僕は片田舎の貴族カゲノー男爵家の長男だ。
兄弟はいないけど、たくさんの人々に囲まれて病気一つすることなく健康に育ってきた。とても充実した日々だったといえる。
そんな僕もいよいよ十五歳になり、父と同じくミドガル魔剣士学園に入学することが決まった。
僕をここまで育ててくれた家に、文句など一つもあるはずがない。
あるはずがない。
だけど。
あえて一つだけ言わせてもらえるならば。
この家はやっぱりおかしい!!
◇◆◇
僕が物心ついてから間もなく、父に身の丈ほどの剣を持たされ、こう言われた。
『それが剣の重みだ』
父は多くを語らなかった。
そして教育にもあまり熱心ではなかった。
そんな父と顔も名前もしらない母の代わりに僕のことを全面的にサポートしてくれたのは、ベータという耳の長い女性だった。彼女は勉強から武術、貴族の礼儀作法までたくさんのことを教えてくれた。
中でも僕は夜の本の読み聞かせが好きだった。
「こうして二人は幸せに暮らしていったのでした。めでたしめでたし」
「えーもうおわり? もっとはなしてよ!」
彼女はいつも僕の背中を包み込むように寝転がりながら、顔の前に腕を伸ばして本を読んでくれる。
「もー仕方がないですね」
ベータはとっても優しい女性だ。僕がわがままを言うとたいてい新しい話をしてくれる。彼女から読み聞かせられたお話の中でも僕が特に気に入っていたのは『シャドウ様戦記』だった。
この物語では筆者の目から、とある登場人物の活躍がひたすら綴られている。
ストーリーとしては荒唐無稽ではちゃめちゃだけど、タイトルにもなっているシャドウの言動一つ一つがカッコよくて、僕はいつも目を輝かせて聞いていた。
そしてベータもこの物語を語るときはどこか楽しそうだった。
彼女からは剣術も習った。
基礎のほとんどを教えてもらったといっても過言ではない。
「いちっ。にっ。さんっ」
「そうです。その調子です」
敷地内の川の畔で、剣の型を繰り返していたときのことだった。
「あっ! シャ――いえ、旦那様!」
ベータの声がひときわ明るくなり、僕も彼女と同じ方向を見た。
「父上!」
いつの間にか僕の真後ろに父がいた。
僕は練習した成果を父に見てもらいたくて表情をほころばせる。
「いいかい。こうやるんだ」
父は僕の手を取るとそのまま剣を握らせた。
「重心はこのへんで。適度に脱力させる。このまま剣を振ってみて」
――シュッ!
初めての感触が僕の体を襲う。
「……わぁ」
ベータの教えにケチを付けるつもりはないけど、父のアドバイスは常に的確だった。壁に当たりかけたころにやってきて、一度教えるとすぐに去ってしまう。そのたびに僕の技術は一段上に昇華していった。
昔から凄腕の魔剣士だったのだろうと思っていたけど、学生時代は平々凡々とした冴えない少年だったらしい。
僕が父に憧れるようになったのはこの頃だったと思う。
シドなら純粋に剣の質量のこと言ってそう