Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

17 / 126
※ゼレーニンについて

原作でのロウヒーローに当たるゼレーニン。変身後の姿からギョーザなどと言われている事もありますが、真ロウルートではペ天使の誘惑を振り切ったりと、相応の信念はきちんと持っている人です。

本作では以下のように設定しています。

ロシア出身(※これは原作でも同じで、本来はゼレーニナと読むのが正しい)。
腐敗する祖国を憂いた両親と友に米国に移籍するも、そっちも大して変わらない事に苦悩。そんな中、国際紛争を多数解決している国際再建機構に誘われ、所属することに。

本来は大学で教鞭を執れる人物だが、それでありながらやはり一神教が根付いている地域の束縛からは抜けられず、どうしても悪魔に対しての一面的な思考が目立つ事に。

本作でそんな彼女を変えていくのは、実際に旅で神に遭遇した真田さんと。
そして同じように、良心的ではあっても最後まで自分を神と呼ばなかった存在と接したことがあるサクナヒメでした。


1、死の歓楽街

この空間を、アルファベットのBにちなんでボーティーズと名付ける。

 

そう唯野仁成は、デモニカの通信機能で聞いた。

 

まあ、空間の名前なんてどうでもいい。

 

はっきりしているのは、外が悪魔の歓楽街だと言う事である。

 

いずれにしても街での戦闘は厄介だ。

 

前のアントリアでは、敵が生兵法を囓っていたから、むしろ有利に戦えたという状況であって。

 

今回は、凄惨なゲリラ戦を警戒しなければならない。

 

しかし妙なことに、この「ボーティーズ」では恐ろしい程に外が静まりかえっている。

 

何かあったのかも知れないと、幹部達は話している様子だが。

 

唯野仁成も同意である。

 

着地してから、半日近くして。

 

ようやく機動班クルーに出動が命じられる。

 

同時にサクナヒメとライドウさんがついてくる。

 

また、装甲車と、重機も一緒に降ろすようだった。

 

今この船は、歓楽街の外側。荒野になっている場所に着地している。

 

此処ならば、周囲から的にはなるが。

 

逆に、敵が何処にいようと捕捉することが出来る。

 

プラズマバリアと装甲に相当な自信があるのだろうが。

 

まあ無理もない話である。

 

何しろ、空間の穴を突破したのだから。

 

まずは展開し、悪魔達を出す。

 

船外の環境については、既にデモニカに表示が出ていた。

 

摂氏94℃、1気圧。大気組成は、殆どが酸素だ。

 

酸素というのは、本来猛毒にも等しく。原初の地球には存在していなかった物質の一種である。実は人間も、濃度が高すぎる酸素を吸うと死ぬ。

 

原始的な植物の性質を持つ細菌(シアノバクテリアやラン藻などと呼ぶ)が大気をどんどん酸素に切り替えて行ったことで、今の地球になっている。正確には安定したのはかなり地球の歴史的には最近で、三億年ほど前は今の倍ほども酸素濃度があったそうだ。

 

地球の歴史で、人類以上のダイナミックな変革を起こしたのは、ラン藻と呼ばれる超原始的な植物なのだ。

 

そしてその一部は、現在でもオーストラリアなどに生き残っているという。

 

この辺りは、環境が無茶な空間に今後接し探索もする事を考え。

 

唯野仁成が、余裕がある時間に見てデータベースを覚えた事である。

 

何しろ人間誰もが経験したことがない未踏の地である。

 

知識はどれだけあっても足りないのだから。

 

まずは周囲に野戦陣地を構築していく。

 

いざという時は方舟に逃げ込めばいい、という考えもあるが。

 

何か危険な病気が蔓延し。船内に患者を入れられないという可能性も出てくる。何が起きてもおかしくない場所なのである。

 

そういうときのための野戦陣地でもある。

 

重機が動き、荒野を耕す。プレハブを建てて、野戦病院を作る。

 

土嚢を積み上げる。

 

地味な作業ばかりだが。

 

こういった地味な作業こそが戦争である事を、唯野仁成は知っていた。ムービーヒーローが血と汗にまみれて戦うだけが戦争では無い。

 

まずは情報を収集し。敵と味方の戦力を正確に把握して。やっとまともに戦争が出来る。現実とは、そういうものなのである。

 

そういう意味では、アントリアのモラクスは良い線を突いていたのかも知れなかった。残念ながら、情報収集が中途半端だったので、失敗してしまった訳だが。

 

「ヒトナリ、そっちは終わったか?」

 

「ああ、だいたいな」

 

力仕事はデモニカの調整のために人力でも行うが。

 

悪魔達にも手伝って貰う。

 

ヒメネスは荒々しそうな悪魔ばかりを展開していて。他のクルー達も少し怖がっている様子だ。

 

唯野仁成は、バランスを取れた悪魔をと思って。回復が得意なものや、魔法が色々得意なもの、力が強いものなど。色々な悪魔を手持ちに入れている。

 

大量の捕虜を得たことで、クルーに行き渡って余りある程の悪魔がいる上。

 

悪魔の通貨でありエネルギー源でもあるマッカも大量に得ている事で、一度配下にした悪魔はそのまま呼び出すことも出来る。

 

更にデモニカは皆の戦闘経験を並列化するため、機動班クルーの戦闘力は、どんどん増している。

 

過信は当然禁物だが。

 

戦力が上がると言う事は、従えられる悪魔も増えると言う事である。

 

ヒメネスが一瞥だけする。

 

歓楽街を最も好みそうなタイプだと思ったのだが。そうでもないらしい。

 

それにこんな所では酒も煙草も無理だ。船内でも嗜好品は最小限に消費するようにとお達しが出ている。

 

一旦休憩の連絡をして。二人で船内に戻る。入れ違いに、ゼレーニンと何人かの調査班が船外に出るのが見えた。

 

「ケッ。 安全なところを悪魔も連れずに調査かよ。 良いご身分だな」

 

「我々は何も分かっていない状態だ。 それに調査班のトップは真田さんだ。 きっと何か見つけてくれるさ」

 

「そうだな。 真田の旦那は確かに信頼出来る。 部下もそうとは限らないが、まあそうあってほしいぜ」

 

一度交流用に作られている広めの空間に移動。なけなしだろう支給品タバコを吸っている兵士もいた。

 

ヒメネスはやはり周囲から距離を置かれているが。唯野仁成は、ヒメネスがそれを知った上で興味を持っていないことを理解していた。

 

軽くそのまま話をする。

 

「あの歓楽街についてどう思う」

 

「何だ、興味があるのか」

 

「これから戦場になるからな」

 

「そうか、生真面目な奴だ。 俺はあの手の場所は、反吐が出るほど嫌いでな」

 

驚いた。だが、その理由は予想がついた。

 

ヒメネスはスラム出身の人間だ。時々話してくれるが、人間が最低限まで墜ちるとどうなるか、ヒメネスは良く良く知っている。

 

唯野仁成が住んでいた日本ですら、歓楽街は魑魅魍魎が跋扈し生き馬の目を抜く地獄だったのである。

 

ましてやヒメネスのように、スラムがある国の出身者から見れば。

 

あの手のぎらついた場所がどう映るかは、想像に難くは無い。

 

「俺がガキの頃には、ああいう所に住んでいるマフィアから、小遣い稼ぎに薬の運び屋をやらされたりしていてな。 当時の俺は当然自分が何をしているかも、結果として何が起きるかも知らなかった。 毎日銃声がして、薬でおかしくなった奴が暴れて、昼間っから喧嘩している奴がいて。 路地裏覗けば薬入れて盛った奴がヤってる。 そういう場所だったよ。 宗教で出てくる地獄の方がなんぼもマシだ。 だから大人になったら、真っ先に距離を取った」

 

「良かったな、国際再建機構に入れて」

 

「ああ。 俺は最初国軍にいたんだが、はっきり言ってゲリラ以上に危険で腐りきった連中だった。 運の巡り合わせが悪かったら、ストーム1と戦わされていたかも知れないな」

 

そうなれば何も分からないうちに死んでいただろうぜと、ヒメネスは自嘲する。

 

こう言う話をしてくれるようになっただけ、信頼してくれるようになったと言う事だけれども。だからこそ、その乾きが酷く伝わってくる。

 

休憩時間が終わったので、外に出る。

 

ドローンが既に、何機か船外に出向いている様子だが。不安そうに話している機動班クルーが目につく。

 

情報収集は生き残るための基本だ。

 

ブレアがいたので敬礼。話を聞いておく。一応立場的には相手は上役だ。ただ唯野仁成とヒメネスは実績を買われ、特殊部隊のような遊撃的なポジションにいる。ブレアもそれを見越して、尊重してくれているので助かる。

 

「何かありましたか」

 

「ああ。 ドローンを飛ばして調べているんだが、街の中に悪魔の気配が殆ど感じ取れない」

 

「本当ですか、それは」

 

「ああ。 お前達と戦ったモラクスが、「快楽にふける国」で人間が暴れていると言っていただろう。 その影響ではないかと上は分析している様子だ」

 

人間が、暴れているか。

 

確かにそれは聞いていたが。

 

此処までの事になっているとは、想定外だった。

 

「此処の悪魔を捕まえて、話を聞いた方が良さそうですね」

 

「それも上は慎重になっている」

 

「どういうことです」

 

「ドローンが遠隔で映像を捕らえたが、市街地で戦闘が起きている。 しかも、決着は一瞬だ。 現地に確認しにいったところ、悪魔数十が単独相手に一瞬で倒された形跡があった。 サクナヒメやストーム1並みの使い手がゲリラ的に暴れている可能性がある」

 

それは。確かに機動班を出すのも慎重になるか。もしも相手が敵対的意思を持っていたら、生半可な実力では文字通りなで切りにされるだけである。

 

また、ここは例の姿を消して奇襲してきた夜魔フォーモリアの原産地とも言える場所の筈である。

 

デモニカに隠蔽能力を見破る機能は既に配布しているが。

 

もっと高レベルな隠蔽能力を敵が開発していてもおかしくない。

 

普通、特に混沌勢力の悪魔は人間の真似事をしないという話だが。

 

アントリアでその前提は既に崩れてしまっている。

 

敵が新しい戦術や兵器を繰り出してこない保証は無い。

 

モラクスはやり口が中途半端だったから自滅したが。他もそうなってくれるとは限らないのである。

 

「やれやれ、そんな強いのがいるんなら、俺たちに手を貸してくれるとありがたいんだがな」

 

「その可能性は低いと上層部は見ている様子だな」

 

「……」

 

「これだけ大きな船が接舷したんだ。 相手に見えていない筈が無い。 この歓楽街の敵の密度、想定される戦力からして、単身暴れているものが此方に接近できない筈が無い」

 

つまり、分かっていて距離を取っているという事だ。

 

第三勢力の登場と見て良い。

 

ヒメネスは溜息をつく。わかり安い程、大きな溜息だった。

 

遭遇戦で、ストーム1並みの相手とやり合うことを想像してしまったのかも知れない。まあ、確かにぞっとしない話である。

 

ヒメネスが一切会話に応じなかったことを不快に思う様子も無く、ブレアは敬礼すると巡回に戻った。

 

野戦陣地にはセンサの類が山盛りにつけられ。タレットが威圧的に周囲を監視しているが。

 

今の時点で、それが必要だとは唯野仁成には思えなかった。

 

敵は城から軍勢を出してくる様子も無いし。

 

何より今回は、アントリアと違ってその気になれば方舟から直接、大火力の主砲を城に叩き込む事も出来る。火力は野戦砲として使うレールガンの比では無いと聞く。

 

まずは慎重に情報を集めてから動く。

 

その上層部の判断は間違っていないし。

 

何よりも調査班をかなり早い段階から出して、必要となる情報を集めているようにも思える。

 

また、機動班クルーの悪魔達は既に各地に散って、偵察任務をしている様子だ。

 

契約にさえ背かなければ悪魔は誠実に働く。

 

それが堕天使などの、マイナスイメージがある悪魔でも、である。

 

ただ、それらの悪魔も。敵の偵察にはかちあうことはあるようだが。

 

敵の「軍勢」を目撃することはない様子だった。

 

また、偵察に出てきた敵も、すぐに逃げてしまうらしく。

 

現時点では、何かとんでもないものが街に出ていて。

 

戒厳令が敷かれているも同然の状況であるらしいことも分かった。

 

しばらく、ヒメネスと二人で周囲の巡回を行う。

 

ヒメネスは外に出るとき、最近は側に最初に悪魔合体で作り出した龍王ナーガを侍らせている。下半身が蛇で上半身が筋骨たくましい男性のナーガは、寡黙にその背丈を生かして、周囲を見張ってくれている。

 

唯野仁成は側にエジプト風の衣服を纏った浅黒い肌の女性の姿をした悪魔を展開していた。ついこの間悪魔合体で作り出したのだ。

 

彼女は分類女神、種族というか名前はハトホル。

 

エジプト神話に登場する愛と美の女神で、様々な姿を取る。エジプト神話でもっとも重要な神格である太陽神の子ホルスの母であり、古い時代の豊穣神らしく色々な神と交わって色々な神を産みだした逸話がある。

 

古代の豊穣神、特に女神は兎に角性に奔放である。ギリシャ神話のアフロディーテなどが例に挙げられるだろう。そういったいにしえの時代の女神の一柱である。

 

ハトホルは牛をモチーフに描かれる事が多いらしく。唯野仁成が偶然作り出せたハトホルは、小柄な女性だが頭に牛の角が生えている。

 

最初に仲間、いや仲魔にした悪魔達とは段違いの回復魔法を使うことができ、多少の傷ならすぐに回復する事が出来るので。いざという時には常に展開するように心がけていた。

 

逸話と裏腹に極めて寡黙な女性で、ほとんど唯野仁成に話しかけてくることは無い。

 

またエジプト神話が既に廃れた信仰だからかも知れないが。

 

ホルス神の母という強大な立場にあるにも関わらず、サクナヒメとは比較にもならないほどに弱い程度の力しか感じ取れない。

 

ヒメネスにも、当面はハトホルに回復を任せると言う話はしているが。

 

それ以上の役割は期待していない。

 

回復を任せるという話をした時点で。ヒメネスもそれを理解しているようだった。

 

「敵さん、城に籠もりっきりか。 今度は攻城戦か? 面倒だねえ」

 

「……第三勢力らしい人間が、どう動くか次第だ。 ひょっとしたら仕掛けてくる可能性もある」

 

「はっ。 こんな所で、人間同士で殺し合いかよ」

 

「覚悟はしておいた方が良いだろうな」

 

無駄口を閉じると、周囲の巡回を続ける。

 

戻って来た機動班の小隊に敬礼。もう少し奥までサクナヒメとライドウさんが出ているらしいが。

 

現時点では、歓楽街の状況を軽く見てくる以上の事はするなと言われている。

 

律儀に守って戻って来たらしい。

 

「そういえば、歓楽街に山ほど建ってる店な。 どうみても夜の店だが、覗いてみたらびっくりだ」

 

「覗いたのか」

 

「敵が潜んでいるかも知れないからな」

 

アンソニーと表示されているその男は、明らかに下心丸出しの様子で話していて。周囲の機動班クルーも呆れている。

 

「いや、綺麗な女悪魔が……とか思うだろ。 そしたらよ、内部は本当にぺらぺらの張りぼてで、誰もいないし雰囲気もなんもないんだよ……」

 

「お前、こんな所で風俗店に入るつもりかよ」

 

「い、いや興味は誰だって湧くだろ! そういう逸話のある悪魔は幾らでもいるし!」

 

「その手の逸話をもつ悪魔と関係すると、大体ミイラになるまで絞り取られるんだけれどもな」

 

ハトホルが視線をそらして口を押さえている。流石にアンソニーの言動には呆れたようだ。

 

唯野仁成も、周囲を警戒しながら、どう反応して良いのか困った。

 

ともかく、巡回を交代する。そして、歓楽街に入った。

 

周囲は何というか、極めて不衛生で汚染されているし。

 

ドローンが撮影してきたように、彼方此方で戦闘の痕跡が残っているようだった。

 

つまり、いつこれをやった奴と遭遇するか分からない訳で。

 

そんな中、風俗店に興味津々のアンソニーは、むしろ大物なのかも知れなかった。

 

いずれにしても、ヒメネスは露骨に不快そうだし。

 

何よりも、嫌な予感がびりびりする。

 

予定通りのコースを巡回した後戻る。

 

上がまだ奥には行くなと言っている。

 

スペシャル達がもう少し奥を調べてきてから、本格的な探査に移るのだろうが。

 

相手の出方が分からない。

 

アントリアの妖精達のような、くせ者であっても話が通じる相手ならまだいいのだけれども。

 

とてもそうとは思えないのである。

 

そもそも、ここボーティーズは、悪魔達が言うには快楽にふける国だそうで。

 

城の内部がどうなっていることやら。

 

デモニカのネットワークから通信が入る。

 

「唯野仁成隊員、ヒメネス隊員、そのラインはまだ超えるな。 戻ってくるように」

 

「了解した」

 

少しずつ行ける範囲を拡げていくしかない、ということだ。

 

ヒメネスを促して戻る。皮肉屋の相棒はぶちぶちと文句を言う。

 

「ケッ、消極的な話だぜ。 城を砲撃して大将を吹っ飛ばしちまえってんだよ」

 

「敵の戦力が分からないんだ。 前の戦いでは、装甲車の速射砲を耐え抜いた悪魔もいたと聞いている。 方舟の主砲でも倒せないかも知れない」

 

「ああそうだな、その通りだがよ。 全く、面倒な事だぜ」

 

不意に、唯野仁成は振り返って、銃を構えていた。

 

支給されたばかりのAS21アサルトライフルである。前のAS20よりあらゆる点で性能が向上した改良型だ。シュバルツバースでは貴重な物資が山ほど採れるため、量産と改良を真田さんがやってくれたらしい。元より構想にはあったそうで、その上性能的にはストーム1が使っているアサルトの廉価版なので作る事自体は難しく無かったそうだ。

 

ヒメネスも警戒態勢を取って周囲を見ていたが。やがて銃を下ろした。

 

展開している悪魔達も、辺りを見回すばかりである。

 

「どうしたヒトナリ」

 

「いや、視線を感じた」

 

「……あのヤギ野郎を見つけたお前だ。 何かに本当に見られていた可能性もある。 孤立無援で強敵に出くわす前に引き上げようぜ」

 

「ああ」

 

そのまま、無言で下がることにする。

 

悪魔の恐ろしさは、アントリアで最初に奇襲を受けたときに嫌と言うほど思い知らされている。

 

更にその悪魔を蹴散らしている人間が、単身で此処で生き延びていて。味方とも限らないとなると。

 

やはり、慎重にならざるを得なかった。

 

 

 

方舟に戻る。

 

サクナヒメとライドウさんが搬入口で話をしている。二人は、戻って来た唯野仁成を見ると、咳払いする。

 

ライドウさんは先に戻るが。じっとサクナヒメは此方を見つめてきた。

 

ヒメネスが、気さくに声を掛ける。周囲の兵士はサクナヒメを畏敬しているが、ヒメネスだけはかなり距離感が近い。サクナヒメもそれを嫌がっている様子は無い。

 

「どうしたよ姫様」

 

「実はな。 敵地に結構奥まで侵入してきたのだが……どうも様子がおかしい」

 

「それは俺たちも感じていた。 姫様はどのようにおかしいと感じたのだろうか」

 

「簡単に説明すると、わしやライドウとの接触を、例の強い力が避けているように感じられた」

 

つまり、だ。人間と思われる相手は力の接近に気付いていると言う事だ。

 

考えられる可能性は幾つもある。

 

たとえば此処の支配者は情報を総合する限りミトラスという悪魔らしいが。そのミトラスに勝てるほどの力が無く、その側近が出てくると厳しい。

 

或いは人間や、人間の味方になっている者との接近を避ける理由がある。

 

脱走兵である。国際再建機構の人間と接触すると、最終的にまずい結果になる。

 

それらが理由としてぱっと思いつくが。

 

どれも説得力に欠けると、唯野仁成は感じた。いずれも違うように思うのだ。

 

そもそも、その人間がミトラスをどうして放置しているのかがよく分からない。もしもシュバルツバースに対処するためにここに来て。ミトラス配下の悪魔をまとめて倒せる程の力があるなら。

 

真っ先にミトラスをぶっ潰せばいいものを。モラクスや配下の話をまとめる限り、相手は人類文明の敵である。倒さない理由がない。

 

「プラントとやらは既に出来、船の守りはなった。 これ以上守りを固めても埒があかんのは皆の意見が一致しているところでな。 そろそろ敵に対して、本格的に偵察を始めようと思っているのだが……」

 

「なんだ煮えきらねえな姫様。 あんただったら、ずばっと切り込むと思ったんだが」

 

「何度か例の強い力の気配をわしも感じたからな。 正直、悪魔共の群れを相手に一人で渡り合っているだけのことはあるわ。 現状の戦力ではあまりちかよりとうない」

 

サクナヒメ程の使い手が、こんな事を口にするのか。

 

堕天使オリアスから人質を救出する際に、文字通り鬼神のように暴れ狂った武の権化が、である。

 

まだ本調子からは程遠いらしいが。それでもサクナヒメの武勇は図抜けている。状況の深刻さは、ヒメネスも即座に理解したようだった。

 

「それで、どうするんだ。 穴熊を決め込むのか?」

 

「……いや、そうも言っておられまい。 これから会議をするが、恐らくはその後に敵陣に深く切り込むことになろう。 そなたら、休んでおけ。 そなたらをはじめとして、精鋭に声が掛かるはずだ」

 

「OK姫様。 それにしても、あんたが其処まで言う相手だ。 ミトラスとやらより手強そうだな」

 

「……城の中から感じる気配からして、恐らくミトラスとやらはそやつの敵ではなかろう」

 

本当か。

 

それならば、確かに城で引きこもっているのも納得がいくと言うものである。

 

だが、分からない事がまだ多すぎる。

 

確かに、一度休むべきだろうと唯野仁成は思った。

 

ヒメネスと一旦別れて、私室に戻ると、ベッドで寝る事にする。

 

ふと、妹の事を思い出していた。

 

今頃、シュバルツバースの調査隊が遭難したとか、ニュースが流れているのだろうか。

 

だとしたら、心配を掛けていてもおかしくない。

 

不安のあまり、錯乱したりしなければいいのだが。そこまで弱い奴ではないか。

 

小さくあくびをすると。唯野仁成は自衛隊時代に受けた、すぐに眠るための技術を総動員して、眠りに入っていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。