Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

65 / 126
4、乱戦と

凄まじい炎が噴き上がり、それが一瞬にして切り裂かれる。サクナヒメと魔神アモンが、互角の激突を繰り広げているのだ。

 

その横で、パラスアテナをはじめとする強豪悪魔達と、唯野仁成の仲間であるクルー達が死闘を繰り広げている。

 

戦力は此方も五分の様子だ。それだけ、一線級に成長したクルーの実力が上がっている、という事である。

 

ならば、勝負を付けるのは。唯野仁成の戦いぶりだ。

 

見える。アレックスはジグザグに人間を完全に越えた動きで接近しつつ、突きを入れてくる。

 

最初に殺された時は、これに為す術も無くやられたというわけだ。だが、今度はそうはいかせない。

 

剣を振るい、相手の光の剣の突きを弾き返す。アレックスが、苦い顔を浮かべる。これは、知っている顔だ。唯野仁成が、これくらい出来る、という事を。何故知っているのかは、今はどうでもいい。心理戦で少し有利に立てただけで充分。

 

ティターンが降り下ろした剣が、アレックスの残像を消し飛ばす。煙の中下がったアレックスに、アナーヒターが冷気の霧を吹き付ける。恐らくは、範囲攻撃という奴だ。まとめて凍らせてしまうつもりだろう。

 

アナーヒターを銃撃して牽制しつつ、上空に躍り上がるアレックス。背後にイシュタル。拳を固めて、豪腕を降り下ろす。イシュタルはかなりの武闘派で、体術も相当なものだ。

 

だが、拳は残像を抉る。えげつない動きでアレックスが回避したのである。

 

しかし、その回避も其所まで。真横から、火焔の塊が直撃していた。

 

吹っ飛ばされたアレックスが、地面を蹴って下がる。更に数発の火焔弾が直撃。アリスによるものだ。

 

アレックスがグレネードを投擲しようとするが、唯野仁成はさせない。至近に迫ると、抜き打ち。サクナヒメに習いデモニカに支援を受けた、突撃して居合いを叩き込む技だ。サクナヒメくらいの実力になると、雑魚数百を一瞬で吹き飛ばすが、唯野仁成の実力では敵一体を斬り伏せるのがやっと。だがアレックスは、顔色を変えながら剣を光の剣で受け止める。

 

そこに、上空に躍り出たアリスが、雷撃を叩き込む。

 

直撃。

 

アレックスが舌打ちしつつ、下がり。連続してアリスに銃撃を打ち込むが。ティターンが壁になり、全弾を自分の体で受け止めた。かなり特殊な弾丸らしく、ティターンの巨体が揺らぐ。

 

唯野仁成は更に追撃を掛ける。アレックスが迎撃してくる。切り結ぶ。秒間、数十回の斬撃を応酬。アレックスに最初に殺された時の、サクナヒメくらいの力は出るようになっているか。

 

ばちんと、大きな音を立てて弾きあう。アレックスを、氷の霧が追撃。霧をグレネードで消し飛ばすアレックスだが。至近に今度はイシュタルが迫っていた。

 

完璧なドロップキックが入る。

 

それでもガードして、下がりつつ反撃の銃撃を入れるアレックス。流石だ。多対一の戦いをまるでものともしていない。

 

だが、唯野仁成には分かる。アレックスは、相当に無理をしている。少しずつ、動きが確実に遅くなっている。

 

ティターンが壁になって、イシュタルへの銃撃を庇う。限界だと判断してPCに戻すと、攻勢に出て来たアレックスの剣を受け止めるフリをする。アレックスは即座に判断し、横っ飛び。

 

炎の柱が、そのまま突撃していたら、アレックスを焼き尽くしていただろう。

 

「動き速いなー」

 

アリスが唇を尖らせる。上空で、さっきから的確にアレックスへの攻撃を通しているアリスを、きっと睨むアレックス。だが、させない。今度は唯野仁成が、アレックスとの間合いを侵略。切り込んでいた。

 

弾き返してくるが、更に切り込む。額に汗が浮かんでいるのが見えた。少しずつ、確実に追い込んでいる。

 

「アレックス、魔神アモンのコンディションが良くない! サクナヒメに押されている!」

 

「魔神アモンを上回るというの!?」

 

「いや、まだスペックは魔神アモンの方が上だ。 倒したばかりの所を、無理矢理再生させたフィードバックがでている!」

 

「くっ!」

 

アサルトの弾丸を浴びせて、中距離に下がらせる。アレックスを逃がすつもりはない。問題はシャイターンの介入だが。今の時点では、遠目に見ているだけだ。

 

アレックスは体勢を低くする。なるほど、そういうことか。唯野仁成は飛び下がりながら、ライサンダーに手を掛ける。突貫してきたアレックスが、直線的に迫り。そして、抜き打ちで首を飛ばしに来た。

 

だが、その鋭い一撃を。イシュタルが文字通り、体で受け止めて見せる。

 

勿論刃は体に半ば食い込んだが、イシュタルが凄絶な笑みを浮かべ。

 

更に、躊躇無く唯野仁成は、ライサンダーの一弾をアレックスに叩き込んでいた。

 

普通だったら体が粉々になる。携行用艦砲とまで言われる対物ライフルだ。だが、アレックスは直撃を受けつつも後ろに飛び下がり、威力を殺しさえする。文字通り人間の極限まで鍛えている。だが、残念ながら、デモニカの出力も落ちているし。デモニカによるサポートが足りていない。

 

「トリス……」

 

「まずいバディ! 全力で防げっ!」

 

上空で、アリスが完璧なタイミングで印を切る。更に、アレックスの後方を、アナーヒターの氷の壁が塞ぐ。

 

一瞬の躊躇。それだけで充分だった。

 

「アギオン!」

 

アリスの最大火力火焔魔術が炸裂する。あのオーカスさえも、一瞬で炭クズにした最強火力。それも、今はオーカスと戦った時とは比べものにならない程火力が上がっているのだ。

 

炎が、アナーヒターの氷の壁を消し飛ばすのが見えた。

 

唯野仁成も、アレックスと接近戦を散々やって、相当に消耗しているが。アレックスは。

 

炎を吹っ飛ばしながら、切り裂くアレックス。だが、勝負はあった。

 

「バディ、此処までだ」

 

「……っ!」

 

「悪いが逃がさん!」

 

不意に後方から掛かる声。ブレアの放った悪魔、魔獣ケルベロスが、アレックスを組み伏せに掛かったのである。

 

アレックスは対応が遅れ、逃げ切れない。組み伏せられる、そう見えた瞬間。

 

ケルベロスに体当たりして、アレックスの逃げる隙を作ったのは、シャイターンだった。

 

「貸し一つだぜ-! 俺の子供を産めとは言わないが、覚えとけ!」

 

無言でその場から全力で撤退するアレックス。見ると、唯野仁成の仲間の機動班クルー達も、既にアレックスの悪魔達を駆逐していた。皆ボロボロだったが。だからブレアが介入できたのだ。

 

更に、魔神アモンが消えていく。

 

サクナヒメが、肩で息をつきながら、剣を振るう。何というか、戦車砲で飽和攻撃でもしたかのような凄まじい戦闘跡が残っていた。

 

けらけらと笑いながら消えていくシャイターン。唯野仁成は、呼吸を整えながら、皆無事かと呼びかける。無事だと、返事がある。メイビーが何体か、回復に特化した悪魔を召喚して皆の回復を始める。ゼレーニンも生き延びていた。パワー達はやはり、乱戦の中で倒されてしまったようだったが。

 

大きな溜息。

 

側に、いつの間にかデメテルがいた。やはり、接近を全く察知できなかった。

 

「実りを奪われてしまいましたわね、唯野仁成。 囚人も」

 

「状況的にやむを得ない。 強力な悪魔シャイターンの支援があった上に、アレックスは恐らく三層の囚人を最初から狙っていた」

 

「仕方がありませんわ。 ただ、あの赤黒を自力で退けた事は素晴らしいですわ。 貴方は確実に稲穂を豊かに実らせつつある。 失敗は一つありましたけれども、それを引いても余りある程にハーヴェストですわよ」

 

デメテルが皆に回復の魔術を掛けてくれる。というか、これは広域回復魔術か。

 

かなり手酷い手傷を受けていた者もいたが。これで何とかなりそうだ。此処で立ち往生してしまい、後方からのバックアップによる救助を頼ることも視野に入れていたのだ。

 

悔しいが、また貸しを作ったようである。

 

「残りの実り、奪われてはいけませんわよ」

 

釘を刺すと、消えていくデメテル。

 

アレックスを自力で撃退出来たことは大きい。だが、魔神アモンは奪われ、情報集積体は回収出来なかった。

 

徒労感が身を包む。唯野仁成は、無力さにじっと手を見た。

 

戻るぞと、サクナヒメに促される。この戦いは無駄では無かった。そう己に言い聞かせながら、唯野仁成は魔神アモンを単独で退けた武神の言う事を聞くことにした。

 

 

 

(続)




ついに難敵アレックスを地力撃退することに成功する唯野仁成。
しかしながら無傷の勝利とはいきませんでした。

エリダヌスの首魁ウロボロスとの決戦が近付きます。

それは、世界の謎に肉薄することも意味していました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。