Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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※ケンシロウについて

説明不要なほどの有名人ですが、まあ軽く説明を。

199X年に核戦争が起きなかったこの世界では、国際再建機構に誘われて、各地で独裁国家やら犯罪カルテルやらを叩き潰して回っています。

似たような事をしているストーム1とは仲良しで、元々軍人に良いイメージがなかったケンシロウが、全く違う強さの持ち主だと認めているほどです。結果戦友として一緒に国際再建機構に所属しています。同じ任務に所属することもあり、敵となった組織とかからして見れば悪夢も良い所ですね(苦笑)

なお蒼天の拳の設定を取り込んでおり、北斗神拳の他流派(曹家、孫家、劉家)の技術も持っています。


3、人を最も効率よく殺す方法

ゴア隊長麾下の部隊が、全て所定の位置につく。

 

唯野仁成の位置からも見えるが、三台あるなけなしのAFV全てをだし。更にまだ真田さんが未完成品だといっていた、大口径レールガンまで持ち出している。大型レールガンだが、そもそもレールガンというのは早い話が電気式の鉄砲である。

 

トカマク式発電機という特殊な発電装置を使わないと現時点では発砲することさえ出来ないし、連射もきかない。更にジープで引く人が搭乗する事も出来ない一種の野戦砲だが。

 

火力はバンカーバスター並みだという話だった。

 

唯野仁成とヒメネスは途中までストーム1を支援して動いていたが、中途で指示通り交代。

 

街の影を行きながら、時々鉢合わせする敵の斥候を出会い頭に瞬殺。

 

味方がクロスファイヤーポイントを構築しているのを横目に、街の中を指示通りに移動し。

 

そしていきなり、眼前でスパスパと、四メートルはある巨体の悪魔がスライスされるのを見た。

 

呆然とする。

 

ヒメネスも唖然としたようだった。

 

鮮血をぶちまけながらも、すぐに消えていく悪魔。

 

スライスしたのは、別に武器など手にしていない長身のデモニカを着た男。此処が合流地点と言う事は、間違いない。

 

「時間通りですね。 ケンシロウさん、来てくれて助かります」

 

「ああ……」

 

「オイオイ、今のは何だ」

 

「北斗神拳ではなく、南斗聖拳と呼ばれる別拳法の技だ。 北斗神拳には、水影心という奥義があってな。 拳を交えた相手の技をある程度写し取ることが出来る。 今のは、俺の親友の技でな……」

 

ケンシロウがヒメネスに応える。

 

とりあえず非常識な光景を目にしフリーズしたヒメネスの肘を小突いて正気に戻すと、予定のルートを移動する。

 

向こうで爆発している。

 

ストーム1が大暴れしているのだろう。

 

そろそろ敵もキレる頃だ。

 

生兵法を逆手に取られて、やりたい放題に叩きまくられているのである。しかも片っ端から指揮官がやられているのだ。特に上空に出た敵は殆ど即座に撃ちおとされていて、敵は制空権をほぼ喪失している。ストーム1の対空戦闘能力は有名で、殺到した戦闘用ドローン数十機を単独で殲滅したという実話もある。

 

その上、ゴア隊長麾下の主力も動き出している。

 

あれが鶴翼の陣である事くらいは、敵も分かるはず。

 

勿論、それを全部読んだ上でストーム1は動いているのだ。ケンシロウを切り札として、敵の首魁モラクスにぶつける策も含めてである。

 

「あんたが非常識に強いのは知ってるが、あんな訳が分からない技をどんだけ使えるんだ」

 

「まだたくさんある」

 

「そ、そうか」

 

「ヒメネス」

 

無駄口を叩くのを控えさせる。

 

此方は三人だけ。勿論ケンシロウだけで勝てるとストーム1は思っているだろうし、唯野仁成だってそう思う。

 

だが、万が一という事もある。

 

話は聞かされているが、ケンシロウはインファイトにおける国際再建機構最強の使い手である。

 

各地でも、屋内戦などで莫大な戦果を上げてきたとかで。

 

インファイトなら何が相手でも絶対に勝てるという事で、重要な作戦には多数参加してきたらしい。

 

実際問題、ケンシロウが仕留めた麻薬王や悪徳財閥のボスなどは枚挙に暇がないほどで。

 

また別に近代兵器に弱いと言う事もなく。アサルトライフルで武装したテロリストくらいなら、百人単位で畳むとか。あくまでストーム1と比べたら、近代兵器で武装した相手に破壊力が劣ると言うだけの話である。総合的な実力は互角と言われているそうだ。

 

ストーム1と並ぶ切り札として、国際再建機構の最前線で戦っている訳である。

 

さて、そろそろ作戦が始まる頃合いだ。

 

ストーム1が、ぐんと敵陣に切り込んだのが分かる。

 

同時に敵が動く。

 

ストーム1を包み込みながら、そのまま敵全部が前進を始める。クロスファイヤーポイントに踏み込むのでは無い。方陣に再編成し、ストーム1ごと物量で押し潰すつもりだろう。

 

残念ながら。そう動く事は、ストーム1は既に読んでいた。

 

いきなり、敵左翼。ストーム1が暴れている辺りが、立て続けに大爆発する。

 

ストーム1が使う超火力爆弾、C70が一斉に起爆したのは確定である。

 

敵の前衛部隊が文字通り消滅した。

 

それと同時に、ゴア隊長の部隊が、一気に前進を開始。

 

鶴翼を保ったまま、わずかに位置をずらす。最初の野戦陣から、部隊もせりだし、陣形を変える。

 

指揮官を多く失っている上。

 

勢いに乗って突入した敵の右翼部隊は気付けない。

 

新しく構築されたクロスファイヤーポイントに、自分達が真っ正面から突入したという事を。

 

その上、ライドウ氏が展開したらしい上位の悪魔が、若干クロスファイヤーポイントからずれそうな敵に対して、上空から統率されきった猛爆撃を浴びせる。敵がそれを避けるように密集した先には。

 

方舟から持ち出された全火力が集中した、クロスファイヤーポイントが待っていたのである。

 

見る間に想像を絶する火力が叩き込まれる。

 

レールガンが火を噴き、文字通り数十の悪魔を一弾が貫通した。

 

ついでに貫通先で大爆発を引き起こす。

 

それだけ初速が凄まじいと言うことだ。

 

ヒメネスがぼやく。

 

「あれを人間に使う予定があったのか……!?」

 

「急ぐぞ……」

 

ケンシロウに促されて、三人は走る。

 

たまに本隊からはぐれたり、ストーム1に翻弄されている左翼部隊からはみ出した敵と遭遇するが。出会い頭にアサルトを叩き込んで叩き潰す。生かしては返さない。

 

阿鼻叫喚の地獄絵図に叩き込まれた悪魔達を横目に、敵軍を迂回して急ぐ。

 

一方的な戦いだが、クロスファイヤーポイントを万が一にでも突破されたら味方に大きな被害が出る。

 

幾らプラントで弾を生産できるようになったとはいえ、現時点での弾の備蓄にも限界がある。

 

ふと、嫌な予感がして、ケンシロウを呼び止める。

 

ケンシロウは既に足を止めていた。

 

笑いながら、何かが降りてくる。

 

竪琴を持った女だ。青黒いドレスを着込んでいて、顔色は悪いが顔の造作そのものは美しい方にはいるだろう。当たり前のように空中に浮いている事から、人間ではない事は確定だ。

 

デモニカに捕獲、接触の記録がない悪魔である。現在電波障害が起きていない。と言う事は、敵の隠し札だと見て良い。

 

ただ、データベースには名前があった。分類が妖精。種族がローレライとある。

 

ローレライというと、確かあの人魚だか何だかの。それしか唯野仁成には分からない。

 

「あら、奇襲とは味な真似ね。 でも行かせないわよ?」

 

「あんたは妖精の一族だろう。 モラクスに蹂躙されて、なのに従ったのか」

 

「あら、貴方たちももう知っているでしょう? 強い相手に従うのが悪魔のルールよ」

 

「……そうか。 それは不運なことだな」

 

ケンシロウが構えを取る。

 

女の姿をしていても、容赦はしないということか。

 

だが、そのケンシロウが即座に跳び離れ。嫌な予感がした唯野仁成も横っ飛びに跳ぶ。

 

直径数メートルはある巨大な氷の柱が、瞬時に出来ていた。

 

避けなければ、串刺しどころか一瞬で木っ端みじんだっただろう。

 

魔法か。

 

それも、今まで見てきた奴が使ってきたのとは、桁外れの火力だ。

 

何やらぶつぶつ呟いているローレライ。魔法の中には、時間を掛けて詠唱というのをして、火力を上げるものがあると聞く。それだろう。

 

至近を氷の柱が掠めたヒメネスが、腰だめしてアサルトの弾丸を叩き込む。

 

無数の弾丸が、ゆらゆらと揺れて回避行動を取るローレライに全て着弾。いわゆる偏差射撃である。ヒメネスの卓越した技が冴え渡っている。

 

同時に、斜め後ろに回り込みながら、唯野仁成もグレネードを放り込むが。

 

しかし残念ながら、見た感じ効いている様子が無い。

 

爆発の中から、殆ど無傷のまま現れたローレライが、さっきのをもう一発ぶっ放してくる。

 

何とか横っ飛びに逃れるが、デモニカが警告を発してくる。

 

「ダメージ甚大! すぐに撤退を!」

 

「あらあら、そんな玩具じゃ通じないわよ」

 

「クソッタレっ! あのガタイで装甲車並みの堅さか!」

 

ヒメネスが横に走りながらアサルトの弾丸を浴びせかけるが、頭だろうが背中だろうが、当たっても効いている様子が無い。

 

こんな強豪悪魔がモラクスに従っていると言う事は、此奴よりモラクスの方が強いと言う事だ。

 

どうする。

 

デモニカのアラートを止めると、見えた。勝機だ。

 

「ヒメネス、あわせろ!」

 

「! おうっ!」

 

対物ライフルに切り替える。

 

ローレライが何だと目を細めるが、もう遅い。

 

上空から鷹のように躍りかかったケンシロウが、ローレライの竪琴の糸を切り裂いていた。近くの建物の壁を蹴って、上空に躍り上がるのが見えたのだ。無駄なことをする人では無いし、勝利に必要な行動なのは分かっていた。

 

「ああっ!」

 

今までの余裕が消し飛び、心の底から悲しげな声を上げるローレライ。

 

同時に、前後から対物ライフルでヘッドショットを叩き込む。

 

恐らく、あの竪琴がローレライに弾や爆風が届くのを防いでいたのだろう。更には魔法の力を何倍にも増幅していたのだ。状況証拠から、それは明らかだった。

 

地面に落ちたローレライは、顔から血を流しながら、それでも生きていた。対物ライフルの弾丸が顔と後頭部に直撃したというのに、である。

 

この辺りは、他の雑魚とは格が違うという事なのだろう。

 

「うう……竪琴が……私の竪琴が……」

 

「うるせえ! 今とどめを刺してやる、この腐れビッチが!」

 

「待て」

 

銃を向けるヒメネスを制止しケンシロウが前に出ると。

 

ぶきっちょに悪魔召喚プログラムを操作する。

 

ローレライは観念したのか、ケンシロウの悪魔召喚プログラムの質問に答え。そして降伏することを決めたようだ。ケンシロウのデモニカスーツのPCに吸い込まれる。

 

呼吸を整えながら、唯野仁成は回復の魔法が使える悪魔を呼び出す。身体能力を活性化させ、傷を回復する、文字通りの魔法だ。

 

ピクシー他何体かの悪魔が使えるが。

 

回復を終えた頃には、皆ガス欠になっていた。

 

悪魔もガス欠になるのだ。

 

魔法を無尽蔵にぶっ放せるというわけではないらしい。

 

また、体を傷つけられても、死なない限りはしばらくすれば復活するという。

 

ローレライの竪琴も、恐らく治るのだろう。

 

更にポリマーを吹き付けて、デモニカを応急処置。ヒメネスは、ケンシロウに皮肉を言っていた。

 

「女相手にお優しいことだな。 それとも強さからくる余裕か?」

 

「……戦力になるからそうしただけだ」

 

「ヒメネス、確かにケンシロウさんの言う通りだ。 動けるか」

 

「ああ。 お前の方は」

 

苦笑するしかない。何とか動けるが、後で医療班の世話にならないといけないだろう。

 

ただ、あんなのが控えていたと言う事は、モラクスはもう間近にいると判断して良いだろう。

 

後方では、殆ど一方的な戦いになっているようだ。

 

指揮官があらかたやられてしまっている状態で。中途半端に訓練を受けた兵士が、突撃だけを命じられ。

 

強いものには従う悪魔のルールに沿って動いているのだ。

 

それは、最悪の結果になる。

 

クロスファイヤーポイントに引きずり込まれた敵の主力は、ほとんど一方的な鏖殺を受けていて。

 

ストーム1も、残った敵を殆ど単身で引き受けて、暴れまくっている。

 

ただ、それでも、モラクスを討ち取るのが遅れれば、被害が出る可能性は決して小さくない。

 

急ぐ必要があった。

 

 

 

フランスの凱旋門のような。その醜悪なパロディのような。

 

そんなものの下に。

 

背丈が軽く十メートルを超える、巨大な牛頭の悪魔が座り込んでいた。

 

不機嫌そうに、此方を見ている。

 

間違いない。

 

此奴がモラクスだ。

 

デモニカにデータが出ている。分類、魔王。種族、モラクスと。

 

モラクスは手に杖だか槍だかよく分からないものを持っているが。

 

いずれにしても、あの巨体から繰り出す攻撃はどう考えても異常な火力を出すだろうし。

 

更に魔法も桁外れと考えて間違いないだろう。

 

生唾を飲み込む様子のヒメネス。

 

意外にも、唯野仁成は落ち着いていた。

 

「強力な悪魔の存在を検知。 注意してください」

 

デモニカが警告してくる。

 

言われなくても、そんな事は分かっている。ヒメネスも唯野仁成も、悪魔を展開する。ケンシロウは、さっき従えたローレライは出さなかった。ただ、代わりに鎧姿の騎士のような悪魔を従えている。騎士が乗っている馬は、とても普通のものには思えなかったが。

 

「我が軍勢を突破して来よったか……。 地上侵攻のために鍛えた戦力であったのだがな」

 

「貴方がモラクスか」

 

問いかけるのは唯野仁成。

 

ヒメネスなら皮肉か罵声を浴びせるだろうし。ケンシロウは口べたなのを知っているからである。

 

「いかにも。 我こそがこの焼け焦げた地を統べる魔王モラクスである。 貴様らは」

 

名乗り返すと、モラクスは鼻で笑う。

 

そして、言うのだった。

 

「みよこの光景を。 お前達の浅ましい世界の似姿だ」

 

「……」

 

「これよりわしは人間を滅ぼすために地上に攻め入る。 そのためには、人間を如何に効率よく殺すにはどうすれば良いか調べたのだ。 その結果、人間を一番殺しているのは人間だと言う事がわかってな。 人間のやり方を真似したのよ」

 

くつくつと笑うモラクス。

 

だが、それだけで爆風が来るような威圧感があった。

 

だが、唯野仁成は動じない。

 

むしろ、この巨体を誇る悪魔を、哀れにすら感じたからだ。

 

「その目的のためだけに、元から住んでいた妖精達を追い立てた挙げ句、こんな演習場を作ったのか」

 

「そうだ。 力あるものが統べるのが魔界の理屈だ。 故に我が自分の領土で何をしようと我の勝手よ」

 

「哀れだな」

 

「何だと……」

 

心の底からの軽蔑に気付いたのだろう。

 

モラクスは、声に露骨な怒りを含め立ち上がっていた。

 

隣でヒメネスが大丈夫かよと顔に書いている。

 

ヒメネスも、炸裂するような威圧感は覚えているのだろう。だが、もう唯野仁成はこのモラクスを見きった。

 

此奴は張り子の虎に過ぎない。

 

「そうまでして作って育てた部隊の醜態を見ろ。 人間に殆ど打撃も与えられず、あの有様だ。 すぐに貴方の軍勢を壊滅させた男がここに来るぞ」

 

「部下などまた幾らでも集めればいい」

 

「その分他の魔王に遅れを取るのではないのかな」

 

「おのれ……余計な事を喋った部下がいるようだな……っ!」

 

モラクスが手にしている何だかよく分からないものに、炎が宿る。

 

いずれにしても魔法の媒体であるらしい。

 

更に唯野仁成は挑発を続ける。

 

「何故貴方が育てた部隊が何の役にも立たなかったか教えてやる」

 

「……」

 

「それは中途半端だからだ。 何もかもが生兵法。 地上ではこういう言葉があってな、生兵法は怪我の元、という。 貴方は部下達に余計な事をしたせいで、却って強みを殺してしまったのさ」

 

「お、おのれええええっ!」

 

完全に激高したモラクスが、殺気をまき散らしながら戦闘態勢に入る。

 

目は真っ赤に燃え上がり、口からは牛がそうするようによだれがだらだらと垂れ流されていた。

 

猛り狂っている良い証拠だ。

 

そして。

 

そのモラクスが。

 

その巨体が。

 

縮んだ。

 

モラクス自身が、何が起きたのか、分からない様子である。その膝から下が、斜めに切り裂かれ。

 

体が滑り落ちていくことに気付いたモラクスは、体勢を崩しながら絶叫していた。

 

「き、貴様っ! 何を……っ!」

 

「指揮官の所に兵が来ていると言う時点で、貴方は近代戦術を理解出来ていない。 我々が現れた時点で逃げるべきだったんだよ。 悪魔の誇りを中途半端に持ちながら、人間の戦闘技術を中途半端につまみ食いしようとした。 それが貴方の敗因だ」

 

「ガアアアアッ!」

 

地面に、轟音と共に倒れつつも。

 

杖から、先のローレライを超える凄まじい勢いで、炎をぶっ放してくる。

 

だが、杖の角度などから、何か放ってくるのは分かりきっていたし。今度は回避も難しく無い。

 

ヒメネスと頷きあう。

 

そして、真田さんに渡されていた特殊弾を装填すると、対物ライフルからモラクスに連射した。

 

勿論モラクスが、銃弾なんか避けるわけがない。

 

人間を舐めきっているからだ。

 

今、足を真っ二つにされて倒れているが。それでもなお、上位悪魔と言う存在故に、人間を舐め腐って対応するしかない。

 

悪魔の性質は、唯野仁成も勉強した。

 

混沌勢力の悪魔は本来、自分こそ全ての正義であり。

 

自分の考えは常に正しいと考える存在だ。

 

だがこのモラクスは、半端に人間の知識を取り込んだ事で、其所が弱点になっているのである。

 

連続で、移動しながら特殊弾を叩き込む。

 

モラクスは弾は無視して、必死に足を斬った相手。勿論ケンシロウさんだが。探しているが。

 

ケンシロウさんは気配を完全に遮断して、モラクスの周囲からは姿を消していた。

 

唯野仁成とヒメネスの展開した悪魔達が、ありったけの魔法をモラクスに浴びせるが、それも効いている様子が無い。ケンシロウさんの手下である騎士っぽい悪魔(堕天使ベレスとある)がランスチャージを仕掛けるが、それでもあまり効いている感じがしない。

 

屈辱に牛の顔を歪めながら、モラクスは絶叫。

 

吠えるだけでまるで爆発のようだった。

 

「こんな雑魚共はいい! わしの足を斬った奴、どこだああっ!」

 

「そういう思考が貴方を更に負けに追いやる」

 

「なんだとぉっ! 笑わせるな! 貴様らの攻撃など、蚊ほどにも……」

 

大量の血を、口から吐き出すモラクス。

 

やはり、効いたな。

 

銃を上げる。

 

まだ射撃をしているヒメネスや、配下の悪魔達に攻撃をやめさせる。敗残兵との戦闘が控えているかも知れないからだ。

 

「な、何……」

 

「やはり効くな。 この土地で採取した、汚染物質を極限まで圧縮した特殊弾だ」

 

「ど、毒だと……っ!」

 

「それもどんな生物でも確実に殺せる代物だ。 そして鉛玉も毒も、悪魔には効くことが既に分かっている」

 

銃口を下げる。

 

それで、モラクスは悟ったらしい。

 

自分が完全に負けた事を。

 

また吠えようとするが、大量の鮮血を口からぶちまけるばかりだった。

 

唯野仁成は、この図体ばかり大きな悪魔に、哀れみすら感じ始めていた。

 

悪魔の世界のルールに従っていればいいものを。

 

中途半端に余計な事を知ったせいで。

 

配下をむしろ弱くしてしまい。

 

最大の危険人物であるケンシロウから目を離し。

 

挙げ句その状態で人間をなおも侮っていたから、そもそも戦闘にすら持ち込んで貰えなかったのだ。

 

「お、おの、れ……!」

 

「言い残すことは無いかモラクス」

 

「ふっ……ふふっ……こ、ここまでの屈辱は初めてだ……!」

 

「そうか」

 

ケンシロウが姿を見せる。

 

デモニカで何か通信をしているが。

 

唯野仁成の方には聞こえない。

 

恐らく、情報を引き出せとか、そういう事を言われているのだろう。

 

ヒメネスは予定通り、照明弾を打ち上げる。

 

モラクスを倒したら、打ち上げろと言われていたものである。

 

唯野仁成は、このままモラクスのヘイトを引き受ける。

 

そういう役割を。

 

受ける事を、既に決めていた。

 

「わしが人間の世界を調べたのは本当だ。 そもそも、お前達がシュバルツバースと呼ぶこの地は、地球の怒りより産まれたのだ。 その理由の一つが、飽くなき戦乱で大地を焼き焦がし、何ら進歩しないお前達の愚行にあると知れ……!」

 

「興味深い話だ。 それで?」

 

「……ミトラスの所でも人間が暴れていると聞くが、どうせどのようにしたところで貴様らは終わりだ! 競い合う他の世界の覇者が、必ずや人間を滅ぼし尽くす! それにわしは一度滅びたくらいでは諦めぬ! 必ずや報復を……」

 

「そろそろ黙れ牛野郎」

 

ケンシロウが無言で、腹の辺りに拳を叩き込んだ。

 

不思議そうな顔をしたモラクスだが。

 

直後、全身がぶくぶくと膨れあがり始める。

 

「な、ななななっ! わ、わしの、わしの体が……っ!」

 

「……真田さんの言う通りだ。 人間の肉体構造とよく似ているから、経絡秘孔も同じだな。 お前は五秒後に死ぬ」

 

「お、お、覚えておれえええええっ! あ、あば、ぶべばっ!」

 

ケンシロウが跳び離れるのを見て、唯野仁成は顔を庇っていた。

 

ヒメネスも同じように、歴戦の勘から跳び離れていた。

 

モラクスが、爆発四散したのは直後の事。

 

膨大な肉塊が周囲に飛び散り、鮮血が雨となって降り注ぐが。

 

やがて、モラクスの亡骸もろとも。

 

他の悪魔が死んだ時のように。

 

蒸発し、消えていった。

 

そして、モラクスが尊大に座っていた場所には。

 

二つドーナツを重ねたような、不可思議な物質が残っていたのだった。

 

他の上位悪魔が死んだ時のように。

 

ため息をつく。

 

ヒメネスが、笑顔で肩を叩いてきた。

 

「やったなヒトナリ。 見事な話術だったぜ。 相手の泣き所を上手について、完璧に気を引いた。 おまけに情報まで引き出した。 大したもんだぜ」

 

「ああ。 だが、モラクスが言う通り、地上がこんな状況でも各地で紛争を起こしているのは事実だ。 それで弱者が踏みにじられていることもな」

 

「何だ、お前も各地を渡り歩いた兵隊だろう。 センチな事言いやがって」

 

「そう、かもな」

 

程なくして、ストーム1が来る。

 

敵の残存戦力は、モラクスの死を察知して逃走開始。

 

後は背後を撃ち。降伏を呼びかけるだけで良かった。

 

降伏した悪魔は、今ゴア隊長麾下の機動班が。一箇所にまとめて、ライドウ氏と共に配下にするべく話をしているはず。

 

鉛玉は再生産できるが。無限では無いのだ。

 

そういう状態になったから、ストーム1が来たのだろう。

 

「やったな。 後から通話の内容と戦闘の内容を見た。 ほぼ予定通りに行ったようだな」

 

「ああ」

 

ケンシロウは、そのまま戻って行ってしまう。

 

ヒメネスはどうにもその素っ頓狂な行動が理解しづらいらしく、困ったように背中を見ていた。

 

何でもかんでも言いたい放題の上、弱者には何の興味も見せないヒメネスだが。

 

ケンシロウという圧倒的戦闘能力と、全く言動が掴めない相手は苦手の様子で。

 

困り果てたように、頭を掻いている。

 

唯野仁成が気を引いている間に、何だかよく分からない北斗神拳だかなんだかで、モラクスの両足を一瞬で斬ったり爆殺したのは間違いなくケンシロウである。

 

その前には、現時点での唯野仁成とヒメネスではどうしようもなかったローレライを、一瞬で無力化し。数言会話するだけで従える事にも成功している。

 

だが、強いのに。ヒメネスとは全く違うタイプだ。

 

まだ同じく傭兵として硝煙の臭いが満ちる各地を歩き回っているストーム1や、戦神として荒々しく振る舞うサクナヒメの方が分かりやすいのかも知れない。

 

「今、調査班が来る。 その知恵の輪みたいなものがモラクスの残骸だな」

 

「はい。 敵の様子は」

 

「既に抵抗するものはいない。 味方はほぼ一方的な戦いだったが、それでも軽傷者が相当に出た。 すぐに再度の戦闘は出来ないだろう。 鉛玉もかなり使ってしまったしな」

 

完勝だが。

 

物資を使い切ってしまったという意味では、今の状況は危険と言うのも事実だ。

 

ストーム1は殆ど負傷していない。

 

デモニカの補助ありとはいえ。

 

あれだけの大軍の半数を相手していたのだ。まさに超人である。

 

一個師団を一人で蹴散らしたという話を聞いたことがあるのだが。恐らくそれは実話なのだろう。

 

まもなく調査班が来る。

 

真田さんは出てこなかったが。代わりにゼレーニンという女性学者が、何名かの科学者と共に来た。先と同じだ。ただ、今度はゼレーニンと直接顔を合わせることになったが。

 

敬礼をする。

 

生真面目な雰囲気だ。

 

ヒメネスが露骨に嫌そうな顔をする。どうも、ゼレーニンとは気があわないようである。

 

そしてヒメネスは、嫌いな相手に自分の感情を隠すと言う事を一切しない。

 

嫌いと言うことは、一定の能力を認めてはいるのだろう。

 

ヒメネスは、興味の無い相手には、そもそも感情すら向けないのだから。

 

「唯野仁成隊員、ヒメネス隊員、それにストーム1、お疲れ様でした。 あれ、ケンシロウさんは……?」

 

「ケンシロウの旦那なら無言で戻ったぜ。 何かやり残しがあるのか、それとも昼寝でもするのかもな」

 

「そ、そうですか。 行動のグリーンライトを与えられている方です。 意味があると信じます。 それが、モラクスの残骸ですか」

 

「ああ。 ヒトナリとケンシロウの旦那が動きを止めたところに、例の圧縮超劇物弾を叩き込んで仕留めた」

 

硝子容器に、慎重に回収するゼレーニン。

 

敬礼をもう一度すると、言う。

 

「大変な戦いでしたね。 すぐに戻って、診察と、場合によっては治療を受けてください」

 

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

「……」

 

少し悲しそうに眉をひそめるゼレーニン。

 

恐らくだが、ヒメネスに拒絶されていることを悟ったのだろう。

 

ゼレーニンは男性なら大半が振り向くほどの美貌の持ち主だ。しかも真田さんの直下にいると言う事は、相当に頭もきれるのだろう。

 

文字通りの才色兼備という奴で。言動からも、育ちの良さがにじみ出ている。

 

ヒメネスは前に悪魔にさらわれたメイビーを救出したときもそうだったが、兎に角他人に対して恐ろしくドライだ。性別も殆ど関係無いようにも思える。

 

周囲の掃討を、後から到着した部隊に任せ。

 

ヒメネスと一緒に、唯野仁成は焼け焦げた街を行く。

 

死体は落ちていないが。

 

調査班が、悪魔の死体があった場所を調査して。マッカとやらや。他にも物資を回収しているようだ。

 

悪魔の死体には、色々と結晶化した物資が出来るという事で。

 

それなりに高位の悪魔を倒すと、情報集積体を落としたり。場合によっては貴重な物質も落とす様子だ。

 

調査班からして見れば、宝の山、と言う所だろう。

 

野戦陣地により、勝利をゴア隊長に直に報告する。

 

苛烈な迎撃戦の指揮を執ったゴア隊長は、敬礼を返してくれた。

 

「見事な戦闘だった」

 

「いえ、いずれ自力だけであのレベルの悪魔を倒せるようになりたいと思っています」

 

「そうか。 頼もしく思うぞ」

 

休むようにと言われたので、休ませて貰う。帰り道、他の隊員にも敬礼された。何でもモラクスの軍勢は、猛烈な十字砲火を無理矢理喰い破る寸前だったそうで。もう少しモラクスを落とすのが遅れれば、死者が多数出ていたことは確実だったという。

 

ジープもわざわざ出してくれた。

 

有り難く乗せて貰うが。その前にライドウさんに話をされる。

 

「後で、機動班をまとめて悪魔召喚プログラムの機能について説明をする」

 

「まだ何かあるんですか?」

 

「ああ。 悪魔召喚プログラムと言うだけで衝撃が大きかっただろう。 だから段階を踏んで、皆に説明をしていく予定でな」

 

「それは面白そうだ。 楽しみにしていますぜ」

 

ヒメネスは心底楽しそうだが。

 

周囲の隊員は、今の話を聞いて不安そうにしていた。

 

ヒメネスは心臓に毛が生えているな。

 

そう、唯野仁成は思った。

 

だが、そうでなければ、此処で生きていく事なんて出来はしない。それで良いのだとも思っていた。

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