唯野仁成が建物の影に伏せていると、ケンシロウが肩を叩いた。
頷かれる。何となく意図は分かったので、少し下がって、群れて何か喋っている悪魔達から距離を取る。
「あのバケモノみてーな人間が現れたって!?」
「そうなのよ! たくさん殺されたようだわ!」
「とにかくミトラス様に指示を……」
女性悪魔も混じっているが、どうでもいい。
唯野仁成は、身を伏せ。ケンシロウは、何か呼吸法を駆使して、全身の筋肉を膨れあがらせたようだった。
直後、始まる。
城の入り口に群れていた悪魔達に、大火力の、方舟の主砲が直撃したのである。
方舟の武装は、搭載している装甲車やレールガンの比ではないが。前回は空間の問題もあり、本船からの支援砲撃は出来なかった。
だが今回は違う。
文字通り城と歓楽街の間に、砲撃を遮るものは何一つないからである。
更に通信が入る。
ストーム1とサクナヒメが、アレックスと戦闘を開始した、という事である。
ならば、今が好機だ。
大口径の速射砲が、群れている悪魔達を無慈悲に吹き飛ばす。空中に躍り上がり、魔法で反撃しようとする悪魔達には、地対空ミサイルが襲いかかった。
爆裂する悪魔の手足が千切れて飛び散るのが見え。
それもすぐに、蒸発するようにして消えていく。
更に砲撃は城にも行われる。
城には魔法の障壁のようなものが貼られるが。方舟の火力は、無慈悲。その障壁を貫通する。
真田さんはここシュバルツバースに来てから、悪魔の使う魔法についても研究をしていたらしい。
その成果、と言う事だ。
此処はかねてから開発していた。その言葉を真田さんが口にする度に、どれだけ頼もしいか。
恐らく国際再建機構に属していないと分からないだろう。
ほどなく、悪魔達が及び腰になる。
ケンシロウが、頷く。
何となく意図は分かるが、行くぞとか、それくらいは喋っても良いような気がするのだが。喋るのが苦手らしいし、仕方が無いのだろう。
ケンシロウが数体の悪魔を展開。
いずれもが、あの城の入り口に群れていた連中とは段違いの実力者ばかりである。
そして、まだ爆撃が続いている入り口から離れ。先に目をつけていた窓へと、二人で無音のまま接近する。
ケンシロウが振るった拳が、窓をスパスパとスライス。
本当にどうなっているのかあの手は。
中に、乗り込む。
唯野仁成も、悪魔を展開するが。
思わず眉をひそめていた。
周囲にぶちまけられているものは一体何だ。
デモニカが分析後、結果を出してくる。どうやら酸やアルカリの類らしい。ただ、濃度が尋常では無い。
下手に触れると危険だ。
城の中は、白磁の外見と裏腹に、何だかごちゃごちゃと汚らしい。
思うままに汚した。
そんな印象が目立つ。
部屋も幾つもあるが、どういうわけか淫靡な絵ばかり飾られていて。外の張りぼての歓楽街とは雰囲気が裏腹に。白磁の城の内部の方が卑猥である。
困惑する唯野仁成だが。
ケンシロウが従えた妖精ローレライが、辺りを凍らせる。
これで、ある程度は酸とかアルカリも大丈夫な筈だ。
ケンシロウは周囲を見回していたが、やがて一点を見つめた。
「いる。 生きている」
「!」
「周囲に警戒をしろ。 多分迎撃がある」
頷くが。同時にケンシロウが天井をぶち抜いたので、驚いている余裕はなくなった。
上の部屋にいた悪魔達は、もっと驚いただろう。
すぐに装備として渡されているフックロープを使い、上の部屋へとケンシロウを追う。だが、その時には部屋の悪魔は壁や床の染みになり。最後の一匹だけが、ケンシロウの前に立っていた。
その一匹も、ケンシロウの指を突き刺されて。
引きつった顔で命乞いをしていたが。
「た、た、たしゅけて……!」
「死ね」
「ひ、ひひ、ひでぶっ!」
爆発する巨大な豚のような悪魔。
すぐに死体は蒸発していく。
凄まじい破壊力よりも、無茶苦茶な行動に呆れてしまう。そのまま、同じように天井をぶち抜いて、更に上の階に。階段とかエレベーターとか知らないのでは無いかと、一瞬唯野仁成は不安になってしまったが。勿論知っているだろう。今はわざわざ毒まみれの廊下だの階段だのを通っている時間が惜しいと判断したから、こんな無茶をしているという結論で間違いない。
四階まで上がる。
そこは部屋になっておらず、複雑に入り組んだ通路になっていた。
前後から、多数の悪魔が押し寄せてくる。ケンシロウはゆっくり歩きながら、ゴミでも蹴散らすかのように悪魔を粉砕していくが。それでも敵の数が多い。
背後を守りながら、唯野仁成も進む。アサルトを乱射し、悪魔達に支援させる。
ケンシロウが、ぼそりといった。
「今の部屋にいる。 何とか壁を破って、救出をしろ。 俺はしばらく此処で敵を食い止める」
「分かりました!」
確かに鉄の扉が廊下にある。
まずアサルトで射撃してみるが、駄目だ。びくともしない。対物ライフルも試してみるが駄目だ。
悪魔達に頼むが、体当たりしても破れる様子が無い。
ケンシロウは、多数の悪魔を蹴散らすので忙しく、此方にかまっている様子がない。
思案の末、唯野仁成は、冷気の魔法を使える悪魔を出す。
何体かの悪魔が、一斉に壁に冷気の魔法を浴びせる。
ビンゴだ。すぐに溶け始める。
此処が灼熱の土地だと言う事を思い出していた。
ローレライが使ったような、特別な魔法の氷はすぐには溶けないのだろう。だが下級の魔法ではそうも行かないと言う事だ。そして典型的な熱膨張破壊がこれで狙える。
何度かそうやって、熱するのと凍らせるのを繰り返した後。
対物ライフル弾を、一箇所にゼロ距離から何度も叩き込む。
ほどなく、扉が吹っ飛び。
中に入る事が出来た。
だが、ケンシロウも多数の敵を相手に戦闘中だ。少しばかり、厳しいかも知れない。中は、文字通り目を覆う光景である。
多数の裸体の死体が転がっている。どれもゼレーニンとノリスのもので間違いないだろう。ただどれもこれも少しずつ違っている。クローンか何かで増やしたのだろうか。
「誰っ!」
「救助に来た!」
「……人間!? ……助かるわ」
部屋の隅。
デモニカを着込んで、ぐったりした様子の影二人。生体反応は、まだあるが。ノリスのバイタルが特に危険な状態になっている。
何より、ゼレーニンが、唯野仁成の悪魔を見て怯えきっているのが分かった。
何となく、何があったのかは分かった。
「ともかく、此処を出る。 歩けるだろうか、ゼレーニン技術士官、ノリス隊員」
「その悪魔を近づけないでっ!」
ゼレーニンが恐怖に震える。回復魔法を使おうと近付いたハトホルの手をはねのけさえした。
気を悪くした様子も無く、ハトホルが回復を始める。それも、敵意を込めて見返していた。
無理もないか。
此処の悪徳の館で、何が起きたのかは聞いてはならないだろうから。
それに、こういう人質救出ミッションでは、人質を眠らせてしまうのもありだと聞いている。
いずれにしても、時間がない。
「どうやら、手助けが必要なようですね……」
不意に割り込む声。
唯野仁成がアサルトを手に振り返ると。
其所には、何か得体が知れない存在が、降り立とうとしていた。
(続)
原作ディープストレンジジャーニーから登場した重要人物アレックス。本作でもその実力は健在です。
ゼウスには歯が立たなかったものの、アモンを単騎で仕留めるほどの戦闘力を持つ彼女。
まだ力を引き出しきれていない英雄達を凌ぐほどの戦闘力です。
今後彼女が第三勢力として、英雄達の前に立ちはだかるのも原作と同じになります。
そしてアレックスだけではなく、複数出現し始める第三勢力達。
今後の展開をお楽しみに。