Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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4、実り

一度実りを、真田さんに引き渡す。アナーヒターの言葉も気になるし、そもそも囚人は何かと言う事も気になるからだ。

 

自室に戻る。そうすると、意外な来客があった。

 

恐らくは、前にさいふぁーと遭遇したときと同じ状況だ。

 

周囲には誰もおらず。そいつだけがいた。

 

以前、一瞬でアレックスに殺された唯野仁成の命を救ってくれた。小さな子供のように見える女神。ヒメネスは子供を産んだ体をしていると言っていたが。まあそうなのだろうかはよく分からない。

 

花の冠をつけ、ギリシャ風の衣服を身につけた小柄な存在。

 

女神デメテルである。

 

「唯野仁成、囚人を一柱解放したのですのね。 実りまで手に入れるとは。 貴方は苗木のようなものでしたけれども、もう育ち始めていますわ」

 

「……この船はプラズマバリアで守られているはずだが」

 

「うふふ、そんな玩具私くらいになるとどうにでもなりますのよ。 内部で暴れるつもりはありませんからご心配なく」

 

武器に手を掛けたくなるが、まずは話を聞く事にする。

 

もし殺すつもりなら、こんな迂遠な行動には出ないはずだから、である。

 

「それで、実りはどうして手放しましたの?」

 

「情報の共有は生き残るために必要だからだ。 あれがほしいのか」

 

「ほしいですわ!」

 

「……聞かせてほしい。 貴方はギリシャ神話でもトップに位置する、オリンポス十二神の一角だろう。 一体何を目論んでいる」

 

「私は豊穣神の最高点にいるもの。 その目的と言えば、豊穣の収穫に決まっているではありませんの?」

 

そう抽象的なことを言われても困るが。兎も角実りを欲しがっている、と言う事については理解出来た。

 

だが、どうにも嫌な感じがする。

 

この女神は。同じ女神でも竹を割ったようなサクナヒメとは真逆に思えるのだ。サクナヒメは人間を冷静に見ながら、それでも慈しんでくれる理想的な神だ。一緒に戦い、傷つくことも厭わない。

 

恐らく彼女が言っていた、駆け出しの頃に人間と共に苦労して、共に苦境を乗り切った経験がその性格を作り出しているのだろう。

 

だがデメテルは違う。人間を弄び、完全に収穫するための道具としか考えていない。

 

さっきアリスが言っていたが、ギブアンドテイクの関係が古代の神と人の間にはあったようだが。

 

此奴の場合、それすらないように思える。

 

「実りについては集めるつもりだ。 あの嘆きの胎はシュバルツバースの秘密に関わっているようだし、囚人となっている悪魔達に話も聞きたいからな」

 

「貴方の命を助けたんですのよ。 それなのに、実りを渡すと言えませんの?」

 

「命を助けてくれた事には感謝している。 だが、貴方の奴隷になるつもりはない。 ……それに俺は一兵士だ。 もしも実りというものがほしいのなら、この船の首脳部であるゴア隊長や、正太郎長官の前に現れて交渉をしてほしい」

 

「あら、真面目ですのね。 まあ良いですわ。 ともかく実りを集めて、混沌の悪魔どもに渡さないようにしてくださいまし」

 

すっとデメテルが消える。

 

同時に、肩を揺さぶられていることに気付いた。相手はゼレーニンだった。

 

やはり、一人で停止しているように見えていたらしい。前と、さいふぁーに会った時と全く同じだ。

 

「仁成、大丈夫!?」

 

「……ああ。 真田さんとゴア隊長、正太郎長官に相談するべき事が出来た。 艦の首脳部にも話しておくべきだと思う」

 

「? どういうこと?」

 

「船のセキュリティに問題がある」

 

さいふぁーに続いてデメテルだ。同じように侵入され、好き勝手を言われた。

 

前のさいふぁーの事は真田さんには話してはある。その時に解析などはしてくれているはずだが。更に上を行かれたと言う事だ。

 

今後更に強力な悪魔が現れる可能性が高い事を考えると、プラズマバリアの堅牢性に疑念が生じる。

 

程なくして、アポが通った。

 

カリーナで得た、オーカスのロゼッタから分析し、次の空間へ行く話をしていた所らしいのだが。唯野仁成は、光栄にもこの船の指揮官達からも認められているらしい。

 

艦橋に出向き、全てを話す。

 

真田さんは腕組みして考え込んだ。

 

「ログは調べて見るが、プラズマバリアではそもそも侵入を防げないのかもしれないな」

 

「少なくとも二体の悪魔が俺に対して干渉してきています。 それを考えると、今後は更に強力な防壁が必要でしょう」

 

「その通りだ。 ログを更に徹底的に検証し、対策をする」

 

真田さんがそう言うならば信頼出来る。

 

ゴア隊長も不審そうに眉をひそめた。

 

「それにしても実りとはなんだ。 真田技術長官、わかりますか」

 

「天女アナーヒターから回収した実りというものは、調べて見た所単独では単なる情報集積体にすぎませんね。 しかしながらバラバラにされた形跡があり、一部のデータが破損しています。 ひょっとすると、この破損部分のデータを、デメテルは求めているのかも知れません」

 

「いずれにしても、シュバルツバースの秘密に迫るには重要だが、同時に最高位悪魔が喉から手が出るほど欲しがっているというわけか……」

 

「入手には細心の注意が必要でしょうな」

 

正太郎長官が咳払いする。

 

皆、其方に注目した。

 

「では、後見人としてちょっと口出しをさせて貰う。 方針を決めておこう。 真田くん、君はまず、悪魔に好き放題入られるセキュリティに対して守りの強化を」

 

「はっ!」

 

「ゴア隊長は、部下達に目を配ってほしい。 姫様、ライドウ氏、ストーム1、ケンシロウ。 君達は、いかなる相手にも勝てると儂は確信しているが。 最高位悪魔の不意打ちを常に警戒してほしい」

 

「イエッサ!」

 

威勢良く敬礼したのはゴア隊長とストーム1だけ。無言でライドウ氏とサクナヒメは頷き、ケンシロウはぼーっとしているように見えた。

 

そして、正太郎長官は、唯野仁成を見る。

 

「高位悪魔が君に興味を示していることは前から様々な情報が裏付けしている。 君は、一番気を付けてくれ。 悪魔は心の隙間に入り込むという。 どうにもあのアレックスという娘の強烈な殺意が気になってならないのだ」

 

「自分もです。 以降、気を付けます」

 

「うむ。 それでは、各自次の空間に行く準備を整えてほしい。 翌日には、この嘆きの胎を出立する」

 

敬礼して、艦橋を後にする。

 

声を唯野仁成に掛けて来たのは、艦橋で話を聞いていた天海春香だ。

 

直接声を掛けられるのは初めてだ。流石に唯野仁成も驚いた。

 

「唯野仁成隊員」

 

「はい。 なんでしょうか」

 

「今までのログは私も見ています。 一番危険なのは、恐らくデメテルという方だと私は感じました」

 

「……」

 

天海春香は言う。

 

彼女は悪意が渦巻く芸能界で生きてきた人間だ。強力な悪意は嫌と言うほどみてきていると言う。

 

幸い、とても優れたプロデューサーと、アイドルをとても大事にしてくれる事務所のおかげで此処まで来られた。

 

だが、やはりそれでも。おぞましい漆黒の悪意は散々見て来たという。

 

国際再建機構に移籍してからもそれは同じ。慰問で各地に出向くと、やはり人間の業は嫌と言うほど見る事になったと、悲しげに言う。

 

その上で断言した。

 

「魔王以上の悪意をデメテルさんからは感じます。 一番注意を払ってくださいね」

 

「分かりました。 忠告、最大限に生かします」

 

敬礼する。微笑みを返される。

 

唯野仁成は自室に戻りながら、状況を分析する。これほどの人物に言われたのなら、ほぼ間違いないだろう。デメテルの内心は真っ黒と見て良い。

 

何故実りとやらを求める。

 

最大限の警戒をしなければならないのは、確定だった。

 

 

 

(続)




オーカスを撃ち倒し、嘆きの胎の探索も確実に進んでいきます。
しかしながらまだ予断を許さない、複数の勢力が絡まり合う危険な戦況。
次はどう動くのでしょうか。
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