本作では一度で成功した代わりに、殺意全開のアレックスがいつ仕掛けて来るか分からない状態。アレックスは実はこの時点で一時撤退を決めていますが、少なくとも方舟クルーの観点からは油断できません。
丁寧な城攻めの下準備が必要なのです。
まあそれも状況は流動的。良く言えば臨機応変、悪く言えば高度な柔軟性云々が求められます。それをうまくこなせるスペシャリストが、本作の方舟にはいるのです。
唯野仁成は、ヒメネスと共に野戦陣地に出向く。
特殊部隊扱いとは言え兵卒だ。まだ作戦内容は知らされていない。
人質救出ミッションが上手く行ってから、二日が過ぎている。その間に体の回復に努めるように言われた。
また、その間にプラズマバリアの範囲を拡げ、周囲の探索をしていたようだが。
唯野仁成は関与していないので、結果については知らない。
分かっているのは、まだ城は健在であり。
簡単には攻め落とせそうにない、ということだ。
ミトラスがしびれを切らして攻めこんでくるなら、それはそれでありだとは思うのだけれども。
まだそんな事になったと言う話は聞いていない。
いずれにしても、現状は進展無しである。
来たのはサクナヒメである。彼女だけで大丈夫かと少し不安になったが。少し遅れてライドウ氏も来る。
「おう姫様、もう体はすっかり大丈夫か?」
「阿呆。 もうすっかり元通りよ。 そんなにわしは柔ではないわ」
「ははは、すまん。 本当にあんたは頼りになるぜ」
「……作戦について話をしたいが、いいか」
サクナヒメに友人のように話しかけるヒメネスを見て、周囲は明らかに困惑しているが。
いずれにしてもライドウが咳払いした事で、周囲は視線をそらした。
唯野仁成も背を思わず伸ばす。
作戦行動を行う事が確定だからだ。
「これからわしと共に調査に出向く。 そなたら二人と……」
「よろしくお願いします!」
頭を下げたその女性には見覚えがある。
最初にアントリアに不時着したとき拉致され、堕天使オリアスに人質にされたメイビーである。
悪魔召喚プログラムを色々四苦八苦して触っていたらしいが。
地道に任務をこなし。戦闘訓練でもそこそこ良い成績をたたき出しているという事もあって。
今回、連れて行ってみるかという話になったらしい。
何より、医療知識がある戦闘メンバーは貴重だ。経験を積めば必ず活躍出来るだろう。確かに唯野仁成もそれらには同意できる。
ヒメネスが、メイビーには見向きもせず、サクナヒメに言う。
「大丈夫なのか? あの赤黒が襲ってきたら、守りきるどころじゃないぞ」
「いや、その可能性は低い」
「?」
「ライドウよ、説明してくれるか」
頷くと、ライドウが話し始める。
基本的に必要な事しか喋らない人物だ。
今回は、余程重要な事なのだろう。
「先ほど、空間転移、スキップドライブの痕跡を検知した」
「スキップドライブ!?」
「そういう事だ。 恐らく悪魔がやったのではない。 この方舟の他に次世代揚陸艦も確認されていない。 そうなれば、消去法だ」
「あのデモニカの赤黒女か……」
ヒメネスの言葉に、ライドウは頷いていた。
つまり、あのアレックスという女は、このボーティーズを離れたという事である。それだけで、プレッシャーがかなり減る。
「それにしても、スキップドライブなんて事、デモニカに可能なんで?」
「先ほど真田技術長官と話してきたところ、理論上は可能だそうだ。 ただ、レインボウノアなら即座に出来るものだが。 デモニカ程度のサイズだと、どれだけのエネルギー効率を持っていたとしても数日は力を蓄えないといけないそうだが」
「なるほどな。 いずれにしても、たった数日で原子炉並みのエネルギーを蓄えられるのかあのデモニカは……」
「というわけで、現場の調査だ。 ゆくぞ」
サクナヒメに促される。
今回はジープを貸してくれるらしい。有り難い話ではあるが、悪魔が出た場合に即応出来るか少し不安になる。
ジープは軍用のもので、後部の座席に重機関銃を搭載している。また、小型のミサイルも十機ほど乗せている。最大時速は130㎞まで出るが、それはあくまで理想的な条件が整った場合。
此処では精々80㎞程度が限界だろう。
メイビーが運転するというので、任せる。
ヒメネスが後部で武器関係を担当。
唯野仁成は、いつでも悪魔を出せるように備えながら後方ヒメネスの隣に。即時対応が一番しやすい助手席にサクナヒメが座った。
ジープが出る。
サクナヒメは腕組みしたまま、喋らなくなる。
恐らく、アレックスが出た場合に備えているのだろう。それにデメテルやマンセマットも、脅威としては同レベルかそれ以上だ。
今の時点では敵対の姿勢は見せていないが、今後どうなるか分かったものではない。
空気がぴりついている中、ヒメネスが話しかけてくる。
「それにしてもデモニカでスキップドライブとは凄いなあ、ヒトナリ。 俺たちのデモニカも、そのうちそんな事が出来るようになるのかなあ」
「或いはそうかも知れないな。 少なくとも、もしももっと優れたデモニカが出来るのなら、いずれ追いつけるかもしれん」
「そりゃあ楽しみだ」
「……雑魚一匹おらんな」
サクナヒメがぼやく。周囲を常に見張ってはいるが。確かに雑魚悪魔もいない。
メイビーは非常に綺麗な運転をする。軍用のジープと言えば揺れが激しいものなのに。このジープは、悪路を行っているのにまるで揺れない。
「コースを変えることは出来るか」
「はい、姫様」
メイビーが、指定された通りのコースで走る。
ヒメネスが思わずサクナヒメに問いただしていた。
「おい、このコースは城から丸見えだぞ」
「だからなんだ。 あの赤黒に手も足も出ないような戦力、わしの相手ではないわ」
「それは分かるが……」
「備えてはおけ。 現状の城の対応能力を知りたい」
メイビーが、ハンドルに力を込めるのが分かった。戦闘が容易に想定できるから、だろう。
唯野仁成もいつ戦闘が起きても良いように備える。
ただでさえ、張りぼて歓楽街の真ん中を移動しているのだ。いつ奇襲を受けてもおかしくない。
幸い、気配を完全消去して襲ってくる悪魔については、ストーム1と真田さんがどうにかしてくれて。
現在では対応アプリがデモニカにインストールされている。
そのアプリがあるとは言え、不意打ちは出来れば喰らいたくない。
不意に、誰かがジープの前に出て。
メイビーが急ブレーキを踏んだ。
とは言っても、運転が綺麗なので、頭を座席に誰かがぶつけるようなことも無かったが。
「誰だっ!」
「……」
「止せ、ストーム1麾下の者だ」
「伝言を預かっている」
見覚えがある。
確かクーフーリンだ。ケルト神話の英雄であったか。感じの良い鎧姿の青年で、ストーム1が大軍を相手にする時に、時々一緒に戦っているのを見た。手にしている槍の破壊力が凄まじい。
手紙を渡されたので、サクナヒメが受け取り、目を通す。
この世界の文字が読めるのだろうかと不安になったが、そういえばこの世界の言葉で喋ってくれている。
その辺りは、この世界に来た時に色々何か工夫がされているのかも知れない。
「ふむ、なるほど。 承知したとストーム1には伝えてくれ」
「はっ」
ふっと、その場にいなかったようにクーフーリンが消える。
ヒメネスがため息をつく。
「心臓に悪いぜ」
「そなたらほどの実力者なら撃たぬという信頼があったという事だ。 あれほどの武人がそれだけの信頼を寄せたのだ。 更に精進せよ」
「ああ、OK姫様。 それで手紙は何だったんだ?」
「ストーム1の方でも偵察をしているが、どうやら城に賊が入った形跡があるようだな」
賊、か。
唯野仁成は話をそのまま聞くが。城にケンシロウと唯野仁成が潜入し、ゼレーニンとノリスを救出した後の事だったらしい。
城の一部に不自然な戦闘跡があり、敵の調査部隊らしいのがいたので、狙撃で仕留めておいたそうだ。
狙撃をやらせたら、ストーム1の右に出る者など存在しない。
不運なことだなと、ちょっとだけ唯野仁成は同情してしまった。
だが、それはそれだ。
「侵入したのは、唯野仁成。 そなたが人質奪回作戦から帰還した少し後ほどの事のようだ。 ひょっとしたら犯人はあの赤黒かも知れんな」
「……少人数に別れたところを叩くつもりであれば、狙う相手が絞られているようなのが気になりますね、姫様」
「その通りだ。 故に敵の情報は少しでも集めておかなければならぬ」
ジープを出すようにサクナヒメが指示。
頷くと、メイビーがまたアクセルを踏んだ。
それにしても綺麗な運転である。殆ど揺れることが無いし、なによりも凄くカーブなども滑らかだ。
助手席にいるサクナヒメが一度も文句を言わない。
それはまあ、これだけ綺麗な運転なら文句を言う場所がない。
ただヒメネスは若干物足りなさそうだ。
ハードロックを掛けながら高速で走り回るのが好きなのかも知れない。
まあ、他人に迷惑を掛けないのなら、それでもまあ良いだろう。今度聞いてみることにする。
程なくして、街を抜け。
荒野の一角でジープが止まる。
唯野仁成なら、狙撃を考えるポイントだが。
さっき、見せびらかすように移動して見せたとき、敵は仕掛けてくる様子が全く無かった。
ストーム1の言葉からも考えて、ひょっとすると敵は幹部級を数人失って、組織が機能不全になっている可能性もある。
ただそれは楽観だ。いつ敵が仕掛けてくるか分からないし、全力で周囲を警戒する事にする。
サクナヒメがまずひょいとジープから降りると、全員展開、と指示を出す。
そして、隠れ家になっていたらしい岩を、顎でしゃくった。
「罠があるかも知れないし、わしが先にはいる。 そなたらは周囲を見張れ」
メイビーが若干緊張した様子で、アサルトを構えているが。
唯野仁成とヒメネスは、悪魔をそれぞれ展開する。
ヒメネスはナーガに加えて鬼を召喚。人間の倍も背丈がある悪魔を見て、メイビーが絶句したようだが。
悪魔はそういうものだと思い直したようで。自身も悪魔を展開する。
エプロン姿の女性悪魔だ。背丈はメイビーと殆ど変わらない。
妖精シルキーとデモニカには表示される。
軽くデータベースを確認すると、いわゆるハウスメイドと呼ばれるタイプの妖精の一種であり。
類種にホブゴブリンやキキーモラなどが存在するという。
日本で言うと座敷童などが似た性質を持っていて。
気のあう人間が家にいる場合は、家事などをしてくれるが。
気にくわない相手の場合は悪戯をする。
そういう妖精らしい。
まあ、比較的無害な悪魔である事は確かで。メイビーのようなまだ悪魔になれていない存在には丁度良いだろう。
くせ者は皆同じなのだ。
シルキーも気にくわない相手は家から追い出すという事で。人間に従順とは言えない存在だが。
それでも危険度はそれほど大きくは無いのである。
ヒメネスはメイビーの方を見ようともしない。
唯野仁成も、周囲を警戒するので手一杯だ。
やがて、サクナヒメが戻ってくる。
手にしている通信装置らしいので、誰かと喋っていた。
「おう。 言われた通りのものを撒いてきたぞ真田よ。 それで……そうか、そうか」
相手は真田さんか。
しばらく話をしていたが、やがて通話を切った。通話を切るのにも四苦八苦していたが。
「このからくりは扱うのが難しいのう。 渡されておるが、戦闘になったら壊してしまいそうじゃ」
「用事は済んだのか、姫様」
「そうじゃな。 唯野仁成、ついてこい。 ヒメネス、メイビー。 そのまま周囲を警戒せよ」
「OK姫様」
ヒメネスは相変わらずメイビーの方を見向きもしない。
まあそうだろうなと思う。
ヒメネスは元々自分が実力を認めた相手以外には感情さえ向けない。
メイビーなんてその辺を飛んでいる羽虫くらいにしか考えていないだろう。
極めて冷酷だが。ヒメネスを冷酷にしたのは産まれ育った環境だ。
近年実戦経験者である唯野仁成も眉をひそめるような無責任な自己責任論が世界に蔓延しているが。
人間一人で出来る事なんて限りがある。
ヒメネス一人に、冷酷な性格に育った責任を押しつけるのは無理がありすぎるというものである。
サクナヒメに促されて、荒野の岩陰に作られている穴の中を確認。
上手に作られているビバークポイントだ。
これなら上手く隠れる事が出来るし、何より環境も安定している。
何かの装置が置かれていたらしい痕跡も確認。
恐らくだが、デモニカを脱いでも活動できる状態だったのではあるまいか。
食事や排泄などは、流石にデモニカを着たままでは対応出来ない。
それらが出来るくらいの環境を、此処に構築していたとなれば。
やはりあの赤黒、一世代以上進んだ技術を持っていると見て良いだろう。もしアレックスを捕らえてデモニカを入手したら、真田さんが狂喜して踊り出しそうだ。
「気になることは」
「たくさんありますね。 食事の跡は……彼処かな。 排泄に使っていたのは、おそらく其所でしょう。 焼いて排泄物の痕跡は消しているようですが」
「ほう、詳しいな」
「俺はレンジャー部隊にいて訓練を受けたことがあります。 排泄物は人間の状態をこれ以上もないほど示すので、出来るだけ処分するようにしています。 教本のような隠れ場所ですねこれは……」
それでも、痕跡はわずかに残っている。
あの赤黒、アレックスと言ったか。
何処かの特殊部隊か何かで訓練でも受けたのだろうか。
そうでないとしたら、自力でこれを身につけたのか。
もし自力で身につけたのだとしたら。恐らくは、最貧国のスラム以上の過酷な環境で産まれ育ち。
それこそ親の顔もロクに分からないような地獄を生きてきたことになる。
あの凄まじい殺気に満ちた目も。それでなら、納得がいく。
一度殺された相手なのに、そういう事情を思うと憎めなかった。
「真田に言われて電波なんとかは撒いておいた。 そなたからの所感はそんなところか?」
「一応デモニカの探知機能で、周囲を徹底的に調べておきます」
「うむ。 ではわしは一旦出る。 外の方が心配だからな。 後は任せるぞ」
「イエッサ」
サクナヒメが穴を出ていくのを見送ると。
周囲を徹底的に調べておく。
焼却処理されている品も一応確認しておくが。
跡を漁られることを想定してか、徹底的に処理が為されていた。
ブービートラップの類は存在していない。
これは恐らくだが、物資が足りないのだろう。
見た感じ、銃弾などは生成できる可能性がまだありそうだが。グレネードなどの物資を補給できるかはかなり微妙そうだ。
アレックスの主力武器はあの光る剣と銃器。
それにデモニカを着ていると言う事は、まだ見せてはいないが悪魔召喚プログラムを使う可能性がある。
その可能性は極めて高い。
後からヒメネス視点の戦闘データを見たが、支援AIらしいのがサクナヒメについて分析している。
あれは、悪魔について詳しい知識が無いと無理だ。
通信を入れる。
既に街の各地にばらまいた電波中継器によって、此処まで通信が届くようになっている。
方舟に通信を入れると。
通信班のムッチーノが応じた。
最初にアントリアで悪魔に人質にされた一人だ。太めだが、気の良い人物である。料理人としてそれなりの技術を持っているそうだが、方舟では料理のしがいが無いと嘆いているとか。
「こちらムッチーノ。 ああ、ヒトナリか。 なんだい?」
「真田技術長官につなげてほしい」
「ああ、分かったよ。 ちょっとまってな」
わずかなノイズの後に、真田長官が出るので。この穴にて収拾したデータを送っておく。
ブービートラップなどが無い事なども含めて、特殊部隊としての訓練を受けた者としての所感を述べておくと。
真田さんは、嬉しそうに返してくれた。
「サクナヒメはその辺り専門家ではないからな。 君を行かせて正解だった」
「有難うございます。 それでやはりアレックスは別の空間に転移したと言う事で間違いないと」
「恐らくはそうだ。 ただ、行き先まで分かる程方舟のセンサはこのシュバルツバースに馴染んでいない。 ただ少なくともアントリアでは無さそうだ。 未知の空間に飛んだことは間違いない」
「分かりました」
一瞬だけ、平和が戻ったアントリアが脅かされる事を危惧したのだが。
その様子はないか。
後はサクナヒメに指示を仰ぐようにと言われたので、敬礼して通信を切る。
データは送った。此処にはもう用は無い。
それに、あのアレックスがいないとなると。
まだデメテルやマンセマットの行動が不安ではあるが。
ミトラスの城に対する攻勢を掛けるなら、今が好機と言うことを意味もしている。
穴から出ると、サクナヒメが此方を一瞥した。
頷く。
もう此処には用は無い。用が無いなら、時間がもったいない。撤収だ。
「よし。 では軽く寄り道をしてから戻るとするか」
「燃料は大丈夫ですが、出来れば寄り道は……」
「たわけ。 遊びに行くわけではないわ」
意見しようとしたメイビーが首をすくめる。
どうにも気が弱い。
医療なんて戦場と同じだと聞いた事があるのに。この気の弱さは色々問題だと唯野仁成は感じた。
或いは、医療班でもこの言動を問題視していたのかも知れない。
医療の知識とスキルはある。
後は気が弱いところだけをなんとかできれば。
そういう考えは、医療班の上層部にあったのかも知れない。
いずれにしても方舟のメンバーに抜擢されるほどのスペシャリストだ。欠点を補って余りある程の知恵と技術を持っていたと言う事なのだろう。
ジープを出す。
さっきよりも、更に大胆に城に接近する。悪魔は此方を見ると、さっと引っ込んで、影から伺ってくる有様である。
狙撃を仕掛けてこようとさえしない。
この様子だと、やはり相当指揮系統他が混乱していると判断するべきだ。
その上、砲撃されて破壊された箇所も修復した様子が無い。
これは、攻めこんでくれと言っているようなものである。
「止めよ」
ブレーキを掛けて、綺麗にジープを止めるメイビー。
ひやひやしている様子だが。
サクナヒメは大胆に城に近付いていくと、槌に持ち替えて城に一撃を浴びせていた。勿論サクナヒメが近付いてくるのを見て、悪魔達は引っ込んで隠れた。
城がぐわんと揺れる。
魔法の障壁も復活している様子が無い。城の地盤に、一撃入れたという印象だ。
「相変わらずとんでもねえパワーだぜ」
「しかも、アレックスはあの一撃を耐え抜いたんだろう」
「ああ、ぴんぴんしていやがった」
「……強くならなければならないな」
ヒメネスと頷きあう。
サクナヒメは戻ってくると、助手席にひょいと飛び乗る。
ジープにも慣れてきたらしい。
「もう良い、船に戻れメイビー。 運転は行きと同じように快適にな」
「分かりました」
すぐにジープを出す。
唯野仁成は、帰路に奇襲を仕掛けてくる相手がいないか警戒を続けていたが、どうやらその様子は無さそうだ。
ただ、方舟近くで悪魔に遭遇。
メイビーが慌ててブレーキを踏んだが、機動班の展開した偵察用の悪魔だった。
それが分かるように、電波探知機をそれぞれ持たせているのである。
唯野仁成とヒメネスもそれぞれ応じようとしたが、サクナヒメは腕組みしたままあくびさえしていた。
殺気を完璧に察知していたのだろう。
流石と言う他無い。
同士討ちが起きたという話は聞いていないが。まだ慣れには時間がいりそうだな。
そう、唯野仁成は思った。
偵察の悪魔は、そそくさと去って行く。
まあ、味方である事が分かったのなら、それでいい。
方舟に到着。
サクナヒメはひょこひょこと歩いて奥に。報告は任せると言われたので、敬礼して指示に従う事にする。
「ヒメネス、メイビー。 報告は俺一人で充分だろう。 先に戻ってくれていて大丈夫だ」
「マジか。 ありがたいな。 じゃあ先に休ませて貰うぜ」
「ああ。 戦闘時は代わりに頼りにしている」
「任せておけ」
ヒメネスが奥に戻っていくのを確認。メイビーも一礼すると、少し疲れた様子で帰って行った。
後は、報告を直接済ませて終わりだ。
デモニカで見た映像などは、全て情報を分析するチームに送られているので、報告書などは必要ない。
何しろ全データが残されて、更に送られている状態なのだ。
報告書のような無駄なものを兵士がそれぞれ書く必要はない。
これだけでも、デモニカ様々であったりする。報告書作成の苦労は、社会人になった事があれば誰でも知っていることだ。その手間を減らせるのは本当に嬉しい。
船内に入って、ヘルメットを脱ぐ。
デモニカは閉塞感などが殆ど無い画期的な極地活動用スーツだが、それでもやはりヘルメットを取るとだいぶマシになる。
艦橋に出向き、報告を済ませる。
正太郎長官とゴア隊長が話をしていたが。敬礼をすると、話を聞いてくれた。
真田さんはいない。
多分、もう持ち帰ったデータを元に、研究室で嬉々として作業を進めているという事なのだろう。
「偵察任務、ご苦労だった。 それでは呼び出すまで休憩を取るように」
「分かりました」
恐らく次は城攻めだな。そう唯野仁成は軍人らしく考えた。
勿論、まだデメテルやマンセマットの動きは気になるが。
それ以上に、情報を仕入れた以上。こちらから動くのが定石だ。
兵は神速を尊ぶの言葉通り。
敵が体勢を立て直す前に、一気に叩くのが此処では最良だと言えた。
シャワーを浴びた後、軽く眠る。その後は、動いた分のエネルギーを食事をして補給しておく。
食事を終えた後、軽く銃器の手入れをする。
更に銃器を強化するという噂が流れてきている。既に機動班以外にも、AS21が行き渡っているらしく。
ライサンダーの廉価版対物ライフルも、機動班それぞれに配布される予定だそうだ。
更に、デモニカでの通信を確認すると。望む人間には剣を配布する、とある。
剣か。
サクナヒメが言っていた通り、アサルトライフルではどうしても対応が出来ない相手が今後出てくる可能性が高い。
例えば一撃一撃相手に必殺級の攻撃をたたき込めるようなストーム1レベルの使い手だったら話は別だろうが。
唯野仁成やヒメネスくらいの実力では、そこまではいけない。
其所で、剣か。
確かにデモニカによる基礎能力強化つきなら、剣はありかもしれない。
もし剣を使う場合は、デモニカによるサポートだけではない。サクナヒメやライドウ氏が、指導に当たってくれるそうだ。
ただ、現時点で剣を使う、という事で。応募をしている兵士はいないらしい。
まあそれはそうだろうとも思う。剣なんて武器。既に廃れて等しいのだ。
警棒やナイフなどを使う者はいるが。
剣は流石に、色々な戦場で実戦を重ねてきた唯野仁成も見た事がない。
勿論間合いにさえ入れば、銃よりも強い事は事実だが。
巨大な体格を持つ悪魔の懐に入り込み、剣で一閃するには。相当にデモニカで己を強化しないと無理だろうし。
何よりも敵の巨大な肉体は、凄まじい速度での暴力も産み出す。
その懐に入るには、相当な勇気が必要だ。
しばらくして、通信が入る。
予想通りだった。
「機動班はこれより、ボーティーズの城に第二次攻撃作戦を開始します。 作戦の目的は、威力偵察。 ミトラスの居場所の確定です。 また、この作戦で敵の戦力を正確に見極める事も視野に入れます」
アナウンスは春香の声だ。
機動班のクルーが、やれやれと皆動き出す。
アレックスというイレギュラーの出現。更に立て続けに出現した複数の第三勢力の事もある。
皆が不安になっていたが。春香の声で、だいぶ不安が緩和されたのだろう。
それぞれのデモニカに、作戦内容は指示が来る。唯野仁成は、ヒメネスと合流し、外に出るようにと指示があった。
こう言うとき、ヒメネスは行動が早い。
待ち合わせの地点で、既にヒメネスは待っていた。新しい悪魔を連れている。かなり大柄な悪魔で、鬼の一種のようだが。顔に穴のようなものが空いている。不可思議な造詣である。
「そいつは、新しい悪魔か?」
「ああ、支給されたマッカを使って、悪魔を色々合体させてな。 ギリギリ俺の今の力でも召喚できるようだから、作って見た。 妖鬼スイキだ。 強いぜ此奴は」
無言でデータベースを調べる。
どうやら古代日本に実在した反乱者が伝承の中で悪魔化した存在らしい。いずれにしても、伝承で尾ひれがついて、人間だった存在が強大な鬼へと変わっていったのだろう。
「そうか、では俺の悪魔も紹介しておく」
唯野仁成も悪魔を召喚する。
仕事をしっかりこなしている分、回収したマッカを此方に回してくれているので。
それを利用して、悪魔合体を繰り返して、従えられるギリギリの悪魔を作れる。
これは有り難い話だ。
また、作った悪魔はデモニカのデータベース経由で情報が拡散され。他の機動班も力量が追いついたら召喚できるようになっている。
召喚した悪魔は、双頭の獅子のような姿をした、見るからに威圧感の強い悪魔である。
魔獣オルトロスという。
魔獣というのは、神話などに登場する通常の獣を逸脱した存在につけられる分類であるらしい。
これが神々の乗り物となったり、或いは神々に近い知性が高い連中になると「神獣」になり。
その逆に邪悪で獰猛な人知を越えた野獣になると「妖獣」になる。
獣は神話には多数出てくるので、これらの細かい分類が必要なのだろう。
なおオルトロスはギリシャ神話にて、オリンポス神族の敵として作り出された魔獣であり、かなり強力な存在だ。
「おっ。 そいつも強そうだな」
「ああ。 上手く行けば、俺たちでミトラスを仕留められるかも知れない」
「……そうありたいもんだぜ」
通信が入る。
これより、ミトラスの城に攻撃を仕掛けるという話だった。
スペシャル達は見かけない。既に城の近くにいるのかも知れない。
いずれにしても、兵卒である唯野仁成は。
指示を受けたとおり、動くだけだ。