Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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足並みが揃わない先進国に変わって、国際再建機構が主導してシュバルツバースへの突入の準備を進めます。

それには最新鋭の「次世代揚陸艦」と。

極地活動用スーツ「デモニカ」が重要な役割を果たします。

ただしこれらには、国際再建機構の手に渡って以降、大きな改良が加えられる事になります。


2、着実に進む準備

 

シュバルツバースが発生した直後。

 

国際再建機構に、米軍が持ち込んだ装備がある。

 

通称デモニカスーツ。

 

極地での戦闘を想定した、高度AIを組み込んだ多目的パワードスーツ、というのがその概要だが。

 

全体的に完成度がまだ足りないと、真田は考えていた。

 

スーツのデザインはいい。

 

バケツを被ったようなデザインになっているのだが、これについては実用性があればどうでもいいので、気にすることではない。

 

問題は、このデモニカスーツ。

 

個人の素質にあまりにも大きく影響されすぎる、という事である。

 

今、外でレインボウノアの建造に関しては、進捗率が97パーセントを超えており。

 

後は今まで育成してきた現場監督達に任せれば良い状態になっている。

 

また内部での戦略や戦術についての判断は、正太郎長官やゴア、その他隊長達が連日会議とシミュレーションを行い、それに伴う訓練もしている。

 

このデモニカスーツは、非戦闘員の分も。

 

勿論真田の分も用意してある。

 

だが、現状では。

 

非戦闘員は、文字通り着るだけの装備になってしまう。

 

一応、状況に応じてAIがどんどん装備をアップデートし。

 

持ち主と共に進歩していく画期的装備という事になってはいるのだが。

 

このデモニカスーツの改良を、ひたすら真田は続けていた。

 

デザインやネーミングについては、どうでもいい。

 

真田は実用主義者で。

 

他人の嗜好や趣味に口を出すような事もしない。

 

だから「バケツを被ったようだ」と言われているデザインについては、何の興味も無かった。

 

兵士達の士気を下げるかも知れないとは思ったが。

 

それはそれ。

 

真田が考える事では無い。

 

真田の側には、昔ヤマトを支えた高度AIを搭載したロボット、アナライザーをベースにし。

 

強化改良を重ねた制御AI。

 

アーサーの端末がある。

 

アーサーと話をしながら、真田は今。

 

デモニカスーツの改良を進めていた。

 

「並列化の方は上手く行きそうだな」

 

「はい。 ただしネットワークの維持が必要になりますし、スーツの稼働時間にも影響がでます」

 

「元々こういった極地戦用のパワードスーツは、本来は数時間が着用限界だ。 何とかそれを延長し、更には着用が厳しい場合は戻るように警告するプログラムを走らせよう」

 

「それにはストレスなどを総合的に判断するプログラムも自立して走らせなければなりません。 負荷が更に上がりますね」

 

その通りだ。

 

考えながら、真田はデータを入力していく。

 

一応現時点では、デモニカスーツの基礎AIには、様々な極地での活動データが組み込まれているし。

 

兵士達に模擬戦をやらせて、そのデータも取り込んでいる。

 

だが、はっきりいってこれらが役に立たない事も分かっている。

 

交戦がほぼ確定している相手。シュバルツバーツの住人は人間では無い。

 

幸いと言うべきか。

 

強力な迷彩能力については、三度にわたって送り込んだドローンのおかげで、仕組みを解明できている。

 

これは簡単に言うと、シュバルツバースの精神生命体は、相手の心。それも生身の脳、稼働させているAI、関係無く知能に直接干渉する事が出来。

 

総合的な出力が上回ると、相手に自分を知覚させない。

 

そんな芸当が出来るらしいのである。

 

人知を越えた土地だ。

 

それくらい、出来る相手がいてもおかしくは無い。

 

専門家である葛葉から、相手は精神生命体である可能性が高いと聞いていたが。

 

精神生命体故の離れ業、と言う事なのだろう。

 

勿論それらの対策もし。

 

更に元々もデモニカスーツにも改良を重ねに重ねているが。

 

間に合うかどうか。

 

根本的なハードウェアアップデートには限界があるが。

 

それもギリギリまでやりたい。

 

また、アークの内部にある工廠の性能も確認しておきたいので。

 

アップデートの際に、最も優先しなければならない戦闘班のデモニカスーツに関しては、どんどん部品を生産させてもいた。

 

今の時点で各国に物資の追加注文はしていない。

 

現状、不要な品はどんどん鋳つぶして、再利用する仕組みを整えている。

 

アークは文字通りの方舟。

 

千人以上の人間を乗せたまま、その気になれば何年でも何十年でも自立して生活出来るシステムが整えられているが。

 

その一環だ。

 

そして、そんな生活を可能に出来るのかのテストも兼ねている。

 

プログラムを打ち直すと。

 

真田は、何人かの部下にデータを送り。デバッグを頼む。

 

そして、アーサーと軽く話をした。

 

「よし、並列化はこれでいける。 現時点で忌憚のない意見を聞かせてくれるか」

 

「各人の戦闘データを全て取り込み、全員のデモニカスーツにて共用する。 それはスペシャリストの能力が、各員に備わる事を意味しています。 極めて強力なバックアップになるでしょう」

 

「うむ……」

 

「一方で、やはりデモニカスーツの稼働時間には疑問が残ります。 極地戦闘用ですので、どうしても稼働時間を増やす方向で動かしたい。 オミットできる機能はどんどんオミットしなければならないかとも思います」

 

アーサーは良き隣人になりうるAIだが。

 

言う事は辛辣に言ってくる。

 

だが、真田は意見してくる相手が嫌いでは無い。

 

頷くと、プログラムの見直しを行っておく。

 

デバッグは、誰が組んだプログラムでも必要になる。

 

どんな天才でもだ。

 

人間にはどうしても主観がある。

 

その主観に基づいてプログラムを組むから、どうしても矛盾点は生じてしまうのである。

 

これは文章などを書くときも同じであるが。

 

ある程度の割合でミスが出るのは、IQが200あろうが300あろうが同じ事だ。

 

ミスをしない存在などいない。

 

時計を見る。

 

既に出立まで残り一ヶ月を切っている。

 

その時には、シュバルツバースは直径二百キロ以上まで拡がっている筈で。

 

内部で活動する事が許される時間は、更に減ることになるだろう。

 

今すぐにでも出たいくらいなのだが。

 

それが許される状況にない。

 

研究室から出ると、真田はトレーニングルームに急ぐ。トレーニングルームと言ってもシミュレーションで戦闘をする場所ではない。

 

用途を明かしていない、一般的には倉庫としている場所だ。

 

其所で、丁度今。

 

ケンシロウと、ストーム1が待ってくれていた。

 

時間はぴったり。

 

二人ともデモニカスーツを着けている。

 

なお、ケンシロウは怒りと共に筋肉が凄まじい膨張を見せるため、デモニカスーツはそれを見越してかなり柔軟に作っている。

 

如何にこのケンシロウという人物が、人間離れした身体能力を持っていても。

 

恐らくシュバルツバースの極限環境では、生きていけないからである。

 

大昔の宇宙服を着なければいけないような環境だ。

 

既にドローンが送ってきた成分などによると、そもそも人間だったら呼吸を一回するだけで死ぬ。

 

そんな場所では、如何に超人でも耐えられない。

 

「真田技術長官。 俺たちにまた組み手をしろと」

 

「ああ。 相手が人間ならざる存在であることは二人に告げている通りだ。 故にデモニカスーツに可能な限り最高の戦闘学習をさせ、データを取りたい。 出発の前日まででも、な」

 

「だが俺たちが本気でやりあったら確定でどちらかが死ぬ。 そしてそれは恐らくは俺だろう」

 

ストーム1が言う。

 

この部屋内では、だ。

 

元々近代戦のスペシャリストであるストーム1だが、流石にインファイトのスペシャリストであるケンシロウが相手では、この狭い空間では厳しい。

 

ストーム1が力を発揮できるのは広い空間。

 

そう言った場所なら、それこそ千倍の兵力差をひっくり返す男だ。

 

だが逆に、こう言う空間なら。

 

それこそケンシロウの独壇場である。

 

ストーム1も、デモニカスーツでの戦闘で、相当な基礎能力の向上を果たしてはいるのだが。

 

それでも分が悪すぎる。

 

「しかしながら、葛葉氏ですら君には接近戦で及ばないと言っている。 ケンシロウに次ぐインファイトの実力者は間違いなく君なのでな」

 

「やむを得ませんか。 死なない程度にやるしかない」

 

「……しかしそれでは、本来の能力を学習させられない」

 

寡黙なケンシロウが口を開く。

 

戦闘時は饒舌になるケンシロウだが。

 

今は準戦闘時だ。

 

だから、だろう。

 

しかしながら、彼らの懸念は不要である。

 

既に真田は手を打っていた。

 

部屋に入ってきたのは、先に話題に上がった葛葉氏。

 

ある分野の専門家として、顧問としていてもらっている人物だ。

 

この人物も、相当な戦闘能力の持ち主なのだが。

 

ケンシロウやストーム1とは得意分野が違う。二人も、違う分野の専門家として注目しているらしく。すぐに葛葉氏に視線を向けた。

 

「それならば、俺が協力しよう」

 

「予定通りに頼みます。 時に「彼女」の調整は終わったのですか」

 

「いや、「彼女」の調整はもう少し掛かる。 それにクルーには、彼女の事は知らせておかなければならないし、未調整の状態で会わせる訳にもいかないからな。 だが」

 

葛葉氏は、すっと手につける小型PCを操作する。

 

元々は別の媒体を使っていたらしいのだが。

 

これもまた、ある人物から提供されたシステムを利用して作り上げたものだ。

 

デモニカスーツにも組み込んである。

 

ただ、まだ機能としては未開示である。

 

存在は今回の遠征に参加する幹部以上の人間しか知らない。

 

その場に出現したものを見て、ケンシロウもストーム1も、身じろぎ一つしない。

 

既に二人とも知っている。

 

葛葉氏。

 

正確には第十四代目葛葉ライドウが、「悪魔」の専門家であり。

 

「悪魔」を行使して戦う事を。

 

そんなものがいるのかと、最初は真田も驚いたが。

 

実物を見た以上、科学的にアプローチをしていくのが科学者というものだ。

 

実物がいる事を知っていたから、シュバルツバースの無人調査で悪魔が存在する事を知っても、別に驚くことはなかった。

 

何より、シュバルツバースにいるのはほぼ確定で悪魔だ。

 

悪魔の専門家葛葉ライドウには、いてもらわなければ困るのである。

 

「二人には、俺の使役する悪魔と戦って貰いたい」

 

「勿論、殺してしまってもかまわないのだな」

 

「かまわない。 悪魔は精神生命体で、肉体を失ってもマグネタイトと呼ばれる物質を吸収することで復活する事が可能だ。 完全に殺す方法もあるが、今の時点で二人にはその手段が無い」

 

「良いだろう」

 

悪魔、か。

 

そこにいるのは、巨人だった。

 

背丈は四メートルはあるだろうか。

 

赤黒い肌。荒々しい爪や牙。そして頭から生えているのは角。

 

虎のパンツをはき、巨大な棍棒を持っている。

 

見た瞬間、人間だったら勝てる訳がないと尻込みし、逃げ出すだろう。

 

一目で分かる。

 

これこそ、いにしえの伝承に残るもの。

 

鬼だ。

 

葛葉の一族は、日本の影でこういった「悪魔」と総称される存在を狩り、時には汚れ仕事もこなしながら、裏の世界から平穏を守ってきた一族なのだという。

 

中でも十四代目に当たる彼は歴代どころか史上最強と呼ばれ。

 

様々な世界に出張しては、その問題の解決に当たる。

 

それくらい、信頼されている存在であるらしい。

 

なお、葛葉の一族の定義によると、基本的に精神生命体は全てひとしく「悪魔」であるらしい。

 

そうなると神に分類される存在もそうなのだろう。

 

実際問題、同じように人間の信仰によって力を増し。

 

マグネタイトなる物質で実体化を果たすという点では同じであるらしいので。

 

同じ存在、と考えてしまっても良いのだろう。

 

葛葉氏が顎をしゃくると同時に、

 

凄まじい雄叫びを上げて、鬼が金棒を振るい上げた。

 

遅いかというと、そんな事は一切無い。

 

これだけの筋肉質の体だ。

 

降り下ろす棍棒も、本来なら人間がとても対応出来るものではない。

 

だが、この場にいる二人は違った。

 

瞬く間に、左右に跳び離れる。

 

棍棒は、それでも凄まじい動きを見せ、ケンシロウを捕らえるが。

 

なんとケンシロウは、鮮やかな手並みで。

 

降り下ろされた鬼の棍棒を柔らかく受け止めていた。

 

「スローすぎてあくびが出るぜ」

 

挑発されたと思ったのだろう。鬼が激高した声を上げるが。その目から、瞬時に光が消えていた。

 

既に、巨大な対物ライフルを冷静にぶっ放したストーム1の姿があり。

 

その弾丸が、完璧に鬼のこめかみを撃ち抜いていたのである。

 

この対物ライフルは、ストーム1専用に誂えたもので、ライサンダーという。艦砲並みの火力を出せる携行ライフルという無茶苦茶な注文を受けたのだが、真田はどうにか仕上げて見せた。

 

結果、ストーム1にしか使えない、凄まじい銃が完成したのだった。

 

いずれにしても、鉛玉は悪魔には効く。

 

それはドローン探査の時点で充分に証明されていた。今回もまた証明された。

 

なおこの部屋は、シュバルツバース突入の際に展開する予定のプラズマバリアで防備しているため、ライサンダーを始めあらゆる火器をぶっ放しても平気である。

 

瞬時に消える鬼。

 

その消え方は。ドローンが撮影した、シュバルツバースの住人とそっくりであった。

 

完全に同じ存在とは限らない。

 

だが極めて近しい存在であるのは、確定であろう。

 

葛葉氏は頷く。

 

「更に強い悪魔を出していく。 対応出来るか」

 

「問題ない」

 

「……」

 

ケンシロウはやはり、戦闘以外では極めて寡黙だ。今も、こくりと頷いただけである。

 

だが、やはり今までまともにやり合える相手がストーム1しかおらず。

 

しかもそのストーム1も生半可な軍人では手も足も出ないレベルのインファイトは出来ても。残念ながら超絶の拳法の専門家では無いと言う事もあって、色々不満もあったのだろう。

 

彼の兄弟達なら話は別だったのだろうが。

 

皆、此処には来られないのだから仕方が無い。

 

真田はアーサーの端末を持ってくると、データを取る。葛葉氏は、もう一体の悪魔を召喚すると。その悪魔が何か障壁のようなものを、真田と葛葉さん、ケンシロウとストーム1の間に展開した。

 

今度のは悪魔と言うよりも、分かりやすく女神らしい姿をしているが。

 

葛葉氏の定義では悪魔なのだろう。

 

そういうものだと考えて、データを取る。

 

さっきより激しい戦いになると判断し、真田を守るために壁を展開してくれたのは確定である。データの取りこぼしは許されない。

 

葛葉氏が小型PCを操作すると、鬼よりもだいぶ小柄な悪魔が出て来た。

 

だが巨大なサソリに人間の顔がついたような姿をしていて。全長三メートルは余裕である。ケンシロウもストーム1も、鬼よりも強いと一瞬で判断したようだった。

 

「パピルサグだ。 二人ともいけるか」

 

「……やってみよう」

 

「手加減が出来るような相手では無い。 いざとなったら介入する」

 

「甘く見られたものだな」

 

ケンシロウが構えを取ると同時に、巨大人面サソリが雄叫びを上げる。

 

確かにプレッシャーはさっきの鬼の比では無い。

 

「葛葉さん。 パピルサグとは。 神話には詳しくないのでご教授願います」

 

「バビロニア神話に登場する主神エンリルの子の一柱だ。 現在では知名度が下がって信仰が減り力を落としているが、それでもあの通り尋常な人間が相手できる存在ではない」

 

「なるほど、そういうものか……」

 

「パピルサグは兎も角、「彼女」が「農耕」、それも「稲作」特化の神で助かった。 もしもそうでなければ、どのような形で顕現してしまっていたか」

 

頷く。咳払いすると、葛葉氏は。葛葉さんと呼ぶのはやめて、もっとフレンドリーでかまわないと言った。

 

苦笑する。

 

真田も、クルーからは真田さんと呼ばれていた身だ。

 

尊敬すべき相手には、敬意を払いたい。

 

「それではどうしましょうか」

 

「実の所、俺の名前は襲名しているものだ。 だから、どちらかというとライドウの方が良いな」

 

「分かった、以降はライドウさんと呼びましょう。 それで構わないですか」

 

「ああ、そうしてくれ。 真田さん」

 

事実ライドウさんは、平行世界の大正時代から来ているらしいのだ。ずっと年上に当たる。敬意を払うのは当然である。

 

目前で、パピルサグと二人の死闘が繰り広げられている。

 

丁度、パピルサグのハサミをケンシロウが粉砕した所だったが、パピルサグも一歩も引かない。

 

ストーム1の、専用に用意したAS100Fと呼ばれる強力なアサルトライフルの弾丸一斉射を受けながらも、全身の装甲で弾き返している。

 

流石は主神の子、と言う訳か。

 

だが、ストーム1は、もう相手を見きったようだ。

 

マガジンを切り替えると、もう一連射。

 

弾丸が全て関節に食い込み。

 

凄まじい絶叫を上げるパピルサグ。

 

何やら超常の力を展開して、周囲を吹っ飛ばそうとする。

 

アレが悪魔が使う力の一つ、「魔法」なのだろう。

 

だがケンシロウが、残像を作って至近に。

 

顔面に拳を叩き込んでいた。

 

「ほあたっ!」

 

巨体が冗談のように下がる。何というパワーか。コンテナを平然と支えるわけである。だが、そのパワーにすら耐え抜いたパピルサグが怒りと共にサソリの尾を降り下ろすが。

 

なんとケンシロウはそれを指二本で白刃取りしてしまった。

 

流石に唖然とするパピルサグの上に、ふわりとストーム1が乗る。

 

詰みだ。

 

首の関節をゼロ距離からライサンダー狙撃銃でぶち抜かれたパピルサグが、頭と胴体を泣き別れにされ。

 

崩れ落ち、そして消えていく。

 

ライドウは頷くと、更に強い悪魔を出すと言った。

 

真田も立ち会う。

 

持ち込んだアーサーが、データを取得していく。アーサーは、目の前で行われている人外の戦闘に驚嘆しながら言う。アーサーは感情を有するAIだが、それも人間らしく仕上がってきている。

 

「この戦闘力を皆が共有すれば、シュバルツバースの探索は極めて容易になるでしょう」「それは良くない楽観論だな」

 

「真田先生は慎重ですね」

 

「いや、私はそもそも尋常では無い困難の旅を経験している。 そこでは、「常識」等という都合が良いものは存在しなかった。 敵は常に此方の上を行くのが当たり前で、最悪の事態をいつも考えなければならなかった」

 

ライドウさんが召喚している悪魔ですら、シュバルツバースの悪魔に比べたらゴミクズ同然の実力だったら。

 

そうなってくると、探索は極めて厳しいものとなるだろう。

 

だが、ストーム1もケンシロウも、パピルサグより更に強い悪魔をライドウさんが出してきても、余裕を持って対応している。

 

まだまだいけそうだな。

 

そう思って、訓練を続けて貰った。

 

 

 

アークの構築進捗率99パーセント。

 

既に、出発の準備段階に入っている。

 

人員は割り当てられた部屋に入って貰い。この建築に使った地下空間は、物資の撤去も開始していた。

 

シュバルツバースの直径は250キロに達しており、拡大速度も増している。

 

時間は、もう実際には残っていないとも言えた。

 

真田はしっかり戦闘データをデモニカスーツに反映し、並列化も出来るようにした。可能な限り、必要な機能も埋め込んでいった。

 

ライドウさんの技術提供により、幾つもの事が分かっている。

 

悪魔には種族があり、陣営もあるという。

 

秩序、中立、混沌。

 

これが基本になる。

 

基本的に秩序が現在では主を担っているらしいのだが。現在の社会に干渉してきていることは殆どないそうだ。ただし、一番力があるのもこの陣営で、性質は極めて独善的だとも言う。特に一神教の神格がこの陣営にあたるそうだ。真田は宗教に興味はあまりないのだが、何だか現実の宗教家達のようだなと思って、少しげんなりした。真田が知る、宇宙で遭遇した本物の神は、存在に相応しい人格の持ち主だったのだが。

 

一方混沌はどちらかというと秩序の対立派閥にあり、その性質は荒々しい古代の荒神そのものだそうである。

 

生け贄を求め、己のあり方こそが正しいと考え、そして欲望のままに荒れ狂う。

 

原初の世界そのものだが。

 

それはまるで動物だな、と真田は素直な印象を抱いていた。

 

かといって、秩序にもあまり好感は持てない。

 

独善的な思想による一方的な秩序なんてものは、主権国家や独裁政権と同じである。

 

ライドウさんの話によると、悪魔は人間の信仰によってなり立つ存在であり。

 

故に人間を基本的に放っておいて、得られる信仰を元に力を増すのだとか。

 

悪魔が人間の前に不用意に姿を現さなくなってから久しいが。

 

それは主に秩序陣営の悪魔が優位になり、人間を影から支配するのがより効率的だと判断したから、らしい。

 

事実各国の首脳部にも秩序陣営の悪魔が絡んでいるケースが多いらしく。

 

混沌陣営もそれに対抗して、色々と悪さをしている。

 

このため葛葉をはじめとするカウンター機関が各地にあるそうだが。

 

戦いが止んだことはないのだとか。

 

専門家が言う事だ。

 

それに実際に、あのケンシロウとストーム1が二人がかりで対処しなければならないような悪魔も見ている。ライドウさんは相当に強い悪魔を有しており、特に強い個体は二人をも苦戦させていた。

 

二人が周囲を気にしないレベルで本気を出せば話は別なのかも知れないが。

 

人間に対しては文字通り絶対的な力を振るう二人も。

 

悪魔に対して、同じ事が出来るとは真田には思えない。

 

ただ、情報は力になる。

 

シュバルツバースに、何も知らずに入るよりは遙かに良いだろう。

 

ライドウさんの話によると、三つある悪魔の陣営の中でも、更に派閥が存在するらしい。

 

光、中立、闇がそれに当たる。

 

要するに秩序陣営でも、支配者階級として構えているようなのが光。

 

手段を選ばず秩序を成立させ、その過程でどれだけ邪悪な行為でも平然と行うのが闇、というような感じだそうである。

 

一般的なイメージにある神はだいたい光に属しており。邪神や魔王は闇に属するそうだ。

 

いずれにしてもこれらの神や魔王などは桁外れに高い能力を持っていて、ライドウさんであっても迂闊に手出しが出来る相手では無いとか。

 

またいにしえから伝承に残るように、悪魔は極めて狡猾で。

 

人間との会話は可能で。上手くやれば従える事も出来るが。

 

必ずしも正しい言葉を喋るとは限らず、自分より弱い相手には絶対に従わないという話だった。また隙を見れば寝首を掻きにも来るという。

 

そういえばケンシロウとストーム1に破れた後、鬼やパピルサグを再召喚すると。どちらもケンシロウやストーム1に好意的な行動を見せていた。鬼はガハハハハと笑いながら一緒に酒を飲みたいと豪傑みたいな事を言い出したし、パピルサグはカタコトではあったが一緒に戦えるのが光栄だとか言っていた。

 

これもまた、大きな情報だ。

 

必ずしも、シュバルツバースにいる悪魔全てを敵に回さなくて済むかも知れないからである。

 

「真田技術長官」

 

アーサーから声が掛かる。

 

顔を上げると、立体映像だ。

 

正太郎である。

 

敬礼すると、正太郎は破顔した。

 

「流石は真田君だ。 事前の準備をほぼ完璧に整えてくれて感謝する。 そろそろ、出立の前にするべき二つをこなしておこう」

 

「分かりました。 ただ、私は正直演説の類は得意ではありません。 技術の解説は出来るのですが」

 

「それについては、春香君に頼む」

 

「なるほど。 ムードメーカーである彼女ならば確かに誰もが耳を傾けるでしょう」

 

此処だけの話だが。

 

十代の頃にアイドルデビューした彼女は、挫折も多くして。何度も苦悩しながら、その度に這い上がってきたのだという。

 

真田の知る世界に芸能界はなかった。過去の存在でしかなかった。

 

平行世界ごとにも違うだろう。

 

他の世界にも、天海春香はいるかも知れない。

 

だが、もっとアイドルにとって恵まれた世界で活躍していたり。或いは軍人みたいな仕事をしていたり。

 

挫折して芸能界をやめてしまったり。

 

そういう世界もあるかも知れないなと、真田は思った。

 

人間は残念ながら、適材適所出来るほど優れた生物では無い。危機に対して、常に団結できる訳でも無い。

 

真田にしても、正太郎長官に保護されなければ、どうなっていたか。

 

「それでは、真田君。 出発前の大仕事の、最後のブリーフィングをしよう。 今から人を集めるから、君も来て欲しい」

 

「分かりました」

 

準備は、真田が思いつく限り整える事が出来た。

 

それだけでも、前に真田が経験した二度の大遠征より遙かにマシだ。

 

そして今度こそ。大遠征は失敗させない。一度は成功、二度目は途中脱落。

 

三度目は、必ず。

 

最後まで、責任を持って。

 

自分が皆と作り上げたこの方舟と。それに集めた人材と共に。

 

難局を乗り切るのだ。

 

真田はサイボーグ化されて、もはや人とは言い難い体で歩きながら。そう思うのだった。

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