Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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ついにグルースのからくりの解明に王手が掛かります。

その先にいるのは。

強大極まりない大母、マーヤーです。


2、幻力を破る

嘆きの胎六層の入り口付近の調査を終え。プラントで物資を補給。そして、方舟に戻って来た所で、春香のアナウンスが流れる。

 

ゼウス戦では、ガブリエルや、各クルーが育ててくれていた悪魔達による強力な防御。それにゼウスが本気では無かっただろう事もあって、被害は最小限に抑えられた。死者は出なかったし、クルーにも身動きが取れなくなるほどの重傷を受けた者はいない。

 

だから、グルースの大母ともすぐにやりあえる。

 

故に、基本的にリラクゼーションも兼ねて流される春香のアナウンスには、少し逆に不安を感じた。

 

「これよりレインボウノアは再びグルースに戻り、グルースの支配者悪魔、恐らく大母との決戦を行います。 現時点で、戦いの流れは以上のようになります」

 

原稿を渡されているのだろう。

 

春香の説明は極めて淡々としていた。

 

まず第一に、真田さんが開発した思念電磁波中和装置を、今まで調査してきたグルースの各所に設置する。

 

第二に、一旦クルーを方舟に収納し。グルースの上空。空間の歪みなどが存在していない地点で、状況を観察する。

 

第三に効果があるかを確認。効果が出次第機動班全クルー及び、戦闘が出来る全クルーを投入。

 

事前に用意してある野戦陣地などをフル活用して、大母の足を最初から止める。其所に、更にとどめの攻撃を加える。

 

要は、最初から大母にありったけの火力を叩き付けて、可能な限りの短時間で撃破する。

 

以上だと言うことだった。

 

勿論、疑念の声が上がる。まあそうだろうなと、唯野仁成も思う。

 

「大母が実体を現すとき、かなりのダメージを受けるという予想があった筈だが、どうして即座に総力でしかけないのだろうか、説明を願いたい」

 

そうデモニカ内の通信で最初に言ったのはブレアだった。

 

これに対しては、真田さんではなく春香が答える。恐らく原稿にあるのだろう。それにブレアの質問も当然だ。

 

「解析の結果、グルースはインド神話で言われる幻力、マーヤーによって構成されている世界です。 世界の全てが幻力で作られている訳ではないでしょうが、その根幹を破壊した場合、何が起きるか分かりません。 フォルナクスのティアマトの時も丸ごと世界が書き換わりましたが、あれと同じ状況になる可能性があります。 その時、空間の乱れが多数存在している場所にクルーがいるのは危険すぎます」

 

「なる程、理解した」

 

「方舟のプラズマバリアは改良を重ね、現時点では空間からの直接ダメージにもある程度耐えられるようになっています。 現時点でグルースに展開されている野戦陣地や自動迎撃設備は元々使い捨て。 大母に対しては、最初はこれで対応するのが正解でしょう」

 

それに大母の姿がまったく分からないのも要因の一つだと春香は言う。

 

ティアマトのように何度も形態変化する可能性は決して低くない。

 

更に言えば、元々幻力の使い手だ。

 

インド神話において神々でも悪魔でも修行をするときに関わる幻力。

 

名前の通りの存在であるから、幻を引き起こす。

 

それを根幹から破壊された場合。流石に改良を重ねたデモニカでも、いきなりは耐えられない可能性が決して低くは無いのだ。

 

納得しているクルー達。

 

ヒメネスも質問を入れる。ヒメネスはこう言うとき、鋭い質問を入れる場合が多い。

 

「大母への対策は分かった。 ただ、グルースにはまだ厄介な連中が残っている筈だが……」

 

「天使達については、対策があります」

 

これについても、春香が答える。

 

つまり、想定の範囲内と言う事だ。

 

ヒメネスはすぐに黙る。真田さんがきっちり時間を使って策を練ってくれたという事であり。それを正太郎長官が承認しているのだ。

 

ゴア隊長も、内容を把握していると見て良いだろう。

 

それならば、まずは聞くべきである。

 

「現在、マンセマットの上位に存在する大天使ガブリエルがゼレーニン隊員の手持ちにいます。 天使は大天使ラジエルの声でも、攻撃を躊躇いました。 ましてやガブリエルの声を受ければ、ほぼ動く事は出来ないでしょう」

 

「なる程、確かに自意識が薄そうな連中だったし、それはあり得るな」

 

「最初にガブリエルによる声を上空から流します。 これでどのような状態になっても、天使達は介入できなくなるはずです。 問題はマンセマットですが、マンセマットについてだけは対応をお願いいたします」

 

「まああいつだけなら何とかなりそうだな……」

 

ヒメネスも力をつけてきている。それに、ヒメネスの手持ちの魔王達を考えると、確かにマンセマットだけが攻めこんできても大丈夫だろう。

 

ただ、空間を跳躍する能力をマンセマットは持っている可能性がある。

 

それについては、大いに注意しなければならないだろう。

 

他に質問は、と春香が更に聞いてくる。

 

彼女は今、相当分厚い原稿を手にしていて。それを全て把握しているのだろう。この辺り、国際再建機構で雇われた本物のプロだ。

 

日本を離れた後、色々思った末に国際再建機構に入ったと言うが。

 

春香を守りたいという動機で国際再建機構に入った隊員は、実の所男女問わずに少なくないと聞いている。

 

しかも、意外な人物がそうらしい。

 

流石に気恥ずかしいのか、直接口にすることは滅多に無い様子だが。

 

世界最高のアイドルともなってくると、その辺りは色々と求心力が大きいのだろう。特に今の春香は、影響力において中規模国家の国家元首を凌ぐとさえ言われているほどなのである。

 

「質問がないようでしたら、作戦に移ります。 ご武運を!」

 

通信がきれた。

 

春香の声が、どれだけ隊員達の心の負担を減らしてきたか分からない。極限環境、悪魔達の群れ。

 

戦場にずっといると、ベテランの兵士でも心を病むことは珍しくもない。

 

人を殺すと、PTSDになる兵士は相当数いる。

 

どれだけ射撃が上手かろうが、格闘戦が強かろうが、それは同じだ。

 

此処にいるクルーは大半が実戦経験者だが。それでも厳しい状況に代わりは無い。

 

方舟がスキップドライブ。全く揺れなく、嘆きの胎からグルースへ移動。

 

着地まで、誰も何も言わない。

 

エリダヌスからフォルナクスへスキップドライブする時に攻撃してきた相手が何だったのかはまだよく分からない。

 

恐らく、最初にシュバルツバースに侵入したときに攻撃してきた相手とは別だろう。

 

だが、それ以降は何故攻撃してこないのか。これが分からない。

 

ただ、相手が此方を舐めてくれているのならそれはそれで有り難い。

 

相手が舐めてくれていれば、勝率は上がる。情報戦で、此方がそれだけ優位を得ているからだ。

 

プラズマバリア解除。

 

グルースに、再び着艦。周囲のプラントや野戦陣地は、全く荒らされず残っていた。方舟からアクセスし、弾薬などが減っていないことも確認。一旦野戦陣地に格納していたドローンとも無線でアクセスし、それぞれ稼働させた様子だ。この辺りは、強力なスパコンを積み込んできているからこそできる事だろう。アーサーの本領発揮である。

 

唯野仁成は指示に従って、まずは物資搬入口に出向く。今回はストーム1とライドウ氏、それに唯野仁成とヒメネスの四班で、調査班クルーを守りながら装置を各地に設置しに向かう。

 

同時に、ありったけのドローンを投入。各地の空間の歪みの側に配置する。

 

以前、ドローン狩りをしていた悪魔達は根こそぎ処理が完了している。だから、気にする必要はない。

 

ただ、空間の歪みが狭いので、やはりジープを使うことは出来ない。

 

それだけが問題ではある。

 

ケッテンクラートも同じような意味で駄目だろう。

 

以前調査班が使っていたケッテンクラートも、今回は使えない。更に、調査班が持ち出して来た装置を見て、唯野仁成は口をつぐむ。複数に分割されている。空間の歪みを通すためだろう。

 

現地に設置して、電源まで確保しなければならない。

 

その間、まだ仕掛けてくるかも知れない悪魔から調査班を守りつつ。

 

更には周囲に気を配らなければならない、と言う事だ。

 

遊撃として姫様とケンシロウが控えてくれる。

 

二人とも一騎当千の強者である。何か問題があれば、それこそ音速ですっ飛んできてくれるだろう。

 

だが、出来れば二人には力を温存してほしい所だ。

 

ティアマトの強さを思い出す。あの時の戦闘のことを考えると、はっきりいってぞっとしない。

 

大母の実力があれ以上だと言う事を考えると。

 

正直な話。出来るだけ、今は考えない方向で行きたかった。

 

調査班が出る。護衛して、唯野仁成達も小隊をそれぞれ率いて出た。一線級のクルーは、この間のゼウス戦で思ったほどの被害を出さなかった。これは幸いに、とでも言うべきだろう。

 

問題はマッカを大量に消耗したことだが。

 

それについては、必要経費として諦めるしかない。

 

捕らぬ狸の皮算用と言うが、此処の大母を倒した時のマッカを先に計上するのは避けた方が良いだろう。

 

そういう行動は、どうせ碌な事にならないのだから。

 

調査班は手押し車を用意してきている。電源も含め。一気に部品を運んでしまうつもりのようだが。その分護衛しなければならない調査班の人員が増える。

 

最初から悪魔達を展開して、目的地に移動。

 

四班に分かれても、最終的に十六箇所に設置すると言う事なので、丸一日はかかってしまうだろう。

 

アーサーによるナビがあっても、それくらいは掛かる。

 

このグルースは、日本列島くらいは広いのだから。

 

黙々と移動する。

 

ここに残る事を決めた弱い悪魔達は大丈夫だろうかと、少しだけ不安になる。だが、彼らも覚悟の上だろう。

 

それに此処の大母は、混沌の中に弱者を放り出して平然としているような奴だ。

 

一刻も早く、そのような行動は終わらせなければならない。

 

目的地に到着。

 

色々な訳が分からない場所を通ってきたが。何だかいわゆる空中都市、マチュピチュを思わせる石造りの場所だ。周囲は高山を思わせる光景が広がっているが、勿論此処で見えるものは一切合切信用できない。

 

黙々と設置作業を行う調査班達。

 

流石に何度もシミュレーションしていたのだろう。真田さんが装置を開発してから、体を動かして組み立てをするシミュレーションをする時間は幾らでもあったはずだ。

 

電源までセットし、更に周囲に自動迎撃用のセントリーガンを設置して作業完了。

 

これで一つ。

 

すぐに次の装置を設置しに行く。

 

途中、何度か悪魔に、それも決して弱くない悪魔に襲撃されるが。一線級の機動班クルーは既に慣れたものである。

 

唯野仁成が出るまでも無い場面も多い。

 

見る間にサクサクと斬り伏せておしまい。そんな場面を何度か見て、安心させられた。

 

まあ、この間のゼウス戦でも更に鍛えられている面子であり。そしてその鍛えられた経験が全員に平行で活用され。強化にも使われているのだ。

 

それは、多少の悪魔くらいなら。もう怖くもないのは当然とは言える。

 

唯野仁成は大物に備える。

 

それでいい。

 

割切って考えながら、方舟に到着。既に第二弾が用意されていた。ゴア隊長が、装甲車に乗って出て来ている。敬礼して、調査班が装備を持ち出しているのを横目に話を聞く。

 

「天使達のいる辺りで何か問題が起きているようだが、これは好機とみる。 そのまま作戦を続行してほしい」

 

「何か観測されたのですか?」

 

「天使達が展開している魔術による防御の壁らしきものが揺らいでいる。 弱い悪魔達の集落を何者かが守っていたのは複数証言から判明しているが、或いはその存在が仕掛けているのかも知れない」

 

「……なるほど」

 

恐らく其奴はあのさいふぁーだろうと唯野仁成は結論しているが、勿論口には出さない。あくまで勘だからだ。

 

そしてさいふぁーの正体は。これは勘では無く状況証拠からほぼ確定だが。一神教でもっとも有名な悪魔である明けの明星だろう。

 

だとすると、明けの明星も秩序側の戦力を少しでも削っておきたいのかも知れない。

 

いずれにしても、予想の範囲を超えないか。

 

調査班が手を振って来たので、ゴア隊長に敬礼し、二つ目の機械の設置に向かう。

 

皆体力がついてきていて、問題なく対応が出来る。

 

途中ムッチーノが通信を入れて来た。

 

「唯野仁成、二つ目の装置の設置が終わったら小休止をいれてくれ。 僕の方で料理を用意しておいたよ」

 

「それは有り難い。 皆喜ぶと思う」

 

「次の場所への移動、帰還の時間を考えて、調理をして一番美味しい状態にしておくからね」

 

機動班クルーも、皆聞いていたのだろう。

 

それぞれ嬉しそうにしている。こういう、良い意味で士気を保つのは大事だ。

 

その上で唯野仁成は、やるべき事がある。他のチームが上手く行っているか、確認する必要があるのだ。

 

ストーム1班とヒメネス班は問題なし。ライドウ班は予想よりも早く進んでいる。これはライドウ班が悪魔を大量に展開して、機動班と調査班の露払いをしているのが要因らしい。

 

ドローンがたくさん側を抜けるようにして飛んで行くのが見えた。

 

恐らくだが、インフラ班が今アーサーの指示で、プラントで作ったばかりのドローンをたくさん飛ばしているのだろう。

 

今運んでいる装置は、悪魔の体に実害を与えないという話だから、気にする必要もない。

 

EMPのような効果を発揮することも少しだけ心配したが。

 

あの真田さんが、そんなへまはしないだろう。

 

二つ目の設置地点に到達。

 

今度はひんやりとした、何だろう。冷蔵庫の中のような場所だ。彼方此方につららが点々としていて。

 

棚には食料品……かどうかよく分からないものがたくさん置かれている。

 

まるでカリーナのショッピングモールのようだが。

 

あれともまた、微妙に違う。

 

空間の歪みを通る度に滅茶苦茶に変わるグルースの光景だが。下位空間の、何処かを模している可能性も高い。

 

ともかく、設置作業はして貰う。

 

見た目と裏腹に、此処の環境も他とあまり気温湿度大気組成など含めて変わっていないようなのだから。

 

装置の設置まで、周囲を念入りに見張る。

 

此方に仕掛けてくる悪魔は今のところいないが。視線は感じる。

 

暇そうにしているアリスが、小さくあくびをしてから言う。

 

「ヒトナリおじさん。 なんか見てるけど、消し飛ばす?」

 

「無駄な労力は使わなくて良い。 自動迎撃装置もつけるから、どうせ何もできない」

 

「そっか。 合理的だね」

 

「視線は敵意に満ちているから、それでいい。 もしも此方に興味があるようだったら、交渉を持ちかける事も考えるが。 今は大母が最大の仮想敵だ。 それにアリスも備えてほしい」

 

はーいと心のこもらない返事があるが。

 

アリスだって、此処の大母が相当にヤバイだろう事は当然把握しているだろう。

 

アナーヒターが話しかけてくる。

 

「この辺りの氷、偽物ねえ。 一体どういう世界から情報を持ってきているのかしらね」

 

「さあ。 ただ、人間の世界にはこう言う大規模な冷蔵庫が幾つもある。 何かそれを模している意味があるのかも知れない」

 

「色々便利になっているのねえ」

 

「まあ、そうだな。 だが便利になった分、心が貧しくなっている世界でもあるのは確かだ」

 

これについては指摘されるまでもなく、唯野仁成もそう思う。

 

そのまま、設置を見守る。程なく、組み立ては完了。調査班が親指を立てたので、頷いて撤収を開始。

 

方舟に戻ると、満面の笑みでムッチーノが全員分の料理を用意してくれていた。

 

四班それぞれが作業時間や移動距離で時間差があるから、それに会わせて温めて一番美味しいタイミングにしてくれたらしい。

 

ムッチーノは見かけ通り食べるのが好きなようだが。自分の料理を美味しく食べて貰うのも好きらしい。

 

すぐに皆に好きに散って食事にして貰う。

 

勿論合成である事は分かっているのだが、味は普通にそこそこのレストランで食べるものだ。

 

妹の婚約者と顔を合わせたときも、こんな風な料理を口にしたっけ。

 

そう思いながら、唯野仁成は料理を口に運ぶ。良い感じだ。食事はひとときの快楽に過ぎないが。

 

それでも、心が豊かになるのも事実だった。

 

程なく、ささやかだが心が豊かになる食事が終わる。合成だろうと、美味しいものは美味しい。

 

真田さんが、色々な物資から、本物と遜色ない食材を作れる装置を作ってくれているのだろう。

 

何が元になっているかは考えない方が良いと思うが。

 

それでも栄養にしても味にしても、本物と遜色ないのは事実なのだろうし。感謝して味わうだけだ。

 

「ありがとう。 美味しかったよムッチーノ」

 

「皆嬉しそうに食べてくれて僕も嬉しいよ。 では頑張って来てくれ。 僕はまだまだ料理をしなければならないからね」

 

「ああ」

 

そのまま、すぐに次の作戦に出向く。

 

設置は残り半分。

 

そして、作業が終わったのは。予想通り、ほぼ一日を掛けた後だった。勿論ゴア隊長が陣頭指揮を執り、インフラ班と連携してドローンの配備、各地にストーム1が配置した迎撃設備などのチェックも終えている。

 

全ての作戦が、現時点では完璧に進んでいるが。

 

作戦が完璧に進んでいるときほど危ない。

 

それは戦場に身を置いてきた唯野仁成だからこそ、分かる。

 

装置の設置が全て終わり。アーサーが装置と連携を終えた事を確認。八時間の休憩を貰ったので、仮眠を取る事にする。

 

無心に眠った後は、起きだし。これからの戦闘について、頭の中でシミュレーションを行いながら、物資搬入口に向かう。

 

ゴア隊長は、既に来ていた。

 

見ると装甲車だけでは無い。この間のゼウス戦で、ここぞと言うときに投入されたライサンダーZF空輸版もある。装甲車には、小型化は出来ていないがライサンダーZFが据え付けられていた。

 

野戦砲は全てレールガンに換装されている。

 

この辺りは電力を確保出来たことが大きいのだろう。

 

レールガンは電気式の鉄砲に過ぎず、別に火薬式の鉄砲よりも強い訳ではない。

 

このレールガンは、最近真田さんに聞かされたのだが。宇宙での戦闘を想定して作られているそうである。

 

レールガンは構造上、発射時の反動が小さく、宇宙空間での戦闘では銃火器と同じように扱われる可能性が高いという。

 

要するに今後の事を考えての、レールガンの実戦投入というわけだ。

 

また、一線級の機動班クルーも。スペシャル達も揃っている。

 

ティアマト戦での苦戦を考え、総力戦の準備を徹底的に、徹底的すぎるほどに整えているというわけだ。

 

良いと思う。あの戦闘は本当にきつかったので。

 

サクナヒメが、周囲を一瞥した。

 

「凄まじい威容よな。 ヤナトにもからくり造りが得意な友がいたのだが、見せてやりたいほどだ」

 

「その友とは神ですか?」

 

「そうだ。 彼方此方の山の地質を完璧に覚えているほどの知恵者でな。 真田と話をさせたら面白いかも知れないぞ」

 

「そうですね。 その方にも来ていただければ心強かったのですが」

 

サクナヒメは首を横に振る。

 

流石にヤナト最強の武神であるサクナヒメだけではなく、ヤナト最高の知恵者までその場を離れるとまずい、というのである。

 

ヤナトも其所まで安全な国ではないらしく、サクナヒメが武神として全く平和呆けしていない辺りからもそれは伺える。

 

やがて、方舟は浮上を開始。

 

ある程度のラインまで浮上したところで、誰かが声を上げた。

 

「見ろ!」

 

艦外の様子を映し出すモニタに、画像が出ている。

 

恐らく天使達の陣地だろうが、何か一方的に蹂躙されている様子だ。混沌の勢力は、このグルースではそれほど強大ではなかったはず。

 

そうなると、恐らくは明けの明星だろう。

 

天使については思うところが多いクルーも多いようで、明らかにバツが悪そうにしている。

 

一神教徒は船内にも多いのだ。

 

ゼレーニンに対して、マンセマットがどのような暴言を吐き、何をしようとしていたかが判明した今でも。それに変わりはない。

 

唯野仁成は、無言のまま状況の推移を待つ。

 

程なくして、方舟は上昇を停止。

 

春香の声で、アナウンスが入った。

 

「これより予定通り作戦を開始します!」

 

「イエッサ!」

 

皆の返事に気合いが入る。

 

恐らくだが。皆、迷いを振り切りたいのだろう。そういう意味で、皆の意思は今、グルースの大母排除という一点で結束したとも言えた。

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