「お前か魔王ミトラスとかいう変態ヤローは」
ヒメネスが最初に啖呵を切る。
これは、注意を分散させる意味もあるだろう。殆ど無傷でここまで来ているサクナヒメとケンシロウの事もあるが。
リスクは分散させるに超した事はないからだ。
ミトラスは、ぼろぼろになった玉座で、退屈そうに上半身だけで頬杖をついていたが。
やがて、にやりと笑うと。空中に浮き上がっていた。
「そうよ、人間とその走狗ども。 アタシが魔王ミトラスよ」
「もう部下は助けにこねえぜ。 観念して両手を上げな」
「人間に降伏しろって事? 面白い事を言うのね」
男性の逞しい上半身を持ちながら、オカマ言葉で喋るミトラスは、ちょっとギャップが強烈である。
とはいっても、此奴がゼレーニンとノリスに何をしたかは、デモニカの記録に残っている。
今すぐブッ殺してやりたいが。
ヒメネスが気を引いている間に、準備を進めておく。
「あんたみたいな雑魚に興味は無いわ。 其所の二人。 どうやってアタシと戦うつもりかしら?」
「何だ、わしとケンシロウの事か」
「何処かの異教の神のようね。 アタシは魔王ミトラス。 人間に貶められし、元司法神よ」
「そうか。 わしは武神にて豊穣神サクナヒメ。 力はまだ戻りきっておらんが、ヤナト随一の武神よ。 そやつはケンシロウ。 寡黙だが驚天の技を持つ。 後ろの二人は唯野仁成とヒメネスだ。 まあ短い時間、覚えておけ」
「そうしましょうかしらね」
ぴりぴりと、空気が帯電していく。
唯野仁成は、サクナヒメに断ると、前に出た。
サクナヒメは、油断はするなと視線を送ってくる。
分かっている。
勿論、油断などするつもりはない。
「魔王ミトラス。 貴方は何故に、残虐な実験ごっこをしていた」
「あら、唯野仁成といったかしら。 そんな事を聞いてどうするつもり?」
「アントリア……貴方の仲間は焼け焦げた国とかいったか。 其所で知ったが、悪魔とは会話が可能な者もいる。 今後このシュバルツバースを進むためには、知識が少しでも必要だからな」
「おかしな事を言うのね。 貴方たちの旅は此処で終わりよ」
ミトラスは笑いながら槍を構えるが。
すぐには仕掛けてこない。
むしろ、楽しそうに言うのだった。
「冥土の土産と言う奴だから教えて上げましょうね。 アタシやモラクス、それにこの先に控えている者達は、地上を潰すためにまずは人間を知る事から始めたの。 モラクスはストレートに人間を殺す方法を研究したけれど、アタシはもう少し格が上。 人間を知るためには、人間が何故に地球を己の快楽で貪り尽くしているのか、知る必要があると考えたのよ」
「……」
「結果は面白かったわ。 アタシの集めた資料によると、貴方たちは今、スクールカーストとかいう階級制度で幼体の頃から階級を作り、成体になってからも地位確認を頻繁に行って上位の地位にある個体が下位の個体を痛めつけて楽しむそうじゃないの。 それが社会を滅茶苦茶にしていると言う事も承知の上でね」
とんだお笑いぐさだと、ミトラスは失笑する。
案外よく調べているなと、唯野仁成はむしろ感心していた。
自由の国の最先端を自称する米国から、スクールカーストという邪悪な概念が広まりはじめてから随分経つ。
はっきりしているのは。それがロクな代物ではなく。
多くの人間を苦しめていると言うのに、どこの国でも半ば黙認されつつあるという事だ。
そんなものを黙認する学校で育てば、社会人になってもそれがあるのが当たり前になっていく。
古い時代は、日本人はやたらと複雑な作法にこだわるとか、コミュニケーションが難しいとか言われていたこともあった。
だが実際には、どこの国でもそれが変わらないことが分かってしまっている。
国際再建機構では、支援している国の学校などで色々と工夫はしているが。
まだまだ改善には程遠い状況だ。
特に名門と呼ばれるような学校は酷く。内部で大人顔負けの権力闘争が当たり前のように繰り広げられていると聞く。
「人間は弱者を痛めつけてそれを快楽とする。 ならば、それを利用すれば人間をよりよく知る事が出来、より効率よく殺す事が出来る。 それがアタシの結論。 だから人間の快楽を集め、結果最大の快楽である弱い者いじめを極めることにした。 そういう事よ」
「それが、ゼレーニン隊員とノリス隊員を痛めつけた理由か」
不意にケンシロウが前に出る。
凄まじい気迫が全身から感じられた。
これは、下手に前に出ない方が良いなと、唯野仁成は本能的に察知。
ケンシロウは、今。確認するまでも無く全力でブチ切れている。
多分、方舟の中で。一番怒らせると怖いのは、ケンシロウで間違いないだろう。それは、唯野仁成も、ヒメネスと意見を一致させていた。
「あら強そうね貴方。 ケンシロウだったかしら。 だけれども、所詮はに……」
「ほあたっ!」
言い切ることは出来なかった。
ミトラスの顔面が、漫画のように真横に折れたからである。
一瞬にして間合いを詰めたケンシロウが、ミトラスに強烈な右を叩き込んだのだ。
モラクスのそれにも劣らない巨体が、冗談のように揺れた。
ミトラスが無言で反撃に出る。
部屋の全箇所から、凄まじい炎が噴き出してくるが。
サクナヒメが即応。
剣を振るうだけで、炎を全部一瞬で消し飛ばしていた。
更にケンシロウの猛攻が続く。
無数のラッシュが、一瞬にしてミトラスの全身に叩き込まれる。速すぎてはっきりは見えないが、拳では無く指で敵を貫いている様子だ。
ヒメネスと頷きあうと。ケンシロウが飛び退くと同時に総攻撃を仕掛ける体勢に入る。
「あたたたたたたたた、あたたたたたたたたたたたたあっ!」
裂帛の気合いと共に、ケンシロウのラッシュが容赦なくミトラスの全身にくまなく叩き込まれ。
一撃を浴びる度に、ミトラスが情けない悲鳴を上げた。
ぐぎゃ、ぶぎゃ、とか。今までナルシストめいた言動までしていた魔王にしては、あまりにも情けない。
ケンシロウが飛び退くと、それでも流石はミトラス。
魔法の詠唱に入る。
周囲の温度が見る間に上昇。
まずいと判断した唯野仁成は、アサルトの弾丸をミトラスにヒメネスと一緒に叩き込む。
スイキがオルトロスと一緒に躍りかかって、ミトラスの詠唱を阻害しようとするが。
ミトラスが槍を振るって、二体まとめて吹っ飛ばした。
その顔は既にぐちゃぐちゃに潰されていて、既に彫刻のようだった面影は存在しなかったが。
「やってくれたわねええ! アタシの美しい顔に良くも!」
「ほあったあ!」
「ぶげばあ!」
ケンシロウが、とどめとばかりに、腹に一撃を叩き込む。
だが、それでも詠唱は続いているらしい。まずい。
顔面にアサルトの弾丸を集中して浴びせるが、ミトラスは、今、魔法を完成させようとしていた。
だが、静かな声が後ろから掛かる。
「不要じゃ。 もういい」
「?」
ヒメネスが射撃をやめ、下がる。唯野仁成も飛び退き、オルトロスをPCに戻す。今の一撃で、ダメージが限界を超えたからだ。
槍を振り上げると、ミトラスが恐らくは最強だろう魔法を発動しようとするが。
その右腕が。
何の前触れもなく吹っ飛んでいた。
絶句するミトラスが、呆然と床に落ちた右腕を見る。それだけじゃない。全身が、ぶくぶくと膨れあがり始めている。
「こ、これは、これは何っ!」
「……北斗百烈拳。 お前はもう死んでいる」
「こ、こんな、こんなああっ!」
左腕が。脇腹が。次々に膨れあがり、吹っ飛ぶ。
ミトラスは両腕を失っても、まだ鬼相を浮かべて吠え猛る。
それ自体が凄まじい圧力を伴い、吹き飛ばされそうになるが。唯野仁成もヒメネスも、何とか尻餅をつくのは避ける。
全身が次々に爆発していくミトラス。
まるで、彼が弄んだゼレーニンとノリスのコピーが、惨殺された状況が。そのまま彼に帰って行くかのようだった。
「あ、アタシが、アタシが!」
「……」
「せめて一人だけでもっ!」
いきなり口が大きく裂けると、其所から巨大な蛇が出て来て、唯野仁成に向かい来る。
だが、何か仕掛けてくる事は分かっていたから。即座に唯野仁成は手持ちの悪魔を展開。
リャナンシーである。彼女が展開した氷の壁が、二十メートルはあろうかという巨大な蛇の一撃を、相討ちになりつつも防ぎ抜いていた。
蛇が喋り続ける。
これは、人間型の上半身では無く、体内に格納されたこっちが本体だったのかも知れない。
「ば、馬鹿な、馬鹿な……!」
「大半の人間が快楽に溺れ、弱者を痛めつけて楽しむ生物なのは確かだ。 それに関しては貴方の研究は正しかった。 ただ貴方は、それを配下に向けて実践してしまった。 故に負けたんだ」
「ふ、ふふっ……ふはははははっ!」
蛇の体も爆発が始まる。
ミトラスの全身は間断なく爆発し、その姿が元はローマ時代の戦士を思わせる美しいものだったとは思えなくなっていた。
そんな中、ミトラスはまだ笑うのだ。
「どうせ人間の世界は、お前達がいうシュバルツバースに飲み込まれるのよ。 アタシに今負けておいた方が幸せだったと思う程の災厄が、こ、この後訪れる、わよ」
「……それを止めるためにここに来た」
「思い上がりを……! いずれにしてもあんた達の顔は覚えたわ! 魔王ミトラス、一度や二度の敗北なんて、苦にするものですかっ!」
サクナヒメが、剣を振るう。
かなり距離は離れていたが。それでも、蛇の首を吹き飛ばすには充分だった。
同時に、ミトラスの全身が爆裂する。
最後に、ミトラスは、なんだか面白い断末魔を上げていた。
「覚えていなさいっ! 母はもう目覚めているんですからっ! あ、ばぶべ、びべ、うわらばっ!」
まだ形を残していたミトラスの部品が全て爆裂し。
下半身にあった巨大な球体も、内側から吹っ飛んだ。
その石の中には膨大な内臓が詰まっていて、死んだ後もまるで蛇のように蠢いていたが。
部屋中に大量の血が降り注ぐ中。
やがて多くの悪魔と同じように。
霧のようになって、消えていったのだった。
残留物の中に、また知恵の輪のようなものを見つける。あれがロゼッタで間違いないだろう。
やはりアーサーの予想は間違っていなかった。
それと、ミトラスの配下は、戦闘力は兎も角どうもミトラスに信頼されていなかったようである。ミトラス自身が配下達に信用されていなかった鏡写しのように。
故にか。その幹部らしいのを倒しても、情報集積物質は出現しなかった。
やがて、ミトラスの痕跡が完全に消え去る。
唯野仁成は、バックパックから硝子ケースを取りだし。そして、ロゼッタらしいものを回収。
後は調査班の仕事だ。
アーサーの声が聞こえてくる。
「魔王ミトラスの撃破を確認。 ケンシロウ、サクナヒメ、唯野仁成隊員、ヒメネス隊員、お疲れ様でした。 残敵の襲撃に警戒しつつ、方舟に戻りください」
「ああ、そうさせてもらうよ。 最後の最後まで、分かった風な口を利く嫌な野郎だったな」
「嫌な野郎である事は同意だ。 奴は人間の最暗部をそのまま形にしたような輩だった」
「ああ。 俺の産まれたスラムにも、あんな奴がゴロゴロいたぜ……」
吐き捨てるヒメネス。
ケンシロウは先に無言で戻って行ってしまう。
咳払いするサクナヒメ。
「後で反省会じゃ。 わしが介入しなければ危なかった場面が幾つもあったのは分かっておるな?」
「OK姫様。 お手柔らかに、な」
「是非お願いします。 今後の強敵とやりあうためには、更に自分を鍛えなければならないですから」
大まじめに応える唯野仁成に。
本気かよと言う顔で、ヒメネスは頭を掻こうとし。デモニカをつけている事に気付いて、ため息をついたのだった。
ミトラスの部屋はサクナヒメに任せ。
後方で残敵を掃討したストーム1と共に方舟に戻る。
サクナヒメの反省会は後でやるらしいが。ともかく、まずはロゼッタを真田さんに引き渡す事からだ。
真田さんは頷くと、ロゼッタを手に早速研究室に。
ゼレーニンは、天使の護衛付きでミトラスの宮殿を隅から隅まで調べている。戦闘の結果ばらまかれたマッカの回収や。他にも貴重な物資などがある可能性があるからだ。
機動班はその間に宮殿内を徹底的にクリアリング。
また、ゴア隊長がライドウ氏と共に夜魔達の所に行き、ミトラスを撃破したことを報告している様子だ。
まめな人だなと思いつつ、デモニカの戦闘データをアーサーに引き渡す。
そして、一日の休暇を貰ったので、休むとした。
機動班もそれぞれ手分けして休んでいる様子だ。
唯野仁成は、ミトラスの発言を思い出して、ベッドで目を閉じたが。中々寝付けなかった。
ヒメネスにも言ったが、ミトラスの言動は箍を外した人間そのもの。
環境次第で、人間の頭の箍は簡単に外れる。
ずっと昔から、人間は過剰な残虐性に頭を悩ませ、法を作ることでその邪悪な本性を押さえ込もうとしてきた。
明文法と不文律がその両輪だった。
だが、今の時代にもそれが上手く行っているとは、必ずしも言い難い。
ミトラスが、人間の最暗部を再現し。
そしてその言葉がある意味正論だったのも、確かだった。
横になっていると、ゼレーニンから通信が入る。
「休んでいるところごめんなさい、唯野仁成隊員」
「ゼレーニン技術士官、何か問題か」
「いいえ。 ミトラスとの会話の結果を解析したのだけれど、助かったわ。 それに、ミトラスをやっつけてくれてありがとう」
「あいつに致命傷を叩き込んだのはケンシロウさんだ。 礼ならケンシロウさんに」
それならば、もう言ったそうである。
ただ、ケンシロウは戦闘が終わった後は何だかぼーっとボーティーズを徘徊しているらしく。
機動班が困惑しながら付き添っているそうだが。
元から奇行が多い人で、日常生活にも補助が必要なくらいだとは聞いていたが。
ゼレーニンも、それは知っているのだろう。くすくすと笑っている。
同じ場所にいたノリスはまだ目を覚ましていない。ゼレーニンだって、文字通りトラウマを焼き付けられたのに。
それでも笑えるようになったと言うのは、本当に良い事だ。
「それと、いやだとは思うがヒメネスにも礼を言って欲しい。 ミトラスを倒すのには、ヒメネスも勿論協力してくれた。 ヒメネスは最初にミトラスに啖呵を切って、戦闘でも一歩も引かなかった。 癖は強いが勇敢な戦士だ」
「分かったわ。 多分聞いてはくれないと思うけれど」
「……それでは失礼する」
ゼレーニンも忙しいだろうに、義理堅いことだ。
その日は結局ほぼ眠る事に費やし。また悪魔達の回復も進めた。
翌日は、機動班として出て調査班の護衛。
もうゼレーニンはじめとする中核部隊は主要部分を調べたらしく、城を調べているのは他の調査班メンバーだった。
後は真田さんが大体何とかしてくれるだろう。
それに、今回はアントリアの時と違って、方舟はダメージを殆ど受けていない。プラントにも、片っ端から壊している歓楽街もどきをどんどん放り込んでいるので。弾薬などの補給は滞りなく進んでいるそうだ。
調査班は気を抜きがちなので、オルトロスを出して敢えて威圧的に悪魔の恐ろしさを思いだして貰いながら、作業をして貰う。
今回は珍しくライドウ氏が出て来て、周囲に睨みを利かせていた。
不要なことは一切喋らないライドウ氏だ。
唯野仁成にも、殆ど話しかけてくることは無かった。
少し悩む。
船内にへんな女が現れたことを、告げるべきか。
あれはただの疲れが産んだ幻覚だった可能性もある。だが、もしもあれが幻覚でなかったのだとしたら。
悪魔の専門家であるライドウ氏には、伝えておいた方が良いかも知れない。
少し悩んだ末。
任務が終わり、調査班の護衛任務をヒメネスと交代した後。軽くライドウ氏と話をしておく。
通信を入れると、ライドウ氏は別に嫌がる様子も無く、応じてくれた。
「さいふぁー、か。 聞いた事はないが……」
「心当たりはあるんですか?」
「可能性は極めて低い。 だが、唯野仁成隊員の発言を全て事実だとすると。 ひょっとすると、とんでもない大物と君は接したのかも知れない」
そうか、大物か。
もしもあれが悪魔だったのだとしたら。プラズマバリアで守られている方舟に余裕で入り込んで来たわけで。
しかも船内にも、不審な影などは残されていなかったという。
ただものではないのは確かだ。
「もしその存在が俺の思い当たる奴だとしたら、恐らく君や方舟に害を加えてくるつもりはないだろう。 ただ、君を混沌の思想に誘導しようとはしてくるかもしれないな」
「注意をしておきます」
「それにしても妙だ。 俺の仮説ではこのシュバルツバースは……いや、何でも無い」
ライドウ氏も周囲の監視で忙しいだろう。
通信は、用事が済んだら切った。
一応、報告はした。
その後は、サクナヒメに呼び出され、ヒメネスと一緒に反省会をする。
とはいっても、がみがみ言われるようなことは無かった。
剣を渡される。
ヒメネスは今時剣かよとぼやいたが。ただ、アサルトの火力が足りない事は分かっているのだろう。
やむを得ないと、剣を受け取る。
唯野仁成は、剣道の経験は殆ど無いが。ライドウ氏が剣術使いであり、剣を使う事に長けていて、デモニカにも情報が蓄積されていることもある。
手に取った後は、問題なく振るう事が出来た。
剣そのものは、日本刀に似ているが。
シュバルツバースで採った貴重な金属によるものであるらしい。まず構えから、振り方など。順番に教えて貰う。
実は唯野仁成とヒメネスだけではなく、他の隊員も何名か呼ばれていた。その中にはブレアやゴア隊長の姿もある。
いざという時は剣を振るえるようになるべし。
それについては、銃での火力不足を皆が認識していたからだろう。サクナヒメに反発するものは殆どいなかった。
二時間ほど講習を受ける。
その全員分の経験が、並列化されてそれぞれのデモニカに蓄積される。
デモニカとはそういう極地用スーツだ。非常に便利である。
実は、前の世代のデモニカは、それぞれ個人の情報しか反映されず。このため、隊員による格差が大きかったそうだが。
このデモニカは、つけている人数が多いほど強くなる速度が上がると言う事だ。
だが、それでもミトラスの宮殿での戦闘は苦労した。
この先も、まだまだ苦労は続くだろう。
サクナヒメによるお説教タイム改め、剣術講座が終わった後。ゴア隊長が咳払いして声を掛けて来る。
「唯野仁成隊員、ヒメネス隊員。 二人とも活躍めざましい。 皆の中でも成長著しいと評判だ」
「ありがとうございます」
「帰ったらボーナス弾んでくださいよ」
「ああ。 それでだ。 君達には、少し特別な任務をしてほしい」
何だ。
少しばかり、嫌な予感がする。
だが、背を伸ばして話を聞く。
「既にあのアレックスという人物がスキップドライブし、その行き先も特定出来たことは知っていると思う。 次のスキップ先は、ミトラスのロゼッタから解析された場所ではなく、その行き先になる」
「ほう……これは厄介そうだな、ヒトナリ」
「ああ。 少なくともスペシャル二人が同時に行動しないと対処できないでしょう」
「そうかも知れないな。 君達はそのスペシャルと組んで、アレックスが入り込んだ空間の調査をしてほしいのだ。 それほど長居するつもりは無いが」
何でもロゼッタの調査により、更にシュバルツバースの解析が進んでいるらしく。
どうやら悪魔達の証言ともあわせ。このシュバルツバースには、並列するように四つの空間があり。
その上層にも更に空間があるらしいという事が分かってきた。
それに加えて現在、ある実験を進めているらしく。
もう一週間ほどで、外との通信も可能になるらしい。
それは朗報だと思う。
実際、外では国際再建機構の居残り組が苦労を重ねているだろうし。
シュバルツバースがどれくらい拡大しているかも分かっていない。
シュバルツバース内部の情報は、先進諸国も喉から手が出るほど欲しいはずで。
早めに情報を提供しないと、どこの国が何をやらかすかわかったものではない。
これについては、最優先で。急がなければならないのだ。
「三日後に此処ボーティーズを発つ。 それまでに、用事があったら終わらせておくように」
「了解しました」
「ういっす」
ゴア隊長が行く。
ヒメネスが大きくため息をついた。
「そういえばゼレーニンの野郎が、礼を言ってきやがってな。 気色悪いったらありゃしねえ」
「そう嫌がるな。 普通だったら、これほど嫌っている相手に礼など言わないぞ。 筋を通すだけ他の人間より立派だろう」
「あれが使える事は俺も認めてる。 だがな、ペテン師にあっさり引っ掛かったりして、正直俺は嫌いだ。 騙す方が悪いのは当たり前だがな、こんな所では騙される隙を作る方にも問題がある」
その通りだが。あの状況で心を強く持てる者などいない。
実際問題、ノリス隊員は今もまだ正気に戻っていない。
シュバルツバースを脱出するまでに、正気に戻っていられるかどうか。
いずれにしても、翌日からは撤収作業が始まり。
プラントは分解され、回収された。
同時に夜魔達は街に戻り。ミトラスの張りぼての分解を開始。城も壊し始めた。此方に対する害意も認められなかったので。夜魔達の長老と交渉し、物資の交換も行い。また此処に方舟が寄ったときは友好的に互いに接する契約も結んだ。
悪魔は契約に非常に強く縛られる。
夜魔もそれは同じ。悪魔召喚プログラムを使って、契約を行う。それで、相手に出し抜かれる可能性はなくなる。妖精の時に中庸ですらくせ者である事を知っているので、抜かりはない。
方舟の倉庫に物資は充分な蓄積がなされ。ゴア隊長の口から、全隊員に対して、次に転移する空間が、アレックスという第三勢力の人間が向かった先だと言う事、威力偵察で短時間だけ転移することが告げられた。
唯野仁成は一隊員である。基本的に、方舟の方針に口を挟む事はできない。
ただ、短時間だけ威力偵察する。
その事の意味は、充分に理解していたつもりではある。
方舟が浮き上がる。
夜魔達は既に復興作業に全力で取り組んでおり、ミトラスの作った街を壊して元の町にするべく必死に働いていた。
それでも一部は、此方を見て見送ってはくれているようだった。
空間の穴は上空にあるが。
そこに入ってからは、今までの航行記録などを遡って行くしか無い。プラズマバリアだって最初の不時着の時に分かっているとおり万能では無いし、危険は承知の上だ。
ましてや今回は、スキップドライブの痕跡を追うのである。
上手く行くのか。
方舟が加速を開始。
唯野仁成は目を閉じると。上手く行くかなと、ぼやいていた。
あまりにも有名なあの技が炸裂し、結果として散るミトラス。
原作で割と本気で頭に来ていたので、書いていて結構すっきりしました(笑)