもいずれ引退しなければならない未来を見越して練っている計画だそうだ。
正太郎長官もサイボーグ化して、更に無理矢理寿命を延ばしたそうだが。
正太郎長官だって、それでも絶対にいずれ無理が来る。
焦りが計画の前倒しを推奨しているのだろうか。
その辺りは、良くない事だとも思う。
「分かった。 今度ゴア元帥とヒメネスと一緒に話をしてみる」
「そう。 あまり無理はしすぎないでね」
「ああ、分かっている」
ケーキを切り上げると、家を出る。アレックスもついてきた。
家の外では、アレックスは未だに唯野仁成の事を名前で呼ぶ。大叔父ではあるのだが。やはり色々と、血縁者だと思うにはまだ厳しいものがあるのだろう。
それについては嫌と言うほど分かるので、文句を言うつもりはない。
「唯野仁成、それでどうするの?」
「どうするもなにも、さっき言った通り軽く話をしてみる。 もしも焦っているようなら諌める。 それだけだ。 正太郎長官も、真田技術長官も、そういった話が出来る相手だと知っているだろう?」
「誰だって衰えるものよ。 唯野仁成、平行世界の貴方だってシュバルツバースに突入した時点では、あんな狂人ではなかった筈だわ」
「……そうだな。 それも考えて、二人と話をしてくる」
アレックスはしばし冷たい目で唯野仁成を見ていた。
アレックスは残念ながら今でもとても口べただ。
現在では国際再建機構を代表する若き戦士として各地で活躍しているアレックスだが、単独での圧倒的強さを発揮して問題を解決していくので、「黒い竜巻」とか言われていると言う。
勿論素性は殆どの国際再建機構の関係者には伏せられている。ただ、唯野仁成の年が離れた事情により別居していていて最近再会した「妹」という設定にされていて。本人はそれが不服らしい。
そんなアレックスだが。ジョージという心強いAIがいる。
「アレックスは君を心配している。 君は既に三十を過ぎただろう。 無理をすると体に良くないとアレックスはいいたいのだ」
「ジョージ!」
「ありがとう、分かっている。 ただ、無理はしないさ」
唯野仁成はシュバルツバースであまりにも急激に強くなりすぎた。それは事実である。
だから、その反動がいつか来るかも知れない。
アレックスだって、実は去年精密検査を受けて。半年ほどリハビリに専念している。三年間無理をしたツケが、若い体にさえ来たのだ。
アレックスと同等の苦労をした唯野仁成だって。
いつ似たような目に会うか分からないのである。
礼をすると、唯野仁成は家に戻る。家ではAIが全てを管理していて、音の外部への遮断や、プライバシーの保護などを、それぞれの独立AIが全てやってくれている。オートで動いているロボットが、軽い家事もやってくれる。
別に唯野仁成は特別に裕福な生活をしている訳ではない。
貯金は確かにあるが、必要な分しか使っていない。
無意味に金ばっかり蓄えて、弱者の生き血を啜っていた連中の醜態を見ているし。あいつらと同じには絶対になりたくないと考えているのもあるのだが。
やはり、こういう静かで質素な生活が一番似合っていた。
風呂に入った後、AIに話す。
「アーサーを呼び出してくれるか」
「はい、お待ちを。 ……ハロー唯野仁成。 何か問題発生ですか」
「ゴア元帥とヒメネスとアポを取ってほしい。 今、国際再建機構が少し急ぎすぎているのでは無いかと言う懸念があってな」
「分かりました。 すぐに連絡をしておきます」
頷くと、後は任せる。
今日はここまでだ。眠る事にする。
人類は宇宙への飛躍を成功させようとしている。デメテルが言っていた、15年でシュバルツバースを再発生させるという計画。それにも、今なら対応出来る気さえしている。
だが、それはそれだ。
計画を急ぎすぎると、とんでもない所で躓いて、いずれ大失敗する可能性だってある。それを考慮すると、一度引き締めが必要かも知れない。
それについては、確かなことだった。
一週間後。
唯野仁成は国際再建機構の本部に出向く。久々にあったヒメネスは、多少老けているようだったが。相変わらずだった。
「よう戦友。 最近はどうよ」
「特に問題はないな」
「ハハハ。 それで結婚制度はともかくとして、女とか作る気はないのか? 俺は色々面倒だからどうでもいいんだが」
「俺もそれは同じだよ」
一室で、ゴア元帥を待つ。
ストーム1が以前任されていたようなダーティワークを一時期積極的にこなしていたヒメネスだが。
どうやらまだ引退するわけにはいかないと判断したストーム1がはりきりすぎているせいで。
まだ二代目ストーム1を襲名するのは先になりそうだと笑いながら話している。
勿論好意的な笑いである。
ヒメネスは今や純粋にストーム1を尊敬しているし。
あのように、常に冷静な仕事屋になりたいとも思っているようだから。
ゴア元帥が来る。
流石に髭に白いものが混じり始めている。後継者としては唯野仁成がいずれ選ばれるという話がある。
昔のヒメネスだったら反発したかも知れない。だが今のヒメネスは、ナンバーワンになりたいとは必ずしも思わない様子だ。
その話が出たときには、ヒトナリには任せられると嬉しい事を言ってくれて。ただしその時には俺をナンバーツーにしろよなとも俗物的に言ったのだった。
「二人とも久しぶりだな」
「ゴア隊長もお久しぶりです」
「かなり体にガタが来ているみたいだが、大丈夫か元帥」
「ははは、まだ大丈夫さ」
とはいっても、もう戦士として前線には立てないだろうなと、唯野仁成は冷静に分析。
ずっと地球の国際再建機構本部で指揮を執り続け。火星でも金星でも月でも、問題が起きた場合に的確に対応し続けたゴア元帥は。正太郎長官と連携して、とにかくよくやってくれている。
この人は地味でとにかく派手さには欠けるが。
その一方で大変に実直で強い正義感を持っている。
だからこそに、シュバルツバースでの司令官として、最後まで堅実な手腕を発揮し続けたのだし。
今でも国際再建機構で守護神となっている。
「それで、話とは何かね」
「計画をまた前倒しするようですね」
「……うむ」
「少し急ぎすぎているのでは無いかと、心配しています」
この人の前で、ああだこうだ繕う必要はない。だから、ずばりと言った。
ヒメネスはそれについてはまだ何も言わない。
ただ、正太郎長官も、真田技術長官も。自分達が生きている間にと、あまりにも急ぎすぎている気がして心配だと告げると。
ゆっくり頷いていた。
「そうだな。 全く同じ懸念を、二人に話した事がある」
「!」
「まあ確かに、何だか追われでもしているかのようなスケジュールで最近回してるもんな」
「それもそうだが、私は大事故を懸念している。 火星や金星は特に極限環境と言っても良い場所だ。 デモニカに、悪魔の力も借りていると言っても、どうしても限界は出て来てしまう」
コロニー計画は今の時点で上手く行っている。特に金星は、無尽蔵の資源が手つかずで眠っていた事もあり。
金星に予定より多いコロニーを建造し、人員を増やそうという計画が現在持ち上がっている様子だ。
だが、ゴア隊長はそれを懸念している。
「知っての通り、我々にはまだテラフォーミング出来るような技術が無い。 だからコロニーは金星の内部で作るしかないし、如何にコロニーを方舟を元に頑強に作っているとは言っても、限界がある。 もしも大事故が起きた場合、その損失は計り知れん」
「それで、どうアプローチするんだ元帥?」
「計画を見直した方が良いかも知れないと、三人で掛け合ってみよう」
「……」
未来の国際再建機構のリーダーである唯野仁成の言葉を、無碍にはしないだろうとゴア隊長は言うが。
それをいうなら、現時点で国際再建機構の軍事部門最高責任者はゴア元帥だ。
この面子で止められないのなら。
何とか手は打たなければならないだろう。
それは独裁というか、暴走につながる。
今の時点で上手く行っている全てが台無しになる可能性があるから、それだけは阻止しなければならない。
もうアレックスに絶望を味あわせたくないのである。
三人で頷き会うと。ゴア隊長は、側にあるAI端末に言う。
「アーサーにつないでくれ」
「分かりました。 ハローゴア元帥。 唯野仁成中将。 ヒメネス中将」
あれから二人とも階級が上がっている。まあ次世代のトップが准将だと問題があると判断はされたのだろう。
一応階級的にはケンシロウ、ストーム1の両翼英雄に並んでしまった。
勿論二人と実力で並んだなどとは思っていない。
二人には野心がない。だから、二人も文句を言う様子は無かった。
「国際再建機構の未来について、大事な話がある。 近いうちに、正太郎長官と、真田技術長官と、話をしたい」
「分かりました。 セッティングを行います」
「頼むぞ」
話を終えると、ふうとゴア元帥は嘆息した。
やはり老いてきているのが分かる。これから、上手く行っているのにブレーキを掛けるという話をするのが色々憂鬱なのだろう。
だが、今まで失敗してきた様々な組織のようにならないために。
何よりも、地球からの独立という計画をきちんと実行するためにも。
唯野仁成は、こんな所で立ち止まるわけにはいかないのだ。
まだまだ先は長い。
ヒメネスと、久しぶりに飲みに行こうと誘われたので、適当なバーに出向く。
まあ、たまには良いだろう。
息抜きになる範囲での飲酒程度なら、何の問題も無いのだから。