オートマトンに礼を言うと、シロコはディープの探索を再開した。
ブラックマーケットであるために警戒は解けないものの、銃声の少ないこの街は並の学園の学区よりも平和なのではないかとすら思えてしまう。
気になって買ってしまったぽっぽ焼きの袋を抱えながら、例の、オルカのいる電波塔を振り仰いだ。
恐れられている存在なだけに、電波塔に近づくほど
電波塔に近づくにつれて、錆びたトタンや薄汚れたシートが張られた、粗雑な住居が道沿いに目立つようになってきた。テントを建て、粗悪な品を売る屋台のようなものも見受けられる。その店主の身なりも、とても綺麗とは言い難い。
電波塔のふもとには、身寄りのない、立場の低い人々が集まっているようだった。
(そうか、戦闘に巻き込まれないから……)
監視者の目と鼻の先で問題を起こすものなどいまい。無法者が暴れることのないこの場所に身を寄せ、オルカの力に守ってもらっているのだろう。
まるで自然の生態系のようだ、と、シロコはぼんやりと思った。確か勉強した中に、こんな生き方をしている生き物がいたはずだ。
誰が行なっているのか、道路や建造物は古くとも修復保全が行き届いている。廃墟と言うには廃れていないはずのビル街に、スラムが形成されるチグハグな光景。
その住人たちは、シロコのことを避け、遠巻きにしている。
学生が来るのは珍しいのだろう。興味を持たれつつも警戒されているのが、空気でハッキリとわかった。
ふと、スラムの一角に、人の少ない箇所があることに気づいた。
完全な無人地帯、という様子でもない。ちらほらと、テントの中に座り込み、シロコのことを物欲しげに見つめる者もいる。だが明らかに、
シロコは改めてあたりを見回すと、周辺のテントのいくつかに、さっきまで誰かが居た痕跡が残っているのを見つけた。焚き火がパチパチと小さな火の粉を上げているのに、その近くのテントはもぬけの殻だ。
まるで、危機を察して身を隠したような。
「…………?」
不自然さに訝しむシロコの嗅覚が、埃っぽくわずかに硝煙くさい空気の中から、別のモノを嗅ぎ取った。
「これは……スープの匂い?」
スラムの中で、少しだけ開けた場所。元は有料駐車場であったらしいスペースに、一台のトラックが停まっていた。
そのコンテナにペイントされたロゴマークと団体名には、見覚えがある。時折ネットニュースなどで見かける、新設の慈善団体のものだ。
傍らに設営されたテントから、白く湯気が立ち上っている。今まさに、炊き出しのための準備を終えているようだった。
「さてみなさん、スープができましたよ。提供を始めましょう」
寸胴鍋をかき混ぜていた、朗らかな狸顔の女性が、他の準備をしていた仲間に呼びかけた。
周辺に残っていた浮浪者たちが、匂いに釣られて集まってきている。シロコは何ともいえない不快感を覚えて、近くの路地に身を潜め、炊き出しの様子を見守ることにした。
列を作った浮浪者が順番にスープの入った紙の器を受け取り、車止めを椅子がわりに座って湯気の立つそれをすする。
「おお、ありがたい、ありがたい……」
「あぁ、温かい……おいしい……」
皆口々に感謝を述べ、温かな食事で腹を満たす。それを狸顔の女性は、ニコニコと嬉しそうに眺め、また器にスープを注ぎ、次の浮浪者に渡していく。
人の温もりと優しさを噛み締める彼らのその頭上から。
冷徹で無慈悲な、散弾の雨が降り注いだ。
ホントはスープ受け取った瞬間撃ちたかった