Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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2、極限の力を探れ

大量のドローンが消息を絶っている地点に到達。

 

びりびりと嫌な予感がした。

 

とにかく広大な土地だ。グルースの隅から隅まで調べ、それでようやく大母に到達できる可能性が出てくる。

 

それなのに、ドローンを飛ばして捜索している場所で。どうしても意味不明の消息を絶つ事故が起きている。

 

悪魔の仕業かすらも分からない。

 

ドローンは撃墜時の情報を記録して送る機能がついているのに。

 

文字通り、それすらも働かないレベルで一瞬にしてやられている。

 

ストーム1とヒメネスが側にいる。姫様はまだ温存したい。此処の大母との戦いでも切り札になってくれるはず。

 

ケンシロウはまたふらふらと出ていってそれっきり。

 

情報は方舟に送ってくれてきているようなので。ライドウ氏が方舟を守るとなると、ストーム1といくしかない。

 

周囲を見回す。ドローンの残骸は無い。少なくとも六機のドローンが周囲で消息を絶っている。何があっても不思議では無い。

 

すぐに悪魔を展開。

 

調査班として、ゼレーニンが来ている。ゼレーニンは、ずっとガブリエルを召喚したままだ。

 

ガブリエルは高レベルの回復魔術と防御魔術を使いこなす強力な大天使で、ただ燃費が良くない。

 

防御や支援は何でも出来るが、その代わり戦闘ではマッカをどか食いする。

 

ここぞという時の切り札で動いてもらう事になるだろう。

 

四大と言うだけの事はある。

 

実力も、相当であることは、数回の戦闘で分かった。近接戦も充分以上にこなせている。

 

「おい、ヒトナリ。 こっちだ」

 

ヒメネスが何か見つけた。

 

バガブーが、だろうか。

 

興奮した様子で、バガブーがヒメネスのデモニカを引いている。昔はバガブーに嫌悪感を見せていたゼレーニンだが、最近はそんな事もなくなった。

 

「どうしたんだ」

 

「ドローンの残骸のようだな。 多分此処、何かいるぜ」

 

「見せてくれるかしら」

 

ゼレーニンが来ると、周囲をそのまま誰も何も言わずとも守りに入る。ストーム1はふらりと消えた。

 

多分だが、周囲を確認しに行ってくれたのだ。戦闘に備えて、狙撃に丁度良いポイントを探しに行ったのかも知れない。

 

「ざっくりと斬られているけれど……妙ね」

 

「学者としてはどう思う」

 

「まずこの切り口だと、残り半分がないとおかしいわ。 切ったと言うよりも、むしろ抉り取ったような……」

 

「ドローンを食ったってか。 動くものは何でもエサって訳かよ」

 

冗談めかしてヒメネスは言うが。案外、冗談でもないかも知れない。

 

ゼレーニンは咳払いしてから、周囲を見回した。表情は険しく、もう落ち込んでいる様子は無い。

 

「動くものには何でも襲いかかる生物は実在するわ。 ある種のカエルなどは動く相手だったら同種にすら襲いかかる程よ」

 

「恐ろしい生き物だなそれはまた」

 

「……この辺りは危険よ。 逆に、此処を突破出来れば、何かあるのかも知れないわ」

 

ヒメネスとゼレーニンは問題なく会話できている。

 

前は本当にギスギスしていたのだが。色々あって、互いを漸く理解し合えたのかも知れない。

 

ただ、前のような喧嘩するほど仲が良いという雰囲気でもなくなった。

 

それはそれで、面白い関係だったのだが。

 

唯野仁成は苦笑する。

 

こんな少女漫画みたいな考え方をするとは。妹の持っている少女漫画を読んでいた唯野仁成は、時々こんな風に考える事もある。妹にせがまれるまま少女漫画を買って渡していたのだが。当然話をあわせるために読んでいた。

 

結果として、少女漫画の文法が少年漫画と違うケースもあるが。一方で少年漫画以上に少年漫画している作品もあるという事を知ることになった。ただ恋愛に関しての異様な拘りや。むしろ男性向けの漫画よりもえげつない性描写が平然と入ってくる事などは、勉強になった。

 

それはそれだ。

 

周囲を警戒している内に、またドローンの残骸らしいものを見つける。

 

ゼレーニンを呼ぶ。

 

今度はヒメネスが魔王達を展開して警戒に当たる。それを見ても、ゼレーニンは嫌がらなかった。ガブリエルも何も言わない。今はともに戦う同志だと割切ってくれているのだろう。

 

「見て欲しい。 これは……ほんの一部だけ、だろうか」

 

「切り口が恐ろしく鋭利だわ。 これで他が見つからないというのはやはり異常よ。 剣で斬ったりしたというわけでは無さそうだわ。 やはり抉り取るようにして喰らったとみるべきかも」

 

「伏せろ!」

 

言葉と同時に、もの凄い轟音が轟く。

 

ガブリエルがゼレーニンを庇い、唯野仁成は横っ飛びに飛び退く。

 

何か見えないものが、凄まじい勢いで側を通り抜けていったが。空中でライサンダーの弾の直撃を受けて、絶叫した。

 

迷彩がとけていく。

 

周囲に展開していたクルー達が、恐怖の声を上げていた。

 

そこにいたのは、巨大な蛇だ。体にライサンダーの弾の直撃を受けてのたうっているが、すぐに体勢を整えてみせる。

 

情報が出てくる。

 

龍王ヴリトラ。

 

まだインドラが主神だった頃のインド神話において、インドラの敵対存在だった邪悪な巨大龍だ。

 

インドラとヴリトラの戦いは永遠に続くとされ、その戦いは雨期と乾期を示してもいるという。

 

いずれにしても、相当な強敵と見て良い。

 

というか、インドラジットよりも更に上の実力なのでは無いのかこれは。

 

凄まじい勢いでその場から逃げようとするヴリトラだが、その眼前にイアペトスとラーヴァナが飛び出し、大きく開いた口を押さえ込みに掛かる。

 

ヴリトラは文字通り残像を作るような動きで、ラーヴァナの半分を抉り取る。これか、ドローンを消した能力は。ラーヴァナが無念そうに消滅するが、今度はアバドンが出現し、体にかぶりついて動きを止める。

 

飛び出してきたストーム1が、ライサンダーをぶっ放す。

 

そういえば、また形状が変わっている。ライサンダーFから、更に次の段階に進歩したのか。

 

此方も無言で支援。クルー達も、皆でアサルトを浴びせるが。全長数十メートルはある巨大な蛇である。とてもではないが、すぐに倒せそうにない。体がうねり暴れるだけでも、悪魔達が吹っ飛ばされ、クルーが必死に逃げ回る始末だ。

 

ライサンダーの弾は流石のこの巨大龍も対応が厳しいのか、口を開けて巨大な牙をむき出しにしながら、必死に暴れ狂う。歩きながら弾丸を再装填しつつ、ストーム1はいう。薬莢が出ない。そもそも、再装填も、弾丸を手動で入れる訳ではないようだ。

 

「少し抑えておけ」

 

「イエッサ!」

 

アリスとアナーヒターが、唯野仁成の指示で息を合わせて雷撃の魔術を叩き込む。

 

更に、イシュタルが上空に躍り上がると、全力で風を纏った拳を、巨体に叩き込んでいた。

 

ヒメネスの魔王達も一斉に巨体を押さえ込みに掛かり。

 

他のクルーの悪魔達も、弾き飛ばされながらも、果敢にヴリトラに向かって行く。

 

胴体を激しくうねらせて、ストーム1を弾き飛ばそうとするヴリトラだが。その頭をイアペトスとアバドンが抑えているため、どうしても動きが画一的になる。アレスが何か魔術を展開。

 

周囲の皆が、更に力を増したようだった。

 

ストーム1が、ヴリトラの至近に到達。

 

胴体に向け、ゼロ距離から、ライサンダーをぶっ放していた。

 

流石に強靭な巨大龍の体にも大穴が開く。声を上げることもなく暴れまくるヴリトラだが。その傷口に、クーフーリンが槍を叩き込み、更に爆裂させた。そして内側から炸裂して大きくえぐれた傷口を、大上段からジャンヌダルクが斬り伏せる。

 

それでもなお、尻尾を胴体を振り回して大暴れするヴリトラだが。

 

其所に、アリスが詠唱を開始する。

 

それを見て、さっと離れるクルー達。アリスの魔術、それも詠唱してぶっ放す奴がどれだけえげつないかは、皆知っているのだ。

 

ストーム1は淡々黙々と、ヴリトラの傷口にライサンダーをつけ。相手の動きを余裕で読みながら更に一発打ち込む。

 

体内に直接打ち込まれたライサンダーの弾丸は、滅茶苦茶にヴリトラの全身を傷つけながら、口の方に向かったらしく。

 

流石の巨大龍も、凄まじいうねりで抵抗する。

 

ずっとゼレーニンはガブリエルの防御と回復の魔術でクルー達を守っていて。何度も潰されそうになったクルーを、ガブリエルの展開した防壁が守る。

 

アリスの魔術が完成する。

 

同時に、一緒に来ていたブレアが、悪魔達数体に、同時にあわせさせた。

 

イアペトスがそれを見て離れる。アバドンも。

 

必死に逃れようとするヴリトラの頭が、もはや青を通り越して白になっている超高熱の炎に消し飛ばされたのは、その瞬間だった。

 

頭を失ってなお、ヴリトラはしばらく蠢いていたが。

 

それも、やがてマッカに変わっていく。

 

情報集積体を回収。やれやれと、思わずぼやいていた。

 

このAS99でも力不足かと、唯野仁成は手元のアサルトを見る。流石にこんな怪獣クラス、それも神話で言うなら大魔王に近い格の悪魔が相手になってくると、どうしようもないか。ストーム1は、ライサンダーの使い心地を見ているようだが。満足はしていない様子だ。

 

「新作ですか」

 

「これがライサンダーZ。 ライサンダーFの次の段階で、もはや弾丸を装填する必要もない。 再装填作業も、全て銃の中で行ってくれる」

 

「もはやSFの産物ですね……」

 

「もう一段階上がある。 あの野戦砲になっているライサンダーZFだ。 ただ、この戦いが終わる前に、小型化が成功するかは分からないが」

 

メイビーが負傷したクルーの回復を開始している。ゼレーニンも、ダメージを受けたデモニカをチェックして、ポリマーを吹き付けていた。

 

唯野仁成の手持ちは負傷が小さい。ただイアペトスは、至近距離でヴリトラの猛毒を受け続けたからか。ヴリトラが消えると同時に、PCに戻ってしまった。マッカを費やして回復させてやらないといけない。

 

アリスも最大火力の火焔魔術をぶっ放したからか、同様に無言でPCに戻っていく。

 

流石にかなりきつかったのだろう。

 

周囲の警戒を続ける。負傷者の手当、悪魔の損害を確認した後、唯野仁成から方舟に連絡を入れる。

 

すぐにドローンが数機来て、周囲を調べ始める。また、ゼレーニンが淡々と電波中継器を撒きはじめる。

 

この辺りは何も無い荒野のように見えるが、恐らく大母がいると思われる空間とされていた候補地の一角だ。

 

やがて、ゴア隊長から連絡がある。

 

「強めの相手との戦闘をこなしたばかりで申し訳ないが、もう一箇所見て来て欲しい場所がある」

 

「はい。 ナビをしていただけますか。 後、負傷したクルーを下がらせたいのですが」

 

「それは此方で手配する。 その地点でも、ドローンが何機か消息を不自然に絶っている」

 

そうか。

 

では、危険な悪魔と遭遇する可能性が高そうだ。

 

そもそもさっきのヴリトラにしても、本来だったらこんな風に戦略的要地を守るガーディアンとして配置されるような格の悪魔じゃない。それこそ空間のボスクラスをしていてもおかしくない相手だった。

 

要するに大母はそういう規模の相手と言う事で。

 

はっきりいって、ぞっとしない。

 

程なくして、負傷したクルーの代わりが来る。ウルフがいるのを見て、久しぶりと挙手した。

 

前線に復帰していたことは知っていたが、最前線での任務で一緒になるのは久しぶりだ。

 

一線級の機動班クルーはかなり増えてきていることもあり、こう言う大規模な複合チームで戦う事は珍しくなった。そのため、一緒に戦うことが殆ど無くなったクルーもいる。

 

幸い、二度と会えないクルーはまだ出ていない。

 

それだけは救いか。

 

ふとケンシロウがいきなり現れたので、皆が驚く。空間の裂け目を通って来たのだろうけれども。

 

周囲を見回すと、多分幻力とやらを探っているのだろう。

 

此方にはかまわない様子で、ふらふらと何処かに行ってしまった。

 

流石にヒメネスもぼやく。

 

「本当にわからねえなケンシロウの旦那は」

 

「だが、此処の大母を探しうる貴重な手がかりだ。 それにケンシロウさんなら一人でいても問題ないだろう」

 

「まああんだけ強ければな。 インファイトだと姫様でも勝てないって言ってたしな」

 

「調査が終わったわ。 周辺の空間の歪みもドローンが調査してくれている。 移動しましょう」

 

ゼレーニンが声を掛けて来たので驚く。

 

こう言う場所で積極的に動く人間ではなかったのに。

 

一応確認するが、ガブリエルの分のマッカは大丈夫か聞くと。ゼレーニンは静かに寂しそうに微笑む。

 

「まだ何戦かはこなせるわ。 それよりも時間が足りない。 このグルースは、外に比べて四分の一くらいの速度で時間が流れているようだけれども、外ではシュバルツバースが拡大を続けているの」

 

「ああ、分かっている。 急ごう」

 

次だ。

 

ヴリトラと同格のがいてもおかしくない。ナビに沿って、三チームの機動班クルーが移動を続ける。

 

ジープを使いたいところだが、一部の空間の歪みが、ジープが通れるほど広くないのである。

 

周囲が不意に宮殿のようになった。

 

これは、また違う洋式の宮殿だ。フォルナクスのピラミッド内に似ている場所も、ボーティーズの宮殿ににた場所もあったが。

 

強いていうならこれは、アジア風だろうか。

 

ストーム1がさっと前に出ると、手を横に。それを見て、クルー全員が足を止める。何かいる、と言う事だ。

 

即座に悪魔達を展開。アリスやイアペトスも、マッカを無理矢理補給して出て貰う事になる。

 

宮殿の中庭だろうか。

 

数百人は座れそうな巨大なその空間に、突然として毛むくじゃらのよく分からない生物が出現していた。

 

顔が、ない。

 

全体を見ると犬のように見えるが、何だか見るからに様子がおかしい相手だった。足が六本もあり、翼も四つある。

 

見ると、妖獣混沌とある。四凶と呼ばれる、中華最強の妖怪の一角だそうである。

 

これはまた、随分と凄いのが出て来たなと思った次の瞬間、ぼっと大きな音がして、混沌の周囲の空間が歪んでいた。

 

連続して、周囲の空間が歪む。

 

これは、まさか。

 

空間を無作為に抉り取っているのか。

 

「オープンファイヤ!」

 

ストーム1が叫ぶと、ライサンダーをぶっ放しながら突貫。皆、散りながら、全力で攻撃を叩き込む。

 

攻撃は、半分くらい無作為に抉られる空間に巻き込まれて消えてしまうが。

 

しかしながら、逆に言うと半分は届く。

 

混沌はそもそもとして、名前の通りカオスそのものの妖怪であるらしい。いずれにしても、攻撃を浴びせなければ倒せないだろう。ストーム1のライサンダーZの弾丸まで止められる。

 

文字通り、あの抉る空間攻撃は、理論上あらゆる全てを消滅させると言う事か。

 

常時周囲にブラックホールを出現させるようなものだなと、呆れながらアサルトを連射。あの空間を抉る攻撃に巻き込まれたら、文字通り誰もがひとたまりもあるまい。

 

恐らくヒメネスも、そう判断したらしい。

 

無理矢理蘇生させたラーヴァナ含め、魔王達が一斉に襲いかかる。

 

アバドンが消し飛ばされる。

 

ロキが続いて、体を抉り飛ばされて消えていった。

 

更に、モラクスも。

 

だが、それらの屍を超えて跳躍したラーヴァナが、汚名を払拭するとばかりに、混沌の全身に多数の腕に握られた武器を突き立てていた。

 

振り払おうとする混沌。

 

そして、ラーヴァナに対して、その空間削除攻撃を一斉に向ける。勿論ラーヴァナはひとたまりもないが。

 

ヒメネスの魔王達の行動を見て、誰もが次にするべき事を知っていた。

 

アリスの最大火力魔術に続いて、全クルーの生き残った悪魔達の最大火力攻撃、更には全クルーの銃が悉く火を噴き、全てが着弾していた。

 

混沌の全身の大半が一瞬にして消し飛び、流石に竿立ちになる混沌の妖獣。

 

その体に向け、ストーム1が何かグレネードをぶっ放す。

 

それを見て、思わず唯野仁成は下がれと叫ぶ。皆、一斉にわっと逃げる。

 

同時に、数十のグレネードが炸裂。

 

宮殿の庭は、文字通り地獄と化していた。

 

消滅した混沌。それはそうだろう。今ストーム1が使ったスタンピードは、文字通り歩兵での面制圧を行うと言う気が狂ったコンセプトで作られた兵器である。勿論そんなもの、ストーム1くらいにしか扱えない。

 

だが、混沌を屠り去るにはこれくらいの火力が必須だっただろう。

 

すぐに皆の点呼を行う。

 

全員無事だ。

 

ただ、悪魔の損害が酷い。

 

混沌のいた辺りに膨大なマッカが落ちている。死んだと言う事だ。そして情報集積体もある。

 

ゴア隊長に連絡を入れる。

 

「目標地点クリア。 しかしながら流石に一度撤退します。 クルーに人的被害は出ていませんが、悪魔達の損耗が激しすぎます」

 

「ああ、そうしてくれ。 すぐにその地点も此方から調査する」

 

「お願いします」

 

周囲に電波中継器を撒いているゼレーニンを護衛すべく、比較的被害が小さかった唯野仁成が周囲を警戒する。

 

ウルフが大きくため息をついて、側に座った。

 

手持ちの悪魔が、今の混沌の無差別攻撃に全部やられてしまったらしい。まあ、今回は悪魔の被害が皆大きかった。仕方が無い。

 

ヒメネスも手持ちが全滅したくらいである。

 

ただ、混沌が少しばかり強すぎるようにも思えた。

 

さっきのヴリトラはまだ分からないでもない。だが混沌は、四凶と呼ばれる最強の妖怪とは言え、あくまで妖怪。

 

ヴリトラは神話における神の敵対者の長であり、言うならば大魔王とでもいう立場の存在である。

 

ちょっとばかり混沌が凶悪すぎたように思えた。

 

「作業完了。 引き上げましょう」

 

「殿軍は俺が引き受ける。 皆、先に行け」

 

「では、前衛は俺が」

 

唯野仁成が挙手する。ナビはそのままアーサーがしてくれたので、そのまま帰路を急ぐことにする。

 

途中、ヒメネスがストーム1に話しかけていた。

 

「ライサンダーZが出来たと言う事は、俺たちにもライサンダーFが支給されるということでよろしいので?」

 

「真田技術長官によると、まずは唯野仁成とお前に。 それから一線級のクルーにそれぞれ支給されるそうだ」

 

「それはご機嫌だ。 あの火力、試してみたかったんだよなあ」

 

「お前は変わらないな。 だが、それでいい」

 

外でなら、ライサンダーFは恐らくフリゲートくらいなら一撃撃沈が可能な火力を有しているだろう。

 

先の様子を見る限り、ライサンダーZは更にその数倍という所か。

 

中華風の宮殿を抜けると、さっきの寂しい荒野に出る。皆が揃うのを待つ。悪魔が仕掛けてくる事はないが。

 

それでも、今戦えるクルーは半減している事を考えると、油断は出来ない。

 

全員が揃ってから、また空間の裂け目を通る。そうやって、何度も全員の無事を確認しながら、空間の裂け目を通って方舟に戻る。

 

方舟に戻ると、ストーム1がレポートを出してくれると言う事なので、有り難くそれに従う。

 

ヒメネスは疲れたと言って自室に直行。

 

ゼレーニンは、データをまとめると言って研究室に戻っていった。

 

もう完全に、二人とも平常に戻った気がする。そしてベタベタするだけが仲間という訳でもない。

 

唯野仁成は多少余裕があるので、レクリエーションルームに。

 

コーヒーを淹れて、静かに一人で飲む。

 

酒が飲みたいと言っているクルーの声が聞こえた。

 

外のプラントをずっと護衛していたらしい機動班のようだ。まあ退屈だったかも知れないが。

 

そもそもそれでも、デモニカを通じて戦闘経験が並行蓄積される。悪魔は相手の力を敏感に感じ取るから、いるだけで抑止力になる。

 

油断しているのはよろしくないが、仕事はきちんとしている事になる。文句を言うつもりはない。

 

「ヒトナリおじさん、眠いー」

 

「しばらくは任務はない。 寝ていていいぞ」

 

「んー」

 

アリスがPCの中からわざわざ報告してくる。別にそこまでしてくる必要はないと思うのだが。それだけ唯野仁成を信頼してくれていると言う事だ。

 

小さな子に取っては、親代わりの相手の声が何よりも安心するものになるという話である。

 

親に絵本を読むのをせがむのはそれが理由だとか。

 

唯野仁成も、それだけアリスに信頼されたというのなら、それは誇るべき事なのだろう。

 

昔は、この位置にライドウ氏がいた。

 

だが人間は年老いる。悪魔は変わることはあれど年老いる事はない。

 

昔はライドウ氏が、こんな風にアリスに応じていたのだと思うと、ちょっと面白かった。

 

しばらくコーヒー休憩してから、シャワーを浴びて、それから眠る事にする。

 

アリスに言った通り、当面任務はなかった。ただライドウ氏がストーム1の代わりに、クルーをたくさん連れて出かけていったようだが。恐らくだが、ドローンが多数失踪している地域を調査に行っているのだろう。

 

プラントでは兎に角ドローンを大量生産しているようで、どんどんドローンが空に飛ばされている。

 

空間の歪みは片っ端から調査されているようで。

 

一眠りしてから起きて、何となくデモニカでグルースの踏破済マップを調べて見ると、今までアンノウンだった地域が相当に塗りつぶされていた。

 

それでもまだ何カ所か、アンノウンになっている場所がある。

 

そろそろ、次の任務があるかな。そう判断した頃、ゴア隊長から連絡があった。

 

来たな。そう思いながら、ベッドから降りる。話を聞きながら、物資搬入口に向かう。

 

このセクターグルースも、そろそろ本性を暴き立てるときが来たという事だ。

 

物資搬入口に出向くと、だいたいの一線級クルーと、ストーム1がいた。ヒメネスもゼレーニンもいる。

 

大詰めだ。多分、相当に強い悪魔がいる。

 

ふらりとケンシロウが姿を見せたので、誰もが驚く。というか、ケンシロウは相当な巨体なのに、ストーム1以外誰も接近に気付けなかったようだった。

 

「俺も行く。 どうやら……幻力とやらの流れが、解析できそうだ」

 

「大母に遭遇できそうだと言う事か」

 

「いや……その割りには大きな悪魔の気配がない。 ティアマトの時のように、多分何かの仕掛けがあると思う」

 

ケンシロウはマイペースに喋るが、嘘の類を言っている様子は無い。

 

ストーム1は普通に応じているが、やはり今でもケンシロウを怖がるクルーはいるようだった。

 

「現地までのナビはアーサーがしてくれる。 状況から考え、今まで以上の難敵がいる可能性が高い。 気を付けてほしい」

 

「イエッサ!」

 

ゴア隊長からの通信に答えると、すぐに出立する。

 

南極をシュバルツバースが覆い尽くしてしまえば、後はなし崩しだ。天文学的な被害が出る事になるだろう。

 

そうなる前に、全てのけりをつける。

 

文字通り、一秒だって無駄はないのだ。




インド由来といえばカラリパヤットを源流とする拳法が知られていますが。

北斗神拳も当然その流れを汲んでいます。

それが、突破口です。
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