唯野仁成がゴア元帥兼国際再建機構長官から、正式に辞令を受けて、跡継ぎになる。
既に前線に立つのは厳しい年になった、というのがゴア元帥の考えだ。
正太郎長官は少し前に亡くなった。守護神である真田さんも、ゼレーニンに全ての技術を継承してから、同じように亡くなっている。
今後は、唯野仁成達の時代だ。
既に中年に入った唯野仁成は辞令を受けると。すぐに軍事部門の最高責任者にヒメネスを。技術部門の最高責任者にゼレーニンを任命。
二人とも、もはやストーム1や真田さんの後継者として相応しい。
現役引退したストーム1が、俺の跡取りとしてもう完璧だとヒメネスの肩を叩いて笑ったとき。
ヒメネスが。
あの皮肉屋のリアリストのヒメネスが、涙を流すのを唯野仁成は見た。
男泣きを笑うのは絶対に良くない事だ。だから、あの時の事は、継承を受けた男の勲章だと考える事にしている。
真田さんは其所までドラマティックではなかった。
元々自分の知っている技術を全てデータ化していて。自分の右腕に相応しい所まで成長したゼレーニンに引き渡したのだ。
既に一神教への依存から脱却し。冷静に一神教を見る事が出来る様になったゼレーニンだったが。
その考えは間違っていないというように。一神教の主要な天使はあらかた従える事に成功していた。
そして、勿論それを悪用することもなく。
偉大なる技術者の魂と。それに姫様、あのサクナヒメに教わった「他を認める事」の重要性を抱き。
今では、金星や火星、更には木星やアステロイドベルトに至るまで。開発の三百年先まで計画を立てている。
文字通り水を得た魚である。
遺伝子データの無作為な配合と、それによって生まれた子供は。生まれつき遺伝子疾患がある場合はそれも治療する事が出来る様になり。
AIの教育で、十年ほどで学習を完了。
それ以上の学習をするも、リモートで仕事を行うも。更に手足が伸びてから、デモニカを着ての肉体労働に加わるも自由となっている。
この子らのモチベーションは極めて高いことが既に分かっていて。
例えば、この間唯野仁成の遺伝子データを使って作り出された子供の一人らしい子からメールが来たが。
メールを返信してから、もの凄い勢いで体を鍛えて勉強をしているらしく。仕事でも凄い成果を上げているそうだ。
目を細めてノリスから来たその報告を見た後。
唯野仁成は、執務室に着く。
これからは、宇宙進出と人類の未来を唯野仁成が担う。
まだほんの少しだけ、過激分子は残っているが。宇宙での生活が予想以上に快適であったことや。
同調圧力がなくなった世界が自由で、それぞれが思うように生きられるようになった事。
AIが幸いにも人間の友人として完成して。その結果、人間の負担が大きく減り。特に最大の問題であった統治システムが不公正ではなくなり、利権も絡まなくなった事で。
一部の、それも昔とは比べものにならない少数の原理主義者を除いて、誰もが幸福度の高い生活をしている。
サイボーグ化してもなお正太郎長官がもたなかったのも同意だ。
二世代も掛からないうちに、しかもブレーキを掛けたにもかかわらず、これほどの改革を成し遂げたのだ。
それは寿命だって縮まる。
今、唯野仁成がいる長官室だって、質素な部屋だ。
幾つかの作業をこなしていると、面会の依頼。直接面会する必要は今日日ほとんどないので、むしろ珍しい。
面会の相手は。アレックスだった。
十分ほど後に来る。
アレックスは、まだ厳しい表情をしていることも多い。人生で一番大事な時期を徹底的に踏みにじられた唯野仁成の妹の孫。実年齢では10歳も離れていないから。アレックスももう三十路に足を突っ込んでいる。
苦労が祟って老けるのも早いかなと本人は自嘲気味だったのだけれども。
別にそんな事もなく。
今ではこの「可能性の時代」に、綺麗に順応している様子だ。
唯野仁成の妹夫婦とはすっかり仲良しになっている。本人の詳しい事情については妹夫婦には告げていない。
まあそれはそうだ。平行世界の孫なんて言っても、混乱させるだけなのだから。
「久しぶりね。 副長官殿。 いや、長官殿というべきかしら」
「アレックス、相変わらずだな。 それで今日はわざわざどうしたんだ」
「唯野仁成、私から説明しよう」
ジョージが、口べたな。相変わらず口べたが直らないアレックスの代わりに説明をしてくれる。
あれからアレックスは、どちらかというと宇宙開発の最前線に立つことが多く。今では方舟型の姉妹艦に乗って指揮を執ったり。悪魔を使って開発の最前線で指揮を執ったりしてくれている。
ストーム1とケンシロウがやっていた実働部隊の後は、ヒメネスや武闘派の元機動班一線級クルーが引き継いでくれたので。
アレックスは汚れ役をしなくて済むようになったのだ。
実は、アレックス自身がやろうかと申し出たのだが。ヒメネスが拒否した。
お前はもうこれ以上手を汚そうとも、人を殺そうと考えなくてもいい、と。
平行世界のヒメネスでは絶対に考えられない話だが。それだけ、ヒメネスも凄惨なアレックスの半生には思うところがあったのだろう。
そんなアレックスは、国際再建機構でも有能な若手指揮官と知られていて。
唯野仁成が長官になった後は。長官になるつもりは無いと明言しているヒメネスやゼレーニンの代わりに。唯野仁成の後継者になるのでは無いかと噂されていた。
「アレックスは、今後の話をしにきている。 バディは今の時代に概ね満足しているのだが。 ただこの時代を作ったのは主に正太郎長官と真田技術長官であって、君がまたあの怪物に変わるのではないかと危惧しているのだ」
「アレックス、余計な事は言わなくても良いと言いたいけれど……まあそういう事。 昔ほど心配はしていないけれど、それでも心の何処かに不安はあるの」
「そうだな。 平行世界の俺がやらかした事を考えれば、当然の心配だろう」
分かっている。
平行世界の唯野仁成は、「シュバルツバースで生き残る」事に全ての可能性を使い果たしてしまい。
その後はただの怪物になってしまった。
だが、今の唯野仁成は違う。
シュバルツバース攻略は、多くの英雄に手伝って貰い、負担を減らす事が出来た。
今でもアリスやデメテルは唯野仁成の手持ちにいるが。それは、唯野仁成がまだ面白いと思っているからである。
アリスは特に顕著だが、唯野仁成が面白くないと思ったら、すぐに手持ちから出て行く事だろう。
あの子はそういう子だ。
新しくアリスに選ばれるのが誰かは分からないが。
或いは、今後の時代を担う子が現れて。その子になるかも知れない。
いずれにしても、唯野仁成も老人になる前にはアリスなどの強力な悪魔に、次世代の英雄を紹介するつもりもいる。
この間メールをくれた桂花という、遺伝子データ的には唯野仁成の孫に当たる子(遺伝子データの血縁的にはストーム1の娘でもあるらしい)も、候補の一人だろう。あくまで候補の一人だ。同じように優れている子は、他にもいる。
「アレックス、どうすればいい。 早めに君に長官の地位を譲ろうか?」
「今の貴方が、平行世界の怪物では無い事は分かっているから、別に其所まで気を遣わなくてもいいわ。 ただ、一つ約束をしてほしいの」
「約束?」
「今後も、この方針を変えないで」
アレックスは真剣だ。
それはそうだろう。地獄を見て来たのだ。
唯野仁成は、頷く。
アレックスの見て来たものも。経験してきた地獄も知っているのだから。
「分かった。 それで納得してくれるなら、そうしよう。 予定より計画が前倒しで進行している今、計画は加速も減速もせず進めていく。 AIが主導で計画を進めている現状、例えば敵対的な宇宙人でも攻めてこない限りは、大規模な計画の変更は必要ないだろう」
「真田さんのいた並行世界には、銀河系にもマゼランにもアンドロメダにも強力な宇宙人の勢力が存在していたらしいわね」
「だが、真田さんのいた世界とこの世界は、歴史の流れが大きく違っているらしい。 それを考えると、同じように宇宙人がいるかは分からない。 今、宇宙に展開した超高精度望遠鏡などを使って観察を続けているが……何とも言えないな」
「……」
アレックスは敬礼すると、最後まで微笑みは浮かべずに部屋を出て行った。
ため息をつく。
アーサーが気遣ってくれた。
「唯野仁成隊員。 いえ、これからは唯野仁成長官と呼びましょう。 アレックスとの約束は、きちんと果たすつもりなのですね」
「もちろんだ。 もし、シュバルツバースの深部で、メムアレフとああいう風に決着を付けておかなければ、きっと地球には何度だってシュバルツバースが湧くか、或いは一神教の思想で全てが統治されるか、或いはジャングルにでもなっていただろう。 この新しい可能性世界だからこそ、アレックスは平穏に生きられる」
真田さんの関係で、タイムパラドックスは無い、という結論にはなっていたが。
実はあれは、違ったのかも知れない。
例えば唯野仁成が、もっとアレックスの生きた世界に近い状態だったら。
ひょっとすると、タイムパラドックスが起きて、アレックスは消えてしまう。そんな可能性はあった。
だが、この世界は違う。
助けに来てくれたライドウ氏と武神サクナヒメ。
地球史上最強の軍人ストーム1と、最強の拳法家ケンシロウ。
それに最高の組織指導者正太郎長官と。未来から来てくれた最高の技術者真田さん。
皆を支えてくれた、最高のアイドル天海春香。
何よりも、そんな面子の中で、着実に堅実に手腕を発揮してくれたゴア隊長。
みながいたから変わったのだ。
だから、多分アレックスも消えずに済んだ可能性もある。
ヒメネスもおかしくならなかったし。ゼレーニンもしかり。
かくして、人類は星の海に出る可能性と。星の海で別の生命体と接触しても、やっていける可能性が出て来た。
人類は今や、一つの事が絶対の正解だなどと考えていない。
故に、別の思考回路を持つ生物ともやっていける可能性が生じてきている。
それは、とてもとても大きな進歩。
自分は常に正しいと信じて疑わず。
排他と独善で己を塗りつぶし、社会を回してきた人間という生物がやっと到達できた、排他では無い、多様性を容認できる可能性の世界。
車が普及して馬車を使う人がいなくなったように。
この可能性に満ちた上で、穏やかな世界は、人類にとっての新しい理想郷になりつつある。
そしてそれを作ったのは唯野仁成では無い。
集ってくれた英雄達なのだ。
だから、驕るつもりはない。
連絡が入る。
今度は、緑化作業の視察だ。アリスがひょいと出てくる。
「お仕事? どこにいくの?」
「ああ、今度はアフリカの砂漠だな。 緑化作業を視察に行く。 後は個体数が回復しつつある大型動物の様子も見に行く」
「前はロボに全部やらせてたんだよね」
「今も基本的にはそうだ。 人間は生態系を逸脱して久しいし、他の動物と直接触る事は好ましくない。 一部のペットとして品種改良された生物以外はもうそれは止めた。 だから、ロボットが面倒を見るのを視察するだけだ」
それでも、アリスはご当地のごちそうや、動物そのものを見る事が楽しみなようだ。
苦笑しながら、すぐに用意された専用機と、護衛の部隊と共に現地に向かう。
都合の良いときだけ人間も動物だと称して凶行を正当化し。
都合の良いときだけ人間は知恵ある生物だと称して詐欺を行っていた。
そんな生物はもう地球にはほんの一部を残していない。
地球の街は急激に数を減らしつつあり、資源は還元されるか宇宙に移送されている。人間は宇宙で新しい可能性を開いているのだ。
やがて、アフリカが見えてきた。
デモニカを着て降り立つ。現地の近くには、監視要員の街が残されていて。其所には文化もしっかり保全されている。
周囲の環境は、人間の活動が極端に減ったこともあって、非常に穏やかだ。どの生物も、個体数が回復して環境は劇的に改善しているという。
これなら、メムアレフが怒る事ももうないだろう。
頷くと、全てのデータを許される最短距離まで見に行く。
あの動物は何、あれは何と興味津々なアリスに答えながら。
唯野仁成は、新しい時代に入った地球を視察し。
そしてこの時代の立役者になった英雄達に感謝していた。
(真女神転生ストレンジジャーニー二次創作、Sinストレンジジャーニー完)
「S」の意味は最後に提示させていただきました。
ハッピーエンドと明確にいえるものが存在しない原作をハッピーエンドに。
そう考えて創った二次創作ですが、楽しんでいただけたでしょうか。
もしも楽しんでいただけたのならば幸いです。
ディストピアに見えるかも知れませんが、自分なりのハッピーエンドがこの形です。