十五本入り400円の、ぽっぽ焼きなる黒糖香る蒸しパンがつまった袋を手渡すと、旧式オートマトンは上機嫌に話し始めた。
「いいかい、嬢ちゃん。ディープには法はないがルールがある。明文化はされていないが、そのルールを破れば厳しく罰せられるのさ」
「罰せられるって、誰に?」
「オルカさ。不眠のオルカ。奴があの電波塔から飛んできて、ルールを破ったやつをぶちのめすのさ」
オートマトンは、ぽっぽ焼きでシロコの背後を指した。振り向いた先にあるのは、古いビルの屋上から聳える、赤白の塗装を錆で彩られた電波塔。街のどこにでも電波を届けられるように、街の中心に、街のどの建物よりも高く建設されたのだろう。ディープの遠景からも目立っていたランドマークだ。
その天辺にシロコは目を凝らしてみたが、数キロ離れた先ともなれば、肉眼では人がいるかどうかはわからなかった。
シロコは、ガサガサと袋を開けるオートマトンに視線を戻すと、さらに聞く。
「具体的に何をしたら、そのオルカは来るの?」
「わかりやすいのは、街の破壊行為。個人間のちょっとしたケンカだとか、組織間での小競り合いはまあ許してくれるんだが。建物が崩壊するような爆発とか、道路が完全に使えなくなるような掘削なんかはダメだ」
シロコは数日前の銀行強盗たちのことを思い返した。彼らの銃撃は街の至る所に弾痕をつけ、放たれた爆発物は地面を大きく抉っていた。すでに跡形もなく補修されていたものの、あの規模の破壊が続けば、ひと月も経たずにディープは更地になることだろう。
「やりすぎるな、ってこと?」
「まあ多分、そういうことだろうな」
もごもごと、行儀悪く喋りながら答えると、オートマトンは続ける。
「もう一つわかりやすいのがある。全ては取引でなければならない、とでも言うのかな」
シロコは首を傾げた。
「取引……どういうこと?」
オートマトンは口に運ぼうとしていたぽっぽ焼きで、今度はシロコを指した。
「嬢ちゃんにこいつを買ってくるように言った理由さ。このぽっぽ焼きの対価が、嬢ちゃんの求める情報ってことだ」
すでにお前はディープのルールの中にいる。これまで意識していなかった、突き刺すような気配を感じて、シロコは肌の粟立つ二の腕を撫で付けた。
「ディープではあらゆるものに値段が付く。モノ、情報、労働力に戦力、そして人間そのもの。そのための市場を、オルカが守ってるからな」
「守る……支配してるんじゃなくて?」
オートマトンは、ニヤリと笑った。
「そうさ。奴は支配者じゃない。ブラックマーケットを守るヒーローなのさ」