Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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墜落に耐え、苛烈な緒戦を凌ぎきった方舟クルー。

しかしながら、無傷とはいきませんでした。

誘拐されたクルーの救出のために武神サクナヒメが動きます。


※現時点でのサクナヒメのレベルは女神転生世界基準で51です。

本来は更にずっと高いのですが、此処では信仰を得ていないこと、世界に馴染んでいないこと、お米をあんまり食べていない事が要因ですね。


2、異界の者達

唯野仁成は苛烈な戦闘を終え、一息ついた。不時着後、不意に姿を見せた悪魔には流石に肝を冷やしたが。それでもヒメネスと連携して戦闘し、目の前に現れた悪魔の殲滅には成功した。ただ、ドロドロに体が溶けた見るからに弱そうな奴だったので、運が良かっただけかも知れない。

 

既にデモニカスーツの通信機能は復旧しており、倒した悪魔が「外道」という分類に属する「スライム」という種族であったことが分かっている。説明によると悪魔はマグネタイトなるものを吸収して形を為すらしいのだが、それに失敗したものらしい。要するに、本来はもっと別の姿があったのだろう。

 

何だか哀れだなと思いながら、通信に従ってヒメネスと共に物資搬入口に急ぐ。情報共有は行われている。他にも十数種類の悪魔が攻めこんできたようで、それらの一覧も表示されていたが。

 

外道スライムは、その中でも一番弱い悪魔だったようなのだから。

 

唯野仁成は運が良かったのだ。

 

物資搬入口に到着。

 

其所には、無傷のサクナヒメとケンシロウが仁王立ちし。ゴアがアサルトライフルを持って待っていた。

 

サクナヒメは武功を誇る様子も無い。ケンシロウもしかり。

 

ただ、開いたままの物資搬入口と。

 

負傷して、運ばれて行く数名の戦士が確認できた。デモニカスーツの破損部分には、ポリマーのスプレーで応急処置が行われている。

 

何しろ極限環境だ。

 

そうしないと、中の人間がもたないのである。

 

ゴア隊長が声を張り上げる。

 

「皆、初戦闘を乗り切ってくれてありがとう。 皆の活躍あって、負傷者はかなり多く出したものの、戦死者は一人も出すことが無かった。 誰も欠けてはこの困難な調査は成し遂げられない。 故にこれは戦術的勝利と言える」

 

「ごもっとも。 ……敢えて負傷させたのかも知れないけれどな」

 

ヒメネスが小声で呟いていた。

 

テロリストなどが使う手口であり、或いは地雷などの兵器における思想なのだが。

 

相手を殺すよりも、負傷させる方が総合的に大きな負担を掛けることが出来る、という非人道的なものがある。

 

敵悪魔は、それこそ大量の人員を投入してきたので、流石にそもそもこの方舟を制圧するつもりだったように唯野仁成には思えるが。

 

しかしながら、此方には優秀な医療班と、真田さんこと真田技術長官がいる。

 

手足を失ったとしても、本物と性能が遜色ない義手義足を用意してくれるだろうし。

 

敵のもくろみは成功したとは言えないはずだ。

 

「そもそもどうやってこの方舟に敵が侵入してきたのかは謎が残るが、現時点ではプラズマバリアによる防御があるから大丈夫だ。 悪魔はよほど高位のものでもない限り、この障壁を突破出来ない事は突入前に既に実証されている。 だが、問題が発生している」

 

咳払いすると、ゴア隊長は続けた。

 

四人、敵が拉致したと。

 

拉致されたのはいずれも非戦闘員であり、支援要因として重要なクルーばかりである。そして、もう一度ゴア隊長は強調した。

 

「この過酷なシュバルツバースの困難な旅を完遂するために集められた人員は、いずれもがスペシャリスト達である! 誰一人欠けることはあってはならない。 故にこれより救出ミッションを開始する」

 

「二次遭難になりそうだな……」

 

「おい貴様!」

 

ヒメネスに、倉庫班のチーフが食ってかかるが、ヒメネスは無視。

 

唯野仁成が見た所、ヒメネスは自分が認めた相手以外とは口もロクにきかない傾向がある。

 

そしてそれが許されるだけの実績を出しているので、文句を周囲は言いづらいようで。上役ですら、持て余しているようだ。

 

ストーム1が認めている、というのも大きいだろう。

 

ただ、ストーム1に苦情が行っているらしいという噂も唯野仁成は聞いている。

 

国際再建機構の精鋭が集うこの方舟も。

 

残念ながら、一枚岩では無いと言う事だ。

 

ヒメネスが挙手。

 

「どうやってこの搬入口を介さずに悪魔が四名を拉致したのか、どうやって探すのかなどの問題は」

 

「前者については、これから真田技術長官が調査する」

 

「……それなら安心ですねえ」

 

「ああ」

 

ヒメネスも、それしか言えないのだろう。

 

それに真田技術長官は殆ど伝説的な人物である。国際再建機構の標準装備が世界的に見ても一世代以上上なのは周知の事実だが、それらの殆ど全てを設計改良したのがあの人なのである。

 

「ただ、ゴア隊長が直接探索に出るのは賛成しかねますが」

 

「小官もそれは同意です」

 

ヒメネスの言葉に、唯野仁成も同意していた。

 

此処でゴアまで二次遭難したら、この方舟が受けるダメージは計り知れない。

 

更にはまだアーサーが再起動していない。

 

プラズマバリアを再展開出来たとはいえ。

 

この船の強みは、スペシャリストである人間と、最高の性能を持つAIが連携してなり立っている。

 

その片方にて。

 

将官として大きな実績を残している優秀な指揮官、ゴアを失う事はあってはならない。

 

正太郎長官がまだいるとはいえ、敢えて今回は船の操縦に全力を注ぎたいとあの人は言ったという話である。

 

代わりはいないのだ。

 

「分かっている。 そこで精鋭クルーを選抜して、探索に当たる。 姫様」

 

「うむ」

 

サクナヒメが、鎌を振るって悪魔の残骸らしいのを落とす。

 

周囲からひそひそと声が聞こえてくる。

 

「あいつだけでこの搬入口に殺到した数百はいた悪魔の四割くらいを倒したらしいぜ……」

 

「「あの」ケンシロウよりもキルカウントが多かったらしいな」

 

「武神というのは本当かもしれん」

 

サクナヒメは周囲を見回すと、指さす。

 

ヒメネス、唯野仁成。それに後三名の手練れが指さされた。

 

「そなたら、同行せい。 ヒメネス、それに唯野仁成であったな。 そなたら二人は戦闘班だ。 残りは救助した者達の護衛要員」

 

「彼女は既に知っているとおり、外での活動をデモニカ無しで問題なくこなせる。 戦闘経験も素晴らしい。 従ってほしい」

 

「イエッサ!」

 

ヒメネスは若干不満そうだったが、唯野仁成は敬礼して指示に従う。

 

このままゴアは搬入口に残り、周辺の制圧作業を進める様子だ。プラズマバリアの内側にまだ何かいるかも知れない。

 

まだこの方舟は、万全の状態ではないのである。

 

サクナヒメが搬入口から出る。その後ろに、合計五名の戦士が続いた。

 

今後戦闘担当のクルーは機動班という分類にされるそうだが。

 

多分この五名は、その機動班に全員配属されるだろう。

 

勿論。生きて帰れれば、の話だが。

 

サクナヒメは殆ど迷う事無く進んでいる。

 

周囲は氷の洞窟のような地形で、方舟が落ちてきたらしい天井の方は、闇が渦巻いていて先が見えない。

 

デモニカスーツのバイザーには、氷点下90℃と表示されていて、有毒物質もあるようだが。

 

サクナヒメは口から白い息も漏らしていなかった。

 

「なあサクナヒメさんよ」

 

「姫様とよべい。 前に言ったであろう」

 

「OK姫様。 宛てはあるのか」

 

「ある。 敵はある程度組織的に動いていて、その一部がどうにかして船に潜り込んだ」

 

その通りだ。

 

敵の組織行動については、相手が知的生命体だと聞かされていた時点で、唯野仁成も予測はしていた。

 

それに、そもそもヒメネスと背中をあわせて最初の襲撃を撃退した時に。

 

敵が明らかに死角からの攻撃を狙う奴と、正面から気を引く奴に分担しているのが分かった。

 

敵は訓練されていると見て良い。

 

ただ、練度そのものは高いとは言えなかったが。

 

「敵の痕跡が残っておる。 此方だ」

 

「足跡の類は見当たらないが……」

 

「そのでもにかという服はあらゆる状況に対応して強くなると聞いている。 いずれ分かるようになる」

 

「了解了解」

 

ヒメネスのやる気のなさに、周囲は明らかに眉をひそめたが。

 

唯野仁成は無言でハンドサインを送り、周囲への警戒を促す。

 

嫌な予感がぴりぴりする。

 

不意に、物陰から人が飛び出し、サクナヒメ以外の全員が一斉にアサルトライフルの銃口を向けるが。

 

ヒメネスと唯野仁成が殆ど同時に、銃口を降ろし。

 

他のクルーもわずかに遅れてそれに習った。

 

「た、たた、助かった! 危なく奴らのスペシャルディナーにされる所だった!」

 

デモニカスーツをぎこちなく着ている太めの男だ。

 

ID照合によると、ムッチーノという人物であるらしい。

 

支援班の一人であり、太ってはいるが気さくな人物である。経歴を軽く見るが、どうやら通信班であるらしい。

 

「他のクルーは」

 

「分からないが、悲鳴を上げながら引きずられていく女性のクルーを見た! 助けてやってほしい!」

 

「オマエなんかより、其奴の方が食われてそうだな」

 

「……一人ついて船に戻れ。 後方に敵の気配はない」

 

サクナヒメが顎をしゃくる。

 

頷くと、ついて来た戦士が一人。ムッチーノに肩を貸して、戻っていった。

 

そのまま、サクナヒメは地面に手を突き目をつぶる。

 

そして、顔を上げた。

 

「此方だ。 ……待ち伏せがいる。 戦闘態勢を取っておけ」

 

無言でヒメネスが銃を構え直す。

 

サクナヒメの能力は、今ので信頼したと言う事だろう。

 

他のクルーも銃を構えながら進む。

 

それほど入り組んでいる洞窟ではなく、かなり広い。また、足跡が大量に残っているのが見えた。

 

これらは恐らく、搬入口に攻めこんできた悪魔達の第一陣本隊のものだろう。サクナヒメは目もくれなかった。

 

「凍っているのに、つららの類は見えないな……」

 

「水が一度も溶けたことが無いんだろう」

 

「ああ、なるほどな」

 

「来るぞ」

 

サクナヒメが警戒を促すと同時に、ヒメネスと唯野仁成は反応、周囲に提供されているAS20アサルトライフルの弾丸で掃射した。

 

数体の悪魔が、飛びかかってきたところを薙ぎ払われる。

 

遅れて他のクルーも参戦し、不意を逆に突かれた悪魔達を、まとめて薙ぎ払っていた。

 

手を上げて、銃撃をやめさせるサクナヒメ。

 

「まだ残りがいるようだが」

 

「戦意が無い相手だし放っておけ。 それにその銃とやら、すとーむわんの話によると鉛玉を使うのであろう。 わしの世界にも似たような武器である大筒があったから知っておる。 無駄遣いは控えよ」

 

「……OK姫様。 だが気が変わって襲ってくるかも知れないぜ」

 

「その時は叩き潰せば良い。 その程度の相手だ。 今は進むぞ」

 

見ると、小型の人型。デモニカスーツのデータでは「妖精」という分類に属する「ピクシー」が数匹固まって、ぶるぶる震えていた。

 

確かに巻き込まれただけ、という感触だ。

 

一瞥だけすると、奥に進む。

 

途中で、また人影が飛び出してきた。壮年のやせ形の男性クルーだ。

 

銃を向ける皆の中で。ヒメネスだけが銃を向けなかった。

 

「た、助かった! はあ、はあっ……」

 

「ID照合。 アーヴィンだな」

 

「ああ、そうだ。 ラボの開発班ぜよ」

 

「一人ついて船に連れて戻れ。 後方に敵はおらん」

 

サクナヒメは、ずっと前を向いている。戦闘を一度もしていないが、彼女が出るまでもないと言う事なのだろう。

 

そういえばこの口調、聞いた事がある。

 

ラボにかなり陽気なベテラン開発者がいると聞いていたが。

 

多分この人物だろう。

 

「悪魔ども、かなり乱暴に引きずっていきよってなあ。 可哀想に、女性クルーの確かメイビーだったと思うが、丁度ラボに来ていた所をさらわれて、怯えきって泣き叫んでいたんじゃ。 はよう助けてやってくれ」

 

「この様子だと、「人質がいればいい」という印象じゃな」

 

「……」

 

サクナヒメがぼそりと呟く。

 

最大限に嫌な予感がしたが。それはヒメネスも同じようだった。

 

そのまま、一人がアーヴィンを連れて戻る。

 

途中、大きな岩があったが。

 

サクナヒメが無言で一刀両断。武器は鎌とか槌とか、色々好き勝手に変えられるらしい。斬るときは剣にするようだ。

 

凄いなと思ったが、流石に他のクルーは反応しきれていない。

 

唯一ヒメネスだけが、ひゅうと口笛を吹いていた。

 

物陰から飛び出してきたのは、また一人さらわれたクルーである。

 

マクリアリーとIDにはある。

 

気弱そうな人物で、戦闘とは全く無縁に見えた。

 

良くこの過酷な任務に選抜されたものだと、唯野仁成は思ったが。サクナヒメはただ静かに言うだけだ。

 

「一人ついて船に戻れ」

 

「ま、まだ一人さらわれたクルーがいる! その子が本命のようで! 悲鳴を上げていて、とても見ていられなかった! ざ、残虐すぎる! まさに彼奴らは悪魔だ!」

 

「ああ、そりゃあ怖かっただろうよ」

 

冷酷なヒメネスの言葉に眉をひそめた様子だったが。

 

サクナヒメに促されて、ついてきた一人が一緒に戻る。

 

これで、サクナヒメとヒメネス、唯野仁成だけになった。

 

「なあ姫様よ。 悪魔の大好物って言えば、昔から女子供と決まってる。 「あらゆる意味」でな。 今からとんでもねえもの見るかも知れねえぜ」

 

「心配は無用よ。 人の世界の醜悪な業ならわしも見飽きておるわ」

 

「そうか、それは武神なら当然か」

 

「……二人を残したのは、手練れだからよ。 それに今後お前達には経験を積ませてほしいとも言われておる。 これから桁外れの荒事になる。 身は自分で守れ」

 

やはりそういう事か。

 

嫌な予感が確信に変わったが。唯野仁成は、それを口にはしなかった。

 

ほどなくして、広い空間に出る。

 

案の定と言うべきか。地面に這いつくばされて、震え上がっている小さな人影。

 

あれが話にあった女性クルーだろう。

 

その上に浮いているのは、明らかに手強いと思える悪魔だった。

 

馬に跨がっている騎士のように見えるのだが。その両手は蛇。馬の尻尾も蛇になっている。

 

顔は獅子に近く、それでも人間の言葉を流ちょうに喋ってきた。

 

此奴は恐らくだが、襲撃班ではないだろう。

 

それよりも上位の存在。つまり、襲撃の総指揮を執った高位の悪魔だと判断して良い筈だ。

 

「なんだ、思ったよりも慎重だな。 軽率にもっと高位の人材か多数の救助班を出してくると思ったのだが」

 

「何だ貴様は」

 

「……異境の神か。 ならば礼を失するわけにはいかんな。 名乗らねばなるまい。 俺は堕天使オリアス。 以後死ぬまでの短い時間だけお見知りおきを」

 

「そうかだてんしオリアス。 天使というのは以前わしの国でも聞いた事がある。 堕天使はその一種だったな。 わしは武神にて豊穣神サクナヒメ。 死ぬまでの短い間だが、覚えておけい」

 

無言でデモニカのデータと照合するが、データに無い悪魔だ。

 

堕天使というのは分類としてある。

 

一神教において、天使でありながら神に背いた者、であるそうだ。

 

何種類か堕天使になるプロセスは存在しているらしいのだが。いずれにしても、あのオリアスという奴がどんな堕天使なのかは分からない。それより今は、もっと重要な問題がある。

 

「このエサを生かしておいたのは、船の高位の指揮官や、多数の救助要員を引っ張り出すためだったんだがなあ。 三匹しか釣れなかったのでは、話にならんな。 お前らを捕まえて、もう少し丁寧に釣りをす……何っ!」

 

ふっと、掴まっていた女性クルーの姿が消える。

 

オリアスが思わず軽口を止めたほどの早業だった。

 

サクナヒメの背中にある羽衣が、凄まじい勢いで女性クルーを捕まえると、手元に引き寄せたのである。

 

視線を一瞬向けられたので、意図を悟り。

 

ヒメネスと共に、銃を構えて女性クルーを守るべく立ちふさがる。

 

この広い空間。いわゆる死地だ。入り口は狭く。奥は広くなっている場所。

 

城などでは、入り口付近にこういうものをつくると唯野仁成は聞いた事がある。

 

迎撃側は全戦力で敵を迎え撃つことが出来。

 

攻めこむ側は、全方向から飛んでくる攻撃を、どうにかいなさなければならない。

 

まさに此処はそれ。

 

要するに、敵はそれを知っている程度の知恵はあるという事である。

 

案の定周囲には訳が分からない数の悪魔が、らんらんと目を輝かせて姿を見せていた。数百は軽くいると見て良いだろう。

 

ヒメネスも軽口を叩かない。

 

とっくに背後も塞がれていて、この女性クルーを守りながら脱出するのは現時点では不可能だ。

 

サクナヒメが余裕な様子なことだけが、安心できる要素ではあるが。

 

「き、貴様……!」

 

「相手の力量も分からぬ上で長広舌を振るうておるからだ。 まだ力を取り戻せていないとはいえ、このサクナヒメ。 貴様如き三下に侮られるような神格ではないわ」

 

「この俺を三下だと! おのれ異境の神め許さぬぞ! もはや塵も残さぬ! 死に絶えよ!」

 

激高したオリアスが、一斉に手下をけしかけてくる。

 

同時に、真っ正面からミサイルのように特攻したサクナヒメが。

 

殆ど一瞬で。地面にオリアスを、グシャグシャに叩き潰しながらめり込ませていた。

 

悪魔だろうが関係無い。どう見ても分かる。即死である。

 

突貫してきた悪魔達が、消えていくオリアスを見て、動きを止めて呆然とする中。

 

好機とみたヒメネスが、アサルトライフルを乱射し始める。

 

唯野仁成もそれに習い、可能な限り混乱している敵をたたく。後方に回った敵も、右往左往している。

 

捕虜を守って脱出するには、これに乗じる以外の選択肢は無い。

 

「ヒメネス!」

 

「! よしっ!」

 

二人で後方にいる敵に乱射を浴びせて、片っ端から片付けると。ヒメネスが乱暴に女性クルーを担いで、死地を走り抜ける。

 

虚脱から立ち直った悪魔の群れが、怒濤のように追いかけてくるが。

 

その悪魔の群れが、無数の光の奔流によって、文字通り薙ぎ払われるのが後ろで見えた。

 

「広いところで、しかも遠慮の必要がないからのう。 ちいと力の虫干しをさせてもらうぞ雑魚どもよ! この程度の質と数でわしを止められると思ったその愚かさ、後悔するがよいわ!」

 

サクナヒメが暴れ狂っているのだろう。

 

文字通りゴミクズのように悪魔の大軍が引きちぎられているのが見えた。

 

本当に武神なんだな。

 

そう唯野仁成は感心しつつ。まだこっちに来る悪魔の群れを、銃撃して撃退。

 

ヒメネスは地面に乱暴に女性クルーを放り出すと、アサルトライフルに持ち替え。出口に待ち伏せしていた悪魔の群れを、薙ぎ払うように打ち払った。

 

当然、出口にも伏兵がいたわけだが。

 

いきなり真っ先に指揮官が潰されるという事態で、混乱したのだろう。

 

手練れを配置していたようだが。

 

ヒメネスの射撃は集弾率が凄まじく高く、激しい乱打を浴びて踊るようにしていた悪魔は、やがて崩れるように消えていった。

 

唯野仁成は、逆に死地からこちらを追撃してこようとしている悪魔を狙って、片端からたたく。

 

ただ、サクナヒメの暴れぶりに巻き込まれて、射撃している途中に消し飛んでしまう悪魔も多く。

 

文字通り戦いは一方的なようだったが。しばしして、静かになる。

 

ほとんど無傷のサクナヒメが戻ってくる。

 

ただ、さすがに力の虫干しなどといっていたように。現状の彼女の戦力は、本来の戦力には及ばないようだが。

 

「終わったわい。 人質は無事か」

 

「心配ないぜ姫様。 流石だ。 想像以上にすげえなあんた」

 

「……」

 

震え上がっている女性クルー。

 

IDを照合して名前を見ると、メイビーというらしい。

 

アーヴィンが言っていた名前と一致する。そもそも医療班の一員なのだろう。戦闘は最初から想定していなかっただろうに。

 

怖い思いをしたに違いない。

 

唯野仁成が根気よく声を掛けていくが。

 

ヒメネスの反応は冷淡だった。

 

「此処には悪魔がいて、最悪頭から囓って食われることだって覚悟していた筈だ。 それなのにヘタってるような奴、放っておけよ」

 

「今は精神的ショックを受けているだけだ。 医療チームの重要性はお前も知っているだろう」

 

「ちっ。 確かにそれもそうだな」

 

「無駄口は後にせい。 船に戻るぞ。 まずは全員の無事を確認してからだ。 それと、ほれ」

 

サクナヒメが、小さな掌に載せているのは、何やら得体が知れない塊だ。

 

何というか、結晶体とでも言うのか。不可思議なものである。

 

「オリアスとやらの残骸に光っていたわ。 あの様子からして、この辺りの悪魔の元締めだったのがオリアスとやらだったのだろうよ。 調べれば何か分かろう。 わしにはこれが何かはわからん。 だから渡しておくとする」

 

「……その、受け取っておきます」

 

メイビーが、真っ青な顔で挙手する。

 

そして、硝子製らしいサンプル採取用の容器にそれを入れていた。

 

肩を貸そうかと提案するが、首を横に振る。

 

ヒメネスに言われた言葉に、思う事があったのかも知れない。

 

ともかく、戻る。

 

帰り道、ヒメネスが言う。

 

「まだかなり悪魔が残っていたようだが……」

 

「悪魔は知的生命体だとかいっておったな」

 

「ああ。 この様子を見るとそれで間違いないだろう」

 

「……わしが見た所、此処の悪魔は一枚岩ではないのう。 オリアスとやらに力で従えられていたらしい連中は、右往左往して逃げ惑うばかりであったわ。 わしが倒しておいたのは、明らかに害のある連中だけだ」

 

なるほど、そういうものか。

 

知的生命体であるのなら、確かに派閥などを作ってそれぞれ考え方が違ってくる可能性はある。

 

洞窟そのものは複雑でもなんでもない。

 

何よりも、デモニカにはオートマッピング機能がついている。

 

デモニカの相互連携は方舟から離れ過ぎるとできないが。

 

それはそれとして、デモニカスーツは自立した状態でも、それ一個で一戦闘単位になる程の性能があるのだ。

 

実戦で使って見て、唯野仁成は確信した。

 

この装備は強い、と。

 

方舟が見えてくる。

 

既に待っていたゴア隊長が、思わず泣き出したメイビーを医療班に任せると、手を差し出してきた。

 

まずは唯野仁成。つづいてヒメネスと握手する。

 

「デモニカの通信機能を介して様子は見ていた。 見事な判断だった」

 

「有難うございます」

 

「帰還後の昇進は頼みますぜ」

 

「この腕なら帰還後に勲章でもボーナスでも出す。 心配せず、活躍をしてくれ」

 

俗物的なヒメネスの言葉にも、何も文句を言うことは無く、ゴア隊長は応じる。

 

欲が強い相手との接し方について、心得ているのかも知れない。

 

そしてゴア隊長は最後に、サクナヒメに最敬礼をしていた。

 

「我が部下達を助けていただき感謝する。 武神サクナヒメ」

 

「姫様でよい」

 

「では姫様、これからもよろしく願います」

 

「うむ……」

 

サクナヒメは流石に暴れ疲れたのか、奥に戻っていく。

 

そういえば神の田とやらで力を増すという事だが。

 

米でも食べて力を回復するのかも知れない。

 

一度、搬入口が閉じられる。

 

そしてもう一度、念のためクルー全員の点呼が行われ。最終的な損害が確定した。

 

最初の戦いでは、軽傷者43名、重傷者26名。

 

重傷者の中には、右腕を丸々食い千切られた者や、まだ意識が戻っていないものもいるのだが。

 

それでも死者を出さなかっただけマシだ。

 

メイン動力は先ほどやっと復旧。現在アーサーの再起動作業をしているらしい。

 

これでどうにか一段落だな。

 

そう、唯野仁成は思った。

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