Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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3、死の追いかけっこ

プラントによる物資の補充などが軌道に乗ったタイミングで、一度皆方舟に戻る。真田さんが、調査結果を報告してくれると言う事だった。

 

真田さんを尊敬していない国際再建機構の人間などいない。

 

殆どの物資を改良し、それに助けられた人間は数知れないからである。

 

デモニカの通信に、真田さんの声が入り込んでくる。

 

春香に説明させるには、ちょっと難しい内容だと判断したか。それとも、さっさと説明をして眠りたいのか。

 

その辺りの事情は、唯野仁成には分からない。

 

「まずオーカスだが、先に大量の悪魔を喰らった形跡がある事が判明した」

 

「……!」

 

「情報集積体は、オーカスが最初にこのカリーナに降臨した際に、連れてきた部下達だったのだろう。 地霊族を従え、大量の物資を吸収する準備が整った後。 必要がなくなった軍勢を、オーカスは文字通り喰らってしまったと言う事だろう」

 

「何て野郎だ……」

 

誰かがぼやく。

 

唯野仁成も同じ気持ちだ。

 

確かに豚は雑食で、死ねば家族だろうが何だろうがエサに早変わりという貪欲な性質も持っている。

 

だがいくら何でも、連れてきただろう部下達を用済みとなるや全て喰らって自分の力に変えるとは。

 

確かに食えば食うほど強くなる性質を持っているようだったが。

 

それにしても、あまりにも邪悪すぎる。

 

少しばかり、オーカスバスターを喰らった後の様子を見て、気の毒だと思ったのに。

 

その考えは、全て捨てた。奴に同情は必要ない。抹殺する以外にはないだろう。

 

唯野仁成が怒りを燃やしている途中も、真田さんは解説を続けてくれる。

 

「現時点で、オーカスは同じ地点で休憩を続けている様子だが、この状態で更にオーカスバスターを叩き込めば奴に致命傷を与える事が出来ると思われる。 奴は物理的に大きなダメージを受けた上に、体内に吸収阻害の弾丸を喰らっている。 倒すなら今しか無い、と考える」

 

しかし追う手段がない。

 

奴のいる場所は、どうも妙で、いけそうにもないのである。

 

それに関しても、真田さんは抜かりが無かった。

 

「オーカスを追うために、切り札を二つ用意した。 一つは案内人だ」

 

映像が出る。

 

金髪の、青い服を着た女の子だ。人形のように可愛らしいが、肌の色が死人のそれだ。椅子に座って足をぶらぶらさせているが。

 

サクナヒメが監視している様子からして、恐らく悪魔だろう。

 

「彼女はアリス。 良く正体は分からないが、「おじさん達」に作られた、と口にしている」

 

「真田技術長官。 それはバガブーのように、人造悪魔と言う事か?」

 

「或いはそうかも知れない。 組成などを調べて見た所、一致する存在がいない。 ライドウ氏によると、以前遭遇した事があるらしい。 闇が濃い場所にたまに出現する謎の存在だそうで。 まあ今回は、たまたまオーカスに遭遇して、食われてしまったのだろうな」

 

オーカスと聞いてむーとむくれている様子は、ただの女の子だ。

 

しかしながら、今の唯野仁成でも、ギリギリ従えられるかどうかと言う強大な力を感じる。ただ者では無い事も事実だろう。

 

「情報集積体を復元して、彼女を元に戻した。 彼女はオーカスの作り上げた「迷宮」を熟知している。 案内をしてくれると言うことだ」

 

「案内はするけれど、気に入った人にだけしてあげるから。 それとあの豚、絶対に許せない。 ギッタンギッタンにしてやるんだから!」

 

「分かった。 アリス、君で気に入った相手を選んでほしい」

 

「はーい」

 

気むずかしそうな女の子だが。まあ多分女性クルーの誰かを選ぶだろう。

 

アリスがサクナヒメと共にいなくなる。真田さんが映像を撮っている部屋から出たのだろう。

 

そのまま、真田さんは説明を続ける。

 

「更にもう一つの切り札が、空間の捻れを検知する装置だ」

 

「空間の捻れえ……?」

 

「ショッピングモールの二階以降が、妙な具合になっている事は既に知ってのことだと思うが、調べて見た所、どうも空間がおかしくなっているらしい。 量子のゆらぎが、滅茶苦茶になっている。 オーカスはその量子のゆらぎを一時的に落ち着かせる能力を持っているらしく、情報集積体からその技術を回収することが出来た」

 

要するに、だ。

 

ショッピングモールの二階以降は迷宮になっており。

 

更にオーカスやアリスくらいしか分からない程入り組んでいて。

 

普通だったら迷宮にも入る事が出来ないほど、空間がメタメタになっている、と言う訳だ。

 

なるほど、納得がいった。

 

オーカスの巨体で、どうやってあのショッピングモール内を移動しているかが疑問だったのである。

 

それもこれで解決したと言える。

 

奴は文字通り、二重の防壁で自分を守っていたのだ。

 

最強の肉体を作りながら、しかも自分を最強の防壁で守る体制を作っていたという訳か。

 

なるほど、思ったよりも遙かに手強い相手だ。

 

真田さんがいなければ、もっと攻略には苦戦した可能性が高いだろう。

 

咳払いする真田さん。

 

「一つ、良くない報告がある。 嘆きの胎からのスキップドライブ反応を検知した」

 

「!」

 

「ほぼ間違いなくアレックスと見て良いだろう。 スキップドライブした場所は、恐らくショッピングモールの中だ。 高確率でオーカスを探索中に出くわすと見て良い。 各自、最大限の注意を払ってほしい」

 

通信が終わる。

 

唯野仁成は、すぐに物資搬入口に向かう。途中でヒメネスと合流。

 

物資搬入口には、サクナヒメが既に待っていて。アリスが後ろ手で、周囲を興味深そうに見回していた。ライドウ氏もストーム1も、ケンシロウもいる。アリスは集まって来た機動班の面子を見て、自分と組む相手を物色しているようだった。

 

「強そうな人がたくさんいるね。 どの人も強そうで目移りしちゃうなー。 サクナちゃんと一緒に行くのも楽しそう」

 

「姫様とよばんか」

 

「うふふー」

 

サクナヒメが苦虫を噛み潰している。見た目の年齢で言うとアリスの方が少し年上に見えるし、何より非常に格好がしゃれている。間近で見ると、育ちの良さは相当な様子だ。サクナヒメも同じく姫ではあるようなのだが、とにかく野性的な経験をしてきたからだろう。どうしても雰囲気がしゃれていない。父が武神だという事もあるのかも知れない。豪快な笑い方などから、その辺りは推察は出来る。

 

悪魔の世界の事は良く分からないが。ヒメネスがバガブーをとても可愛がっているように。アリスも創造主に可愛がられていたのだろうか。

 

ライドウ氏が、咳払い。アリスに声を掛ける。

 

「久しぶりだなアリス」

 

「あ、ライドウのおにい……お髭だ。 老けた?」

 

「俺はこの世界には時を渡って来ているのだが、そうだな。 君と遭遇した事件の時に比べて、10歳以上年を取っている。 君は変わらない様子だな」

 

アリスの反応からして、本当に知り合いらしい。悪魔の世界も色々あるのだなと、唯野仁成も感心していた。

 

アリスはにこにこと屈託の無い笑顔を浮かべていると、無邪気な女の子に見えるが。それを帳消しにするくらいの強烈な負の力を感じる。調べて見ると、種族魔人とあった。極めて珍しい種族らしく、世界の終わりに現れたり、死を司る神の中でも特に強烈な力を持っていたりする特別な悪魔を分類しているらしい。

 

ライドウ氏との会話や本人の申告からして、恐らくは一個体しかいない悪魔なのだろう。

 

「ベリアルとネビロスとは一緒にいなかったのか?」

 

「んー、おじさん達二人とも親分さんに連れられて、どっかに行っちゃった。 私は何だか知らないうちにこの世界に来ていて、それであの豚に吸い込まれちゃって」

 

「君を抵抗もさせずに倒すとは、やはり尋常では無いな。 弱体化しているとは言え、油断はできん」

 

「なーに、だいじょぶだよ。 オーカスの奴無敵モードになってたし、召喚されたばっかりで勝手が分からなかっただけだもん。 次は負けない。 今回はライドウのおにいちゃんと一緒に行くのはやめとこっかな。 前に一緒に行ったもんね」

 

苦笑するライドウ氏。アリスを仲魔にして、色々な事件を解決したのだろう。

 

元々悪魔関連の専門家と聞いている。途中聞いた事があるような悪魔の名前が出ていたが、それがくだんの「おじさん達」なのだろう。

 

アリスはしばらく機動班クルーを見ていたが。

 

やがて、唯野仁成の前で足を止めた。

 

「おじさん、名前は?」

 

「唯野仁成」

 

「そっか、じゃあおじさんについていくね。 おじさんの魂が一番面白そうだ。 私は魔人アリス。 こんごともよろしく」

 

PCに吸い込まれるアリス。周囲が若干羨ましそうにした。恐らくだが、現在クルーが持っている悪魔の中では、スペシャル達の所有悪魔を除くと最強の存在だろうからだ。

 

それにしても魂云々か。霊がどうのこうのと言ってきたさいふぁーとか言う得体が知れない奴と同じだな。そう唯野仁成は思う。

 

ライドウ氏が咳払いした。警戒を促す目だ。

 

「アリスは強いぞ。 サクナヒメほどでは無いが、圧倒的な制圧力を誇る。 成長性も高いから、戦闘でぐんぐん伸びてくれるはずだ。 ただ物理戦闘力はあまり高くないから、守ってやって砲台として活用するのがいい」

 

「分かりました」

 

「……彼女は子供らしく無邪気な分残酷だ。 決して目を離さないようにな」

 

何となく分かるので頷く。

 

確かに、分不相応の力を持った子供ほど、厄介な存在はいない。分別がついていない子供は、際限なく残虐になる。

 

そんな事は、発展途上国での紛争地帯で、嫌になる程唯野仁成も目にしている。幼いうちに親に売られ、武装組織に捨て駒として買われたような少年兵は。時に大人のゲリラなんぞより、余程残忍非道だったりするのだ。

 

また、デモニカのアップデートがすぐに行われ。

 

オーカスが作った秘密の迷宮が、暴かれるようにこれでなった。

 

問題はアレックスだ。

 

かなり戦力を増している自信はあるが、それでも流石に一対一で勝てるとはとても思えない。

 

今回も、三チームに分かれて探索をする事になる。

 

ストーム1のチームにはヒメネスが入る。サクナヒメのチームには唯野仁成が。ケンシロウは居残り。今度はライドウ氏が出て、調査班を護衛する。

 

調査班はオーカスの迷宮の中に、特殊な装置を撒く予定らしい。

 

なんでも、もう少しで地上と通信をするための機械が完成するらしく。

 

空間が不安定なオーカスの迷宮で実験を行いたいのだそうだ。

 

地上と通信が出来ると聞いて、機動班達もどよめく。ヒメネスに至っては、ひゅうと口笛を吹いていた。

 

「ますます脱出が近付くな!」

 

「まだやってみないと分からないわ。 真田技術長官は本当に凄い人だけれども、それでも人間である以上限界はあるのだから」

 

「なーに、真田の旦那なら何とかしてくれるさ! ヒトナリ、行こうぜ! 今ならアレックスにだって、簡単に殺られる事は無いはずだ」

 

「……そうだな」

 

ヒメネスの喜びに水を差すのも何だと思ったので、唯野仁成は頷く。

 

機動班がそれぞれジープに分乗して出向く。

 

地霊達は極めて勤勉なようで。オーカスが破壊したショッピングモールの入り口を、既に殆ど修復し終えていた。

 

何だか労働が本当に好きなんだなと呆れてしまう。他の方向性で労働すればいいのにとも思う。

 

ともかく、入り口でジープからばらばらと降りる。

 

一線級で戦えるようになった機動班クルーはかなり増えてきている。更に言えば、連れている悪魔も強くなってきている。

 

内部のゴミはもう殆ど片付いていた。

 

陳列棚に戻されたのだろう。この辺りの仕事はなんというか雑だが、あの吐瀉物の山が無くなっただけでも、精神衛生上ある程度有り難い。

 

サクナヒメが顎をしゃくる。

 

第一陣はサクナヒメ班だ。ストーム1班は、クリアリングをしながら、ライドウ班の進路を切り開く。

 

PCからアリスが飛び出してくる。

 

物珍しそうに、周囲を見回している。表情はころころ変わって、何にでも興味を示す年頃の女の子らしい仕草だ。

 

「うわー、いろんなものがあるね! でもみんな作り物っぽいなあ」

 

「作り物だそうだ」

 

「ヒトナリ、あれって売り物なの?」

 

「好きに持っていって良いそうだ」

 

わっと喜ぶと、アリスは兎のぬいぐるみらしいのを引っ張り出す。ただ、綿がはみ出しているし、どう見ても良いものではないが。

 

喜んでいるのだからまあ良いだろう。

 

「繕って! 綺麗にして!」

 

「分かった、後でな。 戦闘任務が終わった後だ」

 

「ふふーん、おじさん妹か娘がいるでしょ。 そういうの出来るの、分かる」

 

「ああ、少し年が離れた妹がいる。 ……警戒してくれ」

 

兎も角、此処からはオーカスの居城に等しい。ようやく、奴の住まう要塞に突入したとも言える。

 

アリスは嬉しそうに、何処かしらに兎の汚いぬいぐるみをしまうと、周囲を手をかざして見始める。

 

一応念のためだ。オルトロスも出しておく。オルトロスはアリスを見ると、ぎょっとした顔をする。ひょっとして、知っているのだろうか。

 

ネビロスはともかく、ベリアルという悪魔は名前を聞いたことがある。確か凄く有名な悪魔だ。

 

そんなのがこのアリスを作ったのだとしたら。

 

目的はよく分からないが、悪魔の間では知られているのかも知れない。

 

サクナヒメは文字通りのプリンセスだが。

 

同じくらいのプリンセスになるのかも知れないわけだ。

 

エスカレーターで二階に移動。以降、アリスもオーカスの気配を感じたか、無言になった。周囲をクリアリングしながら進む。サクナヒメは堂々と歩いているが。やがて、壁の前に立つと、顎をしゃくった。

 

「ここじゃな。 壁のように見えるが、壁ではない」

 

「やってみます」

 

前に出たのはメイビーだ。唯野仁成が前に出ようとしたが、サクナヒメが視線で止めてくる。

 

此処はやらせるべきだ。そういう意味だろう。

 

確かに、メイビーは弱くて憶病な自分をどうにかしようと必死にあがいている。だったら、背中を押してやるのが唯野仁成がするべき事。

 

人材は育成するもので、生えてくるものではない。メイビーが成長しようというのなら、見守るのが同僚としての役割だ。

 

やがて、空間がぶわっと拡がる。壁だった場所が、いきなり何も無いトンネルになったような印象だ。

 

ゼレーニンから通信が来る。

 

「彼方此方にこんなねじれた空間が存在しているわ。 内部がどうなっているか分からないから、気を付けて」

 

「了解。 其方も気を付けてくれ」

 

「おー。 一杯いる」

 

アリスが警告するまでもなく、唯野仁成にも見えている。

 

うめき声を上げながら、何かが此方に向かってくる。体が崩れてしまっている悪魔達である。人型だったり翼が生えていたり、獣だったり。様々な姿だったが、殺してくれと言わんばかりのうめき声を上げているのは、あまりにも痛々しい。

 

前に実体化に失敗した、外道スライムという悪魔を見たが。

 

それに近い存在なのかも知れない。

 

オーカスが吐き戻した悪魔の成れの果てだろうか。それとも、この異様な空間に住み着いてしまっている存在なのだろうか。

 

アレックスが奇襲してくる可能性もある。油断は出来ない。排除するしか無い。

 

襲いかかってくる体が壊れてしまっている悪魔達。唯野仁成は、剣を試してみる事にする。

 

接近する相手を、他の機動班クルーに任せる。

 

だがアサルトの火力では、どうしても制圧しきれない。これでも火力はかなり上がって来ているのに。

 

弾幕をかいくぐってきた、体が崩れた悪魔。

 

教わったとおりに、最上段から一気に降り下ろす。

 

気を付けるのは、失敗すると足を斬ると言う事だ。気を付けつつ、デモニカの支援を受けて斬る。

 

すっと刃が通る。体が脆くなっている悪魔は、両断され消えていく。

 

更に、弾幕を抜けてきた悪魔を、横薙ぎに一閃。首がすっ飛んで、転がって。それでも数歩歩いた悪魔が、溶け消えていく。

 

「おじさーん、危ないよー!」

 

アリスの声に、反射的に飛び退く。

 

目の前を、文字通り紅蓮の炎が埋め尽くしていた。

 

アリスが放ったものらしい。とんでもない火力だなと、内心で冷や汗を掻いていた。これは凄い。

 

確かにライドウ氏が強いと太鼓判を押すわけだ。

 

今の炎で、敵が明らかに物怖じし。それを他の機動班クルーが一気に制圧して行く。体が完全に崩れていても、一応自我はある訳だ。気の毒な話だなと思う。

 

サクナヒメはずっと目を細めて様子を見ている。恐らくアレックスによる奇襲を警戒しているのだろう。

 

曲がりくねった通路から、無尽蔵に迫ってくる悪魔だが。

 

オルトロスが炎の息を叩き込み。更にユルングが音波砲を叩き込んだ後。

 

他の機動班クルー達が一斉に悪魔に魔法を叩き込ませると、静かになった。

 

クリアリングを開始する。同時にメイビーが、周囲に電波中継器を撒いていく。他にも何かちょっと大きめの装置を設置している。此方に来てから作ったものだろうか。今まで見たことが無い。

 

だとすると、あれが真田さんがいっていた、外との通信を可能とするものなのだろうか。可能性は否定出来ないが。まあ期待もしきれないだろう。

 

ポリマーを吹き付けて固定。

 

周囲のマッピングをしながら進む。文字通りの迷宮になっていて、曲がり角が非常に多い。奇襲も当然受けやすいが、それは悪魔達を使ってカバーしていく。

 

不意に、通常の空間に復帰する。ショッピングモールに戻って来たので、何だか不思議な気分だ。

 

「此方唯野仁成、ねじれた空間を抜けた。 ムッチーノ、現在位置は」

 

「今君達は三階にいるよ」

 

「……」

 

階段を上がった覚えは無い。これは、文字通りマッピングが滅茶苦茶になりそうだなと嘆く。ただ今はまだ迷宮に入ったばかり。アリスの案内は必要ないだろう。

 

周囲に敵影は無し。

 

或いは、あの異常空間だけ。体が崩れた悪魔が、大量に徘徊しているのかも知れない。

 

ヒメネス班と連携を取りながら、また異常空間に戻り、周囲を丁寧に制圧して行く。出来るだけ急いでオーカスに迫りたいが。

 

背後を突かれる事の方が危険である。周囲を確認。ともかく、この迷路の安全を確保し。更に移動出来た範囲内の安全も確認していく必要がある。

 

ショッピングモール内で現在気にすべきはアレックスだが。あいつが仕掛けてくる場合は、流石に現時点戦力での撃退は無理だろう。嘆きの胎に一人で入り込んでいたようだし。スペシャル達と連携しないとかなり厳しい事になる。

 

また、曲がりくねった通路を抜ける。

 

だが、その瞬間。

 

サクナヒメが、前に弾かれるようにして躍り出ていた。

 

凄まじい閃光が走り、至近距離で光の剣とサクナヒメの刃がぶつかり合う。

 

互いに弾きあったアレックスとサクナヒメ。やはり、奇襲を仕掛けて来たか。

 

すぐに悪魔達と共に出て、加勢にはいる。他の機動班クルーには、背後を警戒して貰う。唯野仁成はアサルトを片手に、連絡を入れた。

 

「此方唯野仁成。 アレックスとエンゲージした」

 

「了解。 すぐに支援に向かう」

 

「やはり生きていたか……唯野仁成! この外道っ!」

 

「落ち着けバディ。 冷静に行くぞ」

 

アレックスは、相変わらず凄まじい殺意を唯野仁成に向けてきている。アリスがふわふわと浮きながら、話しかけてくる。

 

サクナヒメは全く余裕が無い様子だ。やはり、アレックスは嘆きの胎で更に力を上げてきていると見て良い。

 

「あれー。 ひょっとして結婚詐欺とかして恨まれてるおじさん?」

 

「そんな訳があるか。 どうして恨まれているか分からない状態だ」

 

「あれは魔人アリスか。 厄介な奴を連れている。 出来るだけ急いで制圧するぞ、アレックス」

 

「分かっている!」

 

アレックスが突貫してくる。速い。サクナヒメが迎撃に出る。今までと違って、動きを視線で追う事だけは出来るが、それが精一杯だ。まだかなり力の差があると見て良いだろう。

 

悪魔達の中で、唯一対応出来そうなのがアリスだ。ぱんと胸の前で手を合わせると、詠唱を開始。それを見て、アレックスが拳銃を向けてくるが。サクナヒメがさせじと斬りかかる。更に唯野仁成も廉価版ライサンダーを引き抜き、精神を集中。

 

普段の鍛錬を思い出せ。自分に言い聞かせつつ、引き金を引く。

 

弾丸が、アレックスの顔の至近を掠める。アレックスは舌打ちすると、飛び下がる。

 

アリスの詠唱が完了。

 

周囲全域を、真っ黒な凄まじい闇が押し潰すようにして覆い尽くしていた。

 

「アハハハ! 死んじゃえ!」

 

びりびりと強烈な威圧感が周囲を覆い尽くす。この魔法、とんでもない代物だ。恐らく周囲を超高密度の何か得体が知れないエネルギーで圧殺しているのだろう。後方でも戦闘の音。やはり潜んでいたらしい敵が仕掛けて来ている様子だ。かまっている暇は無い。今のアリスの魔法でも、敵を仕留められているとは思えないからだ。

 

飛び下がって来たサクナヒメが、羽衣を使って周囲の闇の残滓を吹き飛ばす。

 

同時に、今のを耐え抜いたらしいアレックスが、至近距離に。

 

まずい。間合いに入られた。

 

アレックスの持つ光の剣が、逆袈裟に、唯野仁成を切り裂こうとしてくる。

 

だが真横から、横殴りにサクナヒメの槌が剣を振ろうとしていたアレックスの脇腹に直撃。

 

凄まじいまでに至近で死の臭いを嗅いだが。

 

吹っ飛んだアレックスを見て、やっと息を吐くことが出来た。

 

呼吸を整えつつ、アサルトの弾丸を浴びせかける。デモニカの防御性能で防いでくるアレックス。

 

アリスが歓声を挙げる。かなり楽しそうな相手だと認識したのだろう。

 

「わー強い強い! 本気だしちゃうよー!」

 

「魔人アリスはあらゆる魔法を最高レベルで使いこなす。 分かっているなアレックス」

 

「ええジョージ、最強の盾に矛を揃えたつもりなんでしょうね。 でも」

 

アレックスが、何かを呼び出す。

 

それを見て、アリスは即座に詠唱を停止。

 

現れたのは、赤い鎧を着た女性の悪魔だ。正体は分からないが、軍神か戦神か。

 

むーと頬を膨らませるアリス。あの悪魔、魔法を何かしらする能力を持っていると言う事か。

 

再び突貫してくるアレックス。応撃するサクナヒメ。だが、やはり真正面からぶつかり合うと、若干サクナヒメが不利なようだ。それに、赤い鎧の女性悪魔が、槍を掲げる。もの凄く嫌な予感がした。

 

「まずい、リャナンシー、壁を!」

 

降り下ろされた一撃が、壁ごと唯野仁成を吹っ飛ばす。

 

悪魔達は殆ど一撃で壊滅。とんでも無い高レベル悪魔を使っているという事になる。アリスだけは耐え抜いたようだが、凄く不機嫌そうに回復の魔法を使い始める。一方、女悪魔はサクナヒメを横目に、突貫してくる。

 

立ち上がりつつアサルトで足止めを計るが、気にもしていない。というか、効いている様子が無い。

 

まずい。アリスと違って、物理戦闘特化の悪魔とみた。しかも魔法に対しても何か切り札を持っている。アリスはそれを知っているから魔法を使うのをやめた。いるだけで戦略的な価値が生じる悪魔と言う事だ。

 

ボロボロの唯野仁成に対応出来る相手じゃ無い。

 

場に、第三者による支援が飛び込んだのは、その時だった。

 

赤い鎧姿の女悪魔が、一撃に対応。左手に持っている盾を使って、飛来した一撃を弾き返す。その瞬間、好機とみたのだろう。アリスが詠唱を再開。即時魔法が完成。

 

至近に、巨大な炎の柱が立ち上り。それが赤い鎧の女悪魔をモロに包んでいた。アリスがきゃっきゃっと黄色い声を上げている。やはり強い。だが、防御は鉄壁とは言えない。

 

「アレックス、交戦中のアンノウンと同レベルの相手による狙撃だ! 撤退を推奨する!」

 

「せっかくターゲットが、あいつが至近にいるのに!」

 

「今は引くんだバディ!」

 

「……っ! 仕方が無いっ!」

 

投擲される何か。恐らく閃光手榴弾だろう。顔を庇って、アリスも一度PCに戻す。

 

閃光が消えた後には、肩をざっくり斬られて大きく息をついているサクナヒメ。恐らく赤い鎧姿の女悪魔が、撤退がてらに斬っていったのだろう。あんなのを従えているのか。予想はしていたが、相当にまずい。

 

すぐに通路から出てくる他の機動班クルー。悪魔を出して、回復の魔法を使ってくれる。

 

壁を背に、何とか立っている唯野仁成に、通信が入っていた。

 

「こちらストーム1。 命を拾ったようだな」

 

「ありがとう。 今のは貴方の狙撃によるものですね」

 

「ああ。 たまたま狙撃できる地点に抜けてな。 狙撃には効果が無かったが、充分に隙は作れた。 悪いが退路までは確保出来ていないから、自力で帰還してくれ」

 

「了解……」

 

唯野仁成の手持ち戦力はボロボロだ。もう一度呼び出したアリスは自分だけは回復したが、他の悪魔はPCに戻して療養中である。

 

一瞬にしてオルトロスやユルングをはじめとした、そこそこに強いと思っていた悪魔を一薙ぎしたあの鎧姿の女悪魔。データが残っていたので調べて見る。女神パラスアテナ。聞いた事がある。

 

あのオリンポス十二神の一角にて、ギリシャ神話でも屈指の軍神だ。それは強いわけである。同じ十二神のデメテルから、あれほどの力を感じたのだ。しかもバリバリの軍神となると、弱い訳が無い。

 

ため息をつく。メイビーが応急手当をしてくれた。メイビーの声が震えているのが分かる。

 

「恐ろしい人だわ。 あんな人なら、嘆きの胎で一人で過ごしていられるのも分かる気がする……」

 

「それに分かってはいたが、ついに悪魔召喚プログラムを使ってきた。 今後は戦力を倍以上に計上しないといけないかも知れない」

 

「お前達、引くぞ。 電波何とかだけ撒いて一旦撤退じゃ」

 

アリスに回復魔法をかけさせながら、サクナヒメがぼやく。

 

アリスは最初嫌そうにしていたが、流石にまた此処に置き去りになるのは嫌だったのだろう。サクナヒメと数言問答した後、素直に回復の魔法をかけたようだった。ハトホルも当然戦闘不能状態だったから、助かった。

 

メイビーが電波中継器を撒いて、そして撤退に取りかかる。サクナヒメがぼやいていた。

 

「案の定更に力を増しておるわ。 厄介じゃのう……」

 

「でも、前よりは戦況が良かったような気もします」

 

「ああ。 だが向こうも当然悪魔召喚プログラムを使ってきたようじゃ。 今後、差が縮められるかは微妙よな」

 

サクナヒメも武神だ。だから、こう言うときは極めて現実的に戦闘について判断してくれるし、周囲を納得させる説得力が言葉にもある。

 

撤退を開始。後方の安全は、一緒に来ていた機動班が確保してくれていた。

 

アレックスがいつ仕掛けてくるか分からない。それがかなり大きな枷になった。恐らく、ボーティーズでのミトラス戦のようにはいかないだろう。

 

まずはアレックスをどうにかしないと、そもそも無茶苦茶になっている迷宮のような要塞を突破することさえ難しいと判断して良い。

 

三班で合流すると、一度方舟に戻る。作戦の立て直しが必要だった。




※アリスについて

真女神転生1から登場している悲劇の死者。

真女神転生5Vでは、専用のイベントが存在した他、ペルソナシリーズなどでも専用スキル「死んでくれる」で猛威を振るっていますね。


SJ、DSJ原作でも登場するアリスは、比較的早い段階から味方に加わって貰いました。

唯野仁成の実力をアリスが見抜いたのもありますが。

そもそも生まれが原因でこういう扱いの難しい子供を扱い慣れている唯野仁成とアリスは、かなり良好なパートナーシップを構築していくことになります。

なお本作のアリスは、ベリアルやネビロスとも疑似家族としてとても良い関係を構築できています。魔界で。
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