Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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魔王オーカスとの戦闘を勝利に終えた英雄達の船。

いよいよ次の世界、デルファイナスに向かう事になります。


血まみれの美
序、第四の空間


間もなくスキップドライブが開始される。

 

一度嘆きの胎からカリーナに戻った方舟、レインボウノアは。解析したオーカスのロゼッタから、量子のゆらぎの情報を得て。次の空間に飛ぶ事が出来るようになった。

 

もう四つ目の世界に入る事になる。

 

今更、誰もそれを怖がる事はない。

 

ただ、何があっても良いように、周囲に自分を固定するように指示は受ける。最初の不時着の経験を生かす。

 

経験を生かせないのでは、意味がないのだ。

 

「スキップドライブの準備開始!」

 

「皆、聞いておいてほしい。 この先には恐らく魔王アスラがいる。 船内にずっと潜んでいた悪魔どもの親玉と見て良い」

 

ムッチーノの通信の後、真田さんが解説をしてくれる。

 

確かにその通りだろう。

 

そして船内に潜み、船員の心に入り込んでいたのだとすれば。

 

此方の手の内は読まれている可能性が高い。

 

「故にまずはその対策を徹底してから船を下りる事になる。 それだけは、覚えておいてほしい」

 

「イエッサ!」

 

「それでは皆さん、スキップドライブを開始します!」

 

春香の声で、スキップドライブ開始が告げられる。これは、やはり緊張を和らげるためだろう。

 

ほどなく、方舟は加速を開始。

 

一気に、空間の穴を抜けていた。

 

途中、揺れはない。

 

もはや真田さんにより、揺れるなどと言う不安定な欠陥は改良されたと見て良いだろう。

 

やがて速度を落としながら、方舟は着地地点を探し始める。

 

今回の世界は、巨大な山のように見える。だが、その山は。オーカスが吐き戻したものとは別の意味で、凄まじい代物である事が分かった。

 

艦内には既に、この世界の有様が見えている。

 

それは、文字通りゴミの山だった。それも、普通のゴミじゃない。明らかに、有害物質をてんこ盛りに含んでいるものばかりだ。

 

「これも事前にドローンで得られた映像の通りだな……」

 

「オーカスの所よりもある意味汚らしいわね」

 

色々な声が聞こえる。

 

ほどなくして、アーサーが皆に聞こえるように、通信を入れて来た。

 

「新しい世界へのスキップドライブ成功。 この世界を、アルファベットのdにちなんでデルファイナスと命名します」

 

「イルカ座ね。 そういえば空間には星座の名をつけているのね」

 

ゼレーニンが博識なところを見せるが。

 

まあアーサーにしてみれば、アルファベット順に聞き間違えにくい名前をつけているだけだろう。

 

軍隊で、アルファチームとかブラボーチームとか、敢えて部隊の名前を長くするようなものである。

 

特に其所にしゃれた意図はないのだろう。

 

真田さんも通信を入れてくる。

 

「此処がまだ魔王アスラの拠点かはわからないが、その可能性が高い。 今対策が完全か、確認中だ。 降りるまでしばし待ってほしい」

 

「外の映像が乱れてないか?」

 

誰かが言う。

 

確かに、艦外カメラの映像が乱れている。プラズマバリアがかなり激しく発光しているようだ。

 

機動班は既に戦闘準備を整えている。サクナヒメが歩いて来たので、唯野仁成は敬礼していた。

 

「姫様、何か問題が起きましたか?」

 

「この気配程度だとまだわからぬか唯野仁成。 さっきからプラズマバリアとやらに何かが纏わり付いてきておる。 恐らく、手下を全部潰されたアスラとやらが再侵入を試みているのだろうよ」

 

「それは……」

 

「何、真田を信じよ。 あ奴はなかなかの知恵者だ」

 

サクナヒメに頷く。

 

程なくして、プラズマバリアの発光が止んだ。腹立たしいながらも、入れないとアスラが感じ取ったのかはまだ分からないが。攻撃を止めたのだろう。

 

間もなく、動力炉の出力に余裕が出来た方舟が動き始める。

 

着地地点は、山の近く。

 

この世界では、荒野も全てもれなく紫色だ。猛烈な毒素に汚染されていると見て良いだろう。

 

何なんだこの世界は。

 

オーカスが飽食だとすれば、この世界は一体何だ。汚濁だろうか。ちょっと唯野仁成には、何とも言えないが。

 

ともかく、上の指示を待つしかない。

 

まず船外にドローンが出たようだ。プラズマバリアの範囲内で、色々と調査をしているらしい。

 

やがて、船内放送があった。

 

「機動班、物資搬入口に集合せよ」

 

「ようやくだな」

 

一応、出る事は出来ると言う訳か。

 

ともかく、このデルファイナスという世界。今まで以上の魔郷の可能性が極めて高い。油断は、一秒も出来ないだろう。

 

物資搬入口に出ると、既に機動班クルーと、ライドウ氏がいた。サクナヒメが少し遅れてくる。

 

「姫様、内部はどうでした」

 

「真田にもらったからくりを試してみたが、何処にも残滓はない。 プラズマバリアとやらは完璧ということじゃな。 少なくともアスラの攻撃に対しては」

 

「了解。 ならばまずは一旦プラズマバリアを拡げ、その範囲内で調査をしましょう」

 

「うむ」

 

サクナヒメが手を叩く。

 

こう言うときは、武神である彼女が全体の指揮を執る。というよりも、ライドウ氏はどうも一歩後ろに控えて全体を俯瞰している雰囲気がある。

 

力を出し惜しみしている様子は無い。

 

或いは、ストーム1と同じ理由だろうか。自分は既に全盛期を過ぎているから、後継者がほしい。

 

そのためには、人材の育成が大事。そういう考えなのだろうか。

 

いずれにしても、本人にそれは聞いてみないと分からない。調査班が数名来て、それと同時に物資搬入口が開いた。

 

頭の中に悪魔が入っていた。ぞっとしない話だ。機動班クルーも、皆それで警戒しているようである。

 

ゴミ山の側にまずはプラントを構築。更に野戦陣地も構築していく。

 

あのゴミ山に踏み込むには、あのがつんと来た奴を常時自分に行うのか。それとも山全体にあのがつんと来る奴をぶっ放すのか。

 

それは分からないけれど、まずは対策がいるだろう。

 

無防備で入り込むのは自殺行為だ。

 

そもそも此処デルファイナスが、本当にアスラの世界なのかも分からないのだから。

 

機動班クルーは悪魔を展開して、警備に当たる。

 

プラズマバリアがあるからと言って油断しない。何があるか分からないのだ。ましてや唯野仁成は知っている。

 

今まで悪魔がこのプラズマバリアを二度も突破して来ていることを。

 

それを考えると、とてもではないが油断など出来ようはずも無い。

 

アリスが手をかざして、物珍しそうにゴミ山を見ている。臭いとかはあまり気にならないらしい。

 

デモニカを見ると、摂氏150℃、12気圧とある。

 

普通の人間がデモニカ無しで外に出たら即死するような環境だ。

 

アリスには何でも無いのだろうが。それにしても、シュバルツバースは何処も恐ろしい世界ばかりである。

 

「ねえねえヒトナリおじさん」

 

「どうした」

 

アリスは、自分を作った「おじさん」がいるからか。少し悩んでから、唯野仁成を「ヒトナリおじさん」と呼ぶようにしたらしい。

 

此方としてはどうでもいい。

 

この冷酷で気まぐれな悪魔の女の子を、きちんと制御出来るなら、どれだけでも会話する。

 

勿論、闇に迂闊に引きずり込まれるようなことは、避けなければならないけれども。

 

「あの丸いの何?」

 

「あれは……パラボナアンテナだな」

 

「人間の世界でも見かけるよね」

 

「人間は電波というものを使って色々な事をする。 アンテナは電波を受信したりする装置だ」

 

ほうほうと、アリスは感心した様子で頷く。

 

オーカスに報復した後去るようなことも無く、唯野仁成の事が気に入ったらしく側にいてくれる。

 

博識な上に強いので、しばらくは相棒役として重宝しそうだ。ただ、貴重なマッカをどか食いするので燃費は悪いが。

 

「あれで何するの?」

 

「俺は一兵卒……まあ下っ端だからな。 知らされてはいない」

 

「でも、重要な作戦には参加してるじゃん」

 

「それはそうだが。 兵士として力量を認めて貰っているのは有り難い話だが、出過ぎると反感を買う」

 

勿論自分でも色々知識は得たいとは思っている。

 

だが、シュバルツバースでは誰かの独断専行で、簡単に大量の人が死ぬ。それは絶対に避けなければならない。

 

エゴがないわけじゃあないけれども。

 

それでも、押さえ込まなければならないのだ。それが唯野仁成が、此処で得た結論である。

 

「それに国際再建機構は俺が今までいた組織ではもっとも風通しが良い場所だ。 作戦を行う場合は余程の事がない限り事前に教えてくれる。 正太郎長官も真田技術長官も信頼出来る」

 

「あー、あの二人確かに凄いよね。 もっと若い頃だったら、魂きらきらしてただろうな」

 

「そうだな」

 

退屈そうなアリスの話を聞きながらも、周囲に注意をし続ける。

 

やはり敵の斥候らしいのが見に来ているが、プラズマバリアの危険性を周知されているらしく、近寄っては来ない。

 

アスラというのが此方の頭に斥候を忍ばせていたというのなら。

 

それは、手下が近付いてこないのも納得だろう。

 

ある程度此方の手の内を知っていると見て良い。

 

また、敵の斥候を全て排除できたとは言っても。今まで敵に相当な情報が渡っているとみるべきで。

 

迂闊にあのゴミの巨大な山に近付くのは、自殺行為以外の何者でもないと言える。

 

「野戦基地展開率70%!」

 

「進捗少し遅れているぞ、急げ!」

 

重機が行き交い、調査班クルーの行使する悪魔も力作業を手伝っている。

 

機動班は周囲で目を光らせて、何があっても対応出来るようにしているが。それにしても、敵は静かだ。

 

此方が攻めてくるのを待っている、ということか。

 

だが、その判断は、すぐに間違っている事を悟らされた。

 

わっと声が上がる。ゴミ山の方である。

 

機動班クルーが、一斉に反応。デモニカに、会話が飛び交った。

 

「何だ、声が上がっているようだが……」

 

「交戦の音も聞こえるぞ。 何処かの班が先走ったりしたのか?」

 

「皆、落ち着くように。 今、ドローンを飛ばして情報収集中だ。 そのまま警戒に当たってくれ」

 

ゴア隊長の声がして、それで皆静かになる。

 

しばらく声は続いていたが、やがて聞こえなくなった。何が起きているのか。嫌な予感しかしない。

 

しばしして、春香の声がした。

 

「皆さん、ドローンから映像が送られてきました。 此方をご覧ください」

 

デモニカのバイザーに映像が出る。

 

それは、思わず口をつぐむ光景だった。

 

悪魔達が殺し合いをしている。誰かが操っている、という様子も無い。二手に分かれた悪魔が、尋常では無い様子で殺し合っているのだ。

 

やがて互いが殺し合い終えると、殆ど残らなかった生き残りは、ふらつきながらゴミの山に消えていった。

 

何だあれは。何をさせている。

 

此処の支配者は何を考えているのだ。それとも、部下の制御が出来ていなくて、荒くれの部下が殺し合っているだけなのだろうか。

 

そうは思えない。カリーナのオーカスだって、部下を丸ごと皆殺しにするほどの戦力を有していたのだ。

 

恐らくそれと同等以上の実力があるだろう此処の魔王だって。

 

そんなに阿呆ではないだろう。楽観をするのは思考放棄だ。

 

「悪魔同士の殺し合いの理由は目下調査中です。 現在、複数の装置を展開する事によって、悪魔が頭に入り込むのを防ぐフィールドを構築する準備を整えています。 機動班、調査班、いずれも作業を続けてください」

 

程なくして、インフラ班も出てくる。

 

インフラ班は普通方舟から出てこない。ミアみたいに機動班志望の人間が、たまに出てくるくらいである。後は全軍を挙げての総力戦をする時。アントリアの会戦のような時以外は、基本は方舟の中だ。

 

何やらパラボナに細かい設定をしている様子である。

 

あれが、その悪魔が入り込むのを防ぐためのフィールドを構築する奴なのだろうか。

 

唯野仁成には推察しか出来ないが。

 

ただ、真田さんには圧倒的な信頼感がある。

 

あの人が開発するものに間違いは無い。それは、断言することが出来る程だ。国際再建機構に数年でも勤めれば、である。

 

しばらく立ちっぱが続くが。

 

サクナヒメが様子を見に来た。話をするでも無く、こくりと一礼だけすると先に行く。

 

やはり悪魔が入り込んでいる可能性を考慮して、見て回ってくれているのだろう。彼女は悪魔を追い出したときのガツンを受けても平気だったようだし。或いは人間に入り込む悪魔を判別できるようになっているのかも知れない。

 

それから一日ほど、交代しながら機動班で見張りを続ける。

 

野戦陣地はとっくに出来ている。ユニット化されているから、展開は難しく無いのである。

 

要するに頭に入り込んでくる悪魔対策で時間が掛かっているという事なのだろう。

 

一休みして起きだしてきたら、交代の指示があったので外に。ヒメネスとすれ違ったので、互いに苦笑いして出勤した。

 

外では、ゼレーニンが何やら難しい指示を出して、インフラ班と作業をしている。

 

真田さんの指示を受けて、パラメータの設定でもしているのだろう。話しかけるわけにもいかない。

 

そのまま、歩哨の仕事に戻った。

 

外に出ているスペシャルも面子が変わっていて。ライドウ氏はそのままだが、サクナヒメの代わりにストーム1が出て来ていた。ライサンダー2の調整が終わったのだろう。無言で周囲を見回している。

 

歩哨に立つと、ムッチーノから通信が来た。

 

「ヒトナリ、ずっと立ちっぱお疲れさん」

 

「ああ」

 

「交代の度に、通信班で引き継ぎをやっているんだ。 あれから何度か、ゴミ山の方で悪魔の群れ同士で殺し合いをしていたよ。 規模は数十から、大きいときは百を超えることもあった」

 

「此処の親玉は何を考えている?」

 

ムッチーノは分からない、調査中だと言う。

 

いずれにしても、唯野仁成は別に戦闘そのものが好きなわけでは無い。自衛隊の第一空挺団にいた頃からそれは同じだ。

 

国際再建機構に入ってからも、多くの作戦で人は殺してきた。だが、だからといって別に人を殺す事が楽しいとは思っていない。

 

相手は弱き民を脅かすテロリストや反社団体、邪悪な企業の私兵部隊。独裁者の作り上げた狂った軍隊。そんな連中ばかりだった。

 

国際再建機構が、世界の紛争の半分を解決しているとも言われている今の時代。参加していれば、どうしても実戦経験は積む。

 

しかし、だからといって殺し合いが好きなわけでも何でも無い。

 

機動班の歩哨も、流石に集中力が切れてきているらしい。苛立ちを見せている者も目立ちはじめていた。

 

「インフラ班の連中、何を手こずってやがるんだよ……」

 

「プラズマバリアがあるんだ、俺たち必要か?」

 

「そういうな。 俺の聞いた話によると、複数の世界のデータを全て検索し、その結果ようやく頭に潜んでいる悪魔のパターンを割り出したらしい。 それほど巧妙に頭に入り込む相手だ。 真田さんだって手を焼くのは仕方が無い事だ」

 

驚くことに、ストーム1が愚痴を言う機動班の会話に割り込んできた。

 

慌てて背筋を伸ばしている何人か。

 

ちょっと滑稽だったが、ストーム1自身は至って真面目だろう。部下のメンタルケアもきっちりやる。そういうことだ。

 

オーカスとの戦いの時、誰も死なせないと言ったのを唯野仁成は忘れていない。

 

ワンマンザアーミーという名前は。

 

一人でも生還するという意味も。一人で一軍に匹敵するという意味もあるが。

 

その力を持ってして、部下を守り抜くという意味もあるのだろう。

 

だったら、その背中を皆で守れば良い。

 

それが、軍人として。唯野仁成に出来る事だ。

 

しばらくして、ようやくインフラ班が引き揚げて行く。更に、春香からの通信が入った。

 

「展開中の全クルーは全て方舟に引き上げてください。 その後点呼を行います」

 

「やっとか……」

 

誰かがぼやく。

 

野戦陣地は、自動迎撃機能を持っている。だから、無人にしておいても問題は無い。

 

クルーが戻り始め、物資搬入口を閉じると、点呼が開始される。一人も欠けていない。勿論デモニカの反応も調べて、人間になりすまして入り込んでいる悪魔などについてもチェックしているのだろう。

 

プラズマバリアを再展開し、方舟だけを守る。更に、外の野戦陣地にて、例のパラボナが稼働を開始したらしい。

 

多分今頃真田さんは研究室に貼り付きっぱなしの筈だ。

 

徹夜作業だろうなと思うと、少し心配になった。

 

そのまま、休憩を命じられる。要するに、何か重要な用事がこれから来る、という事である。

 

唯野仁成は、また自室に戻る。途中、アンソニーに出会った。

 

モーショボーというモンゴルの伝承にある女の子の悪魔を作ったらしい。PCを見せて可愛い子なんだとデレデレして自慢していたが。鳥の翼を持ち遊牧民の衣装を着込んだむしろ可愛いと言うより幼いように見えるその悪魔は、アンソニーのデレデレした話をPCの内部で渋面を作って聞いていた。

 

明らかに嫌がられている。

 

アリスがぽんとPCから出てくると、ずばり言った。

 

「アンなんとかさんさ」

 

「え、うん」

 

「明らかに嫌われてるよ」

 

「……」

 

絶句するアンソニー。唯野仁成は真顔になる。モーショボーがこくこくとPCの中で頷いているので、更に救いがない。

 

完全に石になったアンソニーを放っておくと。

 

唯野仁成は、自室に戻って、休むとした。あいつにはきっと、また良い出会いがあるだろう。

 

これから大変なのだ。戦地でああなられるよりは、まだ此処でああなられた方が良い。そう思った。

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