Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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本作のマンセマットは同志をつれています。

同じように、汚れ仕事をしているだけで堕天使扱いされたり、なんだか悪い奴みたいに描写されて来た天使。

カマエルとサリエルです。

特にサリエルは、同じような扱いを一時期ウリエルが受けていたにもかかわらず、すっかり今や堕天使扱い。ウリエルは四大の一角なのに……

天使信仰弾圧とかいう一神教内のくだらない権力争いの犠牲者です。


3、鍵

真田が艦橋に出向くと、ゴア隊長とサクナヒメが話をしていた。サクナヒメは先の戦いで、そろそろ唯野仁成がアレックスと戦えるくらいの実力を得たのでは無いか、という話をしている。

 

その一方で、わずかにヒメネスが唯野仁成に及ばないという話も。

 

「一線級で戦えるクルーも増えてきておるが、二人同時に機動班を任せる方が良かろう」

 

「確かに当人達の気持ちを考えるとそうでしょうね。 ただヒメネスは、少し独断専行のきらいが……」

 

「それはまだ外にいた頃の事であろう。 ヒメネスはわしやストーム1の指示を受けずに勝手に動いたことは一度もないぞ」

 

「前線でヒメネスを見ている姫様がそう仰るのであれば、考えましょう」

 

ヒメネスか。

 

優れた戦士だ。そして、前は優れた戦士と言うだけの男だった。最近は弱者に関する見方を変えてきている様子で、強いと認めた相手以外とも会話するようになって来ている。人間として成長していると言う事だ。

 

人間として成長できる者は、意外と言う程に少ない。

 

これは真田が経験してきたことから言えるのだが。実際の所、殆どの人間の人格は、幼児の頃から変わらない。

 

学校で虐めをするような人間は、会社員になっても虐めをする。老人ホームでも虐めをする。

 

いわゆる三つ子の魂百まで、という奴だ。

 

ヒメネスは地獄のような境遇から脱するために独学で必死に知識をつけ、読み書きを自分で修得し、様々な雑学などについても造詣が深い。真田に対しても信頼してくれているようで、最近はジョークを言うようになって来てもいるようだ。

 

ただ危うい。

 

サクナヒメが唯野仁成と「一緒に」小隊長に昇格させろと言っていたのは、それが理由だろう。

 

実際問題、アレックスという脅威がある以上。アレックスに対応出来ない者に、部隊を率いさせる訳にはいかない。

 

唯野仁成にしても、まだどうにかアレックスに対応出来る、という段階に過ぎず。

 

手が兎に角足りない今でも。ちょっとばかり、部隊を率いさせるのは早いというのが真田の結論だった。

 

いずれにしても、研究室を出て来たのには理由がある。

 

正太郎長官もいる。丁度良いので、皆に声を掛ける。

 

「よろしいですかな」

 

「真田技術長官、どうしました」

 

「迷宮の構造を解析していたのですが、面白いものを見つけましてな」

 

そもそも、ゼレーニンが偶然見つけてくれたあのエレベーターだが。それと、鍵になると思われる四ヶ所をどうやって特定出来たのか。

 

それは簡単で、迷宮の構造がパターン化しているからだ。

 

一部迷宮が敢えて崩されている場所もあるのだが、調べて見ると特に石畳には特徴的なパターンが存在していて。

 

それが特定の数式に当てはまるのである。

 

石畳は太さなどが変わらず。何処にでも必ず存在していて。恐らくだが、この空間を支配している「大母」が相当な几帳面な性格である事を窺わせる。もしくは、無機的な存在なのかも知れない。人格を持たない古代神は珍しく無いのだ。

 

それが突破口になるかも知れない。

 

「なるほど。 植物の枝の生え方のパターンのようなものですか」

 

「そうなりますな。 恐らくですが、エレベーターの先は更に極端にパターン化された空間になっているでしょう」

 

「それはもはや几帳面と言うよりも、偏執的じゃのう」

 

「ええ。 だからむしろ配下の悪魔達が、敢えて迷いやすいように迷宮の一部を崩しているのではないかと思います。 守りやすいように、です」

 

サクナヒメが嘆息する。

 

今、ケンシロウとライドウ氏が機動班と共に、残り三つの未到達地点へのマップを作るべく奮闘してくれている。

 

ストーム1は相変わらずライトニングの監視を続けているが。

 

天使の気配がある、と言う言葉が気になるのだ。

 

マンセマットが噛んでいるかも知れない。

 

もしもマンセマットが噛んでいる場合、ライトニングのシュバルツバース突入のタイミングが、あまりにも出来すぎている。

 

しかも財団は秩序陣営の悪魔の支援を受けているともいう。

 

そうなると、もはや露骨過ぎるほどだ。

 

通信が入る。ケンシロウ班からだ。ケンシロウ本人からでは無い。随行しているヒメネスからである。

 

「此方ヒメネス! 悪魔の大軍と遭遇! 支援砲撃求む!」

 

「よし、通信班。 正太郎長官のデスクに地図と味方の居場所のマップを寄越してくれ」

 

「分かりました、直ちに」

 

正太郎長官が動く。真田も自席に着くと、作業をサポート。

 

どうやら、前も襲撃を掛けて来たバシリスクらしい。ケンシロウが凄まじい勢いで敵をなぎ倒しまくっているが、サクナヒメでも初見では羽衣にダメージを受けた相手だ。その上、十字路に誘いこんでから四方八方より攻撃してくると言う狡猾さを持っている。

 

今、ヒメネスの手持ちの魔王二体が、二方向からの敵の攻撃を食い止め。残り二方向はケンシロウが人外の動きで片っ端から叩き伏せているようだが。石化攻撃を食らったら、ケンシロウでも危ないだろう。

 

ヒメネスの判断は正しいと言える。

 

「よし、捕らえた。 機動班クルー、その位置を動くな。 VLS、全弾展開準備!」

 

「VLS、砲口開きます」

 

「此方アーサー。 プラズマバリア解除」

 

「ライトニングに動き無し。 攻撃、いけます」

 

全てのデータを、更に真田が補正する。攻撃のためのロックオンシステムを、老人とは思えない手際で動かした正太郎長官が頷く。

 

ゴア隊長が叫んだ。

 

「支援砲撃、開始! うちーかた、はじーめ!」

 

「VLS投射!」

 

垂直に撃ち出された多数のミサイルが、高高度まで上がると。其所から荒鷲のように悪魔の群れに襲いかかる。しかもこれはクラスター弾頭で、途中で分裂かつロックオンして相手に降り注ぐのである。

 

本来なら速射砲ですませたいところだが。今回はそうもいかない。

 

ミサイルはコストが掛かるが、幸い現在はプラントが方舟のすぐ側にて展開している。故に、全弾ぶっ放してしまって問題ない。

 

正太郎長官の制御は完璧で、指定通りの地点にクラスター弾は全弾完全に着弾。その上真田の作ったクラスター弾だ。不発も無い。

 

凄まじい爆発が連鎖して、襲いかかってきていたバシリスクの群れの97%が一瞬にして消滅していた。

 

おおと声が上がるが。

 

残念ながら、何発も撃てる攻撃では無い。ミサイルはとても高価な武器なのだ。

 

「味方被害状況は」

 

「此方ケンシロウ。 ……怪我人はいるが、死人はいない」

 

「此方でも確認した。 悪魔の損害は」

 

「半分ほどやられたようだ。 マッカがたくさんいる。 今回は戻る」

 

淡々というと、ケンシロウは通信を切る。ヒメネスがやれやれとぼやいている様子が窺える。

 

相変わらず隊長に向いていない奴だなと思う。

 

ケンシロウは単独で動いて、最大の戦闘力を発揮できる人間だ。だが、奇しくもそれはヒメネスも同じである。

 

真田はヒメネスに通信を入れる。

 

ヒメネスは残敵の掃討の最中のようだったが、通信には応じた。

 

「何でしょうかね」

 

「周囲の石畳を調べてほしい」

 

「はあ。 ええと、どういう風に調べればいいですかい」

 

「単に見るだけで良い。 後は此方で解析する」

 

今の垂直発射ミサイル(VLS)からぶちまけたクラスター弾による爆撃だが、そもそもクラスター弾それぞれの火力がトマホーク巡航ミサイルほどもある。ビル一個を消し飛ばすのに充分な破壊力があり、故に何度も使える攻撃では無いのだ。それに大物悪魔には、これでも通用するかは分からない。

 

いずれにしても、普通だったら、石畳が消し飛ぶ所だが。

 

ヒメネスが周囲を確認する限り、石畳は特に酷く傷ついている様子は無い。やはり、間違いない。

 

あの石畳は、恐らくだが。この空間を支配している大母とやらの一部だ。

 

そうなってくると、先に幾つか手を打っておくべきかも知れない。

 

機動班に同行している調査班からもデータを得て、解析を先に進めておく。

 

どうせ大母が起きようが起きまいが、この空間にいる大量の悪魔は邪魔をしにかかってくるだろうし。

 

これからも、散々迷路という戦いづらい状況下で、散々戦闘をしなければならない筈だ。

 

それならば、先に手を打って、少しでも味方を楽にしなければならない。

 

正太郎長官に断って、研究室に戻る。

 

研究室の人員は、半分がラボに。もう半分が休憩に出向いていて、カラだ。真田はしかしながら、黙々と一人で研究を進めるのが嫌いでは無い。

 

世の中には群れていないと寂しくていやという人間もいるようだが。

 

真田はそういうのは関係無く。

 

集中力を上げられるので、一人の方が好ましい。

 

ただ一人で作業をしていると、際限なく無理をしてしまう事もあるので。基本的にずっと一人ではいないようにもしている。

 

撒いておいた大量の電波中継器もある。

 

現時点で、迷宮の解析率は三割という所だろう。

 

戦闘のログを確認していく。

 

サクナヒメやケンシロウが、大火力の攻撃を容赦なく叩き込んでいるし。最近は唯野仁成の悪魔もかなり使う魔法の火力が大きくなっている。ヒメネスの使役している魔王達も、相当な攻撃能力を持っている。

 

にもかかわらず、やはり石畳は傷一つついていない。

 

サンプルがほしいと思うところだが、あの様子だとレーザーを使ったところで斬るのは無理だろう。

 

それに、石畳がもしもこの空間の主の体の一部だとしたら。

 

切り出そうとすれば、どんな風に暴れ出してもおかしくは無い。

 

アスラがあの巨大なゴミ山そのものから自分を形成したように。

 

あの巨大迷路が、そのままこの空間の主。何者だかは分からないが……になってもおかしくはないのだから。

 

データを解析している内に、また連絡が入る。

 

真田は忙しい。

 

中々研究に没頭させては貰えない立場だ。連絡は、外のプラントにいるインフラ班から入っていた。

 

「真田技術長官。 面白いものを発見しました」

 

「データを回してくれ」

 

「はい」

 

すぐにデータを回して貰う。ミサイルを作るべく、プラントを稼働させているときに見つけたという。

 

この空間の、土壌の成分表だが。

 

外では一財産が出来るレアな物質のオンパレードに混じって、確かに不釣り合いな物質が混じっている。

 

これは、ひょっとするとだが。

 

この空間を攻略するための、鍵となるかも知れない。

 

サクナヒメ班が出ると言うことで、同行する調査班に連絡を入れておく。迷宮内で、土を入手できるかどうか試してほしい、と。

 

勿論土を入手するくらいは簡単なはず。他にも葉や植物の一部なども回収してきて貰う。

 

当然調査班には、ある程度回収はして貰っていたのだが。

 

サンプルが足りない。

 

もっとデータがあれば、より正確な結果を出す事が出来る。科学者として、真田はベストを尽くしたいのである。

 

休憩を終えて、ゼレーニンともう一人のクルーが戻ってきた。

 

データを回して、意見を聞く。

 

真田自身は、黙々と作業を続行。ゼレーニンは、しばらく考え込んだ後、慎重に発言した。

 

「自分の意見ですが、もしもこれが本当だったとすると、大母という存在はとんでもなく強大なのかも知れません」

 

「自分も同意です。 これを作り出すと言う事は……」

 

「いや、其所まででかまわない。 私も同じ意見だ。 ただ、もしもこれが本当なら、つけいる隙はある」

 

そのまま、データの解析を続ける。

 

真田がデータを解析して、新しい武器や道具をどんどん実用化していくことで。機動班をはじめとした前線に立つクルーがどんどん楽になって行くのである。

 

だったら、真田は多少無理をしてでも。

 

研究を続けていかなければならないのだ。

 

 

 

方舟を遠巻きに見ていたマンセマットは、目を細めていた。どうやら気付いたらしいからだ。

 

マンセマットは、既に高度な魔術によって、この空間の解析を終えている。そしてその気になれば、この次の大母の空間に行く事も出来る。

 

それをしないのは、ゼレーニンを後一押しする好機を探しているから。

 

ゼレーニンは少し前に見かけたが。やはり、同じ人間がこんな状況で協力しようともせず。むしろ自分の利益のためだけに乗り込んで来たことに対して、心を痛めているようだった。

 

それでいい。元々あのジャックだとか言う愚かしい生け贄は、ゼレーニンを目覚めさせるためだけに呼び寄せたのである。財団にいる秩序陣営の悪魔は、シュバルツバース出現と同時に、財団の上層部を皆殺しにして操り人形に変えた。それと同時に、いつでも強権を発動できるように体勢を造り替えた。

 

その過程で、マンセマットは部下に書状をもたせて財団へやり。人員を回して貰ったのだ。

 

現在四大や七大といった、神お気に入りの天界の幹部天使達は。シュバルツバースの鎮圧が失敗した場合に備えて兵力の整備を行うという名目で動いており。早い話がいざという時に備えて逃げる準備をしている。

 

そこでマンセマットは、先に書状を送り。

 

同じように汚れ仕事をしていて、天界での鼻つまみ者となっている掃除屋の大天使を呼んだのである。

 

カマエルはその一人。

 

モーセの逃避行において、モーセに場合によってはブチ殺されたりする存在であり。天界の掃除屋の一人だ。

 

本来は四大の一角、ウリエルも地獄の管理者という点でダークサイドの天使に近いのだが。

 

どういうわけか後世では天界の最高幹部と認識され。

 

勝手に掃除屋の座から外れた。

 

こういう信仰の不可解な変遷による不平等があるから。マンセマットは人間という生物が大嫌いだった。

 

勿論、人間がいなければ、精神生命体は存在できないことも分かっている。

 

シュバルツバースがもしも人間を駆逐してしまった場合、次に現れる知的生命体を混沌陣営よりも早く取り込まなければならないことも理解している。

 

それを加味してもなお。

 

理不尽を作り出しているのは人間で。それが故に度し難いと、ずっとマンセマットは思っていた。

 

理不尽に泣かされているのは、人間社会の弱者だけでは無い。

 

マンセマットのような、信仰の過程で存在を歪まされた天使も、なのである。

 

そもそも唯一絶対の神が存在するのに、どうしてこの世は理不尽に満ちているのか、という当然の発想が高じて出現してきたのが「敵対者」と呼ばれる「悪さをする天使」である。

 

一神教における悪魔と言うのは本来天使の中でも地獄で仕事をする連中の事をさすのであって。別に悪の権化でもなんでもない。

 

それなのに、信仰が暴走した結果、今ではルシファーなどと言うある意味逆のカリスマを持つ悪魔まで誕生させてしまっている。

 

つくづく人間は度し難い。

 

マンセマットは、そう思いながら、迷路を虫のように這いつくばって進む人間共を、高所から見下ろしていた。

 

側に飛んできたのは、青黒い鎧を着た大天使である。鎧の真ん中には、目をイメージした模様が描かれている。

 

大天使サリエル。月と魔術の支配者であり、邪視と呼ばれる視線を用いた魔術を特に得意とする。本来は大天使であったにも関わらず、勝手に人間が悪魔であると定義した存在。

 

カマエルと一緒に援軍として来てくれた大天使だ。

 

「サリエル、其方の様子はどうですか?」

 

「仕込みは上々です。 人間が言う「非人道的実験」を行っているように見せつける準備は整いました」

 

「どれどれ、これはこれは」

 

内容を魔術で遠隔視して、マンセマットはその悪辣さに苦笑いしていた。

 

サリエルは魔術を扱う天使という事もあって、かなり古くから勝手に悪魔扱いされている。

 

故に人間への不信も大きいのだろう。

 

近年では、すっかり人間を苦しめるのが趣味になってしまったようである。なお、財団の首脳部は。殺す前から、サリエルが魔術を掛けて操り人形にしていた。そうしておいた方が、管理しやすいからである。

 

「これを見たゼレーニンは確実に人間不信に転ぶでしょう。 流石ですよサリエル。 貴方は人間を知り尽くしていますね」

 

「私は月の天使です。 月と狂気は表裏一体。 そして人間の歴史は狂気と無縁ではいられないものです。 それだというのに、影の存在を認めようとせず、私を堕天使に勝手に貶めたりするからこうなるのですよ」

 

「ふふ、そうですね」

 

相当サリエルは人間に対してお冠らしい。それでいい。今回何名か呼んだ大天使は、いずれもが人間に対してハラワタを煮えくりかえらせている同志達。

 

全ての事が成り次第、四大や七大を追い落とし。

 

新たに四文字からなる神の側近として君臨する盟友だ。

 

「それでは、準備を進めてください。 それにしてもあの鉄船、出力が少し足りないようですが……」

 

「それに関しては問題ありませんよ。 なぜなら……」

 

理由を聞いて、マンセマットは思わず大笑いしていた。

 

それくらいの意趣返しは良いだろう。

 

散々人間の勝手な都合で、悪魔だの堕天使だのにされてきたマンセマット達である。これくらいの報復をさせて貰う権利はある。

 

一度、その場を離れる。

 

一箇所に留まっていると、人間側。あの方舟の人間達に察知される可能性もある。何よりあのサクナヒメという異国の武神。相当に力を上げてきている。取り戻してきていると言うべきか。

 

あれに探知されると厄介だ。

 

慎重に行動しなければならない。

 

他の方舟に乗っているクルーもスペシャル揃い。どいつもこいつも油断出来る相手ではない。

 

人間を見下すことと。相手を侮る事は全く別の問題だ。

 

今までの空間でも、魔王を相手に見事に立ち回ってきた彼らを、マンセマットは侮っていない。

 

惜しむらくは、神の敬虔な僕では無いと言う事だが。

 

それについては、全ての人材を生かせないことと同じ。使えない部分は、捨てるしかないのである。

 

サリエルと一緒に結界を張りながら、鉄船に戻る。方舟よりもだいぶ小さいが、内部の機能は充実している。

 

正確には、天使にとって都合が良いように最初から全てを改造し尽くしてある。

 

人形に成り下がったり、或いは怪物に代わってしまっている贄共がぎこちなく礼をする中。マンセマットは奥の部屋に。最高級の椅子が完備されている部屋だ。

 

機械はマンセマットも使える。装置を操作して、データを確認。

 

この様子だと、恐らくこの空間の主であるウロボロスとの接敵まで数日はかかると見て良いだろう。

 

相当に早いが、あのスペシャル達の能力を考えると妥当なところだ。

 

不意に、マンセマットの部屋に天使が来る。パワーの一人だった。

 

「お仕事の最中に失礼いたします」

 

「如何したか」

 

「天界より増援が到着いたしました」

 

「!」

 

すぐに部屋を出て、状況を見に行く。鉄船には近寄らせない方が良いだろう。

 

エリダヌスの上層部にて、既に天使達は待っているようだった。マンセマットが見に行く。其所には二人の大天使がいた。

 

一人は大天使ハニエル。

 

七大の一角である。愛と美を司る役割を持っており、神の寵愛が篤い天使だ。

 

もう一人は大天使カズフェル。

 

七大ほどではないが、強大な力を持つ大天使だ。

 

どちらもマンセマットと殆ど遜色ない力を持つ。

 

エリダヌスの上層部では、現在鬼神の勢力が陣地を構築しており。天使の先遣隊がそれを見て援軍を呼んだらしい。

 

鬼神は混沌陣営の悪魔の中では先鋒を努めることが多い荒ぶる存在。

 

お高くとまっている七大天使も、流石に動かなければならないと判断したという事か。

 

早速接待をする。格としては殆ど変わらないマンセマットだが、相手の方が神の寵愛が篤い。

 

下手な事をすれば、どんな告げ口をされるかわかったものでは無いのだ。

 

神の麾下にいる天使の世界は、必ずしも人間が想像するような楽園では無い。信仰している人間達の心の醜さがそのまま反映されているように。権力闘争が延々と続く、醜い場所なのである。

 

先に話をし始めたのはハニエルだ。

 

無数の翼に包まれた顔という姿をした大天使だが。天使は等級が上がるほど人間から姿が離れていく。

 

ハニエルはまだマシな方である。

 

「マンセマット。 先発隊としてこの汚れた土地を調査していること、敬服します」

 

「其方こそ、わざわざおいでいただき有難うございます。 此処に陣を構えていると言う事は、あの鬼神の軍勢に備えるつもりなのですね」

 

「そういう事になる……」

 

カズフェルは少しマンセマットより格が落ちる存在だが。

 

それでも、神の寵愛を受けている天使である。

 

その寵愛を笠に着ているので、マンセマットはいつか縊り殺してやりたいと考えていたが。

 

今はその時では無い。

 

「先に提出された資料は見ました。 人間達も、この邪悪なる汚れた土地を攻略するべく既に来ているのですね。 貴方も手を貸しているのですか」

 

「ええ。 敬虔な神の僕たりえる逸材も見つけました」

 

「流石にこう言う場所での動きは手慣れているな……」

 

「ふふ、そうですね」

 

格上のマンセマットにため口を利いてくるカズフェルには苛立つが、勿論顔には出さない。

 

向こうを見ると、鬼神の軍勢も大天使到着を見ていきり立っている。

 

仕掛ければ、いつでもすぐに大規模な戦闘が開始されるだろう。

 

この、庭園の上位に存在している空間は歪んでおり、恐らく大母の介入は招かない。

 

というよりも、マンセマットが見た所、大母は混沌と秩序の争いには何の興味も無い様子だった。

 

恐らくだが、混沌に大きく傾いてしまったのは。大母の中でも最大の力を持ち、このシュバルツバースの深淵に座する者。メムアレフだけなのだろう。

 

それ以外は、恐らく状況を見るつもりはあっても、人間をどうこうしようとか。秩序と混沌の争いに介入しようとか。そういう意思さえ感じ取ることが出来ない。

 

「我等は此処で陣地を構築し、混沌の悪魔共の動きを掣肘する。 マンセマット、貴殿にはこの土地に関する土地勘もあろう。 貴殿は好きに動いてほしい。 共同して神の敵を滅し、人間が神をただ純粋に崇める楽園の構築を推進しよう」

 

「分かりました。 それでは此処での戦いについてはお任せいたします」

 

「うむ……」

 

偉そうなカズフェルには苛立つが、ハニエルはそれなりにマンセマットを立ててくれてはいる。

 

現在マンセマットがカマエルとサリエルを連れていることも理由の一つなのだろう。かなりの大戦力を従えているし、此処で揉めるのも面倒だと判断したのは間違いない。

 

元々下級の天使共は、最初に連れてきたソロネを見るまでも無く、完全にデクだ。自主的にものを考えると言う事を放棄してしまっている。

 

神に忠実であれ。

 

そう考えるが故の事だ。

 

唯一絶対の神がいるのだから、思考もその神にゆだねてしまう。そんな風に考えるのが、幹部以外の天使達である。

 

それは此処でも嫌と言うほど実感したので、マンセマットはもう気にしていない。また、部下からマンセマットの動きが漏れることも警戒していない。

 

むしろ警戒しているのは、サリエルやカマエルが買収されることだが。

 

あいつらは利害関係でマンセマットと一致している。恐らく裏切る事はないと見て良いだろう。

 

それに、である。

 

陣地を構築し始めている鬼神達の戦力は、見た所ハニエルとカズフェルと互角と見て良いだろう。

 

更に今後戦力が増えるかも知れないが、元々地上の世界では混沌陣営は現在押され気味である。

 

精鋭を寄越す余裕はあるまい。

 

ならば、彼奴らに任せてしまって問題はあるまい。

 

マンセマットは鉄船に戻ると。出迎えたカマエルとサリエルに、方針の変更は無い事を伝える。

 

さて、後もう一つ二つ、手を打っておきたい。

 

出来ればゼレーニンの人間不信を後押しする事がもう一つくらいあると良いのだが。

 

例えば。方舟の中に、決定的に相容れない存在が出来るとか。

 

ただ、最初相容れない様子だったヒメネスという戦士と、ゼレーニンは、ここのところ関係も悪くは無い様子だ。

 

だとすると、動くのは慎重にやるべきである。

 

まあ、性急に動く必要はないだろう。今は混沌の勢力も、あの方舟の人間共がどう動くか注視している筈だ。

 

現状は、このままでいい。

 

マンセマットは焦ることは無いと自分に言い聞かせながら、休息に身をゆだねた。

 

周囲には、賛美歌を歌うように改造したライトニングのクルー達がいる。もはや人間では無い姿になったそれらは、完全に歌うだけの生体機械へと化している。

 

実に心地よい賛美歌だ。

 

悲鳴に似ているような気がする。

 

くつくつと自席で笑うマンセマット。

 

このまま事が上手に進めば。神の腹心として、四大をも超える位置に、マンセマットは就くことが出来そうだった。

 

勿論カマエルやサリエルら、不当に貶められてきた同胞も同じ。

 

天界の勢力図が大きく書き換わる。

 

それを考えるだけで、笑いがこみ上げてきて止まらなかった。

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