Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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卑劣な策を弄した堕天使オリアスを無事に撃破。

誘拐されたクルーを救出する事には成功しましたが、まだまだとても安泰ではありません。

落下の衝撃で方舟は大きなダメージを受けており、修理の最中。

それどころか、まだ此処が何処かもよく分かっていない状況です。

ただしゴア隊長が死んでいない事、まとめ役である正太郎長官が冷静であることもあって。

即座に方舟のスペシャル達は立て直しに動きます。


3、アントリアの地

レインボウノアの幹部が集まる。とは言っても、会議室のような無駄な部屋は作っていない。

 

この方舟は元々長期生存のために、色々な機能を盛り込んでいるのだ。

 

サクナヒメのための神田のために内部に大きなスペースを作ってもいる。

 

よって、会議は艦橋で行う。

 

現時点で、幹部に欠員はいない。死者も最初の戦闘では出さなかった。

 

それだけが救いか。

 

先ほどようやくアーサーが復旧した事で、どうにか一息はついたが。

 

それでも、そもそも状況が最悪であると言う事態は、何ら変わっていないのもまた、事実だった。

 

真田が咳払いして、アーサーに話をさせる。

 

なお、この会議の様子は、一般のクルーにも公開している。

 

隠すようなやましい話はないからである。

 

「それでは現在の状況について説明します」

 

こう言うときは、AIが一番便利だ。

 

プレゼンを行うのは、どうしても人間だと才能依存の「技術」が必要になってくるが。

 

状況を客観的に分析し。

 

最適解に直線で辿りつくには、どうしてもAIの方が有利である。

 

これは真田が、二度の旅で良く知っていることでもある。

 

AIは得意分野においては、人間を遙かに凌ぐ性能を持っているのだ。

 

「まず現在レインボウノアは、シュバルツバース内部に不時着しています。 不時着の過程で分析した幾つかの事が分かっています。 まずこのシュバルツバースは多層構造になっていて、複数の異なる小さな宇宙とでも言うべき空間が多数存在している、と言う事になります」

 

「ではこの場所は、その一つに過ぎないと」

 

「そういう事になります」

 

「続けてくれ」

 

真田の指示で。

 

アーサーは続ける。

 

まず何故このレインボウノアが不時着したのか。

 

それは、この今いる階層に入った後。一旦浮上して状況を確認しようとした際に、猛烈な抵抗を浴びたから、だという。

 

複数ある空間の穴を通ってこのレインボウノアは此処まで来たのだが。

 

その穴は半ば一方通行とでもいう仕様になっており。

 

プラズマバリアが、モロに弾かれたのが原因だという。

 

「流石に核融合の膨大なエネルギーでも、小さな宇宙そのものを突破は出来なかったと言う事だな」

 

「そういう事です。 そんな中、即座に方針を変えた正太郎艦長の判断が皆を救いました」

 

「……更に早く判断出来ていれば、被害を抑えられかも知れないが」

 

正太郎長官が項垂れる。

 

流石に年だ。こう言うときには、弱気になるのかも知れない。

 

いずれにしても、この土地で当面は調査活動を行う必要があるとアーサーは言う。

 

勿論反発の声が上がる。

 

デモニカの通信を通じて、聞こえてくる。

 

こんな場所からは一刻も早く戻りたい。

 

そういう声もあった。

 

まずは生きて帰るべきだろう。

 

そんな声もあった。

 

だが、不可能だとアーサーは断言する。

 

「侵入時にデータは可能な限り取りましたが、最低でも四つの空間を介してレインボウノアはこの空間に到達しています。 観測できただけでも四つです。 それらを遡る必要はあるでしょうし、空間の穴を通ったときに、同じ空間にたどり着けるかすらも分かりません」

 

絶望の声が上がるが。

 

真田は落ち着いているし。ゴア隊長も平然としている。正太郎長官に至っては全く動じていない。

 

春香が促されて、デモニカを通じて声を皆にかけた。

 

「現在、レインボウノアの人員に死者はなく、生存のために必要な物資も一切損失がありません。 まだ絶望するのは早いと考えます。 一つずつ、問題を解決していきましょう」

 

「ありがとう春香。 現在いるこの空間を、アルファベットのAからアントリアと命名します。 このアントリアで情報を収集し、此処からの脱出方法を探す。 それが最優先事項となるでしょう」

 

アーサーの話は論理的だ。

 

文句がある人間もいるようだが。

 

実際問題、他に方法も無いのである。

 

だったら、アーサーの言葉通り、一つずつやっていくしかない。

 

「続けて本船の状況です。 現在レインボウノアの主電源は復旧し、条件……空間の穴を通るという事がクリア出来れば、次の空間へ行く事も可能です。 しかしながら船内ではダメージも大きく、また先の戦いで負傷した人員も多いため、各人の負担は増えます」

 

真田が現在、復旧作業を急ピッチで進めているが。

 

特に兵器関係のコントロールがやられている。

 

それ以外にも問題は多い。

 

敵が、どうやって艦橋にまで侵入したのが分からないのである。

 

懸念事項は山積していると言えた。

 

「それではまずミッションを発動します。 このレインボウノア周辺の状況を調査し、物資の回収、更には安全圏の確保、拡大、勢力の分布の調査を行ってください」

 

「勢力の分布?」

 

「それについてはわしから説明する」

 

一休みしてから戻って来ていたサクナヒメが、艦内放送に入ってくる。

 

艦橋に戻って来たサクナヒメは、少なくとも声に疲れを感じさせる様子は無かった。

 

「戦闘して見て分かったが、此処……あんとりあと名付けたのだな。 まあアントリアでよいじゃろう。 ともかく、此処には支配者となる存在がいるようだが、必ずしも悪魔は好戦的ではなく、一枚岩でも無い様子だ。 勿論敵意を剥き出しにしている連中もいるし、それが主流のようだがな」

 

「支配者はいるが、全ての悪魔の心を掴んでいるわけではない、と言う事か」

 

「それについては俺からも保証する」

 

ライドウさんが捕捉する。

 

ライドウさんによると、悪魔と言うのは自分より強い相手には無条件で従う事が多いそうである。

 

特に混沌勢力の悪魔はその傾向が強く。

 

自分より強い相手が現れた場合は、例えば魔王などの最高位悪魔でも、屈服を抵抗無く行うとか。

 

ここで、悪魔召喚プログラムについて説明をアーサーが行う。

 

そもそも、デモニカには悪魔についての解析機能などを搭載していることを既にクルーには説明しているが。

 

混乱を避けるために。悪魔との会話をサポートし同意があれば相手を従え。データ化して格納しておくことが出来る事は説明していない。

 

この話をすると。特に一神教文化圏の人間は、相当な忌避感を示したようだった。

 

無理もない。

 

多神教の文化圏では、悪魔は必ずしも邪悪の権化ではない。いわゆる鬼神の類が、貢ぎ物などを捧げられることによって人間の守護者に変わる例は幾らでもある。実は一神教の文化圏でも、古くはソロモン王の行使した魔神72柱を見ても分かるように、必ずしも悪魔は邪悪の権化という訳でも無かったのだが。時代を経るにつれて、唯一絶対の神とそれ以外、という形で悪魔や異境の神は邪悪の権化にされていった。

 

真田はその弊害を、右腕に育ってほしいと思っているゼレーニンの発言で特に強く感じている。

 

悪魔を従える、という時点で拒否反応を示す者も多いはずだ。

 

ゴア隊長が咳払いした。

 

「皆の中には抵抗を示す者も多いだろう。 故にこの悪魔召喚プログラムについては、使用は任意とする。 しかしながら、悪魔との会話機能についてだけは必ず起動しておくように。 相手はどんな存在であっても知的生命体だ。 相手の会話から、何か勝機が掴める可能性もある。 上手く会話を出来れば、絶対の危地を逃れられる可能性もある」

 

「し、しかし悪魔と言うのは人間を言葉巧みに騙すものだと……」

 

「勿論その通りだ」

 

通信の中で誰かが呟いたのに、ゴア隊長は的確に反応した。

 

この辺り、部下の統率を良く理解出来ている。

 

「だからこそ、皆は心を強く持ってほしい。 悪魔を逆に騙して従えてやるくらいの気持ちと強かさを持たなければ、此処を生き残る事は出来ないだろう」

 

「……」

 

ゴア隊長の人望は流石だ。

 

いずれにしても、春香の言葉と、ゴア隊長による説明で、隊員達の不安は一旦は収束した。

 

これでいい。

 

更に、アーサーが重要な話をする。

 

「機動班の精鋭は、敵対性が薄い悪魔と接触を図ってください。 この土地に住んでいる知的生命体から情報を集める事が出来れば。 更に状況解決へと進む事が出来ます」

 

「悪魔は嘘しか言わないかも知れないぜ」

 

「複数の証言を照らし合わせて、私アーサーが判断を行いましょう」

 

「そうかいそうかい。 頼むぜアーサー」

 

多分悪態をついていたのはヒメネスか。

 

先の戦闘で、狡猾かつ戦術を使いこなす悪魔達を見て相当苛立っている様子だ。

 

知的生命体と聞いていたが。

 

その「知的」のレベルがまるで違っていたからだろう。

 

確かに相手は練度が低いとは言え、個々の能力が高いため、精鋭の軍部隊も同様である。

 

その上主力部隊の攻撃と同時に、要所に仕掛ける戦術まで実施。更には敢えて殺さず人員をさらい、更なる打撃を狙うという高度な心理戦術まで見せた。

 

そして今後、敵が弱くなる保証などまるでないのだ。

 

オリアスという悪魔がこの辺りの元締めをしていたという話で、真田も軽くデータベースにアクセスしてみたのだが。

 

オリアスはソロモン72柱の中の一柱である。

 

別にオリアスは堕天使の中でも武勇の逸話がある存在ではなく。それほど強大な悪魔でも無い。

 

ソロモン72柱の中には、まったく武勇と関係無いような能力を持っている者が多く、また邪悪でも何でも無い者もいる。

 

狡猾な戦術を使いこなした相手だが。

 

オリアスがこのアントリアの総元締めと考えるのは、まだ気が早いだろう。

 

兎も角、可能な限り情報がいる。

 

まあこれから真田は、壊れている部分の修理と。

 

周囲の解析で忙しい時間を過ごすことになるのだが。

 

いずれにしても、編成が行われる。

 

まず船の守りには、ストーム1とケンシロウが残る。

 

この二人は前から仲が良く、ストーム1は近代戦の専門家でもある。船の構造も熟知しているし、船内での戦闘もそつなくこなす。

 

ケンシロウは悪魔の「気」を覚えたらしく。

 

これから船内に潜伏している悪魔がいないか再調査をしてくれるそうだ。

 

有り難い話である。

 

ライドウさんに頼り切りになるかと思っていた所に、専門家が加わってくれたことになるのだから。

 

外には、ライドウさんが出る事になる。

 

これは、外で調査を行う部隊。中でも主に戦闘を行う「機動班」に対して、悪魔との接し方をレクチュアする事が一つ。

 

強大な悪魔が出て来た場合、対応するために専門家が必要であることがもう一つだ。

 

サクナヒメは居残り。

 

先の戦いで、悪魔の群れを蹴散らす際に、それなりに力を消耗したらしい。

 

神田で回復しつつ、少し力を蓄えるそうだ。

 

何でもサクナヒメは、現時点でフルパワーの二割ほどしか発揮できていないらしく、力も蓄えが余り出来ていないとか。

 

シュバルツバースに来る前、かなり急いで力を蓄えて貰ったのだが。このシュバルツバースでの状況は、彼女でも慣れるのに時間が掛かるそうである。

 

ただし、戦士達の中にはサクナヒメの凄まじい戦いを見て畏敬を抱いた者もいるようで。

 

それがサクナヒメの力に変わってはいるようだ。

 

信仰が力になる。神というのは面倒な性質の持ち主だが。今後は、此処にいる皆がサクナヒメを信頼すれば。それだけ力が強化されるのも早くなっていくだろう。

 

また、今回の戦いで、スペシャル以外で著しい活躍を見せた二人。

 

ヒメネスと唯野仁成は、今後機動班にて次世代の主力を期待する事になる。

 

人員は現場で更に育成して伸ばしていくのが当たり前だ。

 

二人とも悪魔召喚プログラムの使用には忌避感を持っていないようなので、ライドウさんの話をすぐに飲み込んでくれるだろう。

 

頼もしい話である。

 

すぐに部隊が編成され、動き始める。

 

機動班クルーには、調査班も同行する。当然戦闘訓練を受けていない者もいるので、戦闘力に問題があるが、その中の何名かは、悪魔召喚プログラムを使うことに同意している。それである程度戦闘力を補える。

 

まず最初にやるべき事は、周辺の安全確認だ。

 

プラズマバリアの範囲を拡げ、艦周辺まで絶対安全圏を拡大する。

 

ライドウさんが内部も、艦の外部も既に確認してくれているので、潜伏している危険な悪魔はいないはず。

 

もしもプラズマバリアを破れるような奴がいた場合は。

 

その時は、もう内部のクルーに多数の被害が出ている。

 

現時点では問題はないと判断していい。

 

降車した調査班が、まずはサンプルを採取していく。土から何から、順番にである。

 

更に、真田の所に連絡が来る。

 

「此方ラボぜよ」

 

「うむ。 何か分かったのかね」

 

「真田さん、これは凄い代物ぜよ。 コホン、メイビーが持ち帰ってきてくれた何か得体が知れないものを調べたんだが、ちょっと情報を其方に送る」

 

「どれ、確認する」

 

ラボには薬だけでは無く、真田の研究室ほどではないにしても相応の設備が揃っている。

 

武器などを作る為の3Dプリンタだけではなく、薬を生産する設備。

 

そして解析装置など、である。

 

これは真田の研究室がやられたときに備えて、機能分散している事もあるのだが。

 

現時点で真田は船内の破損箇所を復旧するために忙しいので、ラボに外部の解析は任せてしまっているのだ。

 

データを見る。

 

なるほど、これは凄い。

 

オリアスの体内から見つかった物質だが、地上でも宇宙でも見た事がない、極めて特殊な結晶体だ。

 

どうやったらこんな風な結合をするかよく分からないが。

 

はっきりしているのは、分子レベルで情報が詰まっている、という事である。

 

なるほど。

 

悪魔は精神生命体であるという事は聞いていたが。

 

悪魔召喚プログラムの内容を確認する限り。

 

情報生命体でもあるわけだ。

 

高位の情報生命体は、一度物質化さえしてしまえば、体内にこのような恐ろしい密度の情報集積体を作り出す。

 

下位のものも作り出してはいるのだろうが。

 

何度か見た、死ぬときに消えていくあの様子からして。

 

すぐに分解して、空気やらに溶けてしまうのだろう。

 

これは凄い発見だと、真田は感心しつつ。

 

ラボに礼を言う。

 

そのまま、外の状態を確認。

 

調査班は、必要なサンプルを持ち帰ってきていた。

 

まず土壌だが、汚染物質が酷すぎて話にならない状態だ。

 

氷の洞窟という事だが、-90℃という過酷な環境で凍っていて正解なのかも知れない。こんな所で氷が溶け出したら、どんなおぞましい事態になるか分かった事ではない。

 

住んでいる悪魔達は平気なのだろうが。

 

デモニカ無しでは、人間はあっと言う間に死んでしまう。

 

だが、土壌の成分は、汚染物質だけではなかった。

 

ボーキサイトや高純度の銅。更にはプラチナをはじめとする貴重な物質が、わんさか含まれているのである。

 

汚染物質の除去が手間だが、これは有り難い。

 

今回の敵の奇襲で失った物資は決して少なくない。

 

すぐに調査班に連絡し、プレハブを作らせる。重機も持ち込んでいるのだが、それも使う。またラボに指示して、3Dプリンタで加工機器を作成させる。

 

プラントを構築して汚染物質を船外にて排除し。そのまま貴重な物資を取りだして、回収するためだ。

 

アントリアに永住するつもりはないが。

 

ある程度の期間、ここは離れられないだろう。

 

また水についてだが。

 

彼方此方に凍り付いた水が存在している。

 

当然汚染物質塗れであったが。

 

この汚染物質も、取り除いてしまえば普通に水として格納できる。

 

持ち込んでいる水は充分な量があるが。

 

今後、水が足りなくなった時の事を考え。

 

ここのプラントで作成した機器を使って浄水を行い。

 

元々持ち込んでいる水を補うのは、充分にありだろう。

 

「此方ケンシロウ。 船内外の安全確認完了」

 

「よし。 ライドウさん、通信は届いているか」

 

「ああ。 問題ない」

 

「船外を悪魔によって監視してほしい。 プラズマバリアを一旦解除する」

 

連携を取りながら、順番に作業をしていく。

 

ゼレーニンらに指示して、ラボで解析したオリアスの残骸を調べさせつつ。真田は方舟の修理を進める。

 

応急処置だった箇所を本修理し。

 

更に放置していた軽微な損害を全て直していく。

 

インフラ班には苦労して貰う事になるが。

 

交代で休んで、何とか凌いで貰う事になる。

 

茶を春香が淹れてくれたので、ありがたくいただく。ただ、しばらくは休憩どころではないが。

 

ゴア隊長が声を掛けて来た。

 

「真田技術長官、よろしいかな」

 

「なんなりと」

 

「これから私は、ライドウ氏のレクチュアを視察する。 悪魔との接し方を機動班に編制したクルーが覚えるのと同時に、私も習得するつもりだ」

 

「前線に出るのはお控えください」

 

そうもいかんとゴア隊長は言う。

 

今回は死者こそ出なかったが、船員の7%近くが負傷している。勝利ではあったが完勝ではないのだ。

 

そしてアントリアを出て他のシュバルツバース内世界に出向いたとき。

 

もっと手強い悪魔が出てくる可能性は否定出来ないのだ。

 

「現場を知らない上官は無能だ。 私も前線で現場をしっかり把握しておく必要がある」

 

「そうまでいうなら止めませんが、貴方は死んではならない人間だ。 それを理解しておいてください」

 

「うむ」

 

敬礼をすると、ゴア隊長は護衛を連れて艦橋を出ていった。

 

正太郎長官が、流石に疲れたらしく、休憩に出る。

 

艦橋のオペレーターも交代で休ませているが。

 

まだしばらくは、状況は安定しないだろう。

 

アーサーが声を掛けて来る。

 

「外で講習が始まったようです」

 

「モニタに映してくれ」

 

「分かりました」

 

「皆も、手が開いているなら見ておくように」

 

真田自身は、サイボーグ化した手を限界速度で動かして、補修作業を続けている。

 

現在クリティカルな問題は殆ど片付いているが。

 

残念ながら、不時着の際に発生した軽微な損傷は殆ど治せていない。

 

こういう軽微な損傷が後々効いてくる。

 

それにしても、これだけタフに作ったのに、突入早々このダメージである。

 

これでは、もしも初期案の通り四機で突入とかしていたら、どうなったのか想像するのも恐ろしい。

 

モニタに映ったのは、整列してライドウさんの話を聞いている戦闘担当の機動班と、少し後ろで見ているゴア隊長。それに護衛の数名だった。なお、先の戦いでサクナヒメがつれていったヒメネスと唯野仁成も混じっている。

 

「悪魔召喚プログラムについて、細かい機能を説明していく。 基本的に悪魔と言う存在は、契約を人間より遙かに重要視する傾向がある。 契約を結ぶのは難しいが、契約さえ結べばそれを裏切る事はない」

 

悪魔召喚プログラムの白眉は、その契約をプログラム化し、悪魔につけいる隙を与えない所にあると言う。

 

ライドウさんの時代には、色々な方法で悪魔を従え。いつ寝首を掻かれるか分からない状態で対応していたらしいので。

 

それは確かに革命的ではある。

 

「また、悪魔召喚プログラムでは、悪魔との会話もサポートする。 相手につけいられるような会話は自動的にシャットアウトされ、相手が文句を言いようが無い方向に話を進めて行く事が出来る」

 

「それはまた便利だな。 人間召喚プログラムも作ってくれないか?」

 

「ヒメネス」

 

「分かっていやすよ」

 

ゴア隊長がたしなめる。

 

皮肉屋のヒメネスの言う事も分かる。

 

もしも契約を悪魔が重視し、一度結べば破らないというのであれば。

 

それは人間よりもよっぽど信用できると言う事だ。

 

ヒメネスは経歴を見る限り最貧国のスラム出身で、人間が如何に残忍で嘘つきか間近で見て来ているだろう。

 

契約なんてあってないようなものだった世界である。

 

そんな所で生きてきたヒメネスは、それは即物的にもなるし。言動だって実利を重視するようにだってなる。

 

「この悪魔召喚プログラムは起源が良く分かっていない。 ただ、古くはナカジマという天才プログラマーが作ったのでは無いかという説があるが、俺自身が見たわけではないので何ともいえない。 しかしながら、俺が信頼している何名かの人物の証言があるので、信憑性は高い。 その基礎となった悪魔召喚プログラムを、現在はスティーブンという車いすに乗った人物がばらまいているのだが、この人物は恐らく人間ではない」

 

「ブラックボックス化されていると聞いているが、そのような経緯があったのか……」

 

「世の裏側には悪魔召喚プログラムを使って活動している人物がかなりいて、それら有志によって検証作業は徹底的に行われている。 俺自身も使ったことがあるが、結論としては先に述べた機能を完璧に実行する、それ以上でも以下でもない。 故に堅牢性は抜群に高い。 そういうものだ」

 

まずやってみせると言って。

 

ライドウが前に出る。

 

興味を持ったのか、妖精としか形容できない小型の悪魔が、彼女によっていくのが見えた。軽く調べて見ると、妖精ピクシーであるらしい。人間を道に迷わせる存在であるそうだ。

 

ライドウさんに聞いたが、妖精という存在は日本の妖怪並みに多彩で、そもそも人間がイメージするような陽気で優しい牧歌的な種族ではないそうだ。性格は非常に狡猾で、人間に害を為す者も多いという。

 

要はくせ者と言う事だ。

 

以前聞いた分類では、どちらかというと中立の中の中立に属する、バランス的には中庸の権化だそうだが。

 

それが狡猾極まりないというのだから、色々考えさせられる。

 

会話を始めるが、ライドウ自身は口を動かしていない。

 

ただ、相手側の単純な要求と。

 

それに対してイエスノーでの返答を、悪魔召喚プログラムが実施している。

 

やがて、仲間にするということで契約が成立したらしい。

 

悪魔を仲間にする場合、仲「魔」と称するらしいが。

 

まあそれはいい。

 

見本を見て、なる程と頷く者。

 

妖精とは言え、悪魔を従えるのかと、怖れる者。

 

反応は両極端だった。

 

「まずはこの機能について学習して貰う。 ただ、各自覚悟してほしい。 デモニカでサポートされているが、基本的に自分より弱い相手には悪魔は絶対に従わないし、相手の要求を全て呑んでいたら丸裸に剥かれる。 悪魔と言うのはそういう存在だ」

 

ライドウさんが、皆に何かを配る。

 

マッカというらしい。

 

悪魔の死骸に、きらきら輝くものが落ちていた。それのようだ。

 

先ほど説明を受けたのだが、悪魔の間で使われている通貨で。兼餌だそうである。

 

マッカは食えば悪魔の力になるし。

 

交渉の材料にもなる。

 

何でも魔界と呼ばれる場所で、エネルギーを形にして作り上げているそうで。人間界で流通している紙幣や硬貨とは根本的に別の通貨であるのだそうだ。昔は金が使われたこともあったらしいのだが、魔界でも金は貴重なため単純なエネルギーに切り替えたらしいとライドウさんが説明してくれる。

 

魔界が実在するのも驚きだが。

 

それだと少し疑問には思う。

 

このシュバルツバースは、魔界ではないのだろうか、と。

 

まあいい。

 

まず唯野仁成が前に出て、同じようにピクシーを仲魔にするべく話を始めた。

 

悪魔の要求に対して、唯野仁成はそれなりに巧みに交渉していたが。

 

ネゴシエーターとしての能力も持っているのかも知れない。

 

元々エリートとして今回の作戦に参加した人物ではあるのだが。

 

なかなかの逸材だ。

 

そういえば、あの気むずかしいヒメネスが好意的に話をしている数少ない相手である。実力を認めているだけではなく、話がしやすいという事もあるのだろう。

 

やがてピクシーは仲間になることを承知。

 

唯野仁成のデモニカスーツについている、小型PCに入っていった。

 

つづいてヒメネスが出るが。

 

ヒメネスは、より荒々しそうな悪魔を選ぶ。真田もデモニカ越しに調べて見るが、妖鬼オニと出ている。

 

はて。

 

オニは見れば分かる。妖鬼というのは分類だろう。それはいい。問題はそこでは無い。

 

ライドウさんが召喚したオニとは、雰囲気が違う。どういうことだ。

 

真田は先に、ライドウさんに連絡を入れておく。

 

「後で確認したいことがある。 クルーが有した悪魔のデータを、此方でも精査するが、出来るだろうか」

 

「できる筈だ」

 

「分かった。 後でクルーに連絡を入れた上で対応する」

 

今、ヒメネスと交渉しているオニは、サクナヒメに鏖殺されたオリアスの配下の一体であるらしい。

 

戦力差に戦意喪失して、今はこうして話に応じているわけだが。

 

一歩間違えば、殺し合いになっていただろう相手だ。

 

だがヒメネスは抵抗を感じている様子は無い。

 

むしろ荒くれ同士、気があうかのようで。

 

話をすいすいと進めて行っている。

 

やがてオニはヒメネスの仲間になることを承諾した。

 

順調だな。

 

そう判断して、視線を一旦そらし。修復作業に注力する。

 

少し疲労が溜まってきた。

 

今抱えているタスクを後幾つか処理したら、仮眠を取る事にする。

 

タスクを処理しているうちに、ゴア隊長も含めて機動班全員に、悪魔を仲間にする方法は伝わったらしい。

 

研修終了、というわけだ。

 

「悪魔召喚プログラムにはまだ機能があるが、一旦はこれでいいだろう。 応用機能については、各自の保有悪魔が増え次第説明する」

 

「ありがとうライドウ氏。 これで機動班の戦力は倍増する」

 

「……話してみて分かったと思うが、悪魔は狡猾だ。 人間の価値基準で美しかったり可愛らしかったりするような悪魔が一番危ない。 各自気を付けて対応してほしい」

 

そのまま、ライドウさんはゴア隊長の背後に控える。

 

あくまで顧問という態度を崩さない訳だ。

 

この辺りが、クルーが得体の知れない悪魔使いと、ライドウさんを拒否しない要員になっている。

 

出過ぎないことを、ライドウさんは知っているのだろう。

 

「それでは、これより機動班は何班かに分かれ、行動を開始する。 アーサーの出したミッション通り、周辺の安全確保と地理の把握、情報の収集が最重要課題だ。 好戦的な悪魔は近場にはもういないと思うが、それでも最低でもフォーマンセルで動き、一人になる事は避けるように。 生理的反応を覚えたら即時に方舟に帰還せよ」

 

苦笑いする者も出るが。

 

そもそも外は-90℃。

 

デモニカを脱いだら即死に近い状態になる。

 

デモニカは、着ているときのストレスを極限まで軽減する造りにはなっているが。

 

それでも、着ていればそのうち「ある事が当たり前」になってしまうかも知れない。

 

そういう危険は、常に意識しておかなければならないのだ。

 

ゴア隊長は、麾下の手練れを連れて、自身は方舟近くに留まる。ライドウさんは、少し距離を取って、周囲の気配を探っている様子だ。

 

ストーム1が艦橋に来た。

 

丁度休もうと思っていた所だ。有り難い。

 

「ストーム1か。 丁度良い。 艦橋の守備を頼むぞ」

 

「それはかまわないのだが、戦闘記録を見て気になる事があった」

 

「何かね」

 

「敵は明らかに人間の組織戦を真似てきている。 以前言われた事を覚えているだろうか」

 

頷く。

 

違和感は真田も感じている。

 

「混沌勢力の悪魔は、秩序勢力の真逆の性格で、独立志向が強いと」

 

「そうだ。 おそらくあのオリアスはこのアントリアの支配者ではないだろうが、いずれにしてもアントリアの支配者が軍事調練をしているのは確実だ。 それも人間式の、な」

 

人間を馬鹿にしきっているはずの高位悪魔が、そんな事をする筈が無い。

 

ストーム1は言い切る。

 

真田も同意見だ。

 

幾つかおかしいと思う点があったので、後で資料を確認するつもりである。

 

「真田技術長官。 周囲の安全が確保出来たら、ケンシロウに方舟の内部は任せて俺が外に出たいが、かまわないだろうか」

 

「君は出撃のグリーンライト持ちだ。 ただ、私だけではなくゴア隊長に話はつけてくれ」

 

「それは勿論承知している」

 

頷くと、艦橋を任せて真田は休む事にする。

 

医療室には、睡眠と回復を促すカプセルベッドがあるが、電気を食うので普段は普通のベッドを用いるようにしている。ただ今は、出来るだけ短い時間で効率的に回復したい。同じ事を考えているようで、正太郎長官もカプセルベッドを使っていた。

 

医療スタッフのチーフであるゾイが声を掛けて来る。

 

ベテラン医師の彼女は、国際再建機構がスカウトした逸材である。責任感の強い良い医者だ。

 

「体をサイボーグ化しているとは言え、あまり無理はなさらないように、真田技術長官」

 

「うむ、それは分かっている。 四時間ほど寝る。 ただ問題が起きたらすぐにでも起こしてくれ」

 

「分かりました」

 

腕を食い千切られた重傷者がいたが、義手が用意されている。

 

真田が持ち込んだ技術で、義手も著しく性能が向上している。生身の腕と殆ど変わらない感覚で使うことが可能だ。

 

カプセルベッドに入りながら、真田は次にこなすタスクと。

 

違和感について考えていたが。

 

やがて、心地よい眠りに落ちていた。

 

まだ旅は長い。

 

休めるときに、休まなければならないのだ。

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