9歳の頃、僕はミドガル王都で開催された青少年魔剣士大会で優勝した。
そのことをベータに報告するとすごく褒めてくれた。
夕食の席で父にそのことを伝えると
「そうか」
のひと言。
一見、子供に関心のない親にみえるかもしれないけど、時々僕に剣を教えてくれるように、実はよく見てくれている。きっと僕ならば優勝できると見極めていたからこその発言なのだろう。
「そういえば今度王都のパーティーに参加することになったんだ。いっしょに行くよ」
他の貴族に子息を紹介する場もかねているらしい。
僕ははやくもその日が楽しみになった。
王都で食べたマグロナルドなる食べ物がとっても美味しかったからだ。
それに、店内に入ったときに〇〇人来場者記念とかで一年間無料券を貰えた。
なぜか普通に端数がついていたけど、たぶん特別な意味がある数字だったんだろう。
◇◆◇
「アレクシア王女さまのご到着です」
ミドガル・アレクシア王女。名前の通り僕らのミドガル王国の王女さまだ。
僕はアレクシア王女に対して、王族と貴族の関係ではなく、また別の意味で尊敬の念を抱いていた。
『凡人の剣』
彼女はミドガル魔剣士学園入学当初、王国最強と名高かった姉であるアイリス王女と比較され、そう揶揄されていたらしい。
だが彼女は変えた。
『凡人の剣』言葉はそのままに覆してみせた。
才能でも、力でも、速さでもなく、ただ基本の積み重ねによって辿り着ける持たざる者の剣。
語れば笑われるような理想の剣の完成形。
ただひたむきに、まっすぐに積み重ねた先に彼女は完成させたのだ。
「……きれいだ」
僕は彼女の自伝を読んでからというもの会える日を心待ちにしていた。
会場に到着したアレクシア王女は辺りを一瞥すると、真っ直ぐ僕のもとまで突き進んできた。
何人かが話しかけようとするも、オーラを前に怖気ついてしまう。
やがて彼女は父の前で立ち止まった。
「久しぶりね。ポチ」
ポチ?
「その呼び方はやめてほしいかな。子どももいるし」
「ポチはいつまでもポチでいればいいのよ。ところで、ふ~ん。君がね」
アレクシア王女の瞳が僕を捉える。
身動きが取れなくなる錯覚に襲われた。
「先日の大会で優勝したのでしょう。ポチに似てないわね。色々な意味で」
僕のことを知っていてくれていたらしい。
「あのっ」
「何かしら」
僕は呼吸を整えて言う。
「ア、アレクシア王女の剣が好きです。今度手合わせをお願いします」
頭を下げてお願いする。
沈黙がやけに長いような気がする。
「ふっ」
アレクシア王女は小さく笑った。
「なぜかしら、ポチと初めて顔を合わせたときのことを思い出すわ」
僕は顔を上げた。
朗らかに笑うアレクシア王女と対象的に、父は珍しく動揺していた。
「知っているかしら。彼、入学したばかりの頃いきなり告白してきたのよ。声を震わせながら『僕と付き合ってください』って」
まったく想像ができない。
……あれ?
その話に聞き覚えがあるような気がした。
「もしかして、自伝の中でアレクシア王女の剣を褒めた少年って父上のことなのですか?」
今度はアレクシア王女が動揺し始めた。
「そ、そそうよ。そんなこともあったわね」
思っていた以上に二人は深い関係のようだ。
「積もる話もあるだろうし、僕は友達と話をしてきます」
僕は驚きつつも、納得がいくところがあった。
父の剣とアレクシア王女の剣。
2つにはどこか似ている部分があったからだ。