ぐしゃぐしゃに潰れた現金輸送車の残骸。わずかに火の手も上がるその中で、強盗のリーダーはうつ伏せに
「クソッ……どうなってやがる」
悪態をつきながら地面に両手をつき立ちあがろうとするも、膝を起こせない。身をよじり仰向けになろうとしたが、腰が回らない。
不思議に思い自らの下半身を見て、リーダーは絶句した。
一目には輸送車の残骸に見えたそれは、頑丈なエンジンパーツに巻き込まれて無茶苦茶に破壊された、自身の半身だった。
脚の装甲板が、フレームごと歪んで火花を散らしている。腰部のフレームに至っては、あらぬ方向へ向き、半ばねじ切れたようになっている。
ようやく完了した自己診断プログラムが、各部のエラーを痛みとして電脳に伝え、リーダーは苦痛にうめいた。
「グ、うゥウ……オイ、誰か居ねえのか……!オイ……!!」
仲間を呼べども、返事はない。腰回りの人工筋肉もモーターも壊れたために、自分で残骸の下から這い出すことすらできない。ただ、両腕で地面を引っ掻き、アスファルトを少しばかり削ることしかできない。
「ク、クソ……誰か……」
不意に、何かが回転するような、滑るような音が聞こえた。
シャー、カラカラ、というその音は、自身のパーツが空回りする音でも、何かを引っ掻く音でも無い。
矮小な強盗にはそれが、死神の足音に聞こえた。じわりじわりと迫り来る、死を告げる音。キヴォトスにある自分たちには遠いと思っていた、明確な死の予感を伴う音。
車に半身を踏み潰されたカエルのように、もがいて、もがいて、逃げようとする。その両手は虚しく、白い5本線を幾重にも重ねることしかできない。
シャー、カラカラ。シャー、カラカラ。
いよいよその音が大きくなって、強盗は頭を抱えてうずくまった。機械の身体を恐怖に震えさせ、ぶつぶつと口籠る。
「た、助けてくれ……この通りだ……もうこんな、バカなことはしねえ……だ、だから……」
顔をピッタリと地面につけて、両手をあげて無様に懇願する。
オルカはその肩を蹴り付け、強盗の腰がねじ切れるのも構わず仰向けに転がした。
その腹にスレッジハンマーを突き入れ、人間であれば肋骨にあたる胸部フレームの内側にヘッドを引っ掛け持ち上げる。繋がったままの配線が、チューブが、引き千切られて内臓のようにグロテスクに垂れ下がる。
ヘッドが胴体内のタンクに自重でめり込む。冷却液を、バッテリー液を、オイルを垂れ流しながら、瀕死の獲物は両腕を振り回した。
既に怪物の舌先にいる。それでも彼は、必死に抵抗をした。
オルカは冷ややかな目でそれを見つめる。自らの左腕一本に乗せられたソレには、もはや正気など無い。
オルカはその残骸を地面に打ち捨てて、痙攣を続ける頭を踏み砕いた。
不眠のオルカ。眠らない彼女に付けられた渾名。
話さず、逃さず、死なず。ブラックマーケットに棲みつく怪物は、ローラースケートの音と共に、夜闇に溶けて消えていった。
・スレッジハンマー
オルカが使うヘッドの赤いスレッジハンマー。キヴォトスのホームセンターで普通に買えるものとなんら変わりはないはずだが、オルカの膂力により振るわれることで砲弾の直撃と遜色ない破壊力をもたらす。
打面は削れ、塗装が剥がれて下地の金属が露出している。