おやおやと、さいふぁーは呟いていた。
みんなやんちゃなことだ。
だが、それでこそである。可能性を求めて、それぞれのためにベストを尽くす。そうでなければならない。
あくまでさいふぁーは背中を押すだけ。そして、背中を押すくらいの干渉だけでいい。
昔は違った。
全知全能をうそぶきながら、何もせず。より弱きものを救わず。公平性も持たず。ただ絶対の信仰だけを求める四文字たる神に対する反発から、色々して回った。勿論さいふぁーなりの信念に基づいての行動だったが。途中で気付いた。
これでは相手と同じだと。
だから、四文字たる神が救おうともしない弱者を救うことに血道を上げはじめた。
そうすることで、相手を否定出来ると思ったからだ。
結論から言えば、それでは何も変わらないこともわかり。今では趣味に落ち着いている。
今は、趣味を行いつつ。戦略的に大局的な観点からの手も打つ。それくらいの位置にさいふぁーはいた。
見下ろしている先にいるのはアレックスである。
呼吸を整えながら、水を飲んでいる。嘆きの胎に用意したビバークポイントで、ダメージの回復を待っているのだ。
今回はアモン無しとはいえ、殆どベストのコンディションで挑んだにもかかわらず、唯野仁成に敗れた。
屈辱だっただろう。更に唯野仁成に哀れまれ、見逃されまでした。
アレックスが恐らくは、別の平行世界から来ている事はさいふぁーも理解している。あらゆる全ての言動がそれを裏付けている。
問題はその平行世界が、未来の可能性があることで。
是非詳細なデータがほしい。
実際問題、今のまま文明を暴走させた人間が自滅するのは、さいふぁーとしても困るのである。
困難な世界になれば、はっきりいって信仰は強くなる。
過酷な世界で秩序が崩壊すれば、混沌陣営の悪魔達は嬉々として人間を襲いに行くだろう。さいふぁーも立場上それを止められない。
だが、そうなれば人間は四文字たる神に救いを求めるだけだ。奴はそうすることで力を増す。
実際秩序陣営のペ天使共の一部は、その状況を狙っているし。
そもそも可能性が薄れるそんな世界は、さいふぁーとしても望むところでは無い。
人間は当然万物の霊長などでは無い。
ただし、可能性はある。
勿論無限などではないが。それでもその可能性の先を、さいふぁーは見てみたいのだった。
疲弊しきっているアレックスの前に姿を見せる。
思わず剣を手に取るアレックス。にこにことさいふぁーは笑顔を崩さない。
「そんな戦力では戦いは無理ですよぉ。 それに戦いになれば、どうせあの腹黒女神が来ますし」
「……何が目的」
「取引をしにきました」
「……」
さいふぁーの方からは情報を出す。五層にいる強力な看守悪魔の名前と数。デメテルが支配下に置いている看守悪魔の名前と数。
更には、五層の囚人ゼウスの弱点について。
はっきりいって、アレックスは強い。単独での戦闘力でついに唯野仁成に遅れを取ったが、あれは相手が唯野仁成だったからだ。
アモンより二回り強いゼウスでも、倒せば従う可能性があり。
もしも充分なマッカを確保して、アモンとゼウスを同時に従えれば。
アレックスが置かれている絶望的な状況を、充分にひっくり返す事が可能になる。
ひょっとしたら、メムアレフに手が届くかも知れない。
ついでに、実りについても教えてやろうかと思ったが。
それはどうせジョージがそのうち解析するだろう。だから別に教えなくても大丈夫だ。
「至れりつくせりね。 それで此方からは何を出せばいいわけ?」
「貴方がいた世界の情報を」
「……っ」
「アレックス、冷静に。 さいふぁーといったな。 貴方の正体は既に想像がついている」
頷く。
まあこの聡明なAIなら、とっくに気付いているだろう事も分かっていた。
だからこそ、取引にも乗るだろうと。
情報を出してくるジョージ。頷きながら、記憶する。人間よりスペックが高いから、メモ帳なんて必要ない。その場で全て覚えてしまう。
なるほど、なるほど。
唯野仁成が周囲に恵まれないとそうなるのか。確かに可能性の塊といっても、研磨が過ぎればいびつに歪む。
予想はついていたのだが、生々しい話を聞けて満足だ。
ああいう可能性の塊みたいな人間は、時代の転換期に必ず出てくる。そして英雄と呼ばれる。
本来は英雄と呼ばれる人間が、あの方舟には結集していて。さいふぁーすらも打倒出来るものもいる。
だからこそ、面白い。
そして、今後の参考になった。
さいふぁーの方も情報を出す。
もっとも、さいふぁーは計算を終えていた。アレックスではゼウスには勝てない。
古いギリシャの伝承では、ゼウスは好色スケベ爺という雰囲気ではなく。冷厳で強力な絶対神である。その強さも圧倒的で、原初神の一角である混沌そのもののカオスを撃ち倒したりと、やりたい放題をしている。
この嘆きの胎はシュバルツバースの他の場所とは違う。
収監されている囚人の性格も。
ゼウスはどちらかというと、冷厳で残忍な原初のギリシャ神話の性格が色濃く出ていて。
恐らくだが、アレックスを孕ませようとするよりも。戦って強さを引きだした後は容赦なく殺そうとするだろう。
それをどう切り抜けるのか。さいふぁーは楽しみだ。
「それでは取引成立です。 ではではー」
借りている人格と姿に沿って可愛く手を振り、その場を離れると。
さいふぁーは、部下達にいわゆるテレパシーで連絡を取る。
「ペ天使共はどうしている」
「案の定、大母の空間にて、例のものの上に陣取ったようです」
「ハ。 メムアレフに勝てるつもりか」
「如何なさいますか」
捨て置けと指示。どうせあのペ天使達では、束になってもメムアレフの封印を解くことは不可能だ。
四文字たる自称絶対神に匹敵するか、それ以上の実力を持つ大母の長、メムアレフ。その実力は、ペ天使が束になっても及ぶものではない。
傲慢の権化とされるさいふぁーだが。
むしろ傲慢なのは、絶対者の庇護を受け、自分達こそ絶対正義と信じるマンセマットのようなペ天使では無いのかとも思うのである。
いずれにしても、面白くなってきているところだ。
それに、マンセマットがあのライトニングとか言う鉄船をまだ残している事が気になる。乾いた魂であるヒメネスが、どうやって立ち直ろうとするかも、である。
この世界は面白い。
まだまだ、目を離すことは出来なかった。
(続)
複数の勢力の間を、己の目的で飛翔するかの深淵の王者。
目的は、古くから全く変わっていません。
傲慢の権化と言われるが所以です。
しかし、本当にもっとも傲慢なのは……果たしてかの存在なのでしょうか。