Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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此処まで無敵を誇った方舟のスペシャル達。

しかし早くもその足場が崩れます。

本作の台風の目、アレックスのエントリーです。


2、暴風との遭遇

サクナヒメと共に、唯野仁成とヒメネスで出る。機動班クルーは、少数精鋭と、手練れとのチームを組んで。まずはミトラスがいると思われる城の周囲から探索し。その後、突入作戦を行うと言う作戦になったようだった。

 

まだ唯野仁成は、作戦に関与できるほどの立場では無い。

 

だから、命令を受けたら兵卒らしく戦闘をこなすだけである。

 

それだけではない。敵がいない状況を、利用しないわけにはいかない。

 

手練れのチームの少し後方から、調査班がついていく。

 

調査班は機動班の護衛も含め。方舟周辺だけではなく、出来れば街中心部の探索も行う。

 

勿論これには細心の注意を払う事になる。

 

同時に、陽動としての行動も行う。機動班の一部を、街を迂回して城の後側に回り込ませるのだ。これにはなけなしの装甲車も出す。

 

もしも、この動きを見て、敵が兵を出してくるなら、即座に引き。

 

方舟の主砲でアウトレンジ砲撃に持ち込む。

 

作戦としては何段構えにもなった悪くないものだと唯野仁成は思ったが、それでもどうにも嫌な予感がしてならない。

 

ヒメネスもそれは同じのようで、サクナヒメの後ろで周囲をクリアリングしながらぼやく。何しろたくさん建物があるので、デモニカの感知能力をフルに駆使しても、一秒も油断が出来ない状態だった。

 

「何だか気にいらねえなあ。 いもしない敵にびくついてるみたいだぜ」

 

「最初に船に入り込まれただろう」

 

「ああ、だがその種も知れただろ」

 

「全部が分かったわけじゃあない。 拉致がどう行われたのか、そもそもどのタイミングで敵が入り込んだのか。 その辺り、分かっていない事がまだ多い。 危険を承知で、敵の手の内を一つずつ暴くしかない」

 

つまり唯野仁成達は撒き餌だ。

 

しかも此処ボーティーズに来てから、第三勢力らしい存在も出現。まだその詳細も分かっていない。

 

現状は戦死者を出していないが。真田さんが言う通り、方舟のクルーは皆スペシャリストなのだ。

 

出来れば一人として欠けること無く、この困難な旅を終えたい。

 

その思いは、唯野仁成も他と共有はしているつもりだ。勿論、それが厳しい事は承知してもいる。

 

サクナヒメは無言で口を引き結び、歩いている。

 

通信手段として機器は渡されているのだが。どうも電子機器は苦手なようで、通信はヒメネスや唯野仁成任せにしている雰囲気だ。

 

まああれだけ戦えるのだから、その程度の補助なら何でも無い。

 

途中電波中継器を幾つか撒いてきてもいるので通信が途切れることもない。

 

歓楽街の中心部にまで来るが。やはり悪魔の影一つない。周囲には戦闘の跡や、無造作に散らばっているマッカが見受けられるが、それだけだ。

 

ここに来ている人間は何度も何度も、悪魔の群れを撃退し。

 

そして怖れたミトラスとその配下は、城から出てこなくなってしまったと言う事で間違いないだろう。

 

戦闘で出来たらしい傷跡を見ていたサクナヒメが、呼んでくる。

 

「そなたら、これを見よ」

 

「何だ姫様。 ……凄い傷だな。 地面がえぐれてやがる。 強い悪魔の仕業か?」

 

「違う。 これは恐らく、剣による傷だ。 長さはこのくらい……こう振るって、このくらいの背丈の悪魔を一刀両断にしたのだろう」

 

「剣だって!?」

 

サクナヒメが頷く。唯野仁成も、そういえば気になっていた。こういう傷が多いのだ此処の戦闘の跡地には。弾痕もあるにはあるのだが。ずっと、悪魔の爪痕だと思っていた。

 

デモニカを装備した人間でも、やはりメインウェポンは銃だ。アサルトライフルの利便性が桁外れだからである。近接武器を使って悪魔とやり合えるようなのは一部の特殊例だけだ。

 

「わしの世界にあった大筒も便利な武器であったし、確かにその鉛玉が出る武器もとても便利ではあろう。 武器の強さは届く範囲でかなり変わってくる。 そういう意味では、広範囲を簡単に制圧出来る上に、人間相手なら簡単に仕留められるその武器は革命的に強いとわしにも分かる。 だがのう、此処にいる連中は悪魔だ。 耐久力はその武器で手に負えるのか?」

 

「……確かに」

 

「近接防御はそのデモニカで補えよう。 少し考えてみても……」

 

サクナヒメが口を止めた。

 

そして、ハンドサインを出してくる。隠れろ、というものだ。

 

何が起きたのかは、大体分かった。ヒメネス共々、即座に跳び離れて、周囲にある建物の影に逃げ込もうとするが。

 

しかし、一瞬遅かった。

 

サクナヒメが動く。

 

剣を振るって、何かとんでもない速さで飛んできたものと弾きあうが。

 

唯野仁成は、胸に強烈な熱さを感じていた。

 

肺を、貫かれた。

 

血を吐く。

 

定まらない視界の先に見えるのは。赤黒い、見た事も無いデモニカを着込んだ、黒髪の女だった。

 

 

 

ヒメネスは見た。

 

黒髪の、自分が着ているデモニカよりも遙かに肌にフィットしている、赤黒いデモニカを着た女が。

 

スポーツカー以上のスピードですっ飛んできて。

 

あのサクナヒメでも攻撃を弾ききれず。

 

光る剣で、唯野仁成の肺を一突きにしたのである。

 

即座に反転しつつ羽衣で地面に叩き付けに掛かったサクナヒメの一撃もあって、そのまま剣が唯野仁成を抉り抜く事はなかったが。

 

それでも一目で致命傷だと分かった。

 

全身の細胞が絶叫している。恐怖に、である。

 

モラクスを前にしたときの比では無い。

 

こんなプレッシャーは、成人してから初めて感じるかも知れない。

 

サクナヒメが叫ぶ。

 

「出てくるでないヒメネス! 隠れておれ! わしにも守りきれる自信が無い!」

 

「ジョージ、この悪魔見た事がないわ。 データベースにはないの」

 

「分類は恐らく地母神か女神だが、それにしては戦闘力が高すぎる。 推定レベルはおよそ50」

 

「ボーティーズにいて良い悪魔ではないわね」

 

女は最初顔を露出していたが。

 

すっと、仮面のようなものが顔を覆う。

 

アレは間違いなくデモニカだが。

 

この極限環境で、顔を露出していても平気な何かの仕掛けがされていると言う事で間違いない。

 

そして、確定だ。

 

あれが、話にあった。此処で暴れている人間だ。

 

スペシャル達が慎重になり、ミトラスが穴熊になるわけである。

 

こんなバケモノがいたのなら、それは安易に釣りなどするはずがない。兵を出せば出すだけ死ぬだけだ。

 

唯野仁成を庇うように剣を構えるサクナヒメに対し。

 

光る剣を振るって、女は殺意を剥き出しにする。

 

「その男に使役されているにしてはレベルが高いわね。 今ボーティーズにいる誰かの使役悪魔かしら?」

 

「妙だな」

 

「何が」

 

「ボーティーズというその呼び方、さっきアーサーが決めたばかりだ。 どうして部外者のそなたが知っておる」

 

女はふっと笑う。

 

そして、殆ど一瞬で、サクナヒメに斬りかかっていた。途中の動きがほぼ見えなかった。

 

ヒメネスのデモニカでは、動きを追うのがやっとだ。

 

武神相手に、凄まじい斬撃を秒間数十という単位で叩き込んでいる。サクナヒメが、致命傷を受けて倒れている唯野仁成を庇っているのを容赦なく利用して、徹底的に足を止め。始末するつもりだ。

 

息を呑むしかない。こんな次元の戦闘、参加するしないの問題じゃあない。

 

ヒメネスの知る限り、悪魔の群れをゴミクズのように蹴散らしてきたサクナヒメを、明らかに凌駕している。

 

守勢に回っているサクナヒメが、何も喋る余裕すら無くなっている。

 

何より、剣撃の一撃の重さが尋常では無い。

 

一発ごとに衝撃波が周囲を傷つけている。文字通り、存在そのものが破壊の権化だ。

 

何だ、あの女は。

 

手が震えて、とてもではないが動けない。

 

銃を手に取れ。

 

サクナヒメを援護しろ。

 

そう自分に言い聞かせるが、恐怖でその場でじっとするのがやっとだった。

 

通信に割り込んでくる雑音。悲鳴。

 

何か他の場所でも問題が発生したのは確定だが。

 

残念ながら、それに対応している余裕が無い。

 

弾きあった女とサクナヒメ。

 

サクナヒメが手を横に振るうと、無数の剣が周囲に出現する。表情からして、余裕などかけらも無い。

 

それが一斉に女に投じられるが。

 

その全てを、女は光の剣で弾き返す。

 

同時に跳躍したサクナヒメが、空中で複雑な機動をして、女の背後に回り込み。

 

手にした剣で斬りかかるが。

 

振り返り様に、女はその鋭い一撃を完全に受け止めていた。

 

めまぐるしく立ち位置を変えながら、激しい戦いが続くが。

 

女はサクナヒメの攻撃を悉く見きっているのに対して。

 

サクナヒメは彼方此方切り裂かれ、冷や汗を流しっぱなしなのがヒメネスの目から見ても分かる程だ。

 

サクナヒメの剣が弾き飛ばされ、強烈な蹴りで上空に打ち上げられる。

 

だが、羽衣がその時には女の体にくっついており。

 

空中で反転したサクナヒメが、踵落としを叩き込んでいた。

 

女は開いている左手一本でガード。

 

地面がクレーター状にえぐれるが、女は意にも介していない。

 

バケモノが、バケモノとやりあっている。

 

それ以外に、言葉がない。

 

距離を取り、剣を再び手元に出現させるサクナヒメ。

 

女は無音でその至近に接近すると、また連撃を仕掛ける。全てを弾き返すが、サクナヒメは確実に押されている。

 

まずい。非常にまずい。死の臭いを至近距離に感じる。

 

このままだと、サクナヒメに続いてヒメネスも確実に殺される。

 

だが、女が銃を抜き、倒れている唯野仁成に向けて発砲しようとした瞬間。

 

サクナヒメが懐に入り、女の腹に強烈な蹴りを叩き込んでいた。

 

流石に十メートルほど下がる女だが。

 

それでも、銃をしまうと。剣を振るって構えを取り直す。

 

効いて、いないのか。

 

サクナヒメのパワーは、ヒメネスと唯野仁成が遭遇時点ではどうしようもなかった堕天使オリアスを一撃で木っ端みじんに叩き潰すほどのもので。しかもその時は今よりも力が戻っていないと言っていた。

 

文字通り上位悪魔を粉々にするパワーを叩き込んだのに、けろっとしている。

 

一体何だあの女は。

 

コミックのヒーローか。

 

戦慄する。

 

呼吸を整えろ。ヒメネスは自分に言い聞かせる。一発で良いから、支援の射撃を入れるんだ。

 

だが、覚悟を決めようとしたその瞬間。

 

不意に、声がする。

 

女のデモニカが、声を発したのだ。

 

「アレックス、そこまでだ」

 

「どういうことジョージ。 あの悪魔は危険よ。 今仕留めておかないとまずいわ」

 

「あのアンノウンと同等かそれ以上の力を持つ存在が、最低でも二体接近している」

 

「!」

 

流石に、それを相手にする余裕は無いのか。

 

アレックスか。

 

そう呼ばれた女は、マスクを解除した。戦闘をこれ以上継続するつもりはないのだろう。

 

「あのレッドスプライトとは似ても似つかない巨大な次世代揚陸艦の事もある。 情報と状況が違いすぎる。 ターゲット、唯野仁成には致命傷を与えた。 撤退を推奨する」

 

「どうやらそれが良さそうね。 そこにいるヒメネスを殺し損ねたのは残念だけれども、まあいいわ」

 

「……行くなら行くが良い。 追うつもりは無い」

 

「そうさせてもらうわ」

 

アレックスという女は、その場に最初からいなかったようにかき消えた。

 

だが、ヒメネスの隠れていた建物の頭上が、大きく切り裂かれた。撤退に追い込まれた事に対する腹いせだったのかも知れない。

 

肝を冷やす、なんでもんじゃない。

 

下手をすると、PTSDになりかねなかった。

 

呼吸を整える。

 

同時に、サクナヒメが剣を杖に片膝を突くのが見えた。必死に呼吸を整えている様子が分かる。相当に辛そうだ。

 

やっと、足が動くようになった。

 

悪魔を出して、回復を。

 

そう思って、おぼつかない手でPCを操作。だが、上手く行かない。舌打ちする。あまりにも凄まじい暴力を見て、ヒメネスは自分の手がままならない事に怒りさえ感じていた程だ。

 

ともかく、回復が出来る悪魔を呼び出し、複数掛かりでサクナヒメを回復させるが。サクナヒメは阿呆、と怒鳴った。

 

「わしは致命傷を受けておらん! 唯野仁成をどうにかせい!」

 

「あいつはもう助かる見込みが……」

 

「ならばわたくしが助けて差し上げますわ……」

 

不意に、その場に声が割り込む。

 

そして、光に周囲が包まれていた。

 

ヒメネスが見上げると、そこにはギリシャ風の薄い衣服を纏った小柄な女。子供のように見えるが、ボディラインなどはそれが大人である事を告げていた。右手には稲穂を持ち、頭には草で編んだらしい冠を被っている。

 

見た瞬間分かる。

 

今のヒメネスでは、とても手に負えない上位悪魔だ。

 

その上位悪魔が、左手をかざすと。魔法の光が、周囲を覆う程に拡がる。凄まじい魔法だ。今まで見た中でも、次元違いである。

 

バイタルが既に消滅寸前の唯野仁成が、びくりと震えた。慌てて走り寄ると、ポリマーでデモニカの応急処置をする。バイタルが見る間に戻っていく。肺を貫かれたのに。普通だったら絶対助かる筈が無い。

 

デモニカの処置を終えていた頃には、既に唯野仁成のバイタルは生存ラインまで回復していた。

 

そして、女は慇懃に名乗る。

 

「わたくしは女神デメテル。 オリンポス十二神の一角にて、この荒れ果てた世界にて「実り」を探すものですわ」

 

友好的な笑顔をへらへらと浮かべている其奴だが。

 

ヒメネスには、悪意の塊がはっきり感じられた。

 

口に出すまでも無く胡散臭い輩だ。

 

唯野仁成が目を覚ます。

 

頭を振って、周囲の状況を確認しているうちに。デメテルはハーベスト、とか言った。

 

何がハーベストだ。

 

「生き返りましたわね。 此処に放置していたら、いずれ悪魔の夕ご飯になっていたでしょう」

 

「そなた、何者じゃ」

 

「それは此方の台詞ですわ。 貴方こそ、一体どこの神格ですの?」

 

「我はヤナト随一の武神にて豊穣神サクナヒメ。 ……とはいっても、まだ本調子ではないがな」

 

サクナヒメが、多少の回復で歩けるようになったらしく、近づいて来て。

 

同じくらいの背丈のデメテルと火花を散らす。

 

だが、引いたのはデメテルだった。

 

「まあいいでしょう。 わたくしは、実りを探しておりますのよ」

 

「実りとは、なんだ……」

 

「ヒトナリ、喋るな!」

 

何度か咳き込みながらも、唯野仁成が半身を起こす。

 

辛そうだが、聞いておく必要があると思ったのだろう。

 

「ハーベスト! 大した生命力ですわ。 しばらくは喋るどころでは無いと思いましたのに」

 

「助けてくれた事に対して礼は言う。 ありがとう。 だが、何の見返りも無く、悪魔が人を助けるとも思えない。 実りとは何だ」

 

「この暗き世界にて、光をもたらすもの。 わたくしは、ずっとそれを探していますのよ」

 

「……そうか」

 

ヒメネスに一瞬目配せをしてくる唯野仁成。

 

ヒメネスも意図を理解して、頷いていた。

 

此奴は口が軽いとみた。

 

感じる力はサクナヒメ以上だが、それでも口が軽いなら、情報を引き出すことが出来る筈だ。

 

「それはどういうものだ。 どういう形をしている」

 

「球体状の形をしている筈ですが……世界がこのように大きく混沌に傾き邪に染まってしまった今では、分割されてしまっている可能性が高いですわね」

 

「覚えておく」

 

「それではごきげんよう……」

 

姿を消すデメテル。

 

大きく、ヒメネスは息を吐いていた。

 

「お前、肝が据わってやがるな。 あのアレックスとか言う女と同等か、それ以上の力を感じたぞあのガキ悪魔」

 

「やはりヒメネスも気付いていたか。 あの女神、相当に腹黒いだろうな」

 

「……とりあえず軽口は其所までじゃ。 どうやら、色々起こっているらしい」

 

サクナヒメの言葉を受けるように近くに降り立ったのはケンシロウである。

 

サクナヒメは、遅いとか言う事は無かった。

 

そもそも撒き餌作戦だったのである。

 

相手の力が想定以上であったことがまず作戦の想定外にあったし。

 

ケンシロウが全力で来てくれた事は確かなのだから。

 

全員の様子を見ると、ケンシロウは唯野仁成を子供の様に担ぐと、急げと視線だけでヒメネスに促してくる。

 

サクナヒメもそれに続く。

 

ケンシロウは、サクナヒメにぼそりといった。

 

「其所まで姫様がやられるとは……相手の実力は次元違いのようだな」

 

「話した通り、此処の支配者であるミトラスとやらより上であろう。 ただ、ようわからん事を幾つも言うておったわ。 それについては、後で話す」

 

「分かった……」

 

「其方でも何かあったようだな」

 

ケンシロウは無言でしばらく歩いていたが。

 

やがて、またぼそりといった。

 

「恐らく性能が高くなっている姿を隠せる悪魔に、二人さらわれた。 ゼレーニンと、もう一人はノリスという機動班の男性だ。 他にも数人その場に機動班がいたが、対応出来ずに全員重傷を負っている」

 

「まずいな……」

 

サクナヒメが呟く。

 

そして、ヒメネスに説明してくれる。

 

「これだけの穴熊を決め込んでいる状況で、手下を出してきたと言う事は。 それだけミトラスとやらが人間を欲しがっているという事よ。 そして隙を突いてきたと言う事は、それだけ熱心に此方を観察していた、ということでもあるだろう」

 

「俺は放っておくことを勧めるぜ。 其所までするような奴だ。 人質奪回作戦なんかやった時には、前よりも激しい戦いになるし、絶対大勢死ぬ」

 

「ヒメネス。 わしが守らなければ、そなたは死んでいた。 意味は分かるな」

 

「……OK姫様。 今助けてくれた相手にそう言われると、流石に弱い」

 

方舟につく。

 

敵を陽動する目的で出た部隊は、既に戻って来ている。

 

作戦は全て練り直しだ。

 

ボーティーズに来てから、上手く行くと思ったのだが。

 

やはりそう上手くはいかないものだ。

 

全部最初からやり直しくらいの勢いで、作戦を練り直さなければならないだろう。

 

唯野仁成は、医療班に運ばれて行く。

 

ヒメネスも休むように言われたので、そうする。

 

自室に戻る。

 

そして、震えが手に残っている事に気付いて、ぐっと握りしめていた。

 

畜生。

 

何もできなかった。

 

そうぼやくしかない。

 

あのアレックスという女の動き、殺す事だけに特化したものだった。どんな武術とも違う。

 

強いていうならば、悪魔の動きがそれに近い。

 

何よりも、着ていたのは明らかにデモニカだ。それも、真田技術長官が改良したこのデモニカよりも、一世代以上は上のものと見て良いだろう。

 

AIによるサポートを受けていたようだが。ジョージとか言うAI、アーサーよりも数段性能が上とみた。

 

サクナヒメの能力の分析だけでは無く、恐らくデメテルとケンシロウの接近にも気付いていた節がある。

 

装備も基礎能力も段違い。

 

まだ力が戻りきっていないとは言え、サクナヒメが押されるわけである。

 

もしもヒメネスが単独で遭遇したらどうなっていたか。

 

はっきり言って、考えたくも無かった。

 

震えをどうにか殺すと、デモニカで通信が来る。

 

聴取をしたい、と言う事らしい。

 

まあそれはそうだろう。

 

サクナヒメは相当なダメージを受けていたし、これから回復に入るだろう。

 

だとすると、ヒメネスのデモニカで得られたデータと、それに証言が重要になってくる。

 

さらわれたというゼレーニンとノリスとか言う奴に興味は無い。

 

ゼレーニンは悪魔嫌いを公言して、護衛の悪魔も使っていないような状態だったのだ。それにノリスとかいう奴は覚えてもいない。大した奴でもないだろう。

 

命が簡単に吹っ飛ぶのがこの場所だ。

 

だから、二人とも死んだと考えるべきだと、ヒメネスは思っていた。

 

ともかく、聴取を受けに行く。

 

艦橋に出向くと、真田技術長官と。何体かの悪魔から回復魔法を受けている最中のサクナヒメ。

 

それにケンシロウがいた。

 

ストーム1とライドウは出ている様子だ。

 

ゴア隊長と正太郎長官の姿もないが。

 

恐らく外で部隊の指揮を執っているのだろう。陽動部隊を再編成して、方舟の周囲を分厚く固めているのだと見て良い。

 

春香は、周囲を見回す限りいない。

 

休んでいるのか、それとも外に出ているのか。

 

まあ、どうでも良かった。

 

「わしからは以上じゃ。 いずれにしてもアレックスと呼ばれていたが、今のわしら以上の実力と見て良い」

 

「デモニカにより能力は上がる。 いずれ追いつける」

 

「……だといいがな」

 

サクナヒメは、既にあのデメテルという突然現れた女神についても説明を終えていたようである。

 

真田技術長官が、データベースより調べ上げていた。

 

「デメテルとは、また有名な神が出て来ましたな、姫様。 ギリシャ神話のオリンポス十二神と言えば、日本でも有名な神の一角ですよ」

 

「わしには分からん」

 

「俺も名前だけなら聞いた事はあるが……真田技術長官、どういう存在なんで?」

 

「……私も専門家ではないが、ざっとかいつまむとギリシャ神話は骨肉の争いを描いた神話でな。 大御所政治や神々の権力の世代交代、内乱や身内同士のいがみ合い。 それらの結末の末に、最後に神々の頂点を勝ち取ったのがオリンポス神族と言われる、いわゆるゼウスの一族だ。 そしてそのオリンポス神族を中心に、オリンポス十二神と呼ばれる神々が存在する」

 

ゼウスか。

 

流石にヒメネスですら聞いた事がある存在だ。

 

雷神としては恐らく世界でももっとも有名な神格だろう。

 

ただ、どちらかと言えば。

 

スケベ野郎としての印象の方が強そうだが。

 

また、オリンポスの神々と言えば、下衆揃いと聞いている。

 

あのデメテルも、腹に一物も二物も抱えているように思えた。

 

「デメテルはゼウスの姉だ。 近親相姦が当たり前のギリシャ神話では、当然のように姉弟で子供も作る。 説は幾つかあるが、ゼウスとデメテルの子がペルセポネという地獄の女神になる」

 

「ハッ。 ただれた一族だ」

 

「古代の神格では珍しい話でもない。 それに古代神話では、人間と同じように子供を作るわけでもない」

 

サクナヒメが頷く。

 

サクナヒメの話によると、無機物と子供を作ったり。何も無いところから子供を産むような話は珍しくもないのだとか。要するに人間とはあらゆる意味で違うのだろう。

 

その辺りは、ヤナトとやらの神々も同じと言う事か。

 

デメテルを見て、小さいのに女の体をしていると判断したヒメネスの目は間違っていなかった、と言う事だ。

 

あれは経産婦だったのだから。

 

いずれにしても、見た目とは全く別の腹黒い神格と判断するべきだろう。

 

「何にしてもあやつには気を付けろ。 もし戦うとなると、アレックスとやら以上に手強いと判断するべきだ」

 

「OK姫様。 それで俺は何を証言すれば良いんだ」

 

「ヒメネス、貴様」

 

「良い。 そなたから見た、戦いの経緯について話してくれ」

 

上官がヒメネスの不遜なものいいに文句をつけようとしたが、サクナヒメがフォローをしてくれる。

 

やりやすい。

 

ヒメネスは、自分から見たあのアレックスという女の言動を余すこと無く話し。所見も述べた。

 

何故かボーティーズという名称を知っている事などは、ヒメネスも気になった。

 

真田技術長官が考え込む。

 

「通信を傍受している可能性もあるが。 だとしてもアーサーが名付けたばかりの名前を使うのは不可解だな……」

 

「それにどうしてかは分からないが真っ先に唯野仁成を殺しに来たぜ。 その後は俺も殺そうとしていた様子だ。 さいわい、俺の方は姫様が守ってくれたが……」

 

「それについては姫様から聞いている。 何か他に気になることは」

 

「……特に気になったことは、憎悪、ですね。 唯野仁成に対して、とんでもない憎悪を向けているのが端から見ても分かったほどで」

 

考え込む真田技術長官。

 

やがて、顔を上げた。

 

「……分かった。 これからの作戦立案の参考にする。 大変だっただろう、少し休んでくれ」

 

「それでは」

 

敬礼すると、艦橋を後にする。

 

サクナヒメを彼処まで追い込む相手。これからどれだけ力が上がるとしても、本当にどうにか出来るのか。

 

不安が募る中、ヒメネスは休む事にする。

 

艦橋で、ヒメネスはサクナヒメを優先して助けようとしたことを責められなかった。

 

唯野仁成が、明らかに致命傷だったからそう行動したのだが。

 

それを責めなかったと言う事は、やはり此処の上層部はヒメネスにとって居心地が良い場所を作ってくれると見て良い。

 

ベッドで横になると、寝る事にする。

 

それにしても、あのアレックスという女。

 

恐ろしかったが。

 

凄まじい強さには、憧憬すら覚えた。

 

あれくらいの強さがあったのなら、それこそ何でも出来るだろう。

 

文字通り幼少期、何にも出来なかったヒメネスは。

 

羨ましいなあと。

 

珍しく、他人をうらやんでいた。

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