Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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原作の次世代揚陸艦と本作の次世代揚陸艦の違いについて。

※レインボウノア

本作における次世代揚陸艦です。

原作では四隻に別れてシュバルツバースに突入した次世代揚陸艦ですが、本作ではそれらの装備を統合。一隻の巨大な次世代揚陸艦レインボウノアとして建造しています。

動力炉は核融合炉が主副二つ。更にプラズマバリア機能に加え、全体のオートチェック修復機能、原作で使用機会がなかった火砲やミサイルなどが大幅に増設されています。

また内部では長期の調査に備えて食糧の自動生成プラントや、多少のレクリエーション機能などが設置されている他、装甲車三両や多数のドローンを含む地上戦力も搭載しています。また装備類を作成するプラントも。

これらの備えは、二度の大きな旅を経験した……あの人によるものです。


3、出立

既に、人員の乗車は完了した。

 

最後に行われていた調整が完了。細部までの確認までも終わって、全ての進捗が完了した。

 

勿論ヒューマンエラーが起きる可能性はある。

 

だが、それでも此処から南極まで移動する間にも、時間はある。補給できる地点もある。

 

それらの場所で、調整は可能だ。

 

此処でやるべき事は終わった。

 

国際再建機構の本部では、撤収と引き継ぎが完了。地下空間はがらんどうになった。以降此処は、シェルターにでも使う事になるだろう。使う必要が生じないことを祈るばかりである。

 

講堂で演説はしない。

 

講堂のような無駄なスペースは方舟にはないからだ。

 

だから、事前に艦内放送を流す。

 

各自が、それぞれ手を止め。

 

これから行くべき場所で。何をするべきか、知るためにである。

 

扇情的な演説は必要ない。

 

春香もそれは分かっているらしい。

 

艦内放送は、最初はゴア隊長に流して貰う。これは、皆が聞く体勢を取るため、である。

 

また、既に画像も準備してある。

 

これから行く場所が、どういう場所かまったく分からない。

 

ある程度、分かる。

 

それとこれとで、全く戦士達の士気が変わってくるからだ。未知は不安を呼ぶ。人間は、脆い生き物なのである。

 

「それでは、皆、これより任務について詳細な話をする。 勿論後から何時でもアーカイブで確認できるようにはしておく。 だがそれでも、今聞ける者は聞き、見る事が出来る者は見て欲しい」

 

ゴア隊長が話し終える。

 

艦内カメラの様子を見る限り、戦士達は手を止めて、話を聞く体勢に入っているようだ。

 

無駄にグダグダ話しても仕方が無い。

 

簡潔かつ要所を押さえて話をする必要がある。

 

原稿は何回か練り直し、春香にも駄目出しを貰っている。

 

この手の仕事は結構するらしく。

 

本人は真田が感心するほど場慣れしていた。

 

「みなさん、国際再建機構広報の天海春香です。 今回はこの危険な旅に同行させていただくことになりました。 今回の旅は、人類の存亡をかけたものです。 既に噂では聞いているかも知れませんが、それが真実である事を此処に告げます」

 

春香の声は落ち着いている。

 

彼女自身、相当な修羅場をくぐってきているのだろう。

 

蝶よ花よと甘やかされてきたり。

 

帝王教育で理屈しか知らないエリートには、とても出来ない肝の据わり方だ。

 

春香は順番に話していく。

 

この船が向かう先シュバルツバースの存在。徐々に拡大しており、止めなければ地球全土がプラズマ分解される事。

 

それだけではない。

 

内部に映像も流す。

 

まるで悪魔としか思えない知的生命体がいる。

 

人間ではとても活動できない状況である。

 

故にこの船は圧倒的なまでに頑強に作り。

 

そしてその気になれば、何年でも生活出来るようになっていることも。

 

兵士達の顔に困惑が走る。

 

だが、あのドローンが、今まで国際再建機構の先鋒として。人の命を代替して死地でどれだけ活躍してきたか、誰もが知っている。

 

故に、持ち帰った映像には圧倒的な信頼感があり。

 

誰も「悪魔のような知的生命体」の存在を疑っていないようだった。

 

「今回の件は、国際再建機構の全力を挙げた探索です。 誰が欠けても探索はなり立たないでしょう。 これより、この戦いに赴くスペシャリストのみなさんを読み上げます」

 

順番にこの戦いに参加する全員の名前が読み上げられていく。最初は正太郎長官から。後は、無作為に抽出された番号通りに。

 

誰一人呼ばれる名前は欠けない。

 

世界中のあらゆる地域から、この作戦のために人が参加している。

 

その中には、もう解決は無理だと諦めていた紛争を国際再建機構によって解決して貰ったり。

 

或いは極貧国家だったのを立て直して貰ったりと。

 

個人的な恩義から参加している人員もいた。

 

ヒメネスやゼレーニンの名前も挙がる。

 

世界的な、いや国際再建機構の顔として、今や世界最高のアイドルである天海春香に名前を呼ばれて気分が高揚しない人間は少ないだろう。

 

有名人にはアンチも増えるものだが。

 

それでも国際再建機構は。

 

このどうしようもない世界を、確実に良くしている世界でも珍しい組織なのだ。

 

だからこそに、カメラの向こうの兵士達は皆神妙にしている。

 

思い出すな。

 

真田は思った。

 

地球を去るとき、みんなこんな感じだったっけ。

 

だからこそ、真田は。皆を可能な限り、生きて帰らせなければならないと思った。

 

勿論、全員を生還させることは、可能性が極めて低いと言わざるを得ないが。

 

それでも、最優先目標はその全員生還だ。

 

最後に天海春香が自身の名前を呼ぶと。

 

拍手が起きた。

 

そして、もう一つ、皆に報告しなければならないことがある。

 

ゴアがまた代わると、話をし始める。

 

「我々は、最高の人員を集めると言うことで、最善の努力をした。 同時に、人員以外でも、最高のスタッフを得る事に成功している」

 

「? アーサーの事か?」

 

「確かに便利なAIだが……」

 

「紹介しよう。 今回の地球の危機に、我々が悪魔について調査していた結果、偶然接触する事が出来た存在。 本物の神。 農耕神にて武神であるサクナヒメである」

 

船内がしんとなる。

 

まあそれはそうだろう。

 

悪魔がいるらしい。

 

そこまではまだ、画像で分かるかも知れないが。

 

神がいるというのはどういうことか。

 

兵士達は皆、ぽかんとしているが。

 

其所に、まずは巨大な岩の映像を映し出す。側には比較対象として、現在最強の戦車の一角として知られるM1エイブラムスがある。岩の大きさは、直径三十メートルにはなるだろう。

 

その岩が。

 

一撃で、両断されていた。

 

その影から出て来たのは、古い和風の着物。それも農作業を行うようなものを着て。

 

古代の日本人のように髪を結い。

 

足下は草履。

 

更には、伝承に残る羽衣を纏った、幼児であった。

 

その幼児が、手にしている剣で斬ったのである。

 

ふんと、胸を張ってみせる幼児。

 

そう、彼女こそ。恐らくはシュバルツバースの影響によって、本来は存在しないのに来てしまった者。

 

破滅の対策として、ライドウさんが念入りな儀式の結果召喚した所、現れたこの世界にはいないはずの神。

 

サクナヒメである。

 

既にその力は確認済み。単純な戦闘力ならケンシロウにもストーム1にすらも勝るだろう。

 

ただし米を作り出すことが力に直結するという面倒な性質を持っており。

 

長期戦を行うためには、船内で常時彼女の「神田」を世話する必要がある。

 

サクナヒメのために、わざわざ貴重な船内の空間を割いて田を含むビオトープを用意したのだ。

 

あの岩を切り裂いた画像は、リアルタイムでのものであり。合成では無い。

 

「悪魔には神だ。 彼女は幼く見えるが識見もある。 勿論、神だけに頼るのではなく、我等全員の力で未来は切り開く。 彼女はこの船に乗る、最後の仲間であると心得ていただきたい」

 

ゴア隊長の言う事だ。

 

兵士達も不満そうではあったが、それでも飲み込んだらしい。

 

そもそも南極に何でも分解する光の柱が出現し。

 

その中には悪魔らしいのがいる。

 

この時点で、常人だったら精神鑑定を要求したくなるだろうが。

 

それらをねじ伏せたのが、ゴアという傑出した司令官への信頼と。天海春香の人望である。

 

真田には出来ない。

 

人間は残念ながら、現実よりも信頼を優先する傾向がある。

 

だから、こう言うときには。

 

こう言う人材を出さなければならねばならなかった。

 

また、ゴア隊長が天海春香に代わる。

 

そして彼女は、咳払いした。

 

「最後の一人、いや一柱を改めます。 豊穣と武の神、サクナヒメ」

 

「わしの事は姫様とよべい。 何、任せておけ。 豊穣神であり武神たるわしが、どのような困難な道でも切り開いてくれようぞ。 ましてやこの船にいるは一騎当千の古強者ばかり。 わしも背中を任せられて心強いわ」

 

ガハハハハと、何とも豪快に笑い始めるサクナヒメの声が艦内に響き渡る。どうやら艦橋にいるらしい。見かけとは裏腹に百戦錬磨の神格だが、ようやく神田から離れて、物珍しくて仕方が無くて周囲を見て回っているのだろう。

 

聞かなかった事にしている兵士も多いようだが。

 

まあ、彼女の実力は真田も知っている。これから頼りにさせて貰う事になるだろう。戦士達は、これから彼女の実力を知れば良い。

 

さて、これより出立だ。

 

地下空間を塞いでいた天井が開く。

 

或いは遠くから監視している勢力もあるかも知れないが。関係のない話だ。

 

巨大な装甲車にも思える姿をした方舟が。

 

ついに動き出した。

 

 

 

方舟は基本的に派手な動きを避ける。

 

南極に着いてからだ。

 

その全ての機能を発揮するのは。

 

まず艦橋に向かった真田は、艦橋の隅にある自席に着く。

 

艦橋を複数に分けてリスク分散をする事も最初は案として出したのだが、基本的にこの艦橋は露出していない。

 

更に全体のコントロールは複数箇所に動力を置いて分散しているため、此処へのリスクは小さいと判断している。

 

その代わり、いざという時副艦橋の機能を有する場所を三箇所に設けた。

 

以前の苦い記憶を生かし。

 

いずれもが、艦内の安全な場所を優先して設定している。

 

操縦を担当する正太郎長官は既に艦長席についている。

 

操縦を艦長が兼任することになる。

 

まあ隊長も兼任しなかったのは。

 

恐らくだが、体力的な問題もあるのだろう。

 

この世界に来てから、サイボーグ化した体の彼方此方が痛むのを覚えている真田には、よく分かる問題だった。

 

伝説的な英雄でも。

 

どうしても年齢には勝てないのだから。

 

隊長であるゴアは、艦長席の少し後ろ。

 

艦橋の全てのモニタを視認できる位置に座っている。

 

艦橋に他にいるのは、オペレーターだけ。

 

殆どのスペシャリスト達、それに特に戦闘要員は。

 

いざという時に備えて、船内の各地に散っていた。

 

「システムオールグリーン」

 

「オールグリーン確認」

 

「隊長、指示を願います」

 

「では、予定通りにまずは地下空間より出立する」

 

ゴアの落ち着いた発言に。

 

正太郎が答える。

 

「レインボウノア、しゅったーつ」

 

「出立!」

 

幾つかの言語で、聞き取りやすいように今の命令が艦内放送で流れる。同時に、動力炉が出力を上げている。

 

真田も手元のモニタを確認。

 

迎撃用のミサイルや対ミサイルレーザーなど以外は、兵器全てがロックされている。

 

これは、いざという時に備えての事。

 

まあ、正直な所。

 

この艦は、ちょっとやそっとの巡航ミサイル程度では、びくともしないのだが。

 

艦が動き始める。

 

操縦桿が二本しかないリモコンで、伝説の巨人鉄人28号を操った「あの」正太郎長官が艦長である。

 

それにAIであるアーサーがサポートもする。

 

何の問題も無い。

 

真田自身は、AIを信じすぎるのは危険だと判断しているのだが。今回は互いにカバーし合う体勢を整えている。

 

真田は知っている。

 

互いに欠点を補い合い、長所を伸ばし合う強みを。

 

だから今回は、何もこの艦の出立に関して、不安は無かった。

 

地下空間から出る時だけ、用意してあった飛行機能を利用する。

 

船体下部にある巨大なブースターをふかして上昇。

 

元々宇宙に行く事も想定していた方舟である。

 

この程度の距離、飛べなければ話にもならない。

 

勿論性能試験はしっかりしてある。

 

巨体が浮き上がり始める。

 

膨大な熱や煙を吹き出すことは無い。

 

もしそうなっていたら、建造に利用した地下空間ごと、この艦は丸焼けになっていただろう。

 

だが、そうはならない。

 

この船を浮かすのには、最新鋭の核融合エンジンを利用している。

 

残念ながら真田の知識を持っても、この時代のテクノロジーでヤマトの稼働システムを再現する事は出来なかった。

 

あの波動エンジンと呼ばれる超システムは。残念ながら、知識だけで再現出来るものではないのだ。

 

全く揺れは無い。

 

真田自身が満足するほど安定した飛行だ。

 

やがて国際再建機構の敷地内に、方舟は着地。一旦飛行機能を解除。タイヤを出すと、発進。

 

本来なら無限軌道の方が良いのだが。

 

この船は、様々な仕組みにてその重さを軽減している。

 

特殊な防弾タイヤによって、船が地面にめり込むこともなく。原子力空母を超える巨体が行く。

 

三度目の始まりだ。

 

二度目の失敗は繰り返さない。

 

いや、失敗に終わったかは分からないが。真田は中途脱落した。

 

今度こそ必ず生き残り。

 

人類の未来を明るいものとする。

 

そのために、皆で生きて帰る。

 

見ると、モニタに敬礼して方舟を見送る人達が見えた。国際再建機構の居残り組達だ。真田も敬礼を返す。艦橋の皆も、敬礼していた。

 

そのまま、ロサンゼルスから米軍が用意した陸路を通って、海に。

 

海を移動しつつ、最終調整などを済ませ。

 

最終的に南極に上陸。

 

シュバルツバースに侵入する。

 

陸路ではさほど速度は出さないが。海上では一気に加速する予定である。

 

ロサンゼルスは太平洋に面しており、幾つかの軍港がある。その軍港から海に入る事になるが。

 

途中は米軍が併走していて。

 

警護と言う名の監視をしていた。

 

それはそうだろう。

 

この方舟は機密の塊だ。

 

米軍としては、本音では中身を喉から手が出るほどほしいだろうし。積んでいる技術の一部を売るとなれば、更に物資を奮発したはずだ。

 

だが、真田はそれを今の人間が手にするにはまだ早いと考えている。

 

だから、正太郎と相談して。技術は米軍には渡さなかった。

 

多くの人が、何の新兵器だと思ったのだろうか。

 

見守っている様子である。

 

何しろこの方舟の巨体だ。無理もない。

 

留守番組の国際再建機構の方で、今度平和維持活動のために派遣される新兵器だという放送を流してくれている筈だが。

 

それでも、やはり興味は持つのだろう。

 

それに平和維持活動の過程で、少なからず血は流れている。

 

価値観が錯綜している現在だ。

 

やはり国際再建機構を良く想わず、ネガティブキャンペーンをする人間もいる。

 

そういう人間を近づけないためにも。

 

厳重な米軍の警護は必要不可避だった。

 

ゴアは彫像のように黙っている。

 

現時点で指示の必要がない。それならば、隊長たる人間は一切動かず黙っている事で、周囲をむしろ安心させる事が出来る。

 

それを経験として知っているのだろう。

 

真田の知る最高の艦長も、戦闘時以外は寡黙な人物だった。

 

ゴアのあり方は正しい。

 

やがて軍港に到着。

 

オペレーターが逐一細かい報告をしてくるが、真田が注目するほどの内容はない。

 

まだ、デモニカスーツを身につける必要もない。

 

海に入れば、其所で一段落だ。

 

軍港の一部から、海に侵入。米軍第七艦隊が護衛に来ていたが、不要と連絡。

 

そこから、一気に加速した。

 

まだ他の国でも組織でも、実用化出来ていない核融合エンジンが出力を上げ。一気にその強大なパワーを推力に変える。

 

水上艦艇の常識を越える速度で方舟が行く。

 

米軍自慢の空母打撃群もついてこられない。

 

それはそうだ。

 

そもそも国際再建機構が一世代先と呼ばれる装備で武装している。

 

更にそれよりも一世代先のシステムをフルに搭載しているのが、この方舟なのである。

 

ただ、ここからが本番である。

 

「各員に告げる。 本艦は安定航行に入った。 これより各システムの稼働チェックを行う」

 

これは全て予定通りである。

 

安定航行に入った直後が一番危ないのだ。

 

ましてやこの船は次世代テクノロジーの塊。

 

何処で不具合が起きるか分かったものではない。全員が動き出すのが、真田のデスクについている幾つかのモニタに映し出された。

 

訓練通りに出来ている。

 

真田自身も断ると、自分の研究室に移る。

 

ここはあくまで戦闘時に、最優先箇所を見る為の場所である。

 

真田の研究室が。

 

本拠地なのだ。

 

研究室前で、武装した戦士達二人に敬礼を受ける。

 

「皆は既に来ているかね」

 

「放送とほとんど同時に来ました」

 

「そうか。 それでは稼働しているシステムのチェックに入る」

 

研究室に入る。

 

アーサーの端末だけでは無い。無数のモニタが存在している。

 

此処の専属オペレーターが五人。

 

いずれも世界で一級の技術者ばかりである。

 

核融合エンジンなどのクリティカルなシステムに関しては、艦橋でも見る事が出来るが。

 

優先度が落ちるシステムに関しては、此処で確認するしかない。

 

更に各国の一流大学で博士号を持ち、現役で活躍している人員が三人来る。

 

その中の一人がゼレーニンだ。

 

いずれも俊英だが、年齢も性別も国籍もバラバラ。

 

真田は敬礼すると、すぐに持ち場につくように指示。自身も、アーサーの補助を受けながら、チェックに入った。

 

「422ACCに異常確認」

 

さっそく声が上がる。

 

これだけのシステムだ。結合試験を何度もやっているとはいえ、どうしてもエラーが出てくるのは仕方が無い。

 

内容を確認する。

 

422ACCと呼ばれたのは、給水システムの一部である。あくまで一部。そしてユニット化されている。

 

交換は最悪自動で行う事も出来るが。

 

まずは直せるかを確認。

 

安易に交換するのでは駄目だ。

 

これから果てしない旅路に出る可能性を考え。常に物資は再利用を前提に動くのである。

 

「確認した。 422ACCにて規定の水量が流れていない」

 

「不具合の原因を調査中」

 

アーサーが言い。

 

七秒ほどで結論を出した。

 

「不具合の原因を特定。 先ほどの海に出た衝撃で、一部の金具が緩んだ模様」

 

「やれやれ……何処でも完璧な対応をとはいかないか」

 

「水漏れは軽微。 既に水は止めました。 修理には数時間かかります」

 

「すぐに現地にて修理を実施してくれ」

 

アーサーが指示を出し、メカニック班が出向く。

 

普通の南極探査艇であれば、ロサンゼルスから南極まで二週間から三週間かからないくらいだが。

 

この方舟は三日で到着する。

 

実際には更に速度を上げたいくらいなのだが。

 

船員の緊張を和らげる事もあるし。何よりも心に準備期間を持たせることも必要になる。

 

そして、三日の間に。

 

船内を完璧に仕上げなければならない。

 

真田はこの船の建造で相当に無理をして働いていたが。

 

一段落できるのは、全部のエラーを取り除いてからだ。

 

それからは、一日くらいぶっ通しで寝られたら良いなと今は思っている。

 

「197B4に異常確認」

 

また声が上がる。

 

今度は調べて見ると、船員用の端末である。リモートで接続して確認して見ると、案の定だ。

 

誰かがファイヤウォールにアタックを掛けている。

 

国際再建機構を快く思わない輩は何処にでもいるが、その手の連中だろう。

 

「アーサー、対応出来るか」

 

「お任せを。 ……特定しました。 メキシコのC市からのハッキングです。 この様子なら、ファイアウォールで防ぎきれますが」

 

「メキシコか……」

 

現在メキシコは、20世紀とは比べものにならないほど荒れている。一種の崩壊国家である。

 

先進国随一の繁栄を誇る米国の隣に、治安が完全崩壊したメキシコが存在するのは何かの冗談としか思えないこの世の醜悪さだ。

 

真田がいた地球の歴史だって、決して綺麗なものではなかった。

 

だが21世紀には、もう少しマシだった筈だ。何しろ技術は、この世界とは比べものにならないほど進歩していたのだから。

 

しかし、思い直す。単に真田が知らなかっただけなのかも知れない。

 

真田はテクノロジーには興味があるが。歴史はそれほど詳しいわけではないのだから。

 

少し考えた後、正太郎に連絡。

 

正太郎は、苦笑して返してきた。

 

「わかった、私から留守組に連絡を入れておこう。 すぐに対応してくれるはずだ」

 

「お願いします」

 

通信終わり。

 

まあこれで此方は良いだろう。

 

それにしても、治安が悪いメキシコ経由でこの船をダイレクトに狙って来るとは。やはりまだネズミがいるのだろう。この船に乗るスタッフは厳選した。だが国際再建機構のスタッフ全員を厳選するのは、実際問題厳しい。

 

やがてハッキングは止んだ。

 

武装部隊が踏み込んだのだろう。まあ、後は任せてしまう。

 

その後七つの軽微なエラーが見つかり。そして、本当の意味でのシステムオールグリーンが到来した。

 

ため息をつく。

 

ゼレーニンを始め、補助としているスタッフも皆安心したようだった。

 

「よし、オペレーター諸君は、全員規定通りに休憩してくれ。 我々も休む事にする」

 

「ラージャ!」

 

「これが最後の休憩になるかも知れない。 シュバルツバース突入はすぐだ。 各自思い残すことはないようにな」

 

皆が出ていった後。

 

真田はゼレーニンに呼び止められる。

 

彼女は不安そうにしていた。

 

「あの、最後の船員の話です」

 

「ああ、サクナヒメか。 彼女とは私も話をしている。 少々尊大だが、歴戦を重ね、勇気も戦闘力も、何より神でありながら人を守り共にあろうとする思想も申し分ないぞ」

 

「いえ、彼女はそもそも本当に神なのでしょうか」

 

「あまり詳しくはないが、一神教の思想で彼女が神になるのかと言えばそれはノーだろうな。 彼女は多神教における神だ」

 

ゼレーニンは科学者だが。

 

やはりどうしても宗教とは切って切り離せないか。

 

一神教が世界に与えている影響は大きい。ライドウさんから聞いたように、現在「悪魔」の世界では、一神教の勢力が圧倒的最大だという。それも頷ける話だ。

 

「……私はそれほど熱心な神の信徒ではありません。 それでもやはり、彼女の存在には抵抗を感じます」

 

「これから悪魔がわんさかいる土地に乗り込むのだ。 もう少し、思考は柔軟に持った方が良いだろう」

 

「それは分かっています……」

 

「それに宗教的な議論については、私は専門家では無い。 すまないが、本格的な議論は別の専門家にしてくれたまえ。 私が興味を持てるのは、実働戦力と、テクノロジーだけだ」

 

敢えて言わない。

 

真田が二度目の旅で、本物の神に宇宙で遭遇した事を。

 

テレサという彼女は、或いは真田が二度目の旅を見届けられなかった後、ヤマトを救ったか。共に白色彗星帝国を打ち砕いたか、してくれたかも知れない。それははっきりいって分からない。真田は途中退場したからだ。

 

だがはっきりしているのは、真田の世界には神はいた。

 

そしてその神は、独善的な存在ではなかった。

 

それだけは事実だ。

 

勿論ゼレーニンにそれを言う事は出来ない。

 

ニーチェだったか。神を殺したのは。しかしそれは完全では無いなと思う。

 

一神教の呪縛から、西洋圏はまだ脱することが出来ずにいる。それは別に真田にはどうでもいい。何を信じようと人の自由だからだ。

 

だが、それがもし思考の自由度に枷を掛けるのならば。

 

真田は、頭を振ると。最後になるかも知れない休みを取るべく、寝室に向かった。

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