後代のスケベ爺然とした愉快なゼウスではなく。
冷厳で強力な雷神としての姿に、驚いた人も多かったのではないでしょうか。
伝承が古くなるほど、ゼウスの描写は冷厳で強力になっていくようですね。
ゼウスが高笑いしながら、更に火力が上がっている雷撃を投擲してくる。テューポーンは超再生力を駆使しながら、ゼウスにどんどん近付いていき。それを盾に、皆が狙撃を続けていく。
ゼウスも流石にライサンダーの一斉射には閉口気味で、テューポーンをどうにか焼き尽くすか、それとも全域を一気に焼き払うか悩んでいるようだったが。
そこで、ライドウ氏が不意に仕掛けた。
「テューポーン!」
「ほう?」
ライドウ氏の叫びと共に、テューポーンが不意に姿を変える。
巨大な蛇になると。そう、この間交戦した龍王ヴリトラをも超える巨大な蛇に化身すると。
ゼウスを丸呑みにせんと、襲いかかったのである。
どの道、ケラウノスがぶっ放される度に、クルーが展開している悪魔達が倒されて行っているのだ。
余波だけでも、守に徹している、此処まで成長したクルーの悪魔達がやられるほどの超火力。
長期戦はしない。
最初から、それは周知されている事だった。
ゼウスは鎌を降り下ろし、文字通りテューポーンの頭を唐竹にたたき割る。
あれがアダマスの鎌か。
更に至近距離から、テューポーンに全力でのケラウノスを叩き込む。
至近で雷が落ちた経験は、幼い頃に一度だけあるが。
それをも超える、意識が飛びかねない轟音だった。
流石にこれには、テューポーンもひとたまりもない。消滅していくゼウスを倒せし唯一の神格。
だが、その時にはサクナヒメが突貫していた。
振り仰ぐゼウス。アダマスの鎌を振るい上げて、サクナヒメが既に手元に光らせていた青い神剣を防ぎに掛かる。
光が迸る。
元々ゼウスは邪悪な神格では無い。文字通り、光と光のぶつかり合いだ。
「なるほど、異国最強の武勇というのは話だけではないようだな!」
「ストーム1! やれっ!」
「!」
ゼウスが押し返そうとした瞬間。
迸った光。そう、アレスを一瞬にして屠り去ったフュージョンブラスターの一撃である。
ライサンダーZでゼウスを打ち据えながら、これによる確殺を狙っていたのだ。
ゼウスは流石だ。雷の神格だけの事はある。これを、ケラウノスを盾にすることで、防ぎ切ってみせる。
周囲が燃え上がるような超高温の中、羽衣を使って、距離を取ろうとするサクナヒメ。
させじとケラウノスを更に放とうとするゼウスだが、即座に行動を切り替えその場を飛び退いていた。
いつの間にか接近していたケンシロウに気付いたのである。
「パンクラチオンでは無さそうだが、未知の武術には近付かぬに限る」
ケンシロウの瞬歩に対応して、機敏に移動するゼウス。だが、ゼウスは気付いていない。今のストーム1の一撃、更にケンシロウの移動で、追い詰められていると言う事に。
唯野仁成と、ヒメネスが。同時に叫んでいた。
「斉射!」
詠唱を終えていたアリスをはじめとした唯野仁成の悪魔達全員。更にヒメネスの魔王達全員が、一斉に最大火力の魔術を叩き込む。
ゼウスも流石に顔色を変えて、全力で防ぎに掛かるが。
アリスのトリスアギオンをも数十倍に増幅したこの最大火力。流石の最高神も、防ぎ切る事は出来ない。
ライサンダーをぶっ放すヒメネスを横目に、唯野仁成は突貫。剣を抜く。ケンシロウも同じように突貫している。
雄叫びと共に、己を灼いていた炎を吹っ飛ばし弾き散らすゼウス。
流石に無傷とは行かないが。唯野仁成達より先に仕掛けたサクナヒメの一撃を、アダマスの鎌にて防いで見せる。
それだけではない。
羽衣で空中機動し、縦横無尽に秒間百を超える乱撃を叩き込んでくるサクナヒメに対して、全ての攻撃に応じている。
ゼウスが明らかに笑っている。
楽しんでいるのだ、この圧倒的な戦いを。
そして、そんな状態でも、針の穴を通すようにして、ストーム1が狙撃を完璧に決める。
横っ面と鳩尾を立て続けに張り倒されたゼウスが、流石に苛立って顔を上げるが。その時には、ケンシロウが足下に。
ケラウノスを振るって、ケンシロウの接近を防ぎに掛かるゼウスだが。
しかし、此方は手数が多いのだ。
ゼウスの顔に、何かが貼り付く。ライドウ氏が召喚した悪魔だ。軟体動物のように見えるが、その割りにはゼウスは慌てていた。
「これは、ただの邪神ではないなっ!」
見ると、タコに似ているが、目が体中にあり、非常におぞましい姿をしている。
ゼウスがケラウノスで無理矢理焼き払って引き離すが、その時には唯野仁成が、ゼウスの至近に到達していた。
アサルトの乱射を全身に至近から浴びせてやる。
完全にガードをこじ開けられたゼウスが、流石に呻いて蹈鞴を踏む所に。更にライサンダーFを至近から叩き込む。
顎をアッパーカットでたたき上げられたような格好になったゼウスは、それでもサクナヒメが気迫と共に繰り出した一撃をアダマスの鎌で防いで見せる。
流石に最高神をその座から追った武具だ。とんでもない性能である。
だが、一歩下がった唯野仁成の代わりに、ケンシロウが前に出る。ケンシロウに接近されるのは危険と判断しているのか、ゼウスはケラウノスで吹き飛ばすようにして追い払う以外に手がない。
その瞬間、唯野仁成は。
ケンシロウから教わっていた瞬歩を使って、ゼウスの背後に回っていた。
「何ッ!?」
「このデモニカは、学習を並列化して皆に回す!」
剣を振るう。ゼウスの右アキレス腱が、確かにその瞬間ざっくりとはじけ飛んでいた。
神話でもゼウスはテューポーンに破れた後、アキレス腱などの手足の腱を取りあげられ幽閉されている。つまりアキレス腱はゼウスにとっても弱点だ。
流石に顔色を変えるゼウスだが、それでも全身から雷の魔力を放って周囲の全てを吹っ飛ばす。
仕切り直しといきたいのだろうが、そうは行かない。
地面に降りたサクナヒメが、剣を鞘に収めると、低い態勢を取る。突貫しての居合い。サクナヒメの技の中でも、特に火力が高いものだ。
恐らくゼウスも、それを危険と判断したのだろう。
手を上空に上げると、全力でケラウノスの火力を集中し始める。
顔面にストーム1のライサンダーが直撃するが、それでも歯を食いしばって耐えてみせるゼウス。
だが、その時。
後頭部から、思わぬ一撃が、ゼウスの動きを封じていた。
そう、この時のために用意された武器。
ドローン十機がかりで持ち上げ、運べるようにした野戦砲。ライサンダーZF。
恐らく、最高のタイミングで引き金を引いたのは正太郎長官だろう。
方舟は五層に入る事は出来ないが。
こう言う形で、最高の支援は可能なのである。
「あわせよ!」
サクナヒメが叫ぶと同時に、突貫。
ゼウスは、後頭部をあり得ない火力ではたき倒されたにもかかわらず、それでもサクナヒメの居合いを、アダマスの鎌で防ぎ抜いてみせる。
流石だ。
オリンポスの最高神というだけのことはある。
だが、本命はその後だ。
それも分かっていたのだろう。
さっき後頭部を張り倒されたときに、拡散してしまったケラウノスだが。その火力の残滓を集め。接近していたケンシロウにぶっ放すゼウス。
近付かせてはいけない相手を優先的に処理する。当然の思考だ。というか、それ以外に手がない。
詰め将棋である。
そして、詰め将棋を制したのは、此方だった。
ゼウスが至近にいる唯野仁成に気付いたのは、その瞬間。
サクナヒメが羽衣を使って打ち上げてくれたのである。唯野仁成は剣を抜くと、ゼウスの頭上から腹まで、一気に斬り降ろしていた。
「ぬ、ぬううっ!」
噴き出す鮮血。
更にその傷に、完璧なタイミングで、ヒメネスが狙撃を叩き込む。傷口は高速で塞がっていたが、元々アキレス腱を切られて動きが止まっている状態だ。其所に更にライサンダーの弾が飛び込んだのである。
ゼウスが、ついに片膝を突く。
他のクルー達が、斉射の第二弾を準備し始める。
唯野仁成の悪魔達も。
だが、ゼウスは不敵に笑うと、ケラウノスを引っ込める。そして、アダマスの鎌を放って捨てていた。
負けた。その意思表示をしたのだ。
「見事。 実に素晴らしいぞ英雄達よ。 流石にこの階層にまできてはいないな」
「降伏するという判断で間違いないか」
唯野仁成が至近でライサンダーを構えながら言うと、ゼウスはどっかと胡座を組む。
アキレス腱が切られている状態だ。普段は痛くて出来ないだろうが、それは神だから、なのだろう。
それを見て、唯野仁成も、ライサンダーを降ろし。
他の皆も、戦闘態勢を解いていた。
「欲するはこれであろう?」
放り渡される実り。頷く。
ゼウスは鼻を鳴らす。そして、出てこいというのだった。
「姉上、いるのだろう」
「ええ、勿論」
総力戦状態のクルー達の真ん中に、音も無く姿を見せるデメテル。サクナヒメが剣に手を掛けたが。ゼウスは首を横に振った。戦うつもりはないし、好きにもさせないという意思表示だ。
それを見て、サクナヒメも無言で意図を悟ったらしい。剣から手を離していた。
「だいたい目論んでいる事は分かるがな、姉上。 俺は力をかさんぞ」
「かまいませんわ。 私は豊穣神の中の豊穣神。 目的はただの一つ、収穫。 それが自分の手で行われなくても、かまいませんのよ」
「相変わらずの物言いであるな」
「ええ、相変わらずですわ。 ゼウス、お前と同じでね」
気のせいだろうか。
ゼウスとデメテルの問答に、殺気があったような気がする。
元々仲が良いとは言えないオリンポス十二神だと聞いている。トロイア戦争の逸話では、くだらない理由から仲間割れまでしている有様だ。
それに。ゼウスとデメテルは、デメテルの娘ペルセポネの一件で相当な確執があった筈。
要するに、略奪婚されたペルセポネを取り戻そうとゼウスに食ってかかったデメテルを。ゼウスは略奪婚した冥界の王神ハデスの肩を持つ形で、突き放したのである。
この一件は散々後で問題を作ることになるのだが。恐らく、今もその一件が理由で、揉めているのだろう。
デメテルは冷たいやりとりを終えると、唯野仁成を見る。
「実りは回収しましたわね」
「ああ。 だが解析したい」
「勿論貴方が持っていてかまいませんわ。 可能性の塊である貴方が持つのに相応しい品でもありますのよ」
「……分かった。 受け取っておく」
デメテルが消える。
ゼウスが、大きくため息をついた。
「唯野仁成よ。 やはりそなたには、他には無い圧倒的な可能性の光が見える。 他の英雄達も素晴らしいが、そなたの可能性は圧倒的だ」
「自覚は無いが、そうなのだろうか」
「そうだ。 だから姉上をはじめとする腹黒き者達がそなたに目をつけ、狙っているのだ」
確かに妙に高位悪魔に好かれる事は、唯野仁成も自覚はしていた。
ゼウスは更に言う。
「姉上は既に俺とは魂の居所が違う。 秩序陣営にいて、しかも単純に秩序陣営で忠義の犬と化しているわけでもなさそうだ。 気を付けよ。 姉上は豊穣神としては文字通り最高の存在に位置する。 その実力は、今や俺をも凌ぐかも知れないな」
「それほどか」
「……もう少しそなたが力をつけたら、気が向いたら力を貸してやろう。 その時まで、くだらぬ陰謀に引っ掛かって死ぬでないぞ」
ゼウスが消える。
どこに行ったかは分からないが、いずれにしてもはっきりしている事がある。
ゼレーニンが来た。クルー達を守るために、ガブリエルが相当に消耗したようだが。ゼレーニン自身は平気だ。
実りを引き渡す。いずれにしても、唯野仁成が持っていてもどうにもならない代物である。
点呼を周囲で開始している。サクナヒメはどっかと腰を下ろすと、嘆息した。
「やれやれ、厄介な輩であったのう」
「姫様と真正面から片手間にやり合うとは、流石でしたね」
「……気付いていなかったか。 奴はまだ全力ではなかったわ」
「!」
そうか、まだあれより力が上がったのか。
考えてみれば、ライサンダーZFの直撃弾を後頭部に喰らったり。アキレス腱を切られたりしても、まだ交戦可能な状態だった。
ゼウスの本来の戦闘能力は、更に上でも不思議では無い。
ただ、とサクナヒメは言う。
「仮に全力を出されていても、わしらが勝ったがな。 奴はデメテルめの目的を恐らく見抜いているのだろう。 故に単に力を試すためだけに、わしらに戦いを挑んだ。 そして実りとやらも引き渡した。 全ては茶番だった、ということよ」
「茶番で死にかけましたが……」
「奴にとっては人間の死など茶番なのだろう。 ……人間とともに暮らす事がない神は、本当に傲慢になるのだな。 わしも戒めなければならぬ」
点呼が終わる。整列し、そしてすぐに方舟に戻る。
視線を感じたので、一瞬だけ振り向く。恐らくアレックスが戦闘の経緯を観察していたのだろう。
別にかまわない。
それに、今の状態でアレックスに奇襲を受けても、はっきりいって余裕を持って勝つことができる。
六層へは簡単にいけるようになっていたが。やはり六層には、恐ろしい力を持つ看守悪魔が蠢いている様子だ。
入るには、相当な覚悟が必要だろう。
方舟に戻ると、やっと人心地がつけた。
すぐに風呂に行ってシャワーを浴びるものもいるが。ゼレーニンは実りを解析するべく、真田技術長官の所に持っていった。
唯野仁成はデモニカのシステムを使ってレポートを作ると、艦橋に出向く。
敬礼して、ゴア隊長と正太郎長官に状況を説明。
ゴア隊長は敬礼を返してくれた。
「此方でも戦闘の様子は見ていた。 あの凄まじい力を持つゼウスを相手に一歩も引かぬ戦い、見事だったぞ」
「ありがとうございます。 それで……」
「うむ。 真田技術長官による例の装置が出来るまで少し時間がある。 それまでは休憩にしてほしい」
「分かりました。 それでは休憩に入ります」
真田技術長官による「かねてから開発していた」は、今回も炸裂することになりそうだ。
いずれにしても、多分後二日ほどは余裕があるはず。
ゼウスとの近接戦は、ゴア隊長が冷や冷やしていたのも分かる。兎に角、今でも身震いが来る程だ。
それも、まだゼウスはあれで手を抜いていたという。
本気を出していたのなら、どれほどの力が出ていたのだろう。想像するのも恐ろしい話である。
シャワーを浴びて、風呂に入ってから、ベッドに入って眠る事にする。
しばらく無心に眠って、それから起きだす。
手持ちの悪魔達は、今回防御と一回の斉射だけに徹しさせたが、それでも相当に消耗した様子である。
蓄えていたマッカを、相当量取られることとなった。
ため息をつくと、唯野仁成はアイスでも食べに行く。休憩室では、既にヒメネスが来ていて、コーヒーを淹れてくれた。
「今度真田技術長官が、また新しい食い物を作る装置を作ってくれるらしいぜ」
「あの人も寝ているのか不安になるな」
「休息カプセルを使っているらしいが、確かに心配だ。 このくだらねえ戦いが終わったら、ゆっくり休んでほしいものだが……そうもいかないんだろうな」
「ああ」
シュバルツバースが出現したのは、人間のせいだ。
これについては、唯野仁成も擁護できない。
恐らくだが、シュバルツバースから戻り次第、国際再建機構を主導で、地球の国家統一が開始されるだろう。
主力となるのは米軍だろうが、国際再建機構の軍もそれに加わるか、それとも指揮を執るか。
いずれにしても世界をまとめ、まずは宇宙に出る事を優先する必要がある。
人類は地球から搾取しすぎたのだ。このままでは、何度でもシュバルツバースが出る事になる。
それについては、もう分かっていた。
大母の長を倒した所で、結果は同じだろうとも。
仮にもうシュバルツバースが出現しないような処置を執れたとしても。放っておけば、人間が地球を食い潰し、滅亡する未来に代わりは無い。
要するに、シュバルツバースをどうにかして、外に出たとしても。
そこからがむしろ本番なのだ。
真田さんは恐ろしい開発能力を持つが、それでも全能の存在でも何でも無い。悪魔が世界にいることが分かったが。それが表になった所で、どうせ軍事利用を目論む連中がわんさか出てくるのは分かりきっている。
財団はつぶれたが、第二第三の財団がどうせすぐに出てくる。
外に出ても、唯野仁成は戦い続けなければならないだろう。
マンセマットの言葉は間違っていた。
洗脳によって人間をどうにかしてしまえばいいというのははっきり言って暴論である。
だが暴論ではあっても、確かに人間はどうにかしなければならないという部分だけはあっている。
唯野仁成も、人間の可能性が無限大だとか。人間はきっと未来に美しい文明を築くことが出来るとか。
そんな事を、無邪気に信じられるほど頭が子供では無かった。
「本当に、真田の旦那はどうするんだろうな。 シュバルツバースをどうにかした後に、プランはあるのかねえ」
「正太郎長官がそれより心配だ」
「ああ。 鉄人28号を駆った英雄ももう流石に年だ。 クローン人間を作って記憶を移してとか、そういうのはまだ無理だろうしなあ」
「さらっと凄い事を言うな」
「……分かってるんだろ。 世界の富を独占している連中はアホの集まりだ。 どんな天才だって、その子供は天才とは限らない。 どんな凄い英雄が作った国だって、三代目までが勝負どころだ。 国際再建機構だって、今はもうどの国も内心で面倒くさがっているだろうよ。 何しろその手のアホには兎に角厳しい組織だからな」
ヒメネスの言葉は苛烈だが、その通りだとも思う。
結局、外に出ても戦いは避けられまい。
このままでは、だ。
ため息をつく。アレックスは結局の所、此方との交戦意欲を失ってくれた様子だ。それは大変有り難い話ではある。
しかしながら、恐らく平行世界から来ているだろうアレックスの話は、きっと今後の指標になる筈。
出来れば、しっかり話をしておきたい。
「ヒメネス。 もしも戦後、国際再建機構で高給取りの将官として待遇するって話が出たら、どうする?」
「勿論乗るさ。 この状況だと、はっきりいって楽隠居とはいかないだろうからな。 それよりゴア隊長は多分シュバルツバースのもめ事が終わったら国際再建機構の軍事最高責任者になるし、お前を右腕に欲しがるぜ」
「光栄な話だが」
「そう、光栄な話だ。 お前がダチで俺も鼻が高い」
コーヒーを飲み終えると、ヒメネスは通信を受けたらしく、外に出向く。多分二線級クルーの訓練だろう。
唯野仁成も少し遅れて通信を受けた。
姫様の班と一緒に、六層の偵察だ。ゼレーニンも今回は姫様の班に入る。
真田技術長官が、幻力を打ち破り、グルースの大母を引っ張り出す装置を作り出すまでに、できる事は全部やっておかなければならない。
六層の看守は、以前は文字通り勝てる気がしない相手ばかりだった。
だが、今は違う。
野戦陣地を抜けて、六層に。六層は、今までで一番緑の臭いが濃い場所だった。それだけじゃあない。
非常に周囲にはたくさんの木の実がなっている。
どれもこれも、口にしたらまずいものばかりだろう。
サクナヒメが、目を細めてじっと木の実を見ていたが。周囲のクルーに警告する。
「絶対に口にするでないぞ。 恐らくはこのシュバルツバースから出られなくなる」
「ヤナトにもその伝承はあるんですね」
「ああ、そういえば「日本神話」にも似たような話があるそうだな」
「先ほど交戦したゼウスのギリシャ神話にもあります」
唯野仁成が説明すると、大きくため息をつくサクナヒメ。
サクナヒメの憂いの表情が増えてきているのを、唯野仁成は敏感に感じ取っていた。春香の歌を聴いて静かにしている事も多くなってきた。
流石にこの人間の業に満ちあふれた世界では、武神もナイーブにならざるをえないのだろう。
だが、そんな時だからこそ。
この偉大な武神にして豊穣神を、唯野仁成達人間が支えなければならない。
信仰を要求して何も与えず誰も救わない神と違う。
サクナヒメは自分で積極的に前線に立ち、己が傷つくことを一切厭わず戦う事を躊躇しない。
誰かが間違いそうになれば手をさしのべるし。
文字通り悪魔の誘惑に落ちそうになっているクルーは、積極的に救い出してくれる。
「まずは仕事をすませてしまいましょう。 その後、田の仕事を手伝います」
「ああ、そうするか。 散開。 周囲にはどんな罠や悪魔がいるか知れたものではないぞ、油断は絶対にするな」
サクナヒメも意図を汲んでくれたらしい。
黙々と周囲の警戒に当たり。六層入り口付近の調査を始めてくれた。
唯野仁成もそれを見て安心する。
人と共にあり、人が間違えればただすことを選んでくれた神。神秘性ばかり強調し、高尚な宗教哲学をぶち上げて人々を煙に巻き、信仰心だけをむしりとって人を救うことにはなんら興味が無い現在の神々とは違うもの。
だから、唯野仁成は。
サクナヒメになら、全幅の信頼を預けられる。
六層入り口付近の調査をしながら、もう一つの懸念事項について考える。
当然だが、アレックスだ。
出来れば、そろそろ接触したいものだが。
そう簡単にはいくまい。そろそろ、アレックスが会ってきたという鬼畜のような唯野仁成とは違うという事をしっかり示したい。
多分だが、情報集積体だけを集めるだけでは駄目だろう。このシュバルツバースを完全な意味で理解するためには。アレックスの協力が必要なのだ。
ゼウスを屈服させる方舟クルー。
ギリシャの主神を屈服させた皆の力は。
既に、深淵に届く可能性が生じるほどのものとなっていました。