Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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カリーナでの本格的な戦いが始まります。

陰惨な原作のシナリオでは、此処はオーカスの愉快な言動もあって(原作で船ごと食われた人達にはたまったもんじゃありませんが)、唯一コミカルな世界になっていたとも言えますね。


暴虐暴食
序、桁外れの巨体


薄暗い地下で、ストーム1に警告されてヒメネスは足を止める。ハンドサイン。以降喋るな、という合図だ。

 

頷くと、体勢を低くしたまま行く。

 

此処はカリーナとアーサーが名付けた空間。

 

其所にあるショッピングモールとしか思えない場所の地下。

 

こう言う場所はバックヤードなどになっている事が多いが。

 

今足を踏み入れている此処は。

 

まさに魔窟だった。

 

無作為に積み上げられた物資が、ベルトコンベアで奥に運ばれて行く。ベルトコンベアには何でも乗っている。

 

どれもこれもが劣化コピーばかり。

 

多くは食糧だったが、中には車やバイクなども乗せられ運ばれていた。

 

これを全部オーカスとか言う奴が食うのか。

 

とんでも無い話だと、ヒメネスは思った。

 

ハンドサインを見て、頷く。

 

いる。

 

姿と軽く能力だけ見たら撤退する。

 

OK。

 

ハンドサインを返して、体勢を低くしたまま行く。不意にPCから飛び出してきたのは、バガブー。

 

ボーティーズで仲間にした弱々しい悪魔だが。

 

ヒメネスには妙に懐いていて。

 

更には、カタコトで喋るくらいの知能はある。

 

弱者は大嫌いなヒメネスだ。だが、このバガブーは憎みきれなかった。

 

ヒメネスを慕ってくる様子もあるのだが。

 

それ以上に、スラムで幼い頃に死を看取った弟をどうしても思いだしてしまうからである。

 

力を持たない相手には恐ろしく冷たくなれるヒメネスだが、どうしてもバガブーには強く当たれない。

 

そのバガブーが、袖を引く。

 

「ヒメネス、駄目、下がる、下がる!」

 

「……その方が良さそうだな」

 

ストーム1が自分から喋った。喋るなとハンドサインを出したのに。つまり緊急事態だと言うことだ。

 

ストーム1が長大な対物ライフルを取りだす。

 

ストーム1のワンマンアーミー伝説の代名詞ともなっているライサンダーだ。

 

それを、ぶっ放しながら下がる。だが、手応えが無い。ヤバイと判断したヒメネスも、下がる。

 

奥で、とんでも無く巨大な目が二つ、光るのが見えた。

 

「バック!」

 

ストーム1が叫び、自身も下がりながらライサンダーをぶち込む。だが、何かに弾かれているようだ。

 

ヒメネスも、慌てて下がりつつ、バガブーをPCに戻す。

 

聞かされている。

 

このバガブーは、かなり特別な個体であるのだと。

 

そもそも本来のバグベアから25パーセントも情報がずれている個体だ。それはバグだらけである事を意味する。

 

情報生命体がバグだらけと言う事は、死病に冒されているのも同じ。

 

更に言えば、真田の旦那の話によると。基幹となっている情報が不安定すぎて、他の悪魔のようにマッカを費やせば復活させられるという訳にもいかないそうである。

 

つまり、死んだらおしまいと言う事だ。

 

その悪魔とはとても思えない弱さとはかなさが。

 

スラムでは生きていけなかった、まだ幼いのにマフィアのクズ幹部に殺された弟を思わせる。

 

弟は別に悪い事をしたわけでも何でも無い。

 

マフィアの幹部をしていたクソ野郎が、薬でラリって歩いているところに出くわしてしまい。その場で撃ち殺されたのだ。勿論マフィアは逮捕などされず、死んだ弟を見てゲラゲラ笑うばかりだった。侠気だとか信念だとかを持っているピカレスクロマンのダークヒーローが如何に大嘘か、その時ヒメネスは知ったのである。

 

国際再建機構に入った後、そのマフィアを潰すミッションの人員募集している事を聞いたヒメネスは狂喜し。

 

もう老人になっていたクソ野郎の全身に、ショットガンを十発叩き込んでブチ殺した。

 

だが、心は今でも渇いたままだ。復讐は為したはずなのに。

 

「ブオーノ! ブオーノブオーノブオーノ! 人間の攻撃とは非力すぎるな!」

 

あの携行用艦砲ライサンダーが効いている様子が無い。

 

笑っているオーカスが、凄まじい吸い込みで、ベルトコンベアに乗っているものを丸ごと飲み込んでいる。

 

その時、オーカスが光るので、見えてしまう。全身はどうみても三百メートルはある。

 

映画の怪獣も吃驚のバケモノだ。勿論あれより大きい怪獣が出てくる映画もあるだろうが、それにしても桁外れ過ぎる。

 

あんなの、いくら何でも相手に出来るわけが無い。

 

ストーム1が、素早く手を伸ばし、ヒメネスを掴むと引っ張る。見ると、もう片方の手で階段の手すりを掴んでいた。

 

危うくからだが浮き上がりそうになっていた。それほど、強烈な吸引の風が来ているのだ。危うく、そのまま吸い込まれるところだった。

 

信じられない腕力でヒメネスを引き寄せ。無理矢理強引に階段を上って撤退するストーム1。ヒメネスの全身からどっと冷や汗が流れているのが分かった。

 

階段から飛び出した後も、壁に貼り付いて吸引の風が収まるのを待つ。

 

腰が抜けそうになっていた。

 

「はあ、はあっ!」

 

「……どうやらあのペ天使の言葉は本当のようだな。 確かに今までで最大の力を感じたぞ。 嘆きの胎とやらの最深部にあるのと同格の力だ」

 

「クソッ! あんたらがまとめても勝ち目が無いって事か!?」

 

「……勝つことはできそうだが、継戦力は残らないくらい死人が出る」

 

絶句するヒメネスに、ストーム1は行くぞと促す。

 

まだ強烈な風があるが。それもやがて止んだ。

 

後ろでブオーノブオーノと、勝ち誇った叫び声が聞こえている。あの巨大な豚が勝利の雄叫びを上げているのは間違いない。

 

屈辱以上に、悲しかった。

 

ストーム1だけなら、足手まといがいなくてもっと上手に立ち回れただろうに。

 

危うくバガブーまで死なせる所だった。

 

「すまねえストーム1。 危うく食われるところだった」

 

「……かまわない。 お前には俺を超えて貰わないと困る」

 

「ああ、そうだったな」

 

「方舟に戻るぞ。 あの様子だと、監視どころではないだろう。 一応電波中継器は撒いてきたから、オーカスの居場所そのものは分かるだろうが」

 

あの状況で、よくそんな事ができたものだ。

 

恐ろしいなと思いつつ、ヒメネスはストーム1と共に一階にでて。後は周囲をクリアリングしながら。

 

飛んで逃げ帰りたい心を必死に押さえつけて。

 

そしてショッピングモールをやっと出る事が出来た。

 

「またのお越しをー。 うふふ」

 

入り口で、天女アプサラスが見送ってくる。

 

それが、何があったのか大体分かっている様子なので、思わず銃を向けそうになったが。ストーム1に止められていた。

 

「鉛玉も無限じゃない。 無駄な行動は避けろ」

 

「……ああ、分かってる」

 

「行くぞ」

 

情けない撤退だ。

 

ヒメネスは屈辱に唇を噛んでいた。既にデモニカを通じて、ストーム1は話をしているようだ。

 

威力偵察をしたのだ。撤退をするのも当然視野に入れている状況である。

 

だから、責められるようなことはないと、視線でストーム1は伝えてくるが。

 

感情を抑えるのは難しそうである。

 

方舟に戻る。なんでかは分からないが、プラントの回収を始めている。野戦陣地も、大急ぎで戻しているようだった。

 

物資搬入口が混雑している中、唯野仁成が出迎えてくれた。

 

ストーム1は艦橋だ。これから、オーカスの実態について話をしに行くのだろう。

 

「状況は聞いている。 大変だったなヒメネス」

 

「ああ。 バガブーが危うく食われるところだった」

 

「……」

 

「あいつは25パーセントも本来とデータが違っているって話は前にしただろ。 死んだら取り返しがつかねえんだ。 俺たちと同じだよ」

 

ぼやきながら、休憩ルームに行く。

 

座ると、唯野仁成がコーヒーを出してくれた。まあ合成品だが、それほどまずいものでもない。

 

真田の旦那が、まずい事で有名なインスタントの軍用コーヒーを改良してくれたのである。

 

ヒメネスとしては、こういう些細な点でも改良を加えてくれる真田の旦那は、本当に有り難い相手である。

 

メシのまずさは士気に直結することを知っている。

 

あの人の経歴は詳しくは分からないが。相当な歴戦の猛者なのだろう。

 

コーヒーを飲んで落ち着いた所で、唯野仁成が話を振ってくる。

 

「オーカスの実データを確認して、真田さんが現在対抗兵器を作ってくれているそうだ」

 

「それはありがたいな。 いつもの、「かねてから開発していた」ってやつか」

 

「今回ばかりはさっきから、だろうがな」

 

「そうだな。 それもそうだ」

 

苦笑いする。やっとその余裕が戻って来た。

 

死の臭いを至近で嗅いだことは何度だってある。もっと危機的な状況から生き延びた事だってある。

 

だが今回は心がざわつくばかりで。どうにも平静を取り戻せそうに無い。

 

悔しいが、こればかりはどうにもならないのが現実だった。

 

溜息をつきたいが。此処では他の奴も見ている。

 

こう言う場所で、弱みは見せたくなかった。ヒメネスは強さを信仰している。弱みを見せるつもりも無い。

 

「それにしても、どうしてプラントを慌てて引き上げているんだ?」

 

「実は偵察に出ていたゴア隊長達が恐ろしいものを発見してな」

 

「なんだ?」

 

「オーカスの足跡だよ。 あれだけ喰らってもまだ足りないらしく、たまに外に出て来て工場で生産中の食い物を食い荒らしていくらしい」

 

流石にその話を聞いてぞっとした。オーカスの食欲の凄まじさがよく分かるからだ。

 

確かに、それならいつでも遭遇戦を警戒しなければならないだろう。

 

全く戦闘が起きなかったから、此処では其所まで危険が大きくないのだろうかと勘違いしていた矢先にこれだ。

 

地下からあの巨大大怪獣が、いつ現れてもおかしくない、ということか。

 

「それにオーカスはどうやってか分からないが、あの巨大なショッピングモール内を移動もしているようだ。 大きめの空間に留まるのは危険かも知れない。 少なくとも、ストーム1が放ったライサンダーの弾がまるで効いている様子が無かった事からも、しばらくは少数精鋭で動くしかない」

 

「くそっ! なんのために千人も乗ってるんだよ!」

 

「そういうな。 アントリアのように皆で出て会戦という訳にもいかない相手だ。 怪獣映画に出てくる軍隊がどんな惨めな目に会うか、お前も知っているだろう」

 

「確かにな……」

 

それに、現時点でプラントも野戦陣地も、全てユニット化されている。弾薬も殆ど消耗が無い。

 

真田の旦那がオーカスをどうにか出来るまで、待つしかない訳か。

 

あのペ天使から渡された情報集積体や、さっきの情けなく逃げ帰ったときの情報などもあわせて。

 

何とかしてくれると、信じるしか無いのだろう。

 

ゼレーニンが来る。

 

ヒメネスは視線をそらしたが、嫌そうではあったが話しかけてくる。

 

「無事だったようねヒメネス。 大変な目にあったようだけれど」

 

「ああ、おかげさまでな。 俺が酷い目にあってすっとしただろ」

 

「ばかを言わないで。 大事なクルーを一人でも失ったら、その穴を誰かが埋めなくてはいけないのよ。 機動班のエースである貴方たちの穴は特に大きいわ」

 

「見本のような優等生の回答ありがとさん」

 

どうにも痛烈な言葉しか出てこない。

 

此奴はやっぱり気にくわない。

 

気付いているのだろうか。

 

正太郎長官が、ゼレーニンをマンセマットから引き離すために、敢えて会話を代行した事を。

 

此奴は頭が良いのかも知れない。飛び級で大学を出て、博士号まで持っているらしいから、そうなのだろう。

 

だが、はっきり言って、それを帳消しにするほど頭が悪い。

 

カルトに落ちる科学者がいるが、その見本のようだ。

 

咳払いすると、唯野仁成がフォローを入れてくれた。

 

「ゼレーニン技術士官、今はヒメネスも疲れている。 後でゆっくり話をしてやってくれ」

 

「……そうね。 分かったわ」

 

歓迎されていないことに気付いているのだろう。まあ、どんな馬鹿でもそれくらいは分かるか。

 

ゼレーニンもその場を去った。

 

舌打ちしたくなるが。

 

相手が善意から心配してくれたことはヒメネスにも分かっている。気にくわなくとも、悪態をつくつもりは無かった。

 

「力がたりねえ。 支給されたマッカで、もっと強い悪魔を作っておかねえと……」

 

「スイキじゃ不足か? あいつはかなり強いと思うが」

 

「嘆きの胎で、強豪相手に尻込みしてただろ。 まだ力不足だ」

 

「そうか……」

 

確かにストーム1が従えているクーフーリンや、ケンシロウが従えている堕天使ベレスなどと比べると、力不足も甚だしい。サクナヒメが相手だったらデコピン一発で殺される。

 

それに、悪魔は成長する。

 

クーフーリンやベレスは、スペシャル達が連れ回すことでどんどん強くなっているようである。

 

そう考えると、確かに現状で満足するのは早計か。

 

デモニカに通信が流れる。

 

春香の声だった。

 

「これから上空に退避します。 外に出ている機動班、調査班のクルーは速やかに方舟に戻ってください」

 

「おいおい、あのバケモノに打つ手なしってか……」

 

「確かにあんなの相手に精神論じゃどうにもならないだろうけれどよ……」

 

周囲の機動班クルー達がひそひそ話しているが。

 

確かにアレを見て尻込みしないのは、余程の強者か、或いは感覚が麻痺しているだけの馬鹿だ。

 

やがて、クルー全員の収容を確認したらしく。

 

方舟が上昇を開始する。

 

動力に核融合炉を使っている事もあり。基本的にエネルギーは無尽蔵だ。

 

春香が説明をしてくれる。

 

「現時点で、魔王オーカスに有効打を与える手段がありません。 現在真田技術長官が対抗兵器を開発中です。 これが完成し次第、複数を精鋭及び方舟に装備する予定です」

 

「開発にはどれくらいの時間が掛かるのか」

 

「ええと……三日ほどだそうです」

 

「三日か。 早いとみるべきか、そうでもないのか」

 

早いに決まっている。

 

ヒメネスは呆れた。

 

真田の旦那がちょっとおかしすぎるだけで、三日で新兵器が出来たらそれはもう超常の域だ。

 

しかも真田の旦那はほぼ失敗作を作らない。

 

国際再建機構で通常運用しているアサルトライフルは、それまで安価で使いやすくてコスパ最強の名も高かったカラシニコフを完全に時代遅れのゴミと変えてしまった。アサルトライフル一つをとってもそれほどに優れているのだ。

 

国際再建機構の装備は一世代常に世界の上を行っていて。

 

殆どの特許を真田の旦那が取っている。

 

だから誰もが感覚がおかしくなっているのだ。

 

本来あんな新兵器、最高レベルの科学者が揃ってもぽんぽん作れる訳が無いのだから。

 

「三日は、上空で待機と言う事になるのだろうか」

 

「いえ、何があるか分かりません。 そこで嘆きの胎に移動して、其所でしばらく演習を行います」

 

「無駄な時間は作らないか。 確かに合理的な判断だが……」

 

「怪獣映画で、ゴミのように落とされる戦闘機みたいにはなりたくないだろう」

 

ヒメネスも、唯野仁成の例えには苦笑いするしか無かった。

 

あの様子では、オーカスがそれこそ何をしでかすかまったく分からない。

 

確かに一旦、距離を取るのが正解だろう。

 

そしてそもそも、対策を時間を掛ければ錬ることが出来るという話なのだ。物資も枯渇はしていない。

 

ならば、まだ謎が多い嘆きの胎を調べておくのが一番だろう。

 

やがて方舟はスキップドライブに入り。

 

空間を渡って、カリーナと名付けられた空間から、嘆きの胎へ移動した。

 

今度はライドウ氏が船に残り。

 

サクナヒメ、ケンシロウ、それにストーム1がそれぞれ機動班を連れて降りる。唯野仁成はケンシロウと。ストーム1とはヒメネスが一緒に行動する。

 

機動班は、現時点で最強の悪魔を展開するようにと即座に指示が出る。

 

ヒメネスもスイキを出す。他の機動班クルーも、スイキほどでは無いがそこそこに強い悪魔を展開していた。皆デモニカによって強化されてきているのだ。

 

嘆きの胎は相変わらず謎の植物が繁茂するジャングルのようである。

 

ただ、全域に電波中継器を撒いているので、既に一層は。いや、そもそも此処から下に六層ある事が分かっているので、浅層とでもいうべきか。浅層は、既にマッピングが終わっているようだった。

 

いずれにしても、すぐにかなり強い悪魔が姿を見せる。

 

おののく機動班クルー達を鼓舞するように、真っ先にストーム1が突貫。

 

ヒメネスも負けじと、対物ライフルをぶっ放し、敵の動きを止めることに注力していた。

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