その動きには、明らかに裏があるのでした。
全てを欺く、裏の更なる裏が。
デメテルは嘆きの胎の六層で、小さくあくびをしながら横になっていた。
周囲には、無数の実が転がっている。これらの実は、嘆きの胎で流された血が実になったもの。
要するに収穫物だ。
そして、嘆きの胎における最も重要な収穫物こそ、実りだが。それも、順調に育っている。
周囲には、既に洗脳して従えた看守悪魔達。
全く、メムアレフも脇が甘い。戦闘力ばかり重視して、どいつもこいつも頭が弱い悪魔ばかりを看守に揃えるからこうなる。
既にヘカトンケイレス三兄弟をはじめとして、この嘆きの胎にいる強大な看守は、全てデメテルの麾下にある。
ならば何故囚人を救わないのか。
理由は。周囲に散らばっている大量の実と同じ。
実りを完成させるには、そもそももっと苛烈で、戦力が拮抗した相手との戦闘が必要になるからだ。
五層に人間達が来ているのは分かっている。
恐らくグルースと人間達が呼んでいる空間の攻略の手はずが整い、戦力の調整のために来たのだろう。
それでいい。
明けの明星に余計なちょっかいをかけられると面倒だから、マンセマットに大事な娘を貸してやったのだ。
とはいっても、あのペ天使が言う事を聞くとも思えない。
明けの明星の攻撃があったら、流石に必死で身を守ろうとするだろうが。デメテルは既に確認している。
マンセマットにとっては天敵に等しいガブリエルが、人間共に協力していることを。
ガブリエルが一声掛ければ、マンセマットの所にいる天使は、全部まとめて人間の麾下に入るだろう。
勿論それに気付かせてはいけないから、わざわざ人間共を誘導したのだ。
ドローンとかいったか。あの機械で出来たカトンボを誘導し、重要地点を守っている悪魔の所に行かせるのはデメテルも苦労した。
人間共もどんどん力をつけているから、ちょっとでも油断すると細工に気付かれる。
苦労した甲斐あって、既に人間共はグルースの仕組みを理解した様子だ。
後は、あの空間の支配者である大母。そのままマーヤーが具現化した存在を、ぶっつぶしてくれればそれでいい。
流石にマーヤーは次元違いの怪物だが。
そのために、五層に人間共を誘導したのだ。
ゼウスをくれてやる。
オリンポス神族の筆頭にして、世界でももっとも有名な雷神の一柱。デメテルの不出来な弟であり。そしてデメテルの大事な娘を。
まあそれはいい。今回、道具になる事で帳消しにしてやる。
立ち上がると、デメテルは伸びをする。目を細めて、五層の様子を確認。
あのサクナヒメという武神が主に大暴れしていて、五層の強力な看守達を片っ端から片付けている。
また唯野仁成も、多くの勢力が目をつけているだけの事はある。
実にハーヴェストな活躍だ。最初の頃と同一人物とはとても思えない。実に素晴らしい活躍で、五層の看守悪魔を片付け。そして力を増している。ヒメネスという人間も、それに近い活躍をしている。
これは、明日にはゼウスに手が届くだろう。そして、実りはますます充実することになる。
勘違いしている者が大半だ。そして、気付かせてはならない。
実りは現物がある必要はないのだ。
この嘆きの胎は、文字通りの胎。本来はメムアレフが、シュバルツバースが必要とする物資を産み出すために作り出した特殊な空間だった。
牢獄としての役割もあったが。それ以上に大事だったのは、収監された秩序属性の悪魔達が、栄養分となる事。
だが、その仕組みは、残念ながら豊穣神の中の豊穣神であるデメテルにはお見通しだった。
今の外の時代は、飽くなき飽食の時代。
オーカスとか言う醜い豚の魔王が言っていたように、人間は際限なく喰らっている。愚かなあのアスラが言ったように、際限なく排泄している。
その行為そのものが、豊穣神であるデメテルの力を高めた。
シュバルツバースのバランスを組み替える作業を行った結果、メムアレフは一旦疲れ果ててしまい、眠りに落ちた。
それで充分だった。デメテルが脱走するには。
後は、嘆きの胎を蹂躙して、自分の私物に切り替え。そして、ついでに此処に寄せて来た人間達を利用する準備を整え。
計画も、既に最終段階に近付きつつある。
数名、看守悪魔に声を掛けて、来るように指示。そのまま、六層の奥へとわざわざ引っ込む。
これは、五層の攻略の邪魔をさせないようにするためだ。
噛ませ犬として最適と判断したアレックスは、散々ストレスを掛けた後だ。唯野仁成の養分になる事はあっても、邪魔になることはあるまい。
問題はゼウスがとんでもなく強い事だが。
今のあの人間共なら、充分。
ゼウスを打ち倒せるならば、その時得られる実りの栄養分は充分過ぎる程。
実際には、ただ実ればいいのだ。
誰が持っていようと、そんなものは関係無いのである。
デク人形として突っ立っている看守悪魔達に、六層から更にその深部にある、ある重要空間の入り口を守らせる。
そして、自身は伸びをしながら歩き、座り心地が良く調整した草のベッドに横たわった。
後は、文字通り寝ているだけでいい。
マンセマットはもう終わり。
明けの明星は、マンセマットに対して警戒はしているが。デメテルの真の目的をまだ読めてはいないはず。
この更に下層にいるある存在を、重鎮とも言える部下達を使って封じているようだが、それだけでは意味がない。
悪いが、明けの明星なんて勘違いから作り出された悪魔よりも。
デメテルの方が遙かに古い神格であり。
そしてその狡猾さも上だ。
地獄のような内ゲバで揉まれ続け。家族を奪われ。血涙を流し続けて来たデメテルなのである。
もはや我慢の限度は尽きた。
間もなく嘆きの胎五層では、囚人となっているゼウスを巡っての決戦が始まるはずだ。
デメテルは実りがどのように出来たかを確認しに行くだけでいい。
ゼウスは勿論デメテルに不安を感じるだろうが、感じたところでもう遅い。
既に計画は。九割はなっているのだから。
(続)
グルースのからくりを解き明かす事に近付く英雄達。
そしてその前に。
あらゆる神話の中でもっとも有名な雷神が姿を見せようとしています。