Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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ある目的で動いている第三勢力のアレックス。

彼女の前に、化けの皮を脱いだデメテルが立ちはだかります。

嘆きの胎での苛烈な攻防が開始されます。


牢獄に蠢くもの
序、進退窮まる


アレックスはビバークポイントを作ろうと思ったが。嘆きの胎に入り込んだ途端に、それが無理だと悟ることになった。

 

嘆きの胎三層。

 

普段アレックスが力をつけるために利用している階層だ。二層までは単純な構造の嘆きの胎だが、三層からは時空が歪み、一筋縄ではいかなくなる。これはアレックスにとっても有利で、知能があからさまに落ちている看守達をまとめて相手にしなくても良くなる。運が良ければ、力が弱めの看守を捕獲して、手持ちにする事も出来る。

 

何体か持っている手持ちの内、そうやって今まで二体を捕獲した。

 

また、強大な看守が現れた場合も、隠れる事は難しく無い。

 

そもそも嘆きの胎は環境が地上と代わらない。

 

おぞましい植物が蠢いているが、意外に害は少なく。ただ頑丈で、層と層の間の柱として機能しているだけのものだ。

 

だが、スキップドライブしてきた途端。

 

それらの。今までの何度もの周回で知った知識は、全て過去のものとなっていた。

 

歩いているのは、邪鬼ヘカトンケイレスか。

 

ギリシャ神話における地獄の門番。ギリシャ神話における冥府の門番ケルベロスは有名だが、此方は冥府では無く地獄。タルタロスの門番である。その戦闘能力は尋常では無く、オリンポス神族と戦力が拮抗したティターン神族(ゼウスの父世代の神々である)の戦闘を一気にひっくり返した怪物達だ。

 

ギリシャ神話においても爆心地とも言える存在で、百手を持つ彼らは圧倒的な戦闘力をもつ反面、醜いとしてそれぞれの時代のギリシャ神話の主神に疎まれた。それがギリシャ神話における大御所ガイア神の機嫌を損ね。結果としてギガノトマキアやティタノマキアという大戦につながっている。

 

テューポーンやゼウスを除けば、恐らくギリシャ神話でも最強の戦闘力を持つ巨人が、無言のまま彷徨いている。

 

明らかにあり得ない事態だ。

 

それだけではない。

 

周囲には、それこそ地獄の深奥に済んでいると呼ばれるような悪魔が群れを成して闊歩している状況だ。

 

主神クラスの手持ちでもない限り、戦闘をするべきではない。

 

更に確認もしたが、各階層の階段は封じられおり。

 

各階層の本来の支配者である囚人か。或いはそれ以上の力を持つ者が、力尽くで破らなければならない状態だった。

 

木の陰に隠れて。アレックスは息を殺す。

 

流石にヘカトンケイレス三体を同時に相手にして、勝てるとは思えない。

 

「ジョージ、何が起きているの」

 

「確か此処の囚人は魔神アモンだったな」

 

「ええ。 その筈よ」

 

「アモンはエジプト神話でもかなりの重要な神格で、時期によっては最高神を務めていたこともある存在だ。 後に一神教で悪魔に貶められたが、それでも確か嘆きの胎では囚人として使われているはずだ。 その強大な力は嘆きの胎の囚人では、今までに存在を確認した囚人の中ではゼウスにつぐ。 脱走した可能性があるな」

 

アモンが脱走。勿論可能性の話だが、アレックスは、思わず爪を噛みたくなった。

 

アモンは何度か交戦した事があるが、全戦力をつぎ込んでやっと撃退出来るかどうか、という相手だ。なお横やりが入る事が多く、倒せたことは無い。

 

アモンから派生した一神教の悪魔「マ」モンは、「相当な強者である」と描写されている悪魔の一柱で、戦闘力に関してもその評価に劣らない。

 

特に嘆きの胎に収監されているアモンは、エジプト神話の神格としての要素がとても強く。

 

出来れば関わり合いになりたくない相手だった。

 

ましてやこの状況。

 

アモンとまで遭遇したら詰む。

 

スキップドライブは連続して行えるわけでは無い。デモニカでのスキップドライブには制約が多い。

 

単純にデモニカに蓄積できるエネルギー量が小さいからだ。幾らスキップドライブ出来るからとはいえ、核融合炉を積んでいる次世代揚陸艦のようにポンポンできる訳では無い。

 

「次にスキップドライブ出来るのは」

 

「戦闘を避ける事が出来れば91時間後」

 

「……っ」

 

「だが、この状況、戦闘を避けられるとは思えない。 最悪の場合、空を飛べる悪魔の手を借りて、二層なりに無理矢理逃げ込むことを推奨する。 現時点での戦力で、此処を打開できる可能性は2%以下だ」

 

そんなにあるのかと、強がりを言いたくなるが。

 

ジョージはいつもアレックスのことを考えて、現実的なプランを策定してくれた。

 

深呼吸をする。

 

4日近く、此処で潜伏するか。

 

確かに言われた通り、そうすればアントリアなりボーティーズなり、現状の戦力なら昼寝しても大丈夫な場所に逃げ込むことが出来る。

 

だが、そうして潜伏できる可能性は極めて低い。

 

アレックスは悪魔に追われたことも、人間に追われたこともある。

 

悪魔はとにかく、探し方が荒々しくおおざっぱだ。結界などを張っていても、何もかも壊しながら探すから、無意味になりやすい。

 

人間はとにかく探し方がしつこい。徹底的に追ってくるという意味では、人間の方がそれに近いだろう。

 

いずれにしても、何があったにしても。

 

今回は悪魔が何かを追っている事になる。

 

ということは、いずれおおざっぱに、三層をあらかたしらみつぶしにし始める筈だ。しかも敵の質は尋常ではない。

 

隠れながら進む。

 

何とか外縁部まで出なければならない。

 

嘆きの胎は北欧神話に出てくるユグドラシルのような巨大な木の中にあるようなものだ。

 

この三層は空間が歪んではいるが。

 

それでも、外縁部に出れば脱出は可能。飛ぶ事が出来る悪魔は手持ちにいる。だから、どうにかできる。

 

マップは過去に彷徨いたときに、隅々まで調べてある。ジョージも、何処の空間がどう歪んでいるかも知っている。

 

だから、最短ルートは即座に出してくれたが。

 

しかしながら、二つ目の空間の裂け目に飛び込んだ瞬間。

 

待ち構えていた悪魔の群れに、息を呑むこととなった。

 

中空に満面の笑みで浮いているのは女神デメテルだ。秩序属性の悪魔が、どうして嘆きの胎で好き勝手やれているのか。

 

何よりも、奴が実の所相当な武闘派であることをアレックスは既に知っている。そして、デメテルの足下には、混沌属性である筈の看守が数体。更にヘカトンケイレスも控えていた。

 

とてもではないが、勝てる戦力では無かった。

 

スモークグレネードを叩き込むと、真っ先に撤退に掛かる。此処のマップは幸いにも複雑で、頭がおかしくなっている者も多い看守悪魔を撒くことなら出来る筈だ。複雑に走り回って、ひたすら逃げ回る。

 

逃げる事は得意だ。

 

得意でなければ、今まで生きてこられなかった。

 

ジョージのサポートを受けながら、追い詰められないように必死に走り回る。

 

兎に角、外縁に。

 

至近。デメテルが出現したので、抜き打ちに光の剣で一撃を浴びせるが。

 

あっさり剣を掴んで止められたので、愕然としていた。

 

この光の剣は、高熱のプラズマを空中に固定化することで、あらゆるものを熱で斬るという技術によるもので。

 

単純に熱で斬るだけではなく、プラズマを直接ぶつける事によって分子結合を崩壊させる事も出来る。

 

つまり手で受け止められるものではない。

 

だが、現にそれをやってのけられたのだ。

 

直後、凄まじい回し蹴りを喰らって、文字通り天地が逆転した。

 

背中から壁に叩き付けられたと気付いたときには、更に追撃を受けていた。回避が出来たのは奇蹟に等しい。

 

デメテルの拳が、頑強な筈の嘆きの胎の植物に食い込み。クレーターを穿つ。

 

正体を現したデメテルは、完全な超武闘派。

 

ピクシーにも格闘戦で勝てないとうそぶいている事は知っていたが。流石にこれは悪い冗談である。

 

必至に腹を押さえながら立ち上がる。肋骨を何本かやられた。デモニカのダメージも深刻である。

 

もう、迷っている暇は無い。

 

パラスアテナを召喚すると、後を任せて逃げる。

 

同じオリンポス十二神でも、天地の差があることは分かっている。だが、それしか手がない。

 

必死に逃げ回る内に、パラスアテナの反応がロスト。

 

早すぎる。デメテルは軍神でもない筈なのに、どうして。

 

だが、それでも。走り続けて、必死に外縁に到達。呼吸を整えながら、インドラとダゴンを同時に呼ぶ。

 

ダゴンが反応。

 

抜き手を突きだしてきたデメテルの攻撃を、かろうじて止める。

 

その間にインドラの戦車に飛び乗る。

 

インドラは戦車(※MBTではなくいわゆる戦闘用馬車チャリオットである)を有していて、これはインド神話における神の敵対者である羅刹の王子メーガナーダに破れた際、戦利品として奪われている。勿論神々の馬車らしく、空を飛ぶことも出来る。

 

ダゴンが、無言のままのデメテルに対し、至近距離から冷気の魔術を全力で叩き込むが、それが逆鱗に触れたのだろう。

 

気合いと共に、ダゴンが消し飛ばされていた。

 

デメテルは何とか上空に逃れたアレックスを、冷たい目で見ているが。

 

ぐっと身をかがめると、凄まじい勢いで跳躍して。

 

空中をジグザグに追撃してくる。

 

「デメテルの戦闘能力がデータに無いレベルだ。 撤退するしかない」

 

「でも、もう手札が……!」

 

「良くも私に冬を浴びせてくれましたわね?」

 

ぞくりと、背筋が凍る。

 

インドラの戦車の後ろに、デメテルが飛びついて、乗って来ていた。

 

とっさに光の剣を突き込むが、やはりかわされ。手で掴み取られる。手がじゅうじゅうと音を立てている。小さな子供のような手が。だが、デメテルは眉一つ動かしていない。完全にバケモノだ。

 

最高位ランクの悪魔の恐ろしさは知っているつもりだった。

 

だが、デメテルのこの実力は異常だ。

 

同じオリンポス十二神の、しかもギリシャ神話では殆ど無敵を誇るパラスアテナを一方的に蹂躙し。古代神格として強い力を持っているダゴンも殆ど一蹴している。

 

その冷たい目は、さながら。

 

昔、アレックスを追い回した。

 

雄叫びと共に、一気に剣を押し返す。

 

剣を面倒くさそうに離したデメテルに、渾身の蹴りを叩き込むと。一旦インドラを引っ込めた。

 

当然戦車も消滅。自動落下に移行する。

 

流石にこれにはデメテルも驚いたようで、距離が一気に離れていく。

 

嘆きの胎の底がどうなっているかは知らない。

 

だが、途中でインドラを再召喚。強烈な打撃を受けるが、何とか戦車に乗り直すと、全力で走るように指示。

 

ジョージにサポートを受けながら、必死に呼吸を整えていた。

 

「体の回復を急いで」

 

「デモニカの出力、現在79%」

 

「そんなに落ちているの」

 

「女神デメテルの戦闘力は明らかに異常だ。 ひょっとすると、嘆きの胎の看守悪魔達を従えているのも、実力で、かも知れない」

 

呼吸を整えながら、急速回復の痛みに耐える。

 

デメテルは追ってくるだろう。だから、此方から、嘆きの胎の六層。もっとも迷宮が入り組んでいて複雑な場所に飛び込むと、隠れた。

 

それから、数日隠れる。

 

ビバークするのには慣れている。ましてや嘆きの胎は、環境も外と変わらないのである。

 

六層は、文字通り地獄の底。

 

神話にて重鎮とされるような悪魔が当たり前のように彷徨き。

 

現在のアレックスの戦闘力では、どうにもできないような奴もちらほら見受けられる。本来だったら、ヘカトンケイレスは此処を彷徨いている悪魔だ。それがあんな浅い層に出て来ているなんて。

 

しばらく休息して、どうにかデモニカの回復は果たす。

 

体の方も回復したが、けだるさが抜けない。

 

無理矢理傷を癒やしたから、体の機能回復が間に合っていないのだ。

 

だが、こんな状況でも、ろくでもない話ばかりが出てくる。

 

「アレックス。 苦しいだろうが聞いてほしい」

 

「何、ジョージ」

 

「どうやら嘆きの胎にあの巨大な次世代揚陸艦が侵入したようだ。 恐らくデルファイナスの攻略が完了したのだろう」

 

「早すぎる……」

 

呻く。

 

デルファイナスのアスラは狡猾な奴で、今まで渡って来たシュバルツバースで、レッドスプライトは散々苦戦させられていた。

 

今回は、そもそもレッドスプライトでは無い次世代揚陸艦が来ていて。

 

しかも乗っている人数は従来の数倍。

 

更には、明らかにおかしい技術を持っている人間が多数いる事もある。アレックスが知らない、とんでも無い強者が多数乗っている。

 

それもあってか、明らかにそれぞれの世界の攻略が早すぎる。

 

今は、それに対する怒りや苛立ちよりも。

 

どうしたらいいのだろうという絶望の方が、強く出てしまっていた。

 

「デメテルの動きは気になるが、相手の動き次第では暗殺の好機が生じる。 二層に既に奴らは侵入している。 看守が殺気立っている今、暗殺の好機は生じるはずだ」

 

「奴らは強くなる一方よ……」

 

「此方の戦力を出し惜しみせず行くしか無い。 少なくともターゲット三人は、今のバディなら倒せる」

 

「……」

 

その自信も薄れつつある。

 

確かにターゲット三人と一対一の状況を作れれば、その通りだ。唯野仁成を殺す事は可能だろう。

 

だが、敵は明らかに組織戦を意識していて。アレックスに対する厳重な警戒をしてきている。

 

下手に近付けば、あのケンシロウというインファイターや。

 

聞いた事もない神格であるサクナヒメが、応戦に出てくるだろう。

 

それに加えて二人、アンノウンもいる。

 

通信などから、ストーム1、ライドウと呼ばれているのは確認したが。

 

どちらも知らない。

 

少なくとも、今まで渡って来た世界では、聞いた事もないクルーだ。

 

何度か惜しい所まで追い詰めた世界では、レッドスプライトに押し入って、敵の情報を仕入れたりもした。

 

メインのクルーについては、そういったときに情報を仕入れているのだが。

 

いずれも名前にない。

 

ここシュバルツバースが特異な場所である事は分かっているが。

 

今回は少しばかり様子がおかしすぎる。

 

「アレックス。 意地を張らずに、次の世界に賭けるか?」

 

「駄目よ。 この世界だって、まだ終わった訳じゃないのよ」

 

「君は、非情に徹しきれないな」

 

「……」

 

そうだ。非情に徹しきれない。

 

もっと残酷になれていれば、少なくともヒメネスは殺せていたのである。だが、ヒメネスを必死に守る悪魔を見て、どうしても手が鈍ってしまった。

 

自分を守って、凶刃に倒れた家族を思い出してしまったからだ。

 

そんな事は分かっている。

 

だから、アレックスは今まで大望を果たせなかった。

 

「今のバディの精神状態では奴らに勝てない。 ともかく今は戦力の増強が急務だ。 倒せる看守を倒し、デモニカに戦闘経験を蓄積する。 捕獲できそうな悪魔を捕獲し、戦力にする。 これらをこなして行くしか無い」

 

「二層に奴らが来ているのに……」

 

「さっきは好機だと思ったが、今のバディの精神状態では無理だと判断した。 恐ろしい程奴らは慎重だ。 普通だったら死んでいるゴアが生きていて、指揮を執っているのもあるだろう。 今回は諦めろ。 流石にどれだけ戦力が強化されていても、エリダヌスでは必ず奴らは苦戦を強いられる。 その間に、戦力を整えるんだ」

 

言われずとも、分かっている。

 

アレックスに対して、ジョージは時々基礎に立ち返れと言ってくる。

 

それにどれだけ助けられたか分からない。

 

しばらく身を隠して、スキップドライブ出来るだけのエネルギーを蓄積させる。幸い、デメテルは全力で身を隠しているアレックスを見つけることができなかった。何度かヘカトンケイレスが来るのは見えたが。

 

六層は特に複雑な迷宮だ。

 

流石にどれだけ力が強くても、頭が弱いヘカトンケイレスにはどうにもできなかったのだろう。

 

ともかく、残念ながら今は引くしか無い。

 

唯野仁成が手に負えなくなるのは、恐らくエリダヌスを攻略した辺りか、その次の空間であるフォルナクスに入った頃だ。特にフォルナクスに入った頃には、古代神格を手持ちのチームだけで圧倒するくらいになっている筈。更に今回は敵の次世代揚陸艦に、唯野仁成以上の怪物が四人も乗っている。

 

それまでに、勝負を付ける。

 

アレックスは機会を待つ。ビバークポイントで、息をひそめる。

 

敵は恐らく、三層の攻略にはまだ着手できないはずだ。それなら、まだ此方にチャンスはある。

 

身を伏せる。今は、ともかく力を蓄える時だ。

 

時々姿を見せる、勝てる相手を後ろから不意打ちし、倒してマッカを回収する。

 

或いは従えて、手持ちに加える。

 

マッカを消費して、今までの世界で仲魔にしてきた悪魔を呼び出す。

 

そうして淡々と。

 

アレックスは、戦力の拡充に力を注いでいた。

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