Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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4、果ての光景

ストーム1を先頭に、三チームで動く。常に上空にはドローンがついてきている。これらは、プラントで物資を回収して生産したものらしい。あまり大きくは無いので攻撃能力は殆ど持ち合わせていないが、デモニカを更に支援して周囲の状況確認を行ってくれる。

 

更に電波中継器を撒きながら進む。

 

本当に訳が分からない空間で困惑させられる。何も無い場所だと思うと、アントリアのような焼け焦げた街が拡がる。空間の裂け目を通ると、今度は凍った洞窟だ。更に行くと、次はボーティーズのミトラスの宮殿を思わせる場所。今度はショッピングモール。これはカリーナか。

 

ゴミ山に出た。デルファイナスか。三チームで一定距離を保ちながら、周囲を警戒しつつ進む。

 

時々悪魔が興味を持って近付いてくるが、これだけの強力な戦力を前に仕掛けてくる悪魔はそれほど多く無い。

 

ただ多くはないだけでいる。それもかなり強力なのが彷徨いている。

 

倒すには、相応に手間が掛かる。負傷者は一旦足を止めて回復させ、それぞれの悪魔の状態も常に確認。

 

こんな空間だ。

 

慎重すぎるほど慎重に進んでも、それでも足りないほどだ。

 

ゴミ山を抜ける。巨大な蛇の悪魔が、遠くでとぐろを巻いているのが見えた。何か大きな巨人と争っている。何の悪魔だか知らないが、戦いに介入する必要もないだろう。

 

今度は何だろう。冷たい神殿のような場所に出た。フォルナクスかと思ったが、雰囲気が違う。

 

ストーム1が警告してくる。

 

「気温湿度気圧がめまぐるしく変動している。 今回の探索での地図作成は充分だ。 一旦戻るぞ」

 

「イエッサ」

 

すぐに後退を開始。遠くでの戦いは、巨人が勝った様子だが。しかしながら巨人も満身創痍で、その場で倒れてしまった様子だった。

 

見ると辺りには、時々悪魔の残骸らしきものが散らばっている。陣形を組んだまま移動するが、ドローンが時々警告してくる。

 

此処は幻の土地。

 

見えているものが全く宛てにならない。デモニカに表示されるナビを見るが、ルートが完全に意味不明だ。

 

気付くと、隣にいるメイビーが相当に辛そうにしていた。

 

ひょっとすると、見えているものが皆違っているのかも知れない。

 

ヒメネスが警告の声を上げた。帰路の途中の事だ。

 

現れる無数の悪魔。いずれも強い悪魔では無い様子で、此方を警戒している。ヒメネスが銃を向けたまま、威圧的に声を掛ける。他のクルーも皆、既に戦闘態勢を取っていた。

 

「止まりやがれ。 下手な動きをするとすぐにでも撃つぞ」

 

「あんたら、あのでっかい船に乗ってやってきた人間だろ。 戦う気なんかないよ」

 

弱々しい声を上げたのは、老婆のような悪魔だった。襤褸を着込んでいて、額に大きな目がなければ人間のホームレスと勘違いしそうである。

 

見た感じ、とても戦闘力が高いとは思えないが。この空間では何があっても不思議ではない。

 

「何だかこの辺りを探しているようだが、私らの住処を荒らすつもりかい?」

 

「……ストーム1、どうします」

 

「ヒメネス、話を聞いてくれるか。 俺は周囲を警戒する」

 

「イエッサ」

 

ヒメネスは淡々と答えると、悪魔と話し始める。多数いる悪魔は、どれもこれも弱そうだったり、傷を受けたりしている者ばかりだ。

 

ヒメネスの話を聞きながら、周囲を警戒する。

 

何でもここグルースは、あらゆる混沌の極限のような土地で。強大な悪魔がぽんと現れると思うと。弱い悪魔が不意に放り出されたりもするらしい。弱い悪魔は身を寄せ合って、小さな街を作って其所でくらしているそうだ。

 

「我等ではとてもあんた達には勝てないよ。 殺さないでおくれ」

 

「……嘘を言っている様子はありやせんぜ」

 

「そうか。 余力は……まだあるな。 警戒は解くな。 唯野仁成、悪魔を展開してくれるか」

 

すぐに主力級の悪魔を、唯野仁成は展開する。

 

ストーム1が咳払いすると、悪魔達の前に出る。恐ろしい強さを感じ取ったのか、明確な怯えが悪魔達の顔に浮かんだ。

 

「知っているかも知れないが、天使との交戦を経たばかりでな。 我等としても、警戒すべき勢力かどうか見極めたい。 敵意がないなら殺す事はしない。 街とやらに案内してくれるか」

 

「分かったよ、ついてきてくれ」

 

老婆が杖を突きながら先導する。

 

幼い子供に見える悪魔もいて、しかも格好がボロボロ。マッカもロクに得られていない様子だ。

 

悲しい光景だが、悪魔の実力は見た目と全く一致しない。それは、シュバルツバースで嫌と言うほど思い知らされた事だ。

 

また光景が変わる。空間の裂け目を通ったからだ。

 

露骨にヒメネスが不機嫌になるのが分かった。理由も何となく分かる。唯野仁成には、此処は第三諸国のスラムにしか見えなかった。

 

ヒメネスに個人通信を入れてみる。

 

「何に見えている。 俺にはスラムに見える」

 

「俺も同じだヒトナリ。 人間でも悪魔でも、弱い奴はスラムにいるしかないっていうのかよ」

 

ヒメネスの苛立ちが募るのが分かる。最近はどんどん感情豊かになっているように思うヒメネスだが。

 

己の負の原典とも言える場所を見てしまうと、やはり感情が悪い方向に揺さぶられるのだろう。

 

周囲から大量の視線を感じる。アントリア辺りにいればなんとか生きられそうな弱い悪魔達がたくさん此方を見ている。

 

その視線は、明らかに弱者が絶対に抵抗できない怪物を見る時のもので。

 

今の唯野仁成達が、その気になればこの小さな悪魔の街を、一瞬で蹂躙できてしまう事を示していた。

 

こんなシュバルツバースの深い階層に来て、こんな場所に遭遇するとは思わなかった。黙々と電波中継器を撒く。これは必要な事だと判断しての事だ。ヒメネスも、自分で言い出した事だ。

 

此処以外にも悪魔の集落はあるかも知れない。はっきり分かったのは、少なくとも此処は、敵になり得ないと言う事だ。

 

長老らしい悪魔が出てくる。見ると邪鬼グレンデルとある。逞しい男性の悪魔で、巨人と言って良い体格だ。そして全身は傷だらけ。

 

グレンデルというのは、欧州の伝説に出てくる悪鬼のようだ。凄まじい戦闘力を誇り、武装した騎士を何十人も殺傷したという伝説がある。更にグレンデルの母は、グレンデルをも遙かに凌ぐ怪物であるらしい。

 

そんなグレンデルでも、ストーム1一人にも勝てないだろう。それは、相手も分かっているようだった。

 

「此処は、弱い悪魔達が集まっている集落なのか」

 

「そうだ。 我等はこの空間から出る事も出来ない。 弱くて情けなくて、どうしようもない存在ばかりだ」

 

「……」

 

「抵抗するつもりも、戦うつもりもない。 天使からは守ってくださるお方がいるが、そのお方も我々がどうなるかには興味が無いらしい。 お前達はどうなのだ。 我等は確かに悪魔で、隙を見せれば襲うかも知れない。 殺すのか」

 

流石にストーム1も無言のままである。

 

一神教徒であるクルーは、バツが悪そうに下を見た。マンセマットがやらかした事。それに今のこの悪魔達との力関係。

 

それを考えると、思うところが色々とあるのだろう。

 

唯野仁成は、退屈そうにあくびをしているアリスに警戒するように言うと、前に出ていた。

 

ストーム1は止めない。好きにしろと視線で言っている。

 

だから、好きにさせて貰う。

 

「望む者は交渉に応じる。 仲魔になるのなら、此処から出られるが」

 

「我々は弱き者だ。 戦いでは役にも立てん」

 

「戦いでばかり役に立つ必要はない。 悪魔のデータはあるだけほしい。 勿論非人道的な実験もしないと約束する。 もしも此処で死ぬのを待つのが嫌で、人間の仲魔になってもいいというのなら、申し出てほしい」

 

マッカは潤沢にある。この間のフォルナクスでティアマトを撃ち倒したときに、天文学的な量のマッカを入手できたからである。

 

それに悪魔のデータはクルー達で共用したい。何よりも、どんな悪魔でも、合体次第で別物に化けるケースもある。

 

少し悩んだ末に。グレンデルが、周囲に声を掛ける。弱々しい悪魔が、かなりの数集まって来た。

 

そういえば、こうやってまとまった数の悪魔を仲魔にして、戦力の底上げを何度か行ったな。

 

シュバルツバースに来てから随分経った気がする。

 

唯野仁成くらいしかまともにこの辺りをうろつけない状態だったら、或いは合体材料にもならないからいらないとか言い放ったかも知れない。アレックスの様子からして、きっとそんな風に歪んでしまった唯野仁成も存在していたはずだ。

 

だが、そうはならない。そうはならないと決めたのである。

 

クルー達は困惑していたが。やがてメイビーが最初に手を上げた。交渉したい悪魔は来て欲しいと言うのだ。

 

回復に特化した悪魔をたくさんほしいとぼやいていたメイビーである。やはり悪魔のデータは潤沢にほしいらしい。弱い悪魔でもかまわないからと、どんどん契約をしていく。

 

人間と悪魔と言う違いはあれど、一人が動き出すと全体が動き出すことには代わりは無い様子だ。

 

メイビーが最初の契約をすると、わっと契約が周囲で始まった。どうしても人間が嫌だと思うらしい悪魔は身を潜めるが、そればかりはどうしようもない。契約すると言う事は人間に従うと言う事だ。どうしてもそれが受け入れられない悪魔はいるだろう。それに、仲魔になることを強要は出来ない。

 

どうしても気分が乗らないらしいクルーには、唯野仁成が声を掛けて、周囲を巡回して電波中継器を撒いて貰う。

 

あまり強い悪魔がいないこの場所は、戦略的な拠点として活用出来るかも知れない。そういうと、納得はしてくれた。

 

程なくして、大半の悪魔が契約に応じた。データは方舟に送る。効率よく強く出来る悪魔合体のデータは向こうにある。それに、弱い悪魔でも、未知の者もいた。そういったデータはやはり貴重だ。

 

最終的に、周囲に悪魔は殆どいなくなったが。グレンデルは残ると言った。ヒメネスが声を掛けるが、首を横に振る。

 

「俺は長老として、残った弱い者達を守らなければならない」

 

「そうか。 気が変わったらきな。 悪いようにはしないぜ」

 

「ああ。 感謝する。 この空間の大母様はとにかく移り気で非常に強い力をお持ちのお方だ。 我々に逆らうという選択肢は無いが、警告だけはしておく。 もしも抗うというのなら、油断だけは絶対にするな」

 

「ああ、ありがとうよ」

 

ヒメネスが敬礼をして、それに不器用にグレンデルが応じた。

 

他にも悪魔の集落があるかも知れない。そういえば、あの弱々しそうな子供のような悪魔は。ログを見ると、どうやら契約に応じてくれたらしい。唯野仁成は、そのログを見てほっとしていた。

 

弱肉強食という言葉は、結局こういう光景を作り出す。

 

弱い者は怯えながら影で過ごし。強者は暴のまま周囲を睥睨する。

 

混沌の極限は恐らくこう言う場所の存在すら許さないだろう。こう言う場所は、きっとすぐに食い尽くされてしまう。

 

混沌と力の理論が支配する世界は、恐らくだが、こう呼ばれるはずだ。

 

地獄と。

 

唯野仁成は、ろくでもない家庭で育った。妹を守るだけで精一杯だった。そこは小さな地獄と言っても良かった。

 

だから、シュバルツバースで如何に醜いものを見たとしても、地獄を周囲に作りたくは無かった。

 

だが、もしも一人きりだったら。どうだったのだろう。

 

アレックスを見ていて、大体分かる。すり切れて、自己責任論の極限に身を置いてしまったかも知れない。

 

この場所でも、眉一つ動かさず、抵抗する力もない悪魔達を鏖殺していたかも知れない。

 

だが、知った。ならば、ただせる。

 

唯野仁成は、身勝手な自己責任論にも身を任せず。マンセマットのような独善主義者にも染まらず。そして立ちふさがる敵を殺すだけの殺戮マシンにもならないと誓う。

 

やがて方舟が見えてくる。だが、まだナビを見る限り方舟はかなり遠くにある。

 

疲れ果てている様子のクルーを時々メイビーが悪魔を呼んで魔術で回復させている。自分だって、余裕は無いだろうに。

 

めまぐるしく切り替わる空間を歩きながら。

 

唯野仁成は、壊れる訳にはいかないと何度も自分に言い聞かせていた。

 

 

 

(続)




第三勢力として動いていたマンセマットとの決裂。

そして決定的に変わり始めた運命。

深淵はまだ底が見えませんが。
そこに微かな希望が点り始めます。
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