アレックスが伏せていることは唯野仁成には分かっていた。更に、デメテルが収監されていたらしい場所に、相当数の凶悪な看守がいる事も。
だから、唯野仁成は、突入を悩むサクナヒメとストーム1に挙手し。
方舟の守りを担当するライドウ氏以外の全戦力を集結させるべきだと言った。
更に、そろそろアレックスとは話をつけておかなければならないとも思った。場合によっては殺す事も視野に入れなければならない。
唯野仁成は軍人だ。どうしてもわかり合えない相手は殺す事を割り切れる。
実力に差がなく捕獲が難しい場合もそれは同じ。
しかし、今なら。
アレックスを恐らく引っ張り出すことが出来る。戦うにしても、恐らく取り押さえる機会がある。
故に戦力を集結させるべくケンシロウを呼び出して。更にはアレックスを引きずり出すために、唯野仁成だけが残る事を提案したのである。
サクナヒメも、これ以上の不毛な奇襲を受けるのはうんざりしていたのだろう。提案に乗った。
そしてケンシロウに来て貰い。更に一人きりになって、アレックスを待った。
現在、激しく刃を交えているアレックスは、残念ながら話を聞いてはくれなかったが。それはそれだ。
ともかく、分かった事がある。
アリスが魔術をぶっ放すと。パラスアテナが光の壁を展開し、前に出る。これがアリスが魔法を放つのを躊躇した原因か。だが、槍の石突きでパラスアテナをイアペトスが吹っ飛ばす。
魔法は空を切ったが、跳ね返されるよりマシだ。
パラスアテナとイアペトスが向かい合う。オリンポス神族とタイタン神族で因縁のカードである。その上実力は文字通り伯仲。双方はにらみ合いの末、激しい激突を始めた。どうも打撃はパラスアテナに効果が殆ど無いようだが、イアペトスは魔術が籠もった槍でパラスアテナに攻撃を通しているようだ。
インドラは次々に矢を引き絞るが、残像を作ってそれをかわしながら、インファイトを挑むイシュタル。
ダゴンは水の魔術を使って、アナーヒターと互角のぶつかり合い。そうなると、問題は残り一体だ。
降りてくるアリス。肩に手を当てて回している。
もう一体は、派手な色をした、恐らく東南アジア系の悪魔だ。女性悪魔のようだが、原色の刺青をしている。蠱惑的と言うよりも、それが恐ろしいまでに原始的な印象を受ける。
「鬼女ランダかー。 打撃を一切合切無効化する上に、色々面倒な魔術使うんだよねー」
「任せられるか」
「合点」
アリスが、ランダと呼ばれた悪魔に向けてすっ飛んでいく。ランダは爪を伸ばしてインファイトに備えたが。アリスは至近で上昇すると、上空から火焔の魔術を叩き込む。
物理攻撃に無敵でも、魔術に対してまでは無敵ではないのだろう。しかもアリスが面倒な魔術を使うと言っていた。と言う事は、纏わり付いて離れない方が良いと言う事でもあるのだろう。
アレックスの剣撃を捌きながら、周囲を確認。
恐らくだが、まだいる。シャイターンである。
現在、スペシャル三人とクルー二十人弱が、デメテルの代わりに実りを守っている看守悪魔の精鋭五体と戦闘中だが。そっちはもう任せるしか無い。問題は相当に強いと既に太鼓判を押されているシャイターンだ。奴は遊び半分で、名前も知られているギリシャ神話の魔犬ケルベロスを体当たりで吹っ飛ばしてみせる程の力がある。イスラム教における高位悪魔だというから、まあ無理もないだろう。
シャイターンの介入が入る前に決める。
アレックスが飛び下がると、拳銃を何発か撃ってくるが、弾丸を全て空中で切り飛ばす。当然こんな芸当昔は出来なかったが、こちとら伊達に空間の支配者悪魔との戦闘で揉まれていない。更には他のクルーの経験も並列化して蓄えている。
本来だったら人間には無理な芸当だが、今はスペシャル達がやってのけた絶技もデモニカが経験として蓄積してくれている。唯野仁成にも真似が出来る。
壮絶な表情を浮かべたアレックスが、グレネードに手を掛けるが、瞬歩で間合いを詰める。
以前とは逆の状況。
グレネードをけり跳ばす。アレックスは残像を残しながら下がるが、下がった分だけ間を詰めて、上段から斬り込む。激しい剣撃で、更に押し込んでいく。
もう、力量は見きった。
首を刎ねに来た一撃を、下段から跳ね上げて、更に体当たりを入れる。
吹っ飛んだアレックスを横目に、後ろからインドラをライサンダー2で狙撃。モロに直撃が入ったインドラは、イシュタルに首をへし折られて無念の声を上げながら消滅していく。
これで前線の戦闘力の拮抗が崩れる。
壁に叩き付けられながらも、上空に跳び上がって、即座に光の剣で斬り付けてくるアレックス。旺盛な戦意だが、残念ながら見切らせて貰った。三合切り結んだ後、強めの一撃を上段から叩き込む。
此方はあのサクナヒメの剣撃を見て鍛えても貰っている。更にライドウ氏が振るう剣も見ているのだ。
アレックスの剣は確かに絶技だ。
だが、ケンシロウが言う所の我流。ケンシロウに以前話を聞いたのだが、どんな天才であろうとも、数千年と錬磨された武術や剣術に、一世代で追いつくのは不可能だという。ケンシロウ自身が異次元に強いのは確かだが、その強さを引きだしているのは神秘的なまでに磨き抜かれた北斗神拳なのだ。
今、唯野仁成が振るっているのは。文字通り武神が磨き抜いた剣と、歴戦の悪魔払いが鍛え抜いた剣。それに、クルー全員の剣の経験。更にデモニカで補助を受けた戦闘能力。
アレックスもデモニカで経験を蓄積してきているだろう。
だが彼女は孤独だ。年齢的にも、どうみても二十代にまだ到達していない。
どんな天才でも、ここまで状況が整ってしまうと、もはやどうしようもない。
上段からの一撃に、アレックスが下がる。更に逆袈裟から追撃。更にアレックスが下がる。その背中が壁につく。
一瞬、動きが止まる。
それだけで、充分だ。
既に前線の均衡は崩れている。アレックスの使役悪魔は全滅。一斉に飛んできた魔法が、アレックスを直撃。
耐えるための準備をする余裕も無かった。
手を上げて、攻撃を控えさせる。さっき、わざわざインドラを背後から撃ち抜いたのは、この状況を作る為だ。
煙を上げながら、片膝をつくアレックス。呼吸を整えて、必死に立とうとするが、出来ずにいる。
一番厄介だったシャイターンの介入を防ぐために、一気に形勢を傾ける必要があった。すぐに周囲に仲魔が展開する。
アレックスが、凄まじい形相で見上げてくる。
「殺しなさい! 貴方がいつもやっているように! みんなにそうしてきたように!」
「俺は確かに兵士で、戦場で人を殺した事は何度もある。 だが、君の言い分を聞く限り、俺が非戦闘員に手を掛けたような口ぶりだな」
「違うとでも言うの!」
「俺が所属する国際再建機構では、ダーティーワークもするが、その相手は反社勢力の構成員だったり、国際司法をかいくぐっている悪徳企業の幹部だったり、独裁政権の汚職官吏だったり、いずれも「市民」ではない。 俺が知る限り、もっとも所属することを誇れる国際武装勢力だ」
アレックスが、ぎりぎりと歯を噛む。
シャイターンは介入してこない。というよりも、悪魔と言う存在の性質上出来ないのだろう。
混沌勢力の悪魔は、基本的に自分を優先する。あれはアレックスに友好的なようだったが、それでも自分に優先するほどではないということだ。
「アレックス、私に少し話をさせてほしい」
「ジョージ!」
「バディ、良いから任せろ。 看守悪魔の内既にラーヴァナとフォルネウスが倒され、アガレスももう瀕死だ。 このままだと更に大きな戦力に囲まれる。 唯野仁成。 貴方は国際再建機構という勢力に所属しているのか。 シュバルツバースの対策に作られた国際合同機関ではなく?」
「ああ、そうだ。 国際再建機構のテクノロジーで、元から米軍が開発していた次世代揚陸艦に手を加え、方舟……レインボウノアを作り。 其所に周到に準備を重ねて用意した人材と共に乗り込んで来た」
AIであるらしいジョージが考え込む。
そして、更に質問をぶつけてきた。
「唯野仁成。 貴方は確か自衛隊の出身だったな。 その国際再建機構という組織にいつから所属している」
「もう数年になる」
「……妹がいるな。 何をしている」
「俺を追って国際再建機構に入り、科学者として活躍している。 本来なら一緒にシュバルツバースに来る予定だったが、既に結婚していてな。 妊娠が発覚して、方舟への搭乗を見合わせた」
ジョージがまた考え込む。
何だこの質問は。唯野仁成を執拗に狙って来ると思ったが、妹にも関係があると言うのか。
妹を狙うというのならただではおかないと一瞬思ったが。いや、それならヒメネスやゼレーニンを狙う理由もよく分からない。どういうことだ。
「アレックス。 やはりこの唯野仁成は我々が知る唯野仁成とは、大きく違う人生を歩んでいる様子だ。 人間の性格は環境によって大きく異なる。 我々が見て来た唯野仁成とは、全く異なるパーソナリティを持つと考えて良い」
「信じられない!」
「ではこうしよう。 唯野仁成、以降我々は貴方だけを狙い、他のクルー……ヒメネスやゼレーニンへの攻撃を控える。 この条件で、撤退を見逃して貰えないか」
「残念だが、君を方舟のクルーは危険視している。 俺はまだ小隊長程度の権限しか無いから、判断の権限は無い。 だが、君はテロリストではないから捕虜として国際条約に基づいて扱う。 手荒なことはしない。 一度話を聞かせて貰えないだろうか」
唯野仁成としては、勝手に此処でアレックスを見逃すことは出来ない。そもそも、危険な看守悪魔五体を相手に、皆が必死の戦闘をしているのだ。其所で撒き餌になって唯野仁成はアレックスを捕まえる作戦を提案した。この作戦は失敗できない。
撃退については既に成功しているとも言える。周囲にいる悪魔達は、シャイターンによる介入も、アレックスの決死の反撃も許しはしない。
「貴方が現時点で小隊長程度の権限しかないだと……!?」
「周りがあまりにも桁外れだからな。 サクナヒメやケンシロウの凄まじさは君も良く知っているだろう」
「アレックス。 一端退くぞ」
「……分かったわ!」
逃がすか。そう思ったが、アレックスはいきなり別の場所に転移する。これは、ひょっとしてデモニカの機能か。そういえば一部の悪魔が使う魔術に空間転移があると聞いているが、それを限定的に出来るのか。
完全に背後を見せて逃げるアレックスと唯野仁成の間に、シャイターンが割り込む。アリスが舌なめずりして前に出るが、手を横に。
どうもまだ看守悪魔との戦闘が続いている。いずれにしても、手持ち全てを失った状態のアレックスは、当面動けない。アモンが出てこなかった時点で、マッカ不足になっているのは確定だ。その状態で、手持ちの全滅からすぐには立て直せない。更に今有益な情報を多数聞き出すことが出来た。無理に追撃して、窮鼠に噛まれることは避けたい。
「おっと、簡単にはやられないぜ?」
「そのようだな。 一つだけ忠告をしておくぞ」
「なんだよ」
「シャイターン、年頃の女子相手には言葉を選べ。 俺も随分あの年頃の妹を相手にする時には苦労した。 多分つがいになれとか子供を産めとかいうような言葉は、相手を怒らせるだけだぞ」
きょとんとするシャイターン。
困惑した様子で、自分を指さすので頷いた。ため息をつく。
「何だ、強い相手から子供を産めと言われたら、喜んで従うのかと思ったんだが……」
「それは野獣の理屈だ」
「分かった、俺様もあいつに嫌われたくは無いからな。 ちょっとアプローチを考え直してみるわ」
もう距離が開いたからだろう。シャイターンは時間稼ぎは充分と判断して、消えていった。
唯野仁成は仲魔の状態を確認。一番ダメージを受けていたのはイアペトスだが、既に回復魔術で応急処置は済んでいる。
さて、此処からだ。まだ看守悪魔の始末が残っている。早足から、走るのに切り替え。一気に最大速度まで上げる。
看守悪魔が伏せていた空間では、現在残ったワニに乗った老人を、サクナヒメが滅茶苦茶に斬り付けて追い込んでいるところだった。もう一体、古代ローマ風の鎧を着た剣士を。ストーム1が追い込んでいて。更に多腕多頭の巨神を、ケンシロウが圧倒していた。
他のクルー達が繰り出す悪魔の支援もある。元々有利だったのが、もう追い込んでいる状態と言うことだろう。
唯野仁成が、悪魔達に加勢するように指示。多分ローマ風の鎧を着た剣士が一番傷が浅い。見ると破壊神アレスとある。名前は聞いたことがある。オリンポス十二神の一角で、もっともギリシャ神話で貧乏くじを引かされている気の毒な神だ。
ストーム1に並ぶと、息を合わせてライサンダー2の弾丸を叩き込む。既に鎧はボロボロ。接近しようにも、ストーム1の従えているクーフーリンとジャンヌダルクがさせない。唸り声を上げて悔しそうにする剣士の兜の間からは、口ひげ豊富な口元が、血に塗れている様子が窺えた。
ストーム1が、狙撃しながら聞いてくる。
「アレックスは」
「惜しい所で逃がしましたが、重要な情報を多数入手しました。 更には、相手の手札は全て潰しました。 再起は簡単にはできないと思います」
「よし。 80点と言う所だ。 一気に勝負を付けるぞ」
ストーム1が、ライサンダーFを背負うと、地面においていた何か凄そうな銃を手に取る。
頷くと、唯野仁成は突貫。剣を抜くと、前線で戦っているクーフーリンとジャンヌダルクに加勢。
ガチガチに魔術で防御を固めているらしいアレスだが、ストーム1による激しい攻撃と、更に周囲のクルーが繰り出した悪魔達の魔術によって強力だと思われる鎧も損壊が目立った。
上空に躍り出ると。上段から一撃を叩き込む。
アレックスとやり合っても、まだこれくらいの余力がある。アレックスを追い抜いた後は、残忍なほどこのデモニカによる経験蓄積と能力強化がものをいうようになった。唯野仁成は、もうアレックスには負けない。
剣の一撃が、アレスの兜を削り取り。更に肩から腹に掛けて切り裂いた。
アレスが大きな剣を振るって薙ぎ払ってくるが、ジャンヌダルクと共に切り上げて防ぎ抜く。
火花が散る中、大きく体勢を崩したアレスに、周囲から悪魔が一斉に魔術を叩き込む。蹈鞴を踏んで下がったアレス。散開。その声が届いたので、飛び退く。アレスが呆然としている中、ストーム1が新しい銃をぶっ放していた。
それはとんでもない光を放ち、一瞬にしてアレスを焼き切っていた。アレスがいた後ろの壁を貫通し、四層を端まで突き抜いていた。
ストーム1が、一瞬でエネルギー切れを起こしてしまったらしいその秘密兵器を放り捨てる。
「フュージョンブラスターの最初のエジキとなった事を光栄に思うんだな。 ……話に聞いてはいたが、一発で戦場では再装填出来なくなるのは贅沢な兵器だ。 火力は申し分ない」
今のとんでもない超火力、フュージョンブラスターというのか。ほしいが、流石にストーム1戦用の武器だろう。回して貰うには、まだまだ当面真田さんによる開発と強化が必須になる。
それにはストーム1による実戦使用も含まれると見て良い。
サクナヒメが気合いと共に、ワニに乗っていた老人の頭をかち割る。老人は、嘆きながらぼやく。
「だから、わしは魔術専門だと言ったのに! こんな仕事は……」
情けない泣き言を言いながら消えていく老人の悪魔。どうやら堕天使アガレスというらしい。
サクナヒメが剣を振るって見やる。というか、全員の視線が集中する先で。
多腕に多数の武器を握っていた悪魔。調べると、魔王インドラジットという存在と、ケンシロウの苛烈な戦いも勝負がついていた。
ケンシロウの一撃が、背丈十五メートルはあるインドラジットの何カ所かを貫いていたのである。
激しく吐血しながら、下がるインドラジット。全身が膨れあがり、爆発していく。
「ぐ、ぐわ、あぐぶあば!」
「腕が多い割りには、遅い攻撃だったな」
「ば、馬鹿な! インドラを倒した者という称号を得た最強のラクシャーサであるこの余が……! 如何に拳を練り上げきった者とは言え、人間を相手に……! 父上もろとも敗れるとは……! がぶべごっ!」
複数ある頭が順番に爆発して行き。やがて、マッカに代わっていくインドラジット。
ケンシロウは、技名を呟いていた。
「北斗八悶九断」
最後に爆裂して、四散するインドラジット。伏せていた看守悪魔は全滅。ゼレーニンが駆けていき、「実り」を回収していた。
すぐに点呼が行われ、負傷者の手当が開始される。サクナヒメが剣に手を掛けたままである理由だろう者が、すぐに降り立ったが。
「これだけの数の強豪看守悪魔を倒すとは。 唯野仁成以外も、本当に凄まじい英雄ばかりですのね」
「女神デメテル。 見ていたのか」
「ええ。 唯野仁成も、あの赤黒を文字通りもはや歯牙にも掛けぬ戦いぶり。 文字通りハーヴェスト!」
何を収穫するつもりなのやら。
幼女の姿をした女神は無邪気に笑みを浮かべているが、唯野仁成は喜ぶ事は出来なかった。
むしろアレックスが心配である。デメテルも、アレックスがほぼベストのコンディションで唯野仁成に一騎打ちを挑んで、完全に敗走に追い込まれたのは見ていたのだろうから。
「今度こそ実りは回収しましたわね?」
「ああ、ゼレーニンや真田さんが研究するために」
「まあいいですわ。 そのまま、実りの回収を続けてくださいまし。 あの実りは集めてこそ意味があるものなのですわ」
デメテルが消える。サクナヒメが近くに歩いて来る。既に手は剣にかけていなかった。
かなり傷が多い。恐らくだが、先手を打って突貫し、敵を真っ先に無理にでも倒したのだろう。
その代わりに集中攻撃を受けたという所か。もっとも、ケンシロウも話を聞いている限り二体の看守悪魔を倒したようだから、サクナヒメだけに負担が大きかったわけでは無いが。
「唯野仁成よ。 確かアレスとやらはあのデメテルと同輩の悪魔の筈であったな」
「ええ。 同じオリンポス十二神の筈です。 ただアレスは、いわゆる鼻つまみ者ではありますが」
「分かりやすい奴よ。 同輩が倒されたというのに、眉一つ動かさなかったわ。 あの様子では、目的のためには家族でも手に掛けるだろうな」
反吐が出ると、サクナヒメは吐き捨てると。先に戻ると言って、負傷が激しいクルーを連れて引き揚げて行った。なお、試作品らしいフュージョンブラスターという武器も一緒に持ち帰っていった。
ケンシロウも物資をまとめたゼレーニンを護衛しながらそれに続く。唯野仁成は、比較的無事だったクルーをまとめると、ゴア隊長に報告。
ゴア隊長は、少し残念そうに、分かったと言った。
「相手の心は揺れているようだな。 ジョージというAIの言動を聞く限り、恐らくだが和解の道もある」
「はい。 少なくともジョージというAIはアレックスのことを思いやっていますし、此方を冷静に見極めようとしているのは分かりました。 嘘をついている可能性についても考慮しましたが、恐らくはないと思います」
「此方アーサー。 会話のログを確認しましたが、アレックスと口裏を合わせて嘘をついている可能性は0です。 ジョージというAIは、此方との和解を望んでいると判断して良いでしょう」
「だそうだ。 これから残った四層の未到達地域を探索し、それから戻ってほしい」
イエッサと敬礼を返すと、ストーム1と共に周囲の確認を行う。
そうこうしている内に、ケンシロウが調査班を連れて戻ってくる。そして、先に倒した看守悪魔の残骸やマッカ、貴重な物資などを回収していった。唯野仁成はそれを見ているだけでいい。
役割分担が出来ているからだ。
それにしても、もう何というか、確定で分かったが。
アレックスという人物は、恐らく別の世界から来ている。そして、別の唯野仁成と会っているのだろう。
外道とまで罵倒された自分は、どんな存在だったのか。
そしてアレックスは、一体どんな未来を阻止しようとしているのか。
アレックスの世界では、唯野仁成は誰を殺したのか。
以前ライドウ氏に、唯野仁成とアレックスは似ているという話をされた事がある。目の辺りが似ている、と言う事だった。
そういえば、アレックスというのは「アレクサンドロス」の欧州系の呼び方で、色々な国でその名前を持つ人がいるらしい。
更にジョージが聞いてきた、妹の事。
まさか、あの子は。
いや、だとすると時間遡航までして来ていることになる。
ストーム1に、通信を入れられた。
「任務中だ。 会話のログは後でアーサーが精査してくれる。 集中を切らせるな」
「イエッサ」
「お前らしくも無いな。 あれほどの殺意を向けてきた相手との決着を事実上つけたのだから、仕方が無いとも言えるが」
新人の兵士のようなミスをして、情けない。
勿論ストーム1は、他の兵士に聞こえないように、オンリーで通信を入れて来た。そういう優しさはある人だ。
気合いを入れ直すと、遭遇した看守悪魔を、ストーム1と一緒に息を合わせて瞬殺する。
探索を終えると、戻る。四層はこれで大丈夫だろう。
ただ、五層を探索する余裕はまだない。
更に言えば、時間は充分に有効活用出来た。次は万全な状態で、フォルナクスで大母を気取る愚か者を退治する時間だった。
ついに唯野仁成とアレックスの力の差が逆転しました。
そしてアレックスも、大きな決断を強いられる事になります。
原作ではこの先にはどう転んでも悲劇しかありません。
しかし。
本作では、はたしてどうでしょうか。