Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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ゼレーニンに対するセクハラは原作と同じですが。

本作ではより心を抉る内容にしています。

実際に何度も助けてくれている存在がいるのに、どうしてもそれを認められない。元々の文化的土壌が故に。

それは、ゼレーニンにもとても辛い事なのです。


3、ゴミ山に巣くうもの

ゼレーニンに対して精神攻撃が行われた。その発表があった後、デモニカに改良が加えられた。

 

真田さんは流石だと、唯野仁成は思う。

 

実際問題、デモニカが現状感知できなかった異常を探し当てて、対策を即座にしてくれたのだ。

 

「此処はかねてから開発していた」と真田さんが言えば、問題が次の瞬間には解決している。

 

国際再建機構の人間なら誰もが知っている事実だ。国際再建機構の外では都市伝説化しているらしいが。それが事実なのは、内部の人間は皆知っている。

 

唯野仁成は、ゴミ山を監視しながら、周囲を巡回して回る。

 

アレックスがまだいること。

 

邪神ダゴンというのと、魔神インドラという悪魔を更に連れていることは確認済みである。

 

調べて見た所、ダゴンというのは古い古い神であるそうだ。実体はよく分かっていない部分も多く、一神教の聖書で貶められることも多いとか。邪神という分類は、神の中でも特に独善的で、残忍な者達をさすと言う。魔王とは微妙に違い、魔王は混沌を望むのに対して、邪神は独善的な秩序を構築する事を目的とするとか。

 

だとすると、一神教の神は邪神の総本山のような気がするが。唯野仁成は、その辺りはよく分からない。

 

一方魔神は神々の中でも中庸の最重鎮に当たる存在で、多くの神話における主要な神は大体この魔神に相当するという。

 

インドラも調べて見ると、相当な大物だ。

 

現在印度ではヒンドゥーの信仰が主流だが、その前身の信仰では主神だった存在で。現在でも「神々の王」として神話にて存在感を示しているという。なお仏教では帝釈天と呼ばれているとか。

 

帝釈天なら有名な映画の前口上もあって、唯野仁成も知っている。

 

いずれにしても、ダゴンにしてもインドラにしても、極めて強力な神であることは、唯野仁成にもすぐに分かった。アレックスは、今後も更に戦力を増してくるだろう。パラスアテナと同格の悪魔を更に相手にしなければならない、と言う事だ。

 

ふと、気付く。ペ天使のお出ましだ。

 

周囲の機動班クルーも警戒している中。唯野仁成の側に、マンセマットが降り立っていた。

 

今の時点で警戒しろとは言われているが、この間ゼレーニンを助けてくれたのも事実である。

 

インドラが放った矢は、神話では強力な悪魔を即殺したともいうし。ゼレーニンがもし喰らっていたら、文字通り跡形も残らなかっただろう。

 

「やあ唯野仁成。 貴方を見かけたので降りて来ました。 どうやら大規模な土木工事を行っている様子。 何か此方で手伝えることはありませんか?」

 

「特にはない。 この間はゼレーニンを助けてくれて感謝している、大天使マンセマット」

 

「いいのですよ。 敬虔な神の信徒を救うのは、御使いとしての役割ですから」

 

色々言いたいことはあるが、此処では言わない。

 

実際問題、ゼレーニンを助けてくれたのは事実なのだから。

 

ただ、子供の使いではないのだ。何が目的できたのかを、知る必要があるだろう。

 

「俺の所に来たという事は、何か目的があるのだろう」

 

「鋭いですね。 そろそろ困っているところではないかと思いましてね。 情報交換をしようと思って来たのです」

 

「情報交換……」

 

「此方で見つけました。 この世界を支配している悪魔の端末です。 座標はあなたのそのからくりに送っておきましょう」

 

すっとマンセマットが指を動かすと、デモニカにデータが入り込んだようだった。確認すると地図データだ。意外にデジタルに順応しているのだなと驚かされる。

 

ただ、後でウィルスか何か仕込まれていないか確認しないと危ないなと、唯野仁成は思ったが。勿論顔には出さない。

 

「ありがとう。 それで此方はどうすればいい」

 

「少し前に魔王モラクスを配下にしたようですね。 そのデータをいただけませんか?」

 

「此方真田だ」

 

不意に通信に真田さんの声が割り込む。

 

どうやら、マンセマットが現れた事は察知していたらしい。様子をモニタしていたのだろう。

 

「データは渡してもかまわない。 そろそろヒメネスだけではなく、他にも数人使えるようになる悪魔だ。 此方としては切り札ともいえない」

 

「……大天使マンセマット、許可が下りた。 データを渡そう」

 

「それではデータをいただきましょう。 うむ、これでよい。 それでは失礼いたします」

 

慇懃に礼をすると、マンセマットは光に包まれて羽根を撒きながら昇天していく。相変わらず大げさな退場方法だなあと呆れる。

 

まあ文字通り天使が昇天して去って行くのだから、別に不思議な事ではないのだろう。荘厳な音楽とか流れそうな雰囲気だったが。

 

嘆息すると、一旦方舟に戻る事にする。データの解析と、受け取ったデータによる影響を調べなければならないからだ。

 

ゴア隊長に許可を貰って、持ち場を離れる。唯野仁成はそろそろ一部隊を任せると言う話が出て来ているらしいが。残念ながら現状ではアレックスが仕掛けて来たときに対応出来ない。

 

ヒメネスも同じ話が出て来ているらしいのだが。正直な話、辞退したい気分なのである。ヒメネスは乗り気であるようだが。不安しか無い。

 

とはいっても、現在四人のスペシャルにかなり戦闘面では依存しているのも事実で。

 

それを拡張したいと思うゴア隊長の気持ちは良く分かる。だから、一兵士としてあまり意見は口にできなかった。

 

一度着替えると、真田さんの研究室に出向いて、デモニカをそのまま引き渡す。

 

データを確認していた真田さんは、しばらく考え込んでいた。

 

「嫌な予感がする」

 

「予感ですか」

 

「うむ。 今プラントに直結したベルトコンベアに崩したゴミをどんどん乗せているだろう。 そろそろ敵も看過できなくなってくる頃だ。 其所にマンセマットが情報を持ち込んできた。 何かあると思えないか」

 

「自分もあのゴミ山の守り手ならば、確かにそろそろ座して待つのは止める時期ではあります」

 

真田さんが指示を出している。

 

一旦ゴミ山を崩すのを中止、というものらしい。確かに今まで順調にいきすぎたのである。

 

そろそろ、敵としても対策を練ってきてもおかしくない所だ。

 

データによると、もう少し崩した所に敵の端末の反応があると言う。すぐに唯野仁成は、戻るように指示を受けた、同時に、マンセマットから受け取ったデータは全削除。もしもデモニカ内部のネットワークで、ウィルスでも動いたら洒落にならないからである。

 

デモニカを着直すとすぐに外に出て、戦闘態勢。トラックなどの輸送用車両は、即座に方舟に引き上げ開始。機動班クルーも、一旦距離を取り、野戦陣地まで戻った。

 

ベルトコンベアやプラントは別に後からでもどうにでもなる。

 

すぐに方舟の砲塔が動き出していた。

 

外に出ているのは、今はサクナヒメとストーム1、それにライドウ氏である。どうもライドウ氏はこの空間が気になるらしく、いつもは留守が多いのに此処に残ってくれている。

 

それだけ此処が危険、と言う事なのだろうか。

 

よく分からないが、兎に角備えて待つしかない。

 

しばしして、砲撃が開始される。更に強化されている方舟の主砲が連続して、マンセマットが指定した地点を撃ち抜き始める。徹甲弾を最初は使い。次は炸裂弾に切り替えた様子だ。

 

さて、どうなるか。

 

派手にゴミ山が崩れ始めるが。其所から現れたものを見て、皆おののきの声を上げていた。

 

禍々しい色をしたそれは、食虫植物なのか。或いは繭なのか。

 

いずれにしても触手を伸ばして、びたんびたんと蠢いている。大きさは、それこそスクールバスほどもある。アレが崩れ落ちてきたら。そう思ったクルー達が、慌てて逃げ始めるが。

 

繭らしいものは、別に崩れ落ちてくることも無く。何かの根があるようで、その場で蠢き続けていた。

 

「なんだアレは。 気色がわりいな」

 

ヒメネスがぼやく。迂闊に手を出さないようにと、即座に指示が飛んだので、誰もが発砲を避ける。

 

確かに変則的な攻撃ばかりをして来ているこの空間の主だ。

 

この空間で捕獲した悪魔に聴取をしたが、呼ばれただけで何も分からないと言う返事しか来ていない。

 

要するに、此処のボスも、オーカス同様軍勢を必要としない悪魔であるという事は確定したわけだ。

 

つまるところ、無敵状態のオーカスをも凌ぐかも知れない。

 

確かに下手に手を出す事は悪手だろう。

 

前に出てきたライドウ氏。機動班クルーが道を譲る中、しばらくあの繭のようなものを見つめる。

 

ストーム1と会話しているのが、通信に流れてくる。

 

「どう思う専門家としては。 撃ち抜けというなら即座にやるが」

 

「……妖樹や神樹ではないな」

 

神話には様々な植物が出てくる。

 

その中で、人に害を為すような邪悪な植物を妖樹、神々に貢献するような植物を神樹と分類するらしい。

 

だが、ライドウ氏の様子からして、それらとは違うと言う訳か。

 

「前に聞いたことがある。 大物の魔王は、最初スライムなどの実体化し損ねた、元とは似ても似つかない形態になり、そこから現状に沿った強大な姿になる事があると。 あれはそういった、変化前の存在なのかも知れない」

 

「だとすれば今のうちに潰すべきではないのか」

 

「……少し試してみたい事がある」

 

ライドウ氏が、大きな鳥の悪魔を呼び出すと、その背中に身軽に乗り、上空へ。あの繭と高度でも同じくらいの場所に行く。

 

そして、何かやっているのが見えた。魔法だろうか。悪魔対策の専門家だ。魔法が使えても不思議では無い。

 

しばらくして、空中に巨大な星形の図が出て来た。

 

何だか分からないが、魔法のようなものなのだろう。繭の周囲が、光に包まれる。繭が、いきなり口を開いた。巨大な口は繭そのものを横に割くように拡がり、牙がたくさん生えていた。

 

唸り声を上げ、触手を振るって暴れ始める繭。ライドウ氏はそれでも何か術を施していたが。

 

やがてぶちぶちと音がして、繭が根から自分を切り離したらしい。そのまま、今度こそ転がり落ちてくる。

 

ゴア隊長とライドウ氏が会話をしている。

 

「攻撃を開始すべきだ」

 

「いや、もう少し待ってくれ。 勿論近付かないように」

 

「……総員、距離を取って戦闘態勢を維持。 勿論周囲からの奇襲にも備えてくれ」

 

「イエッサ!」

 

ゴア隊長が装甲車に乗って出て来ている状態だ。正直、あの気色悪い繭がどう動くかも分からない。

 

ゴミ山の麓近くまで落ちてきた繭は、凄まじい唸り声を上げながら、触手を振るって周囲を打ち据えていたが。

 

やがて、大量の体液を吐き出す。緑色の体液は、臭いを遮断している状態でも、これは嗅ぐだけでまずいと察知できそうな代物だった。

 

繭がしぼみ始める。どうやら、戦う必要は無さそうだが。

 

降りて来たライドウ氏が、印を切って繭の側に歩いて行く。しばらく見て回っていたが。やがて大胆に枯れ果てた繭の口の中に手を突っ込むと、何かを取りだしていた。

 

「調査班」

 

「はい!」

 

ゼレーニンが前に出ると、情報集積体らしいそれを受け取る。ライドウ氏は別に嫌がる様子も無い。

 

徐々に枯れていき、やがて消えていく繭。

 

悪魔の死に様と同じである。後に、尋常で無く大量のマッカが残ったことも同じだった。

 

「何だったんだこれは……」

 

「ライドウの旦那。 あれは一体何でさ」

 

「まだ特定は出来ないが、恐らく強大な悪魔が、何かを捕食するためにあのゴミ山に潜ませている端末だと思う。 しかも物理的に悪魔から端末が伸びているような単純な話でも無さそうだ」

 

「捕食、か」

 

ヒメネスがぼやく。殺し合い、死にかけた悪魔が。どこかにフラフラと歩いて行くのを既に何度も確認している。

 

それらがゴミ山に消えていったことも。

 

要するに、その悪魔達は。この繭に食われたと言う事で正しいのだろうか。

 

何でもかんでも見境無く喰らっていたオーカスと違って、此処の親玉はグルメなのだろうか。

 

ヒメネスは複雑そうな表情である。それに、ライドウ氏の様子も気になる。悪魔の専門家として、何か不安があるのだろうか。

 

唯野仁成は挙手すると聞いておく。疑問があるなら解決するべきだ。

 

「ライドウさん。 貴方ほどの専門家が、それほどに気になる事とは。 何か仮説は立てられませんか?」

 

「……上位の悪魔になると、面倒な能力を持っている奴が色々いる。 嘆きの胎で君達が交戦したキュベレのようなのは強さは兎も角まだわかりやすい方だ。 此処にいる悪魔の能力次第では、文字通りそれを一つずつ剥がして、やっと決戦にたどり着けるかも知れない」

 

「あの妙な繭はその奇妙な能力に関係していると」

 

「恐らくは。 それにあの大天使マンセマットは、何かしらの目的があって我等に繭の位置を知らせてきた筈だ。 油断は出来ない」

 

同意できる。そうなってくると、あの繭は見た目以上に危険かも知れない。

 

調査班が徹底的に調べていった後、一旦現状維持を指示される。プラントも動かさないようだ。

 

ゴミ山に対してどう仕掛けるか。実際に四苦八苦していたのは確かだし。更にあの妙な繭の出現で更にそれが加速したこともある。

 

もしも、複雑な条件を満たさなければ、ここのボスは姿すら見せず。

 

この世界の法則すら支配しているのだとすれば。

 

苦戦は必至だなと、唯野仁成は慄然としていた。

 

 

 

翌日、国際再建機構本部に連絡を入れる。

 

四つ目の空間に侵入し、攻略をしている途中であると言う旨の連絡と。向こうからの定時連絡を受ける。

 

それを受けて分かったのは、やはりシュバルツバース内は、時間の流れが外と違うらしい、と言う事だった。

 

「どうやらシュバルツバースの内部では、二倍から三倍の速度で時間が流れているようだな」

 

「恐らく空間によっても違うのでしょう」

 

「厄介な……」

 

米国大統領が頭をかきむしる。他の面子も、あまり明るい様子では無い。

 

バニシングポイントの特定がもう少しで出来そうだという朗報はあるものの。

 

デルファイナスでの攻防が、お世辞にも上手く行っているとは言えないというのが大きいだろう。

 

クルーに死者さえだしてはいないが。

 

それでも負傷者は連日出ているし、アレックスは虎視眈々と此方を狙っている。

 

映像つきでの情報交換を幾つかした後、米国大統領は咳払いして、南極に向かっている何かについての話をした。

 

「どうやら南極に向かっている何かは、幾つかの財団の支援を受けて、民間軍事会社が護衛に当たっているらしい。 それも相当に潤沢な資金を用意しているそうだ」

 

「民間軍事会社ですか? わざわざそんなものを護衛に……」

 

民間軍事会社。各国で台頭してきている、要するに民間の傭兵部隊だ。

 

戦闘では正規兵より強かったりはするものの、一方で捕虜になった場合正規兵と同様の扱いは期待出来ないし。

 

当然仕事が仕事だから死ぬ事だって多い。

 

紛争が減ってきている今、彼らの仕事も減ってきている傾向にあるため。

 

そこそこ良い人材を、安値でかき集められるだろう。数だけ揃える場合は、である。

 

しかしながら、財団規模の連中が、どうしてまた。しかも潤沢に金を出していると言う事は、相当に良い人材が集められた可能性がある。

 

「南極に向かってきていると言う事は、シュバルツバースに次世代揚陸艦を投入しようとしているのでは」

 

「いや……それは分からない」

 

「米国大統領」

 

アーサーが不意にゴア隊長と米国大統領の会話に割り込む。通信できる残り時間はあまり多く無い。

 

アーサーの事は知っている米国大統領だから、それほど不快そうではなかったのだが。

 

それでも、アーサーが言い出した事を聞いて、顔色を変えた。

 

「ライトニング号は現在どうなっていますか? 米国軍は各地での紛争に資金を散逸し、型落ちの兵器を売り出したと聞いていますが」

 

「し、知らん」

 

「嘘をついている確率88%」

 

「ライトニング号についてしらないのは本当だ! と、ともかく通信は終わりだ。 これで今回の定時連絡は終了とする」

 

通話が切れる。

 

勿論重力子を用いたデータのやりとりは続行されているが。アーサーの言葉に、皆ざわついていた。

 

「ライトニング号ってなんだ……?」

 

「いや、俺も聞いた事がない。 俺は米海軍からの出向組だが、分からない」

 

「皆、落ち着いてほしい。 シールズ出身で将官まで出世した私にも分からない事だ」

 

ゴア隊長の文字通り鶴の一声で、皆が黙り込む。

 

咳払いを敢えて大きくすると、ゴア隊長は、アーサーに対して問いただすのだった。

 

「ライトニング号とは一体何だ、アーサー」

 

「それについては私が説明しましょう」

 

「真田技術長官」

 

「ライトニング号は、米軍が開発をした次世代揚陸艦のプロトタイプです。 複数の欠陥が確認されており、やがて廃棄処分になりました。 その技術が、この方舟の前の世代に当たる次世代揚陸艦……四隻の船、既にこの船に分解されて部品を使われたレッドスプライト他の船に受け継がれております」

 

つまり、この方舟の二世代前の次世代揚陸艦と言う事だ。

 

アーサーが、皆のデモニカに映像を送ってくる。小型にした方舟という雰囲気だが、若干武装などが多いようだ。

 

アーサーの説明は淡々としているが。あまり内容は、嬉しくないものである。

 

「このライトニングは、紛争地帯などに直接乗り込んで、周囲の敵を実力で制圧する事を目的として開発されていました。 そのため重武装で、攻撃を受けても平気なように装甲も分厚いです。 ただしプラズマバリアの出力はかなり低く、また動力も核融合炉ではなく核分裂炉が使われていました」

 

「本当に方舟のご先祖なのだな」

 

「しかしながら、もし何処かからこの方舟の技術の一部でも流出していた場合、ライトニングは脅威になり得ます。 元々戦闘を最初から想定し、文字通りの強襲揚陸をして敵を制圧する事を目的に開発されていた艦です。 対艦ミサイルなど問題外、核にすら耐える事をコンセプトにしていたものです。 開発当時は技術的な側面から開発が断念されましたが、もしも技術が流出していると……」

 

何処かしらの財団が山盛り雇った兵隊を満載して、ライトニング号がシュバルツバースに殴り込んでくる可能性が出て来た、と言う事か。

 

勿論援軍としても考える事が出来るが。

 

そもそも有名無実化して久しい国連は機能していないし。各国すら介さず勝手をしている財閥達の思惑など分からない。

 

もしも南極に向かっているのがライトニング号だとして。

 

味方だと考えるのは無理があるなと、唯野仁成は考えていた。

 

ヒメネスが話に割り込む。

 

「それでアーサー、どうしてそのライトニング号の話を出したんだ」

 

「米国大統領は明らかに慌てていたように、米国は財務歳出が良くない状態で、中古の兵器を各国に売り出していました。 ライトニングも、その過程で機密を抜き取られた状態とは言え売り飛ばされていたようです。 記録が殆ど残っていませんが、停泊していた基地から忽然と消えていた事から考えても、政府がそのまま主導して売り払ったのは確定でしょう」

 

「おいおい、馬鹿じゃ無いのか……」

 

「米国としては、この方舟が代わりになると判断していたのでしょう。 今となっては、その判断が徒となったわけですが」

 

ヒメネスの直接的すぎる表現だが。今回ばかりは唯野仁成も同意だ。もしも買い取ったのが何処かの財閥だとすると。正直な話、ロクな結果にならないだろう。

 

現在は1%の人間が世界の過半の富を独占しているなどと言われるように、各国に根を張る財閥系企業の資金力は凄まじいものがある。

 

仮に米国が機密を引っこ抜いた上でライトニング号を売り払ったとしても。それら財閥が自前の技術者に復旧させ。更には横流しされた方舟の技術でも盛り込んでいたら、とんでもない怪物艦に代わる可能性がある。

 

とてもではないが、油断出来る状態ではない。

 

困惑の声がデモニカのネットワークに満ちる中、真田さんは言う。

 

「いずれにしても、どれだけ改造してもライトニングは方舟には勝てない。 それだけは断言して良い。 この船には世界最高の英雄達が乗っている。 これは精神論ではなく単純な事実だ。 マシンパワーや物資の量でどうしても勝てない相手は存在するし、戦略とはそういうものだが。 今回の場合は、戦略的な見地から考えても此方の不利にはなり得ない。 安心してほしい」

 

それで、一気に不安の声が聞いていく。

 

真田さんの発言が、どれだけクルーに信頼されているかがこれだけでも明らかだ。

 

ただ、真田さんですら圧勝とは言っていなかった。それは留意しなければならない。

 

真田さんは、更に発言を続ける。

 

「デルファイナスの調査の件だが、もう少しサンプルがほしい。 あの謎の繭について、調査を進めてほしい。 既に繭のあると思われる場所については、繭が出現した時点でデータを採っているので突き止めている。 戦闘も想定されるから、機動班はすぐに備えてほしい」

 

ようやく出番か。

 

すぐに物資搬入口に出向く。ヒメネスは先に待っていた。今回は、出る人数がかなり多い様子だ。

 

アレックスに対する警戒をしながら、更に何だかよく分からない繭の調査を進めなければならないのだ。

 

警戒はしすぎるという事は無いだろう。

 

ゴア隊長も、装甲車で出る。レールガンも野砲として持ち出し。据え付けが終わっていた。

 

会戦が出来るほどの規模の人員が出て、それぞれ指示通りに配置につく。

 

「アントリアの戦以来じゃのう」

 

サクナヒメが周囲を見てにこにこしている。やはり武神であるから、血が騒ぐのかも知れない。

 

調査班は唯野仁成ら機動班に守られて、一旦ベルトコンベアなどのプラントに関する物資を回収するだけ回収する。

 

敵は手の内の一部を見られたわけで、次からは激烈に反撃してくる可能性がある。機動班に選抜されたようなメンバーは、基本的に全員が実戦経験者だ。その程度の事は、言われなくても判断出来るだろう。

 

ビーコンを、ストーム1が打ち込む。

 

程なくして、方舟がその主砲をビーコンに向ける。

 

速射砲が火を噴き、ゴミの山が派手に吹き飛ばされ始める。何度も爆裂が連鎖する内に、何だか嫌な音がし始めた。

 

デモニカに警告が来ている。どうやら、ゼレーニンに対して行われた精神攻撃の類であるらしい。

 

現状は防げているが、嫌な予感がする。

 

ゴア隊長が、声を張り上げていた。

 

「総員、周囲を警戒! 敵の奇襲を防げ!」

 

武器を持っているクルーは全員が武器を出して、周囲を確認。悪魔も全て展開する。

 

前に比べてクルーが展開出来る悪魔がとても多くなっていることもあって、極めて壮観である。

 

激しい爆発が連鎖して、やがてゴミが崩れ出す。あの気色が悪い繭だか食虫植物だかが見えてきた。

 

そして、ストーム1が根っこらしい箇所をピンポイントで撃ち抜く。

 

スクールバスほどもある気味の悪い巨体が、転がりながら落ちてきた。

 

やはり触手を動かし、巨大な口を開いて、凄まじい声を上げる。根っこがつながって無くても、すぐには死なないと言うことなのだろうか。

 

皆が恐怖しているのを見て、またおぞましい声を上げる繭。ライドウ氏は、今度は何もせず見ていたが。

 

やがて、いきなり多数の触手を蠢かせながら、躍りかかってくる繭。元気いっぱいではないか。

 

総員が攻撃を開始する。壁を張る悪魔達もいるが。その壁を繭は軽々とぶち抜いて、乱入しようとしてくる。

 

だが、図上に躍り出たサクナヒメが、槌での一撃を叩き込み、吹っ飛ばす。

 

ゴミ山に突っ込んだ繭だが。多数の魔法の乱打を浴びながらも、すぐに体勢を立て直す。凄まじい叫びを上げて、此方に突貫してくる。

 

ヒメネスがモラクスを召喚。データはマンセマットに渡したが、別に現物を引き渡した訳では無い。魔王の巨体が、繭を受け止めた。繭はかぶりつこうとするが、毛むくじゃらの牛頭の巨体は、その体を押さえ込む。其所に、機動班が対物ライフルを一斉に叩き込む。もうライサンダーを渡されている機動班隊員も珍しくはないし、一瞬で倒せるかと思ったが。

 

恐怖の声が上がる。殆ど効いている様子が無い。

 

ライドウ氏が前に出ると、この間と同じように印を切る。印が、繭を包み込む。

 

そうすると、ようやく繭が大人しくなりはじめ。攻撃を止めよとサクナヒメがいい、皆が慌てて攻撃を止めた頃には。溶けて死に果てていた。

 

ライドウ氏が、通信を皆に入れる。

 

「仕組みの一つが分かった。 あの繭はアンテナだ」

 

「アンテナ?」

 

「今展開したのは、日本神道に伝わる術式の一つで、悪意を遮断するものだ。 あの繭は、悪意を際限なく吸収して、己の存在の担保に変える。 皆あの醜悪な姿を見て怖れていただろう。 それはそのまま、奴のエサになり、奴の力になっていたと言うことだ」

 

唯野仁成は戦慄する。

 

悪魔は精神生命体だ。それはわかっていても、それを此処まで完全に使いこなすとは思わなかった。

 

このような姿を見て、恐怖を感じない人間などいないだろう。唯野仁成だって、あの巨大な口でかぶりつかれたらと思ってしまう。ましてや触手や、あの巨大な牙だらけの口。見るだけで嫌悪感に取り憑かれるものもいるはず。そういえば、体は敢えてブツブツになっていた。

 

集合体恐怖症の人にも、この繭は色々きつい相手かも知れない。

 

なる程、分かってきた。此処の悪魔は、恐怖や嫌悪、憎悪といった負の感情を吸収してエサにしているのか。

 

それならば、納得がいく。

 

そもそも船の中に多数の分身を送り込んできたのは、人間の負の感情をエサにさせて成長させるか、いざという時操るためだったのだ。

 

ひょっとするとだが、此処の支配者はその分身そのものを売り物に、他の魔王と交易していたのではあるまいか。

 

あり得る話だ。

 

事実、ミトラスの所では色々不可解なものが発見されている。此処の主が出所ならば、全て説明がつく。

 

だが、我田引水という言葉もある。

 

素人である唯野仁成が考察するのでは無く、プロの分析を待つべきだろう。

 

更に、もう一つ段階が進む。機動班の面子が、アレを見ろと指さしたのである。

 

其所には、ゴミが減って、剥き出しになった山が現れていた。どうやら、今までゴミをせっせとくみ出していたのは無駄では無かったらしい。

 

とはいっても、山に足を踏み入れたら、足下からあの繭が姿を見せるかも知れない。

 

そうなったら、ばくりだ。ひとたまりもない。

 

アリスがPCから出ると、手をかざして山を見る。

 

おーと面白そうに声を上げるアリス。周囲が眉をひそめるので、唯野仁成はアリスに聞く。

 

「何かありそうなのか?」

 

「うん。 悪魔がたっぷり召喚されそうだよ」

 

「!」

 

アーサーから殆ど間を置かず、警告の通信が来る。

 

大量の悪魔の出現を検知。それぞれ、戦闘態勢を取るように、というものだった。

 

幸い、現在総力戦態勢にある。更にゴア隊長が、船内にいるクルーを呼び出し、戦闘に出られる者は全員出るようにと指示が飛んだ。

 

空間に、幾つか穴が開くと。

 

雑多な悪魔が、それこそ十把一絡げに、大量に虚空より現れる。

 

ああやって呼び出された悪魔が、毎日無秩序に殺し合いをさせられていた、と言う事なのか。

 

ただ数が多い上に、人間を見て明らかにエサだと認識したのだろう。此方に向かってきている。

 

先頭に立つサクナヒメが、手持ちの武器を剣に変えていた。

 

「迎え撃つぞ! 戦士達よ、勇気を振り絞れ!」

 

「おおっ!」

 

流石は武神。最前列に立って、皆を鼓舞する事には長けている。

 

程なく、無作為に向かってくる大量の悪魔を、方舟の対空迎撃システムも連携しての迎撃戦が開始される。

 

アリスがぶっ放した極大火力の魔法でも、生き残りがかなり出る辺り、相当に悪魔の質が高い。前線に接触する前に、サクナヒメが疾風のように悪魔を斬り伏せるが。かなり強い悪魔も点々と混じっているようだった。

 

激しい戦いがしばらく続く。負傷者は即座に戻るように指示が飛び。兎に角無理はさせずに戻らされる。唯野仁成は、最前線でライサンダーをぶっ放し。或いは剣で接近してきた悪魔の首を刎ね飛ばしながら、冷静に観察する。

 

敵は群がるように迫ってきているが、どうにも様子がおかしい。やはり、無茶苦茶に仕掛けて来ているだけのようにも思える。

 

誰かの悲鳴が上がる。地面に押し倒されて、そのまま殺されそうになるクルーがいた。

 

即座に地面にクルーを押し倒していた悪魔の首が飛ぶ。ライドウ氏が、一瞬の早業で抜き打ちを放ったのだ。

 

悪魔の群れは引くことを知らず、やられてもやられても迫ってくるが。

 

その全てが悉く撃墜されていく。

 

二時間ほどして、大量の負傷者を出した上。野戦陣地にも多大な被害は出したものの。

 

どうにかクルーの戦死者を出すのは防ぎ、凌ぎきった。

 

だが。また同じように悪魔を出現させられると、防ぎ切るのは厳しいだろう。

 

すぐにゴア隊長が、隊員達を方舟に戻す。広めにプラズマバリアを展開して、一旦回復に専念する事にする。

 

野戦陣地とプラントをプラズマバリアで守っている状態だから、若干不安ではあるが。そもそも今の戦いで、方舟は弾丸の半分ほどを失ったらしい。プラントを止めるわけにはいかないだろう。

 

誰もが無言になる。完全に正気を失って迫ってくる悪魔の群れを見て、恐怖を感じざるを得なかったのだろう。

 

PTSDを発症しなければ良いが。

 

そう、唯野仁成は、自室のベッドで横になりながら、考えていた。

 

或いはゼレーニンにそうしたように。

 

それが、敵の目的そのものなのかも知れない。

 

だとしたら、少しばかり下劣だ。ヒメネスは心理戦だと否定しそうだが、あまり個人的には賛成したくない。

 

じっと手を見る。

 

敵を斬った感触は。デモニカによる支援があるとしても、どうしても残っていた。

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