Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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2、崩壊する疑似輪廻

ライドウ氏を交えて、艦橋でミーティングをする。唯野仁成とヒメネス、ゼレーニンも参加している。

 

エリダヌスの攻略作戦が終わったら、正式に唯野仁成とヒメネスは、それぞれ機動班の一線級クルーを率いての隊長に昇格、と言う話もあった。

 

だが、作戦後の生活を口にしていたヒメネスが、喜んでいる様子はない。

 

シュバルツバースでの過酷な任務を経て、一人で此処から脱出する事の無意味さを悟ったのかも知れない。

 

或いは、こんな状況で「ビジネス」のために乗り込んで来たジャック部隊を反面教師にしたのだろうか。

 

ジャック部隊は愚かしい連中で、論外としか言いようが無いが。反面教師としては優秀と言えるのかも知れない。

 

いずれにしても、作戦の詳細について聞いていく。

 

「撮影してきたこれを見て欲しい」

 

「これは……!」

 

皆がどよめく。

 

それは何というか、巨大な骨の塊だった。骨だけでは無く、其所に薄汚れて腐敗した肉もたくさんこびりつき。更にはそれが蠢いている。

 

肉に大量に湧いているのは蛆虫だろうか。

 

此処の環境を考えると、蛆虫なんて湧きようがないのだが。いずれにしても、あの肉も骨も蛆虫も。

 

悪魔だとみるべきだろう。

 

「ライドウの旦那。 あの悪魔に心当たりは?」

 

「見た事も無い悪魔だ。 あの巨大な蛙もそう」

 

「アンタほどの専門家でもか……」

 

「ああ、残念だがな。 専門家ほど、此処では違いに困惑させられることが多いようだな」

 

ライドウ氏が苦笑いする。

 

そして、咳払いしたゴア隊長が、皆を見回した。

 

「それで、この巨大な腐肉の塊は、恐らく確定で情報集積体の真上に積み重ねられている状況だ。 つまり蛙のように、攻撃を誘って引っ張り出すことも出来ない」

 

「しかもこの様子だと、あの蛙並みの再生能力を持っていても不思議ではないのう」

 

サクナヒメがうんざりした様子で言う。

 

農業では肥料が基本だ。当然サクナヒメも、肥を扱ったことがあるという。蛆虫は散々見慣れているはずだが。

 

それにしても、こう腐肉と骨を積み重ねて、大量の蛆虫となると流石に勝手も違ってくるのだろう。

 

「まずは仕掛けてみるしかない。 ストーム1」

 

「おう」

 

「遠距離からの攻撃で、敵の耐久力などを確認してほしい。 そのデータを元に、近接攻撃を仕掛けるか、それとも弾薬を使い果たすことを覚悟の上で会戦を挑むか、決める」

 

「分かった、任せてほしい」

 

ミーティング終了。すぐに方舟が動き出す。

 

天使と鬼神の陣地を見やるが。どちらもあまり雰囲気が良くない。時々斥候が小競り合いを起こしているようで、爆発音がしている。

 

とばっちりを食らうかも知れないので、急ぐ。

 

いずれにしても、関わらない方が良いだろう。秩序陣営だか混沌陣営だか知らないが、わざわざこんな文字通り奈落の底にまで出向いてきて、好き勝手をしている連中に関わる余裕は無い。

 

ライトニングはというと、柱を挟んで向こう側にいたのが。電池を回収した地面の辺りに降りたって、何か調査をしているのが分かった。

 

ビジネスだか何だか知らないが、目につかない所でやってほしいものである。悪魔に襲われて全滅してしまえ、というような事は流石に不謹慎すぎて言えないが。多少は痛い目にあった方が良いとも思う。

 

ただ、違和感はある。ストーム1が最も邪悪な人間の一人だといったジャックという男が指揮している割りには、動きに狡猾さがない。ずっと此方を観察して、どうでるかを測っているかのようだ。

 

それは何というか、消極的である。こんな所に来てまで、消極的に動く理由がよく分からない。

 

いずれにしても、嫌な予感しかしない。警戒は、もっと高めるべきだと思った。

 

一度方舟が着陸する。物資搬入口から、ストーム1が野戦砲と共にでる。唯野仁成とヒメネスは、声を掛けられて一緒にでた。

 

ヒメネスはぽんと双眼鏡を渡される。観測手を務めろ、というのだろう。

 

スナイパーは、観測手という役割のバディと組む事で、その狙撃成功率を抜群に上げる事が出来る。

 

ただ勿論発見される確率も上がるので、状況次第だ。

 

唯野仁成は、悪魔を展開して周囲を警戒するように言われる。頷いて、警戒を開始。

 

ヒメネスは真剣だ。俺を超えろと、ストーム1に言われている。つまり後継者として期待されている。

 

最初はストーム1を良く想っていなかったらしいヒメネスだが、最近は無言での尊敬を感じる。

 

こう言う仕事を任されたことは、素直に嬉しいのだろう。

 

大火力の、いずれ携行できるように改良される野戦砲が火を噴く。

 

近くでその様子を見ると、凄まじい音と火力だ。衝撃波も迸るのが露骨に見える程である。弾速はマッハ20以上は出ているのでは無いだろうか。

 

これを携行用に小型に改良するというのは、真田さんなら出来るのかも知れないが。苦戦しているのも納得である。

 

ヒメネスが、双眼鏡を見たまま言う。

 

「着弾を確認。 ……効果はあり。 骨の一部が消し飛んでいる。 再生はしていない様子だが……」

 

「第二射行く」

 

「了解」

 

最小限の会話で、二人は更なる狙撃の準備に入る。

 

だが、狙撃をしようとした瞬間。アナーヒターが動き、氷の魔術で壁を展開していた。更にティターンが前に出る。

 

氷の壁に、大量の蛆虫が着弾したのは、その時だった。

 

ストーム1は気付いていたようで、となりにいつも連れている英雄二人。クーフーリンとジャンヌダルクが既に召喚されている。ヒメネスは一瞬遅れて魔王達を召喚していたが、間に合わなかった。

 

まだ反応速度に差があるか。

 

「カウンタースナイプが入ったな。 あの蛆虫は」

 

「既に消滅しています」

 

飛んできた蛆虫は、氷の壁に突き刺さった後。少量のマッカになって消えていく。

 

更なる追撃が来るかも知れないと警戒したが。

 

肉の塊は、多少削れた後、そのままになっている。ストーム1は少しだけ考えた後、方舟に戻るように指示。

 

作戦を思いついたのだろう。

 

方舟に戻る。ストーム1が艦橋に消え、休憩を貰う。ヒメネスはシャワーを浴びて寝ると言う事だったので、唯野仁成はレクリエーションルームに。アリスが食べているのを見て興味を持ったか、イシュタルがアイスを欲しがったので、作ってやる。

 

「まあ美味しい。 こんなもの、私の時代には無かったわ。 氷室に保管した氷を食べる事はあったけれど」

 

「魔術を使えば出来そうな気はするが」

 

「ああ、それは無理よ。 そもそも人間がそんな事を発想できないもの。 私達神々は、人間の信仰とともにある。 想像力の及ばないことは、神々には出来ないのよ」

 

そういうものか。

 

ただ、今アイスを食べたことによって、以降は「知識を得た」ために出来るようになるという。

 

アナーヒターも興味を持ったので、アイスを馳走する。多少マッカを消費するが、それくらいはどうでもいい。あの蛙との戦いでも、膨大なマッカを得られたのだから。

 

アナーヒターにもアイスは好評だ。いつの時代も、甘味は女性には好評であるケースが多いらしい。

 

ただ、辛口が好きな女性もいるので、必ずしもそれが正では無い。なお唯野仁成の妹がその口だ。幼い頃からアイスが大嫌いで、大人になってからは激辛カレーを愛食していた。妹の口に合わせて、激辛のカレーを作ったことが何度か唯野仁成はあって。その度に目が痛くなったりするので辟易したものだ。

 

「えー、クルーの皆さんへ連絡します」

 

春香の声だ。

 

これは、作戦が決まったのだろうなと、唯野仁成は思う。一応備えるが、春香の声はそれほど緊迫感に満ちてはいなかった。

 

「これから、エリダヌス攻略作戦の最終局面に入ります。 クルーが出る事はないとは思いますが、念のため戦闘に備えてください」

 

「……どういうことだ?」

 

レクリエーションルームにいたウルフが腰を上げかけるが。ブレアにたしなめられて座り直す。

 

ブレアはこの間、アレックスを取り逃したことを気に病んでいるようで。手持ち最強の悪魔魔獣ケルベロスを外で呼び出しては、色々と話をしている様子だ。冥府の番犬として名高い三つ首の魔犬は、実際の所甘いものが好きで感動的な音楽に涙を流す人情家だったりするのだが。後世で名前ばかりが先行して、恐ろしい化け物のように扱われてしまっている。

 

ブレアが使っているケルベロスは、どちらかといえば本来のギリシャ神話のケルベロスに近い様子で。言葉も喋ることが出来るし。ブレアと意思疎通を積極的に行っては、戦闘の打ち合わせをしている。

 

魔獣をたくさん展開するウルフとも相性が良いらしく。最近は一緒にいることが多いようだった。

 

レクリエーションルームにも艦外の様子を映すモニタはある。

 

方舟が動き始めて、目標である骨と腐肉の山に向け、全砲門を展開。プラズマバリアを解除。

 

射撃戦を行うのか。

 

ストーム1は、ひょっとしてだが。射撃戦だけであの巨大な腐肉の塊を処理出来ると判断しているのだろうか。

 

いや、それが間違いかどうかはすぐに分かる。いずれにしても、様子を今は見守るだけである。

 

砲撃が開始された。砲撃音は凄まじく、三㎞ほど離れた腐肉と骨の塊に、速射砲が次々と着弾。

 

炸裂弾を使っているらしく、派手に爆発が連鎖する。斉射を終えると、方舟はプラズマバリアを展開。

 

案の定、カウンターで大量の蛆虫が此方に向けて飛ばされてきて、プラズマバリアに激突し、蒸発していった。

 

「プラズマバリアの出力、95、90、88……88で安定」

 

「敵の様子は」

 

「再生している形跡無し」

 

「プラズマバリアの回復を待ち次第、第二射を行う」

 

アーサーとゴア隊長がやりとりをしているのが、デモニカの通信に入ってくる。勿論聞かせているのだろう。

 

クルーの大半が、今の射撃戦を見守っているのだろうから。

 

ブレアが唯野仁成に話しかけて来た。恐らくだが。今の攻撃をどう見たか、興味があるのだろう。

 

「どう思う、唯野仁成」

 

「あの腐肉の塊は、極めて単純なルールで存在しているように見えます。 攻撃をすれば、蛆虫を飛ばして返してくる。 もしも迂闊に近接戦を仕掛ければ、大きな被害が出ると思います。 それならば、最大の盾を展開出来る方舟そのもので戦いを挑むべき、そういう判断ではないでしょうか」

 

「ふむ……。 俺と見解は一致するな。 ただ、それでこの階層のガーディアンが沈黙してくれればいいのだが」

 

その懸念は確かにある。だが、いずれにしても、あの腐肉の塊に接近戦を挑むよりはマシだろう。

 

ほどなく、プラズマバリアが回復。位置を微調整すると、またレインボウノアの速射砲が全て攻撃を開始。今度は焼夷弾を使っている様子で、着弾点が派手に燃え上がったのが見えた。

 

文字通り丸焼きになった蛆虫が、もがいているのが見える。

 

側では、さぞやおぞましい臭いがしているのだろうが。敵には残念ながらデモニカがあるので、その邪悪な臭いでダメージを受けることはない。

 

すぐにプラズマバリアが展開される。

 

蛆虫は生きていようがいまいが関係無い様子で、文字通りプラズマバリアに向けて射出されてくる。

 

狙いも正確だ。

 

プラズマバリアを展開したまま方舟は動いていたのだが、蛆虫は全弾着弾した。これはひょっとするとだが。

 

いや、まあそれはいい。兎も角様子を見守る。

 

「敵の67パーセントが消滅。 第三射に入ります」

 

「……」

 

淡々としたアーサーの説明。ゴア隊長は、歴戦の指揮官らしく、嫌な予感を覚えているようだったが。

 

唯野仁成もそれは同じだ。

 

ストーム1の声が、不意に通信に割り込む。

 

「攻撃を停止してほしい」

 

「ストーム1、如何なさいましたか」

 

「来る」

 

「分かりました。 プラズマバリアの回復に専念します」

 

アーサーが答えるのと、殆ど同時だった。さっきの比では無い、驟雨の如き勢いで、膨大な蛆が飛来する。

 

それは文字通りプラズマバリアを滅多打ちにしていく。ぞっとする光景だった。

 

ストーム1は、歴戦に歴戦を重ね。戦場でずっと生活しているうちに、勘を実用的な武器にまで昇華させたという話だが。

 

その勘が、適中したことになる。

 

アーサーの声が、淡々と響く。

 

「動力炉の出力を、全てプラズマバリアに回します。 プラズマバリアの出力、90、87、82、79……」

 

「お、おいおいっ!」

 

ウルフが明らかにたじろぐ。ブレアは無言で腕組みして、その様子を見ていたが。内心冷や汗を掻いているのかも知れない。

 

凄まじい勢いで飛んでくる蛆虫が、プラズマバリアをどんどん削って行く。焼夷弾に反応した、というわけではないだろう。

 

まさかとは思うが。

 

あの腐肉と骨の塊が主体なのではなくて。この蛆虫の方が、ガーディアンとしては本命なのか。

 

「プラズマバリア、出力50パーセントを切りました。 更に低下します」

 

「総員戦闘に備えろ」

 

ゴア隊長の声と共に、機動班にそれぞれ指示が出る。唯野仁成も、当然それに沿って動く。

 

物資搬入口に移動して、其所で戦闘準備。寝に入ったばかりのヒメネスも、もう出て来ていた。

 

まだ蛆虫による飽和攻撃は続いている。船がかなり揺れている。プラズマバリアの出力が30%を切った。どよめきが拡がるが、ヒメネスは平然としている。

 

「この船の装甲は、シュバルツバースに入ってからも強化が続いているんだ。 逆に言えば、この船の装甲を貫通されるようだったら、何処に逃げても同じさ」

 

「肝が据わってるな、お前」

 

「まあ、色々あったしな。 ここに入る前よりは据わっただろうよ」

 

ヒメネスが、ウルフに答える。以前は会話さえしなかったのだが。

 

ミアなどの機動班も兼ねているメンバーが来る。これは、相当にまずいと首脳部が判断しているのか。

 

「緊急時につき、補助動力も動員してプラズマバリアを補強します」

 

アーサーの声と共に、プラズマバリアの色が変わる。

 

そして、20%を切っていた出力が、一気に50%まで回復する。こうなれば根比べか。

 

そういえばさっき移動したのは、敵の攻撃の正確性を見る為か。なるほど、ならば移動に使う動力も、プラズマバリアに回した方が合理的と言う事だ。

 

ほどなく。不意に蛆虫による攻撃がやむ。プラズマバリアの出力は、40%で安定していた。

 

そして一気に100%にまで回復する。

 

「此方観測班マクリアリー。 外部に展開しているドローンから映像が入った」

 

皆が息を呑んでいるのが分かった。モニタに映し出されたそれは、もはや何と形容して良いか分からない代物だったからである。

 

肉と骨の塊は、殆ど黒焦げ。その真ん中に巨大な穴が開いていて、其所から大量の蛆虫が這い出している。

 

いや、あれは本当に蛆虫なのか。

 

やがて、蛆虫は、此方に向けて威嚇の声を上げていたが。其所に、不意にプラズマバリアを消去した方舟から、第三射が浴びせられる。今度は蛆虫を徹底的に狙っている様子である。

 

空中に展開したドローンの画像から、蛆虫がピンポイントで撃ち抜かれて消滅していくのが分かる。

 

凄まじい光景だ。はじけ飛ぶ大量の蛆虫の残骸を見て、目を背けるクルーも多い様子だった。

 

アレに接近戦を挑んでいたらどうなったか、あまり考えたくない。相当な被害は確定で出ただろう。

 

ストーム1とサクナヒメが来る。ジープを出すように指示。唯野仁成と、ヒメネス、更にゼレーニンに声を掛けた。

 

「出るぞ。 確認したが、あの蛆虫は無限湧きしている」

 

「あの蛙と同じですか?」

 

「そうなるな。 だから、速射砲で蛆虫を射すくめている間に接近して、あの黒い穴をどうにかする」

 

「具体的にはどうするんで」

 

ヒメネスが皮肉混じりにジープの運転席に。助手席で、ライサンダー2の改良型、ライサンダーFのチェックをしていたストーム1は、こともなげに言った。

 

思わず唯野仁成も目を丸くしたほどである。

 

「あの穴の下に情報集積体がある。 だったら、穴の下を物理的に掘り進めて、情報集積体を回収すれば良い」

 

「ええっ!」

 

「だからわしが出る。 あの穴の側を掘り返して、其所から横に掘り進み、情報集積体を回収。 蛙の時のように、唯野仁成、そなたの悪魔達で封印する。 その後の処置はゼレーニンよ、そなたに頼むぞ」

 

「分かりました」

 

接近後は、ストーム1と英雄二人。そしてヒメネスと魔王三体で蛆虫を片っ端から処理するという。

 

無茶な作戦だが、他に方法も無さそうだ。もっと凄い魔法が使える悪魔が手持ちにいたら、或いは別の手段もあったのかも知れないが。だが、他に方法が無い。

 

ライドウ氏が出てくる。最悪の事態に備えて、レインボウノアを守るべく、大型の悪魔を展開する準備を始めていた。

 

ケンシロウも続く。

 

蛆虫を素手で撃墜するつもりなのだろう。この人なら冗談抜きにやりかねないので恐ろしい。

 

ジープが出る。

 

一気に加速しつつ、それぞれ悪魔を展開。ラジエルが最初に出たのは驚いた。吹っ切れてから、ゼレーニンの行動はとても積極的になっている。続けてアリスとアナーヒター、それにイシュタルが出る。ロキも、である。ヒメネスが使っている三体の悪魔の中では、空を飛べる唯一の者だから、だろう。

 

ジープが接敵する間も、速射砲からの焼夷弾による射撃は続いていて。蛆虫を片っ端から射すくめている。

 

周囲は凄まじい熱だ。接近と同時に、ストーム1が片手を上げ。方舟からの射撃は止まった。

 

横殴りにドリフトして止まったジープから飛び降りると同時に、ストーム1とヒメネス、唯野仁成が陸戦要員を展開。

 

もう腐肉も骨も無く。空間に開いている黒い穴から、蛆虫がぼたぼたと落ちてきている世紀末的な光景だけが其所にあった。

 

何の悪魔なのだろうとちょっとだけ気になったが、それはもう良い。

 

アサルトで、蛆虫を処理に掛かるストーム1。ヒメネス、唯野仁成もそれに習う。サクナヒメは適当な所を掘り返し始めるが、これに時間が掛かるのは前にも分かっている。蛆虫の湧く速度が、想像以上に速い。普段は投げて使っている槍を、クーフーリンが薙ぐようにして使っている。

 

ティターンは黙々と剣を振るい。その足下で、機敏な動きでジャンヌダルクが次々蛆虫を屠る。

 

バロールが巨大な目を開けると、文字通り蛆虫が大量に吹っ飛び、消し飛ぶ。

 

だが、この目の力は連続では使えないらしく、目をすぐに閉じる。しかも大物には使えないと言う事だから、若干使い勝手が悪いか。

 

唯野仁成も、アサルトで蛆虫を処理し続けるが。それにしても敵が湧くのが速すぎる。

 

其所に、二両のジープが遅れて到着。

 

一線級の機動班が八名ジープを飛び降りる。悪魔を出し、アサルトでの掃射を始める。

 

ストーム1は無言でそれを許可する。状況からいって、ゴア隊長の指示だろう。

 

心強い援軍だ。これで、何とか蛆虫の大群を押さえ込む事が出来る。

 

サクナヒメがかなり深く掘り進めている。だが、それを危機と感じ取ったのだろう。更に蛆虫の噴き出す速度が倍加する。アサルトのマガジンを取り替えながら、唯野仁成はぼやく。

 

「姫様、急いでくれ……!」

 

「敵接近!」

 

「何っ!」

 

悲痛な声に、ブレアが呻く。恐らくだが、最後の電池の危機をウロボロスが感じ取ったのだろう。

 

柱の方から、雑魚とは思えない大型の悪魔が大勢来るのが見えた。凄まじい勢いで沸き続ける蛆虫を処理しつつ、あれに対応する余力は無い。

 

だが、その時方舟が動く。

 

速射砲を乱射しながら、悪魔達との間に割り込んでくる。かなりの至近距離でのことなので、迫力は満点だった。

 

これなら、後は彼方の相手はライドウ氏にまかせてしまって大丈夫だろう。

 

とても心強い話である。

 

サクナヒメが穴から顔を出す。ゼレーニンを呼ぶ。すぐにゼレーニンが、ラジエルと共に穴に飛び込む。彼女も状況は理解していると言う事だ。

 

唯野仁成は、アリス、アナーヒター、イシュタルを下がらせ。ティターンと二人で前線に出る。

 

深呼吸をすると剣を抜き、蛆虫の群れに切り込む。

 

アレックスと戦った時を思い出せ。この剣は。正確には、姫様に鍛えて貰い、ライドウ氏からも教えて貰い。更に多くの戦闘経験を経て昇華した剣術は、あのアレックスの光の剣すら弾き返した。

 

こんな蛆虫共なんて、恐るるに足りない。

 

何か、精神的に入り込んだ気がした。無言のまま、蛆虫を凄まじい勢いで斬り伏せ続ける。味方も、それに続いて一気に攻勢に出る。敵も、負けじと更に蛆虫を繰り出してくる。

 

ラジエルが、ゼレーニンと情報集積体を両の腕に抱えて飛び出してきた。

 

すぐにアリス達が封印に懸かる。

 

蛆虫たちが、わっと襲いかかろうとするが、ティターンが壁になってその突貫を防ぎ抜く。だが蛆虫に殺到されたのはどうにもならない。すぐにPCに戻すが、一瞬で原形を留めないほど溶かされていた。

 

ぞっとするが、そのティターンの献身が生きた。

 

アリス達による封印魔術が完成。同時に、黒い穴が嘘のように消え。蛆虫たちは供給を絶たれ。後は一方的に蹂躙され、消滅していった。

 

 

 

ティターンをマッカを使って回復する。かなり危ない戦いだった。ストーム1の判断は終始正しかったが。それでも危なかった。ゴア隊長の柔軟な支援の判断が無ければ、死人は当然出ていただろう。

 

四つの巨大な情報集積体を、今真田さんが全力で解析している。

 

方舟は一旦エリダヌス下層に撤退すると、其所でプラントを展開。物資の回収に入っていた。

 

ゼレーニンが動力炉の方に、他の研究室クルーと一緒に出向いている。

 

恐らくだが、動力炉に相当な無理をさせたのだろう。

 

あの苛烈な戦いだ。やむを得なかったとは言え、補助動力まで動員してプラズマバリアを展開したのだ。

 

被害が小さく済む筈も無かった。

 

二線級のクルー達が、外でプラントの護衛に当たっている。ともかく巨大で凶暴な蛆虫の群れと至近で戦ったのである。一線級のクルー達は、メンタルケアも考慮して貰ったのだろう。休憩を貰って、それぞれ休んでいた。

 

唯野仁成は、ぼんやりと自室のベッドで横になる。

 

写真を取りだす。妹の写真だ。

 

随分とおてんばで、手を焼かされたが。人の道に外れるようなことはしない妹でもあった。

 

それになんだかんだでお兄ちゃん子だったので、随分と世話を焼くことにもなった。

 

母子家庭だったから。唯野仁成には、年の離れた妹に対する父親の役割も求められたのだろう。

 

同年代の子供達からは、唯野仁成は浮いた。

 

それは、経験が違うのだから、当たり前だとも言えた。

 

写真をしまう。一眠りして、そして起きる。これからウロボロスとの決戦が控えている。当然、あの四つの電池の守護者よりも強いだろう。起きだしてから、ティターンのコンディションを確認。精神的にダメージを受けているようなこともなかった。

 

ふと、顔を上げると。

 

いつぞやの瓶底眼鏡のメイド姿の堕天使がいた。

 

「ずっと見ていたのか」

 

「ずっと見ていたと言えばそうですよお。 とはいっても側に来たのは今ですけれど」

 

「何の用だ、堕天使さいふぁー」

 

「ふふ。 まさか大母の空間を、これほどの速度で攻略するとは思っていませんでしてね」

 

さいふぁーの予想では、大母の空間はこの三倍は時間を掛けて攻略し、しかも犠牲も少なからず出ただろうという話だった。

 

それはそうだ。この巨大な空間。あの恐ろしい電池を守る敵。苦労しないはずがない。

 

だが、唯野仁成には、信頼出来る戦友達と。更には尊敬できる英雄達のバックアップがある。

 

唯野仁成は可能性が云々と言われたが。それは皆の可能性も受けているだけだ。

 

「貴方の成長は図抜けている。 もうモラクスやミトラスではそれこそ相手にもならないです。 一体どこから、その成長力は来ているんですかあ?」

 

「分からない。 俺がどうして可能性可能性と言われるのも、ぴんと来ない」

 

「ふうん……。 なる程ね。 何となく此方では分かってきました」

 

「其方で勝手に納得だけされても困る」

 

くつくつと笑うさいふぁー。

 

此奴がとんでも無く恐ろしい悪魔だと言う事は分かっている。だけれども、どうしてだろう。

 

憎もうという気にはなれなかった。

 

仲間であるクルー達に手を掛けようとしたりしないのが要因だろうか。

 

「天使どもが目をつけていた光の御子たり得る者は精神を人間に揺り戻しつつあるし、混沌の申し子に思えた乾いた魂はその渇きを癒やしつつある。 それはそれで此方としても面白い。 その中心にいる貴方という存在についても、興味が尽きない」

 

「それでどうするつもりだ」

 

「見ているだけですよぉ。 もしも可能性を更に引き出せるのならそうしますけれど、今は出来る事が思いつきません」

 

正直な奴だ。咳払いすると、さいふぁーは言った。

 

もう一つの鉄船に気を付けろ、と。あれは悪意によって支配され、放置しておくと確実に全てを悪い方向に傾けると。

 

意味を聞こうとしたときには。もうさいふぁーはいなかった。

 

また侵入されたことに危機感を感じるよりも先に。やはりという感情が表に出てきた。やはり、あの鉄船。要するにライトニングは危険だ。

 

じっと手を見る。出来る事は決して多くは無い。だが、注意はできる限り払わなければならなかった。




ついに砕かれたウロボロスの守り。

しかし、ここからが本番です。

大母と呼ばれるだけあり。

ウロボロスの実力は、今までとは……
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