Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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3、主神墜落

嘆きの胎に鉄船が侵入してきた。

 

そう悪魔達が言っているのを聞いて。二層に潜んでいたアレックスは頷いていた。好機である。

 

恐らくだが、エリダヌス攻略が上手く行っていないと見て良い。

 

あの迷宮のような空間は、確かアレックスが知る「どのシュバルツバース」でも、レッドスプライトの隊員の血を大量に吸い。唯野仁成ですらも苦戦させていた。更に其所へライトニングという特級のお邪魔虫が現れる。

 

奴らとて、簡単には攻略できない筈だ。

 

途中で必ず補給をしに来るか、もしくはクルーの練度を上げに戻ってくる。全て、ジョージの予想通りだった。

 

インドラに指示して、戦車を出させる。

 

戦車に乗って、密林を移動。見つけてある道を通って、三層に潜む。三層へは、一旦「木」の外にでて、空中を迂回して入り込む。この瞬間が一番緊張するが。何とかデメテルには発見されずにたどり着けた。

 

逆に、此方からデメテルを発見できた。

 

鉄船の方に向かっている。恐らく。唯野仁成に、何かしら粉を掛けに行くのだろう。

 

あの女神デメテルが、何かしらを目論んでいることは分かっている。分かっているからこそ、何とかしなければならない。

 

今のアレックスでは厳しい。

 

故に、三層には不釣り合いな強さの囚人。魔神アモンを此処で回収しておかなければならないのだ。

 

焦るな。自分に言い聞かせながら、好機を待つ。

 

ジョージとは何度も打ち合わせをした。今のところ、想定通りに事は動いている。

 

あの巨大な次世代揚陸艦は、プラントを展開。物資の回収を豪快に開始する。同時に、クルーも展開。

 

戦闘訓練を開始した様子だ。

 

主力らしい面子は二層に潜りはじめる。唸り声を上げながら、看守がのたりのたりと二層へ向けて歩き出すのが見えた。

 

既に一層のアナーヒター、二層のイシュタルが奴らによって奪われている。

 

理性を失っている看守達も、これ以上は看過できないというのだろう。

 

デメテルが指揮していないのか。目を離したのか。それは分からない。

 

いずれにしても、根気よく潜伏したアレックスは、万全の体調で、戦闘を行うことが出来そうだった。

 

ジョージが映像を映し出す。

 

恐らく、撒いておいたドローンによるものだ。

 

デメテルが、唯野仁成の前に出現し、話をしていた。

 

「唯野仁成、イシュタルを従えたのですね。 ハーヴェストですわ。 これは花丸を上げなければなりませんわね」

 

「ありがとう。 この先の三層にも囚人がいるので間違いないのだな」

 

「ええ。 三層の囚人は魔神アモン。 エジプト神話で一時期主神を務めたこともある実力派ですわ」

 

丁度良い。話をしている今が好機だ。

 

予定していた通りのルートで、アレックスは走る。

 

アモンの戦闘力は相当に高いことが分かっているが、アレックスも苦労しながらやりくりして、戦力を上げてきている。

 

此処で、倒しきる。

 

看守が見えた。光の剣で背後から抜き打ち。首を刎ね飛ばす。無言で消滅していく看守の側を駆け抜け、また茂みに伏せる。

 

どうやらヘカトンケイレスのような超危険な看守は、六層に戻った様子だ。六層の囚人を狙われる方が危険だと、看守達も判断したのかも知れない。

 

いずれにしても、三層には相応の囚人しかおらず。

 

しかも、三層へ侵攻しようとしている唯野仁成らに引きつけられている。これでいい。呟くと、囚人へと、どんどん距離を詰めていく。

 

アレックスは、今までに魔神アモンを倒したりましてや従えたことは無いが。

 

三層の構造は、今まで何度もアタックしたシュバルツバースと変わっていない。勿論看守の配置などが違うが、それはそれである。

 

ひたすら走りつつ、雑魚悪魔は斬り伏せる。

 

ふと、気付く。悪童めいた悪魔が。側に浮いていた。下半身は触手状になっている。イスラム教における悪魔、シャイターンである。

 

こう見えてかなりの高レベル悪魔だ。もしも捕まえられたらかなりの戦力には出来るだろうが。

 

実力はかなり拮抗している。更に相手の知識もない。正直難しいだろう。

 

「お前、逃げ延びていやがったのか……。 待て待て、戦う気はねーよ」

 

「だったらどきなさい。 これからアモンとやりあうの。 余裕も時間もないわ」

 

「あのアモン様と!? おいおい正気かよ……でもそれが面白いな!」

 

けらけらとシャイターンは笑う。悪魔らしい、単純に楽しんでいる笑い方だ。

 

本当に面白がっているのが分かった。正直、アレックスとしては腹立たしい。

 

「死にたくなければどきなさい」

 

「勿論そうするぜ。 精々頑張りな。 ああ、横やりが入らないように、看守は俺様が引きつけておいてやるぜ」

 

「……どういうつもり?」

 

「面白いっていっただろ。 俺様は快楽主義者でな。 楽しそうな事は、もっと楽しくなってほしいと思うんだよ」

 

ジョージが囁いてくる。嘘を言っている様子は無いと。

 

同じ一神教でも、キリスト教とイスラム教ではかなり悪魔のイメージが違う。例えば中東を舞台にした物語で頻繁に登場する「ジン」はイスラム教における下層の悪魔であるが、別に邪悪の権化という訳では無い。

 

元々の一神教では、悪魔は必ずしも邪悪の権化ではないのだが。イスラム教では、その辺りが変な形で引き継がれている。

 

シャイターンは善良な悪魔とも思えなかったが。邪悪の権化にも見えなかった。

 

実際。アモンの牢の前にいた悪魔を、シャイターンがおちょくって挑発し、引きつけてくれている。

 

シャイターンの実力では五分五分だろう。だが、注意を引きつけられればそれでいい。

 

背後から忍び寄って、背中から心臓を一突き。更に首を刎ね飛ばした。

 

消えていく看守。シャイターンはきゃっきゃっと黄色い声を上げた。

 

「すっげえ! お前に俺様の子供を産ませてえ!」

 

「いやよ」

 

「まあその話は後だ。 俺様はシャイターン。 知っている様子だな。 お前は」

 

「……アレックス。 シャイターン、アモンとの戦いが始まるわ。 逃げた方が良いわよ」

 

嫌だねと、シャイターンは即答。

 

看守が来ないように、見張るという。

 

勝手にしろと言い捨てると、アレックスは牢の中に。悪魔の子を産むなんて冗談じゃあない。

 

だが、好意を向けられたことは滅多にないので、複雑な気分だった。

 

牢の中に歩き行くと。凄まじい熱量が、周囲を焦がし始める。強大な悪魔が、アレックスの接近に気付いたのだ。

 

それは二本の逞しい腕を持つとんでもない巨大な蛇であった。頭はフクロウになっていて、手には三つ叉の矛を持っている。

 

文字通り、鉄をも溶かす熱量を噴き上げている其奴は、まさしく魔神アモン。若干キリスト教によって貶められたマモンの要素が入っているようだが、それでも元主神の威厳は確実に保っていた。

 

「何者だ……」

 

「運命を変えようと願う者」

 

「面白い。 私を倒して運命を変えるというか。 それとも、この実りが目当てかな?」

 

「両方よ」

 

面白がったらしいアモンが、来いとだけ、宣戦布告した。

 

謂われるまでも無い。アレックスは、即座に悪魔を召喚。パラスアテナ、ダゴン、インドラ。

 

そして、もう一体。今回の切り札となる、派手に全身に刺青を入れている魔女。ランダである。

 

凄まじい速度で、牢の中を動き回りながら、アモンが吠え猛る。

 

「久しぶりに手応えがありそうな相手だ! 牢に閉じ込められているのも飽いていた所だ! 簡単に死んでくれるなよ人間!」

 

「それは此方の台詞よ……」

 

アレックスは、ジョージと連携しながら、アモンに躍りかかる。

 

アモンは、それを恐らく一万度には達するだろう凄まじい炎の渦で、迎撃に掛かって来た。

 

 

 

資源の回収をプラントが開始。更に二線級のクルー達が、レインボウノアの周囲に野戦陣地を作り始める。

 

それを横目に、唯野仁成は整列していた。

 

サクナヒメとケンシロウ、ストーム1がそこにいる。

 

ライドウ氏は守りに就いてくれるらしい。恐らく演習もするのだろうと思っていたのだが、今回は違う様子だ。

 

咳払いすると、サクナヒメが言う。

 

「三層の囚人を一気にかっさらう」

 

他に反対意見が出ない。ということは、上層部が決めたことか。

 

だとすると、一兵卒である唯野仁成には何も決める事は出来ない。ヒメネスも、無言で話を聞いている。

 

イシュタルは既に試運転を済ませており、アナーヒターに劣らない実力を見せてくれていた。

 

現状の保有戦力なら、恐らく三層の看守達とも互角にやり合える筈。

 

問題は三層の看守だけなら、という話で。

 

三層には、この間もっと深層から出て来たらしい、化け物のような看守達が蠢いていたことだ。

 

そこで、ライドウ氏が二線級の戦力を率いて、二層までの通路の安全路を確保。

 

今いるスペシャル三人で、血路を開く。

 

そういう決断らしかった。

 

「現時点でアレックスがどう動くか全く分からない状態じゃ。 どこから仕掛けてくるか全く見当がつかぬ。 だが……」

 

ライドウ氏が、大型の悪魔を展開。数体の悪魔が、方舟の側に立ち並ぶ。壮観な光景である。

 

マッカを相当に食うから、普段はあまり出来ないのだが。

 

この間のマンドレイクの大軍との戦いで、やられた悪魔を回復させて余りある程の膨大なマッカが手に入った。

 

だから、今回はそれを利用して速攻する、と言う訳だ。

 

「三層への入り口は恐らくイシュタルが自由に開ける事ができよう。 三層の階段は、ストーム1のチームが確保してくれる」

 

頷くと、ストーム1がクルーを呼び上げる。

 

ヒメネスもその中にいた。魔王達三体が、三層への階段を守り、敵の逆撃を防ぎ抜く。

 

更に遊撃としてケンシロウが動く。

 

インファイトに持ち込めば、大体の相手は確殺してくれるケンシロウだ。ただ、ケンシロウはクルーを率いない。遊撃として、単独で動くらしい。

 

これは、何となく理由が分かる。

 

デモニカによる支援で更に力を増しているケンシロウだが、だからこそクルー達ですらついて行けなくなってきている。

 

アスラ戦では、あの巨体を相手に真っ正面から格闘戦を挑み。技量で勝っていたとは言え正面から敵に痛打を浴びせているほどである。

 

はっきりいって、生半可な悪魔ではケンシロウには手も足も出ないだろう。

 

その個としての最大暴力を駆使して、厄介そうな看守を潰して回って貰う。

 

それが今回の、ケンシロウの役割だ。

 

そしてサクナヒメ班に、精鋭が配置される。

 

唯野仁成も呼ばれた。

 

サクナヒメ班は、文字通り周囲を探索しながら、三層の掃除を行いつつ進み、マップを完成させる。

 

看守を片付け。深層の看守がしゃしゃり出てくる前に、三層の囚人を確保する。

 

それが今回の、サクナヒメ班の目的だ。

 

頷くと、野戦陣地の完成を待って作戦行動開始。どうせプラントで弾薬を補給するので、当面嘆きの胎からは動けない。

 

勿論エリダヌスで物資を補給しても良かったのだが。

 

その間、演習をして味方の戦力を上げておきたいという判断もあり。

 

何よりシュバルツバースの情報が足りていない、という事もある。

 

故に、再びの嘆きの胎侵入を、上層部は決めたらしかった。唯野仁成も、正しい判断だと思う。

 

まず浅層に展開、よってきている悪魔を駆除。看守の姿はもう見かけない。二線級のクルー達が、ライドウ氏に率いられて戦い、露払いをする。

 

階段の側での戦闘だ。階段の確保は気にしなくて良い。

 

一層に降りる。周囲の雑魚を掃討する。やはり此処にも看守はいないが、悪魔は確実に強くなって行く。

 

そして二層。

 

此処の悪魔は、エリダヌスの悪魔と殆ど実力的にも代わらないし。面白がってここに遊びに来ている場違いに強いのも混じっている。

 

一旦周囲の掃討戦を行い、危なそうなのをスペシャル達を交えて駆除。

 

看守はいないものの、かなり強い悪魔が時々姿を見せる。勿論三層は更に厳しい事を思うと、あまり良い気分はしない。

 

そして、三層への階段を確保。

 

ライドウ氏の大型悪魔。素性はよく分からないが、何だかよく分からない巨人が、そのまま補給用トラックの護衛をしてきてくれたので。そのまま野戦陣地の設営を任せる。ストーム1が視線を送ってきて、頷く。

 

此処は良いので、先に行くようにと言う事だ。

 

どうせ二層は既に調べ尽くしているし、今後は演習がてらにクルーの戦闘経験を積ませる場所になる。

 

問題はここから先。

 

三層にはまだ看守も健在なはず。何よりも、三層の入り口は壁が展開されていて。それが極めて不安定だ。

 

イシュタルがそれをどうにかしなければ、壁を安定させる事は出来ない。

 

唯野仁成は、早速イシュタルを召喚する。

 

目のやりどころに困る格好から、コートを着せられたイシュタルは最初困惑していたのだけれども。

 

今はコートが気に入っているようで、むしろ見せびらかすようにしてコートを着ていた。この辺りは、正直気まぐれで、人間とあまり代わらないなあと唯野仁成は見ていて苦笑する。

 

階段の側にあった不安定な光の壁を、イシュタルが手をかざし。そして破砕する。

 

壁が消えていくのを確認。アーサーからのナビもあった。

 

「此方アーサー。 不安定だった三層への入り口が完全に解除されたのを此方でも確認しました」

 

「アーサーよ。 早速出迎えのようじゃ」

 

「方法が他にありません。 撃破しての侵攻をお願いいたします」

 

「やむを得んな」

 

サクナヒメが剣を振るう。

 

ケンシロウが、大きな呼吸をしながら、ゆっくりと構えをとった。

 

階段の下に、多数の気配。デモニカにも、既に遭遇した悪魔や、そうでない悪魔の大軍が表示されている。

 

幸い、あまりにも強大な悪魔はいないようだが。

 

ふと、側に気配が現れる。

 

思わず剣に手を掛けるが。そっと剣を掴んだ手に手を重ねられていた。

 

デメテルである。

 

どうやって接近してきた。それ以上に、全く今の動き、見きる事が出来なかった。ケンシロウやストーム1の経験もあって、デモニカは非常に強化されているというのに、である。

 

戦慄するが、デメテルはイシュタルを従えたことを無邪気な顔で褒めてくる。

 

辟易しながらも、頷くと。三層にアモンという囚人がいる事。解放をする事を要求して。すぐにその場を去っていった。

 

まだ、あいつにはとても勝てないな。

 

冷や汗を拭う唯野仁成だが。サクナヒメが舌打ちしていた。

 

「あのデメテルとやら、どんどん本性を現してきておるわ。 感じる力があまりにも凄まじい。 恐らくはマンセマットより一枚上手とみて良かろう」

 

「姫様でも厳しい相手ですか?」

 

「差し違えることが出来るかどうかという使い手じゃな。 それもどう転ぶか分からぬよ」

 

サクナヒメが其処まで言うか。

 

戦慄するクルー達だが。咳払いするケンシロウ。そして、無言で、階段を下りていく。サクナヒメはクルー達を促して、それに続く。

 

看守の一人らしい、腕がたくさん生えている悪魔がケンシロウに凄まじい勢いで襲いかかったが。

 

ケンシロウの残像を掴んで、唖然とし。次の瞬間には爆裂四散していた。

 

ケンシロウも、デモニカになれてきているのだろう。更に以前よりも、インファイトの力量が上がっている気がする。

 

クリアリングしながら、階段を駆け下りる。途中、ケンシロウに無謀にも挑んで爆発四散した悪魔の死体というか散らばっているマッカが散見される。アタッカーチームに加わっているメイビーが、手際よく情報集積体を回収している。

 

これらをどんどん解析して、此処がどういう場所かを徹底的に暴かなければならない。

 

アントリアからエリダヌスまでとは根本的に違う、牢獄。

 

巨大な木の中に作られている、不可思議な世界。

 

そもそもシュバルツバースそのものが、まだまだ謎だらけの場所なのだ。拙速は許されない。拙速が許されるのは、敵の情報も味方の戦力もしっかり把握できているときだけ。

 

階段を下りきる。既に戦闘は開始されている。アリスとアナーヒター、それにティターンを召喚し、苛烈な戦いを看守達と繰り広げているケンシロウとサクナヒメを援護。少し遅れて来たブレアとメイビーもこれに加わり、手持ちの悪魔を繰り出す。

 

ケンシロウもぶきっちょにデモニカのPCを操作して、悪魔を召喚。此処は手数がいると判断したのだろう。

 

出現したのは、以前連れていた堕天使ベレスでも妖精ローレライでもない。

 

ぞくりと背中に恐怖が走る。

 

以前、凄まじい猛威を振るった存在。地母神キュベレだった。ただ、キュベレは以前のような狂気じみた言動は見せず、ケンシロウの側で落ち着いていたが。

 

「漸く出番かしらケンシロウ。 周囲の敵を一掃すればいいの?」

 

「……むしろ味方を支援してくれ」

 

「分かったわ。 あらアリスもいるのね。 お久しぶり。 「おじさん達」は元気かしら?」

 

「あー。 うん。 お久しぶりだね」

 

困惑している様子のアリス。

 

やはりどう考えても様子がおかしい。看守だったときの地母神キュベレは、言動に始まってあらゆる全てがおかしかったのだから。

 

ケンシロウとキュベレに背後を任せると。十人ほどの機動班クルー。それに、調査班として同行を申し出たゼレーニンと共に、三層に踏みいる。ゼレーニンは、悪魔が降伏するようならほしいと言ってきている。

 

どういう心境の変化かは分からない。

 

だが、パワー達が力不足なのは唯野仁成の目から見ても明らかだった。パワー達は皆献身的だったし、色々と思うところはあるだろうが。悪魔は、種族に関係無く。悪魔合体で強くなることを是とする独特の価値観を持っている。

 

パワー達が、それを拒むことは無いだろう。

 

ふと気付く。周囲の光景が完全にさっきと違っている。アリスがおーと声を上げた。

 

「空間がめっちゃくちゃ? オーカスの所みたいだね」

 

「これはまっすぐ囚人の所にとはいかぬようだな……」

 

サクナヒメが、周囲のクルーが揃っている事を確認しながら、ゼレーニンに電波中継器を撒くように指示。

 

更には、ケンシロウ以上にぶきっちょに渡されている通信装置を弄って、アーサーに連絡をしていた。

 

「どうやらオーカスの所と同じような状況のようじゃ。 わしは戦闘に専念するから、そなたが皆をサポートしてやってくれるか、アーサー」

 

「了解しました、サクナヒメ。 現時点で孤立しているクルーはいないようです。 周辺の悪魔も、空間の歪みを考慮しながら警戒を促します」

 

見ると、大柄な看守悪魔がいるが。

 

こっちに突貫してきたと思うと、いきなり姿が消えてしまっている。

 

正気を失っている看守悪魔にとって、此処はとても相性が悪い場所だろうというのは簡単に想像がつく。

 

だが、此方も地理が分からない以上、いつ奇襲を受けてもおかしくはない。

 

「皆、出来るだけ固まれ! 電波中継器を撒いて、周囲の状況を確認し次第着実に進んでいくぞ! 後ろはケンシロウとストーム1が固めておる! わしらは安心して先に進んでいけば良い!」

 

「イエッサ!」

 

サクナヒメは、既に武神としてクルーに絶大な信頼を得ている。それは唯野仁成から見ても明らかだ。

 

戦場において臆すること無く、前衛でどんな敵とも怖れず戦い、皆を守る武の権化。

 

それは信頼を勝ち得るのも当然だろう。

 

ティターンが飛び出すと、剣を振るって一撃を受け止める。

 

巨大な鳥のような、何だか分からない姿の看守が、剣を振るってゼレーニンに降り下ろしていた。

 

パワー達は反応しきれなかった。

 

サクナヒメが、いつの間にか着地。鳥の看守の首がすっ飛び、落ちる。

 

更に、周囲に看守の気配。待ち伏せていたと見て良いだろう。

 

円陣をすぐにクルーが組み、悪魔を召喚。押し寄せてくる看守達に対して、反撃を開始する。

 

これは遅々たる進みしか出来ないなと、唯野仁成も覚悟を決めるが。

 

だが、それもまたやむを得ないだろう。

 

こんな空間が無茶苦茶になっている場所では、他にやりようがない。オーカスの所で、こう言う空間の厄介さは身に染みて思い知らされた。だから、油断もしないし、舌打ちも今更しない。

 

アサルトの火力は更に上がっていて、今までは効く気がしなかったが。看守を確実に怯ませることが出来る。数人の火力が集中すれば、深手を負わせることも出来る。

 

そこに悪魔達が集中砲火を浴びせて、屠る。

 

看守も、それ以外のエサを求めて襲ってくる悪魔も、まとめて薙ぎ払いながら。ゼレーニンを守り、確実に進んでいく。

 

瀕死の悪魔に対して、ゼレーニンが交渉を持ちかけている。パワー達が槍を突きつけているが。少し不安だ。

 

ただ、ゼレーニンは悪魔召喚プログラムの手助けで、きちんと交渉をやりきった。冷や汗を拭っているゼレーニン。

 

確実に少しずつ進んでいるな。そう思ったが、声は掛けない。ゼレーニンが頑張っている事だ。今、唯野仁成が先輩面して、偉そうに何か言う事では無い。言う資格があるのはサクナヒメくらいだろう。

 

サクナヒメが、出会い頭に巨大な体格の女性悪魔を拝み討ちにする。

 

空間が歪んでいるから、いきなり至近距離に悪魔が出現するのがザラだ。少しずつ、消耗も大きくなっていく。だが、何とかやりきらなければならない。

 

「ゼレーニン!」

 

「その先の空間は、既に踏破済みです! 右側に進んでください!」

 

「助かる!」

 

飛びかかってきたバシリスクを、唯野仁成が対物ライフルで赤い霧にする。バシリスクは此処にも出るのか。カトブレパスやマンドレイクも出るのでは無いのか。大軍で来られたら困るな。

 

そんな風に思いながら、ゼレーニンのナビに従う。まずい行動をしているクルーには、アーサーが支援を行ってくれる。一度、何人かがはぐれかけたが、すぐに戻ってこられた。空間の歪みを立体的にアーサーが把握しているから、何とかなるのだ。

 

やがて、凄まじい轟音と。

 

明らかな熱異常が探知され始める。

 

ゼレーニンが、周囲を見回しているのが分かった。何かあったのか。

 

「空間の歪みが消えたわ……。 周囲に歪んでいない大きな空間がある様子よ」

 

「ということは、大きいのが……おらぬな」

 

サクナヒメが、剣を振るって血を落とす。

 

クルー達と周囲を確認するが、確かに悪魔の気配はない。気配を隠して奇襲してくるタイプかと思ったが、そんな事も無い様子だ。

 

ただ、見覚えがある奴がいる。消えていく看守の前で、手を振るって血を落としている其奴は。悪童のような姿をしていて、下半身が触手状になっている悪魔。シャイターンだった。

 

この辺りの看守は、アレが倒したのか。

 

「おや、前にもあったな人間、それに強そうな女神。 今、俺が目をつけてる女が中でお楽しみの最中なんだ。 邪魔は……てもう終わったみたいだな」

 

此処は、牢獄か。

 

此奴が目をつけている女というと、アレックス。唯野仁成が、注意を促すと同時に。牢獄らしい、巨大な木のうろが内側から吹っ飛び。数体の悪魔を連れた、かなり傷ついている様子のアレックスが姿を見せる。

 

視線が合う。同時に、アレックスの目が、灼熱の憎悪に彩られた。

 

「アモン! 来なさい!」

 

アレックスが悪魔召喚プログラムを操作し、悪魔を召喚する。出現するのは、顔がフクロウ、体が巨大な蛇という、凄まじい巨体を誇る悪魔だ。アレが噂の魔神アモンだろう。

 

どうやら、囚人を先に従えられたらしい。更に、サクナヒメが呟くようにして伝えてくる。

 

「赤黒の手元を見よ。 どうやら実りとやらも奪われたらしいな」

 

「……今は、それどころでは無さそうですね。 逃げられる状況ではないように思います」

 

「同感だ。 皆、総力戦の態勢をとれ! 此処で決着を付けるぞ!」

 

「アモン、サクナヒメの相手をしなさい! 他の悪魔達は、雑魚の相手を!」

 

雑魚呼ばわりされたクルー達が、不愉快そうに眉をひそめたが。アレックスは既に光の剣を抜き、戦闘態勢だ。

 

やるしかないだろう。唯野仁成も、ティターン、イシュタル、アナーヒター、アリスと共に、戦闘態勢に入る。

 

見た所、アレックスは魔神アモンとの戦闘で相当に消耗している。だが、それでもなおようやく勝率五割弱という所か。シャイターンはけらけら笑いながら飛び下がる。

 

「俺の見込んだ女の戦い、見せてもらうぜえ! 弱った所を助ければ、俺の子供を産む気になるかも知れないしな!」

 

「アレックス、状況を整理するぞ。 今のデモニカ出力は71パーセント。 相手には強い悪魔ばかりがいる。 此方の手持ちは、手負いばかりだ」

 

「ジョージ、分かってる! それでも、やるしかないっ!」

 

アレックスが残像を作って、躍りかかってくる。

 

だが、見える。

 

デモニカの出力が落ちていると言っていた。それだけではない。唯野仁成が、強くなっているのだ。

 

激突が始まる。今までは、どうにもならなかった相手と。ついにまともにぶつかり合う時が来た。




ついにアレックスとの本格的な戦闘開始。今までとは違い、五分に近い条件での戦闘です。

恨み重なる相手に怒りを爆発させるアレックス。

それを、静かにサクナヒメと唯野仁成、方舟クルー達は受け止めます。
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