多くの負傷者を出したものの、また死者無く困難な闘いを乗り切る事が出来た。
調査班を護衛する一部を「焼け焦げた街」に残して、機動班は一時撤収。殆ど皆鉛玉を使い切っていたので、護衛に悪魔を出すしか無く。皆、多数の悪魔に囲まれている状態に、冷や汗を掻いているようだった。
だが、ゴア隊長が傲然と胸を反らし、不動の体勢でいることが彼らを落ち着かせ。
悪魔達がつけいる隙を作らなかった。
ゴア隊長も、状況が分かっているから。そういう行動を取っているという訳だ。
大したものである。
そのまま、唯野仁成は一度方舟に戻り。
指定の通り、一日休みを貰って眠りに眠った。
ローレライとの戦闘で受けたダメージが予想以上に大きく、デモニカを修復する必要があると言われたのだ。
皮肉な話である。
モラクスと真正面からやりあっていたら、それどころではなかっただろう。
起きだしてからは、すぐに直ったデモニカを着込む。
ライドウさんに招集を受けたからだ。他の機動班メンバー中核と共に、方舟の外で講習を受ける。
ライドウさんが、混乱を避けるために悪魔召喚プログラムの機能を順番に説明すると言っていたが。
その理由は、聞いてみてすぐに分かった。
「悪魔合体!?」
皆を代表するようにして、ヒメネスが言う。
困惑しきった皆の前で、ライドウさんは咳払いした。
「悪魔が精神生命体であり、情報生命体である話はしたはずだ。 情報生命体である悪魔を一旦全て情報に戻せばどうなるか。 今皆がPCに格納している悪魔達が、その状態だな」
やはり皆の困惑は抜けない。
ライドウさんは淡々と続けていく。
「そういった悪魔達を、情報的に掛け合わせて別の悪魔にするのが悪魔合体だ。 ただし、幾つか条件がある。 まず第一に、悪魔達のそれぞれの同意がある事」
「ま、待ってくれ。 それって要するに二体の悪魔を使って、一体の悪魔にしてしまうということなんだろう。 悪魔にとって同意できることなのか!?」
「悪魔にとっては、より強き存在になる事は望みですらある。 故に悪魔合体を拒否する変わり種はごくごく希だ。 ……例えばサクナヒメは、悪魔合体には絶対に応じないだろうが、それは例外と判断して良い」
「そ、そうか……」
この会話は、全クルーが聞いている。
確かに悪魔召喚プログラムの機能説明時、これを話すわけにはいかなかっただろう。
悪魔を従える、というだけで。一神教の信者達は大反発を見せたのである。
もしもこの話までしていたら、絶対に使わないと言い切ったものは更に増えていた筈である。
だが、今は。
悪魔の軍勢との戦闘まで行われ。
急ピッチでプラントを動かして弾薬や消費物資を補給しているとは言え。
皆が悪魔の圧倒的脅威を認識した後だ。今だからこそ、こうやって牙になりうるものについて、ライドウさんは説明してくれている、ということだ。
恐らく真田さんや正太郎長官などの指揮官級は皆知っていただろう。
ゴア隊長も話を聞いている中に混じっているが。
知っていた可能性はある。知っていなかったとしても、ゴア隊長は落ち着き払っていて。それで兵士達の混乱は最小限に抑えられていたが。
「第二の条件は、合体の結果作られる悪魔が、自分よりも弱い事だ。 これについては、悪魔合体のプログラムが自動で判断をしてくれる」
「悪魔は自分より弱い奴には従わないって奴だな」
「ああ、そうなる」
ライドウさんの話によると。
昔は悪魔合体というのは、巨大な装置を使って膨大な電流などを流し、リスク覚悟でやったものだそうである。
だが精神生命体であり、情報生命体である悪魔だ。PCにしまっておくことも出来る。
故に装置はどんどん小型化していき。
今では、スティーブンが配る悪魔召喚プログラムには、悪魔合体機能が基本としてついているそうである。
「第三の条件だが、相性が必要になる。 相性が悪い悪魔同士は合体できないし、逆に神話的に相性が良い悪魔の場合、弱い悪魔を一気に強豪に変える事も可能だ。 ただし、もちろんのことだが自分がそれ以上に強くならなければならないが」
「ライドウさんよ。 早速試してみたいんだがいいか。 悪魔召喚以上に怪しい響きで、ぞくぞくしてならねえや」
「……ヒメネス隊員。 では、手ほどきするからやってみてくれ」
「おうよ!」
ヒメネスが最初にやりだす。他の皆が見守っている中、ヒメネスが従えた悪魔が二体。PCの中で要素を合成し始めたようだった。
時間は殆ど掛からない。
ただ、凄まじい電力を消耗している様子で。一気にデモニカのバッテリーが食われているのが分かった。
「見ての通り、デモニカの強力なバッテリーでも、悪魔合体は相当にエネルギーを食うものだ。 戦闘中に実施するのは避けて、出来るだけ船内にいるときなどに実施をしてほしい」
「おおっ! 出来たぜ!」
ヒメネスが嬉々として召喚する。
召喚されたのは、上半身が逞しい男性で。下半身が蛇という、大柄な悪魔だった。今のヒメネスより力が劣るから、召喚できたと言う事なのだろう。人間部分だけでも、大柄な男性より一回り大きいほどだが。デモニカによる強化促進がそれだけ早いという事だ。
「ええと何々、龍王ナーガ?」
「龍王というのは、皆が知るドラゴンの一族の内、比較的性質が穏当なものの事をいうと思って良い。 他にも支配者階級の龍族である「龍神」や、貶められて邪悪に墜ち果てた「邪龍」等が存在している。 ナーガはインド神話に登場する半人半龍の種族で、多くの個体が様々な神話のエピソードにて活躍しているな。 ナーガラージャ(ラージャとは王の意味)という上位種族も存在している」
ライドウさんの説明は淡々としているが。
顔を見合わせている皆が、これ以上はついていけないと判断しているのは確かだった。
ゴア隊長が皆を見回す。
「今の情報は、アーカイブにまとめておくので、皆も目を通しておくように。 だが、強い悪魔の戦闘力は皆戦って実感したはずだ。 ものによっては対物ライフルにもびくともせず、中には装甲車の速射砲に耐え抜いたものもいた。 あれらを従えられれば、このシュバルツバースの探索もより安全になる。 勿論悪魔そのものが危険な存在だが、丸裸で歩くも同然の状態よりは遙かにマシだろう」
解散、と指示すると。
皆、一度頭を整理するためか、そそくさと方舟に戻っていく。
嬉々として悪魔合体を試しているヒメネスは明らかに浮いていた。
「ヒメネス、船内で電力を補給しながらやろう」
「ああ、分かってる。 ……なるほど、一度配下にした悪魔は、エネルギー源であるマッカさえつぎ込めば情報の再構築によって何度でも呼び出せるんだな。 情報生命体ってのはある意味便利だな」
「あのモラクスも、また戻ってくる可能性がありそうだ」
「その時にはブッ倒してやるよ」
ナーガを従えたことで、ヒメネスは自信をつけたらしい。
確かに唯野仁成も、自分の力が上がってきていることは実感が出来ている。
だが、少し不安なのだ。
強くなることには、当然の事ながら代償が伴う。
実際、この船に乗っているスペシャル達は。
どこか平均的な人間と、皆がずれてしまっている。
それは、認めざるを得ない所だろう。
自室(数人での相部屋だが)に戻ると、情報を見る。
まずプラントにより、短時間で弾薬の補給やデモニカの修復用物資が揃ったようだった。廃棄物なども、モラクスを倒すのに使った弾丸などに再利用する。基本的に、アントリアに有害な物質は残さないという方針で行動を進めるそうである。
それと、戦闘で携行火器の火力不足が指摘されたこともあり。
此処で採掘されたり、或いは悪魔から得られた素材によって全体的に強化を行うという話だった。
機動班から順番に新しい装備を配布するという。
一週間ほど、アントリアの完全制圧に費やし。その間にこの作業を済ませてしまうのだそうだ。
スケジュールを確認した後、唯野仁成はデモニカを電源に繋ぎ、自身も悪魔合体を試してみようと思ったが。
その直前に声を掛けられる。
メイビーである。
医療班にいるはずだが。何用だろうか。
「唯野仁成さんですね。 以前は救出、有難うございました」
「いや、戦場で助け合うのは当然の事だ。 何か用だろうか」
「私、機動班への転属を願って受理されました。 さっき、悪魔も貰ってきました」
何。
そうか、そういう事もあるかも知れない。
メイビーは最初アントリアに方舟が不時着したとき、悪魔に誘拐された一人だ。その時ヒメネスに、痛烈に覚悟のなさを指摘されていた。
それから、思うところがあったのだろう。
「機動班ですが、医療も出来ます。 戦場では役に立てると思います」
「頼もしい。 それで俺に用とは何だ」
「情けない話なんですけれど、悪魔合体プログラムを使おうと思っても……怖くて出来なくて。 立ち会って貰いたいんです」
周囲の機動班クルーが、その話を聞いて来る。
恐らくは、メイビーと同じなのだろう。
無理もない。
悪魔と話し、従える。それだけでも既にパニック状態のものは多いはずだ。更に悪魔合体などとなると。その困惑は大きいだろう。
唯野仁成は、頷いていた。
「分かった、俺もこれから試そうと思っていた所だ。 皆でやろう」
「ありがとうございます!」
「助かる。 ヒメネスほど神経が俺たちは太くないんだ……」
「今、活躍しているあんたなら信頼出来る」
皆不安だったのだ。
それは、ライドウさんが説明しているときには、既に感じていた。
早速、悪魔合体を始める。
アントリアを出る前に。
この強力な悪魔を従えるために必須と思われる技術は。ものにしておきたかった。
(続)
魔王モラクスは倒れました。
しかしモラクスだけが地上を狙っている訳ではないと発覚する事実。
更に不穏な影もちらつき始めます。