一寸先も信用できない其処で。
確実に大母への手がかりをつくらなければなりません。
やはり、そこは悲惨なスラムにしか見えなかった。
恐らくアントリアの燃えさかった街の残骸のような何か(世界がぐちゃぐちゃなので正体は分からない)を利用しているのだろう。周囲には、最貧国のスラムに見られるような、家とも思えないゴミの山が出来ていて。それで必死に身を守るようにして弱い悪魔が群れている。
弱い悪魔は人間に似ているものもそうではないものもいるが。
いずれもが、此方に対して怯えきった様子なのが心苦しい。
普段だったら立場は逆だ。
だが、此処では唯野仁成達は、ちょっと気を抜くと蹂躙者になってしまう。それは、本当に気を付けなければならない。
特に手持ちの仲魔達は、人間とは倫理観念が根本的に違っているし。それを人間に寄せようと考えもしない。
アリスをけしかけたら、嬉々としてこんな集落、瞬く間に焼き払ってしまうことだろう。そういう力を手にしていて。そして責任を持っている。
唯野仁成は、常にそれを自覚していなければならなかった。
周囲を警戒していると、ストーム1が下半身が蛇になっている男性の悪魔を連れてくる。見覚えがある。
一時期ヒメネスが仲魔にしていたナーガだろう。ただ、それにしてはかなり威厳がある。恐らく上位種のナーガラージャとみた。
ただ。見た感じ、かなり弱々しいというか。全身傷ついている印象を受ける。
「あの鉄船からきた人間か。 弱い悪魔しか此処にはいない。 頼むから殺さないでくれ」
「話を聞きに来た。 危害を加えるつもりは無い」
「そうか……」
「会話については任せる。 俺は周囲を探ってくる」
ストーム1は部下達も唯野仁成に押しつけると、ひょいひょいとデモニカで強化された身体能力を駆使して、街の周囲を見にいってしまう。
元々オリンピック選手も吃驚するような身体能力を持っているという話は聞いていたのだが。
周囲があまりにも化け物揃いで目立たなかっただけだ。
それがデモニカで強化されて、今ではあんなである。まあ、どんな悪魔に襲われても、瞬殺されることはあり得ないだろう。
しかもストーム1が油断するとか、それこそあり得ない。
クルー達には周囲に展開して貰い。唯野仁成は、ナーガラージャに話を聞いていく。
それによると、やはりこの土地には幻力が満ちていて。
大母は、それを操ると言う事だった。
「インドの神話に出てくる存在は、等しく修行して幻力の加護を得ると聞いている。 貴方はそうしないのか」
「ヒンドゥーの教えの修行がどれだけ過酷かしらないようだな異国の戦士よ。 場合にとっては手足を切り取ったり、信じられないような時間断食したりしなければならないんだよ」
「……」
「仏教の発生はそんな異常な修行に異を唱えることが発端となったと聞いている。 根本的な仏教の思想は、認識しているものの実態について問うものだという話だがな」
流石にラージャ(王)の称号を持つだけあって博識だ。
いずれにしても、幻力には手が届かないと言う事は分かった。他にも、分かる事がないか全て聞いていく。
口が重いようならマッカを出すかと思ったが。
恐らく、唯野仁成の力を間近で感じて怖いのだろう。ナーガラージャの口は、驚くほど滑らかだった。
「幻力を司る大母様が何者なのかは、はっきりいって我等にもわからん。 分かっているのは、この世界の最深部に存在していても、そうとは分からないと言う事だ」
「……ティアマトのように姿を隠していると言う事か」
「ティアマト様すらも倒したのか。 ならば、此処の大母様も危ないかもしれないな……」
寂しそうに笑うナーガラジャ。
困っていることはないか。仲魔になって此処を離れたい者はいないか、確認を取る。
やはり、生きていくだけでやっとだったり。そもそも明日をも知れないらしい悪魔が、かなり名乗り出てくる。
どう見てもストリートチルドレンにしか見えない子供の悪魔もいるので、心が痛む。ざっと見るが、力そのものも悪魔としては最弱クラスだ。マッカを与えて力を取り戻せば話は変わってくるのかも知れないが。
今の時点で攻撃を加えたら、それは一方的な虐殺になるだけである。
かなりの数の小型悪魔を仲魔に加える。ナーガラージャはどうかと聞くが。首を横に振られた。
前の街のグレンデルと同じだ。
人間がいやだったり、此処を離れたくない悪魔達を守らなければならないという。
ならば、此方としてもその覚悟に敬意を表するだけである。
丁度ストーム1が戻って来たので、状況を報告する。
ストーム1は、小首をかしげていた。
「分からんな」
「何がです」
「さっき確認してきたが、かなり大きな悪魔がこの集落を襲撃しようとした痕跡が残っていた。 だが守りを抜けずに諦めて逃げてしまっている」
ナーガラージャを一瞥すると、顎をしゃくられた。
次に行くぞ、と言う事だ。
唯野仁成は頷きながら、クルー達をまとめて、陣形を組むと後に続く。方舟に報告を入れつつ、話を聞いていく。
「やはりこれらの集落には、誰かが力を貸していると見て良いだろう。 それがマーヤーだか幻力だかを司る大母だか、別の存在だかまでは分からんが」
「いずれにしても、大母は倒さなければなりません。 何とか情報を集めていかないと」
「それはそうなのだが、どうにも恣意的だ。 幻力とまで言う程だから、散々振り回される事は覚悟していたが……」
「まずは足で情報を集めましょう。 嘆いていても仕方がありません」
そうだなと、大きく息を吐くと。
ストーム1は大股に歩いて先に行く。途中、何度か大きめの悪魔の襲撃を受けたが、撃退は難しく無かった。
積極的に迎撃戦力を配置していたティアマトと違い。
ここの大母は、そもそも真面目に戦う気など、さらさら無いのかも知れなかった。だから適当にゲリラ戦を仕掛けて来て、消耗だけを狙う。
それが悪いとは言わないが、やりづらいし。部下を消耗品扱いしているようで、気分が悪い。
悪魔はそう考えるものだと分かっていても。あまり此処の大母に、良い印象は抱けなかった。
手分けして、悪魔の集落を回って確認を行う。
天使の軍勢の砦は堅く守りを固めているようで、近付こうとしても弾き返されるだけらしいが。
悪魔の集落は、来る者拒まずと言う雰囲気だった。
途中、泣いている小さな女の子の悪魔を、巨大な猫の悪魔がひとのみにしようとしていたので、その場で即座に撃ち殺す。
勿論見かけ通りとは限らないのが悪魔の戦闘力だが。
デモニカで計測した限りでは、見かけ通りの力の差だった。
泣いている女の子の悪魔は他のクルーに任せる。本当に、適当に悪魔が出現して、弱肉強食の理が雑に展開されているのだな。
そう思うと、苛立ちを感じる。
世界の主というのなら、しっかり管理をしたらどうだ。そう、唯野仁成は思ってしまうのである。
契約に応じてくれたらしく、ほっとする。
悪魔が人間とは違う論理で生きている存在だと言う事は分かっているが、流石にこんな所に放置して、殺されるのをそのままにしたら気分が悪い。
空間の歪みを抜けると、方舟だ。何度も往復している内に見つけたショートカットルートである。
一方通行の空間の歪みも多数存在していて、非常に厄介だが。
一度使い方を理解すれば、帰路を大幅にカットできる場所もある。勿論意図的に作られた経路ではないのだろうが。
方舟に戻り、報告を行う事にする。
探索の範囲を拡げた結果、弱い悪魔が身を寄せ合っている集落は合計十二個が発見され。それらを皆で手分けして調査した結果、さっき調べたので最後になる。中には強権的に弱い悪魔を無理矢理従えているろくでもない長老悪魔もいたが。大半は、自分より弱い悪魔を放置しておけないという、心のある長老達だった。いずれもが契約に応じなかったが。
ヒメネスも戻って来たので、一度情報を整理する。
ふらっと出ていったっきりケンシロウは戻ってこないが。デモニカの反応はある。
たまに気が向いたように電波中継器を撒きながら、彼方此方歩き回っている様子だ。水とかの補給が出来ているか不安になるが。唯野仁成がいない時に戻って来ているのかも知れない。
一度、艦橋に集まる。
ケンシロウともリンクをつなげて、会話が聞こえるようにアーサーが処置をしてくれた。
ゴア隊長がまず周囲を見回し、話をする。
「皆が集めて来てくれた情報を整理する限り、このグルースの土地は本当に混沌の中の混沌と見て良さそうだ。 幻力という神々の力そのものに等しいものが渦巻き、産み出された力も姿も雑多な悪魔達がそれこそ好き放題に放されている。 大母はいるようだが、その気配どころか、姿も今だ発見できない。 上位空間に存在する可能性もあるが、そもそもどうやれば上位空間にたどり着けるのか……」
「はっきりいって何も分からないっすね」
「ヒメネスの言う通りだ。 幻力についての概念はそれぞれの集落で長老悪魔が話をしてくれたが、それだけでは何とも……」
ストーム1もうんざりした様子である。
元々ストーム1は、聴取の類はあまり得意ではないらしい。戦闘力があまりにも圧倒的だから、それを生かして戦場で活躍してほしいと周囲でも考えているらしく。国際再建機構での仕事の時も、捕虜からの聴取や尋問などは、専門の副官などが行っているそうだ。
まあ、何となくだが分かる。
ストーム1は淡々と戦闘を行う反面、一線を越えた相手に対しては微塵も容赦をしない。
恐らくだが、内心はもの凄く熱い魂を持っていて。それを押し殺している人なのだろう。
「わしもそろそろ出ようか?」
「いえ、姫様は正直この手の搦め手の極限を使う相手は苦手でしょう。 大母が現れてから対応をお願いいたします」
「まあそうであるな。 とりあえずこの間の天使どもとの戦いでつけられた傷についてはもう癒えた。 周囲の警護なら任せておけ。 ライドウを代わりに探索や調査に回すと良いだろう」
「分かりました」
サクナヒメに対しては、当然ゴア隊長も腰が低い。それを誰も何も言わない。
まあ当然で、今まで空間支配者級の悪魔に対して、一番大きな戦果を上げてきて、同時に傷ついてもいるのがサクナヒメなのである。
敬意を払うのは当たり前の話だ。
「ケンシロウ、其方は何か分かったか」
「……大きな気の渦が何となく分かってきたかも知れない。 悪魔達が幻力と呼んでいる力は、やはり気に似ている。 この気は、何カ所かで巨大な渦を作りながら、最終的に一箇所に向かっているようだ」
「ケンシロウ。 地図を送りますので、どのような渦になっているか図示できますか」
「……そうだな。 俺の見た感触ではこんな感じだ」
画像が送られてくるが。
なんともぶきっちょな絵が送られてきたので、口を押さえる者も多かった。勿論笑うのを堪えるためである。
憮然としているサクナヒメ。
「そなた、近接戦の武芸は文字通りわしをも超える神域なのに、絵は駄目だのう」
「兄の孤児院にいる子供達にも良く言われた」
言ってはいけない事をスパンと言うサクナヒメを見て冷や冷やするが、ケンシロウは気にしている様子も無い。
ケンシロウは寡黙だが、サクナヒメの勇敢さと寛容さについては非常に敬意を払っている節がある。
勿論ぶきっちょな人物なので、そうだとは口にはしないが。
サクナヒメの話が出ると、基本的に言葉短かに褒める。サクナヒメも或いはそれを理解した上で、ずけずけ言っているのかも知れない。
アーサーが、四苦八苦の末に、図を解析したようだ。
「ケンシロウ、ありがとうございます。 この気を感じ取る方法について、ノウハウはありますか?」
「いや……。 年単位で拳を練り上げ、気を知らなければ無理だ。 それでもかなり探知が難しいと感じる程に巧妙に隠されている……」
「それでは、恐らく渦があると推定される場所を此方で指定します。 其方に向かっていただけますか?」
「分かった……。 ナビを頼む」
その前に一度補給に戻るように言うと、ケンシロウはそれも分かったと言った。
本当に木訥とした素朴な人物だ。だが、ケンシロウもストーム1同様、一線を越えた相手には文字通り容赦をしない。
似た者同士で、だからこそ二人肩を並べて戦えるのだろう。
アーサーが、付け加えた。
「ケンシロウが嘘をついている雰囲気はありません。 ただし、ケンシロウの言葉だけを頼りにするのも危険です。 他に幻力というものに知識がある方はいませんか」
「俺が従えているラーヴァナが幻力の概念について教えてくれたけれど、それでも此処のは気配が薄すぎて察知が難しいと言っていたぜ。 ケンシロウの旦那は、本場の幻力を知っている魔王よりも更に勘が鋭いって事だろうよ」
「ヒメネス隊員、貴方の言葉を信じるとすると、更に高位の悪魔であれば幻力を探知出来るかも知れませんね」
「ああ、そうなるかもな。 だが多分唯野仁成にも俺にも、これ以上の高位のインド神話系の神や悪魔は作れないぜ」
アーサーは、ライドウ氏にどうかと呼びかけるが。
ライドウ氏は、しばし腕組みしてから答える。
「手元に今クリシュナがいる」
「情報を確認。 インド神話ヒンドゥーの神々の三柱。 維持を司る神、ヴィシュヌの化身の一つですね」
「そうだ。 インドでは未だにもっとも人気がある神の一柱だ。 だが、かなり性格が獰猛でな……」
シヴァを例に出すまでも無く、インド神話の神々は好戦的だ。最高神である他の二柱も例外ではなく、雑に相手を殺すし怒らせれば世界を壊す勢いで暴れる。
ヴィシュヌは維持を司る神だが、その化身には世界の終末に現れ全てを壊し尽くすカルキのような神格も存在していて。
はっきりいって簡単に扱える相手ではないという。
「俺の力で従える事は出来ているが、もしも渦を探査させるとなると、とんでもない代償を要求してくる可能性が高い。 今蓄えているマッカを根こそぎ寄越せと言ってくる可能性もある」
「なるほど、分かりました。 従える事が容易で、幻力の渦について探査が出来そうな神格に心当たりは」
「……ラーヴァナ以上の力の持ち主となると、インドラジット辺りだろうか。 だが、それでも絶対とは言えない」
「厳しい状況ですね。 保留するとします。 これより、真田技術長官と情報について協議します。 データの収拾をお願いします」
まあ、手詰まりだろうな。それについては同意だ。
一旦解散して、散る。少し休憩をしてから、まだ探査していない地域を調べる事になる。
ドローンもかなりの数を飛ばしているが、消耗率が激しい。
また、たまに姿を見せる大型悪魔が居座っていると、ドローンの航路が著しく阻害されるし、調査班に危険も及ぶ。
ナビがないとまともに歩けないほど入り組んでいる上、全域で日本列島くらいの広さがあるとなると。
無作為に調べていると、数ヶ月はかかってしまう可能性が高い。
そこまで足止めを喰らうと、流石にシュバルツバースが南極を覆い尽くしてしまう可能性も出てくるし。もたついてはいられないか。
指示が出るまで、とりあえず待つ。レクリエーションルームに出向くが、アリスはアイスを欲しがらなかった。そろそろ別の甘いものを食べたいのかも知れない。まあ、如何に美味しくても、流石にアイスだけ食べていれば誰だって飽きる。
ヒメネスが来て、軽く話をする。
「たくさん従えた弱い悪魔達だがな、集落に辿りつくまでに九割くらい強い悪魔に殺されて食われたって話だ。 反吐が出やがる。 此処の大母とか言う奴は何を考えていやがるのか」
「そうだな。 自己責任論を極限まで詰めるとまあそうなる。 弱い方が悪いという理屈が如何に邪悪か、分かりやすい形で示しているとも言える」
「二人とも、少し良いかしら」
不意に声が掛かったので顔を上げると、ゼレーニンである。
少し寂しそうな表情。憂いがますます強くなったように見える。
元々色々精神的に参っている状態だっただろう。そこにマンセマットとの決定的な決別があり。ラジエルも失った。
憔悴しているのは、仕方が無いとも言えた。
「おい、寝てた方がいいんじゃねえのか」
「……その前にやっておく事があるわ。 ラジエルと少しだけ話したの」
「話せたのか」
「殆ど残留思念よ」
苦労して、多少のマッカを融通して。壊れたログの一部を修復して、かろうじて少しだけ話を聞くことが出来たと言う。
それによるとラジエルは、自分は天界に行かないと回復する事はもう出来ない。だが、力になりたい。
それには悪魔合体で、別の悪魔になるしかない。それだけを伝えてくれたそうである。
ゼレーニンはかなり参っている様子だ。恐らくだが。それだけしかラジエルは話せなかったのだろう。
文字通りそれで力尽きてしまった、と言う事だ。
ラジエルは守りに特化した天使で、あの苛烈な乱戦の中で、守りを抜いたマンセマットの攻撃をモロに受けてしまった。
ラジエルも天使、つまり元々精神生命体だ。本来だったら一度死ぬくらいなら問題は無いのだが。マンセマットの攻撃に余程邪悪な呪いが掛かっていたのだろう。
ヒメネスも、ばつが悪そうにしている。多分だが、バガブーのことを思っているのだろう。
「だから、協力をまたお願いしたいの。 頼めるかしら」
「ラジエル自身は天界でまた復活できるのだろう。 力になりたいと言うのなら、意を汲んでやるべきだ。 協力する」
「俺も同感だな」
「……ありがとう」
そのまま、額をつきあわせて、悪魔合体プログラムで調査する。
データに不具合が生じているラジエルだ。悪魔合体プログラムで無数の悪魔との組み合わせを調べて見るが、殆どの場合弱体化してしまう。
それどころか、ダークサイドや混沌勢力の悪魔になってしまう事も多い。
これは厄介だなと、唯野仁成は思った。
最近ヒメネスは、嬉しそうにバガブーと話している事が多い。だから、余計にゼレーニンの事は色々と気分が悪いのだろう。
データを大量に展開しながら、調べていく。ゼレーニンは、そもそも悪魔と天使を合体させるという行動そのものにまだ抵抗がある様子で。やはり普段ほどの辣腕を振るえていなかった。
時間はある。だから、やってしまうのがいい。
「良いかしら?」
声を掛けて来た者がいる。
顔を上げると、メイビーである。きっと口を引き結んでいる。話を聞いていたのだろうか。
「私も手伝うわ」
「有り難いが、どういう風の吹き回しだ」
「仁成とゼレーニンが体を張ってくれたおかげで、ライトニングに仕掛けられていた罠を解除できて、更に言えばあのペ天使の呪縛からみんな解き放たれたの。 私はやっぱり戦闘は得意じゃないから、こういうことで役に立ちたい。 悪魔合体については私も結構数をこなしてる。 手伝わせて」
「俺も良いか」
立っていたのはブレアだ。咳払いすると、ちょっと斜に構えて言う。
勘違いするなよ、と。
「俺も魔王を扱えるようになって来たし、ついでにいえば更に強力な悪魔を展開したいと思っていた所だ。 他の奴のノウハウを知りたいのでな」
「有難う、二人とも」
ゼレーニンが震えている声を押し殺す。
そのまま、皆で大量のデータを検索していく。手数が倍、とまではいかないが五割増しくらいにまではなる。
程なくして。ついに、消去法で駄目なデータを消していき。やがて結論が出ていた。
見つけたのは、メイビーだった。
ただ、これだけの試行錯誤をしたのだ。誰が見つけても、不思議では無かっただろうが。
「この組み合わせなら、恐らくラジエルの意識を保ったまま更に上位の大天使に出来るわ」
「ああ、良かった……」
「でも大天使としかわからねえな。 カマエルとかサリエルとかになる可能性もあるぞ」
ヒメネスが指摘する。
だが、それでも覚悟の上だと、ゼレーニンは言った。悪魔合体プログラムには、種族は大天使と出ているが。何ができるかはアンノウンとなっている。ただ能力を見る限り、ラジエルを超える実力なのは間違いなさそうだ。
マッカについては問題ない。
というよりも、バグを補うためなのか。大量に下級の悪魔を必要としていて。その悪魔のデータの多くは、この間から回っていた弱い悪魔の集落で得られたものばかりなのである。
色々な意味で悲惨な目にあったゼレーニンだが。その分、運の揺り戻しが来ているのかも知れない。
迷わず、操作を開始するゼレーニン。
今後もゼレーニンが悪魔召喚プログラムを使い、悪魔合体をすることは殆ど無いだろう。或いはこれが最後かも知れない。
ただゼレーニンは、そもそもとして学者で。技術者としてこの船に乗ってきている。
だから、それで良いのだ。
やがて、大天使が作り出される。
頷くと、四人で外に出た。そして、ラジエルの代わりに、ゼレーニンの守護者となる大天使を召喚した。
光が溢れる。
マンセマットの時は黒い羽根が舞っていた様な気がするが。
今度は、純白の羽根が舞っていた。
「私の名はガブリエル。 四大と呼ばれる天使の一角に属する者です」
そこにいたのは、美しい赤い鎧を着込み、四枚の翼を持つ女性の天使だった。手には短めの剣を持っていて。見るからに威厳がある。
ガブリエルか。
唯野仁成でも聞いた事がある天使だ。ゼレーニンは礼をしている。ヒメネスはどうでもよさそうだが。ただ、凄い天使が出てきた事は分かっているようだった。
「大いなる天使ガブリエル。 お目に掛かれて光栄です」
「……ラジエルより情報は引き継いでいます。 マンセマットが……愚かしい同胞が迷惑と哀しみを与えてしまいましたね。 今後は私が、貴方をこの終末の土地から守護しましょう」
「よろしくお願いします」
光が収まるようにして、ガブリエルがPCに戻る。
もう一度、ゼレーニンが皆に頭を下げる。いや、別にいいと、唯野仁成は手を上げていた。
これでゼレーニンは、恐らくだがこのシュバルツバースでも、何を怖れず歩くことが出来るだろう。
マンセマットは、結果的に最悪の行動をしてしまった事になる。
ゼレーニンを手札にするどころか、ゼレーニンに自分にとっての最悪の存在を与えてしまったのだから。
マンセマットは詰んだ。
それについては、正直自業自得としか言えない。
そして、問題はこれからだ。
そもそも、見つけようもない大母を、これからどうにかしなければならないし。見つけたところで、その力は恐らくティアマト以上なのだ。
気を入れ直すと、唯野仁成は方舟に戻る。奇しくも、出撃命令が来た。勿論すぐに出る。この困難な土地も。きっと乗り越えられる気がした。