Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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最近のメガテンに登場するギリメカラは二足歩行タイプが主流ですね。

オートキラーなんて言われていた時代が懐かしい。真3以降の女神転生だと、適正レベル帯だと面倒極まりない相手です。


2、巨大庭園

巨大な一つ目の象が歩いて来る。そのカラーリングは青と紫の縞々。まさに悪魔の象だ。

 

元々雄の象は繁殖期には凶暴化し、現地の住民からは悪魔と呼ばれる程に危険な猛獣になる。

 

可哀想な象などの絵本の話を見ると、象は知的で温厚な生物のような印象があるが。

 

実際には地上で、人間の次に凶暴で危険な生命体なのである。

 

更に突進してくる象は、アフリカ象よりも二回りは大きい上に。機動班クルーの射撃をまるで受けつけている様子が無かった。

 

サクナヒメが体勢を低くすると、斬りかかる。

 

がいんと、もの凄い音がして剣撃が弾かれた。周囲に衝撃波の跡が縦横無尽に走る。何だ、あの象は。

 

「どうやらあらゆる物理攻撃を跳ね返すようじゃな」

 

「なんつー象だ!」

 

ぼやきながら、悪魔達に魔法攻撃をさせようとするが。

 

攻撃を切り替える前に、象が凄まじい勢いで突貫してきた。

 

アフリカ象でさえ、軽々と軍用ジープをひっくり返す突撃である。それを超えるあの巨体。

 

戦車でも危ないかも知れない。

 

アリスが火焔の魔法を、立て続けにアナーヒターが氷の魔法を叩き込むが、何しろ巨体である。

 

他の雑魚悪魔の魔法もまとめて浴びながらも突貫。

 

あわや、前線を蹂躙するかと思ったその瞬間。

 

サクナヒメが、素手でその体を受け止めた。

 

一瞬の拮抗の末に、サクナヒメが火花を散らしながら、象を押し返し、それどころか投げ飛ばした。

 

ひっくり返ったところに、最大火力のアリスの火焔魔法。以前オーカス戦で見せたトリスアギオンとやらだろう。それが直撃し。

 

流石にとどめとなって。象はマッカになって消えていった。

 

呼吸を整えているクルー達。すぐに朱雀を出して回復をさせるが、かなり厳しい状態だ。サクナヒメも、あんなのを良くぶん投げられたなと思う。前より明らかに強くなってきているが、まだまだ強くなる様子だ。

 

ゼレーニンは無事か。戦闘が始まったタイミングですぐに下がらせたのだが。後ろで悪魔に襲われていないか。

 

パワー達に守られて、ゼレーニンが姿を見せる。肩で息をついている。体力が無いのは仕方が無い。

 

それに、前衛をしていた機動班クルーも皆真っ青になっていたのだ。

 

こればかりは、やむを得ないだろう。

 

「とんでもない悪魔だわ……」

 

「なんだろ今の……」

 

「君も知らないのか」

 

アリスが頷く。だが、しばらく考え込んでから、いきなり分かった、と言った。

 

ちょっと驚いたが、当然お構いなしである。

 

「ギリメカラだ、あれ」

 

「ギリメカラ?」

 

「印度の隣国の伝承に登場する象の悪魔だよ。 確か魔王の乗り物だとかいう」

 

「結構な大物じゃ無いか。 どうして分からなかった」

 

アリスが言うには、姿が一定しない悪魔の一体だそうだ。アリスがよく見かける所では、二本足で立った象としてあったらしい。

 

だが、今回は象そのものの姿で出て来た。

 

それもあって、すぐには分からなかったそうだ。

 

「物理攻撃はあらゆる全部が無駄だって、前にライドウのおにいちゃんが言ってたよー」

 

「確かに、あれだけ鉛玉を叩き込んでも効いた様子が無かったな」

 

げんなりした様子でぼやくブレア。

 

その上、魔法で瞬殺できるかというとそうでもなく、散々魔法を叩き込んでやっと仕留める事ができた。魔法にも耐性があるということだ。象なのだし、タフなのは当たり前か。

 

軽く神話を調べて見ると、そもそも神の乗り物だった象を隣国で悪魔として認識したもので、それが逆輸入されて魔王の乗り物になったりしている複雑な悪魔であるらしい。本来の神話ではとんでもなく巨大な象であるそうで、タフなのも納得である。仏陀に即座に降伏したという情けない逸話もあるにはあるが、仏教の最高信仰対象が相手では仕方が無い部分もあるのだろう。

 

こんなのが、雑魚として出てくるのか。

 

ここの支配者は、覚悟はしていたが。やはり相当に危険な悪魔だとみるしかないだろう。

 

皆の無事を確認した後、先に進もうとするが。ゼレーニンが待ってと声を掛ける。周囲にすぐに展開。

 

調査班を別で動かせない今。調査班は機動班で守るしか無い。そして調査班がしっかり調査するから、戦いを有利に運べるのである。

 

調査班自体は戦えないが。その調査には千金の価値がある。だから、しっかり護衛しなければならない。

 

更に言えば、ゼレーニンは現場に出ることを嫌がらない。その結果、真田さんが開発に全力投球できるのだと思えば。安いものである。

 

ゼレーニンが何やら調査を始める。庭園の一角に、何だかよく分からない建造物が存在している。

 

似たようなものはいくらでもあるので、機動班は見向きもしなかったが。

 

ゼレーニンには何か不審に思うところがあったのだろう。

 

ほどなくして、あれこれ調べていたゼレーニンが、型を取り始める。何かの鍵らしい。

 

更に、電波中継器を周囲に撒き。

 

念入りに撮影までしていた。

 

周囲を守っているパワー達は、ゼレーニンを気遣っている様子が分かる。重い荷物を持つことを提案したりと、ゼレーニンの事に対して明らかに以前と態度が違ってきているので。

 

今まではパワー達の事を悪く言っているクルーもいたが、

 

最近は減ってきているようだった。

 

ただ、マンセマットの様子を見る限り、このパワー達が例外では無いのかと唯野仁成は思うし。

 

一神教においてパワーはもっとも悪魔の思想に染まりやすく堕天しやすいという説明があるため。

 

手放しに喜ぶ事も出来なかった。

 

ゼレーニンが、周囲に呼びかける。サクナヒメは、腕組みして、言ってみるが良いと。皆を代表して聞く体勢を整えてくれた。

 

前はサクナヒメに露骨な警戒を見せていたゼレーニンも、多少破顔する。この辺り、アスラとの戦いの時に、庇ってくれた事が大きいのだろう。パワー達も、サクナヒメに警戒している様子は無い。

 

「有難うプリンセス。 この装置は、何かしらの鍵になっているようだわ。 少し調べて見たけれど、何かのエネルギーが周囲に流れている。 この穴は鍵穴になっていると見て良さそうね」

 

「こんなからくり、周囲にもたくさんあるのに、よく分かったなゼレーニンよ」

 

「周囲の地形を見ると、此処に何かが集約しているの。 プリンセスの疑問ももっともだけれども、軽く調べて見て疑惑は確信に変わったわ。 此処を操作する事で、進展がありそうよ」

 

「そうなると、此処に何度も戻ってくる事になりそうじゃな」

 

サクナヒメがしゃんとせいと、周囲の機動班クルーにむしろ活を入れる。

 

明らかにギリメカラにびびっている様子の機動班クルーも多かった。

 

地上では無敵を誇る武器である銃器が通用しない敵が多い。それが非常な恐怖になっている事は分かるが。

 

だから悪魔を使っているのだ。

 

サクナヒメだって、全力で様々な武技を繰り出し、皆を守ってくれているが。

 

サクナヒメに頼りっきりではだめだ。皆でむしろサクナヒメを支援できるくらいにならないといけないだろう。

 

一度方舟に戻る。ゼレーニンはすぐに研究室に直行。休憩を貰った唯野仁成は、風呂を浴びて少し寝る。

 

強くなってきている。

 

だが、まだ悪魔召喚プログラムによると、イシュタルを作るには足りないらしい。イシュタルは作っておきたいところだ。

 

起きだした時に、丁度ヒメネスが戻ってくる。

 

周囲の探索を進めていたのだが。行き止まりにばかりあたるわ、強い悪魔がわんさかでてくるわでうんざりしていたという。

 

すぐに寝ると言う事で、見送る。

 

レクリエーションルームで愚痴を言い合う事も少しずつ減ってきていた。

 

ライトニングが姿を見せてから、その対応をしなければならなくなったから、というのもあるだろう。

 

ヒメネスは少しずつ周囲に笑顔を見せてくれるようになって来ただけに、心配である。

 

レクリエーションルームでは、悪魔合体で試行錯誤している者や。中には、こっそり悪魔を呼び出して話をしている者もいる。

 

強力な悪魔は、雑魚の攻撃をなんぼ浴びてもびくともしない。

 

それは、機動班の一線級クルーならみんな分かっている事だ。

 

だからだろうか。

 

此処で話をしているものは、唯野仁成が姿を見せると、話を聞かせてほしいと寄って来る事がある。

 

アドバイスを求めてくる者も多かった。

 

スペシャル達は忙しすぎるという事もあるのだろう。

 

唯野仁成は、話しかけやすい上に。強力な悪魔を従えてもいる。そこで、生き残るために話を聞きたい。そういうところか。

 

ヒメネスはあの性格だから、話を聞きづらい。

 

それで、余計に唯野仁成に話が集中するというわけだ。

 

「なる程、エース悪魔を作って、主軸にしていくのか……」

 

「ただ、エース悪魔が崩されたときの事を考えて、回復や防御をこなせる悪魔も作っておくべきだろう」

 

「有難う、参考になった」

 

クルーの一人が去って行く。最近一線級になった機動班クルーの一人だが、やはりまだまだ悩む事ばかりらしい。

 

唯野仁成のデモニカに通信が入る。

 

また出撃だ。

 

さっきまで自室で寝ていたらしいサクナヒメと、廊下で一緒になる。歩いて行く方向からして、出撃らしい。苦笑いしながら、サクナヒメは話しかけてくる。

 

「この厄介な迷宮、真田も苦労しているようじゃ。 そなたはどう思う」

 

「単純に攻略が厳しい迷宮ですね。 それに……アントリアのように複層構造になっていてもおかしくない気がします」

 

「そうじゃな。 今のところ強い悪魔の気配をまるで感じぬ。 アスラのように巧妙に姿を隠しているのか、この世界とは表裏一体になる何処かに身を潜めているのか……」

 

物資搬入口で、他のクルーと一緒になるが。

 

どうもさっきゼレーニンが見つけた装置の周囲で、本格的な調査を行うらしい。調査班のメンバー数人が、大がかりな装置を持ち出していた。

 

いわゆる無限軌道がついた荷車で、いわゆるケッテンクラートに似ている。色々と装置がついていて。また、鍵になりそうな何かもついていた。

 

短時間で色々と通用しそうなものを作って見たのだろう。

 

護衛の機動班クルーは多く無いが、問題の場所までのルートは確保されている。メイビーとウルフが他にいるが、メイビーは疲れが目立つ様子だ。

 

怪我人がアスラ戦などで増えたという事情もある。

 

医療班としても活動していた事もあって、疲れが溜まっているのだろう。少し心配になった。

 

サクナヒメも心配になったようで、小声で促してくる。

 

「メイビーが疲れきっているようじゃな。 魔法で回復しても無理が溜まるだけじゃろうから、そなたが目を掛けてやれ」

 

「分かりました。 姫様は周囲の注意をお願いします」

 

「ああ。 しかし此処の悪魔は厄介なのが多いのう」

 

嘆息するサクナヒメ。

 

ケッテンクラートを引きながらでる調査班を護衛して、機動班がでる。真田さんから、通信が直に入った。

 

「唯野仁成隊員」

 

「はい、真田技術長官」

 

「ゼレーニン隊員が見つけた例の装置だが、此方からも遠隔で調査はする。 ただ、見た感じかなりの数の悪魔が集まって来ている。 戦闘が相当な回数予想される。 後で交代の人員も回す。 持ち堪えてほしい」

 

「分かりました。 必ずや」

 

すぐに部隊を進める。デモニカによるナビは、この間の根本アップデートで非常にわかりやすくなっている。

 

サクナヒメは時々ぽんぽんと高く跳躍して、周囲を伺ってくれる。

 

鳥の悪魔も多いから、壁によって視界が遮られる此処では、サクナヒメのような機動力がある人がいると非常に助かる。

 

唯野仁成の朱雀は、攻撃も出来るがいざという時の回復役として温存したい。此処の悪魔は火力が大きいので、アリスを普段から出したくは無い。というわけで、よりタフなアナーヒターを出して、周囲を伺って貰う。

 

皆、何も喋らない。

 

常に無言でクリアリングを続ける。

 

遠くで、移動しながら浮いているライトニングがいる。嫌がらせのように移動を続けていて、方舟の首脳部も対策に頭を悩ませているようだ。攻撃してくるわけでも無いし、むしろ下手に出て来ているので此方から攻撃するわけにも行かない。しかしながら、相手が攻撃してきてからでは遅い。

 

恐らく今頃、重力子通信で色々居残り組と情報をやりとりしているのだろうが。

 

それにしても、妙な話だった。

 

「来るぞ! 皆、備えよ!」

 

サクナヒメが叫び、皆が悪魔を召喚する。唯野仁成も、アリスにすぐに出て貰った。

 

前から、ぞろぞろと、やたら派手な配色の、足がたくさんある蜥蜴が来る。大きさはそれほどでもないが、何だか嫌な予感がする。

 

「近付かせるな! どうも嫌な気がする!」

 

サクナヒメが大量の剣を出現させると、蜥蜴の群れに向けて射出。直撃を貰った蜥蜴は一瞬で消し飛ぶ。だが、数が多い。更に、迷宮の十字路に入ったところで、四方八方から攻め寄せて来た。

 

これは非常にまずい。接近を警戒しなければならない相手の飽和攻撃は洒落にならない。

 

「姫様、敵はどちらが薄いですか!?」

 

「……右じゃな」

 

「分かりました!」

 

アナーヒターに指示。アナーヒターは頷くと、大きな魔法の詠唱に入る。アリスはきゃっきゃっと喜びながら、次々敵に雷撃を叩き込んでいたが、無数の蜥蜴はそれを全く気にせず押し寄せてくる。

 

アサルトを乱射している機動班クルーが、徐々に下がって円陣が小さくなってくる。

 

性能が上がっているアサルトだ。集弾すれば謎の蜥蜴をミンチにすることも出来ているが、数が多い。

 

そして、サクナヒメが本気で薙ぎ払っている様子を見て、何か嫌な予感がしているのは皆同じなのだろう。

 

時々グレネードを投射して、足止めもしつつ。

 

それぞれの最強の悪魔に惜しみなく火力投射をさせて、どうにか食い止めるが。敵はどんどん、際限なく来る。

 

アナーヒターの詠唱が完了。

 

それこそ、庭園の一部が、氷像になる程の強烈な冷気の魔法が、ぶっ放された。

 

一番数が少ない十字路の右側にいた蜥蜴の群れが、一瞬にして氷漬けになる。勿論即死である。

 

更に其所に、アリスが全力で雷撃を叩き込んだ。

 

粉々になる蜥蜴たちの氷像。アリスは更に火力を上げている。まだ半分くらいしか力が出ていないと以前話していたが、嘘では無かったという事だ。

 

「皆、此方に! 包囲網に穴を開けた!」

 

「でかした! しんがりはわしが引き受ける! 皆其方の通路に逃げ込め!」

 

此処は気温からして異常な世界だ。だが、アナーヒターの氷は魔法の氷のようで、すぐには溶けない。

 

調査班のケッテンクラートっぽい荷車を守りながら、機動班が先に行く。ウルフが、声を上げた。

 

「先にも悪魔がいる! 数は少ないが……」

 

「しんがりは対応する! 唯野仁成、任せるぞ!」

 

「イエッサ!」

 

昔は女性の上官にはイエスマムと言ったらしいが、最近はイエッサで統一されているのが普通。

 

これは国際再建機構も同じである。

 

唯野仁成は突入すると、ウルフが青ざめて必死にアサルトを浴びせているが、平然と歩いて来ている鎧姿の巨人を見る。口ひげを蓄えた、威厳のある姿だ。会話を試みるが、鼻で笑われた。巨大な剣を振りかぶると、そのまま降り下ろしてくる。ウルフの使っている悪魔、何かの魔獣を一発で両断すると。他の機動班クルーの切り札らしい悪魔も一撃で粉砕してくる。

 

なるほど、あの蜥蜴の大軍で仕留めに来た上で。更にもしも突破されたら、此奴が控えていたというわけだ。

 

敵は戦術を知っている。アスラのように戦術をこねくり回して遊んでいる様子は無く、堅実に戦術を使って追い詰めてくる。

 

より厄介なタイプだなと、唯野仁成は無言で分析。

 

アリスとアナーヒターが前に出ると、巨人はほうと呟いていた。

 

「面白いのが出て来たな。 雑魚を斬っても面白うない。 来い」

 

「……ティターン神族かしら?」

 

「その割りには弱そうだけど……」

 

好き勝手な事を言うアリスに、無言で剣を降り下ろす巨人。踏み込むと同時に、剣でその一撃を受け止める唯野仁成。

 

おっと、巨人が嬉しそうに声を上げた。

 

跳び離れたアリスとアナーヒターが、それぞれ魔術を叩き込むが、分厚い鎧には魔法も掛かっている様子で、軽々とはねのけられる。

 

剣を弾くと、アサルトを浴びせる。これも効果が薄い。ライサンダーを引き抜くと、ぶっ放す。これも駄目か。凄く嬉しそうに笑顔を浮かべながら、巨人が切り込んでくるが。その顔面に、ウルフが召喚したらしい魔獣が組み付いた。五月蠅そうに顔から引っぺがして放り投げる巨人だが。今度はメイビーが召喚したローレライが。シルキーと息を合わせて、同時に大威力の氷魔法を叩き込む。

 

文字通りの氷柱に張り倒された巨人が、思わず揺らぐ。

 

其所に、アリスが雷撃を立て続けに叩き込む。

 

巨人は棒立ちになる。そして、崩れるように膝を突いていた。

 

呼吸を整えている巨人に、もう一度呼びかける。巨人は顔を上げると、にやりと笑った。

 

「なかなかの強者どもよな。 良いだろう。 人間と侮らず話を聞いてやる」

 

「貴方は」

 

「私はティターン。 本来はティターン神族とはそれほど多くはなく、皆に名前があるのだが。 後世にて雑多な邪神の一族として認識され、矮小化されたのがこの私地霊ティターンだ」

 

「ああ、どうりで弱かったんだ」

 

空気を読まないアリスの発言に咳払い。流石にアリスも黙る。

 

ともかく、膝を突いてくれたのは助かる。交渉も多少譲歩して、多めにマッカを渡すことで仲魔になって貰った。

 

後方は。

 

ケッテンクラートの近くまで、蜥蜴の群れが迫っている。ティターンがいなくなったことで、右側通路には安全圏が出来た。

 

ウルフとメイビーに、其方を任せる。同時に朱雀を出して、負傷した悪魔の回復を任せる。

 

サクナヒメが、押し寄せ続ける蜥蜴の群れを薙ぎ払い続けていたが。

 

戻って来た唯野仁成に声を掛けて来る。こっちを見る余裕は無いようだったが。

 

「ようやった。 とにかくその蜥蜴共を近づけるな」

 

「分かりました。 何か危険があるのですか?」

 

「あの突進ぶりからして、恐らくそれぞれが一撃必殺の技を持っていると見て良いだろうな」

 

ああ、なるほど。その間合いに入れるように、数で押してきている訳か。

 

ケッテンクラートを守りながら、アリスとアナーヒターに、交互に魔法をぶっ放させて、面制圧をさせる。

 

激しい戦いは一時間ほども続いたが。やがて敵も戦力が尽きたのか、静かになった。

 

呼吸を整えながら、損害を確認。

 

ウルフが、手を上げた。

 

「俺の悪魔が何体かいない。 ロストはしていないが……」

 

「乱戦に巻き込まれたのでは無いか?」

 

「ああ、そのようだが……」

 

余裕があるのは唯野仁成だけか。周囲を確認し、見つける。

 

石になっていた。

 

ウルフは魔獣を専門に使うようになっているのだが。使っている魔獣は、数で押す運用をしている。

 

さっきもサクナヒメを助けるように、数を放って敵との乱戦を敢えて選ばせていたのだが。

 

それが徒となったか。

 

人間がこうなっていたら、助かる事はなかっただろう。

 

数で攻めてくる訳である。

 

サクナヒメが、見せてくる。羽衣の一部が、色あせているようだった。

 

「これは恐らくだが、羽衣を使っているときにこの石化の攻撃の間合いに入ったのだろうな」

 

「姫様の羽衣でもこうなりますか」

 

「時間を掛ければ直る。 これは母上の形見の羽衣にて、我が神具だ。 逆に言うと、そんなものを石化するとは、この蜥蜴どもめやりおるわ……」

 

今の悪魔のデータを見る。

 

邪龍バジリスクとある。

 

主に西欧に登場する伝説上の邪悪な蛇で、相手を石にしたり、強烈な毒を持っていると伝わる存在だ。

 

あの派手な体の模様は、いわゆる警戒色。雀蜂などが、自分は危険だぞと周囲にアピールしているものだったのか。

 

ならば納得も行く。

 

小柄な割りに、危険な悪魔である。だてに「龍」では無い、と言う事だ。

 

消耗を考えて、少し休憩を取る。サクナヒメが周囲を見張ってくれると言う事なので、有り難く小休止を採る。

 

幸いティターンが待ち伏せしていた辺りは袋小路になっており。逃げ場もないが、同時に奇襲も空以外からは受けない。しかもその空も木々が茂っていて。魔法で多少のトラップを展開する事で、壁にする事が出来た。

 

有り難く休ませて貰う。

 

戦闘の様子を聞いたのか、増援が来た。ライドウ氏が、数名の機動班を連れてきてくれたので。悪魔の消耗が激しいクルーが交代する。そのままライドウ氏は、消耗したクルーを連れて方舟に戻る。

 

サクナヒメが露骨に不機嫌そうにしていた。

 

「二隻目の方舟が来てから、やたらと動きづらいのう。 アレックスとやらもいつ仕掛けてくるか分からぬし……」

 

「俺やヒメネスの実力は残念ながらまだアレックスを単独で食い止められるほどではありません。 もう一つくらいチームを増やせれば良いのですが、まだ先になりそうですね」

 

「そうじゃな。 皆で生きて帰るという目的がある以上、危険を増やすわけにはいかん」

 

人員を入れ替えた事で、休憩は終わりだ。朱雀の消耗が少し気になるが、PCに戻って貰って回復に専念して貰う。マッカをつぎ込む。幸い。さっき大量にバジリスクを倒した事で、嫌と言うほど周囲にマッカが散らばっている。

 

また、前衛としてティターンを出す。

 

後世にて貶められたイメージのティターン神族ということだが。重厚な武人であろうとしているのは、恐らくその悪しきイメージに対する意趣返しなのだろう。見るからに頼りになる姿は、周囲のクルーの士気を挙げる。

 

サクナヒメが肩に乗ると、ティターンは前衛で歩きながら話しかける。

 

「異国の偉大なる武神よ。 私の肩で良いなら、自由に足場として使ってくれ」

 

「うむ。 そなたも本来の姿を取り戻せると良いな」

 

「そうありたいものだ」

 

しばし、歩く。

 

ようやくゼレーニンが見つけた装置に到着。周囲はまだ未探索の場所も多い。つまりどこから悪魔が来るか分からない、と言う事だ。

 

調査班が揃って、真田さんとデモニカで連携しながら調査を始める。物理的に鍵として開くかどうか、という所から。魔術的な方法での調査まで、色々やっているようだ。

 

この間遭遇したトートを作る事に成功したクルーがいたらしく。調査班が呼び出してアドバイスを側で受けている。

 

流石は知恵の神だけあって、魔術の知識も豊富なようで。

 

質問にはすらすらと答えていた。

 

作業の様子を横目に、周囲の警戒に当たる。アリスは偵察に出て貰った。退屈そうにしていたからである。

 

子供は元気なことが一番だが。

 

アリスはちょっと元気すぎる。

 

昔の唯野仁成の妹も随分とやんちゃだったが、アリスはそれ以上だ。まあ年の離れた妹がいる唯野仁成にとっては、アリスはむしろ扱いやすい相手ではあったが。

 

しばしして、調査班が何か結論を出したらしい。

 

ケッテンクラートに積んで来た装置を複数人で、慎重に降ろす。そして、何かを作り始めていた。

 

ゴウンゴウンと装置は何やら派手に唸っている。存在感は抜群である。

 

相当な電力を食っている様子だ。トートが魔力を供給している。真田さんが作ったものだろうか。

 

ライドウ氏が来る。ゼレーニンを連れていた。

 

「ライドウよ、如何した」

 

「真田技術長官によると、現地での精緻な作業が必要らしいのです。 追加の機動班を連れてきたから、何としても死守してほしいと言われまして」

 

「それは分かったが、あの五月蠅い蠅は放置か」

 

「残念ですが……。 相手に敵意が無い以上、此方から攻撃するわけにもいかないという判断のようですね」

 

ため息をつくサクナヒメ。口ひげを蓄えたライドウ氏は、上空を見やる。

 

唯野仁成も同じ方を見るが、残念ながら見えているものが違うのだろう。少なくともライトニングは見えなかった。

 

「ストーム1があれほどの怒りを見せるほどの極悪人が乗っておるのであろう。 叩きのめして黙らせてしまえば良いではないか」

 

「……実は配下の悪魔を側に派遣しております」

 

「ほう」

 

「天使の気配がありますな。 財団という組織は俺のいた世界にはありませんでしたが、秩序陣営の悪魔の息が掛かっていることは確定で、どうにも嫌な予感がします。 話したときの、ジャックという男に覚えた違和感の事もありますし、あれを蠅と侮るのは危険かと」

 

サクナヒメは、心しておこうと応じる。

 

いずれにしても、ライドウ氏が連れて来た中にはヒメネスもいる。周囲の地形を調査していた機動班もまとめて連れて来たと言う事で。此処を真田さんが徹底的に調査するつもりになったのは確定だ。

 

交代して、木陰で休むようにサクナヒメが指示を出してくる。ウルフとメイビーは休憩に入った。唯野仁成はもう少しいける。二人の穴埋めとして、ヒメネスが来る。

 

ようと、片手を上げて挨拶してくる。

 

此処が相当に危険だからか。バロールとモラクスを、既にヒメネスは展開していた。

 

前は露骨に悪魔に嫌悪感を示していたゼレーニンだが。悪魔の権化のような存在である魔王を見ても、もう何も言わず、調査作業に集中していた。

 

「またごついのを仲魔にしたみたいだな」

 

「ああ、早めに剣を引いてくれて助かった」

 

「どれ、なるほど地霊ティターンか。 タフそうで良い悪魔だな。 これでも後世で貶められて弱体化したイメージなのか」

 

「少しさっき調べて見たが、ゼウスの父であるクロノスを筆頭に本来は十数柱程度しかティターンと呼ばれる神格は存在していないらしい。 もしも本来の力を取り戻す事が出来れば、素晴らしい戦力として活躍してくれそうだが」

 

周囲を肩を並べて警戒する。

 

他のクルーに比べて若干リラックスしている様子から、羨望のまなざしが飛んできているが。

 

さっきの戦いでギリギリだったように、実の所それほど余裕は無い。

 

アリスが戻って来た。

 

周囲に悪魔の姿はないらしい。礼を言って、PCに戻って貰う。今、警戒に当たって貰うのはティターンとアナーヒターだけでいいだろう。他の悪魔は、可能な限り力を温存して貰う。

 

さっきのバジリスクの群れだって、相当に危ない相手だったのだ。

 

「其方の調査はどうだ」

 

「訳が分からんくらい広い迷宮だよ。 嫌がらせで作ったとしか思えないな」

 

「案外その通りなのかも知れないぞ」

 

「此処でも遅滞戦術使いが相手って事か。 此処はどうも今までと勝手が違う場所だと思ったんだが、大母とやらも同じように人間の悪い所に影響を受けているのかねえ」

 

それは分からない。

 

いずれにしても、調査班の四苦八苦はまだ続いている様子だ。ゼレーニンも何度か真田さんと話しながら、装置を操作しつつ、調整を行っているらしい。

 

ライドウ氏が、何人か連れて周囲のマッピングに出向く。数名のクルーがそれに続き。人員の穴を休憩していたクルーが埋める。

 

まだまだこの周囲は調査が不十分で、思わぬ所から奇襲を受ける可能性がある。電波中継器だけでも撒いた方が良いと言う判断をしたらしい。

 

サクナヒメは壁になっている植物の上に腰掛けると、腕組みして周囲を見張る体勢に入っている。

 

クルー達の事は大丈夫と判断してくれたのだろう。

 

後は、唯野仁成達が油断をしなければいい。

 

一時間ほど経過。

 

休憩の打診があったので、ヒメネスより先に少し休ませて貰う。物陰に腰掛けて、ぼんやりと調査班の作業を見やる。

 

調査班はぼそぼそと小声でやりとりをしながら作業をしているが、上手く行くのだろうか。

 

汗を拭うような動作をしているが。デモニカを着ている以上汗はぬぐえないし。デモニカを脱ぐと死ぬ。

 

あくまで習慣的な行動だろう。

 

調査班のメンバーは、皆本来だったらそこそこ良い大学で教鞭を振るえる者ばかりである。どうしてもフィールドワークには限界がある。

 

ゼレーニンだって、こんな事にならなければ、国際再建機構の出資した大学で研究をしたり、学生に専攻らしい物理学を教えていただろう。

 

行き詰まったのか。調査班が交代で休憩を始める。

 

そんな中、黙々とゼレーニンだけは動いていた。ゼレーニンのパワーがたしなめていた。

 

「ゼレーニン様、そろそろ休憩をなされませ」

 

「ありがとう、でも大丈夫よ。 命を賭けて道を開いてくれている機動班クルーの頑張りに、少しでも答えないと」

 

「朱雀」

 

唯野仁成が朱雀を呼び出し、調査班メンバーとパワーに回復の魔術を使う。

 

少し大げさかと思ったが、調査班の作業が早くなればなる程、この空間を攻略するのも早くなるだろう

 

シュバルツバースが確実に拡がっている状況だ。

 

戦うだけでは事態を好転させることは不可能なのだから、互いに出来る事を分担していくしか無い。

 

ゼレーニンが此方を見て、有難うと言ってくれた。

 

前は悪魔に回復されるのを嫌がっていたのに、何とか克服してくれたらしい。パワーも目礼してくる。パワーだって、昔だったら異教の悪魔などと絶対に反発していたのは疑いなかった。

 

朱雀を戻す。消耗が激しいのは唯野仁成も同じである。

 

やがて、調査班のクルーが、皆を呼ぶ。

 

サクナヒメも、上から降りて来た。周囲に機動班クルーが展開。ゼレーニンが、周囲を警戒したままでいいので聞いてほしい、と言った。

 

「どうにかこの装置の復旧に成功しました」

 

「これは一体何なんだ?」

 

「もっともな質問です。 これは簡単に説明すると、エレベーターのようなものだと思ってください」

 

「エレベーター」

 

上には何も無い。と言う事は、下に潜るのだろうか。咳払いすると、ゼレーニンはもう少し詳しく説明をしてくれる。

 

どうやらこの装置は、周囲の石畳の上にいる生き物を、特定の場所に転送するという装置らしい。

 

動かすためには幾つかの条件が必要だったらしいのだが、順番にクリアして。ハッキングのような事までして、装置のコントロールを奪取したとか。

 

ただ、このままではまだ動かせない、という事である。

 

「恐らく、これはバニシングポイントに直結しています。 それだけに、守りはかなり堅いと言う事です」

 

「具体的にどうやったら動くようになるんだ」

 

「この迷宮そのものが、このエレベーターを動かす回路になっているようなの」

 

ヒメネスにも嫌がらず反発する様子も無くゼレーニンは答えている。ヒメネスも、言い方が若干高圧的だったと思ったのか。少し口調が柔らかくなっている。

 

良い傾向だと思う。

 

ヒメネスが変わってきているのは、恐らくバガブーの影響だろうが。何の影響であろうが、良い方向に代わるのは良い事に決まっている。

 

「要するにこのクッソ広い庭園を隅から隅まで調べないといけねえって訳だな」

 

「ええ。 その代わり、成果はあったわ。 今、全員のデモニカにデータを転送します」

 

不平を言うヒメネスだが、PCを操作してゼレーニンがデータを送ってくれる。

 

巨大極まりない迷宮の四ヶ所に、灯りが点った。そのうち一箇所は、既に調査した地点である。

 

「既にノウハウは掴みました。 これら全ての地点への到達さえ出来れば、それぞれの地点で操作を行い、最終的にこのエレベーターを起動できます」

 

「ふむ、そうなるとこれからは機動班でこの迷宮をしらみつぶしにしていく、というわけか」

 

「これからはドローンも導入して、調査を更に加速させます。 先に行ける可能性がある場所をどんどん此方から指定しますので、向かってください」

 

「ようやってくれた」

 

サクナヒメが褒めると、ゼレーニンは少し寂しそうに笑った。

 

恐らく真田さんの力が八割くらい、残り二割をゼレーニン達がどうにか補ったという感じなのだろうか。

 

いずれにしても、これでやっとこの巨大な迷宮に関しても、何とか目処がついたことになる。

 

「それでは、既に確保している一箇所とやらを早速処理してしまうとしようかのう」

 

サクナヒメが手を叩いて、機動班を集める。ゼレーニンは頷くと、ケッテンクラートに機材を積み込み始めた。

 

ライドウ氏が、疲弊した機動班クルーや調査班の何名かを連れて戻る。

 

此処からは迷宮を徹底的に調べなければならない。

 

更に言えば、悪魔の大軍との戦闘も、彼方此方で起きる可能性が高い。連携しての行動は、必要不可欠だった。

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