その日の午後はベータが用事があるため、自主学習ということになった。
なんでもベータは現役で小説家として活躍していて、かなりの売れっ子らしい。
僕はこの契機を利用して、かねてから計画していた館探索を実行することにした。
カゲノー家の屋敷はかなり広い。
片田舎で土地がいっぱいある男爵家ということを考慮しても相当大きい分類に入る。これには理由があって、現カゲノー家当主つまり僕の父が、立場についたときに大幅な改修工事を行ったらしい。生まれてからずっと住んでいる僕でも行ったことのない場所がたくさんある。
本日のメインは地下探索だ。
館に地下があるというのは使用人の会話から把握していたけど、気軽に聞いてよさそうな雰囲気ではなかった。聞いてもたぶんはぐらかされていたと思う。
そして、つい先日僕は『ここから先は地下に続く』と張り紙がある場所を発見した。
前に見たときはなかったから突然出現したことになる。
きっかけはなんとなく分かっている。たぶん魔力操作が上達したからだと思う。
よし、廊下にはいないな。
僕は使用人の目を盗みながら、目的の場所まで移動する。
「よし、入るぞ」
不思議な感覚が体を通り抜けたあと、僕は異質な空間に立っていた。
隠密行動をしていたことも忘れ、口を半開きにしながら前に歩いていく。
「あ」
扉を見つけた。
好奇心を抑えられなかった僕はゆっくりと扉を開く。
中には一人の女性がいた。
桑の実のような髪色をしている。
驚きのあまり固まっていると、彼女は緩慢な動作でゆっくりとこちらを振り向いた。
「もしかして……マスターのひよこさま……」
いきなり立ち上がる。
「実験台……ほしい……ちょっとこっち……きて……」
右手に先が尖っている器具。左手にはよくわからない液体が入った容器。
得体のしれない女に襲われた僕は、喚き散らしながら来た道を戻り、そのまま父の執務室に突入した。
「父上、化け物がッ! 化け物がいます!!」
だけど父は全く取り合ってくれなかった。
夢でも見ていたんだろう。それだけ言って、僕を外へ追いやろうとする。
初めて本気で父のことが嫌いになった。
使用人に体を引っ張られながら、声を絞り出す。
「本当にいたんです!実験台にする、確かにそう言っていました!」
父が反応を示した。
追い打ちをかける。
「白い服を着て、それから――」
「わかった。わかった。彼女はたぶんイータだ」
「え」
頭を抱えながら父は言う。
「よく僕のことも実験台にしようとしてくるんだ。気をつけたほうが良い」
「……わかりました。失礼しました」
僕は退出すると同時に思った。
あんな危険人物を野放しにして平然としている父はおかしいと。