Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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※金田正太郎について

あのスティック二つだけのリモコンで鉄人28号を操作していた伝説の人物です。実は「ショタ」という言葉の語源説があるとか。

本作の正太郎は、21世紀まで生き延びた結果、巨大国際組織のリーダーとなっています。

鉄人28号は封印しましたが、それ以降も様々な社会悪と戦い続けた剛のものです。

世界の危機と感じて、シュバルツバースに自身が向かったのも。数知れない修羅場を潜った嗅覚が、此処は危険だと判断したからなのです。


2、豚魔王との決着

「一名負傷。 後退します」

 

「ああ。 一名補助につけ」

 

ストーム1の言葉に敬礼すると、機動班の一人が、もう一人と一緒に戻っていく。十二人いたオーカス攻略メンバーは、既に半減していたが。これで更に二人減って、四人しか残っていない。戦死は出していない。しかし負傷したらすぐに撤退させている。此処では簡単に命が消し飛ぶ。それを避ける為だ。

 

残ったのは唯野仁成とメイビー。それにウルフとストーム1である。

 

そもそも、オーカスの作り出した迷宮が長い事が分かりきっていた。故にこれだけの一線級機動班メンバーを組んだのである。それから考えれば、四人も残ったのは上出来だと言えた。

 

さっき、エンゲージしたアレックスを撃退したという連絡があった。歓声がわくのが分かったが。はっきりいって、唯野仁成は喜べなかった。

 

ケンシロウとアレックスの会話が聞こえていたからである。

 

ケンシロウは普段ぼーっとしているが、ここぞと言うときに核心を突いた言葉を言う。また、とても正義感が強い事も唯野仁成は知っている。そうでなければ、ミトラス相手に全火力を叩き込まなかっただろう。

 

そんなケンシロウが、拳を振るいたくないとまで言った。

 

一体、アレックスというあの女と、自分にどういう関係があるのか。

 

いずれ知らなければならない。その強い思いが、唯野仁成には宿り始めていた。

 

アリスが浮かんでいる。殆ど消耗は見られない。

 

迷宮の途中に現れる、体が崩れた悪魔が落とすマッカの一部を欲しがったので、譲渡しているのだが。

 

恐らくそれをそのまま、力に変えているのだろう。

 

「だいぶ減っちゃったねー」

 

「ああ。 だが、そろそろのようだな」

 

「お、鋭いねストーム1のおじさん。 すぐそこだよ」

 

アリスも元々目移りするとまで言っていた強者である。ストーム1には興味があるのだろう。

 

今回はたまたま唯野仁成を選んでくれた。

 

唯野仁成がいなければ、ストーム1を選んでいた可能性も高いのかも知れない。

 

「皆、装備を点検しろ。 必ず勝つ」

 

「イエッサ!」

 

迷宮を抜ける。後方の安全を確保しながら進んでいたから、予想以上に時間が掛かってしまったが。

 

それでも上出来だ。

 

それに、オーカスの力がどんどん縮んでいる代わりに、変質しているという通信も入ってきている。

 

ストーム1はそれを聞いて。外科手術でもして、無理矢理座薬されたオーカスバスターを取りだそうとしているのだろうと推察していた。

 

その場合、オーカスはかなり弱体化するだろうが。もう戦闘どころじゃ無いさっきまでのオーカスと違い。己の軍勢すらも喰らい尽くした、剥き出しの食欲の怪物として、姿を見せることだろう。

 

豚を侮るな。唯野仁成は、自分に言い聞かせる。

 

豚は家畜化されているし、弱いイメージはあるが。

 

あらゆる局面で生きていく事が出来、毒にも強い耐性がある、強力な生物である。

 

オーカスは人間が持っている豚への負のイメージを凝縮したような姿をしているけれども。

 

それでも、侮る訳にはいかない相手だった。

 

迷宮を抜けた先には、大きな扉があった。何か巨大な存在が這いずった後もある。

 

デモニカのAIが告げてくる。

 

「強力な悪魔の反応があります。 注意してください」

 

「ああ、びりびり感じる」

 

「……」

 

困惑した様子で、メイビーとウルフが此方を見る。

 

二人とも、まだ気配は分からないか。

 

だが、気配を感じる力だって、デモニカによって並列で皆に回されるはず。真田さんが元の状態から強化したこのデモニカの最大の利点は、ネットワークで常に情報を共有し、経験強化を全てのデモニカで共有できることだ。

 

いずれにしても、あらゆる状況証拠が、この先にオーカスがいる事を告げていた。そして奴にはもう逃げ道も無く、決死の反撃をしてくることも。

 

皆が装備の点検を終える。

 

メイビーはシルキーの他に数体の回復専門の悪魔を手持ちにしている。

 

ウルフは鳥の形をした悪魔ばかり何体か手持ちにしていた。

 

これはウルフ自身が元々屋内戦闘の専門家として国際再建機構に入ったから、という経緯があるらしく。格闘戦に自信があるから、なのだろう。

 

とはいっても、流石にウルフもケンシロウの戦闘を見て、いつも呆然としているようだし。

 

あくまで一般的な兵士に比べて、の話ではあるだろうが。

 

唯野仁成がオルトロスをはじめ、悪魔達を呼び出す。ウルフの手持ち達と協力して、扉を開けさせる。

 

扉は巨大なものだったが。

 

奥には、その扉と似つかわしくないほど小さな姿があった。

 

レインボウノアと格闘戦をしたときには、全長三百メートルを超えていたオーカスだったのに。

 

今では全長で二十メートルあるかないか、だろうか。

 

しかも立っていた人型のモラクスやミトラスと違い、多足で横に長い形だから、むしろ前の二体の魔王よりも小さく見える。

 

だが、油断は出来ない。

 

目は鋭く獰猛で。

 

ショッピングモールの地下で、無作為にものを食い散らかしていたオーカスとは、まるで別物に思えた。

 

感じる力そのものは確実に弱くなっている。

 

だが、野生の獣を思わせる戦意がある。そんな雰囲気に、唯野仁成は思わず背筋を伸ばしていた。

 

オーカスの王冠もマントも復活している。余程無理をして、己を再構築したのだろう。

 

情報生命体である悪魔にはそれが出来る事が今の唯野仁成には分かっている。だが、それにしても。

 

脂汗を掻き、大きく体を揺らして呼吸している様子からして。

 

例え弱体化してでも、戦い抜いて死ぬ。その覚悟を、見て取っていた。

 

ストーム1が前に出る。そして、二体の悪魔を召喚する。

 

一人はいつも頼りになるクーフーリン。もう一人は、何だろう。鎧姿の女性だが、静かで理知的な雰囲気に見えた。前にアレックスが召喚した女神パラスアテナに比べると流石に力は劣るようだが、歴戦の雰囲気がある。

 

「ほう。 伝説になった人間が悪魔化したものか。 貴様は現在の英雄であろう。 相応しい手持ちと言えるかもな。 ブオーノ」

 

「……オーカス。 弱体化しているようだが、貴様に対して手を抜くつもりはない」

 

「ふん、それでかまわん。 ワシとて、貴様らの一匹くらいは道連れにしてくれるわ」

 

「そうか、玉砕覚悟か。 まあいいだろう。 ならば俺が一人たりとて死なせはせん」

 

ストーム1の言葉が頼もしすぎる。この人の発言にはそれこそ千金の重みがある。

 

だが、唯野仁成は、聞いておきたい事があった。だから、片手を上げてストーム1に断り、オーカスに語りかける。

 

「オーカス。 貴方に聞いておきたい事がある」

 

「何だ人間」

 

「何故にこのような場所を作り上げた。 やはり人間の真似事か」

 

「察しがいいな。 モラクスやミトラスと同じよ。 人間の世界に攻めこむには、如何に人間を効率よく滅ぼすかが重要だったからな。 だから調べた。 その結果、分かった事がある。 それは人間が、ワシ以上に貪欲で、過剰に作ったものを過剰に喰らい続けていると言う事よ」

 

オーカスは静かな、威厳のある声で言う。

 

もはやオーカスバスターをぶち込まれて、逃げ回っていた豚の情けない姿はない。

 

力は弱くなっても、その身には魔王としての威厳が戻っていた。

 

この辺りは、認めても良いかも知れない。

 

オーカスは堕落しきった身を。命を賭けてまでも、建て直す事に成功したのである。

 

「だからワシは何もかもを食らう事にした! この世界に侵攻してからは、まずは手当たり次第に情報を作らせ、それを喰らった! 情報が手当たり次第に集まるようになった後は、手下として召喚した者どもを喰らった! いずれこのショッピングモールとやらも喰らってやるつもりだ! そして今此処にいる貴様ら全員を喰らい! あの忌々しい鉄船も喰らって! 地上に出て、人間共を文明ごと全て喰らってやる!」

 

「そうか、オーカス。 貴方は。 いや、貴方も。 人間の最悪の影の部分を、学習してしまったのだな。 モラクスやミトラスと同じように」

 

「笑止! 人間に光はあるやもしれん。 だが、それはあくまでわずかに深奥に輝く小さな点に過ぎぬ! ワシは徹底的に調査した! その結果、今のワシですら生ぬるく見える程の消費を人間が無駄にしていることは分かっている! 人間はワシ以上の怪物だ! だから大母の意思に従い、貴様らを滅ぼす!」

 

ブオーノ。オーカスが凄まじい雄叫びを上げた。

 

生まれ変わったばかりの魔王は、多数の足を動かし。猛烈な勢いで突貫を開始していた。

 

 

 

メイビーもウルフも手持ちの悪魔も加わり、オーカスに総攻撃を浴びせかける。あらゆる種類の魔法が一斉にオーカスに着弾。更に皆でアサルトを浴びせかけつつ、オーカスの足を止めに掛かる。

 

だが、爆風を蹴散らすようにしてオーカスが出現。もはや此方を侮る悪癖も消えている様子だ。

 

豚の顔面は装甲が極めて厚く、それ故に突進攻撃を非常に得意としている。

 

家畜化される前の豚である猪が、強烈な突進をすることは誰でも知っているが。あれは頭の装甲に自信があるから、である。

 

オーカスは王冠を吹き飛ばされながらも突貫。口を開くと、かぶりつかんとして来た。

 

その口の中に、完璧なタイミングでグレネードが飛び込む。

 

ストーム1が投擲したものだ。

 

爆裂。

 

オーカスがわずかに怯んだ瞬間、全員が飛び退く。ストーム1が叫ぶ。

 

「移動しながら攻撃! 前には回るな! 必ず側面か背後をとり続けろ! 前は俺が担当する!」

 

「イエッサ!」

 

ストーム1の伝説は、この場にいる誰もが知っている。いずれもが、常識を遙かに超えるものばかり。

 

リアルムービーヒーロー。ワンマンアーミー。それらの言葉全てが、全く言葉負けしていない。

 

どんな武装勢力でも、ストーム1の名前を聞くと即座に逃げる準備に取りかかる。

 

マフィアなどの犯罪組織でも同じ事だ。ストーム1は、文字通り破壊神として、世界の裏側に住まう者に怖れられている。

 

だが、破壊神は創造の側面も持つ。容赦なく邪悪を討滅するストーム1に救われた牙無き弱者は数も知れない。

 

ストーム1は、そして。その戦績に驕ることはない。寡黙すぎる言動は、或いは驕りを戒めるためなのかも知れない。

 

「ちょっと時間稼いでくれるおじさん。 でっかいの行く」

 

「分かった」

 

アリスが唯野仁成の耳元に囁いたので、頷く。

 

苛烈な銃撃を全方位から浴びても、オーカスはまるで怯まない。これだけ弱体化しても、全く弱いとは感じない。

 

メイビーやウルフが連れている悪魔だって、もう弱い悪魔じゃあない。

 

それでも、集中砲火を浴びても、さながら不沈艦のようにオーカスは、突貫を繰り返してくる。

 

その度にストーム1が様々な武器を駆使して、足を止める。

 

いい加減、オーカスも頭に来たようで、ストーム1に対して体勢を沈める。全身が絶え間なく打ち据えられ爆破されているが。それでも気にする様子も無く。

 

「決めたぞ。 まずは貴様から喰らってやる! 次の一撃で終わりだ!」

 

「やれるものならやってみろ」

 

「ブオーノ!」

 

オーカスが走り出す。その動きを止めるようにクーフーリンが跳躍すると、槍を投擲。無数に分裂した槍が、突貫するオーカスの全身に突き刺さり、なおかつ爆裂する。

 

更に女戦士が突貫すると、斬る。

 

鋭い一撃だった。見ているだけで、思わず感心するほどの綺麗な斬撃だ。

 

見ると、偉霊ジャンヌダルクとある。

 

偉霊とは、偉大なる霊的存在に与えられる珍しい分類。聖人や、人格を持たないようなモニュメントとしての神などに与えられる分類らしい。ジャンヌダルクは知っている。フランス百年戦争の英雄だ。

 

今でも信仰者は多いだろう。それは強いに決まっている。

 

オーカスはわずかに態勢を崩しながら、それでも突貫を続け笑う。ストーム1が、ライサンダーを構えたのを見たからだろうか。

 

「その銃は効かぬっ!」

 

「そうかな」

 

携行用艦砲ライサンダーが火を噴く。

 

次の瞬間。オーカスが、突貫を止め。横転すると、凄まじい悲鳴を上げていた。

 

「ライサンダーは強化されていく。 今のこのライサンダーは、いわばライサンダー2!」

 

真田さんがやってくれたのだ。あの人の開発するものは本当に凄い。

 

悲鳴を上げて、片目を押さえて七転八倒しているオーカス。ウルフが勝てる、と叫んだけれども。

 

次の瞬間、オーカスが凄まじい雄叫びを上げて。それが爆風となって、ストーム1と唯野仁成、アリスを除く全員を吹っ飛ばしていた。勢いを殺して、ストーム1の側に降り経ったクーフーリンとジャンヌダルクもあまり余裕がありそうには見えない。

 

唯野仁成も、片膝を突いてやっと耐えたほどだ。

 

ストーム1が頷く。唯野仁成は立ち上がると、転がり回るオーカスに、更に一撃。廉価版とはいえ、ライサンダーである。

 

そして、見ると傷だらけのオーカスの体には。傷を更に大きく出来る場所が、幾つもあった。

 

冷静に次々と弾丸を叩き込んでいく。

 

悲鳴を上げながらのたうち廻るオーカスは、それでも部屋中に凄まじい音波攻撃をぶっ放し続ける。

 

アリスはまだ詠唱を続けている。ただ、冷や汗を掻いている。この強烈な音波を耐えるのは、アリスほどの悪魔でも相当に大変なのだろう。

 

オーカスが跳ね起きると、再び突貫開始。

 

だが、氷の壁が出来。更に、無数の羽根がオーカスの潰れた目に突き刺さる。

 

メイビーのシルキーが壁を造り。ウルフの鳥の悪魔達が羽根を一斉に投擲したのだ。

 

壁にぶつかって動きが止まったオーカスが、目を更に抉られて悲鳴を上げ。

 

ストーム1が、ここぞとばかりにオーカスにライサンダー2の弾丸をプレゼント。

 

もう一つの目も潰されたオーカスは、悲痛な絶叫を上げていた。

 

「ブオーノッ! ブオーノーッ! おのれおのれおのれええええっ!」

 

それでも暴れ狂うのは流石か。

 

氷の壁を砕き、辺りに吹っ飛ばすオーカス。必死に飛び退いた唯野仁成は、メイビーを庇ったシルキーが潰されるのを見た。ウルフは飛び退くが、鳥たちは一瞬で壊滅してしまった。

 

ストーム1を庇ったクーフーリンとジャンヌダルクも無事じゃあない。

 

手負いの獣とは、こうも厄介か。

 

それでも冷静に、ストーム1が、通信を入れて来た。

 

「あわせろ」

 

「はい!」

 

ストーム1が狙っている位置が、デモニカを通じて見える。そうか、もうこんな境地にまで達したのか。

 

勿論唯野仁成が天才なのでは無い。デモニカによって、皆の学習が全て全員に行き渡り。それを更に各々が吸収し、強くなっているからだ。

 

ストーム1がライサンダー2をぶっ放すと同時に、唯野仁成も同じく廉価版ライサンダーをぶっ放す。

 

放たれた弾丸が、それぞれオーカスののど頸を、左右から同時に直撃。

 

文字通り、喰らうための場所を完全に潰されたオーカスは、もはや悲鳴も無く、竿立ちになっていた。

 

「はーい、おまたせ。 豚さんの丸焼きの時間だよー! 良くもやってくれたねきたない豚さん! お仕置きしてあげる!」

 

アリスが詠唱を終えた。

 

凄まじい炎が、その全身に纏わり付いている。凄惨な笑みを浮かべているアリスは、人形のように造作が可愛らしいから。余計に恐ろしかった。

 

くるんと手を回すと、長時間詠唱して完成させた、超絶の魔法をアリスは解き放っていた。

 

「トリス……」

 

「あ、がががが、ぎがああああっ!」

 

「アギオン!」

 

次の瞬間。全長二十メートルあるオーカスの巨体が、一瞬にしてトーチと化した。

 

これが、火焔魔法の究極か。きゃっきゃっと喜んでいるアリス。憮然として、一瞬にして炭クズと化していくオーカスを見る。

 

やがて、オーカスは笑い始める。黒焦げになり、全身が焼け焦げ、機能停止して行く中でも。なおも笑っていた。

 

「この程度で終わると思うなよ人間共……! 大母はお前達が暴れれば暴れるほど目覚めるのが早くなるだろう! そして大母は不滅だ! そして我等は、その大母の意思によって、人間を……」

 

「そろそろ黙れ。 ……今、楽にしてやる」

 

ストーム1が、ライサンダー2によってオーカスの頭を撃ち抜く。

 

燃やし尽くされて、完全に脆くなっていたからだろう。オーカスの頭は、文字通り吹っ飛んでいた。

 

頭部を失ったオーカスの体が消えていく。

 

カリーナの暴食の魔王。オーカスの、最後だった。

 

そしてオーカスのいた場所には。また知恵の輪のような形をしたロゼッタが、鈍い輝きを見せていた。

 

 

 

オーカスの最後と同時に、迷宮に残存していたわずかな体が崩れた悪魔の残党も消滅していった。

 

恐らくオーカスの力で動かされていたのだろう。

 

ウルフもメイビーも負傷していたので、まだ負傷が軽かったオルトロスに乗せて帰路を急ぐ。

 

方舟に戻った時、本当に安心した。

 

手強い相手だった。オーカスはオーカスバスターが効いている間は情けなかった。だが最後の瞬間は魔王に相応しい意地を見せたと思う。

 

そして、あのオーカスも、言っていることは根本的には間違っていなかった。

 

過剰すぎる飽食。それは明らかに人間の業だ。体重三百キロを超えるような肥満体になってしまった人間を見た事があるが。あれはもう、もはや人間という生物による宿業以外の何者でも無い。

 

オーカスは邪悪で残忍だった。だが、人間の最も薄ら暗い部分を受け継いでしまった。それは、間違いが無い処なのだろう。

 

モラクスもミトラスもそうだ。

 

そして、その邪悪さは。唯野仁成が、外で散々見て来たものと、殆ど変わりが無いのだった。

 

三日の休憩が作戦参加者に言い渡される。その間、インフラ班などが、プラントの片付けを行う。既に物資などは充分に蓄えられている。

 

その間、死闘を続けた機動班は休憩する。

 

その権利があるから休憩をする。それだけの話だ。

 

レクリエーションルームでぼんやりしていると、ヒメネスが来る。コーヒーを淹れてくれたので、有り難く貰う。コーヒーを淹れたり淹れて貰ったりの関係だ。ヒメネスが交遊する相手は少ない。唯野仁成は、だからといってヒメネスとの交友は嫌いでは無い。

 

「お疲れ。 ストーム1と一緒に豚野郎を仕留めたんだってな」

 

「ああ。 何とかな」

 

「汚らしい野郎だったぜ」

 

「そうだな。 奴は人間の最も汚い部分を学習してしまって、ああなってしまったんだろう。 そういう意味ではモラクスやミトラスと同じだ」

 

ヒメネスは静かに頷く。

 

これは、今までの魔王の凶行を見ているから、同意できることなのだろう。

 

咳払いすると、ヒメネスは少し躊躇った後、言う。

 

「お前には、ちょっと立ち会って貰いたくてな」

 

「うん? どういうことだ」

 

「どうやら、出来るようになったようなんだよ」

 

物資搬入口から出る。プラントの解体と回収はあらかた終わっているので、既にその辺りは静かだ。

 

今は二線級の機動班達が、ゴア隊長の下で演習をしている。

 

その横を通って、少し離れた場所に。勿論プラズマバリアからは出ない。

 

ヒメネスが、ありったけのマッカを突っ込んで、悪魔を作り始める。今ヒメネスが持っている悪魔の中で、バガブーを除く全ての悪魔を合成しているようだった。

 

「おい、ヒメネス、何を作るつもりだ」

 

「大丈夫、悪魔召喚プログラム様のお墨付きだ。 見てな」

 

それでも、デモニカがスパークしているのが分かる。演習中の部隊が、驚いてヒメネスを見ていた。

 

ほどなくして。

 

その場に、とんでもない代物が召喚されていた。

 

巨大な牛頭の悪魔。

 

そうだ。出来るという事は分かっていた。そして、第一号がヒメネスか。ヒメネスは、どうよと自慢げに胸を張る。

 

そこにいたのは、魔王モラクスだった。

 

「……ふうう。 人間ごときに行使されることになるとはな。 我は魔王モラクス。 今後ともよろしく」

 

「ああ、せいぜい頑張ってくれよ。 モラクスさんよ」

 

モラクスがPCに消える。ばちんと、凄いスパークが周囲に走る。

 

ヒメネス自身も、相当に汗を掻いていた。魔王の悪魔合体と召喚とは、これほどに力を使うものなのか。

 

デモニカが警告を発している。やはりバッテリーをほぼ使い果たしたらしい。

 

一度船内に戻り、デモニカのバッテリーを充電。更に、PC内にいるモラクスに話を聞いてみるが。どうも様子がおかしい。

 

此方に対して恨みを抱いている様子も無い。

 

それどころか、此方を知っている様子も無かった。

 

少しモラクスと話をしてから、ヒメネスは聞いてくる。

 

「ヒトナリ、どう思う?」

 

「恐らく悪魔としてのデータとしては、魔王モラクスなのだろう。 あの、軍隊を組織して人間世界に攻めこもうとしていたモラクスとは別の個体なのだろうな」

 

「そういう事か。 記憶などは引き継いでいない、と言う訳だな」

 

「だが魔王達の言葉は気になる。 恐らくだが……」

 

記憶を引き継いでいる本物の方とは、またかち合う事になるのだろう。

 

ぞっとしない話だった。

 

いずれにしても、一旦別れる。そして、休日を利用して、デモニカのオーバーホールと休憩をすることにした。

 

その間ショッピングモールの地霊達と一度ゴア隊長が護衛付きで交渉をしに行ったのだが。地霊達とは交渉が上手く行かなかったらしい。

 

働き者である地霊達にとっては、むしろ仕事を幾らでも作ってくれるオーカスは上客だったらしいのだ。

 

仲間を散々食われただろうし。

 

何よりも、これから下手をすると自分達だって食われていただろうに。

 

悪魔の価値観というのは、よく分からない。

 

いずれにしても、此処での仕事はもう終わりだ。ワーカーホリックなどと一時期の日本人は揶揄されたが。そのワーカーホリックはもはや全世界に広まり、労働者達は死んだ目で働いている。

 

その大半が、働きたくも無い仕事をしていることを考えると。

 

地霊達は、よく分からない意味でのワーカーホリックで。それに同意しているという事なのかも知れない。

 

ただ、ショッピングモールは取り壊し。工場でも作るものは変えるそうだ。

 

これからはまた地霊達の世界を作り直すらしい。邪魔はしないから、邪魔もするな。

 

それだけ言われて、ゴア隊長は戻ってきた。

 

まあ、敵対しないのならそれでいい。

 

ただ、率先して此方の仲間になりたいと言う地霊もいないようだったが。ただそれでも、物好きな地霊が50体ほど仲間になることを申し出てきたそうだ。それでも充分だろう。

 

更に一日が過ぎると。サクナヒメに引率された調査班が、これから地霊達が取り壊しをするショッピングモールに出向き。戦闘で死んだ悪魔の残骸やマッカを根こそぎ回収してきた。

 

マッカはどれだけあっても足りない。

 

現時点で、方舟のクルーがマッカで取引をしている様子は無いが。その利便性の高さから、今後は或いは取引をするかも知れない。

 

何だか、悪い意味でも皆シュバルツバースに馴染み始めている様子で。少しだけ唯野仁成は心配になったが。

 

一兵卒に過ぎないのだ。まだ、どうにもできない事だった。

 

そうして、休日が終わった。

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