理解者を増やしていたヒメネスもだったのです。
ただそれは、ヒメネスは知らない事ではあったのですが……
艦橋に集まる。サクナヒメは消耗が激しいので、おにぎりを口にし。メイビーが複数召喚した回復の魔術を使う天使が回復を掛け続けていた。
艦内、それも艦橋だが。こればかりは特例として認めてもらう他ない。
一旦プラズマバリアを展開し、野戦陣地とプラントは自動修復機能に任せる。
まずは、何があったのか、話をしてすりあわせをする必要があった。
唯野仁成が、ログを提出する。
内容を見て、流石に失望の声を上げるクルーも多い。クルーには一神教徒も多いのである。それは、マンセマットの言動を見れば、流石に失望も隠せないだろう。
一方で、ゼレーニンを守りきったラジエルの事もある。
天使がそのまま邪悪であると言う理屈がなり立たないという事に、安心するクルーもまた多い様子である。
ゼレーニンは辛そうにしていた。ラジエルの復活はかなり難しいという。
あのマンセマットの抜き手で、何か変な呪いのようなものを仕込まれたらしいのだ。データがおかしくなっているという。
悪魔合体して、更に高位の大天使にすることを提案する声もあったが。ゼレーニンが、すぐにそれを受け入れられるかは微妙な所だった。人は其所まですぐには成長できないのだ。
唯野仁成が、あった事を説明し終える。今度は、真田さんが説明を開始した。
「此方はまずライトニングの停泊していた空間に乗り込んだ。 そうしたら、凄まじい数の天使が待ち伏せしていてな」
「天使が」
「それも、方舟を見るや否や総攻撃を掛けて来た。 此方も応戦して撃退したが、流石に肝が冷えた」
真田さんが苦笑い。
スペシャルを展開して天使達を撃退した後、方舟のプラズマバリアでライトニングのプラズマバリアを中和。
内部に乗り込んだという。
時間がないなか、手分けして技術班で内部を探す。
その際に、おぞましいものを多数見たそうだ。
具体的な話は後にするとして。ともかく動力炉を発見。真田さんが総力を挙げて停止したが。生物的な装置がついていて、とても通常の状態には見えなかったと言う事だった。
「動力炉は何とか止めたが、ライトニング内部の惨状は記録するべきだと判断した」
「どういう、事ですか?」
「ライトニングはやはり、シュバルツバースに入る前から地獄と化していたようだ」
ゼレーニンの見た映像などのログから、ライトニングから持ち込んだとしか思えない物資が、マンセマットの神殿にあるのは確認されている。
どれもこれも、外では目が飛び出るような値段がつく調度品ばかりである。
それだけではない。
ライトニングの方のデータも見る。なるほど、これはこれは。唯野仁成も、鬼畜外道の仕業は散々見て来たが。
確かに記録し、後に公開すべきだと思った。
恐らくサリエルやカマエルはライトニングに乗ってシュバルツバースに来たのだろうが。
奴らは来る途中、奴らが言う所の罪人を使って遊んでいたのだ。
映像が残されている。
改造されて、歌を歌うだけの生体機械にされたもの。
家具にされたもの。
道具にされたもの。
それらを見て、カマエルとサリエルは笑っていた。罪人には相応しい末路だと。その者達が罪人である事は否定しない。
だが、カマエルとサリエルも同類である事はこれで証明された。
そして、マンセマットも言っていたが。最終的にライトニングに乗っていた人間達は、人間爆弾に変えられたジャックを除いて、全員マグネタイトにされ食われてしまったらしい。
ゴア隊長が、押し殺した声で言う。珍しく、本気で怒っているのが分かった。
「私も米国で産まれた一神教徒だ。 だから信じたくは無かったが、現実を見た以上受け入れざるを得ないだろう。 天使の全てが光の使徒と呼ばれるに相応しい存在ではないようだな。 少なくともマンセマットとその一党は敵だ」
「エリダヌスにいる連中はどうなんですかね」
ヒメネスが余計な事を言うが。
それについては、次にバニシングポイントを超えるときに確認すると、正太郎長官が答える。
まあ気持ちは分からないでもない。
ヒメネスは典型的な無神論者だろうし、最初からマンセマットを毛嫌いしていた。だから小気味が良いとさえ感じているかも知れない。
唯野仁成はそこまで単純に考えられない。
実際に、命がけでゼレーニンを守り。そもそも唯一絶対の神に対する信仰の歪みを糾弾したラジエルの存在もある。
ラジエルがいなければ、躊躇する天使はもっと減っていただろうし。
恐らくだが、あの天使達の拠点から生きて戻る事は出来なかっただろう。
いずれにしても、ライトニングの動力炉は既に外し、武装なども解除。もう動かす事は出来ないという。
最終的に、このシュバルツバースを出る時に、牽引して回収する事にするそうだ。
更に、今後の事も話す。
アーサーが注意をしてきた。
「マンセマットと戦闘状態になった事で、敵対的な勢力が一つ増える事になったことは事実です。 これからこのグルースを探索する事になりますが、クルーの皆はくれぐれも注意してください」
「ああ、分かっている。 それで、具体的な探索についてだが」
「混沌勢力の拠点に足を運んでみたいんだが」
ヒメネスが言う。
ちょっと無神経では無いのかと、艦橋要員の何人かが視線を向けるが。
昔とかなり違ってきているヒメネスは、勿論フォローも忘れなかった。
「ああ、勘違いしないでくれな。 此処にいるマンセマットとその手下がゲロ以下だってことはもう誰も疑う事はないだろうよ。 だが混沌勢力の悪魔共はどうだ。 奴らも同じなんじゃないかって思ってな」
「確かに、混沌勢力よりの今までの空間支配者達の身勝手極まりない言動を見る限り、その言葉には同意できるわ」
ウィリアムズが積極的に意見を出す。唯野仁成も、それには同意だ。秩序勢力の闇を見た直後とは言え、混沌勢力を逆に信用するのも危険だろう。
ストーム1が立ち上がる。
「姫様は消耗が激しい。 またいつマンセマットが姿を見せるか分からない状態で、外に出るのは危険だろう。 しばらく回復に努めてくれるか」
「おう。 そなたが出てくれるか、ストーム1」
「俺だけじゃない。 もう唯野仁成もヒメネスも一人前だ。 二人ともマンセマット相手に充分戦える。 ケンシロウ、いつものように調査班を連れて周辺の探索を頼めるだろうか」
「……任せておけ」
ケンシロウはそのまま頷く。
また、ライドウ氏はクルーを連れて、周囲を無作為に調査してくれるそうだ。周囲の状況を丁寧に調べないと、この空間は確かに危険すぎる。
「よし、皆すぐに動いてほしい。 真田技術長官」
「はい」
「貴方は休息だ。 ちょっとばかり休んで貰わないと、新しい装備を開発する人がいなくなってしまうからな」
ゴア隊長が敢えて場を和ませるようにそんな事を言ったので。
周囲の空気が、少しだけ良くなった。
その後、春香が提案する。そのまま、艦内に春香の歌を流す。録音ではなく生歌である。
世界最高のアイドルであり。文字通り場の空気を劇的に改善する最高の人間である春香の歌だ。
「天使と戦った」ということで、やはり心の折り合いがつけられていないクルーは少なからずいる。
そういったクルー達の心の負担をどうにか緩和するためにも。
彼女の行動は、絶対に必要なものだった。
マンセマットは歯ぎしりしながら、神殿にある自分の席についていた。既に二つある大天使の席が。同志と考えていた大天使の席が、空になっていて。二度と埋まることはなくなっていた。
一瞬だった。
マンセマットと殆ど同格の実力者であるカマエルとサリエルが、本当に一瞬で倒された。どっちも歴戦の猛者であり、マンセマットと殆ど力も変わらなかったのに。
唯野仁成め。いくら何でも成長が早すぎる。マンセマットは怒りを抑えきれず呟いていた。
あのサクナヒメとか言うデーモンはどうでもいい。あいつは異教の神だ。もとの力を取り戻しているというのなら、まあそれも分からないでもない。ましてやこの過酷な世界である。サクナヒメへ簡単に信仰は集まるだろう。そうなれば強くもなる。
だが唯野仁成はどういうことだ。
奴が連れている悪魔の戦闘力はどれもこれも尋常ではなかった。唯野仁成自身もだ。実際問題、サクナヒメが来るまで持ち堪え。その後はあのサクナヒメの支援までしている。あんな大きな狙撃銃を、乱戦の中まともにマンセマットに直撃させた。どういうことか、未だに理解が出来ない。
天界に戻らない限り、カマエルとサリエルの復活は無理だ。どちらもマグネタイト方式で実体化したのだ。マッカ方式で復活させるのには、それこそ人間が使っていた悪魔召喚プログラムが必要になるが。
そんなもの、誰が使うか。
苛立ちの余り歯ぎしりを続けるマンセマットの前に、覚えのある気配が現れる。
女神デメテルだ。
天使達が困惑するが、マンセマットが手を上げて攻撃を控えさせる。デメテルは別に天使に攻撃されても屁でもないからか、平然としていた。
「何用ですか、オリンポスの豊穣神」
「派手に負けたようですわね。 何とも情けない有様で、苦笑している所ですのよ」
「……っ!」
「まあ待ちなさいな。 貴方の計画は失敗したようですけれども、このまま天界には帰れませんでしょう?」
その通りだ。そして此奴は、嫌みを言うためだけに姿を見せるような奴では無い。
そもそも、この敗戦の経緯が人間達がエリダヌスと呼ぶ空間に展開している天使達に伝わると極めてまずいのだ。
このグルースと人間が呼ぶ事にしたらしい空間は、マンセマットより高位の天使がいないからいい。箝口令を敷くことが出来る。
だが、彼方には七大の一角であるハニエルがいる。
ハニエルは何時でも天界に戻る事が出来、四文字たる絶対神に経緯を報告することが出来るのである。
そうなれば、マンセマットの元から高くない絶対神からの信頼は地に落ちる事になる。
下手をすると、本当に堕天使にされかねない。
「……要求を聞きましょうか」
「あら、聞き分けが良い事ですわね。 現在の状況が如何にまずいかくらいは理解出来ているようでして何よりですわ」
「現状の戦力ではもしも明けの明星やその配下が仕掛けて来た場合、この拠点を維持できませんからね」
口惜しいが、隠しても仕方が無い。
サリエルが展開していた強力な防御魔術がこの拠点の守りの要だった。だがサリエルが死んだ事で一気に弱体化してしまった。
魔術を司るサリエルの力は高く、明けの明星でも簡単に侵入できない壁を作る事が出来ていたのだが。
現在、残った高位天使四百体ほどを使って必死に穴埋めをさせているが、それも上手く行っているとは言いがたい。
更には、この下にある恐らくシュバルツバースにおける最重要戦略目標に対してアタックを続けていたカマエルが倒れたのがもっと痛い。
この下には、掘り出すことに成功するだけで文字通り戦況が変わる存在が眠っていて。戦闘になれていたカマエルでも封印を破れずにいた。
今もシュバルツバースにいる天使達は続々とこの地点に駆けつけているが。
このままだと、マンセマットより高位の大天使が現れかねない。
そうなったら、天使達は此処で何があったか包み隠さず報告する。文字通り、詰みが待っている。
今、手が足りない中。
下手をするとマンセマットら三体の大天使をあわせたくらいの力を持つデメテルの助力は、喉から手が出る程ほしいものなのである。
「此方の要求は簡単ですわよ。 この空間の大母を葬るべく動く人間達に、余計なちょっかいを出さない事」
「……? はあ、まあそれならば別にかまいませんが」
デメテルは秩序陣営の悪魔だ。恐らく、混沌に傾いている現在のシュバルツバースを良く想っていないはず。
それはよく分かるから、人間達をそのまま泳がし、大母と共倒れにさせるという事については分かる。
ただ、これでも相当な数の天使を従えているマンセマットだ。指揮系統は混乱しているが、それでも直接従う天使だけで相当数になる。それらをデメテルが従えた場合、嘆きの胎と呼ばれる空間にいる囚人を解放することくらい出来そうなのだが。
そういえば、此奴は動きがよく分からない。
天使達を監視につけようとしても上手く行かない。混沌に傾いている嘆きの胎では、天使は攻撃の対象になる。弱い天使はあっと言う間に看守悪魔に狩られてしまうのである。
とりあえず、此方には現時点でマイナスとなる提案はされていない。
だが、タダより高いものは存在していないのだ。
それはマンセマットも、陰湿な陰謀に関わってきたから知っている。
「その代わり、此方としてはこの天使の要塞の守りにこの子を貸し出しましょう」
「!」
姿を見せたのは、全身が左右で色違いになっている女だった。全裸だが、別に古代の女神では珍しくもない。両側で白黒なので、非常に強烈な対象となっていて。更に体の中央部は腐敗している様子だ。
此奴の気配は、どちらかと言えば中庸か。そうなると、その種族は女神ではあるまい。
「ペルセポネ、挨拶をなさい」
「はいお母様」
「ペルセポネ……!」
聞いた事は当然ある。ギリシャ神話において、オリンポス神族同士の内ゲバに登場する神格だ。
一般的なイメージでは冥府の神と言うことで邪悪な存在と思われることが多いオリンポス神族のハデスだが。実際には温厚で良識的であり、性格が捻くれているオリンポス神族の中では珍しい真面目で優しい神である。
ところがそんなハデスが犯した過ちがある。それがペルセポネの逸話だ。
デメテルの娘であるペルセポネに一目惚れしたハデスは、略奪婚を敢行。嘆いた豊穣神デメテルによって、地上には春が来なくなってしまった。更にペルセポネは冥府の石榴を口にしてしまったため地上に戻る事が出来なくなった。
陰湿な内ゲバの結果、一部の季節だけペルセポネは地上に戻ることが出来るようになったが。
この争いは、オリンポス神族内の元々硬くもない結束にひびを入れる事になる。
その主役が此処にいる、左右で色が違ってしまっている神ペルセポネだ。序列としては冥界でも二位に位置する高位の神であり、左右で生死をそれぞれ司っていることになる。言う間でもなく、かなり強力な神格である。
シュバルツバース内での種族としては死神に相当する。
「この子は境界を作り出す能力を持ち、其方で失ったサリエルと同等の働きをしますわ」
「……」
「貸して差し上げます。 勿論粗末には扱わないように」
「分かりました。 中庸の魂を持つ神格を受け入れるのは心苦しいですが、まあそのくらいなら良いでしょう」
マンセマットには、復讐心さえ抑えればいいというだけで、デメリットがない。
また、カマエルを失った以上地下の最重要存在には接触できなくなるが。はっきりいって混沌陣営にあの存在を抑えられるよりは遙かにマシだ。
だが、話が上手すぎる。
デメテルがによによしているのも、異様な不気味さを感じさせた。
「デメテル殿。 私には何らデメリットがない取引に感じます。 本当の狙いは何なのか、口にしていただけませんか? 貴方にとっては命の次に大事な娘を貸し出すほどの事ですからね。 私に何を求めておいでで?」
「口にしないとわかりませんの?」
「幾つか可能性は思い当たりますが、正直な所、タダより高いものは存在しないと考える程度には用心深い性格ですので」
「ならば多少此方も譲歩いたしますわ。 理由は簡単。 動いている明けの明星を貴方が引きつけておいてほしい。 それだけですわよ」
何。明けの明星が、この空間にいるのか。
確かに明けの明星がシュバルツバースにいる事は分かっていた。奴の大幹部四体が、シュバルツバースの最深部に潜んでいることも知っている。目的は大体見当がつくが、戦略的な観点から言うとこの土地の方が重要なので放置していた。
だが、明けの明星本人が此処にいて。更に気を引くとなると、途端にマンセマットの引き受けるデメリットが大きくなる。
引きつった笑みが浮かぶ。マンセマットに、肩をすくめてみせるデメテル。
「明けの明星とは私も流石に正面からやり合いたくはありませんの。 そこで貴方を使ってハーヴェストしたい。 貴方も身を守るための力を得られて互いにウィンウィンと言う奴ですわ」
「ふ、ふふ……そうですか」
どれくらい明けの明星が本気かにもよるが。最悪の場合、天界の大幹部を連れてこないと勝負が厳しくなる。
例えば最強の天使であるメタトロンや四大がそれに当たるが。
四大なら兎も角、メタトロンは極めて残虐性が強く、はっきりいってマンセマットの手には負えないだろう。
やはり、タダより高いものはないか。
デメテルは恐らくだが、マンセマットよりも更に周到に糸を張り巡らせて、何かを目論んでいる。
元より海千山千の古代神格だ。幼い子供に見えてもその実力は文字通り超越。そして頭脳も、と言う事か。
「それでは失礼しますわ。 そうそう、娘に何かあったらこの辺りを全てハーヴェストさせていただきますので」
「……分かっています」
一礼し、姿を消すデメテル。
大きな溜息が、マンセマットの口から漏れていた。無機的な部下達に、ペルセポネを案内させると。
また苛立ちから、マンセマットは爪を噛み切ってしまっていた。
今のデメテルがその気になれば、マンセマットと天使達ごとこの拠点を潰せる。その事実が、苛立ちを更に大きくさせていた。
さいふぁーは空間が歪んだ大母の中空に浮いたまま、自身に把握できる全ての様子を俯瞰していた。勿論さいふぁーも全能などではないが、概ね何が起きたかは把握している。マンセマットの練りに練っていた計画が失敗したのは意外にも驚きだった。十中八九、ゼレーニンはマンセマットの提案を聞くと思ったのに。やはり周囲に恵まれると、人間というのは成長するものらしい。
いずれにしても、可能性を切り開いたことは、例え所属する陣営が違っていても称賛に値する。勿論ゼレーニンに直接接触は出来ないが、見ていたときには拍手をしていた。勿論皮肉からでは無い。そういう存在なのだ、さいふぁーは。
伸びをして、次の動きを考える。
現時点で、手持ちの駒は全て別の空間に送り込んでいる。
可能性を見る為に必要な手は全て打っている。問題は、ここからマンセマットと人間達がどう動くか、だったのだが。
デメテルが変な動きをしている。
前に接触して以降、互いに不干渉を貫いていたが。嘆きの胎から久々に出て来たと思ったら、何をしている。
嘆きの胎の囚人は後二柱。どちらも解放されると、混沌に大きく傾いているシュバルツバースが揺らぐ。
それ自体は一向にかまわない。シュバルツバースそのものは消えてしまってもいいと思っている位なのだ。
たくさんの可能性を潰してしまうこんな狂った地球の意思の顕現は、制御された方が良いに決まっている。
混沌陣営の悪魔が聞いたら目を丸くしそうだが、これはさいふぁーの嘘偽りない本音である。
デメテルはどうやらマンセマットに大事な娘を貸し出したらしい。死神ペルセポネか。強力な神格で、魔術の防御を担当させたら確かにさいふぁーにとってもかなり五月蠅い事になるが。
今のところ、実はさいふぁーは、この空間に眠っている重要な戦略的目標を掘り出そうと思っていない。
計算の結果だ。どうせマンセマットにあれの守りは破れない。前はカマエルが必死にアタックを続けていたが、戦力を失うだけだった。単純な武力ではカマエルに劣るマンセマットでは、どの道無理である。
その上、この空間に眠るアレは、波動が天界にいる同一存在と違っている。
恐らくだが、このシュバルツバースの特性故だろう。
故に敵対する意味もないし、掘り出す意味もない。更には戦う理由も無い。放置が一番である。
だが、放置出来ないのはデメテルだ。
あいつは何を考えている。情報を交換して以降、動きは観察していたが、どうにも最終目標が読めない。
恐らくだが、ただの使い走りではないとさいふぁーは判断しているが。それ以上が分からないのだ。
全能では無いのだから仕方が無い。全能の存在など恐らく宇宙のどこにもいない。理由は簡単で、全能のパラドックスを突破出来ないからである。ましてやこんな宇宙の片隅にある小さな星にいる精神生命体が、全能を気取るなどそれこそへそで茶が湧く話である。
デメテルが嘆きの胎に戻った。変な仕掛けをしていった様子は無い。腕を組んで考え込む。まさか奴の目的は、本当にただ人間達に大母を倒させることだけなのか。この空間の大母はあまりやる気がないが、実力はティアマト以上である。そして人間達の能力を考えると。
突破出来る可能性は高い。あの唯野仁成の成長力も優れているが、他の連中が異次元過ぎるからだ。
奴らの実力は、さいふぁーでも油断出来ない。更に唯野仁成やヒメネスの力量が上がってきた今、更に隙は小さくなっているとも言える。
しばし考え込んでいると。人間達が動き出す。
あのサクナヒメは疲弊が酷いようで休憩中だが、既に人間達は戦力をローテーションしながら、この危険な空間を探索できる所まで実力を上げている。
いずれにしても、直接接触は避けた方が良さそうだ。
一旦、混沌勢力の悪魔が集っている場所から距離を取る。さいふぁーとしても、可能性に変動を自分で生じさせたくは無い。
あくまでいざという時に背中を押す。それで生じる可能性をみたいだけなのだ。
自分の思想を強制し、唯一絶対の神の下にただ従順な奴隷となる事を要求する存在と一緒にはなりたくない。
ただ、それだけの理由だ。