IS 2人目の男性操縦者は婿養子を目指す   作:胎児

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1話

 今いる場所はどこだろう。日本国内でありながら入るのにはパスポートが必要。だからと言って海外というわけでもない。よって入国するという表現は正しくない。ここはアラスカ条約に基づけば、あらゆる国家機関に帰属しない、固有の土地であるらしい。海でさえも国によって切り分けらられたこの時代、誰の所有物でもない土地というのはこの地球で唯一ここだけではないだろうか。まあ実際には日本の所有の土地を貸し出していることや、篠ノ之束の存在などから“ここ”における日本の影響力は大きい。どんな場所でも所詮、しがらみからは逃れられないのだ。そんな益体もないことを考えているのは今の俺が置かれている状況にある。40対、80個の瞳がこちらを向いている。国籍様々なその瞳たちは色彩豊かで見るものの心を躍らせる。俺だって一人ずつと向き合うチャンスがあるのならそれぞれ彼女たちの虜になること間違いないだろう。しかしこの状況では緊張の方が上回る。その瞳たちは俺ともう一人の男の間で行ったり来たりを繰り返している。

「織斑一夏です」

 もうひとりの男の簡素な自己紹介にも一喜一憂、歓声が上がる。そのまま織斑の自己紹介は終わったようで、水を向けられた俺も、同じように自己紹介をした。

「橘静稀です」

 

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 ISという兵器がある。正式名称はインフィニットストラトス。篠ノ之束によってつくられたこの機械は宇宙開発を目的に開発された。当初は注目を浴びなかったが白騎士事件を境に飛行型パワードスーツとして軍事転用が始まった。開発から10年を経た今ではISは各国の軍事の要として配備されるようになり、その乗り手や整備士などを育成する機関として、IS学園が設立された。そしてこの機械には致命的な欠陥があった。女性にしか起動ができないという。この欠陥はたった10年で世界を一変させた。個人兵装がどのような既存の兵器をも上回ったのだ、それが限られた性別にしか使えないというのは、社会の在り方を一変させるのに十分であった。古来より単純暴力の比較で優位に立ち続けていた男の地位は悪化し、女尊男卑と言える社会が成立している。幸いなことにISの核となるコアは467個しか現存しておらず、これが女尊男卑社会の歯止めとなっている。

 

 

  IS学園での初日の授業を終えて、女生徒たちを撒くとそのまま生徒会室へ向かう。待ち合わせ相手は優雅に紅茶を飲んでいた。

 「ハーレム学園の生活はどうかしら?」

 嘲るように揶揄う彼女の名前は更識楯無。この学園の生徒会長で、自分の上司でもある。

 「最高の気分ですよ。任務がなきゃもっと純粋にこの環境を楽しめたんですけどね」

 軽口を叩くのはいつものことなので楯無も気にしない。彼女と自分は同い年なので本来は敬語など必要ないだろうが、立場の問題もあるし、何より15歳と偽ってこの学校に入学している以上、先輩には敬語を使うのが筋だろう。

 橘は更識の分家筋にあたる。俺がこの学園に送り込まれたのはなにもたまたま男性操縦者として検査で判明したからではない。元々更識家は日本の暗部とでもいえる裏家業を生業としてきた家系である。その分家に属する俺は、有り体に言って実験体である。10年前ISが発表された当初、各国家で女性しか起動できないコアに対して様々なアプローチが試みられた。今は多くの国で女性を訓練し搭乗者とする試みが取られているが、当初はIS男性にも扱えるようにする試みが多く見られた。その実験は非効率さと非人道的な観点から今では凍結扱いされている。実験の最中、かろうじて形になったの残りカスが俺である。誰もが量産と体系化を諦めた凍結した男性のIS搭乗という計画。そんな中で天然物が発見された。この生体データがあれば計画を再び始動させることができるのではないかと上層部は考えているのだ。そしてその生体データを欲しがるのは日本だけではない。天然の男性操縦者、織斑一夏の護衛と調査の任務を言い渡されたのが人工の男性操縦者である俺なのだ。

 「いくら命令って言ってもスパイの真似事は嫌なものでしょ?」

 「真似事じゃなくて工作員そのものですよ。それに別に仕事ですからね」

 いつまで経っても甘ちゃんなこのお嬢様は如何にも清廉潔白なことを言う。家業として、いくら真っ黒なことをやろうとも彼女自身の高潔さは損なわれないようで、なんのコンプレックスもないような笑顔で話しかけてくる。簪は楯無のこういうところが嫌いなんだろうな、とふと思った。

 俺も冷めないうちに紅茶を頂く。流石にいい茶葉を使っているようでダージリンの香りが鼻を満たすと図ったように差し出されたクッキーにも手を付ける。自分が思っているより、今日一日は疲れたようで、糖分が身体に染みわたる。やはりどんな訓練を受けても女子40人のクラスに男子2人放り込まれることへの対応など身につくはずもなく、変な気疲れをしていたことにようやく気が付いた。

 「それで話ってのは?わざわざ顔見るためだけにここまで呼んだわけでもないでしょう?」

 「いや、顔見るためだけに呼んだのよ。普通に考えて一日目から結果が出るはずもないし、こんな学園に放り込まれてどんな顔してるかなって気になって」

 「面白がるためだけにこんだけ手間取らせたのかよ、ここのセキュリティ知ってるだろ。ただでさえ女子生徒の注目の的で、人目を盗むのも大変なのに、ここは監視カメラが多すぎて密会なんて向いてないよ」

 そう、この学園では何かあれば国際問題に発展しかねない性質上、厳重な監視体制を敷いているのだ。だから私闘はもちろん、逢い引きなどもそう易々と行えない。まあこの学園で逢い引きが発生するのならば見てみたい気もするが。国境を越えた百合っていいよね。うん。

 「まあ用がないならもう行くよ、要監視対象と夕飯食べる約束してるんだ」

 「あら、いいじゃない。あなた“家庭の事情”で友達なんていたことないんだし、せっかくなら同じ苦労を共にするものどうし仲良くやりなさいよ」

 楯無のからかいは無視して一応の礼儀として頭を下げてから部屋を出た。

 

 

  

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 約束の5分前に食堂に行くと織斑は時間通りに来ていた。食堂では織斑を中心に女性陣の渦ができているが、彼女らは話しかけるでもなく遠巻きにチラチラとみている。しばらくは好奇の視線も我慢しなくてはいけないだろう。なにせ世界でただ二人の男性操縦者なのだから。

「悪い織斑、遅くなって、さっそくナンパか?意外と手が早いんだな」

 茶化すように声をかけ対面の席に座ると織斑はようやく気付いた。隣の女子と夢中になって話していた織斑は近づく俺には気づかなかったようだ。俺も歩いているだけで女性陣からキャーキャー言われ、所在地が透けて見えるような感じなのだが……

「人聞きの悪いこと言うなよ!ただの幼馴染だ!篠ノ之箒って言ってクラスも部屋も同じなんだ」

 なんとまあ男女同室にするとはこの学園は豪胆というか、大雑把というか……

「同じクラスだったのか、女子しかいないから気づかなかったよ。篠ノ之さんでいいかな?よろしく」

 流石に篠ノ之束の妹をノーマークということはないが、こういうタイプは姉の話を出すとめんどくさくなると予測できるので知らないふりをした。ちなみに友好のしるしとして差し出した手は可憐に無視された。

「っていうか男は二人しかいないから同じ部屋だと思ったんだけどな。橘は誰と同室?」

「案内には一人部屋だって書いてあったけど。まだ寮に戻ってないから実際はわからないな。普通に考えると女子と一緒にはしないだろうけど、目の前に前例があるしな」

 織斑は女子と同室なことに違和感を抱いてはいるものの、受け入れているようだった。普通に考えるならば男女を同じ部屋に押し込めることは情操教育上よろしくない。未成年同士で間違いが起こる可能性は否めないし、そうでなくともプライバシーの観点からも同室にすべきではないだろう。そんなことが分からない教育機関はないはずである。となると………

「やっぱりわざとだよな………」

 つい口から漏れ出た言葉は運よく前の二人には聞こえなかったようで、自分の身を引き締める。おそらく篠ノ之と織斑の遺伝子を掛け合わせたい“何者か”がいるのだろう。片や稀代の天才の妹、片や世界最強の弟にしてISの男性操縦者。遺伝子的に見るのならば二人は日本を誇る優秀さと希少性を持ち合わせている。その遺伝子を掛け合わせたいと思うのは科学者の業というやつだろう。要は年若い男女を同じ部屋に閉じ込めて“過ち”が起こることを誘導しているわけか。なにやら二人の様子を観察する限り、篠ノ之は織斑に片思いしているようだし。しかし篠ノ之は割とわかりやすい反応をしているのだが、当の織斑は気にする様子もなく自然に彼女と話している。織斑にしてみれば数年ぶりにあった幼馴染は額面通りの意味しか持たず、致命的なすれ違いが目の前で繰り広げられているように感じたが触れないことにした。触らぬ神に何とやら、だ。

 

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 IS学園での初めての夜を迎える。俺の部屋は案内の通り一人部屋だった。もし同室に誰かいたのなら、任務の邪魔になるのでどうにかしないといけないところだったので安心した。食堂から出る時に織斑に仕掛けた盗聴器は問題なく作動している。これで交尾の音声でも聞こえてきたら目も当てられないがあの様子ならばその心配もないだろう。織斑の唐変木さ加減ときたら、出会ったばかりの篠ノ之に同情したくもなる。こうして橘として与えられた任務を冷静にこなす。与えられたことを決められたとおりに。冷静に冷徹に。しかしどこかで俺はこの生活の始まりに心が沸き立っていた。橘では親も兄弟も知らずに与えられた仕事をこなすばかりの毎日だった。それ以外の自由はなく、規律に支配され閉鎖的な箱庭にいた。俺はこの学園に来て初めて仮初の自由を与えられた。監視という任務のもと特殊な形ではあるが学校に通って学園生活を楽しむ余地もある。しかし俺は現状に満足して飼いならされる気は毛頭ない。IS学園は外部からの接触が難しい。警備体制も万全で楯無にさえ気を付ければ本家に目を付けられることもない。そうだ、この絶好のチャンスにどうにかしてIS学園の有力者美女とキャッキャウフフし、婿養子にしてもらい絶対に亡命してやるのだ!




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24/04/11 誤字修正
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