Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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1、困難はまだ続く

休暇はあっと言う間に終わり。

 

次の大母の空間にスキップドライブする準備が整った。

 

同時に、全員が通信を見ている状態で。国際再建機構本部に、映像つきの通信を入れる。

 

普段からデータのみならやりとりはしているが。

 

こうやって、直接話す事で進捗を実感できる。そういう心理効果を狙ってのことだ。

 

勿論それは分かっているから、茶番だなんだと口にするつもりはない。

 

唯野仁成としては、やりとりを見つめるだけである。

 

最初に報告をしたのはゴア隊長だ。

 

セクターエリダヌスの攻略を完了したこと。

 

謎の空間、嘆きの胎三層にて、今まで大きな障害になっていたアレックスの撃退に成功した事。

 

更には、現時点ではライトニングによる大きな邪魔は入っていないこと。

 

そしてエリダヌスの次の空間に、これからスキップドライブする事、である。

 

おおと各国の代表が声を上げる。

 

向こう側からも、連絡があった。

 

「真田くんの指摘があって、君達がし損じた場合のシュバルツバース破壊計画について見直すことになった」

 

「?」

 

「我々が通信途絶した場合、核兵器の飽和攻撃によって、シュバルツバースを消滅させる計画が挙がっていたのだ。 だが私が上手く行かないことを示していた」

 

「そうだな。 一応幾つかのシミュレーションでは上手く行くとなっていたのだが、シュバルツバースの構造が君達が贈ってくれたデータによって、より複雑だと言う事がわかってきた。 恐らく表層部分は核の高熱で破壊出来るが、表層しか破壊出来ないと言う事もはっきりした」

 

無駄に放射性物質をまき散らして、南極近辺を汚染しないのであれば何よりである。

 

更に、現在のシュバルツバースの状態も表示される。

 

まだ南極からシュバルツバースは出ていない。予想以上に攻略が速いという話は、どうやら本当らしい。

 

ただ、この様子だと時間の問題でもある。

 

シュバルツバースは、いずれ南極全てを飲み込み、南アメリカやアフリカに到達するだろう。

 

そうなったら、人間の生息域に出たと判断した、シュバルツバース下層空間の魔王達が侵攻を開始しかねない。アントリアからデルファイナスまでの空間以外にも、下層の空間が幾つも存在している事は既にはっきりしている。その数は分からないし、どれだけの悪魔が出現するかも分からない。ただ、どう楽観的に見ても天文学的な数の悪魔が出てくるのは確定だろう。

 

もしもそうなれば、国際再建機構や、各国が準備した軍によって反撃せざるをえず。

 

最貧国が連なる地域での戦闘で、多くの被害が出ることは確定だった。

 

初期消火に失敗すれば、大量の悪魔が世界中に放たれるわけで。それこそ手に負えない状態になる。

 

出来るだけ、急がなければならないのも事実だった。

 

「現時点では、此方も軍の整備と出動準備を進めている状況だ。 君達がシュバルツバースの破壊に成功すれば、それも必要なくなるかも知れないが……」

 

「努力はします。 お互い、必要なデータのやりとりは密接に行いましょう」

 

「うむ……」

 

通信が終わる。

 

重力子は最近発見されたばかり。それを使った通信は、機器に著しい負担が掛かるのも事実である。

 

如何に真田さんが改良を重ねたと言っても、それは同じ。

 

とりあえず、エネルギーの回復を少し待つ。その後、全員に、体を船内に固定するようにアナウンスが入る。

 

唯野仁成は、物資搬入口に移動。

 

ようやく回復を済ませたサクナヒメとケンシロウが来ている。

 

物資搬入口にて、体の固定を済ませると。クルーに点呼が入る。

 

インフラ班が、AFVや重機の固定を済ませて、点呼に応じると。

 

いよいよ、スキップドライブが開始された。

 

一旦バニシングポイントへの突入を開始。ただし、突入と同時に、量子のゆらぎのパターンから見て、それるように空間跳躍を行い。

 

つながっている先の空間へと移動する。

 

原理はそういう事らしい。

 

スキップドライブ中にスキップドライブをするという事で、かなり危険な行動になるのだが。原理的にはエリダヌスに来た時とあまり代わらない。

 

そもそもそのまま外に出ようとすると、大母達が展開している壁が健在なせいで方舟のプラズマバリアでも耐えきれないという話なので、やむを得ないだろう。

 

上空に浮き上がったレインボウノアが、加速を開始。

 

やがて、吸い込まれるように、バニシングポイントに飛び込む。

 

揺れは、ある。流石に新しい空間に向かう上、無茶に無茶を重ねるのである。

 

それは色々と、船にも負荷が掛かるのは避けられないだろう。

 

だが、真田さんがしっかり下準備してくれたのだ。

 

ミスは起きない。そう信じて、じっと壁に背中を預けたまま、進展を待つ事にする。

 

やがて、更にスキップドライブをしたのだろう。

 

一際大きく方舟が揺れた。

 

エリダヌスに最初に突入するときも、こんな感じだった。

 

だが、二回目以降は、ノウハウを掴めたからだろう。揺れることも殆ど無くなった。

 

次からはこんなには揺れなくなる。

 

そう信じて、じっと待つ。

 

不意に、警告音が入る。アーサーから、アナウンスも入っていた。

 

「後方より飛翔体接近!」

 

「飛翔体って、具体的には何だよ!」

 

「分かりませんが、速度はマッハ40を軽く超えています。 それが此方に向け、攻撃を続けながら接近しています」

 

ずん、と揺れた。

 

プラズマバリア越しにも、ダメージが入る程の攻撃だったのだろう。

 

サクナヒメが舌打ちする。

 

「最初にこの船がシュバルツバースに突入するとき、ちょっかいを掛けて来たのはアスラであった。 その時奴は船内に分身を紛れ込ませたのであろうな」

 

「そうなると、また同じ事を」

 

「……いや、今度は撃墜を目論んでいるようだ。 だが、今は真田を信じるしか無い」

 

腕組みして、体を壁に固定もしていないサクナヒメは、どんだけ船が揺れてもびくともしていない。

 

人間を遙かに超越したバランス感覚で、余裕で立っていられているのだ。

 

最初に突入したときもそうだった。サクナヒメは本当に頼りになる。

 

また、揺れが来るが。速度が徐々に落ち始める。飛翔体は攻撃をしつこく続けているようだが。

 

方舟は補助動力を駆使してプラズマバリアを強化し、どうにか耐えている様子だ。

 

やがて、スキップドライブが終了。新しい空間に突入を終えていた。

 

同時に攻撃も止む。撃墜を諦めたのだろう。今の攻撃が何だったのかはよく分からないが。兎も角、方舟は無事だ。新しい空間に突入したこともアナウンスされる。やれやれと、ぼやくしかない。

 

船が下降を開始。

 

不意に、その時、異変が起きた。

 

「通信回線にハッキングあり」

 

「!」

 

「現在、着陸を優先中。 画像が無理矢理送られてきます」

 

余程凶悪なハッキングが行われているのだろう。船を着地させるのに、アーサーは殆どのリソースを割いている。対応は出来ないと言う事だ。

 

それにしても、ハッキングだと。この方舟に。

 

勿論、最初にアスラの分身体に侵入されたという失態は確かにあった。最近でも、さいふぁーにまた侵入されている。

 

だが、それでもそもそも、この方舟の防衛網は生半可な代物では無い。侵入を受ける度に強化されてもいる。

 

このシュバルツバースはどれだけ底知れない空間なのか。

 

壁に備え付けられているモニタに、映像が映り込む。

 

それは、白い部屋に佇む、三人の影だった。

 

「大母を下すとは。 人間共め、随分と過剰な力をつけたようだな」

 

「以前の文明を滅ぼした時は、此処までの侵入を許しはしなかった。 何ともこの星の怒りも弛んだものよ」

 

「怖れよ人間。 そなたらは今、この星の怒りに触れている」

 

何を言っている。唯野仁成は、着地が完了したことを確認しつつ、体を船に固定していたベルトを外した。

 

そのまま戦闘態勢を取ると、周囲を睥睨する。

 

今の着地はとてもスムーズだった。これならば、恐らく被害は出ていないだろう。ただ航行中に受けた攻撃で、ダメージを受けた動力炉が心配だ。副動力炉を使ってどうにか凌いだのだろうが。それでもノーダメージとは行かないはずだ。

 

「貴様らは傲慢になりすぎた」

 

「故に今後大母達は全力で貴様らを排除する」

 

「怖れよ、怖れよ」

 

「人間共よ、貴様らの持つ雷の槍など、この世界には通じぬ。 座して飲まれていれば良いものを」

 

映像が切れる。

 

今のは何だったのか。ライトニングからのハッキングだったとは思えない。はっきりしているのは、まだまだこの方舟の防備は完全とは言えない、と言う事だ。

 

アサルトの銃口を下げる。他のクルーも、続々と物資搬入口で、拘束を解除し始めていた。

 

「アーサー、今のは何だ」

 

ゴア隊長の声が聞こえる。クルーの声を代弁してくれている形だ。当然、皆も同じ事を思っているだろう。

 

困惑の時間が流れ。やがて思ったよりも速く、アーサーが反応していた。

 

「今のはシュバルツバース内部より、重力子を用いたハッキングが行われた様子です」

 

「重力子通信に対してハッキングだと!?」

 

「はい。 重力子通信の仕組みを、既にシュバルツバース内部の知性体……恐らくは大母か、それ以上の存在でしょうが。 それが解析を終えているという事になるかと思います」

 

アーサーの言葉は、想像以上に深刻に思えた。

 

それだけではない。アーサーは、想定外の被害についても伝えてくる。

 

「副動力炉のダメージが甚大です。 先ほどのスキップドライブ中に攻撃を受けた際、フルパワーでプラズマバリアを展開し続けました。 その際にダメージを受け、現在では主動力しか動かせません。 復旧にはしばらく時間が掛かるでしょう」

 

「厄介だな……」

 

「レインボウノアは、これからしばらく大きめの会戦には参加出来ないと判断してください」

 

アーサーの報告が終わる。

 

既に真田さん達が動いてはいるだろうが。それにしてもトラブルが少しばかりタチが悪すぎる。

 

更に、である。

 

情報班が連絡を入れてくる。

 

「此方マクリアリー。 外の情報の採集を完了。 モニタに回します」

 

「ようやくおいでなすったか」

 

ヒメネスが久しぶりに純粋な毒を吐いた。唯野仁成も、これだけ色々あると、ヒメネスを咎める気にはなれない。

 

モニタに、今度は外の光景が映し出される。

 

今までとは、また違う雰囲気の場所だ。

 

まず空が真っ暗である。エリダヌスの上層階もそうだったが、此処の空には雷が轟いている。そこで時々閃光が走るのだが。その閃光によって見えるのだ。空に禍々しい色の雲が浮かんでいるのが。

 

あの雷は、その禍々しい、何者かも分からない雲によって形成されているらしい。

 

驚きの声を、マクリアリーが上げる。

 

「情報班としての分析をしましたが……これは原初地球。 生命のスープと呼ばれていた時期の地球の、大気組成と酷似しています。 周囲の気温は200℃、35気圧に達しています」

 

「おいおい、圧力鍋かよ」

 

誰かがぼやくが。確かに圧力鍋も吃驚の環境だ。

 

特に気圧。35気圧と言えば、水深400メートル弱くらいと同レベルの圧力が掛かっている事になる。

 

デモニカで無ければ、まともに動くどころか、文字通り一瞬で死んでしまう事になるだろう。

 

「もう無茶苦茶だな」

 

「そ、それと。 此方を見てください」

 

映像に映り込むのは、とんでもなく巨大な建物だ。だが、絶妙に方舟が入れないほどの大きさの入り口がある。

 

入り口をぶっ潰して入れないかと、唯野仁成はちょっと過激なことを考えたが。流石に止めた方が良いだろう。

 

建物の形状はピラミッドに似ている。いずれにしても、飾り気がない原初の地球にあるとしたら、まあこういうものではないかという言葉しか出てこない建物である。

 

ただ、壁面はつるつるである。

 

この様子だと、船外での活動にも色々支障が出るのではあるまいか。少しばかり不安になってきた。

 

真田さんより通信がある。

 

思わず背筋が伸びた。

 

「此方真田だ。 まずは課題を順番に説明する」

 

真田さんはまず、副動力炉の復旧を開始するという。副動力炉も小型の原子炉である。復旧は勿論簡単ではない。

 

だが、それはそれだ。ともかく、やってみせるという。

 

続いての問題だが、船外活動について。これについては、可能ではあるという。ただし、デモニカへの負担が尋常では無く大きくもあるそうだ。

 

「現状のデモニカなら耐えられるが、それでも長時間の活動は控えてほしい。 それとプラントの改良に時間が必要になる。 間違いなく大母とやらの二体目はあの建物の深部にいると見て良いだろう。 調査班と機動班は、連携してあの建物の内部をまずは調べてほしい」

 

ただし、プラントの改良や改修などが必要になるため、しばらくは補給が怪しくなるともいう話だった。

 

補給が尽きれば負け戦。

 

これは太古の昔から、絶対の法則である。どんな名将でも、補給が尽きてしまえば勝ち目はなくなる。

 

ましてや此処では、増援や補給部隊の到着など期待出来ないのである。ジャック部隊という邪魔はいるが。

 

更に、だ。

 

追加でろくでもない情報がとんでくる。

 

「此方アーサー。 良くない情報が二つあります」

 

「逆に良い情報は無いのかよ」

 

「ありません」

 

ヒメネスの皮肉に、アーサーが大まじめに答える。流石に憮然としたヒメネスに対して。アーサーは未成熟なAIらしく、淡々と言うのだった。

 

この辺りは、ヒメネスが一本取られたというべきかも知れない。

 

「まず第一に。 ジャック部隊とライトニングが行動を開始しました。 驚くべき事にスキップドライブを簡単に成功させ、我々とは別の上位空間に入り込んだ様子です」

 

「何だって……!?」

 

「正確には、泡沫のように浮かんでいる小型の空間に滑り込むようにして侵入した様子です。 現時点ではそこにいるだけですが、彼ら独自の拠点を作られたと判断して良いでしょう」

 

「……撃墜するべきだったな。 もう遅い話だが」

 

ストーム1がぼやく。

 

賛同の声が、それに対して複数上がるのを唯野仁成は聞いた。確かに乗っているのはストーム1が地球人類一邪悪とまで言い切るほどのジャック。その手下のチンピラども。財団という、地球上最悪の組織による私兵部隊。

 

叩き潰しておくべきだった、という意見は正しい。

 

だが、ストーム1は撃墜しないことを選んだ。きっと、これには意味があるのだと信じたい。

 

だから、無言のまま、次の報告を聞く。

 

「もう一つの悪い報告です。 あの巨大な建物の内部には、最低でも五つの強力な悪魔の反応が存在しています。 いずれもが今まで通ってきた各世界を統べていた支配者以上の実力者です。 更に、最深部にはウロボロスを更に超える強力な反応があります。 恐らくはそれが「大母」かと思われます」

 

「それはご機嫌な話だな」

 

ヒメネスがもう言葉も無い、という雰囲気で呟く。他のクルーも、それに対して殆ど反応しなかった。

 

実際問題、此処の困難さがよく分かったから、だろう。

 

そして最後に、アーサーは言った。

 

「この空間を、アルファベットのFにちなんでフォルナクスと命名します。 フォルナクスでの最終ミッションはロゼッタの回収ですが、その過程で最低でも四体の、これまでの世界の支配者を超える戦闘力を持つ悪魔との交戦が想定されます。 各自、最大級の注意を払って行動してください」

 

やる事が多すぎる。

 

唯野仁成は憮然としたが、こうなった以上はやむを得ないだろう。

 

まずは、待つ。真田さんが、副動力炉を復旧させながら、デモニカのアップデートを不眠不休でやってくれる。話によると、一日くらいはかかる、と言う事だった。焦って出ても死ぬだけだ。これは、待つしかない。

 

勿論待つだけではない。その間に、出来る事はやっておく。

 

機動班クルーの内、更にこの一日で復帰出来る人員が増える。ウルフのように長引く者も出ているが、逆に二線級だったクルーから一線級になった人物も出ている。そういう新しく前線に出て来た人物とコンタクトを取って、手持ちの悪魔などの情報交換をする。

 

また、動力炉そのものは無事なので、悪魔合体は船内で皆熱心にやっている。その情報を、DBで確認する。

 

ウロボロス戦前後で、相当なマッカを回収することに成功している。故に、悪魔合体で総合的な戦力強化が行える状態だ。

 

ヒメネスも更に魔王の手持ちを増やしたいという。

 

今作りたいのが、スルトという魔王らしい。

 

北欧神話の終焉、神々の黄昏とも言われるラグナロクに登場する炎の巨人ムスペルの首魁であり。

 

その戦いで、北欧神話でももっとも人気がある神の一柱フレイを討ち取り。

 

世界を炎で包んで、どこともなく消えていく、という存在だ。

 

ただ流石に世界を焼き滅ぼす魔王と言う事もあって、流石に要求されるスペックが非常に高い。

 

そこで、今はまず現実的なラインとして、魔王アバドンを作る事を目的としているそうである。

 

魔王アバドンは一神教に登場する魔王で、此方も世界の終末に出現する存在だ。

 

文字通りの地獄を意味する悪魔で、アバドンの体内が地獄である、とする説もあるほどの強大な魔王である。

 

その正体というか、アバドンが象徴しているのは蝗害。

 

本来中東で出現した一神教である。蝗害に対する畏れが、強大な魔王に代わったのは無理もない。

 

いずれにしても、アバドンを作り出せるのなら言う事は無い。ヒメネスを応援したい所だ。

 

唯野仁成自身も、ティターンに頼むと言われていて。ティターンを素材に、タイタン神族の誰かを作り出せないかと模索している。

 

元々ギリシャ神話において、ゼウスらオリンポス神族の前に世界を支配していたタイタン神族は十数柱しかいない。それを矮小化し貶めたのがティターンという悪魔だ。

 

だから、もとの力を取り戻させてやることになる。

 

タイタン神族といえば、最大の力を持っているのはやはりゼウスの父クロノスだろう。ゼウスに破れた後はギリシャ神話における地獄であるタルタロスに幽閉され、そこの王となった存在だ。

 

クロノスについては諸説あり、時間の神とするものや、大地の神や農耕神とするものもある。当時のギリシャ時代から混同が行われており、いずれにしても強大な神格であることは確かである。

 

他のタイタン神族は、海の神オケアノスや、太陽神ヒュペリオンなどが存在している。またゼウスの母レアーもタイタン神族に分類されることがあるようだ。

 

いずれにしても、ティターンをこれらの貶められる前の神格に戻してやりたいというのは、唯野仁成としても思う。

 

現時点でも壁役としてしぶく確実な活躍をしてくれている実直な存在だ。

 

是非とも、本来の力で活躍させてやりたい。

 

調べていると、ヒュペリオンが一番現実的に思える。太陽神という分かりやすい神格の上に、ヘリオスやアポロンと言った後の時代のギリシャ神話における太陽神の先輩格である。

 

実の所オリンポス神族とティターン神族には、実力の差は殆ど無い。

 

両者の戦いであるティタノマキアは長い間拮抗を続けた。それからも分かるように、実力伯仲であったのだ。

 

結局ティタノマキアを決定的にひっくり返したのは、タルタロスの門番として押し込められていた百手巨人ヘカトンケイレス達。彼ら三兄弟が、オリンポス神族の味方として参戦したことが、最大の要因となってゼウス達オリンポス神族の勝利につながっている。

 

逆に言えば、ヘカトンケイレスを抜きにすれば。例えばタイタン神族の太陽神ヒュペリオンはオリンポス神族の太陽神であるヘリオスやアポロンに負けない実力を持つと言う事だ。

 

合体を吟味する。ライドウ氏が医療室から出て来たので。ティターン本人の話も交えてアドバイスを受ける。

 

ライドウ氏は少し考え込んでいたが、太陽神系の神格を融合させることで、狙うことが出来るかもしれないと提案してきた。

 

あまり力が強くない太陽神系の神格は、実の所既に作成例がある。これらを使えば、或いは。

 

礼を言うと、出撃までの時間を使って、悪魔合体の試行錯誤を繰り返す。

 

数百パターンを試したが、あまり結果は芳しくない。一方で、ヒメネスはアバドンの作成に成功。

 

流石に地獄そのものと呼ばれる程の力はないようだが。それでも羨ましい話だ。

 

しばらく粘った後、膨大なマッカを消費するのと引き替えに。どうやらそれらしい組み合わせを発見。

 

ただし、かなりギリギリになる。

 

いずれにしても、タイタン神族が出来るのはほぼ確定だ。そして唯野仁成にも使いこなす事が出来る。

 

頷くと、数十の悪魔をつぎ込んだ合体を開始。

 

ティターンに、合体前に礼を言う。

 

「ありがとう。 本当に助かった」

 

「俺こそ感謝する。 さて、俺は貶められる前は一体誰であったのだろうな」

 

「すぐに分かる」

 

合体開始。動力炉とデモニカを接続して、電力を貰う。凄まじい電力が食われる中、合体が進められていく。

 

悪魔合体のプロセスは、説明を受けた今でもよく分からない部分はあるにはあるのだけれども。

 

ただはっきりしているのは、合体をすればするほど強い悪魔になっていくということだ。

 

そして悪魔合体の終着点には、ある悪魔が大きな存在感を示しているという。

 

たどり着けるかは全く別の話。

 

だがその悪魔は、中東にて誕生した後、世界中の神話に影響を及ぼしたという。

 

その悪魔、正確には神の名はバアル。

 

文字通り、原初の神にして。神の中の神である。後の時代の神々は、殆どが何かしらの形でバアルの影響を受けている。

 

それは、一神教の唯一神ですら例外ではないという。

 

あまりにも影響力が巨大すぎるため、一神教によって激しい排斥を受け続け、ついに信仰そのものが消滅してしまったバアル。だが、悪魔として貶める事でしか、一神教もバアルを葬ることが出来なかった。

 

そしてバアル由来の悪魔は、ベルゼバブやブエルといった、一神教でも最重要の重鎮格である悪魔ばかり。

 

一神教ですら、バアルを「消し去る」事は出来なかった。それほどの存在なのである。

 

やがて、デモニカを覆っていたスパークが消える。

 

そして、PCの中から、声がしていた。

 

「我が名はイアペトス。 貫く者の名を持つタイタンの一柱である……」

 

「!」

 

ヒュペリオンを作ったつもりであったが、違ったか。すぐに調べる。

 

イアペトスは、オリンポス神族でいうヘーパイストスのような鍛冶の神であり。中華神話におけるシユウのような武器を発明した神であるという。

 

召喚は出来ないが、姿を見せてもらうと。鎧姿で、巨大な槍を手にした重厚な武人である。

 

なるほど、これ以上もないほどの重厚な武人だ。なお、種族は魔神とある。

 

中庸属性の重鎮というわけである。これなら、唯野仁成にも使いやすい。

 

ヒメネスが様子を見に来た。イアペトスのスペックを見て、羨ましそうに声を上げる。

 

「また強そうなの作ったなヒトナリ。 アバドンと良い勝負が出来るんじゃ無いか此奴」

 

「タイタン神族の中でも、武器を発明し貫く者の名を持つ武人だ。 確かにアバドンに名前負けしていないな」

 

「あのティターンのオッサンが元なのか」

 

「ああ。 ……願いを叶えてやることが出来ただろうか」

 

貶められる前の姿には出来た筈だ。だが、寡黙な戦士だったティターンとちがって、イアペトスはどちらかといえば淡々と敵を屠る武器の権化に思える。

 

いずれにしても、余暇は使い切った。

 

これからは、過酷すぎる環境で、大母を狩りに行かなければならない。




ヒメネスは基本的に魔王系統の仲魔を中心に作っています。

これに対して唯野仁成はバランス型でしたが、途中からは嘆きの胎の囚人悪魔と、アリスを中心とした布陣にしていくことになります。
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