Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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役に立たない国連に変わって、第二次大戦後に作られた国際的組織。それが国際再建機構です。

この組織の長は、戦後の混乱期を伝説のロボット鉄人28号とともに駆け抜けた金田正太郎。

彼はシュバルツバースの出現とともに、麾下の精鋭達とともに。世界を救える人材を集めました。


1、スペシャル達

シュバルツバースと呼ばれる謎の光に覆われた空間が南極に出現してから、既にだいぶ時間が経っている。

 

現時点で既に南極の有人基地は全て撤退完了。準備を整える時間が惜しい。

 

ともかくやる事を全てやっていかなければならない。

 

既に探査艇については作成の進捗率が90パーセントに到達。

 

直径140キロまで拡大したシュバルツバースを考えると、時間はかなり厳しいが。

 

各国が渋ることがなく、予定通りの物資が届いたことで、探査艇の完成については目処がついていた。

 

本当はヤマトと名付けたかったな。

 

そう地下の建設空間で、真田志郎は見上げる。

 

巨大な探査艇を、である。現状の形状は、むしろ装甲車に近いが。

 

文字通りの船ではあるのだが。陸上、空中も移動可能。

 

最終的には、将来運用する宇宙戦艦を想定して作られたこれは。

 

文字通りの人類の希望の船となる。

 

真田は昔。

 

そんな船に乗り。

 

二度の死地に赴き。

 

二度目で終わりを迎えた。

 

その時乗り込んだ船の名前はヤマト。

 

今でも覚えている。

 

一度目の戦いからして。勝てる訳がない物量と戦力を持つ相手だった。それを奇蹟に奇蹟を重ねて、何とか勝つことができたのだった。

 

地球はその時既に死に瀕していたが。

 

必死の思いで持ち帰った環境再生装置のおかげで、どうにか息を吹き返すことが出来た。

 

だが。続いた平和は三年ももたなかった。

 

一度目の遠征の成果全てを台無しにするほどの、更なる強大な困難が真田と仲間達の前に立ちはだかったのである。

 

そして、「二度目の奇蹟」は無かった。

 

地球にすら追われるように真田はまたしてもヤマトに乗り込み。

 

クルーに大きな被害を出しながらも最前線で戦い続けた。

 

最終局面まではどうにかいけたと思う。

 

だが其所で、敵の切り札。あまりにも圧倒的過ぎる存在が、牙を剥いた。

 

善戦した地球の宇宙艦隊も全滅。ヤマトも壊滅的な打撃を受けた。それでもなお、敵は余裕綽々。勝ち目なんか、誰がどう見てもありはしなかった。

 

それでも真田は最後に残っていた空間騎兵隊と呼ばれる精鋭達と共に敵の中枢に白兵戦で無理矢理乗り込み。

 

そして敵の動力炉を自ら爆破し。

 

以降はどうなったかよく分かっていない。

 

爆破の瞬間、真田は後悔していなかった。不安もなかった。

 

残ったクルー達が、打撃を与えた敵にとどめを刺してくれると確信していたからである。

 

見届けられなかったのは残念だった。

 

だが、それぞれのクルーがベストを尽くした。

 

間違いなくヤマトのクルーは宇宙最強のメンバーだった。

 

それは断言できる。

 

故に、戦いに関しては心残りは無い。

 

だから化けて出た、と言う訳では無いのだろう。

 

それに、あの巨大な宇宙要塞。白色彗星帝国中枢部の動力は、未知のテクノロジーを用いていた可能性が高い。

 

故にだが。

 

爆破に巻き込まれた真田は。

 

気がつくと、2006年の地球にて倒れていた。

 

真田をたまたま保護したのが、地球の状態を憂いている人物。金田正太郎氏だったのは幸運だっただろう。

 

正太郎氏と話をしながら、やがて意気投合した真田は。

 

どうせ戻る手段も無い。

 

ならば、この後に訪れる危機に対応しよう。

 

そう思い、己の技術を全て提供し。

 

悪くなる一方の世界の状況を憂いていた有志と協力して地球再建機構を設立。

 

人材を集めながら、現在に至るのである。

 

実の所、真田はノウハウを全て伝えたら引退し、未来の人類に全てを託すつもりでいた。

 

そもそもこの地球は、二次大戦辺りからの歴史が、真田のいた地球とは違っている。

 

恐らくはパラレルワールドであろう。

 

そもそも真田の世界で最初に地球に来た脅威、ガミラス帝国が存在しているかどうかも分からない。

 

故に、人類の未来だけを見届けられれば良かった。

 

だが、運命とは残酷なものだ。

 

真田の世界よりも遙かに混乱していたこの地球に追い打ちを掛けるかのように。

 

シュバルツバースが出現。

 

結局の所、真田は地球の危機に対して。またしても、無理筋から立ち向かわなければならなくなったのだから。

 

だが、何処かで生き生きとしている自分も感じている。それは間違いが無い。

 

結局の所、真田は現役で動いてこそその腕を振るうエンジニアであり。

 

新しい技術に触るのは快感ですらある。

 

現状の技術に、真田の持つ技術を全てつぎ込んで作り上げたこの探査艇は。本音ではヤマトと名付けたかったが。

 

国際的な組織だから、日本だけで通じる名前をつけるのも何だろうと判断。

 

最も流通している言語である英語から取り。

 

レインボウノア(虹色の方舟)と名付けることになった。

 

これはそもそも、米国が秘密裏に開発していた四隻の多目的特殊揚陸艇の試作品から着想を得たもので。

 

特殊艇群の旗艦にレッドスプライトという名前がついていたこともあり。

 

いっそのことだからそれらを超える、方舟たる存在と言う事で。

 

そのまま虹色の方舟と名付けたのである。

 

既にフレームは完成しているアークだが。

 

内部にはまだまだ装備が足りないと真田は判断している。

 

そもそも、真田にはヤマトに乗って二度の地獄の旅をやりきった経験がある。

 

長期戦で大事なのは補給やダメージコントロールに起因するタフネスだ。

 

今回は困難な旅になる。

 

それは、地獄の旅を一回やりきり。二度目の途中までやった真田だからこそ断言できる事。

 

勘が告げているのではない。経験者だから分かるのだ。

 

地球内部だから、マゼランまで行く旅より楽というわけでは無い。

 

古き時代、日本からアフリカに行くのが不可能だったように。

 

今の時代の技術では、どれだけ真田が支援しても。たどり着ける場所には限界があるのだ。

 

なお今回の旅に真田は当然同行する。

 

現地に即座に対応出来るメカニックがいる強みを、真田は良く知っている。

 

勿論自分用の研究室も内部に作らせている。最新鋭の3Dプリンタをはじめとする開発機器も完備した。

 

内部が文字通り未知の空間である事は分かりきっているのだ。

 

宇宙よりも更に意味不明な場所かも知れない。

 

それならば。むしろ真田のような研究者には、垂涎の場所なのだとも言える。

 

なお、今度の旅から生還できない事も勿論考えてある。

 

その時のために、真田の知りうる技術は、全て隠してある。

 

幸い正太郎の用意した後継となる人物は信頼出来る。

 

しかしながら歴史の常で、更にその後継が信頼出来るかは分からない。

 

だが、オーバーテクノロジーがいきなり開示されないように、工夫もしてある。

 

22世紀の技術を、21世紀の。それも真田が知る21世紀よりもだいぶ遅れている21世紀の技術が凌駕するとは考えにくい。

 

まあ悪用されることに関しては、大丈夫だと判断して良いだろう。

 

今回、方舟に乗り込む人員は千人を超えるが。

 

メンバーには全て目を通しており。

 

各国の諜報員や。或いはテロ組織に内通している者などは、全て弾いてある。

 

これに関しては、真田だけで出来る事ではなかったが。

 

千人を超える人間が入るとなると色々と必要になるものも多い。

 

ただでさえ、この方舟は原子力空母よりも大きいのである。元々のレッドスプライトが百数十メートルだったのに対し、これは全長四百メートルを軽く凌駕し。米国の空母打撃群の旗艦となっているブルーリッジ級強襲揚陸艦をも遙か超える規模になっている。

 

故に、幹部として真田も。むしろ率先して他の人員には目を配らなければならない。

 

丁度、そんな事態が後ろで起きていた。

 

「もう一度言って見ろやゴルァ!」

 

「まだ少しエイムがぶれている。 基礎訓練を毎日やっていないからだ」

 

「上等だ! あんたがワンマンアーミーとか言われてることは知ってるがな、ロートルがいつまでも最強だと思ってんじゃねーぞ!」

 

「分かった、不満なら実際にやってみよう。 俺もお前も軍人だ。 言葉が正しいかは実際にやって示すべきだ」

 

食ってかかっているのは、ヒスパニック系の精悍な青年。

 

名をヒメネスという。

 

各国で転戦を重ねてきた国際再建機構の戦士であるが。そもそも最貧国のスラムの出身で、非常に野心が強い。

 

国際再建機構の理念にもあまり興味が無いらしく、戦う事で立身出世し、最終的には良い生活をしたい。

 

そんな考えを持っている男だ。スラム出身者らしい、ある意味極めてエゴイスティックな人間で。勿論運が悪ければテロリストやマフィアの用心棒にでもなっていただろう。

 

欲望にも忠実であらゆる意味でぎらついた男だが、戦闘力は確かで。

 

国際再建機構に所属する中ではトップクラスの戦士の一人である。

 

ただし、スペシャルを除けば、だが。

 

彼が食ってかかったのは、そのスペシャルだった。

 

通称ストーム1。本名では無く、コードネームだ。文字通り嵐の如く敵をなぎ倒すことから、この名前をつけられている。出撃から発砲まで戦闘に関する全てのグリーンライトを与えられている、文字通り国際再建機構の切り札の一人だ。

 

日本で採用された最強の戦士で、元々は警備員をしていたらしい。だが実戦に出るや否や即座に頭角を現し。

 

今では文字通り「一人で一軍に匹敵する」「正規軍並みに重武装したテロリストの組織を一人で潰した事が十回を超えている」等々、信じがたい伝説を幾つも持っている。

 

既に中年にさしかかっている人物だが、その戦闘力は文字通り圧倒的。

 

恐らく、真田の知るヤマトクルーにも、彼を超える人材はいない。精鋭、空間騎兵隊の面子を全員束にしてぶつけても勝てるかどうか怪しい。

 

殴り合いになるようなら止めようかと思ったが。

 

軍人なら実力で示してみろと言われた事に、ヒメネスも思うところがあったのだろう。

 

ヒメネスが国際再建機構で開発したライフルで、的を撃ち始める。距離は五百メートル。

 

この地下空間はとても広く作られているので、幾つか演習場はあるのだが。

 

その中で、この射撃場は、戦士達の息抜きのスポットとして知られていた。

 

実際技術を磨けるので、足繁く通っている者も多いのだ。

 

真田も気分転換に、様子を見ている。

 

ヒメネスは流石だ。

 

連射して、十発中九発を的に当てた。的は動いている。しかも五百メートル先である。

 

国際再建機構が独自開発した(真田も技術協力した)スナイパーライフルは現在米軍が実戦採用している対物ライフルよりあらゆる点で性能が上だが、それでも驚異的な記録である。もっと長距離の狙撃成功記録もあるが、連続、それも立射でこれは凄まじい。

 

おおと、周囲から声が上がる。

 

ヒメネスも、自慢げに鼻を鳴らしていた。これならば、自分の腕を自慢するのも当たり前だと言える。真田も普通に凄いと思った。

 

しかし、世の中上には上がいるのだ。

 

「どうよ」

 

「見ていろ」

 

ストーム1が、的の速度を加速させる。更に、距離を百メートル伸ばした。

 

ヒメネスが流石に黙り込む。

 

そして、ストーム1は完璧と言える立射の体制を取ると。

 

何もプレッシャーがないかのように、淡々と射撃を始めた。

 

まるで人間兵器だな。真田はそう思った。

 

1、2、3、4。

 

的を弾が貫く度に、さっきまで上がっていた喚声が止まる。明らかにヒメネスの射撃より安定している。素人が見ても分かる程に、その立射は美しすぎ。狙撃は完璧すぎる。

 

カウントは10まで続く。

 

そして、的を取り寄せると。その全ての中央が、貫かれていた。

 

流石にヒメネスも当てるのが精一杯だったのに。文字通りの神域の技である。

 

わなわなと震えるヒメネス。ストーム1は別に嘲る様子も無く、淡々と言った。

 

「もっとお前は伸びる。 視力に頼りすぎないで、基礎を更に磨け。 いずれ全ての技術で俺を超える事も可能なはずだ」

 

「……分かった。 そうする」

 

「ああ。 頼りにしている。 そして俺を超えろ。 俺はお前が言う通りロートルで、俺のようなロートルが一番のままではいけない。 お前のような若い力こそが超えていけ」

 

ストーム1は淡々と感情が見えない声で言い、そしてその場を去る。

 

ヒメネスはしばらくバツが悪そうにしていたが。ストーム1が掛け値無しに実力と将来性を認めてくれていることも理解したのだろう。

 

やがて思い直したように、射撃場に向きなおり。狙撃を延々とし始めたのだった。恐らくは言われた事が正しいと思ったのだ。

 

周囲は誰も声を掛けない。

 

空中にいる戦闘ヘリから狙撃を続け。地上、しかも四㎞先にいるテロリスト数百人を根こそぎ撃ち殺したというストーム1の伝説を思いだしたのかも知れない。

 

それは伝説では無く事実だ。

 

しかも一発も外さなかった。

 

あいつは人間じゃ無くて、ムービーヒーローだ。宇宙人が来ても、あいつには勝てないのではないだろうか。

 

そんな噂がある事も、真田は知っている。

 

まあそれはそうだ。

 

適切な装備を渡せば、あいつに近代戦で勝てる奴はいないだろうとも思う。今回、近代戦を考慮した場合の最高のスペシャリストである事は確定だ。

 

ふっと鼻を鳴らす。

 

そして、作業に戻った真田に、声を掛けて来る者がいる。

 

ロシアの女性学者ゼレーニンである。一応士官待遇で国際再建機構に所属している。なお米軍にも所属していた時期があり、その時には中尉だった。

 

ロシアの女性は美貌で知られる。彼女も例外では無く、クリーム色の髪と抜群のプロポーションが強烈な印象を周囲に与える。なおロシア人なら「ゼレーニナ」が本来なら普通だが、色々な理由で米国に移住したときに「ゼレーニン」とアメリカ風に名前を少し変えた経緯があるらしい。

 

国際再建機構には四年前に参加したが、その時既に飛び級を重ねて博士号を持っていたいわゆる才女であり。真田が最も期待している右腕役だ。

 

「真田先生、この機構についてなのですが……」

 

「どれ。 見せてみなさい」

 

「はい。 この可動部分、無駄が少し多すぎるように思います。 今からでも少し設計を見直しては。 現状の進捗なら可能かと思うのですが」

 

「これについては、敢えて遊びの部分を設けてある」

 

即答する真田。

 

ゼレーニンはどうも杓子定規な部分があるが、自分を正しいと即座に決めつけず真田にはよく質問をしてくる。

 

固定観念を持たず質問をしてくる相手ほど頼もしいと真田は思っている。

 

故に、自分の設計の意図をいつも必ず正確に説明するようにしているのだ。

 

「積み込む物資の事を考えると、遊びを入れている余裕はあるのでしょうか」

 

「長期戦になるかも知れない。 内部にはあらゆる生きるための設備を組み込んであるが、一番重要なのは生存能力だ。 ちょっとやそっとの攻撃で撃墜されたり大破するようでは話にならない。 ダメージコントロールと生存性の向上のためにも、少し余裕を持った造りが必要なのだ」

 

「……分かりました。 もう少し見直してみます」

 

「うむ」

 

真田は勿論質問魔ゼレーニンを嫌がっていない。

 

こんな細かい所まで疑問をぶつけてくるゼレーニンを好ましく思っている。

 

実際問題、有望な人材だ。

 

出来れば後を継いでほしいが。

 

さて、どうなるか。

 

どうにも、ゼレーニンには少し思考に柔軟さが欠けるきらいがあるように思えるのだ。

 

真田が知る最高の船乗りは、柔軟な戦術を得意としていた。

 

臨機応変はいい加減の別名だが、彼のは違った。老練と言う言葉の見本で。状況から即座に最適解を見いだす文字通り天才的戦術家のそれだった。

 

学者も同じだ。

 

新しい発見があると、今までの定説がひっくり返る事なんて当たり前なのだ。ましてやこれから向かう先は、人類の知識が通用するとは限らない。真田が挑んだ星の海だってそうだった。

 

未知に挑むには知識は当然、その上で常に余裕と遊びが必要だと真田は考えている。

 

ゼレーニンは、スペックは問題ない。

 

問題はもっと柔らかい頭がほしい所なのだが。

 

それを今後得られるかどうか。

 

ゼレーニンは若い。きっと大丈夫だ。

 

そう真田は思い直すと。

 

クレーンの様子を見て、少し不安になった。勘が適中。立ち上がって叫ぶ。

 

「7番クレーン、止めろ!」

 

「はい?」

 

「作業員達、退避!」

 

「は、はいっ!」

 

次の瞬間。物資を搬送していたクレーンがバランスを崩した。

 

あっと言う間も無く、荷崩れが起きる。急ピッチの突貫作業でやっているのだ。どうしてもこういうことは起きてしまう。

 

コンテナが崩れて作業員が巻き込まれたように、真田には見えた。

 

すぐに救急班が来る。

 

地下空間とは言え、コンテナの下敷きになったら普通助かりっこない。煙が収まるのを待ちながら、様子を見る真田だが。

 

先に動いていたものがいた。

 

ブルーカラーの服を着込んだ作業員達を、今にも押し潰そうとしているコンテナを。

 

あろう事か生身で支えている。

 

その筋肉ははち切れんばかりで。その上身長も二メートル近い。

 

ボディービルダーのような、作った筋肉では無い。野性的な、荒々しい美しさを周囲に見せつけていた。服装もかなり粗野なジャケットとジーパンである。一応軍籍にはあるのだが、ストーム1と同じく全ての行動にグリーンライトを与えられているスペシャルだ。

 

「すぐに救助を!」

 

救急班が、潰れかけていた人物を皆救い出す。

 

それを見届けると、コンテナを生身で支えていた人物は。余裕を持ってコンテナを降ろしていた。傷ついた様子も無い。次元違いの身体能力である。

 

真田は冷や汗を拭いながら言う。

 

「ありがとうケンシロウ。 貴重な物資と、それ以上に貴重な人員を失うところだった」

 

「……」

 

寡黙に頷くと、ケンシロウと呼ばれる人物は行く。

 

彼は国際再建機構の戦士の一人。ケンシロウである。

 

北斗神拳と呼ばれる、存在が秘匿されていた秘拳の使い手の一人であるのだが。何でも代々非人道的な技術継承を行っていたという。更に兵器の発達で北斗神拳にも限界が見えてきたと伝承者が判断したらしく。

 

現時点で、最後の北斗神拳の使い手になるつもり、らしい。

 

なお四人兄弟の末っ子なのだが。

 

一番戦闘力が高いらしい長兄は現在子育てに忙しく。

 

次兄は国際的な医師団体に所属。

 

三男は孤児院を経営していて、それで手一杯だそうで。

 

北斗神拳を生かしてこの任務に参加してくれたのは、彼一人だった。

 

なお三男は昔兎に角荒れていたらしいのだが、伴侶が見つかってからは落ち着いたらしく。今では地元の名物孤児院長らしい。

 

元々かなり特殊な家庭で、皆伝承者の養子らしいのだが。

 

拳法のことだけ考えて生きてきたような他と違ってこの三男だけは普通にとった養子らしく。

 

それを聞くと、真田も一時期荒れていたという理由が何となく分かる。

 

20世紀末には、この世界の地球はかなり危ない所までいったらしいのだが。

 

それを乗り切った結果。

 

恐らく彼の家族は、負の方向に振り切れることはなかったのだろう。

 

地球は20世紀末から現在まで必ずしも平和ではないが、良い結果だったのだと思う。

 

ケンシロウは単純な肉体戦闘能力では、あのストーム1ですら及ばないと認めている国際再建機構最強のインファイターである。

 

顧問としていてくれている葛葉氏でも勝てないだろう。

 

今回は、何が起きるか分からない。

 

銃火器を持ったテロリストの組織を生身で制圧する実力を持つケンシロウが、今回の遠征に参加してくれるのはとても有り難い。

 

なお戦闘時は気分が高揚するためか多少言動が物騒になるが。

 

普段は寡黙すぎて周囲から困惑されるくらい静かな人物である。生活能力も高くないので、周囲の補助が必須な人間だ。その分、戦闘能力は誰よりも高い。適材適所だから、別にそれで良い。

 

急ぎ足で此方に来る大柄な男性。何人か武装兵を連れている。

 

今回の探索の総司令官。

 

ゴアだ。

 

米軍最強の特殊部隊、ネイビーシールズに元々いた人物で。更には米軍で将官にまで上り詰めた。

 

そこからの国際再建機構への移籍者である。

 

前線でも指揮官としても抜群の戦歴を上げていた、文字通りの歴戦の人物であり。非常に落ち着いた物腰の、長身の黒人男性である。見本のようなたたき上げと言う事で、一般兵からも評判が良く。その落ち着いた言動から上層部にも敵が少なかった。

 

今回、総司令官には是非正太郎長官をという声があったのだが。

 

正太郎は、この方舟の操縦そのものに全力を注ぎたいと明言。

 

その結果、軍事に明るい上人望もあり、国際再建機構の軍事部門の重鎮を務めているゴアが選ばれた。

 

「真田先生。 事故があったようだが、大丈夫か」

 

「問題ない。 少しスケジュールが押しているからな。 仕方が無い事だ」

 

「テロの可能性は」

 

「それはないさ。 私も徹底的に目を配っているからね」

 

念のためにと、周囲に武装兵が展開する。

 

ゴアは非常に有能な司令官で、部下達の信頼も厚い。

 

今回の総司令官役も、正太郎長官が辞退したとき皆が不安になったところに。「ゴアならば」と誰もが納得した人選である。

 

部下に常に気を配り。

 

自身は謙虚である事を忘れない。

 

そんな軍人の鏡のような人物である。

 

熱狂的で、どこか愚連隊的な印象のあった昔の仲間達を思い出す真田。

 

ゴアならば。彼らのまとめ役として、調整を上手くやってくれたのだろうな。そんな風に思う。

 

「先生も、無理はお控えください」

 

「大丈夫。 この程度はまだまだ」

 

「貴方に倒れられては、この方舟はやっていけないでしょう」

 

「本当に心配は無いよ。 君も、少し気を張りすぎないようにな。 ただ其所までいうならば休もう」

 

真田ももう若い身では無い。

 

押し問答をしてしまったが、ゴアの言葉は正論だ。少しだけ、ゴアに言われた通り休む事にする。体中をサイボーグ化している上に、この世界に来てから相応に年月も経っている。真田も、もう無理は出来ないのだ。

 

スケジュールを軽く見て、余裕が殆ど無いことにため息をつくが。

 

そこに、歌声が流れてきた。

 

今回非戦闘員はそこそこの数が参加するのだが。その中の変わり種。

 

隊員達の士気を保つために、参加を志願してくれた。国際再建機構の広告塔。

 

天海春香である。

 

元々日本のアイドルだった彼女だが、二十三歳の時に事務所を離れて国際再建機構に参加。

 

アイドルと言う形で、自分の全てを周囲に届けるという行為を、どうやら最大の形でやりたくなったらしい。

 

以降二年間、国際再建機構の広告塔としてライブをやったり基金のポスターの被写体になったり、活躍してくれている。

 

今回は、過酷な任務になる事が予想されており。真田は少し難色を示したのだが。

 

国際再建機構の士気を保つためには癒やしが必要だと言う意見には賛成だったし。

 

何よりも彼女の影響力は絶大で、あの気むずかしそうなヒメネスまで文句をいう様子も無く手を止めて、歌を聴いている。

 

技術力は兎も角、不快を一切感じさせない歌は難しい。もっと歌が上手いアイドルなんて幾らでもいる。ダンスの技術もしかり。だが総合力で、彼女を超えるムードメーカーは存在しない。容姿も絶世の美女ではないのだが。逆に其所が人を安心させる。

 

彼女は場の空気を飛躍的に改善すると言う点で、最高の人材なのだ。

 

銃を撃ち敵を殴るだけが戦いでは無い。むしろ敵味方を理解し状況を改善する事の方が、より難易度が高く更に効果が大きい戦いとも言える。

 

それを良く理解している真田は、目を細めてしばらく手を止めると。

 

歌が止まった後。自室に戻って、少し休む。

 

他にもやる事がいくらでもある。それに、南極のシュバルツバースは拡大を続けている。

 

今、手を動かすだけが戦いではない。

 

長期的にスケジュールを練るのも戦いだし。

 

もう無理が利く訳では無い体を労るのも、また戦いでもあった。

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