本作ではきちんと方舟で空間転移して入り込む流れにしています。
方舟が加速し。
そして空間を跳んだアナウンスが入る。
しばしして、方舟が速度を落とし始めると。機動班は、物資搬入口に集まるようにアナウンスがあった。
勿論唯野仁成は、指示通りに動く。
今回はライドウ氏がでる様子だ。恐らく悪魔の専門家で、総合力が極めて高いから、なのだろう。
また、物資搬入口にはヒメネスをはじめとした少数の隊員しか来ていない。
これは、恐らく相当な危険を予知しているとみた。
少し不安になってきたが。
それでもやるしかあるまい。
唯野仁成は無言で銃器の確認をする。
AS22アサルトライフル。
改良したばかりのAS21アサルトライフルの後継機。これはアサルトだけではなく、ショットガンに切り替えて使う事も出来る。全体的に火力は上がっているが、同時にかなり重くなっているため、デモニカを着ているときにしか使えない。
逆に言うと、普通の状態では重すぎて使い物にならない銃が、デモニカの補助で使えるようになってきている、と言う事も意味している。
ストーム1なら生身で余裕を持って使いこなすそうだが。
あの人はスペシャルなので、カウントの外に置くべきだろう。
廉価版ライサンダーを見る。
此方も長大な対物ライフルだ。
ストーム1が使っているものを、小型化し火力も落としたもので。本来ではあり得ない倍率のスコープと、若干のオートエイム機能がついている。
ストーム1用に開発されたライサンダー狙撃銃を、デモニカつきの一般兵なら使える所にまで落とし込んだ対物ライフルで。
その火力は、携行式艦砲とまで言われるライサンダーには劣るものの、戦車砲くらいはある。
ただ弾ごめが自動で行われると言っても、数秒は掛かってしまうことや。
撃つ度に排熱を経なければならない事もあって。
この廉価版ライサンダーは決して無敵でもないし、絶対の火力がある訳ではない。
二つの銃器をクロスして背負い。
そして腰には剣。
シュバルツバースで採れた金属を加工して作り上げたもので。
鋼鉄を遙かに超える強度と切れ味を誇る。
これに、サクナヒメからのアドバイスを得て、複数の悪魔を展開。付与魔術を掛けて貰っている、科学と悪魔の力のハイブリッドである。
現時点では少数の隊員にしか渡されていない剣。機動班の少数は腰に帯びているし、サクナヒメに指導も受けたが。
それでも不安そうにはしていた。
銃剣突撃何てのがまだ近代にはあったし。
塹壕では銃よりスコップの方が人間を殺したという史実もあるのだけれども。
それでもやはり剣は前時代的に思えるのだ。
だが、唯野仁成は、この武装一式でも体が軽いことに気付く。やはり、デモニカはどんどん強くなっている。
皆も、体を重そうにはさせていない。
真田さんは、使えないものは開発しない。
それに関しては、幾多の戦場で。真田さんが作る兵器が、テロリストやゲリラを鎮圧していった実績から理解はしている。
ただ、やはり唯野仁成は兵士である。
真田さんよりも。現場の兵士として、手にした武器を実際に使ってみてから判断したい。
それは、どうしても訓練時代からの教訓で身についていた。
程なくして、船が降下を開始。
スキップドライブは成功したらしい。
観測班から通信が入る。
物資搬入口のモニタに、映像が映し出されていた。
「何だこれは……」
皆がぼやく。
そこは、生物的というか。
何というか、アントリアともボーティーズとも根本的に違う空間だった。
全体が植物のような構成物で作られていて。まるでそれが全域に拡がっているような感触だ。
しかも七層に渡ってテーブルのように拡がっており。
一番上の層以外は、着陸できそうにもない。
その上、である。
ここ、物資搬入口で。上空にいるだけで分かる。
巨大な悪魔の気配が多数。
唯野仁成にも分かる程である。ライドウ氏は、無言のまま、剣に手を掛けているほどだった。
「此処はまずいな。 現状の戦力で下りる事はおすすめ出来ない」
「何なんだ此処は……」
ライドウ氏がアーサーに対して通信を入れる。ゴア隊長がぼやくのが聞こえた。
ゴア隊長は、恐らく皆を代表してぼやいてくれたのだろう。
この巨大な塔状の階層は、全く持って何なのか意味不明だ。
彷徨いている悪魔の一部が、此方を見ている。あまり気にしている様子は無い。
脅威にすら感じていないのだろうか。
いや、違う。
恐らくだが、もっと全然違う理由だとみた。
「やむを得ない。 一度着地して様子だけを見よう。 アーサー、プラズマバリアを全力で展開し、更に離脱する場合、どれくらい時間が掛かりそうだ」
「二時間という所です」
「此処には何時でも戻る事が出来るか」
「それは既に航路を記録しましたので」
ゴア隊長がならば、と言った。
ライドウ氏は嘆息すると、せめてサクナヒメも此方に回してほしいと言う。サクナヒメと言う事は、近代戦よりも悪魔の力の方が頼りになるという事だ。
サクナヒメが物資搬入口に来る。
やはり、相当に険しい顔をしていた。
「ライドウよ、そなたも感じているようだな」
「ええ。 此処は尋常では無い。 シュバルツバースの裏と言うところか」
「詳しくお願いできやすかね」
ヒメネスが皮肉を込めて言うが。
ライドウ氏も、サクナヒメも。皮肉に対して、ユーモアで返すつもりはないようだった。ヒメネスも鼻白むが。しかしながら、ヒメネス自身も、びりびりと此処のヤバさは感じている筈だ。
「アントリアやボーティーズが警備員付きの豪邸だとすれば、此処はスラムの最深部だと思えば良い」
「それはまた、随分と……」
「上層の方は、まだこの面子ならどうにかいけそうだが、それでも他の隊員を降ろすことは止めた方が良いであろうな」
「同意ですね」
いずれにしても、船は降下を開始。
一番上の層に着地する。
一番上は、丁度蓮の葉のように大きく拡がっていて。それでも彼方此方に巨大な、数百メートルは高さがありそうな木々が生えていて。本当に木々かも分からないそれらが根を複雑に張り、視界が遮られている。
奥の方から強烈な気配を感じるが、流石に今は近付くどころではない。
着陸と同時に、アーサーがアナウンスしてくる。
「この空間はアントリア、ボーティーズとは全く別の空間と判断しました。 故に命名も方針を変えます。 嘆きの胎とこの空間を以降呼称します」
「嘆きの胎?」
「アーサーには考えあっての事だろうよ」
隊員達がぼやき合っている。
皆不安なのはよく分かる。
まず、周囲の状態を観測班が各種センサで確認する。一応、現時点で悪魔が仕掛けてくる事は無かったが。
遠巻きに、何だろうあれと見守っているようだ。
それらの一体一体が、アントリアやボーティーズでは幹部をやれそうな連中ばかりなのは気配で分かった。
ただ、数そのものはさほど多くはないようではあったが。
「此方マクリアリー。 気温21℃、1気圧。 大気組成、地上と変わらず。 毒物も検出できません」
「何だそりゃあ。 デモニカ無しでも活動できるって事か?」
「おいおい、シュバルツバースの中かよ本当に」
「間違いありません。 しかし何があるかは分かりませんし、デモニカを脱ぐようなことは絶対にしないでください」
まあ、デモニカをシュバルツバース内部で脱ぐ阿呆はいないだろう。装備品の恩恵も受けられなくなる。
物資搬入口が開く。
ライドウ氏とサクナヒメが先頭に、外に。
いきなり足が絡め取られるようなことも無い。すぐに周囲に展開して、様子を確認する。デモニカの能力をフルに駆使して、更に情報を集める。
同時に電波中継器を周囲に撒く。
簡単には壊れないし、何よりも埋め込んでしまうので掘り出す労力については考えなくてもいい。
周囲の警戒を終えると、調査班が降りてくる。
ゼレーニンだけだ。
彼女は天使パワーを数体周囲に侍らせていたが。
はて、妙だ。パワーは生き生きしている。秩序勢には、此処の空気は心地が良いのだろうか。
無言で調査班が、機材を使って色々調べているのを護衛する。
ヒメネスでさえ一言も発しない。
此処が異次元に危険だと言う事は、肌で感じているからだろう。軽口を叩く余裕さえないのだ。
しばしして、ゼレーニンが周囲にアナウンスする。
「周囲から、尋常では無い力を持つ悪魔を多数検知。 現時点での此処の探索は、自殺行為だと考えます」
「ふむ、調査班でも同じ見解か……」
「それでどうするのじゃ? さっさと引き上げるか?」
「姫様、ライドウ氏。 多少なりとサンプルがほしい。 もう少し粘ることはできないだろうか」
ゴア隊長の懇願。
今後の事を考えると、どんなデータもほしいと言う気持ちは嫌と言うほどに理解は出来る。
ましてやシュバルツバースには、貴重な物資がいくらでもあるのだ。
サクナヒメは腕組みし、目を閉じて考え込んでいる様子だが。ライドウ氏と目配せをすると、唯野仁成を指先で招いた。
通信装置を操作してほしいと言う意味だと分かったので、すぐに操作する。
サクナヒメ曰く、稲作関連のからくりは散々扱ったのだけれども。電子機器はどうにも不慣れで、苦手だという。
サクナヒメにはいつも世話になっている。
苦手なら、助ける。それが、此処で生きていくための、最低条件である。
「ゴアよ。 プラズマバリアを拡げると。防御力は弱くなると言うておったな」
「真田技術長官の話によるとそうなりますね、姫様」
「よし、ならばわしとライドウ。 それに唯野仁成、ヒメネス。 それにゼレーニン、この面子だけで軽く調査する。 他の者は全て船内に戻り、プラズマバリアで船だけを全力で守れ。 そしていざという時は、全力で逃げよ」
「……分かりました」
サクナヒメのその発言だけでも。この嘆きの胎が如何に危険な場所だと言う事がわかる。
すぐに処置が始まる。機動班クルーが敬礼をして、戻っていく。ゼレーニンはパワーを増やそうかとライドウ氏に言ったが。
ライドウ氏は首を横に振った。
「パワー程度では何体出しても大して変わらない。 天使としては戦闘階級に当たる兵士だが、此処を制圧するにはそれこそ数万を同時に出して、それでも無理だろう」
「そんな、天の兵士が……」
「天使の力は絶対じゃあ無い。 パワーはそこそこ強い天使だが、それは理解していてほしい」
ゼレーニンが悔しげに俯くが。
実際問題、パワーは確かに強そうではあるが。ミトラスやモラクスとやり合わせて勝てるようにも見えない。
或いはマンセマットなら兎も角。中級天使程度では、この辺りの悪魔は荷が重すぎるのだろう。
サクナヒメがぼやく。
「此処はまだ良い方だ。 下の方からは、わしが全力を取り戻していても油断出来ぬ気配を感じる。 それも階層に一つ、強い悪魔が存在しておるわ。 一番下と、その一つ上は、わしの全力でも簡単に勝てそうにないのう。 その他にも、相当に強力なのが多数彷徨いている様子よ」
「おいおい、ただ事じゃねえな……」
「ヒメネスよ、敵を見たらミトラスやモラクスだと思え。 そのくらいの実力の悪魔は此処には幾らでもいる」
「……OK姫様。 すぐに調査をして、さっさと切り上げたいもんだぜ」
ハンドサインをサクナヒメが出したので、クリアリングしながら移動を開始。
周囲は巨大な植物で覆われていて。
それでいながら、ジャングルという雰囲気でもない。
一つの階層は、それぞれ広さが十数㎞四方はある様子で。蓮の葉のような形状の階層が七つ、複雑に絡み合って存在しているようだった。
幸い、アレックスがいきなり仕掛けてくる事はない。
だが、いた様子はある。
不意に、生意気そうな子供みたいな悪魔が飛び出してきた。敵意は無さそうだが。ケラケラ笑っている。上半身は裸で、下半身は無数の紐状の器官に分岐している。調べて見ると、妖魔シャイターンとある。
イスラム教における上級の悪魔であるらしい。
確かに、相当な力を感じる。見かけと力が一致しないのは此処のルールではあるのだが。それでも恐ろしい話だ。
「おっ、また人間か。 少し前に人間の女が来たが、これだけいるなら骨の一本くらいはかじれそうだな」
「人間の女。 赤黒の奴か」
「おお、知り合いか。 いずれにしても、此処を探索するつもりとは馬鹿じゃねえのか?」
銃口を向けられていても動じる気配もない。
サクナヒメもいつでも仕掛けられるようにしているようだが。実力が相当拮抗しているのだろう。
こんな見かけでも、イスラム教における上級悪魔だ。実力は相応なのだろうから。
「此処は一体何だ?」
「どうせ死ぬなら教えてやってもいいか。 此処は牢獄だよ。 あの女はシュバルツバースとか呼んでいたが、この地底の世界が今混沌に大きく傾いている事を知っているか?」
「ああ、それは何となく見当がつく。 どの空間でも、魔王や堕天使と言った混沌勢の悪魔が支配者になっているからな」
「そっか、雑魚どもがそうやってイキリ散らしてるのか。 いずれにしても外からあんまりにも強い悪意が流れ込みすぎて、この世界はバランスが崩れちまったんだよ。 それで混沌勢力が、秩序勢力を大半封じ込んじまったのさ。 此処に閉じ込められてるのは、秩序勢力や中庸勢力の重鎮達。 勿論牢獄だから看守もいるぜ? みんな閉じ込められた連中が脱走しても、取り押さえられる程度の実力だよ」
けらけらと笑うシャイターン。
そして、特にゼレーニンを値踏みするように見ていた。
勿論、エサを見る目だ。悪魔としては、まあ普通の行為なのだろう。だが、ゼレーニンは非常に強い嫌悪を覚えたようだが。
「天使の臭いがするな。 それも上級の奴。 でもどこか違うような……」
「戦う気が無いのであればのけい」
「ん? お前は異教の神か? どっちにしても此処では看守に捕まったらブッ殺されるか幽閉されるぞ。 気を付けるんだな」
サクナヒメを嘲笑うようにして、シャイターンは消えていった。
それにしても凄まじい力を感じた。ミトラスよりも更に数段上だったような気がする。気持ちが悪くなるほどだった。
冷や汗をびっしり掻いているのを感じたが、今はデモニカを脱ぐわけにもいかない。
ライドウ氏が、通信を入れている。
「今、様子を見に来た悪魔であれだ。 探索は早めに切り上げる」
「確かに一般の機動班隊員を降ろすには厳しいな。 戦車師団でもゴミのように切り裂かれてしまいそうだ」
「そういうことだ。 周囲を調べたら、すぐに戻る」
ゴア隊長も、冷や汗ものだろう。
ライドウ氏がせかして、周囲の探索を進める。木陰から、何が飛び出してきてもおかしくない状況だ。
悪魔同士が殺し合いをしている。
混沌勢力の悪魔が、此処も制圧はしているらしい。殺し合いをしているのは、十メートルはありそうな巨人と、小さな人型だったが。勝ったのは、小さな人型だった。
殺した巨人の首を持ち去ると、けらけら笑いながら去って行く。
すぐに消えていく巨人。
巻き込まれたらと思うと、ぞっとしない。更に周囲を見て回るが、あんな感じの殺し合いが、日常茶飯事で行われている様子だ。
周囲に、膨大な痕跡が落ちている。
持ってきている荷車に、ゼレーニンがそれらを回収している。側では、サクナヒメが剣で植物を斬り付けていたが。すぐに再生してしまうようだった。
「ふむ、反撃はしてこない、か」
「姫様、あんたの馬鹿力でも、このいけすかねえ木はどうにもならないのか?」
「どうにもならん」
「そうか」
ヒメネスも流石にあまり饒舌ではいられない様子である。唯野仁成は、周囲をクリアリングするので精一杯。
いつ意識が飛んでもおかしくない。
不意に、サクナヒメが前に出ると、羽衣で一撃を受け止めていた。
それでも、猛烈な衝撃波が周囲を蹂躙する。
降り立ったのは、大柄な悪魔だ。見た感じ、巨大な女性という感じだが。頭は複数存在して、腕は六本。首から髑髏のネックレスをぶら下げている。乳房を露出しているが、色気などはかけらも無い。顔が憤怒に歪んでおり、口元からは凄まじい牙が覗いていて。全身もマッシブで、まるで原初の神話に出てくる荒神だからだ。
口元からは血が滴っており、何かを食べていただろう事が分かる。尋常では無い殺気がとっくに周囲を埋め尽くしていた。
サクナヒメを狙ってきた。という事は、恐らく秩序勢力の悪魔と誤認識したのだろう。
ライドウ氏が剣を抜き、サクナヒメがゼレーニンを守れと叫ぶ。
殆ど一瞬の間もなく戦闘が開始され。唯野仁成は悪魔をありったけ召喚してゼレーニンを守りつつ。
ヒメネスと共に、アサルトで敵女悪魔を狙い撃つ。配下の悪魔には、パワーと共にゼレーニンを全力で守るように指示。
サクナヒメとライドウの二人を同時に相手にしながら、多頭多腕の女悪魔は、苛烈な剣撃を嵐のように叩き込むが。猛烈な反撃を受けてじりじりと押されていく。アサルトはそれほど効いていない。だが、完全に効かないというわけでもないようで、時々鬱陶しそうに此方を見てくる。
強大な敵だが、アレックスほどじゃない。そう認識すると、冷や汗は少し引いてくる。そして、冷静になって、廉価版ライサンダーを引き抜く。
「狙うぞ、ヒメネス」
「へっ、当たり前だ!」
ヒメネスも、同じく廉価版ライサンダーを抜いた。
跳躍した女悪魔が、大きく息を吸い込む。恐らく大きめの魔法をぶっ放すつもりだろう。広域制圧をするつもりだ。だが、させるか。
サクナヒメが、羽衣を撓ませ、跳躍しての追撃の態勢に入り。ライドウ氏がなにか印を組む。
その瞬間。女悪魔の頭の一つが、大きく弾かれていた。
ヒメネスと一緒に、狙い撃ちしたのである。如何にあの身体能力でも、空中ではどうにもなるまい。
体勢を一瞬崩したその瞬間が命取りだ。
跳躍したサクナヒメが女悪魔を飛び越し、其所で羽衣の力を展開。ぴたりと止まる。
そして、ゴムか何かで反発するかのようにして、さながら猛禽のように女悪魔へ、強烈な槌での一撃を叩き込んでいた。
頭がまとめて数個爆ぜ割れ、地面に叩き付けられる女悪魔。
ライドウ氏が何か術式を展開。女悪魔の全身を拘束しているようだ。女悪魔の唯一残った頭が悲鳴を上げる中、更に回転して落ちてきたサクナヒメが背中に全力で突貫。
文字通りのフルスイングで動けない女悪魔の背中に一撃を叩き込み、周囲にクレーターが出来る。
女悪魔が、盛大に吐血する。つまり、今のを喰らっても死なないと言うことだ。そして、ライドウ氏が悪魔召喚プログラムを操作。やがて、堪忍したのか。女悪魔は、ライドウ氏のPCに消えていった。
あれを従える事が出来るのか。恐ろしい実力だと、素直に唯野仁成は思った。
「聞いた事もない悪魔だな。 容姿からしてインド系だとは思うが、既に伝承が失われた存在だろう」
ライドウ氏が今捕まえた悪魔のデータを確認しながらぼやく。
唯野仁成は、今の戦闘をある程度見切れていた。手を見る。デモニカの助けがあるとはいえ、かなり力が上がってきていると言う事だ。
「今のは件の看守だろうな」
「恐らくは。 姫様、まだ余裕ですか」
「ああ。 ただ、そろそろもう少し力を取り戻しておきたいのう。 まだ五割という所じゃ」
「今の活躍、船内の皆もみていたでしょう。 畏怖は力に変わります」
唯野仁成がハトホルを出して、二人に回復の魔法を掛ける。猛烈な剣撃をあの女悪魔とかわしていたのだ。消耗していない筈が無い。
二人は頷くと、もう少しだけ探索すると促してくる。ゼレーニンは意外に気丈で、頷くと真っ先に歩き出していた。
それから、一時間ほど探索を続行。
此処にいる悪魔達は、殆ど周囲に興味が無いらしく、積極的に仕掛けてくるのはあまりいない。
ただ、仕掛けてくる場合は、さっきの女悪魔のような猛烈な殺気で襲いかかってくる。
最初の女悪魔に加えて更に二度、襲撃があったが。
いずれも、サクナヒメとライドウ氏が押さえ込み。唯野仁成とヒメネスは支援しか出来なかった。
だが、分かる。
一戦ごとに、クリアに敵の様子が見えるようになって来ている。
今までもデモニカの補助で強くなってきている自覚はあったが。それでも此処まで成長速度は速くなかった。
ただ、不安もある。
もしもこれが目的でアレックスがここに来ているなら。
次に現れた時は、更に手強くなっている可能性がある。
一度、船に戻る。
デモニカのデータを引き渡して、唯野仁成は戻る。サクナヒメはまだ余裕がありそうだったが。ただ、一番浅い階層の看守でこれだ。もっと下の階層になってくるとどうなるか、分かったものではない。
それに、幽閉されている悪魔はそれと同等かそれ以上の実力があるらしいではないか。
此処が牢獄だというなら、慎重に動く必要があるだろう。
一旦上空に退避すると、春香のアナウンスがあった。
誰も反対はしないだろう。三回襲ってきた悪魔は、最初の多頭多腕の殺意をむき出しにした女悪魔と、どれも大差ない実力だったのだから。
あんなのとやりあってられるか。隊員の皆がそう思ったことだろう。
上空に来ると、殺気は薄れる。恐らくは、看守も、囚人や、侵入者にしか興味が無いのだろう。
船内放送が流れる。艦橋で、幹部が話をしているのだ。
自室に引き上げていたヒメネスは、幾つかある端末でそれを見た。
「此処が牢獄で、秩序勢の重鎮を収監しているという話はどうやら本当のようだな。 もしも此処を制圧出来れば、かなりシュバルツバースの攻略に弾みがつくのではあるまいか?」
「姫様の言う事ももっともだが、第一層ですらあれで、下層に行けば更に敵の力が増すとなると」
「分かっておる。 現状では確かに現実的ではあるまい。 だが今後はそうでもなかろうよ。 何より、此処にアレックスとやらが入ったという事は、奴も此処の悪魔を相手に戦って強くなっていると言う事だ」
「……確かに。 うかうかはしていられませんな」
サクナヒメは攻略に乗り気か。
ゴア隊長は難色を示しているが、それも当然だろう。
これでははっきりいって、攻略どころではない。スペシャル達が総出でも、この先に進めるかどうか。
アーサーが判断する。
「現時点での戦力で、この嘆きの胎を攻略するのは不可能と判断します。 無理に進めば、貴重な人員を失うだけでしょう」
「そうか、そなたはそう考えるのだな」
「電波中継器を経由し、更にゼレーニン隊員が収拾してくれた悪魔の痕跡を軽く分析しましたが、アントリアやボーティーズとはまるで次元が違う悪魔の巣窟となっているのが分かります。 一番上の階層における闘争に敗れた悪魔ですら、ミトラスを凌ぐものがいるようです。 現時点では、得られるものはないと判断。 次の空間の調査を急ぐべきだと提案します」
「やむを得んな。 だが、時々ここに来て戦力を強化するべきだとわしは思う」
それに関しては、アーサーも、他のスペシャル達も反対しなかった。
いずれにしても、空中でしばらく力を蓄えて、スキップドライブの準備に取りかかる事になった。
同室の隊員達も、みんなほっとしている様子である。
まさか、此処までの魔境だとは思っていなかったのだろう。
だが、唯野仁成は手応えを感じた。むしろ、此処に残って修練を続けるべきでは無いかと思ったのだ。
勿論最初はスペシャル達に頼ることになるが。三回の戦いだけで、色々と体が軽くなった気さえする。
ただ、慢心の可能性もあるし。やはり、一兵卒の立場だ。無理は禁物という事で、判断には従うべきだろう。
「それでは、次の空間を攻略後にまた此処を訪れよう。 あのシャイターンだったか、小生意気な悪魔が言うておっただろう。 混沌にこのシュバルツバースとやらが傾きすぎたせいで牢獄が出来たとな。 ならば収監している悪魔を従えれば、大きな戦力になろうし、或いはシュバルツバースとやらの異常を元に戻せるかもしれん」
「分かりました。 それでは此方もプランを練ります」
「うむ……」
会議が終わる。
三時間後に、ミトラスのロゼッタから得られた情報によりいけるようになった世界。捕らえた悪魔などの情報によると、買いあさる国というそうだが。其所に向かう様子だ。
連続でのスキップドライブだが、別に不安感はない。
確実にシュバルツバースの攻略を進められている。そんな安心感さえ、唯野仁成は感じ始めていた。
ただ、それはやはり油断かも知れない。
ボーティーズで死にかけた事を忘れてはならない。
首を横に振ると、意識を引き締める。
不意に、ヒメネスから通信が入った。
「ヒトナリ、いいか」
「ああ。 今は休憩時間だからな」
「さっきの場所、どう思った」
「危険な場所だ。 アレックスが彼処に籠もっているとなると、もたついていると危ないだろうな」
同感だとヒメネスはぼやく。
実際、先の三度の戦闘でも、サクナヒメとライドウ氏がいなければ、唯野仁成もヒメネスも、敵に勝つことなど到底無理だっただろう。
「俺はぞくぞくした。 まだおんぶにだっこでしか行けない場所だが、一人で彼処に行けるようになったらと思ったぜ」
「……」
「彼処を一人で歩けるようになったら、スペシャル達にも近づける。 まあさっきの階層だったら無理だろうな。 姫様一人でも、あの悪魔共には勝てていただろうが、俺たちじゃ動きを少し止めるくらいが精一杯だった。 だが……デモニカに力がたぎるように感じるんだよ」
「いつになく饒舌だな」
やはり、ヒメネスも同じように感じていた訳か。適当に話した後、通信を切る。そして、頬を叩いていた。
気を引き締めないと危ない。ヒメネスは、どんどんシュバルツバースに入ってから、貪欲に力を求めるようになって来ている。それは唯野仁成が、今引っ張られ掛けた感覚に、ずっと浸かっているようなものなのだろう。
別にそれが悪いとはいわない。だが、その先にあるのは恐らく修羅の道だと思う。
シュバルツバースをどうにかして、この世界から脱出する。
それとは、もっとも縁遠い気がした。
無言で、スキップドライブを待つ。
今は、唯野仁成は。誰よりも冷静にならなければならない。そう感じた。