Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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原作だと春夏秋冬に関連した悪魔によって構築されていたウロボロスのバリアの防護装置。

本作では更にえげつない布陣を用意しておきました。

いずれ劣らぬ強者揃いです。


1、輪廻の龍へ迫る

人間がエリダヌスと呼んでいる空間に、鉄船が戻って来た。ちょっと高い所で、椅子に座ってその様子を見ていたメイドの姿をした小柄な堕天使は。ぐるぐる眼鏡を直して、やっと戻って来たかと呟いていた。

 

勿論椅子もろとも宙に浮いている。

 

居場所は、鬼神達が拠点を作った場所の上空である。このエリダヌスが、エリダヌスであるギリギリの地点。

 

堕天使はさいふぁー。

 

可能性を求めて、今このシュバルツバースを彷徨っているものだ。

 

嘆きの胎で。さいふぁーも目をつけている人間、唯野仁成が。ついに超格上だったアレックスを打ち破ったのは見た。

 

感動した。

 

まさに可能性の結末だ。アレックスも、可能性を散らせること無く、撤退していった。魔神アモンを従えたのは大きい。

 

それに、女神デメテルが「実り」と呼んでいる例の物資をアレックスが回収していったのもまた大きい。

 

あれは使いようによっては色々な事が出来る。

 

つまり、可能性を様々に展開する事が出来るのだ。

 

傲慢の権化などと呼ばれているさいふぁーだが。その傲慢は、単に一神教の四文字からなる神に反逆したという設定から来ているもの。

 

今では、可能性を純粋に求め。

 

唯一絶対の法とやらからこぼれ落ちる者を救いながら。

 

それらが作り出す可能性に触れる事が、生き甲斐になっていたし。

 

何よりも、脳筋ばかりの混沌勢力のまとめ役としては。

 

未完成な法治主義を振りかざす秩序陣営の悪魔に一矢報いるために世界にくさびを打ち込む作業として、可能性を探したかった。

 

そういう意味では、嘆きの胎三層での死闘は、まさに理想的な形だった。

 

シャイターンの熱烈なアレックスへの求愛は、見ていて苦笑いしか湧かなかった。アレックスが受け入れる可能性が存在しなかったからだ。

 

ただ、シャイターンが折衷案として、アレックスの仲魔になるのであれば可能性はあると言える。

 

それを今度アドバイスしてやりたいところだ。幸い、存在はとても近いので、話は聞いてくれるだろう。

 

さて、と。

 

人間達の鉄船が戻って来た所で、状況を整理しておくか。

 

現在さいふぁーの配下である四体の最精鋭悪魔が、このシュバルツバースの最深部にて仕掛けを施している。

 

この仕掛けは大変に大がかりなもので、さいふぁーが与えた力によって強化された精鋭達であっても、しばらく時間が掛かるだろう。

 

さいふぁーが打つ大がかりな手は、現時点ではこれだけ。

 

他は、全て自然の成り行きに任せるつもりだ。勿論、要所で悩んでいる者にアドバイスはするつもりだが。

 

此処エリダヌスでは、天使の軍勢と鬼神の軍勢が、互いに城を作ってにらみ合いの真っ最中。

 

エリダヌスの支配者であるウロボロスは我関せず。

 

いずれ、戦闘は開始されるだろう。

 

更に言えば、ウロボロスが覚醒したことで、連鎖的に四体いる大母が、全て覚醒しつつある。

 

このシュバルツバースの深奥にいる大母、メムアレフだけはまだ目が覚めきっていない様子だが。

 

残り二体は、既に目が覚め、蠢動を開始している様子だ。

 

問題はそのうち一体。

 

夜魔という種族の頂点に位置する存在。マーヤーのいる空間だ。

 

此処には、メムアレフがシュバルツバースを混沌に傾けたときに、とんでも無いものを封印した形跡がある。

 

もしもあの封印が解除されると、シュバルツバースの形勢が一瞬で傾く可能性がある。

 

そうなると、可能性を持つ多くの者達が潰されてしまうだろう。

 

それだけは、さいふぁーは避けなければならない。

 

幸い、メムアレフは念入りにあれを。

 

このシュバルツバース空間における四文字たる神を封じているようで。そこだけは安心できるが。

 

もしも天使共がそれに気づき。何かしらの手を打ってきた場合。流石にさいふぁーも動かなければならなくなるかも知れない。

 

その時は流石に、なりふりは構っていられなくなるだろう。メムアレフですら、手に負えるか分からない相手だ。

 

今鉄船には、さいふぁーすら打倒しうる英雄が乗ってはいるが。

 

それでも、いきなりの環境激変が起きたら対応出来るかどうか。

 

いずれにしても、最大懸念事項は其所だ。

 

ちらりと。今エリダヌスに入ってきた鉄船では無い。もっと小さい、後からシュバルツバースに来た鉄船を見る。

 

あれは駄目だな。

 

そう、さいふぁーは感じる。何というか、内部に可能性がまるで見えないのである。

 

それに、ぷんぷんと臭う。

 

ここのところ姿を見せず暗躍していないマンセマットが、同類の掃除屋達とつるんで、何か悪さを目論んでいるのは確定。

 

恐らくだが、秩序の星たる可能性を秘めている人間を、自分の都合が良い操り人形にでもするために蠢動しているのだろう。

 

唯野仁成は、恐らく大丈夫だと思う。

 

問題は、マンセマットに目をつけられている人間。ゼレーニンとかいったか。あの、敬虔そうで真面目な娘だ。

 

小さくあくびをして、幾つかの可能性を考える。

 

ゼレーニンは、マンセマットが思っているほど、今精神がぐらついていない。周囲に支えられているからだ。

 

愚かしくも、外の世界の人間は、今自分達がどうやって文明を作り、発展させてきたか忘れてしまったかのようである。

 

愚劣な弱肉強食論や自己責任論を無責任に唱え。それによって多数の可能性を潰しては、ケラケラ笑っている。

 

さいふぁーとしても由々しき事態だ。

 

考え無しの混沌勢力の悪魔には、これこそ正しい姿と喜ぶ脳無しがいるが。

 

ただの混沌なんて、ジャングルと代わらない。

 

そもそも生物の強さは戦闘力だけに所以する訳では無い。そうだったら、どうしてゴキブリが三億年も地球上で一定のシェアを確保し続けているだろうか。ゴキブリは戦闘力で言えば、ずっと食物連鎖の下層に存在し続けていて。今後もそれは代わることはないだろう。

 

時々混沌勢力の重鎮を集めるとき、さいふぁーはその話をするのだが。

 

どうしても理解出来ない部下は多くいて。その度に、さいふぁーは頭を痛めるのだった。

 

いずれにしても、注目点を頭の中でまとめると。一度唯野仁成に、出来ればその後くらいにゼレーニンに接触を試みようと考えて歩き出す。

 

もう一人、ヒメネスという青年も面白そうなのだが。こっちは放っておいても大丈夫そうだ。

 

あからさまに巨大な可能性を秘めている存在に接触するのは、さいふぁーにとっての楽しみだが。

 

一方で、小さな可能性を掘り返して、大きく育てるのも楽しみなのだ。

 

そういう意味では、手が掛からない可能性には、直接接触する必要はない。そのままでも充分に育つし。

 

何より、下手に接触すると、台無しにしてしまう可能性があるからだ。

 

まだしばらくさいふぁーはエリダヌスにいるつもりである。

 

指を鳴らすと、椅子が消える。このメイド姿を借りた、ずっと昔に生きていた人間が死ぬまで愛用していた椅子だ。理不尽な死から助けた人間から代わりに、荒事でその姿と人格を使う事を許して貰う。それだけの緩い契約を重ねてきた結果、今「さいふぁー」である者は、数千を超える姿を有している。

 

それだけ、唯一絶対にて公平なる神とやらが、仕事をしていない良い証拠なのだが。

 

まあそれはいい。

 

ここからが正念場だ。此処シュバルツバースの重要性に、秩序属性の重鎮どもも、漸く気づき始めたようなのだから。

 

 

 

弾薬や物資の補給を済ませ、エリダヌスに戻って来た方舟から、唯野仁成は下りる。方舟が着陸したのは、上位エリダヌスの一角。恐らく、三つ目の「電池」が存在している地点の近くである。

 

電池は残り二つ。その二つを潰せば、此処の支配者であるウロボロスに手が届く。

 

それは既に唯野仁成も知らされている。

 

問題はその後。

 

ウロボロスを葬れば、バニシングポイントが剥き出しになる。そうなれば、条件次第では帰れるかも知れない。

 

だが今帰っても、何の解決にもならない。シュバルツバースは、下手をすると一年以内に地球を埋め尽くしてしまうのだ。

 

またシュバルツバースに突入する好機があるかは分からないし。何よりも、シュバルツバース内部の時間の流れが、外と違っている事も分かっている。

 

幸い今までは、外よりも時間の流れが速い空間ばかりに入っている。

 

だが、その逆が来たら、時間は想像以上に残っていないかも知れないのだ。

 

無駄にする時間など、一秒だってない。とはいっても、クルーの疲労はそのまま死につながる。

 

だから、慎重を期さなければならなかったが。

 

プラントを組み立て。野戦陣地も作り始める。

 

この間のマンドレイクとの会戦を加味して、クルー達は何時でも出られるように、全員に声が掛かっている。

 

今回はサクナヒメとケンシロウが機動班クルーを率い。ライドウ氏が少し遅れて調査班クルーを率いて続く。

 

電池から少し距離を取っているのも、大物に不意打ちを食らって方舟が致命傷を受けるのを避ける為だ。

 

なお、ライトニングはまだエリダヌスにいて。ウロボロスが潜んでいる「柱」を挟んで向こう側になるように、嫌がらせのように位置取りして滞空している。

 

一定の注意を払わなければならない相手である。

 

ストーム1が苛立つのも、唯野仁成には分かる気がした。

 

野戦陣地の設営が完了。サクナヒメとケンシロウが、堂々と前に進み始めると、クルーが生唾を飲み込むのが分かった。

 

二人の武勇はバランス型のサクナヒメと、インファイト専門のケンシロウで少し違うが。二人とも互いを認め合っていて、時々戦闘についての話をしているのも見かける。ケンシロウは寡黙だが、必要な事はきちんと喋っているので、サクナヒメも不満は無い様子だ。

 

そしてサクナヒメもケンシロウも、誰一人周囲の人間を死なせていない。

 

外では、違ったという。サクナヒメにとっては故郷の話だろうが。

 

だからこそ、此処では。より危険な此処では、誰もクルーを死なせない。

 

そういう強い覚悟で、二人は動いているのかも知れない。

 

機動班クルーは、サクナヒメについて動く。ケンシロウは、自由勝手に動いて良いと、行動のグリーンライトを貰っている。

 

というのも、ケンシロウは今までの戦闘ではっきりしたが、一人で好きかって動く方が戦果を出せるし、味方も守れる。

 

そういう意味では、確かに単独で動く方が好ましいといえるだろう。

 

電池があると思われる地点に移動を続ける。後方には天使の基地があるが、此方にかまうつもりはないらしい。

 

有り難い話である。横やりを入れてこられたら、被害が途方も無い事になるのは確定だからだ。

 

少なくとも、現時点で周囲に悪魔は見当たらない。

 

ティターンとイシュタルを展開して、警戒に当たらせる。イシュタルは何度か使ってみて、結構ガチガチの武闘派だと言う事がわかってきたので、ティターンと共に壁役をやって貰うのが一番良い。勿論魔術の腕前も優れているから、周囲の警戒に関しても隙はない。

 

だいたい、目的地点付近に到着したか。

 

サクナヒメとケンシロウが、同時に足を止めた。

 

どっちが早かったかは、少なくとも分からない。

 

アレックスの剣撃を見切れるようになって来た唯野仁成でも、それは分からない程だった。

 

勿論剣に手を掛け、更にはアリスとアナーヒターを召喚する。ヒメネスは魔王達。モラクス、バロール、それにロキを。

 

他のクルー達も、手持ちの最強悪魔達を呼び出していた。

 

さて、何が出てくる。

 

しばしの沈黙の後、地面が揺れるようなことはなく。不意にその場に、突如として何かが現れていた。

 

蛙か、これは。

 

ただ、尋常では無いサイズだ。此処の守護者である事は、間違いないだろう。

 

ゆっくり、蛙が此方を見る。

 

戦意があるのは確定だ。殆ど一瞬にして、蛙が舌を伸ばしてきたが。音速に達するだろうそれを、サクナヒメの剣が斬り払っていた。

 

後方で、斬り払われた蛙の舌が、地面に着弾。吹き飛ぶ。

 

だが、舌を切り裂かれても気にする様子も無く。蛙が喉を膨らませる。

 

「此方機動班! 電池のガーディアンらしき悪魔と接触! 交戦開始!」

 

「此方でも確認した! 支援する!」

 

蛙の大きさは、全長二十メートルほどか。

 

両生類という生物は、魚類から環境に適応し、半陸上生活を送るようになった最初の種族だ。やがて両生類は更に陸上への適応を進め、爬虫類という現在地球に生きている陸上脊椎動物の基礎となるような優れた生物モデルが出現する事になる。

 

古い時代の巨大な両生類には、鰐のような姿をしたものも存在していて。七メートルを超えるようなものもいた。

 

両生類は様々な意味で中途半端な生物で、水場とその周辺で生きるか。むりやり自分が生きられるように、過酷な身体改造をして環境に適応してきた生物だが。この巨大な蛙は、そういうものではなく、何か作為的なものを感じる。

 

一斉に皆が悪魔に攻撃を命じ、大量の火球が蛙を包み込む。まあそれはそうだ。蛙に一番効くのは多分炎だろうから。

 

だが、鬱陶しそうに炎を払いのけると、巨体の蛙は、無言のままのしのしと進んでくる。

 

現在でも最大種の蛙は、蛇を餌にする事がある。

 

また一部の大型の蛙は貪欲で、見境無く動く者を襲い、喰らう性質を持っている。

 

この蛙は凄まじい分厚い装甲を持ち、あの音速以上で動く舌を用いて、敵を捕獲するというわけか。

 

だが、それでも今まで交戦してきた相手に比べれば楽な筈だ。

 

サクナヒメが仕掛ける。槌に持ち替えると、至近に踏み込んで、顎を跳ね上げる。

 

だが、蛙には殆ど効いている様子が無い。

 

打撃が通じない相手か。

 

だが、周囲を見ると、銃撃をしているクルーも目立つ。銃撃も効いていないのか。

 

炎も駄目だとすると。

 

何も言わず、アリスが雷撃を落とす。だが、蛙には通用している様子が無い。文字通り、蛙の面に小便だ。

 

ケンシロウが腕を払う。

 

再生した舌が、誰かをさらって喰らおうとしたのだろう。その舌を弾いたのだ。ケンシロウが、呟くように言う。

 

「重い上に速いな」

 

「……妙だ。 どうにも手応えがないのう」

 

サクナヒメがぼやいた。

 

さっきから、接近戦に移行したサクナヒメは、秒間百を超える斬撃を叩き込みまくっている様子なのだが。全く効いているように見えない。

 

少し前には、エジプト神話で主神を一時務めた頃があるアモンすら屠ったサクナヒメの剣撃が通じていない。

 

あらゆる魔術も、通じている気配がない。

 

そうなってくると、何か根本的におかしいという他無いだろう。

 

恐らく間合いに入ったのか。

 

狙撃が来る。

 

蛙の右目に、ライサンダー2、いやライサンダーFの弾丸と思われる狙撃が直撃。爆発まで引き起こしたが、蛙はそれでも平然としている。ゆったりのったり動きながら、確実に進んできて。時々舌で誰かを食おうとしてくる。

 

何だこの悪魔は。今までに、対応したことがないタイプだ。

 

「駄目だなこれは。 一端退け! 対策を考えねばなるまい!」

 

「しんがりは俺が務める。 いけ……」

 

ケンシロウの言葉に、機動班クルーが下がりはじめる。唯野仁成は、アリスに指示して、あらゆる種類の魔術を撃たせる。当然、隣にいるヒメネスも、魔王に指示して同じ事をさせていた。だが、効いている様子が無い。

 

やはり退くしか無いか。

 

他の機動班クルーが下がったのを見届けると、後退。サクナヒメとケンシロウが、最後尾で追撃を防いでくれているが。そうでなければ、機動班クルーはもう皆蛙の餌だっただろう。

 

何だ、あれは。

 

蛙は間合いから此方が離れたとみるや、姿を消す。

 

まるでおちょくっているかのようだったが。此処で怒っても仕方が無い。一旦距離を取って、体勢を立て直す。

 

野戦陣地まで後退。

 

ゼレーニンが、珍しく外に出て来ている真田さんと。更にはあのラジエルという大天使と一緒に、外に構築されたPC一式で、キーボードを叩いていた。

 

真田さんが顔を上げると、唯野仁成を呼ぶ。

 

「唯野仁成隊員、ヒメネス隊員」

 

「はい」

 

「おう」

 

サクナヒメとケンシロウは艦橋に。他のメンバーは、休憩に行く様子だ。

 

あの蛙の不死身要塞ぶりは、この野戦陣地に展開しているクルー皆が見ていた様子だ。明らかに士気が下がっている。それはそうだろう。ホラー映画のモンスターのように、あらゆる攻撃が通じないのだから。

 

ホラーというものは、グロテスクなクリーチャーがどばんと出てくるものよりも。対抗のしようがない得体が知れないものに追い回されるものの方が、恐怖を煽るという話は聞いたことがある。

 

この得体が知れないものは別に幽霊だのゾンビだのである必要さえなく、場合によってはでっかいおっさんでもかまわないそうだ。

 

要するに人間の心をもっとも簡単にへし折るには、「何も通用しない」という事が最大条件になる。

 

あの蛙は、存在そのものが、それを満たしていたと言うことだ。

 

「戦闘の様子は見せてもらった。 攻撃が一切通じていなかったようだね」

 

「はい。 サクナヒメの斬撃は、三層の囚人アモンを斬り伏せるほどのものだった事が確認できています。 更にストーム1の射撃や、アリス他による様々な魔法も一切通じている様子がありませんでした」

 

「……そうとも限らないみたいです」

 

ゼレーニンが、モニタで映像を固定する。

 

後ろにいる大天使ラジエルがアドバイスをしていたようだが。それに沿って、色々と調べていたらしい。

 

そして出て来た映像は、サクナヒメが跳び離れた直後。

 

蛙には、大きな傷が多数穿たれている。中には、明らかに骨にまで到達しているものもあった。

 

だが、次の映像。0.1秒後のものだが。その時には、全ての傷が塞がってしまっている。

 

「なんだこりゃ……」

 

「これは、超再生能力という訳か。 姫様の攻撃でも、焼き切れないほどの防御、再生力を兼ね備えていると言う事だ」

 

「もしそうだとすると、打つ手がありませんね。 飽和攻撃をしかけても、その都度回復されるだけです」

 

「飽和攻撃が駄目なのは同意だ。 だが、必ずしも倒す手段が無いとはいえない」

 

真田さんが、順番に話をしていく。

 

まず蛙は、追撃を掛けてこなかった。動きが鈍いとはいえ、追撃を掛けて来たら此方は逃げるしか無かったのに。ある地点で、ぴたりと動きを止めている。これは余裕からなのか。

 

どうも違うようだと、真田さんは映像を加工して見せてくれる。

 

蛙に、膨大な何かよく分からないものが纏わり付いている。モノクロに加工した画像なのだが。

 

このよく分からないものは何だ。唯野仁成が小首をかしげていると、ぽんとPCから出て来たアリスが言う。

 

「あ、これひょっとして魔力?」

 

「悪魔の体から放出され、魔術を使う時に媒介にされる力を魔力というのであればそうだろうな。 シュバルツバースではこうやって観測することも出来る。 観測を確定で出来るようになったのは最近の話だが」

 

真田さんがいうには、魔力は分かりやすく噴き出している場合もあるが。そうでなく、相手にわかりにくいように展開している場合もあると言う。

 

そして、この魔力測定の技術に関しては。膨大な情報集積体を解析し。今までのデモニカが収拾してきたデータなどから、ようやく作り出せたものだという。

 

蛙の身を覆っている魔力は、明らかに地面からでていると、真田さんはいう。

 

「つまり、埋まっている巨大情報集積体から、この蛙は力を得ていると見て良いだろう」

 

「真田さん。ちょっと待ってくれ。 それって、要するに……」

 

「危険だが、他に方法は無い。 蛙を何とか押さえ込みつつ、情報集積体を掘り出し、回収するしかないだろう」

 

「情報集積体を掘り出すだけで、蛙が消えるでしょうか」

 

疑念を口にする唯野仁成だが。

 

其所は、アリスがフォローを真田さんにいれた。

 

「仕組みさえ分かれば問題なし。 私とアナーヒター、もし足りなかったらイシュタルも一緒に、蛙に供給されてる魔力をシャットアウトするよ。 でも、情報集積体を掘り出さないと無理だけど」

 

「やれやれ、要するに誰かが蛙を引きつけて、その間に姫様がでっかい知恵の輪を掘り出さなければならないって事か……」

 

「蛙のような悪魔の引きつけは、ケンシロウに頼む予定だ。 後の作戦の細かいプランは、アーサーに提案して貰う。 少し時間が掛かる。 作戦の核になる君達は、少し休憩をしてきてくれ」

 

敬礼をすると、その場を離れる。ヒメネスが大きく嘆息する。まあ、気持ちはよくよく分かる。

 

あの蛙の攻撃、決して激しいとは言えなかったが。それでもあの舌は視認できないほど速かった。

 

今のデモニカを着ている状態でも、である。

 

全長二十メートルの蛙が繰り出してくる舌だ。捕まったら、間違いなく即座に胃にまっさかさま。

 

しかも相手は悪魔蛙だ。一瞬で溶かされておだぶつだろう。

 

レクリエーションルームに歩きながら、ヒメネスと話をする。

 

「ガタイがいい俺の魔王達があの蛙を押さえ込む。 舌はどうにもできないから、ケンシロウの旦那に頼むとして。 他の攻撃を蛙野郎が持っていた場合にどうするか、だな」

 

「例えば毒性の強い粘液とか、か?」

 

「ああ、そうなるな」

 

「メイビーが強力な解毒能力を持つ悪魔を何体か有していたはずだ。 支援を頼むしかないだろうな」

 

他にも、何をやってくるか分からない相手だ。あらゆる対抗手段を用意しておいた方が良いだろう。

 

それに、巨大な悪魔と真っ向の力勝負をするサクナヒメが蛙を投げ飛ばすことが出来なかった。

 

其所から考えて、あの蛙はひょっとすると、地面から引きはがすことが出来ないのかも知れない。

 

ヒメネスは、メイビーの支援を受けることを嫌がらなかった。いずれにしても細かい作戦プランはアーサーが練るだろうが、此方でも打ち合わせをしておくことは損にはならないはずである。

 

メイビーに連絡を入れておく。

 

そうすると、快諾してくれた。

 

何でもメイビーは、この間の三層でのアレックスとの戦闘後にデメテルが見せた広域回復に興味を持ったらしく。

 

今までデータとして取得した悪魔の中に、同じ力を持つ者がいないか、確認している様子だ。

 

それによると、どうやら以前戦った看守悪魔の地母神イシスが本来なら回復魔術を持っているらしく。

 

どうにかして作る事が出来ないか、模索しているという。

 

ただ、唯野仁成はそれを聞いて少し心配になった。イシスはかなりの高レベル悪魔に思えたからだ。

 

メイビーも既に一線級のクルーとして活躍はしてくれているが。イシスを作り出すのは厳しいように思えた。

 

だがその辺りは、メイビーも考えているらしく。

 

イシスの類縁に、回復能力を持つ女神がいないか。調べているようだった。

 

第二次作戦が開始される。

 

人が死ななければ、此処では幾らでもやり直しが利くと言いたいところだが。時間という問題もある。

 

シュバルツバースが南極を超えて拡がり始めたらおしまいだ。どれだけの被害が出るか分かったものではない。

 

すぐにクルー達が編成され、サクナヒメとケンシロウが率いてでる。またレインボウノアも、退却時の支援をするために、砲口を蛙に向けた。

 

蛙はいる。敵意を察知したか出現し、無言のまま蹲っている。ひょっとすると此方の狙いに気付いたのかも知れない。

 

だが、やる事は同じだ。

 

無理矢理情報集積体がある場所から引っ張り出し、そして。

 

情報集積体を取りあげて、再生能力を奪う。

 

それがなれば、恐らくは倒せる。

 

あの蛙が何者かは分からないが、はっきりしているのはウロボロスの関係者と言う事で。力を供給し、核さえ防ぐバリアを展開する一助になっていると言う事だ。

 

ならば、撃ち倒すのみ。

 

十人ほどのクルーが、一斉に動き出す。面倒くさそうに此方に振り返った蛙に、挨拶代わりとばかりに方舟から主砲が叩き込まれる。勿論効かない。のたのたと体を鈍重に動かしつつも。文字通り、舌だけは超音速で飛んでくる。ケンシロウが動き、その舌を手刀で真っ二つにした。

 

瞬時に舌が再生する様子が、今度は見えた。デモニカは経験を蓄積する。故にこういう事も起きる。

 

それに唯野仁成は、この間アレックスと真正面から打ち合った。その時相手の剣筋が見えていた。

 

と言う事は、デモニカによる強化で、スペシャル達に並び始めているのかも知れない。勿論スペシャル達も同じ条件で強化されているので、まだまだ溝は埋まらないだろうが。それでも、出来る事は確実に多くなるはずだ。

 

攻撃を浴びせながら、蛙が苛立って動くのを待つ。ラジエルを従えたゼレーニンが前に出たので、驚いた。だが、蛙の一撃を、ラジエルが印を切って作り出したシールドが防ぎ抜く。

 

防御特化の大天使か。確かにゼレーニンの使役悪魔らしいといえばらしい。ただ、明らかに他より弱そうと判断したのか、蛙がゼレーニンに向き直り、何度も舌を撃ちだしてくるが。

 

その舌を、ケンシロウが掴み取っていた。

 

「汚らしい野郎だ。 ……引き抜いてやる」

 

流石に唖然としたのか、舌を引き抜かれそうになった蛙が、もたつきながら前に出る。

 

其所に、ヒメネスの魔王三体が殺到。巨体を押さえ込みに掛かる。

 

地面から引きはがせなくとも、押さえ込む事は出来る。蛙は流石に慌てたようで、巨体を揺らして魔王達を吹っ飛ばそうとするが、上手く行かない。その間、サクナヒメと唯野仁成が走る。ゼレーニンもシールドを解除して、蛙の後ろに回り込んだ。

 

蛙も、流石に狙いに気付いたらしく、緩慢に振り返ろうとするが、そうはさせない。ヒメネスの魔王達が必死に蛙を押さえ込み。更に他のクルーの悪魔達も蛙に組み付く。

 

案の定というか、凄まじい酸を全身から分泌しているようで、魔王達の手から煙が上がっているが。

 

サクナヒメが、ゼレーニンと共に情報集積体が埋まっている地点に到達。

 

掘り返し始める。蛙が必死に舌を引き戻そうとするが、ケンシロウの筋肉が膨れあがり、真っ向から蛙の舌を掴んで離さない。恐らく力のかけ方などを完全に理解しているのだろうが。あの巨体に真正面から力勝負をするとは。サクナヒメとも力勝負が出来るかもしれない。

 

北斗神拳の恐ろしさは何度も見てきたつもりだったが。

 

またそれを思い知らされることとなった。

 

「急げ! 魔王達が限界だ!」

 

「もう少し時間を稼いでみせるわ!」

 

メイビーが前に出ると、悪魔を召喚。

 

女神だ。エジプト神話の女神らしく、浅黒い肌に特徴的な化粧をしているが、誰だろう。今は分からない。兎も角、その女神が回復魔術を発動。淡い光が女神の掌に収束し。魔王達に向かって放たれる。三体の魔王達は、その光を受けると力を取り戻し、蛙を更に無理矢理押し込む。

 

蛙が、舌を振り回そうと必死になるが。元々鈍重極まりないのだ。

 

サクナヒメが、石畳を砕く。ゼレーニンが、ラジエルと協力して、情報集積体を掘り出すことに成功。蛙が後ろ足で何度も蹴ろうとしている至近だが。ゼレーニンは怖れている様子が無い。

 

一皮剥けたんだな。そう唯野仁成は思う。

 

そのまま、アリス、アナーヒター、イシュタルが魔術を展開。巨大な情報集積体を包み込む。

 

蛙が苦痛の表情を浮かべた。そして、あからさまに、回復力がなくなる。

 

次の瞬間、蛙の口の中に。方舟の至近から、大火力の一撃が叩き込まれていた。

 

ストーム1による狙撃だ。恐らくライサンダーの究極系の試作品によるものだろう。まだ大きさの課題が残っているが、遠距離から野戦砲として使うのならこの通り。

 

文字通り蛙の口から飛び込んだ砲弾は、蛙の体内で滅茶苦茶に反響し、全身を一瞬にしてズタズタにした。

 

更にケンシロウが舌を離し、突貫。サクナヒメも、同じようにして突貫。

 

二人が交差するようにして、蛙の前後にでた瞬間。蛙は文字通り、さいの目にみじん切りにされ。

 

苦悶の声を上げながら、消滅していくのだった。

 

膨大なマッカがばらまかれる。サクナヒメが、周囲を警戒しているのが分かる。ケンシロウもだ。

 

何かが此方を伺っているのかも知れない。いずれにしても、さっさと情報集積体を回収しなければならないだろう。

 

ラジエルが情報集積体を抱えて、ゼレーニンと共に方舟に急ぐ。唯野仁成は、ティターンも召喚すると、その護衛に入って、周囲に目を光らせる。

 

ヒメネスの魔王は、かなり蛙を押さえ込む事でダメージを受けたようだが。メイビーが召喚した女神の回復魔術でどうにかなっている様子だ。消耗するマッカも最小限で済みそうだった。

 

あの女神は、何だろう。今は、ともかく皆での無事な撤退が最優先だ。

 

ケンシロウがしんがりを務めてくれて、今の冷や汗を掻くような戦いで疲弊したクルーが皆方舟に戻る。情報集積体を真田さんに引き渡した頃に、ケンシロウが方舟に戻った。後は展開した野戦陣地などを回収して、次の電池を止める作業だ。

 

唯野仁成は、自分で志願して方舟の外で監視任務に就く。サクナヒメもケンシロウも警戒していた。

 

何か危険な存在がいるのかも知れない。

 

イシュタルが退屈そうにあくびをしたので、聞いてみる。

 

「何か強い敵意や悪意を感じなかったか、イシュタル神」

 

「いや、私は感じ取れなかったけれど」

 

「私も感じられなかったわねえ」

 

アナーヒターも右に倣う。

 

アリスはというと、退屈そうにしていて、話に興味が無さそうだ。ちょっと色々言いたくなったが、ぐっと堪える。

 

いずれにしてもこのくらいの神格でも気付けない相手が見ていたとすれば。ちょっと洒落にならないかも知れない。

 

アサルトライフルのチェックをしてから、監視に戻る。

 

程なく、物資や設備の回収が終わる。同時に、最後の電池を確認しに行っていたライドウ班が戻ってくる。

 

さて、後は最後の電池だ。どうせまた、ろくでもない守りにて固められているのだろうが。

 

時間は有限だ。

 

さっさとぶっつぶして、回収作業を済ませたかった。

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