Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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アントリアを抜け、ボーディーズに侵入を果たす方舟。

しかしそこには、本来の支配者だけではなく、第三勢力の姿がありました。


赤黒の暴風
序、何者か


魔王ミトラス配下の悪魔、堕天使ビフロンズは、恐怖にすくみ上がっていた。

 

ビフロンズは人間型だが。タキシードを着込み、燭台を手に持った、頭が頭蓋骨になっているような姿の堕天使である。ミトラス麾下で、「快楽にふける国」の指揮官の一人を務めていたのだが。

 

いきなり単身で現れた人間相手に、配下の殆どを喪失した。一方的に虐殺されたのだ。

 

ビフロンズは今、ミトラスの宮殿に向け、必死に走っている。

 

冗談じゃあない。

 

何だアレは。

 

ビフロンズは人間について知っている。ミトラスや、他にもこの重なりあった世界の支配者が調べているからだ。情報は下賜され、ビフロンズも把握している。

 

この「快楽にふける国」では、ミトラスが人間の研究を特に熱心に進めており。「腐り果てた国」の支配者ともその関係で技術提携までしている。

 

そんな中、人間が不意に現れた。

 

隣の「焼け焦げた国」にも人間が現れ、交戦状態に入っているという話で。

 

ミトラスはサンプルを欲しがっていたのだが。

 

どうも戦況が芳しくないらしく。最近ついに連絡が途絶した。

 

その矢先にこれである。

 

ただ、焼け焦げた国に現れた人間は鉄船に乗っていたと聞いている。そもどうして一人だけで人間がここに来られたのかが分からないのだ。

 

気付く。

 

音も無く、前に回り込まれていた。

 

それは女だ。

 

人間の女。黒い髪は腰まであり。赤と黒から構成された服を着ている。手には光り輝く剣を持ち。

 

そしてとんでもない殺気を放っていた。

 

目が恐ろしすぎる。殺意だけに満ちた目だ。

 

腰を抜かしたビフロンズは、恐怖に笑い始めていた。

 

さっき部下達が、殆ど一瞬で細切れにされるのを、ビフロンズは見た。

 

たまにとんでもなく強い人間がいるという噂は聞いてはいたのだが。

 

それにしても此奴は次元が違っている。

 

歩き来る其奴は、光の剣を、もはや震える事しか出来ないビフロンズの鼻先に突きつけていた。

 

「全て話せば楽に殺してあげる」

 

「ま、待てっ! 私は下級とは言え堕天使だ! 配下になる! そうすれば、きっと力になれる!」

 

「お前のような下級など合体材料にもならないわ。 良いから知っている事だけさっさと話しなさい。 それとも復活できないように完全にデリートしてあげましょうか?」

 

「そ、それだけは勘弁してくれっ! 話す! 話すよ!」

 

もう忠誠も何も無い。

 

ミトラスは配下のビフロンズから見てもいかれた奴だが。此奴に比べればずっとまともに思えてくるほどである。

 

此奴は放っている殺気と感じる力が桁外れ過ぎる。

 

魔王や邪神と呼ばれる最高位悪魔達が放つものよりも、更に強大だ。

 

地獄の深奥にも、こんなに強い奴はそうそういないはず。

 

此奴であれば恐らく、大半の魔王は力尽くで従えてみせるだろう。

 

「唯野仁成、ヒメネス、ゼレーニン」

 

「え……」

 

「これらの名前に聞き覚えは。 私以外に誰か人間は来ていない?」

 

「い、いや、知らない……。 人間はミトラス様が欲しがっているが、サンプルが無くて、それでかり出されて」

 

不意に、第三者の声が割り込む。

 

女の手の辺りから聞こえてきている。人間が使う文明によるものだろうか。

 

「アレックス。 その悪魔、堕天使ビフロンズの声を分析したが、嘘はついていない」

 

「そう、ジョージ。 この世界線ではレッドスプライトは恐らくアントリアかカリーナに不時着したのでしょうね。 そうなると此処ボーティーズで待ち伏せるのが得策のようね」

 

「な、何の話だ! ボーティーズ!? 此処はそんな名前じゃ……」

 

「もう一つ質問よ。 人間が何処かに攻めてきたという話は聞いていないかしら」

 

こくこくと、ビフロンズは頷く。

 

それなら聞いている。だから、話す。少しでも時間を稼げば、援軍が来てくれるかも知れない。逃げる隙が出来るかも知れないから。

 

「そ、それなら知ってる! 隣の焼け焦げた国に、人間の巨大な船が来て、恐らくはもう支配者のモラクス様がやられた! 交易に来る悪魔がいなくなったから! 間違いないと思う!」

 

「ビンゴだアレックス。 どうやらレッドスプライトはアントリアにいるようだな」

 

「……そうなると、私の知る三つの世界線とは違って、ボーティーズやカリーナには不時着した次世代揚陸艦は出なかったのかしら? 私を人間と知って確保に妙な執念を見せてきたけれど、この時点でミトラスは潤沢な実験材料を得ていたはずよ。 本来なら私にこだわる必要がない筈なのだけれど……」

 

「もう一つ疑念がある。 レッドスプライトクルーのアントリア攻略が早すぎる。 此方で持っている情報では、不時着の時点で致命的な打撃を受けたレッドスプライトのクルーは混乱し、指揮系統を再編するのにも……」

 

分からない話をし始める人間とからくり。

 

そろり、そろりと下がる。

 

更に好機。焼け焦げた国に貸し出した、腐り果てた国との共同研究産物。完全気配遮断悪魔が、女の後方に回り込んだ。援軍が来たのだ。

 

今しか、逃げる機は無い。

 

だが、次の瞬間。

 

アレックスと呼ばれた女は、光の剣を振るい。一瞬にして、完全気配遮断悪魔、改造された夜魔フォーモリアは三枚おろしにされていた。女は振り返りさえしていない。

 

終わりだ。力が違いすぎる。

 

完全に死を覚悟したビフロンズに、ゆっくり歩み寄ってくるアレックス。

 

動きに無駄が全く無く。完全に殺す事だけを考えて動いている事が、一目で分かった。

 

「最後に念のため聞いておくわ。 此処に鉄船は落ちていないのね」

 

「あ、ああ! だからミトラス様は人間を欲しがって、それで……」

 

「そう。 じゃあ用済みよ。 此処にゼレーニンがいたのなら、ミトラスの宮殿に殺しに乗り込んだのだけれどね」

 

次の瞬間。ビフロンズは殺された事を悟った。後には虚無だけがあった。

 

 

 

真田は腕組みして話を聞いている。

 

悪魔に聴取をしていたのだが。どうやら、この先にある別空間。悪魔は「快楽にふける国」だとか呼んでいるようだが。そこで人間が大暴れしているというのだ。同じ話は、モラクスとの戦闘時にも記録されている。間違いないだろう。

 

シュバルツバースに突入した方舟こと次世代揚陸艦は一隻。更に、国際再建機構にも米軍にも、此処に突入できるような次世代揚陸艦はない。この方舟レインボウノアの原型艦四隻は殆どがこの船の材料になり。悪用を懸念し設計図すら消されたはずだ。

 

だとすると、ライドウさんのような規格外が直接乗り込んだのか。

 

はっきりしているのは、悪魔達は連携している、と言う事だ。

 

交易をしているという時点で嫌な予感はしていたが。

 

人間の国家のような動きをしている。

 

更に、あの気配を消した悪魔、夜魔フォーモリアについても。「快楽にふける国」より提供された戦力だと言う事がわかった。

 

それも悪魔を改造して、それで作り出したものらしい。

 

残念ながら、どう改造したのか詳細は分からなかったが。いずれにしても、今後は複数の悪魔の国家を相手にしながら進まなければならない事態を想定する必要があるだろう。

 

「な、話したよ、全部話したよ! だから助けておくれ!」

 

「唯野仁成隊員」

 

「はい」

 

進み出た唯野仁成隊員。

 

次期のエース格の一人として期待されている若手。今回も、今聴取していたモラクスの側近の対応を任せる。

 

悪魔は自分より弱い相手には決して屈服しない。

 

悪魔召喚プログラムのサポートがあっても、だ。

 

真田は悪魔召喚プログラムを自分で使うつもりはない。基本的に研究室に籠もりっきりになるつもりだから、である。

 

使っている暇が無い、というのが実情だろう。

 

唯野仁成は、一も二も無く相手を殺すのでは無く屈服させることを選び。

 

観念した悪魔は、唯野仁成のデモニカにPCに吸い込まれていった。

 

真田は一度、艦橋に戻る。艦の幹部達が集まっているが。此処にいずれ、ヒメネスや唯野仁成、ゼレーニンも加えたい所である。

 

ただ、やはり懸念していたことだが。

 

ヒメネスは水を得た魚のように生き生きとしている反面、明らかに少しずつ凶暴性が増しているし。

 

ゼレーニンは悪魔に対しての嫌悪感を隠してもいない。

 

バランスが取れた唯野仁成は、少し卒がなさすぎる。

 

変なものに接触したら、その時点でころっと何かに転んでしまうかも知れない。

 

真田は前から知っていたつもりではあったが。

 

今回の旅で、宗教の恐ろしさを更に強く実感することとなった。

 

悪魔合体の仕組みを公開したところ、更に反発している者達の声が強くなったのである。

 

段階を踏んで公開した上。

 

そもそも、悪魔の力が無ければこの苦境を乗り切る事など出来ない、という話をしているのにこれだ。

 

命が掛かっているのに、悪い意味で信仰を優先する。

 

精鋭を選抜したこの艦ですらこれである。

 

一度、何かのブレークスルーが起きなければまずい。

 

真田が二度の宇宙の旅で経験したような、文明の接触が致命的な絶滅戦争に発展しかねない。

 

それでは駄目だ。真田が知る地獄の未来と同じになってしまう。

 

今後宇宙に出ていく人類が、そんな未来しか持たないのだとしたら。

 

それは文明を構築し、文化を発展させ、技術を継承させて来た真田達の責任だ。

 

艦橋に人員が揃ったところで。

 

アーサーが状況を説明してくれる。

 

今回は艦内の皆に説明をする必要があるので。

 

会議室のこのやりとりは、全艦に放送している。後からアーカイブで閲覧も出来るようにしてある。

 

「プラントの回収が完了したことで、アントリアでの任務は全て終わりました。 また、モラクスから回収出来た物質が、いわゆるロゼッタ多様体である事も判明しています」

 

「ロゼッタ……真田技術長官、それはなんだ? 説明をしてくれるか」

 

「物理学で予言されていた、情報を最高効率で詰め込むことが出来る物質、とでも思っていただければ分かりやすいですかな。 いずれにしてもロゼッタ多様体が、まさかこのシュバルツバースで発見されるとは」

 

「……続けてくれ、アーサー」

 

ゴア隊長が、そのまま促す。

 

アーサーは淡々と言う。

 

「ロゼッタの解析は既に真田技術長官の研究室で済んでおり、またこの空間がモラクスの設定したと思われるままの量子のゆらぎで安定している事も確認できています。 当艦レインボウノアは、これよりスキップドライブを実施して、次の空間に転移します」

 

原稿を春香に渡すゴア隊長。

 

春香は頷く。

 

ここからが、大事だからだ。

 

隊員の精神に負担を掛けないため、彼女が話す必要がある。

 

早速春香が、原稿をすらすらと読み始めていた。非常に聞き取りやすい声である。原稿読み上げの経験量が違うという事だ。

 

「このアントリアに落ちるまでに、最低でも四つの空間を経由したことは、隊員の皆様も覚えているかと思います。 これからはそれら空間を戻りながら、シュバルツバースの拡大をどうやって止めるのか、更には脱出するにはどうするのかの情報を蓄積していくことになります」

 

そう。まだ脱出云々どころでは無い。

 

これからどうするかにも、まだ情報が足りない状況だ。

 

だから次の世界。モラクスなどの話していた情報から推察して、恐らく「ミトラス」という悪魔が支配している世界に移動し。

 

其所で情報を集める必要が生じてくる。

 

このアントリアは焼け焦げた国だそうだが。ミトラスの世界は快楽にふける国だそうである。

 

ロクな場所では無いのは、真田にも分かる。だから、それらの話は敢えて春香にはさせない。

 

「情報が集まれば集まるほど、次に何をすれば良いのか、勿論場合によっては脱出する方法も分かってくるでしょう。 皆の頑張りを期待します。 勿論、私も可能な限りの事をします」

 

以上。

 

通信を切る。

 

春香がため息をつく。

 

彼女だって不安でない筈が無い。二度の自殺同然の旅を経験している真田や、此処にいるスペシャル達が異常なのであって。

 

戦場に慰撫などに出かけている春香であっても、流石に此処までの状況にはそうは慣れていないだろう。

 

不安はあるだろうが。

 

それは自分でどうにかしてもらうしかない。

 

現実は厳しい。

 

さて、アーサーに確認。すぐにでも、空間の穴を通って次の世界に行く事が出来ると回答が来ている。

 

見ると、妖精が多数、様子を見に来ていた。

 

魔王と堕天使はこのアントリアから去った。妖精は狡猾でくせ者だが。それでも、やはり力尽くで屈服させられるのは嫌だったのだろう。

 

感謝の言葉を、船外のスピーカーから伝えると。

 

手を振っているのが見えた。

 

このシュバルツバースを調べた所、数万年前から凍っている氷などが発見されている。

 

それはすなわち、現在南極で拡大しているシュバルツバースと、この内部空間は物理的に影響が相互で存在しない事を意味している。

 

要するにシュバルツバースを三次元世界でどうにかしても。

 

此処にいる妖精達に悪い影響は与えないだろう。

 

レインボウノアの巨体が浮き上がり始める。

 

既に船内のダメージは全て回復済み。物資も充分に継戦が可能な程度には積み込み終えている。

 

やがて上空一千メートルにまで達したところで、空間のトンネルに突入すべく加速を開始。

 

量子のゆらぎにあわせてプラズマバリアを展開。

 

一気に、空間の穴を抜ける。

 

加速の際にも、殆ど揺れない。

 

これは真田が船内の微調整を行い。

 

更に快適にするべく、調整を徹底したからだ。

 

細かい不快感が、人間の精神を蝕んでいくのは真田も良く知っていることである。だから、細部まで気を使っている。

 

それだけのことだ。経験したことは生かす。真田は出来る事ではベストを尽くす。

 

やがて、音速に達した方舟は。特に抵抗を受ける事も無く、一気に空間の穴を抜けていた。

 

空間の穴を抜けると同時に減速を開始。

 

そして、停止し。

 

ゆっくりと、下降を開始した。今回は、空間の穴をトラブルなく抜けられた。

 

「観測班、状況を」

 

「はい。 現在艦外カメラなどを利用し、情報を収集中……」

 

確かマクリアリーだったか。

 

最初にアントリアに不時着したとき、悪魔にさらわれた一人だ。

 

最近目立って行動が勤勉になって来ていて。積極的に仕事をして、細かい事でも分かり次第報告してくれるようになっている。

 

技術を担う真田としては、細かい変化も見逃せないので。とても有り難い事である。情報の重要性は、今も昔も変わらないのだ。

 

「着陸します。 わずかに揺れるかと思います」

 

「不時着は無いと思いますが、皆さん備えてください」

 

春香が艦内放送すると。

 

皆、体を周囲にあるものにベルトなどで固定しているのが見えた。

 

アントリアの時ので懲りたのだろう。

 

羮に懲りて膾を吹くという奴だが。

 

まあ、シートベルトが必須であるように。

 

問題発生前に、問題に備えておくことは悪くは無い。

 

真田はオペレーターから送られてくる情報に目を通していたが。どうにも妙だなと感じる。

 

いずれにしても、マクリアリーが許可を求めてくるので。

 

着地が済んでから、情報を公開するようにと指示を出した。

 

広い空間が丁度見つかったので、方舟が着地する。というよりも、中心部以外はスカスカだ。

 

揺れは、予想通り殆ど無かった。

 

正太郎長官の方を見る。頷いたので、真田からマクリアリーに許可を出した。

 

すぐに、艦内モニタに外の様子が映し出される。

 

それは、歓楽街としか言いようがない場所だった。

 

巨大な城を中心に、歓楽街だけが拡がっている。途中からは街の密度はまばらになり、ある程度まで行くと以降は荒野になる。その荒野に方舟は着地した。

 

奇怪な世界だ。けばけばしいネオンの瞬きが、真っ昼間からぎらついているのに対して。

 

そのど真ん中に建っている巨大な城は、むしろ白磁であるため悪目立ちしている。

 

「此方観測班マクリアリー。 この映像、突入前にドローンが採取したものの一つによく似ています」

 

「戦場の次は歓楽街か」

 

「これはまた、悪趣味じゃのう」

 

サクナヒメが苦笑いしているのが分かる。

 

まあそれはそうだろう。

 

彼女は幼い見た目だが、神である。

 

年齢も人間とは全く違う筈で、人間の事を良く知っているとも言っていた。武神だから、戦争の現実も知っている筈で。

 

それはつまり、人間を大体全部知っていると言うことを意味もしている。

 

物資搬入口から連絡。機動班のリーダーをしているブレアからだ。

 

歴戦の傭兵であり、先の戦いでも指揮官の一人として大きな戦果を上げている。デモニカにも抵抗がなく、悪魔召喚プログラムもどんどん使いこなしている。

 

元々歴戦の傭兵を、国際再建機構がスカウトした人物の一人で。

 

流石にストーム1程の規格外ではないものの、まず優秀な兵士の一人としてカウントして良い人物である。

 

「此方機動班。 すぐにでも展開出来ます。 偵察を開始しますか?」

 

「いや、まずは敵の出方を見る。 アントリアの時は、敵の先制攻撃で艦内にまで侵入されたことを忘れるな。 まずプラズマバリアを展開し、それを拡大後。 周囲に前線基地を構築、更にプラントを構築後に動く」

 

「イエッサ」

 

通信が切れる。

 

さて、此処の状況を見極めてからだが。

 

アントリアの時に比べると、随分と静かだ。

 

それがまた、不気味ではあった。

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