最古の「原初の巨人」であり。
人類文明でもっとも古いクリエイターでもある存在です。
その実力は、文字通り激甚。
ウロボロスをさらにさらに数段上回ります。
文字通り空間を割って登場したティアマトに、誰も怯んでいる様子が無い。それはそうだろう。
意味不明な光景を、散々シュバルツバースで見て来たのである。先陣を切ったのはやはりサクナヒメ。ジープから飛び降りると、支援するようにジープの班に言い残し、真っ先にティアマトへ躍りかかる。
更に其所へケンシロウも加わる。ティアマトは砲撃を受けて鬱陶しそうにしつつ、迫り来る「蠅」をはたき落とそうとして。横っ面を、思い切り張り倒されていた。ストーム1によるライサンダーFによる狙撃である。
巨大な女体をムカデのように積み重ねたという異形ではあるが、全体的には人間には似た形だ。
頭部を横から張り倒されれば、それは体勢もぐらつく。
更に、クルー達もそれぞれジープからライサンダー、或いはライサンダー2で狙撃を一斉に行う。
この強烈な反動が来る超凶悪対物ライフルで機動射撃が出来る機動班クルーは、皆恐ろしく熟練度を上げているとも言えるが。
唯野仁成は、悪魔を全て召喚しつつ、自身もジープを飛び降りる。ヒメネスも魔王達を召喚して、ジープを飛び降りるのが見えた。
サクナヒメが斬りかかる。
最初から、あの青い光の剣で、だ。
要するに速攻で勝負を付けるつもりということだろうが。
流石は大母。
そうさせてはくれない。
今までに見た事も無い、不可思議な壁が出現。サクナヒメの剣を、文字通り弾き返していた。
瞬歩を繰り返して後ろに回ろうとしているケンシロウも仕掛けようとはしていない。
要するに、接近戦を躊躇わせる何かがあるという事だ。
「おのれ鬱陶しい! 大母たる我に対して非礼であるぞ!」
ティアマトが吠える。走りながら、唯野仁成は警告を聞く。何かが降ってくる。
すぐにクルー全員に、上に対して壁を作るように指示。ジープに分乗しているクルー達は、皆慌てて悪魔に指示を出す。唯野仁成も、アナーヒターに指示を出して壁を展開するが。
一瞬置いて降り来たのは、想像を絶する代物だった。
何だか槍のようなものなのだが。壁にぶつかると、もの凄い勢いで炸裂してはじける。
なんだこれは。
氷では無い。この炸裂の様子からして。
水だ。水を超高圧縮して叩き付けてきている。それも、雨が降るように、もの凄い数。一つ一つの槍は十数メートルもあり、それが間断なく降り注いでいる。まずい。もしも想像の通りなら。
皆に通信を入れる。なる程と、返事が返ってきた。移動しつつ、ライサンダーFでの狙撃を続けているストーム1は、更にもう一つ指示を出してきた。
ヒメネスの魔王達のうち一柱。魔王アバドンが、接近に成功。ティアマトにしがみつく。だが、ティアマトはアバドンの頭を押さえつけると。見る間にアバドンの全身が「揺らいで」行った。
「まずい、戻れ!」
戻る暇が無い。一瞬で、アバドンは文字通り液体となって、その場ではじけ飛んでしまう。
海の原初神だ。
元々生物の体内構造は海に似ていると聞いた事がある。悪魔もそれは、同じなのかも知れない。
そしてティアマトは、恐らくだが。
その海を操作したのだ。
接近戦というか、触られることは自殺行為だ。唯野仁成も横殴りに銃撃を浴びながら、接近する好機を窺っていたのだが。これは近接戦闘は最終局面以外は避けた方が無難だろう。
更に反撃に出るティアマト。
周囲の巨大な水の槍が大量に着弾し、湿度が上がっている中で、大きく息を吸い込み始める。
まずい。何かやるつもりだ。
ライドウ氏が何か大きな悪魔を召喚。
これまた、水の悪魔らしいが。頭足類というか何というか、よく分からない姿をしている。
見ると魔神アプスと記載がある。
ティアマト神の夫の一人。水を司る神か。
アプスがティアマトに突進。ティアマトは気にするまでも無く、咆哮をぶっ放していた。
空気中に大量に散らばっている水分が、同時に水蒸気爆発を起こしたのは、その瞬間だった。
猛烈な衝撃波に、思わず顔を庇う。
横転したジープも何台かいたようだった。
「くっそ、巫山戯やがって!」
ヒメネスが頭を振りながら立ち上がるのが見えた。
水の槍を降らせて周囲の湿度を上げつつ、接近を防ぎ。更に防御を展開させることで消耗させ。
その上頃合いを見てブレスをぶっ放し、水蒸気爆発を引き起こすか。
水蒸気爆発については、唯野仁成も予想していたが。水を想像以上に上手に使いこなす相手だ。
アプスも、今の一撃を防ぐために、一瞬で吹き飛んでしまった。
仮にも神話上での伴侶だろうに、ティアマトも容赦がない事である。
ティアマトは間断なく水の槍を降らし続けており、この様子だとまたすぐに次が来るだろう。
危険を承知で、接近するしかない。
だが、イアペトスが叫ぶ。
「まずい、戻れ!」
「!」
飛び退いた。
地面が泥状になっている。そうか、こうやって足を封じる意味もあるのか。擱座しているジープから、這いだしている機動班クルーも、悪魔を展開して必死に水の槍を防いでいるが。
これは、まずい。
此処まで広域戦闘に特化した悪魔とは。
アリスもさっきから反撃はしている。雷撃の最大級の魔術を叩きこんでいるが、効いてはいる。
しかし、相手を怯ませるほどでもない。
サクナヒメも空中機動戦を仕掛けて相手の注意を惹いてくれてはいるのだが。
それでも、あの光の剣でも致命打には届かない。
ライサンダー2をぶっ放して、ダメージの確認をする。腕に当たっているが、確かに効いている。
しかし、超再生しているわけでも無い。
単純にとんでもなくタフなのだ。
何となく理由は分かる。
アレは海の女神だ。海そのものと言っても良い。
だったら、ちょっとやそっとの攻撃で、どうにかなる筈が無い。文字通り、不落不変、圧倒的難攻不落が奴そのものなのだろう。
神話的に多少相性が良い相手はいるのだろうが、それでも大母という状態で、しかも自分に最も都合が良い状況に身を置いているティアマトだ。
攻撃が通じるかどうか。
詠唱を終えたイシュタルが、猛烈な竜巻を引き起こして、ティアマトの全身を包む。
全身を切り裂かれて痛そうに声を上げるティアマトだが。やっぱり致命打には程遠い。タフすぎる。
「暴風神マルドゥークに倒されたから、少しは効くと思ったのに」
「その程度の風など……出力不足だ小娘がぁ!」
とんでもなく巨大な水の槍が降ってくる。それも、多数、飽和攻撃で。
イアペトスが、気合いと共に柔らかくなった地面で踏ん張り、上空に刺突を連発し、水の槍の結合を解く。
だが、同時に水蒸気爆発。
アナーヒターが展開した氷の壁をぶち抜いて、衝撃波が唯野仁成達を張り倒していた。
デモニカが無ければ、瞬時に消し炭だっただろう。
地面に叩き倒されて、それでも何とか立ち上がる。
見ると、消えていくモラクス。
ヒメネスが、呼吸を整えながら、上を見ていた。
「たまには俺がヒトナリを助けないとな!」
「モラクスを盾にしてくれたのか」
「モラクスが自分から、だ」
「……」
声を掛け、立ち上がる。
またライドウ氏が大きな悪魔を召喚し、何とかティアマトと切り結んでいる。巨大な剣がティアマトの肩から食い込むが、ティアマトが剣に触れると、すぐに崩壊が波及していく。
すぐに悪魔を戻すライドウ氏。
とんでも無い怪物だ。
「触られると即死確定、しかし何もしなくても槍が降ってきて、しかも水蒸気爆発までする。 地面はどんどんぬかるんで動けなくなる。 挙げ句にあのタフさだ。 こんな化け物、どうすればいい」
「……少し考えさせてくれ」
「私に考えがあるわ」
ゼレーニンが通信を入れてくる。
恐らく、全員に通信を入れている。それを聞いて、なる程と思った。
恐らくだが、ティアマトの出力は底なしと見て良い。あの異常なタフさも、多分体の重要器官を潰したところでまだ動ける程度は備えていると見て良いだろう。
だったら、一つずつ問題を解決していけば良いのである。
まずは、この水の槍だ。
今はどのクルーも耐えているが、何とかしなければならない。ティアマトのある程度の力が割かれているだろうこの雨を、まずは何とか止める必要がある。
ヒメネスが、ロキの背中に跨がる。バロールが、ロキを担ぎ上げる。
「俺が行ってくる!」
「分かった。 なら……」
アリスに頷く。アリスは後でアイスいっぱい頂戴というと、全力で詠唱を開始。更に、話を聞いていただろう他のクルー達も、一斉に同一の魔術を詠唱させ始めた。
ヒメネスとロキを投擲するように上空に放り上げるバロール。槍投げの要領だ。勿論デモニカを着ているから耐えられる。そうでなければ、Gで即死である。
ストーム1は黙々と時間稼ぎに徹してくれている。
ライサンダーFの火力は凄まじく、傷をどんどん穿っては拡げてくれている。ティアマトの気を引くには充分。
更に、そもそもとしてサクナヒメの攻撃をティアマトは最初に防いだ。
要するにサクナヒメの攻撃をまともにくらうと、ティアマトさえ面白くないという事である。
総員が動き出す。
この通信は、一定距離からまだ支援攻撃を続けてくれている方舟にも届いているはずである。
さて、恐らく生じる勝機は一瞬だ。頬を叩く。勿論デモニカ越しに。
一気に勝負を付ける。
相手は上位空間の支配者。地球の意思に限りなく近い怪物である。今までの空間支配者など恐らくは足下にも及ばない怪物。産み直しという能力など、本来の海の力の派生程度の代物であって。
今猛威を振るっているこれこそが、本来のティアマトの総力なのだろう。
ライドウ氏が、また別の大型悪魔を召喚。以前も見せたニーズヘッグだ。
ニーズヘッグが、ティアマトに収束した恐らくソニックブームと思われる吐息を叩き込む。
わずかにティアマトが体を揺らがせる。
そして恐らくだが、ティアマトは今までの戦闘を、「子」らを通じて見ていたはず。
ケンシロウが背後に回ろうとしているのを、集中的に水の槍を落とす事で防いでいる。
こうしている間にも、どんどん水の槍は降り注ぎ、クルーの危険が増している。
湿度も上がってきている。
もう一度水蒸気爆発を起こされたら、恐らく死者が出る。
最前線で戦ってくれているスペシャル達も、多分無事では済まないはずだ。
その時。
不意に上空に向けて、とんでも無い光の一撃が放たれていた。
見覚えがある。
そうだ、嘆きの胎四層で、ストーム1が使った武器。フュージョンブラスターといったか。
方舟の方から放たれた。それも、ストーム1が使ったときには、アレスを一瞬にして蒸発させ、更には嘆きの胎四層を貫通するほどの火力を見せつけたが、それどころではない破壊力だった。
文字通り、空を切り裂く光の槍となったそれは、進路上にあった水を恐らく。
一瞬置いて、全て爆裂させていた。
超高熱が水をプラズマ化させ、それが炸裂したのだと分かった。
ティアマトが、愕然とし、周囲全てに壁を張る。
当然、水の槍が降り注ぐのが止まる。
よし、まず一つ。
ゼレーニンは言ったのだ。
雨というのは、上空に雨雲があって初めて成立する。そして雨雲というのは、塵などの小さな雨の核となるものが上空にて漂っているものなのだと。
雨は最初この塵などを核として雪として誕生し、地上に降り注ぐ際に温度によって雪のまま降り注ぐか、雨に代わるか変わってくると言う。
今回の場合、雨雲が。それも、あんな異常な水の槍を作り出すような雨雲が上空にある筈で。それはこの環境で自然発生し得ない。
何かおかしなものがある筈だから、それを破壊してほしい。
ヒメネスは、ロキと共に上空に行き。それを見つけ。方舟に知らせた。
そして方舟は、恐らく動力炉をフルパワーで使う勢いで、さっきの超強化フュージョンブラスターを。恐らく真田さんが開発した主砲をぶっ放した、というわけである。
更に、地上に残っていたバロールが、ここぞとばかりに目を開ける。
全身が水の槍に打ち据えられて、消滅寸前だったが。多分残った力の全てをつぎ込んだのだろう。
バロールの目は、魔眼。見た存在を死に至らしめる、必殺の武器。雑魚にしか効かないと聞いていたが、相手が「モノ」だったらどうか。
ティアマトを守っていた壁の一つが、吹っ飛ぶ。
同時に、唯野仁成が声を掛けた。
「よし、斉射!」
「オープンファイアッ! 全火力叩き込めっ!」
一斉に、それぞれのクルーが、狙撃を。悪魔による雷撃魔術を叩き込む。
アリスも、練りに練った詠唱から繰り出される、最大級の雷撃魔術を叩き込んでいた。
まさにそれは神の雷となって、ティアマトの作り出した防壁に穿たれた穴を通り抜け。ティアマトを直撃する。
絶叫するティアマト。周囲の湿度が、その絶叫により一気に衝撃波となって、弾き散らされる。
勿論時間を掛ければ、また湿度を高めて水蒸気爆発を起こしに来るし。地面がぬかるんでいる事に違いは無い。
シールドが全て消えたのを見て、ライドウ氏が数体の大型悪魔を召喚。一気にティアマトに突貫させる。
それぞれ組み付く大型悪魔。
触られたらおしまいだが、ティアマトは全身が焦げていて、動きが明らかに鈍くなっている。
その側頭部に、何度目かのピンホールショットをストーム1が決める。
頭が、ついにはじけ飛ぶ。
だが、吹き飛んだ頭。いや、上半身を吹き飛ばすようにして、巨大なワニのような頭が新たに生えてくる。
人間に近い形状をしていた頭だったが、今度はもう、邪龍という言葉しか出てこない頭である。
牙だらけのその顔は、自分に組み付いている悪魔の一体にかぶりつくと、一瞬にしてかみ砕く。
しかし、その時。
ついに、ケンシロウが、ティアマトへ接近を果たしていた。ノータイムで、北斗神拳の拳が無数に叩き込まれる。
「あたたたたたたたたっ! ほあたああっ!」
「!」
ティアマトはもう何も喋らず、先に全身を爆裂させて、組み付いている悪魔もろともケンシロウを吹き飛ばす。
アレを喰らったらまずいと知っているのだろう。
そして、故に全身を無理矢理形態変化させて。北斗神拳による致命傷を避けたのである。
肉体を吹き飛ばして現れたのは、もはや何というか、無数の海の生物を無理矢理合成したような怪物。
大量の女体を組み合わせたような巨怪よりも、更におぞましい姿だ。
だが無傷では無いし、感じるプレッシャーは小さくなっている。確実に弱くなっている。
ケンシロウが着地すると同時に、そのティアマト第二形態は、無数の触手を全身から噴き出させる。
そして、それらが地面に突き刺さろうとした瞬間。
イアペトスとイシュタルが突貫した。イアペトスが一斉に槍を繰り出して触手を打ち砕き。更にイシュタルが暴風で触手を吹っ飛ばす。
何となく分かる。あの触手が手と同じ役割を果たせるとしたら。
水浸しの今の地面に触られたら、崩壊がフォルナクス全土に波及してもおかしくないのである。
ストーム1が、鰐頭を撃ち抜く。ティアマトが絶叫。
更に、遠くから雷撃の全力射が届く。ティアマトの全身を蹂躙。ティアマトは絶叫しつつも、更に触手を生やし。イアペトスとイシュタルをどんどん押し込んでいく。
あれが一本でも地面に刺さったら、途方もない被害が出る。
サクナヒメが、唯野仁成の側の地面に荒々しく、突き刺さるように降り立った。
「あの触手、一瞬で全部吹き飛ばす。 その後総力での攻撃を叩き込め!」
「イエッサ!」
クラウチングスタートの態勢を取ると。サクナヒメが、周囲の水分全てを吹っ飛ばす勢いで加速。
それをみて、流石にまずいと思ったのか、ティアマトがワニの口を向ける。何かブレスか何かで迎撃しようとしたのだろうが、それはできない。
上空から躍りかかったライドウ氏が、特別製らしい拳銃を乱射し、更に剣を突き刺す。ともに霊剣とか特別製の銃だろうから、ティアマトも無事ではすまない。稼げる時間は一瞬だけだが。
それでも、サクナヒメが接近に成功。
既に限界だったイアペトスとイシュタルが吹っ飛ばされるのと同時に、サクナヒメが剣を抜く。デモニカで極限強化された視力でも、見るのがやっとの超音速抜き打ちである。流石は武神サクナヒメ。同時に数十の斬撃を叩き込んでいた。それも一撃一撃が、以前から見ているサクナヒメの必殺剣並みである。
着地するサクナヒメ。剣を鞘に収める。
ティアマトの全身が、数える事も恐ろしい程の特大斬撃で切り刻まれて。大量の鮮血が噴き上がる。
其所に、更にストーム1が。この間も使っていたフュージョンブラスターを叩き込む。方舟から放たれたものほどの火力は無いが、それでもアレスを瞬殺した超火力武器だ。再生も形態変化も許さず、一気に焼き切る構えである。
だがティアマトは、その猛烈な光の一撃を押し返しつつ、更に体内から何かをせり出し始める。
走りながら、唯野仁成は見た。
それが、巨大な。何というか、正体も良く分からない代物であるという事を。
いや、何処かで見た事がある。そうか、思い出した。
あれこそ、カンブリア紀に最初に王者となった生物、アノマロカリスの復元図だ。最初の海における最強の捕食者。すぐにその座は魚類や頭足類に奪われてしまったが、それでも最初に王者だった存在。
なるほど、原初の海の権化となると、あの姿も納得か。
雨の槍を防ぎ続けたアナーヒターが、最後の力を振り絞って地面に手を突き、氷の道を作ってくれる。
最後に残ったアリスが隣を飛びながら、唯野仁成と頷きあう。
超巨大アノマロカリスの姿を現したティアマトが、上空に躍り出ようとしたその瞬間。
丁度階段状になっていた、アナーヒターの氷の通路を蹴って。唯野仁成は跳躍する。まだ継戦能力を残しているクルー達が、一斉に射撃。悪魔達も、残りの力を振り絞ってティアマトに火力を集中。その隙に、唯野仁成が、相手の関節部に一撃を入れ。更に同時に、アリスも傷口に雷撃をねじ込む。
更には、降りて来たヒメネスが、上空から完璧な狙撃を決める。ロキもまた、特大火力の雷撃を叩き込んでいた。
悲鳴を上げながら、爆ぜ砕けるティアマトアノマロカリス形態。
だが、その内側から、更に這いだしてくるもはや何かさえも分からない、ぶよぶよの塊。
あれは、太古の海で初めて登場した多細胞生物だろうか。
流石にしつこいと言わざるを得ない。
ロキから手を離し、飛び降りるヒメネス。
更に、アリスが残った全魔力で、トリスアギオンを叩き込み。ティアマトの残骸を焼き尽くす。
ヒメネスが先に到達。飛び降りた勢いも駆って、焼け焦げたぶよぶよを刺し貫く。
勝ったように見えた。だが、唯野仁成は何となく気付いていた。多分違う。まだ倒せていない。恐らくだが。
見つける。
ぶよぶよが消えていくのを、大剣を突き刺したまま押さえ込んでいるヒメネスの横を通り抜けると。
唯野仁成は、一見何も無い空間に、剣を突き刺していた。
ずぶりと、奇妙な音がして。確かな手応えがあった。
押し殺した悲鳴とともに、それが這いだしてくる。
何となく分かっていた。ティアマトは、どんどん外皮を捨てながら、内部の一番重要な部分を守っていた。
そして新しい姿をどんどん使い捨てにしていた。
それは恐らくだが、誤認させるため。
本当の姿は、何処か別に。それも、一番安全なティアマトの中にあり。倒されたと錯覚された瞬間に、逃げるつもりだったのだと。
だから、サーチ機能を全力で展開して、妙な状態になっている場所を走りながら探していたのである。
その場所だけ、やたらと湿度が濃かった。
ただ、それだけで。ティアマトは、己の真の姿を隠し損ねたのである。
「お、おのれ、おのれおのれおのれ! 矮小なる人間が……!」
誰もがもはや力を残していない状態で、それが徐々に隠蔽していた姿を現し始める。
滑稽なほど威圧的な鎧を着込んだ女戦士で。なんということは無い。人間が想像する、太古の文明の女王。それ以上でも以下でもなかった。
その胸には唯野仁成が繰り出した剣が、鎧を貫通して突き刺さっていた。
元々女系の文明は古代世界にはたくさんあった。日本でも平安時代までいわゆる通い婚の習慣が残っていたし、世界最強も名高い遊牧騎馬民では女性の発言権が古来より強かった。
ティアマトは、恐らくだが。そんな古代文明の一つが、悪魔化されたもの。
もしくは、人間の考える。古代の女神の姿がこれということだ。
それでも最後の意地を見せて。此方も限界近い唯野仁成の剣を掴み、押し返そうとしてくるティアマト。消耗が激しいのはティアマトも同じ。崩壊の力はもう使えないようだが、人間大でも凄まじい力である。押し返される。駄目か。冷や汗が流れる。
だが、ティアマトの腹から光の剣が生える。
大量に吐血するティアマト。背後から、サクナヒメが突き刺したのだ。
「先に散々搦め手を使って来たのはそなただ。 まさか卑怯と言うまいな」
更に、跳び離れた唯野仁成とサクナヒメを待っていたように。ティアマトの側頭部をライサンダーFの狙撃が張り倒す。
そして、ケンシロウが、もはや形を崩し、消えつつあるティアマトに歩み寄っていった。
「今、楽にしてやる」
「せ、せめて、貴様も、道連れ、に」
哀れむように、ケンシロウが最後の反撃に繰り出されたらしい地面から伸びてきた触手を振り返りもせず切り払い。
そして、瞬歩を使って、ティアマトの隣を通り抜けていた。
ティアマトは、白目を剥くと、地面に倒れふす。だが、苦しんだ様子は無い。楽に死ぬように慈悲を掛けたのだろう。
その体が、膨大なマッカになって、周囲に巨大な山を作り始める。
ライドウ氏が、周囲に呼びかけて、トリアージを開始している。もう雨は降っていないが、地面はグチャグチャなままだ。
唯野仁成も限界だ。呼吸を整えながら、片膝をついてしまう。剣を杖に何とか起きているのがやっとだ。
アリスを始め、悪魔達はもう皆PCに戻っている。
やはり今回も、楽には勝たせて貰えなかった。
上位空間の支配者、大母。例え子供の教育に失敗した愚かな存在だったとしても、戦闘能力だけは確かに超一流だった。
メイビーが来る。回復の魔術を使い始める。また、方舟が来て、医療班が展開を開始していた。
どんどん運び込まれていく機動班クルー。
それに、唯野仁成は見た。新たに据え付けられたらしい砲塔の一つが、半ば融解しているのを。
どうやら、まだ開発したての武器を、ここぞのタイミングでぶっ放してくれたらしい。
多分正太郎長官の判断だろう。そして、開発したての武器にも関わらず、ティアマトの力の核となる雨の元を打ち砕いてくれたというわけだ。
やっぱり、皆凄いな。
唯野仁成は、担架で運ばれながら、犠牲者は出ていないか医療班のクルーに聞く。死者は出ていない。
そう言われて。漸く安心して、意識を手放す事が出来ていた。
女神転生シリーズではどうしてもずっと「上の中」くらいの立ち位置だったティアマト。
最新作でその凄まじい強さが再評価されたのは、個人的には嬉しかったです。