多分しおりも挟みやすい。知らんけど。
ブラックマーケットには、青春からあぶれたものたちが巣食っている。
学園丸ひとつ分の規模を持った、キヴォトス有数のブラックマーケット、通称『ディープ』。悪どい大人たちと、学園を追われた子供たちが構成する、ならずものの街だ。
雨でも降るかのように鉛玉が降り注ぐのはキヴォトスではありふれた光景だが、大人と子供の怒号が同時に飛び交うのは、学生主体の学園の土地ではあり得ないことだ。
キヴォトスにありながら学園による政治は行われず、そのトップは常に入れ替わり続ける。ある時はどこぞの企業が支配し、ある時は不良がそれを追い立て、ある時はマフィアがさらにそれを飲み込んでいく。
あるものはここを地獄と呼ぶが、またあるものはここを楽園と呼ぶ。
ブラックマーケットには全てがある。
マスコットキャラの限定グッズから、幻の高級珍味に、どこぞから横流しされてきた違法兵器。より深みに潜っていけば、連邦生徒会によって流通を禁じられた麻薬や、
力さえ手に入れれば、ここではなんだってできる。望めばなんでも手に入るのだ。
故にこの深海には、多くの者が集まり、より深くへと潜っていく。暗い昏い水の底で、巨大な何者かが、大きく口を開いているとも知らずに。
廃ビルの屋上、錆びついたアンテナの上。白黒のパーカーを着た少女が、夜の街を見下ろしている。
右手に握った単眼暗視スコープを覗き、ネオンとLEDで明るく輝く裏の街を隅から隅まで見渡していく。
闇会社のビルへと入っていくトラックとそれを見守る傭兵たち。
ドラム缶の焚き火を囲む、縄張りを追われた不良の集団。
裏路地へ引き摺り込まれていく哀れなホームレス。
そして、荷台から金を撒き散らしながら暴走する現金輸送車。
窓から身を乗り出したならずものが、銃を乱射し爆発物をばら撒く。ビルの壁面を、道路を、銃弾が穿ち爆炎が掘り返す。無差別な破壊行動が、夜の街に轟いていた。
その姿を見た瞬間、少女はあぐらを解き立ち上がった。
単眼スコープをポケットに放り込み、傍に置かれた得物を掴む。
片方は、水平二連式のショットガン。少し古風だが、キヴォトスではそれほど珍しくもないものだ。
もう片方は、打面の塗装が剥げた、真っ赤なスレッジハンマーだった。
だらりと両腕を垂らすような姿勢で、”ルール“を破った者たちを見据える。
ローラースケートを履いた足を何度か踏み鳴らし、ビルの屋上をぐるりと滑走し勢いをつけた。
そして少女は、勢いのまま夜の街へ身を投げた。
まあこれは単品なんすけど。つぎからね